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2013年04月創作発表85: ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第七部 (241) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第七部


1 :2013/01/02 〜 最終レス :2013/03/31
                ____,,,,,____
             _,.-‐',ニ=-‐-、 `ヽ、
            / (ノ/ ,.==、 ヽ、  `ヽ,
          _,.='"  /  ,_,._ ゙'  }!ir‐- 、ヽ,
       _,.-''" /,,/,,)/ ,,==≡ト  ji} ,.=、ヽ,}i_   もう
   _,.-‐''"   /,,/,,//,,     ゙´_,,    ヾ {( )  読んじゃうわッ・・・
. _,-" _,.-j   /,,/,,//   、_  / `〉 ,,=≡ } `}   ジョジョロワ3rdスレ〜!
ヾ_,.-' _,.-'  /  //   / `゛ー、'"    " / /} 〉
 _,.-''"_,.j  l   ヾ  /      `ゝ   ゙/ /〉/
{___,.-'/ _/ | i   }  {i       /   / /ノ丿
  ///  ハ j  }  ゞ、   /   / 〃 ソ
  {__/  {__/ 〉  丿  〃="   / 〈ソ /
       (\___/ \〃    / /〃/'"{__
       /\____丿__`ー-‐‐'" /〈ソ/ / ゝ-''"">、
   _,.-'"/   /ヽ  `ー--- / ヾ// / /  ̄  ̄\
  /  /   /  `ー----‐/ ({/ / / /       ヽ
  { /    /         { 〈{/ l  l l         }

このスレでは「ジョジョの奇妙な冒険」を主とした荒木飛呂彦漫画のキャラクターを使ったバトロワをしようという企画を進行しています
二次創作、版権キャラの死亡、グロ描写が苦手な方はジョセフのようにお逃げください
この企画は誰でも書き手として参加することができます
詳細はまとめサイトよりどうぞ

まとめサイト
http://www38.atwiki.jp/jojobr3rd/
したらば
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/15087/
前スレ
ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第六部
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1351649347/

2 :
名簿
以下の100人に加え、第一回放送までは1話で死亡する(ズガン枠)キャラクターを無限に登場させることが出来ます
Part1 ファントムブラッド
○ジョナサン・ジョースター/○ウィル・A・ツェペリ/○エリナ・ジョースター/○ジョージ・ジョースター1世/○ダイアー/○ストレイツォ/○ブラフォード/○タルカス
Part2 戦闘潮流
○ジョセフ・ジョースター/○シーザー・アントニオ・ツェペリ/○ルドル・フォン・シュトロハイム/○リサリサ/○サンタナ/○ワムウ/○エシディシ/○カーズ/○ロバート・E・O・スピードワゴン
Part3 スターダストクルセイダース
○モハメド・アヴドゥル/○花京院典明/○イギー/○ラバーソール/○ホル・ホース/○J・ガイル/○スティーリー・ダン/
○ンドゥール/○ペット・ショップ/○ヴァニラ・アイス/○ヌケサク/○ウィルソン・フィリップス/○DIO
Part4 ダイヤモンドは砕けない
○東方仗助/○虹村億泰/○広瀬康一/○岸辺露伴/○小林玉美/○間田敏和/○山岸由花子/○トニオ・トラサルディー/○ヌ・ミキタカゾ・ンシ/○噴上裕也/
○片桐安十郎/○虹村形兆/○音石明/○虫喰い/○宮本輝之輔/○川尻しのぶ/○川尻早人/○吉良吉影
Parte5 黄金の風
○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/○レオーネ・アバッキオ/○グイード・ミスタ/○ナランチャ・ギルガ/○パンナコッタ・フーゴ/
○トリッシュ・ウナ/○J・P・ポルナレフ/○マリオ・ズッケェロ/○サーレー/○プロシュート/○ギアッチョ/○リゾット・ネエロ/
○ティッツァーノ/○スクアーロ/○チョコラータ/○セッコ/○ディアボロ
Part6 ストーンオーシャン
○空条徐倫/○エルメェス・コステロ/○F・F/○ウェザー・リポート/○ナルシソ・アナスイ/○空条承太郎/
○ジョンガリ・A/○サンダー・マックイイーン/○ミラション/○スポーツ・マックス/○リキエル/○エンリコ・プッチ
Part7 STEEL BALL RUN 11/11
○ジャイロ・ツェペリ/○ジョニィ・ジョースター/○マウンテン・ティム/○ディエゴ・ブランドー/○ホット・パンツ/
○ウェカピポ/○ルーシー・スティール/○リンゴォ・ロードアゲイン/○サンドマン/○マジェント・マジェント/○ディ・ス・コ
JOJO's Another Stories ジョジョの奇妙な外伝 6/6
The Book
○蓮見琢馬/○双葉千帆
恥知らずのパープルヘイズ
○シーラE/○カンノーロ・ムーロロ/○マッシモ・ヴォルペ/○ビットリオ・カタルディ
ARAKI's Another Stories 荒木飛呂彦他作品 5/5
魔少年ビーティー
○ビーティー
バオー来訪者
○橋沢育朗/○スミレ/○ドルド
ゴージャス☆アイリン
○アイリン・ラポーナ

3 :
名簿
以下の100人に加え、第一回放送までは1話で死亡する(ズガン枠)キャラクターを無限に登場させることが出来ます
※第一回放送を迎えましたので上記のズガン枠キャラクターは今後の登場は不可能です。

4 :


5 :
投下、代理投下乙です
あーん、スト様が(ry
静かな闘争心の吉良がらしくていい
時間的な制限もある中どうなるか…
>>418
戸惑うのも無理じゃない
→無理はない ?
>>420
この殺しは彼を恥ずかしめ
辱め

6 :
おそばくいたくないよう(

7 :
蕎麦なんぞ食っとる場合かァッ!

8 :
森中に轟く様な放送が終わりを告げ、静寂が訪れる。
誰も何も言わなかった。声をあげることもしなかったし、身じろきすらしなかった。
名簿と放送を前に三人が見せた反応は実に対照的である。

ヴァニラ・アイスは名簿を運んできた鳩を吹き飛ばすような勢いでその紙をひったくり、長い間顔をあげなかった。
ただひたすらにDIO、その三文字で記された名前を見つめ、ヴァニラは拳を固く握った。
同時に彼はその近くにある空条承太郎、ジョセフ・ジョースターの名から目が離せなかった。
握った紙はくしゃくしゃになる勢いで、その体はぶるぶると小刻みに震えていた。
確かにこの目で見たはずだ。首に巻かれた爆弾が爆発し、血を噴きあげながら死んだはずだ……!
だが違ったのだ。空条承太郎は生きている……! 今、こうしている間ものうのうと。ヴァニラ・アイスの知らぬところで、生きている……!
それだけではない。DIOに敵対するジョセフ・ジョースターが、モハメド・アブドゥルが、花京院典明が。
ヒビ一つ入らなかった男の顔がドス黒く歪んでいく。渦巻く感情は激情に近いものだった。この数時間自分はいったい何をしていたんだ、という自戒と自らに対する苛立ち。
あの憎きジョースターたちがこの場にいるというのに自分は何を呑気に過ごしていたのだ。
仕留めなければならない。殺さなければならない。一刻も早く、一秒でも早く。
―――ジョースターたちをRのはこの私だ……! ヤツらを殺し、血を、肉を……DIO様に捧げるのは自分の義務であるというのに……!
静寂に満ちた空間をミシリ……という嫌な音が破った。
あまりにも強く握った拳が骨を軋ませ、ヴァニラの怒りに堪え切れなかった筆記用具がへし折れた。
乾いた音に顔をあげる者はいなかった。ヴァニラは怒りに身体を震わせ、憎々しげに名簿を見つめ続ける。
まるでそうしていれば、遠いどこかにいようとも呪いRことができるかのように。

シーザーは呆然としたまま名簿を何度も見直した。
一度見た時は自分の頭がおかしくなったのかと思った。二度目見た時は自分がつづりを読み違えているだけではないかと疑った。
だが何度見直してもジョセフ・ジョースターの名前は消えなかった。兄弟弟子で喧嘩別れの挙句、二度と会えないはずだと思っていた男の名前。
シーザーは戸惑っていた。長い沈黙の後で、一体どういうことだ、と思わず独り言をつぶやいてしまうほどに混乱していた。
ヴァニラも形兆も返事を返さず、シーザーも返事を期待していたわけではない。だがそれでも彼は独り、自らに向かってつぶやき続けた。
安堵の気持ちを、その言葉に乗せて。
―――死んでいなかったのか、ジョジョ……!
少しだけ平静を取り戻し、名簿を上から下まで改めて見直す。よく見ればエシディシの名もそこにはあった。
それどころか、その男は既に死んだものとして名前が読み上げられている。
一度死んだはずのあの柱の男が? そもそもあんな化け物を誰がどうやって? 実は死んでいなかったのか? ジョセフもエシディシも?
シーザーの口から漏れる呼吸音はいつの間にか乱れ、不自然に途切れ途切れになっていた。波紋の呼吸を忘れるほどに、シーザーは戸惑っていた。
いくら考えても答えは出ない。沈黙のまま、シーザーはそれでも考えるのを辞めなかった。
何を信じ、何をすればいいのか。シーザーは唇を噛みしめ、思考を続ける。

9 :
そして形兆は……一度だけ深い溜息を吐くとそれっきり顔をあげなかった。
ゆっくりと筆記用具を下ろし、両手で顔を覆う。名簿を見直すことも地図を確認し直すようなこともしなかった。
彼の表情はうかがえない。悲しんでいるのか、皮肉気に唇を曲げているのか。それとも……涙しているのか。
虹村億泰。その名前は名簿から見つけ出すよりも先に放送で読み上げられてしまった。
形兆はその名前が呼ばれた時一寸だけ、メモを取る手をピクリと固めた。だが結局彼は最期まで几帳面に全ての死者の名をかき取った。
淡々と。まるで機械のように几帳面な字で一字一句、書きとった。
形兆はヴァニラ・アイスが怒りに震えても、シーザーが問いか/ける様に呟いても動かなかった。
億泰が死んだことに対して形兆は二つの感情を抱いていた。やっぱりなという諦めの様な気持と純粋な悲しみ。
家族を失った喪失感が影のように形兆を包んでいる。顔を覆う両手を下ろすと、男は深々と息を吐いた。彼の顔には疲労の色が濃く浮かんでいた。
疲れて表情を作ることすら面倒だと言わんばかりの、深く深く青い顔。形兆は眉間に手を当てると考えに沈んだ。
父親をRために生きてきた。父親を治すため生きようとした。でもそれは形兆自身のためだけだったのだろうか。
いいや、違う。苦々しげに表情を歪め、形兆が脳裏に浮かべたのはできの悪い弟の顔。
兄らしいことはなにもできなかった。否、なにもしてやれなかった……『しなかった』。
億泰と前に会話をしたのはいつになるのだろうか。一緒に食卓を囲んだのはいつだった。
母が死んで、父があんなものになってから……兄弟そろって笑ったことなんてあっただろうか。
『こいつを殺したとき、やっと俺の人生が始まるんだッ!』
そう声高に叫んだのは自分だ。弟は何も言わなかった。自分の目的のため、何もかもをほっぽり出して形兆は矢の分析と調査に夢中になった。
そんな時も億泰は何も言わなかった。何も言わず、ただ自分をじっと見つめていただけだ。
『家族』を失ったんだ。形兆はゆっくりとその事実を理解し、途端に乾いた笑いが口から漏れた。
母は死んだ。父は屑でそれにふさわしい化け物に成り下がった。だが弟は違ったはずだ。億泰は違う。億泰は違うはずだったというのに……!
何の罪もないアイツを巻き込んだのは自分だ。
自分がスタンド使いにならなければこんなことにはならなかったはずだ。自分がDIOの連中にこんなちょっかいをかけなければ億泰は死ななかった。自分が親父を殺そうと思わなかったら……!
―――アイツを殺したのは、俺だ。

冷たい風が三人の間を切り裂いた。身体を震わせるような冷たい風だ。誰も動かなかった。
控え目に舞った木の葉が恐る恐ると言った様子で一枚だけ落ちてくる。
ヴァニラ・アイスはそれが落ちるのを待ちかまえていたかのようにデイパックを取りあげると無言のまま立ち去ろうとした。
一度だけシーザーがその背中に声をかける。おい、待て、どこに行く気なんだ、と。
ヴァニラ・アイスは振り返りもせず、返事もすることもしなかった。ただ背中から滲み出た怒気はそれ以上に彼が言わんとすることを物語っていた。
シーザーは男が立ち去るのをただ見送るしかなかったった。きっと止めるべきだったのだろう。だがはたして今の自分にヤツを止められるのだろうか。
動揺に波紋を乱した自分と、主の忠誠に燃える男。シーザーは拳を固く握った。
ヤツがリサリサを、シュトロハイムを、そしてジョセフをR未来だってあり得るというのに。
祖父の仇ディオ。ならばそのディオに仕えるあの男も見逃していい道理などあるはずがないというのに……!
シーザーは結局戦わなかった。
唇をきつく噛みしめ、ヴァニラ・アイスの背中が見えなくなるまでその姿を見つめていただけ。
深く多い繁った森がヴァニラ・アイスを包み、やがて彼の姿は消えていく。悔しいが見逃したのは自分ではなくヴァニラのほうだ。見逃したのでなく、『見逃された』のだ……ッ!
シーザーはもう一度拳を固く握った。戦ってもないのに、惨めなまでの敗北感が彼を襲い、シーザーは何も言うことができなかった。



10 :
「お前はどうするんだ」
シーザーがそう言ったのはだいぶたった後だった。
風がもう一度吹き木の葉を揺らすまでの長い間、二人はそれぞれに黙り込んでいた。
形兆は長いこと俯いたままだった。もしかしたら泣いていたのかもしれない。そうシーザーは思った。
依然無言のまま黙り込む形兆を見て、シーザーはデイパックを取りあげる。いつまでもこうしているわけにはいかなかった。
混乱が収まったわけではない。だが気持ちは既に固まっていた。
ジョセフに会う。リサリサを見つける。シュトロハイムと協力し、柱の男たちを仕留める。
そして……ディオとの決着も、なにより死んだはずの祖父ウィル・A・ツェペリその人にも、必ず会わなければならない。
一体何が起きているのかはわからない。だからこそ、ここで立ち止まっているわけにはいかなかった。
シーザーは前に進む。デイパックを担ぎ直すと、最後にもう一度形兆を見、そして歩き始める。

「わからねェんだ」
不意に形兆がそう言った。放送を越えて初めて形兆が口にした言葉だ。
背中越しに投げかけられたその言葉に振り返り、シーザーは腰に手を当てると男の顔を真正面から見つめた。
形兆の頬は涙でぬれ、目は充血して真っ赤だ。乱暴にごしごしと目元をこすり、地面を見つめる形兆。
神経質そうな面影はもうどこかへいってしまった。悲しみと失意に打ちひしがれた、ただの青年がそこにはいた。
シーザーは覚えている。名簿にはもう一人の『ニジムラ』が載っていたことを。そしてその名前が放送で呼ばれたことも。
「もうなんのために戦えばいいのか、俺にはわからないんだ、シーザー」
なんと弱気な言葉だろう。なんと哀れな姿だろう。
これがあの虹村形兆か。計算高く、度胸に溢れ、掴みどころのない男。そうシーザーに思わせた男なのか。
シーザーは黙って拳を握りしめた。一歩、二歩、大股で形兆に近づくとその胸ぐらをつかみ無理矢理その場で立たせる。
力のない視線がシーザーを見返した。何て目をしているんだとシーザーは思った。死んだ魚だってもう少しましな目をしている。
ああ、そうだろう、悲しかろう。涙したいだろう、励ましてほしいだろう。抱きしめてほしいだろう。
家族を、身内を失えば誰だって悲しいさ。泣きたくもなる。動きたくもなくなる。ずっと蹲ってそんなこと信じたくないんだって叫び出したくなる気持ちだってわかる。
―――わかるとも。俺だってそうだったんだ……ッ!
だがシーザーはそんなことをしなかった。そんなことを考えもしなかった。
代わりにシーザーは腕を思いきり振りかぶり、万力込めて目の前の男を張り飛ばした。
波紋を込めた強烈な、眼がばっちり覚めて一週間は眠れなくなるような、そんな凄まじい一撃だ。

11 :
「知るかよ」

吹き飛んだ形兆は綺麗な弧を描き、受け身を取る暇もなく大地に叩きつけられる。
吐き捨てるようにシーザーはそう言った。もとよりシーザーには学がない。難しいこともわからない。
女の子を口説くことは大の得意だが、身内を失った男の励まし方なんて考えたこともない。
だから殴った。自分の気持ちを込めた一撃を、言葉だけではなく拳で伝えようとしたのだ。

「戦う理由なんて俺だってわかんねェよ。考えたこともないさ。
 けど……それでも俺のご先祖様は戦ってきたんだ。俺のお師匠さんも、悪友も、むかつくがあの柱の男たちだって……今までずっと戦ってきたんだ。
 贅沢言ってんじゃねェぞ! 生きてんだろ、お前は。脚がある、手がある、ピンピンしてる。
 わからねェならわかるようになればいいッ! わかるまで戦い続ければいいッ! すくなくとも俺はなにもしないで、何もできないで殺されるなんてごめんだぜッ
 爺さんも親父も戦って死んだッ! なら俺だって戦って戦って……何か成し遂げねェーとあまりにカッコ悪すぎるだろうがッ!」

シーザーもかつて『失った』男だった。母を失った。父を失った。家族を失った……!
だがそこで彼は折れなかった! シーザーを立ちあがらせたのは失ったはずの父だ。
彼が失ったと思っていた祖先が、血統こそが彼を奮い立たせたのである。

「俺はもう行くぜ、形兆。ヴァニラ・アイスは放っておけない。アイツは本気で危ないヤツだ。放っておいたら何しでかすかわからない。
 それに危ないのはヤツだけじゃない。ほかにもたくさん、たくさんぶっとばさねーといけねーやつがいるんだ。
 いつまでもここにいるわけにはいかない」

地べたに座り込んだ形兆を尻目にシーザーは立ち止ることなく歩き出した。
太陽は既に昇り始めている。多い繁る木々を掻い潜り、光の筋が辺りに降りそそいでいた。
形兆はまだ俯いたままだ。シーザーの殴った頬を撫ぜると、無言のまま項垂れている。
シーザーは振り向くことなく、顔をあげることなく言葉を口にした。それでも形兆は動かない。
「森の切れ目で五分だけ待つ。その後どこに行くかは考えてないが……もしもお前が一緒に行きたいって言うなら俺は大歓迎だ」

ヴァニラ・アイス。忠誠と狂信で、ただ盲目に先をゆく者。
シーザー・アントニオ・ツェペリ。背負って潰れて、それでも再び歩きだす者。
虹村形兆は? 弟はいない。背負うべき血統も家族もない。支える友人もいなければ、守りたいものももう失った。

二人が去り、一人残された森の中。ようやく顔をあげた形兆を照らす日差しは眩しい。
殴られた箇所がズキズキと痛んだ。口の中を切ったのか血の味がじんわりと広がっていく。唾を吐きだしてみれば、それは真っ赤に染まっていた。
形兆は重々しくため息を吐いた。その目はいくらか『まし』になっていた。すくなくともさっきよりは随分と『まし』な目を、彼はしていた。
デイパックを取りあげ、のろのろと体を引きずるように行進を始める形兆。
その行く先にはなにが待つ? その行く先になにを見る?

12 :
―――シーザーがその遺体を埋めた少女、シュガー・マウンテンはかつてこう言った。
“『全て』をあえて差し出した者が、最後には真の『全て』を得る”
差し出すものもない青年は何を見る? 主に全てを差し出した狂信者は? 全てを背負った誇り高きものには?


―――答えはまだ出ていない。

【E-1 東部 / 1日目 朝】
【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:怒り、焦り
[装備]:リー・エンフィールド(10/10)、予備弾薬30発
[道具]:基本支給品一式、点滴、ランダム支給品1(確認済み)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様のために行動する。
1.DIO様に敵対するジョースター一行とその一味を始末する。
2.DIO様を捜し、彼の意に従う
3.DIO様の名を名乗る『ディエゴ・ブランドー』は必ず始末する。

【E-1 ドーリア・パンフィーリ公園 泉と大木 / 1日目 朝】
【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッシ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:健康
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック
[道具]:基本支給品一式×2、ジョセフの女装セット
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒。
0.形兆を森の切れ目で五分だけ待つ。来なかったらそれまで。
1.ジョセフ、リサリサ、シュトロハイムを探し柱の男を倒す。
【虹村形兆】
[スタンド]:『バッド・カンパニー』
[時間軸]:レッド・ホット・チリ・ペッパーに引きずり込まれた直後
[状態]:悲しみ、動揺
[装備]:ダイナマイト6本
[道具]:基本支給品一式×2、モデルガン、コーヒーガム
[思考・状況]
基本行動方針:親父を『R』か『治す』方法を探し、脱出する?
0.???
1.シーザーについて行く? ヴァニラを追う?
2.情報収集兼協力者探しのため、施設を回っていく?
3.ヴァニラと共に脱出、あるいは主催者を打倒し、親父を『殺して』もらう?
464 :背中合わせの三つの影   ◆c.g94qO9.A:2013/01/11(金) 18:18:15 ID:O1t3If1w
以上です。誤字脱字矛盾点ありましたら指摘ください。
申し訳ないんですが、どなたか代理投下をお願いします。
----------------------------------------------------------------
代理投下完了。

13 :
投下および代理投下乙
ヴァニラの個人行動は怖すぎる
1stに引き続き弟より長生きする形兆は見ていて悲しい・・・・・・
シーザーが心の支えになってくれるといいが、2人ともロワでは比較的長生きしたキャラなので将来が心配だったりする

14 :
投下と代理投下乙
>>10
最期 ⇒ 最後
一触即発の状況だったんで誰も死ななくて良かった(?)
やはりロワでは再会できない虹村兄弟
恥パでは精神に欠陥があると評されてた形兆がどうでるかが気になる

15 :
それぞれの心理描写が細かくて、実に良かった
悲しみにくれる形兆をブン殴るシーザーがいい

16 :
466 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:09:15 ID:dZiaTow.

―――初めて乗るバイクはとても大きかった。



17 :
467 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:09:35 ID:dZiaTow.


双葉千帆は小説家を夢見るフツーの女の子だ。
親の愛情をたっぷり受け、のびのびと育ち、温かな家庭で生きる女の子。
家に帰っても母親がいないというのは年頃の女の子に少しだけ辛い事実であるが、父は優しく、時に過保護すぎるほどだった。
そんな家で育ったから千帆は夜遊びなんてめったにしなかったし、バイクに乗るなんてことはもってのほかであった。
彼女にとってバイクとは学校にいる悪い先輩のオモチャ道具、あるいは住宅街でやたら騒音をたてる耳障りなものでしかなかった。
「……お前、運転できるか?」
折りたたまれた最後の支給品を開けば、そこから飛び出て来たのは一台のバイク。
なにが入っているか確認していたとはいえ千帆が想像していた以上にそのバイクは大きかった。
目を丸くする千帆にプロシュートが尋ねる。千帆は黙って首を振った。自転車なら載れますけど、彼女はそう申し訳なさそうに返事をした。
プロシュートはそうか、とだけ言うと何でもないといった感じでバイクに近づき、シートやハンドルを優しく撫でた。
えらく手慣れている感じがした。普段からバイクに乗り慣れているのだろうか。
千帆が見守る中、プロシュートはサッと脚をあげ座席に跨り、メーターをチェック。
ガソリンの量を確認し、ハンドルの感触を手に馴染ませる。なんら異常のない、むしろ手入れが行き届いている良いバイクだった。
手首を返すようにグリップを捻り、バイクのスタンドを蹴りあげる。途端に機械の体に命が宿ったようだった。
腹のそこまで響く様な低音が辺りを包む。ドドド……と唸るバイクはまるで大きな獣のようだ。手懐けられた元気いっぱいの鉄の生き物。
そしてそれに跨るシックなスーツをまとったプロシュート。
凄く『絵になる』風景だな。千帆は状況も忘れ、一人そう思った。
まるで古いハリウッド映画の一コマの様な、そんなことを連想させるワンシーンだった。

「なにしてるんだ、おいていくぞ」
千帆の思考を破ったのはそんな言葉だった。目をパチクリとさせながら見れば、プロシュートが座席の後ろ側を指さしている。
千帆は最初プロシュートが何を言っているのかわからなかった。おいてく、って何が?
いまいち状況が飲み込めていない千帆の状況を察し、男が深々と息を吐く。
「お前が持ってた支給品なんだからお前がのらないんでどうするんだ」
だから乗るって……どこに―――?




18 :
468 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:09:56 ID:dZiaTow.


「しっかりつかまっておけよ」
改めてみる男の背中は大きかった。千帆は振り落とされないようにその体にしがみつく。
親でも兄妹でも恋人でもない男の人に抱きつくのは初めてのことで千帆は最初、それを躊躇った。
腕越しに伝わる男の体の温もり、スーツ越しでもハッキリとわかるほど鍛え抜かれた肉体。心臓が早鐘を打つ。
お願いだから振り返らないでほしい。誰にいうわけでもなく千帆はそう願った。今の自分は間違いなく赤い顔をしているだろうから。
一台のバイクが街をゆく。ゆるいカーブに千帆は振り落とされないよう、少しだけ腕に込める力を強くした。
プロシュートが気を使ってくれたのだろうか。あるいは乗車中に襲撃されることを考慮したのかもしれない。
バイクはそれほどスピードを出さないで、滑るように道路を進んでいった。音は微かにしか出ず、振動もほとんど感じられない丁寧な運転だった。
最初は緊張に身を固くしていた千帆も、その内運転を楽しむまでになっていた。
頬を撫でる風が心地よい。風景があっとういまに前から後ろへ流れていく。とても新鮮だった。
バイクに乗るってこんな感じなんだと思った。そんな驚きと興奮が彼女の中で湧き上がっていた。
二人の旅は順調に進んでいく。千帆とプロシュートは一度地図の端まで参加者を探しに南下し、ついで禁止エリアの境目を確認する。
そこにはなにもなく、目印も標識も一切なかった。何も変わりない街並みが、ずっと先まで続いている。
それはとっても非現実的な光景だった。日本のただの住宅街なのに、そこには生活の臭いと言うものを感じさせない、居心地の悪い無機質感が漂っていた。

折り返し、今度は病院を左手に北上していく。東から地図に記されている拠点をしらみつぶしに周っていった。
レストラン・トラサルディー、東方家、虹村家、靴のムカデ家、広瀬家、川尻家、岸辺露伴の家……。
そうして幾つものカーブを曲がり、無数の十字路を通り過ぎ、何度か左に右に曲がったころ……。
順調に進んでいたバイクがスピードを落とし始め、遂には完全に止まる。
それはこの旅で一度もなかったことで、突然の停止に千帆は何事かとプロシュートの背中を見つめた。
ひょっとしたら誰か他の参加者を見つけたのかもしれない。それとも何か人がいたと思える痕跡を見つけたのかも。
何も言わないプロシュートの後ろから首を伸ばして道路の先を見る。すると一人の男が立っているのが視界に写った。
どうやら向こうもこちらに気づいたようで、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
近づいてくるにつれ、その男の容貌がはっきりとしてきた。ヒゲ面で腰のベルトにナイフを刺した風変りな男だ。
抜き身のまま剥き出しの刃物が怪しく光る。見るからに『危ないヤツ』というを雰囲気を醸し出している。
アウトロー丸出しの、西部劇に出ても違和感なく馴染めそうな浮世離れした男だ。
自然と千帆の腕に力がこもる。プロシュートは何も言わなかった。だが千帆の腕を無理にひきはがすようなこともしなかった。
それが彼女を少しだけ冷静にさせた。
バイクにまたがる二人に近づく男。お互いに顔がわかるぐらいまで近づいたころ、ようやくその男が口を開いた。
思ったよりハッキリとした口調でしゃべるなと千帆は思った。もっとぼそぼそとくぐもった声でしゃべるかと思っていた。
「エシディシという男を知らないか。民族衣装の様な恰好をして、がっちりとした体つきの二メートル近い大男だ。
 鼻にピアスを、両耳に大きなイヤリングをしていて頭にはターバンの様なものも巻いていた。
 一度見たら忘れらない様な、強烈なインパクトの男だ」
「……しらねェな、そんなヤツは」
「そうか」

19 :
469 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:10:36 ID:dZiaTow.

沈黙が辺りを漂った。会話はそれでおしまいのようで、ヒゲ面の男は要は済んだという顔で踵を返し、元来た道を戻り始める。
プロシュートはそんな男を何も言わず、ただ見つめていた。とても険しい顔をしていた。
千帆が話しかけられないほどにプロシュートは鋭い目つきで、その男が見えなくなるまでずっとその後ろ姿を睨んでいた。
男が角を曲がり、ようやくその影も見えなくなる。初めてプロシュートが緊張を解いた。
短い間だったはずなのにずしっりとした疲労感を感じさせる、緊迫した時間だった。
千帆も止めていた息を吐くと、張りつめていた神経を解く。実を言うと千帆はあの男が怖かった。
ギラギラとした眼、亡霊のように力なく揺れる身体。気味が悪かった。エシディシと言う男との間によっぽど何かがあったのだろう。
その底知れない執念というのか、怨念と言うのか。きっとそれは千帆が初めて体験した『生の殺意』だったのかもしれない。
混じり気なしの、ただただ“殺したい”という気持ちが凝縮された感情。
思い出すだけでゾッとした。千帆はそっと鳥肌が立った腕を撫でる。改めて自分がとんでもない場所にいるんだ、と実感する。
早人や露伴先生、プロシュートのような人ばかりでない。あんな恐ろしい男が沢山いるかもしれないのだ。

再び動き出したバイクはさっきより遅くなったように思えた。
滑るように進んでいたその機体はノロノロと住宅街を進む。千帆は少し躊躇ったが口を開いた。
ずっと黙ったままのプロシュートに尋ねる。背中越しにその表情はうかがえない。
二人を包む風に負けないよう、大きめの声で言った。
「あれだけでよかったんですか?」
「あれだっけって言うのはどういうことだ」
「だからあれだけですよ。何も聞かなかったじゃないですか。
 向こうはエシディシって人のことを聞いたのに何も聞かなかったし、今思えばあの男の人の名前もわからないじゃないですか。
 さっき言ってましたよね、仲間と情報が欲しいって」
「……そうだな」
「そうだな、って……」
「千帆、アイツの眼見たか?」
プロシュートがスピードを緩めるとT字路を左に折れた。
こうやって会話を交わしながら、運転しながらでも、プロシュートが辺りをしきりに警戒していることがわかる。
見ることは見ましたけど。千帆は自信なさげにそう返す。だけど見たからなんだというんだ。
千帆は軍人でもないし、心理学者でもないのだ。正直言ってあまりいい印象を持たなかった、としか言いようがない。詳しく聞かれたところでなにも言える自信はない。
プロシュートも彼女の言わんとすることがわかったのか、問い詰めるようなことはしなかった。ただ少し間を開けた後、彼はこう言った。
「病院で話したよな。“最終的には『持っている』人間が生き残る。力の優劣とは、また別の次元の問題だ”って。」
「はい」
「直感でいい、お前から見てアイツはどう思った?
 あの男は『持ってる』ヤツか? それとも『持ってない』ヤツか? 千帆の眼にはどう映った?」
「…………」

20 :
470 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:11:00 ID:dZiaTow.

すぐに答えることはできなかった。難しい問いかけだ。
千帆はもう一度さっきの男のことを思い出す。今度は曖昧な記憶を掘り起こすのでなく、しっかりと男の容姿から話し方まで、全部くっきりとイメージする。
話しながらどんなふうに身振りをしていたか。プロシュートを見る時どんな眼をしていたか。千帆を見た時、どういう顔をしていたか。
身長はどれぐらいだ? 癖は何かなかったか? 薄暗い雰囲気をしていた。ならどうしてそう思ったのか。どこがそう思えたのか。
プロシュートは千帆の返事をじっと待っていた。急かすようにするわけでもなく、その間もバイクの運転とあたりの警戒に神経を注いでいる。
やがて長い直線が終わるころになってようやく千帆の中で答えがまとまった。
ハッキリとした声で千帆は言う。まちがってるとか、正解は何だと聞かれてたらこうは答えられなかっただろう。
でもプロシュートが聞いたのはどう映ったか、だ。だから自分の思ったことなら、千帆は自信を持っていうことができる。

「『持ってない』ヤツ、だと思います」
「……なんでそう思った?」
「難しいんですけど、あの人から“死んでも生き残ってやる”って気持ちが伝わってきませんでした。
 変な表現なんですけど……というか矛盾してるし、きっと小説でこんな言葉使っちゃいけないんですけど……私にはそう見えたんです。
 凄い気持ちがこもってる人だとは思ったし、それが伝わってきたのは確かです。怖かったぐらいです。
 でもだからこそ、一度それが壊れたら……脆いんじゃないかなって」
「なるほど」
「エシディシ、って人を探してるみたいで……きっとその人を……殺したがってるみたいなんですけど……。
 なんというか、殺したらそれで満足しちゃいそうな気がしました。生き残れって言われてるはずなんですけど、殺したらそれで満足だ、みたいな……。
 悲壮な覚悟って言えばいいんですか。特攻隊というか、思いつめてるというか……」
「俺もだいたい同じことを考えてた。俺から見ればアイツは『持ってるものを放り捨てれるヤツ』だと思った。
 目的のためなら簡単に飛び移れるやつだ。何かを犠牲にして次のステージに写って、そっからまた次へ……って具合でな。
 こうやって言うのは簡単だが、それをするのはなかなか難しい。それにそれがいつだってそれがいい事かと言えばそうでもない」

持ってるものを放り捨てるヤツ。千帆はその言葉を聞いて顔をしかめた。
あまり好きそうになれないタイプだ。繋がりとか積み重ねというものを大切にする千帆にとってはそういう人はなかなか信用できる人ではない。
勿論何かを成し遂げるには何かを犠牲にしなければいけない。小説を書くときに睡眠時間を削ったり、友達の誘いを断ったり。
でもそういうのも普段の積み重ねのうえでの取捨選択だ。100から0に、イエスかノー。切り捨てや立ち切りというものはそう簡単にできるものではない。
逆説的に言えば、それができるほどあの人は強い人でもあるのかもしれないけど。千帆はそう思った。
プロシュートの話は続いた。
「俺が銃の構えを教えた時、何て言った?」
「えっと……引き金を引くことに意識を集中させるんじゃなくて、引き金を『絞る』」
「それ以外は?」
「6発あるからだなんて考えるんじゃなくて、一発で仕留めろ」
プロシュートが大きく頷いたのが筋肉の振動で伝わってきた。
声のトーンが少し変わった。もしかしたらうっすら笑っているのかもしれない。

21 :
471 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:11:27 ID:dZiaTow.

「そうだ。なら聞くけど一発でも仕留められそうにもない時、お前だったらどうする?
 今しかきっとチャンスはない。ここで撃てば確実仕留められるはずだ……ッ!
 でもどうしてだか、相手に銃弾が当たる気がしない。コイツを討つイメージが頭に浮かばない。
 そう思った時、お前はどうする?」
「…………」
「……俺がお前の立場なら答えは決まってる。『逃げる』、ただそれだけのことだ。
 そしてもう一度待つ。次こそは見逃さない、今度こそ絶対に一発で仕留めてやるってな」
「逃げていいんですか?」
「勿論逃げちゃいけない時もあるし、逃げられない状況もある。けど逃げが間違いだっていうのは『間違い』だ。
 逃げだって選択肢の一つだ。それに時には撃つ時よりも、戦う時よりもよっぽど勇気が必要な『逃げどき』だってある。
 忘れるな、逃げることだって立派な選択肢なんだ。進む方向が違うだけで逃げだって前進してる。
 イノシシみたいになにがなんでも突っ込めばいいってもんじゃねーんだ。まぁ、その選択が一番難しいってのはあるけどな」
難しい話だ。一発で仕留めなければいけない覚悟が必要なのに、二発目以降も準備しておかなければならない。
歌を歌いながら小説を書けと言われてるのも同然だ。そんなことが自分にできるのだろうか。まだ銃の構えだっておぼろげなのに。
千帆の不安が伝わったのか、プロシュートは更にスピードを緩めながら口を開く。
その口調は確かに柔らかなものになっていた。
「俺が言いたいのはな、さっきの言ったことと矛盾してるみたいだが、一発外したら、はい、そこでお終いなんてことはないってことだ。
 そりゃ相手を前に外したら誰だってヤバいって思う。衝撃を受けるのは当然だ。俺だってきっと動揺する。
 けど大切なのはそこで敗北感に打ちひしがれないことだ。まだ相手は生きてるし、自分も生きてる。
 もしかしたら相手が俺を撃ちぬくことのほうが早いかもしれない。けどもしかしたら相手も慌てていて、俺の二発目が間に合うかもしれない。
 俺が逃げ伸びて、次の時にうまく弾丸をぶち込めれるかもしれない。一瞬硬直して、逃げようとしたら背中を撃たれるかもしれない」
「…………」
「つまりだな、千帆、生きることを最優先しろ。生きてればリベンジできる。生きてる限り、銃弾を込めなおすこともできる。
 けど死んだらおしまいだ。死んでもやってやるなんて覚悟は『死んだ後』にでも考えておけ。それか『どうあがいても間にあわない』って時にでもとっておけ。
 死を賭してでもって覚悟はけっこー諸刃のもんなんだ。少なくとも俺はそう思う」
「…………」
千帆は何も言えなかった。ただ何も言わないのは失礼な感じがして、黙って大きく頷いた。
背中越しでも頷いたことがわかるように少しだけ大袈裟に。プロシュートがどう思ったかはわからない。でも千帆はその言葉に素直にうなずけない自分がいることを自覚した。
自覚したから頷くだけで返事をしなかったのだ。バイクは何事もなく進んでいった。辺りには人影一つ見当たらなかった。

22 :
472 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:11:48 ID:dZiaTow.

―――生きること、か。

それは時にものすごく残酷な刃物になる。
悲しみを背負って歩き続けなければいけないことは辛いことだ。それが努力ではどうにでもならないものであればなおさらだ。
だが千帆に逃げる気などさらさらない。死のうだなんて絶対思わないし、さっきプロシュートに言った言葉に偽りはない。
―――『私、小説を書くんです。元の世界に戻って。絶対に』
絶対に……。絶対に……! 彼女は言い聞かせるように心の中でその言葉を繰り返した。
ああ、そうだとも。生き残ってやる。例えそれが呪われた運命だとしても、それを選んだのは千帆だ。千帆自身だ。
千帆は自分が『何かに巻き込まれた』とは思ってない。千帆がここにいるのはそうする必要があったからだ。
千帆がここにいるのは、千帆である必要があったから。千帆にしかできないこと、千帆が成し遂げるべき何かがあるからだ。
プロシュートが一瞬だけ視線をサイドミラーに移した時、後ろの少女と眼があった。
さっきあった男と正反対の意志が彼女の瞳には宿っていた。誇り高き、強いものの眼だ。プロシュートは彼女のそんなところが気に入った。

再び口を開いた時、プロシュートの口調は元の淡々としたものに戻っていた。
バイクのスピードを落とし、次の角も右に曲がる。まるでそこにある『なにか』がわかっていたかのような感じで、彼はバイクの速度を緩める。
二人の視線の先に一人の男が映っていた。さっきのような怪しい気配剥き出しの男ではなかったが、こちらを警戒しているのが一目でわかる。
身長は平均よりやや高いぐらい。腕や肩のあたりががっちりしていて、それに比べると足や腰はほっそりしている。
バイクの音を聞きつけていたのか、びっくりした様子もなく、鋭い目つきでこちらを睨んでいる。
片方の腕を伸ばし、突きつける様に指さしている。見た感じ武器を持っているようには思えなかったが油断はできない。スタンド能力を持っているのか知れない。
プロシュートはそんな彼の手前、三十メートルほどでバイクを止めると振り向くことなく千帆に言った。
「千帆、お前が説得してみろ」
「え?!」
「さっきのヤツは見るからにヤバいヤツだったから俺が対処した。今度のヤツはまだマシに見える。
 いつまでも俺におんぶにだっこってわけにはいかねーだろ。それに俺はお前の眼を信用してる。お前のツキも信用してる」
「そんなこと言われても……」
いいからやってみろって。そう背中を押され、千帆は最後にはやるしかないと覚悟決め、バイクを降りた。
プロシュートが隣に立ってくれていることが彼女を勇気づけた。真正面に立つ青年がそれほど怪しい目つきでないのも彼女を奮い立たせてくれる。
唇を一舐めすると、心臓に手をやりながら口を開いた。なんだか喋ってるのが自分じゃないみたいだ。
千帆は相手に聞こえる様、大きな声ではっきりと話した。
「私は双葉千帆と言います。ある人を探していて、その人のことについて知っているならお話がしたいです。
 私は誰も殺したくありませんし、貴方も誰も殺さないというのなら一緒に力を合わせたいと思います。
 どうでしょうか、私と協力してくれませんか?」
訪れた沈黙が居心地を悪くする。ジャケットに入れた拳銃がひやりとしていて、その感触がなんだか胃をムカムカさせた。
馬鹿正直に話しすぎだろうか。千帆は少しだけ後悔した。でも彼女は自分の勘を信じていた。
眼の前の青年は決して平和ボケしたような甘ちゃんではないが、誠意をもって話せば話は通じる相手だろうと。
ピンと来たのだ。この人は私と同じだと。私と同じように誰か探している様な気がする。それも堪らなく会いたいと思えるような、大切な人を探してる。

23 :
473 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:12:07 ID:dZiaTow.

「彼女の後ろに立ってるアンタ……。アンタはスタンド使いか?」
返事は冷たく、固かった。
視線を千帆からゆっくりと外し、プロシュートを睨みながら青年が口を開いた。
プロシュートは唇を捻っただけで何も言わなかった。肯定も否定もしない。初対面でこの反応はいい印象を与えないだろう。
隣に立つ千帆は少しだけ心配だった。自分に説得するようやらせておいて、それはないんじゃないのと思った。
長い沈黙の後、ジョニィが口を開いた。依然指先はこちらを向いている。その鋭い眼光も一向に衰えていない。
「話をするなら……一人ずつにしたい。僕はあなたたちを悪いヤツではないと思ってる。
 だけど、まだ完全に信頼することはできない。騙し打ちをする気なんじゃないかって、そう疑う気持ちだってある。
 だから話をするならどちらか一人ずつだ。ここじゃないどこかで、一人ずつ話をしたい」
千帆が振り向けばプロシュートは我関せずと言った顔であらぬ方向を向いていた。
話をするかどうかも、全部任されたということだろうか。初めての交渉なのにいきなり投げっぱなしとは信頼されているのか、試されているのか。
少しの間考えてみた。ずっしりとした拳銃の重みが彼女の決断をより一層重大ものにすると訴えている。
そうだ、間違えたら死ぬのだ。眼の前の青年を測り違えたら殺されるのだ。そう簡単にできるものではない。
それでも……再び千帆が動いた時、彼女の中で迷いはなかった。
ジョニィに見える様、彼女は力強く頷いた。その目に一点の躊躇いも持たず、千帆はジョニィ・ジョースターとの対峙を選択した。



24 :
474 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:12:28 ID:dZiaTow.


スクアーロからもらったタバコを病院に置いてきたのは間違いだったかもしれない。
千帆とジョニィ・ジョースターがひっ込んだ民家の前で座り込み、プロシュートは一人思う。
こんなのんびりとした時間がこうもはやく来るとは流石に予想外だ。病院を一歩出ればそこは戦争で、戦い尽くしの未来だと勝手に思っていた。
スーツについたほこりを叩き、さっきまで乗っていたバイクにもう一度またがる。
千帆の予想に反し、プロシュートはそれほどバイクに乗り慣れているわけではない。どちらかと言えば車のほうが普段からよく使うし、車のほうが好きだ。
座席は柔らかいし、オーディオもいい。風にバタバタ煽られることもなければ、不格好なヘルメットをつける必要もない。
ただどうしてか、プロシュートは昔から何事も飲み込みがよく、バイクだってそのうちの一つでしかなかった。
実際さっきの運転中も見た目以上に神経をすり減らしていたのだ。千帆にそれを悟らせなかったところは流石と言うべきか。
わかっていたことではあるが、キツイ道中になりそうだ。プロシュートは身体を馴染ませるようしばらくの間、バイクに跨り考えにふけっていた。
プロシュートの思考を破ったのは道路の先から聞こえてきた足音だった。
住宅に跳ね返り聞こえてきた靴の音。それほど先を急ぐような音ではなかった。一歩一歩、確実に進んでいくような足取り。
バイクにもたれ何が来るだろうと曲がり角を睨んでいれば、一人の男が現れた。
ナルシソ・アナスイだ。そこに現れたのは愛に生きる一人の男。
プロシュートを最初見た時、彼は露骨に警戒心をあらわにした。だが見敵必殺とばかりに襲いかかってこないことがわかると、少しだけ警戒心を緩めた。
そのまま少しずつプロシュートへと近づいてくる。一歩、そしてまた一歩。その歩き方が少し不自然で、プロシュートはアナスイが怪我を負っていることに気がついた。
見れば服装も汚れ、所々血が付いているの見える。プロシュートはアナスイにばれないよう、後ろのベルトに刺した拳銃に手を伸ばす。
グリップの冷たさが彼の思考をクリアにした。怪我を追っているとはいえ油断はできない。なにかあれば容赦なく、撃ち抜く。

「……ここを誰か通っていかなかったか?」
アナスイが言った。
「人を探してるんだ。男と女の二人組。アンタは見てないか?」




25 :
475 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:12:49 ID:dZiaTow.



タロットカード、十三枚目。それは死神。
意味は終末、破滅、決着、死の予兆。しかしひっくり返して逆位置にすれば……その意味は再スタート、新展開、上昇、挫折から立ち直る。
リンゴォ・ロードアゲイン。双葉千帆、プロシュート。ジョニィ・ジョースター。そして、ナルシソ・アナスイ。
死神に取りつかれ、死神に魅了された五人ははたして死神に呑みこまれずにいられるのか?


                                        to be continue......

26 :
476 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:13:12 ID:dZiaTow.
【D-7 南西部 民家/1日目 午前】
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:全身ダメージ(中)、全身疲労(中)
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還。
0.目の前の男に対処。
1.暗殺チームを始め、仲間を増やす。
2.この世界について、少しでも情報が欲しい。
3.双葉千帆がついて来るのはかまわないが助ける気はない。
【ナルシソ・アナスイ】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:全身ダメージ(極大)、 体力消耗(中)、精神消耗(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:空条徐倫の意志を継ぎ、空条承太郎を止める。
0.徐倫……
1.情報を集める。
【備考】
※放送で徐倫以降の名と禁止エリアを聞き逃しました。つまり放送の大部分を聞き逃しました。

【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:疲労(小)
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、救急用医療品
[思考・状況]
基本的思考:ノンフィクションではなく、小説を書く。
0.ジョニィ・ジョースターと情報交換。
1.プロシュートと共に行動する。
2.川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える。
3.琢馬兄さんに会いたい。けれど、もしも会えたときどうすればいいのかわからない。
4.露伴の分まで、小説が書きたい。
[備考]
※千帆の最後の支給品は 岸辺露伴のバイク@四部・ハイウェイスター戦 でした。
【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
0.双葉千帆と情報交換。信用はまだできない。
1.ジャイロを探す。
2.第三回放送を目安にマンハッタン・トリニティ教会に出向く
[備考]
※サンドマンをディエゴと同じく『D4C』によって異次元から連れてこられた存在だと考えています。

27 :
【D-7 南西部/1日目 午前】
【リンゴォ・ロードアゲイン】
[時間軸]:JC8巻、ジャイロが小屋に乗り込んできて、お互い『後に引けなくなった』直後
[スタンド]: 『マンダム』(現在使用不可能)
[状態]:右腕筋肉切断、幼少期の病状発症、絶望
[装備]:DIOの投げナイフ1本
[道具]:基本支給品、不明支給品1(確認済)、DIOの投げナイフ×5(内折れているもの二本)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.それでも、決着をつけるために、エシディシ(アバッキオ)と果し合いをする。
[備考]
※名簿を破り捨てました。眼もほとんど通していません。
※幼少期の病状は適当な感じで、以降の書き手さんにお任せします。

477 :死神に愛された少女と死神に魅せられた男たち    ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:15:16 ID:dZiaTow.
以上です。誤字脱字、なんかありましたら指摘ください。
タイトルは前も一回やりましたけど 062話『神に愛された男』からです。
神系列はタイトルで使いやすくて素敵です。

28 :
兄貴かっこいい!
ギアッチョもいなくなって暗チは残り一人だけど頑張って欲しい

29 :
投下乙です
積極的なマーダーはいないけど複雑な連中だな・・・
>>24にスクアーロからもらったタバコとありますが、ティッツァーノの間違いですよね?

30 :
2ndのあの方まで書き手復帰とな?
やはりジョジョロワは不滅なのか

31 :
479 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:50:38 ID:TFUPmPs. ◆

「なんで助けたんですかッ!? なんでッ!?」
吠える様に、唸るように康一がそう言った。康一に胸ぐらを掴まれたマウンテン・ティムは、何も言えず俯いた。
カウボーイハットを深くかぶりなすと、その表情を暗く影に隠れるようにする。しかし大きく俯いてもその口元までは隠しきれなかった。
怒りに震えるその唇を。真一文字に結ばれたその口元を。
マウンテン・ティムは口を開く。その声は自らに対する怒りで低く、くぐもっていた。
「君が俺を殴りたいというのであれば甘んじてそれを受けよう。君が俺を罵倒して気が済むならばいくらでもそれにつき合おう」
「そんな話がしたいんじゃないッ! 僕が話したいのは……ッ!」
「君を救うためだ。君を助けるためにはどうしたって誰かが足止めしなきゃいけなかった。
 誰かがあの化け物を相手にする必要があった。そしてあの娘はそれを望んだんだ。
 だから俺はそうした。ああ、そうさ、康一君。俺は逃げたんだよ。彼女を見殺しにした。彼女を助けにずに、時間稼ぎの生贄に利用した。
 責任があるというのであれば判断を下した俺だ。俺の……この俺の、ミスだ」
「……ッ!」
矛先のない怒りが康一の中を駆け巡った。
八つ当たり気味に振りあげた拳はマウンテン・ティムの胸の前で止まり……かわりに地面に向かって叩きつけられた。
違う……違うッ! 康一もわかっていた。マウンテン・ティムはあえて悪者になろうとしている。
康一の向けどころのない怒りを受け止め、その感情のはげ口になろうとしてくれている。でも違う。康一もわかっているのだ。マウンテン・ティムは何も悪くない。
むしろ彼のおかげでこうして康一は生きていられるのだ。今身体を駆け巡る怒りがあるのも、電流のように流れる節々の痛みも、全てティムが救ってくれたおかげだ。

「……悪いのは、僕なんだ」
重苦しい沈黙を切り裂くように、康一がそう言った。

―――そうだ、由花子さんを殺したのは……僕だ。

32 :
480 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:51:07 ID:TFUPmPs.
「僕がもっと強かったなら! 僕がもっと冷静だったなら! 僕がもっと辺りを見ていられたら! 警戒を怠っていなければ!
 僕が……僕が……僕がッ! 全部僕がいけなかったんだッ! 由花子さんを殺したのは僕だッ!」
「……康一君」
せきを切ったように康一の口から言葉が溢れだした。途中からその声は涙でぬれ、ほとんど何を言っているかわからないほどになっていた。
康一を励ますようにマウンテン・ティムが肩に手を置く。その手は暖かった。
しかし……康一はそっとその手を引きはがす。その優しさに溺れてはいけない。その甘さに目をそむけてはいけない。現実を見つめるんだ。
山岸由花子を殺したのは……僕だ。由花子が死んだのは、広瀬康一が……弱かったから。

好きになったわけではない。まだ会って数時間、共に過ごした時間は数えるのも馬鹿らしくなるほどの短い間だ。
恋人になりたいとかだとか、共に生きていたいだとか……そんなことを問われれば、わからない、と康一は答えるだろう。
二人が過ごした時間はあまりに短く、入り組んでいた。それでもきっとR方が違ったなら……そう思ったのも事実である。
第一印象は最悪だった。なんだこの人は。なんなんだこのヒステリックな女の子は。正直に言えばそう思った。
しかしそれだけじゃないのだ。彼女の言葉を受け止め、彼女の視線を見つめ、一度だけではあるが共に戦い……康一は由花子の中にある強さも見ていた。
そのダイヤモンドのように固く輝く彼女の強さに……見とれていたのも事実である。いや、正確に言えば見惚れていた。
少しずつではあるがハッキリとイメージは浮かんでいた。そうか、未来の僕はこの人と一緒に過ごすのか、と。
一緒に学校に登校したり、休日には買い物に出かけたり、ご飯を食べに行ったり、映画を見に行ったり……。
そう思うと悪くないなという気持ちだった。恋人だとかは置いておいても結構僕たち、いい友達になれるんじゃないかって本気で思ったりした。

33 :
481 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:51:27 ID:TFUPmPs.

「…………守れなかった」

しゃがれた声で康一がそう言った。
だけどそう思った少女はもういない。康一に輝く未来を見せてくれた少女は死んでしまったのだから。
糸が切れた様に全身から力が抜ける。崩れ落ちた身体でその場にうずくまり、康一は地面を見つめた。
とりとめもなく、涙が溢れた。後から後から感情がこみあげてきて、それはどうしようもなく止められなかった。
由花子が笑うことはもう二度とない。嫉妬に怒り狂うこともなければ、不機嫌そうに顔をしかめることも、もう、ない。
彼女と共に歩む未来はその手をすり抜け、二度と掴めない。友達から始めませんか、そう言って差し出した手を由花子が握ることも決してないのだ。
守れなかった、未来の恋人を。友達になって欲しいと差し出した手を握った女の子を……守れなかったのだ、康一は。

康一は大声をあげて泣いた。少女の名を呼び、情けない自分を呪い、地面を叩き、涙した。何度も、何度も叫び、泣いた。
いっそのこと喉が張り裂けてしまえと康一は思った。地面を叩く拳も壊れてしまえばいい。なにもかもが、もう、どうでもいい!
康一は自らを罰するかのように、ずっとそうしていた。
だって由花子さんは痛みすら感じられなくなってしまったじゃないか。だって由花子さんは僕のせいで死んでしまったじゃないか……!
少年の叫びが辺り一面にこだまする。
マウンテン・ティムは何も言わず、ただ康一の傍で立ちつくすことしかできなかった。何もすることができない自分がふがいなかった。
獣のような吠え声が住宅街に響き渡る。康一の叫びはいつまでも、いつまでも途切れることなく、辺りに轟いていた。


【山岸由花子 死亡】




34 :
482 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:51:51 ID:TFUPmPs.

―――物語を少々遡って……
「ちょっと、えと、由花子さん……!?」
「しょうがないじゃない、こうしてないと危ないんだから」
「そんなこと言ってもこんなにくっつかないでもいいじゃないかな……?」
暗闇に包まれた民家の、その中でもさらに暗い場所でのこと。康一と由花子は身を寄せ合って辺りの様子を伺っていた。
先の由花子と康一の戦いで辺りには木片が散り、家具は壊れ、部屋中がひっちゃかめっちゃかな状態になっている。
由花子が伸ばしたラブ・デラックスは依然辺りに広がったままで、その一番濃い部分、中心地に二人は寄りそうにように立っていた。
由花子はそっとスタンドを動かすと伸ばしていた髪を集め、二人を包むように展開していく。
それはまるで巨大な繭のようだった。真っ黒で、禍々しくて、人二人をゆうに包み込める大きな繭。
二人がぴったりと体を寄せ合っているのでそれほど窮屈ではない。怪我をしている康一も由花子が気を使ってラブ・デラックスで支えているので、問題なく立つことができている。
敵のスタンドはなにか光に関連したものだろう、と二人はあたりをつけていた。
ガラスに映ったぼんやりした影。康一を襲った謎の閃光。おおまかであるが何かしら光が関連しているか、あるいは光を利用したスタンド攻撃なのではないだろうか。
康一も由花子もスタンドによる戦いの経験は少ない。戦いながら相手のスタンド能力を推測することにはまだ慣れていないのだ。
とにかく、二人はとりあえずの防御態勢を取ることにした。
由花子のラブ・デラックスで光を遮る。同時にクッションのように二人を包み込むことで突然の襲撃にも対応できるようにする。
康一の傷はそれほど深くはない。依然出血があるものの、それも由花子の応急処置で対処できている。
言い換えれば、相手の攻撃は『それまで』の攻撃なのだ。
謎の襲撃者のスタンドは由花子のラブ・デラックスのように窓をぶち破ったり、人を持ち上げたりすることはできない。
康一のエコーズのように、火を発生させたり、音をぶつけたり、そういう能力もないようだ。
ならば由花子のラブ・デラックス二人をで包めば、光が差し込むこともないし、ある程度の攻撃も防げるだろう。
無論それで全ての攻撃が防げるわけではないだろうし、繭の中であれば安全が保障されているわけでもない。
最大限の防御を引いているだけで、いずれは破られる可能性だってある。ラブ・デラックスを貫く一撃もあるだろうし、二人のスタンド予測が的外れな可能性だってある。
結局のところ、あとは戦いの中で見つけていくしかないのだ。経験が皆無と言っていい、スタンド使い二人の力を合わせて、戦うしか……!

「それで、どうするつもりなの?」
黒繭のなか、由花子が康一にそう尋ねる。今の状況、正直言えば防戦一方だ。

35 :
483 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:53:13 ID:TFUPmPs.
「一応助けは呼んでおいたよ、僕の『スタンド』でね」
「……そんなので大丈夫なの? 助けにやってきたところを逆に返り討ち、なんてなったら目も当てられないわよ」
「大丈夫だよ、僕は仗助くんたちを信じてる。すっごく便りになる人達なんだ。由花子さんもきっとすぐ友達になれるよ」
「……まぁ、いいわ。それでその助けが来るまで呑気にここで待ってればいいのかしら?」
「由花子さんは何か考えある?」
「……自分で聞いておいて言うのも何だけど、ない、わね。光が攻撃になるって言うならこの防御を解くのを相手がまっている可能性は高いでしょうね。
 外に逃げようものなら光に身をさらすことになるからそれは危険。暗闇で隠れていても相手の能力次第では懐中電灯も必殺の道具になる。
 お手上げ、かしら? 動いた途端やられるとわかっている以上、下手に動かずこうしているのが最善策……。
 じれったいわね。まるで壁越しに拳銃を突きつけられたみたい」
「我慢比べってことかな? 一応僕のスタンドで少しずつあたりを伺ってみるよ」
「あまり無理しちゃ駄目よ」
「わかってるって」

二人がそうしてからどれくらいの時間が経っただろう。焦れる様な、ひりつくような緊張感の中を二人は長い事ただ待っていた。
由花子が康一の怪我の様子を見直したり、エコーズでほんの一瞬だけ辺りを見回ったり……。
結構な時間がたったが、その間に何か起きるわけでもなく、かえってそれが二人を不安にさせた。
繭の外の様子に変化はなかった。薄暗い部屋、照りつける太陽、静寂に包まれた住宅街。襲撃者の影一つ見当たらなかった。
康一は少し危険を犯してまで先に自分が攻撃を喰らった窓ガラス辺りを調べてみたが、そこにも人影は見当たらなかった。スタンドの気配もなかった。

諦めたのだろうか……? いや、まさか。
敵は二人が戦っている最中も、粘り強く隙を伺っていたようなヤツなのだ。獲物の位置がはっきりとしている今、そんなヤツがこのチャンスを逃すだろうか?
現状由花子と康一は圧倒的不利な状況におかれている。そうまでして追いつめた獲物を、わざわざ諦める様なことをするだろうか?
いいや、しないだろう。必ずや相手は何か仕掛けてくる!
由花子と康一が光に身を晒さざるを得ない状況を作り出す……ラブ・デラックスから二人を引きずりだす攻撃を仕掛けてくる……。
そう、そんな風にならざるを得ない何かを……! 必ずや、何かを仕掛けてくるッ……!

「ねぇ」
唐突に由花子が言った。振り向いた康一の視界に写るのは暗闇のみ。辺りは真っ暗なため由花子がどんな顔をしているかわからない。
だがどことなく不機嫌な声音だった。恐怖と言うよりは、不愉快だと言わんばかりの声だ。
「なんだか熱くない?」
確かに少し康一も汗をかいている。だがそれは気にするまでもない、普通のことだと思っていた。
髪の毛の繭に包まれている今、その性質から汗をかくのも不思議ではないと思っていた。髪の毛の保温性は高いし、その中にいる二人が熱く感じるのは当然のことだ。
しかしよく考えてみれば、確かにおかしい。由花子も汗をかいてる。自分も汗をかき『始めている』。
「まさか……」

康一は思わずそう呟いた。即座にスタンドを呼び出すと外の様子を慎重にうかがう。
この現象が意味することは気温が上昇しているという事実。それも汗をかくほどまでに、急激に! 急速にッ!
そしてそれが意味することは即ち……!

36 :
484 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:53:54 ID:TFUPmPs.

「エコーズッ!」
スタンド越しに見た民家は数分前とはうって変わって明るく、光を放っていた。康一の口から思わず呻き声が漏れる。
火だ……! 敵は火を放っていた! 籠城を決めこんだ由花子と康一に対して相手がとった手は古典的だが効果抜群の策ッ!
火炙り、火攻め、炎の流法! しかもただの火炙りではない。敵には同時に光を使った攻撃手段もあるのだッ!
それが意味するものは即ち、火と光の挟み撃ち! 火から逃れようと動けば光のスタンドが容赦なく二人をねらう。光のスタンドから身を隠し続ければいずれは二人に火の手が伸びる。
攻撃は既に完成していた! 相手は何もしていなかったわけではない。『既に』だッ!
二人の策、そして由花子のラブ・デラックスを前に『襲撃は完了』していたのだッ!

「由花子さん」
「……覚悟を決めろ、って顔してるわね」
「火、凄く広がってた」
「…………なるほどね」
「……」
「なら仕方ないわね」
「え?」
そう言って由花子は康一を強く抱きよせた。突然のことに康一は何が何だかわからないという顔をしている。
「康一君、まさかと思うけど貴方こんな風に考えてないかしら。
 僕が囮になる、だからその間に逃げて、とか。それか僕が敵の注意をひきつける役をするからその間に安全な場所まで走ってだ、とか。
 僕がなんとかしている間に近くにいるはずの仲間を呼んできて、だとか」
図星だった。由花子は康一が考えていたことを、まさに言い当てた。
康一には覚悟も度胸もなかった。由花子と一緒にこの場で焼け死ぬという覚悟と度胸も。共に手を取り逃げだす覚悟と度胸も。
由花子を死なすわけにはいかない。だけどこれと言った策が思いつくわけでもない。そんな康一が思いついたことといえば愚直なまでに身体を張ることだけだった。
英雄(ヒーロー)のように、その身一つで全てを抱え込むこと。女の子を守ること、庇うこと。

「まぁ貴方が考えそうなことよね。でもね、敵もそんなこと承知で火を放ったんじゃないかしら。
 火を放つまでかかった時間から考えても相手はなかなか頭が回るヤツよ。下手に康一君が囮になったとしても最悪二人ともやられる、なんてこともあるわけ」
「じゃあ、どうしろって……?」
「それはね……」

だが由花子は断じてただの女の子ではない!
彼女はスタンド使いだ。そして何より守られるだけの女の子では決してないし、ましてや庇ってもらうべき者でもないッ!
由花子は夢見る少女だ。広瀬康一に恋する少女だったのだ!

37 :
485 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:55:40 ID:TFUPmPs.
二人を包んでいた繭が狭く、そして少しだけ薄くなる。エコーズをひっこめた康一にはなにが起きているかがわからない。
いったいこの繭の外で、由花子が何をしようとしているのか、何をしているのか。
問/いか/ける様に見上げても、由花子は何も答えてくれなかった。途切れた言葉はふわりと宙に浮かび、どこに落ちるわけでもなく宙ぶらりんでぶら下がっている。
由花子は鋭く輝く目で康一を見返し、ほんの一瞬微笑んだだけだった。そして次の瞬間、キッ、と表情を険しいものに変えると彼女は叫んだ。
由花子が康一を抱き寄せたのは“こうする”ためだ。
『ラブ・デラックス』がその黒い体を振るわせる。それはまるで暴れるまえに大きく息を吸い込む、巨獣のようで。

「正面からぶち壊すッ!」

由花子の言葉と共にラブ・デラックスがその力を解き放った! 二人を中心として四方八方伸びていく髪の毛。とてもじゃないがそれは髪の毛には見えなかった。
それを髪の毛と呼ぶには、あまりに太く逞しすぎた。電信柱をゆうに越す長さと大きさで、ラブ・デラックスが辺りにあるもの全て、なぎ払っていく。
それはまるで黒い濁流! 何百、何千もの髪の毛を一つにまとめ上げ、力任せに振り回す! その力は民家の柱を叩きおり、窓を粉砕し、壁をも突き破る!
ガードに回していた髪の毛をも動員したこの圧倒的破壊力ッ!
未だ内側にいるためその全貌を見ることは叶わないが、突然聞こえてきた轟音に康一は眼を白黒させて驚いたッ!

「焼け死ぬ? 酸欠で死ぬ? そんなのはまっぴらごめんねッ
 そんな風にここで小さくはいつくばっているぐらいなら、いっそのこと全部ぶっ壊してやるわッ」
半壊していた家は由花子が言葉を吐くごとに、更にその安定感を失っていく!
傾いた屋根が更に大きく傾く! 家を支えていた大きな柱が、由花子の暴力的な衝動を前に堪え切れず折れ始めるッ!

「火がなんだっていうの? 炎? 火災? ならその火ごとこの家と共に押しつぶすッ!
 敵が近くにいるかもしれない? 好都合よ。なら私たちと一緒にまとめて民家の影に叩き落とすッ!」

折れまがった水道管から勢いよく水が噴き上がる! 降りそそぐ天井が、瓦礫の破片が火を押しつぶし消していくッ!
由花子の狙いはこれだ! 遠い昔、江戸時代に人々が火災の際に柱を倒し、家を壊したのと同じこと!
燃え広がる前に、叩き壊す! シンプルだが効果は抜群だッ! それに彼女のスタンドならば家の内側から壊しても押しつぶされるようなことはない。
なにより今の彼女は恋する乙女なのだから。憧れの彼のまさに眼の前でいるのだから! カッコ悪いところなんて見せていられようかッ!

38 :
486 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:57:02 ID:TFUPmPs.
やがて遂には砕け落ちてきた天井をも由花子はスタンドで支えると、ぐっと力を込めて投げ飛ばす。
勢いよく跳んだ残骸が地面ではねあたり、轟音を立てて崩れていく。
砂埃があたりを包み……そして静寂が響いた。聞こえるのは未だ吹きあげ続ける水の音。そして僅かに燻る残り火の音。
再び火が燃え上がるようなことはないだろう。なぜなら辺りにはもはや由花子と康一を残して一切なにも残ってないのだから。
暗闇が二人を包んでいた。薄く残ったラブ・デラックスを透かしてみても辛うじて残った瓦礫が積み重なり、大きな影として日光を遮っている。
呆然としたままの表情で康一が由花子を見つめる。何を見るでもなく立ちつくしていた由花子はその視線に気づくと振り向き、そしてにっこりと笑った。
その時、康一の脳裏に浮かんだのは仗助と噴上の言葉だった。
放送前のちょっとした時間、由花子について話をした時、二人はとっっても微妙な顔をしていたことを康一は思い出した。
曰く、見ればわかる。あんまりアイツのことは話たくねェ―な。とにかくパワフルなヤツだ。プッツンしてるが悪いヤツじゃない。
その言葉が今になってようやくわかった。
眼の前で微笑む山岸由花子を見て、広瀬康一は一つの真実を悟った。
自分は決して山岸由花子に敵わない。自分は一生この娘に勝つことはできないだろう、と。
山岸由花子。ただの少女でありながら彼女が持つ底なしのエネルギーを前に、康一は何も言うことができなかった。



39 :
487 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 19:58:22 ID:TFUPmPs.

マウンテン・ティムが駆けつけたのは全てが終わった後だった。
彼は申し訳なそうに康一に謝り、そして無事に再開できたことを素直に喜んだ。
「怪我はともかく……こうして会えて何よりだよ、康一君」
「ええ。それも全部由花子さんのおかげです」
「……私は何もしてないわ」
マウンテン・ティムの言葉に康一は笑顔でそう返し、由花子は複雑そうな顔でボソリと呟いた。
戦いの終わりは意外なまでに呆気なかった。火を止めた由花子と康一が民家の中を調べてみれば、一人の男が見つかったのだ。
崩れ落ちた瓦礫に挟り、脚だけはみ出たその男を引きずりだすと、見るからに凶悪な面をしていた。ゲスじみた内面が顔まで滲み出ている、そんな顔をした男だった。
幸か不幸か、その男は落ちてきた破片に頭を強く打ち、気を失っていた。二人はとりあえず手足を縛り、猿ぐつわをかませ、今は適当に寝かせてある。
眼が覚めたら色々と情報を聞きだすつもりだ。まさかここまで来ておいて放火や光のスタンドと無関係である、なんてことはないだろう。
その後エコーズの声を元にやってきたマウンテン・ティムと合流し、由花子と康一はこうしてほっと一息ついているのである。
康一は由花子につけられた怪我の手当てを、ティムは未だ起きない男に対する警戒を。
そして由花子は……何をするでもなく、どこか浮かない様子で瓦礫に腰かけている。
彼女が戸惑うのも無理ではない。心中湧き上がるのは康一に対するまとまりのない感情、複雑な想い。
由花子にとってティムが来たことは幸運でもあり、不運でもあった。
正直なところ、戦いが終わったところで康一と二人きりにされたならば、どんな顔で、何を話せばいいかわからなかっただろう。
かといって、ティムが来たことによって康一とゆっくり話す機会を失ったのもまた事実なのだ。
じれったい気持ち、ほっとする気持ち、もどかしい気持ち……様々な思いが今、彼女の中に渦巻いている。
時折康一と目があえば、彼は由花子に向かって微笑みを向ける。その度に由花子は顔をしかめ、顔を背けた。
こんなこと今までなかったのに。こんな感じ、どうすればいいのかわからない。瓦礫に腰かける三人の間に沈黙が流れ、それは長い間破られなかった。
由花子は顔をあげ、瓦礫の隙間から差し込む光を仰いだ。細く差し込む太陽の光が、無性に眩しかった。
いつもは気にならないどうでもいいいことが何故だか今は無性に気になった。
康一の笑い声が、マウンテン・ティムと楽しげに笑う少年の横顔が、目に焼き付いて離れなかった。

「さて、そろそろ二人とも落ち着いただろう」
二人がすっかり回復しきったころ、マウンテン・ティムがそう言った。その言葉をきっかけに情報交換が始まる。
ティムと康一がほとんど一緒に過ごしていたこともあって、話はほとんど長引くことなく終わった。
目を引くような内容を強いてあげるならば、由花子が語った花京院典明と言う少年について。それくらいだろうか。
どっちにしろ即座に対処すべき問題はない様に思えた。
崩れた民家の薄明かりの中、由花子と康一、そして時折質問を投げかけるティムの声が交差していく。
当面の方針としては、まずはこの襲撃犯と思わしき男の眼ざめを待つことで三人は同意する。

40 :
488 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 19:58:57 ID:TFUPmPs.
「……ティムさん」
「コイツ、目、覚ましたみたいよ」
「待て、何か様子がおかしい」
数分も経たず、猿ぐつわをかまされた男が意識を取り戻す。途端にその男J・ガイルは目を大きく見開くと、縛られた身体を捻り、暴れ出した。
尋常じゃない様子だった。その様子はまるで、その姿勢のままでもいいからとにかくこの場を離れようとしているかのようだった。
拘束されたことで悪態をつくでもなく、逆に開き直って襲いかかって来るでもない。
まるで、何かから、逃れようとしているかのようなそんな必死さが見る三人にも伝わってくるほどだった。
ティムがゆっくりと口の拘束を緩める。喋られるようになった途端、J・ガイルは街中響くような声でこうがなりたてた。
「助けてくれッ! 早く助けてッ……くそ、なんだこの……ッ! おい、解けよ、このロープッ!」
「自分の立場をわかってないのか? 二人を襲っておきながらそんな虫のいい話があるわけないだろ、このマヌケ」
「間抜けだろーがなんだろーが、今はどうでもいいッ! いいからほどけよ! やばいんだ……ッ! ここは、ヤバいんだよッ!」
「……ヤバい?」
鬼気迫る様子だった。
そこには襲撃者としての開き直りも、凶悪犯としての余裕も残忍さも見られなかった。
額に浮かんだ汗、狼狽した表情。三人は思わず顔を見合わせる。
マウンテン・ティムはカウボーイハットをゆっくりとかぶりなおすと、もがき続けるJ・ガイルに問いかけた。
「康一君、由花子君を襲ったのはお前だな?」
「俺は乗り気じゃなかったんだ! そりゃ最初は正直殺る気満々だったぜ? でもそこにいるアマがしっかり対処するもんだから、俺は途中で諦めたんだ!」
「ならどうして……?」
「脅されたんだよッ! さっきからいってんだろ? 俺は途中から引く気だったんだ!
 せいぜい火を放つにしても、その後は遠目で隙あればスタンドで攻撃する程度のつもりだったさッ!
 じゃなかったらこんなノコノコ接近する理由なんてねーさ! でも『アイツ』がッ!
 『アイツ』が、お前たちを始末しなければ、この俺もRなんて言うもんだから! これは不可抗力だったんだよ! 俺は仕方なしに……!」
「アイツ……?」


そう誰かがともなく呟いた時だった。
直後 ――― 瞬時に、そして同時にいくつものことが起きた。幾つもの影が交差した。

41 :
489 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 19:59:22 ID:TFUPmPs.
J・ガイルの前に覆いかぶさるよう立っていた康一を由花子が突き飛ばす。
J・ガイルの胸を突き破り、超速で伸び出た一本の刃がそのまま直線状にいた由花子を貫く。声をあげる暇もなく、J・ガイルは絶命する。
死ぬ間際、ほんの僅かに呻いただけだった。呆気ない終わり。最後まで彼の顔から、焦りの色は消えることなく、その凶悪殺人鬼は殺された。
康一の眼の前で由花子がJ・ガイルと連なるような形で刃に串刺しにされる。太く、禍々しい刃は容赦なく彼女の体を貫いていた。

「余計なおしゃべりを……ゴミクズの分際で…………」
積み重なった瓦礫の隙間から、身長二メートルを超す大男が姿を現した。
関節を捻じ曲げ、筋肉伸び縮めさせ、その身体を徐々に三人の前に露わにする。

「こ、コイツは……ッ!」
「逃げて、こう、いちく……ん」
「そ、そんな…………なんで…………ッ!」

柱の男カーズがそこにいた。蹲る瓦礫の中で、最強の生物が躍動する。



42 :
490 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 19:59:53 ID:TFUPmPs.
叫び声が木霊し、悲鳴が行き交う。押しとどめる者、もがく者。
地面に転がっているのは由花子とJ・ガイル。男はもう末にこと切れている。由花子も同じようなものだった。
心臓からその下、肺、胃、肝臓、腎臓……いくつもの臓器を真っ二つに裂かれ、血がとめどなく流れている。生きているのが不思議なほどだ。
もっとも、そう長くないことは間違いないだろう。カーズは舐めるようにあたりを見渡し、満足げに笑った。

「ふむ、一、二、三……全部で四つの首輪だ。なかなかやるじゃないかァ、J・ガイルゥ……?
 口が軽いのはどうかと思ったが、これは思わぬ収穫だったぞ。まぁ、もう聞こえてはいないだろうがね……フフフ……!」
「由花子さんッ!」
「駄目だ、康一君ッ! 行っちゃ駄目だ……!」
―――もう手遅れだ。
その言葉をつけ足すことは躊躇われた。
マウンテン・ティムは血が滴るほどに強く奥歯を噛みしめる。助けに入ろうと今にも飛びださんばかりの康一の背中を掴み、必死で内なる激情を押しR。
何もできない、今この状況に。無力な、守るべき少女が目の前で蹂躙されているのにどうしようもできないという事実。
相手は間違いなく『柱の男』と呼ばれる一族だ。シュトロハイムが言った特徴、サンタナを思わせる圧倒的なプレッシャー。
今ここで飛び出せば、間違いなく殺される。マウンテン・ティムも。広瀬康一も。
ちょうど地面に転がるJ・ガイルのように貫かれるのが関の山だ。
ならばここは飛び出すべきではない。例え由花子が虫の息でなっていようとも、今すぐに助けなければ間にあわないとわかっていても……。
考えるべき事は生きるため、死なないため……何をすればこの場から逃げられだろうか。

―――マウンテン・ティムは間違っていない。だがそれを冷静ととるか、冷徹ととるかは人次第だ。
康一には我慢ならなかった。理性的にだとか、相手の力量を考えてだとか、そんなことは全部吹き飛んでいた。
由花子は自分を庇ったのだ。あの瞬間、何かに感づいた由花子は康一を突き飛ばし、そして彼の代わりに貫かれた。
由花子は康一を救った。由花子は康一を守った。本当なら今地べたで血を吐き、内臓を撒き散らしているのは康一だったはずなのだ。康一だったはずなのだ……ッ!

「由花子さん、今助けるからッ! 今、助けるからッ!」
「……『オー! ロンサム・ミー』」
「なッ!?」

康一の体が滑るようにロープの上で分裂し、由花子の元へかけよろとしていた身体は力なく崩れ落ちる。
マウンテン・ティムのスタンドによって脚はもがれ、もはや動けず。口は上下に分かれ、話すこともできず。
康一のバラバラになった身体はマウンテ・ティムの腕の中で、それでも弱弱しくもがいていた。
ティムがなぜ助けに入らないのかもわからず、それでも山岸由花子を助けるためになんとかしようと、必死に。

43 :
491 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 20:00:12 ID:TFUPmPs.
カーズは何も言わずその様子を眺めていた。冷たい眼をすぅ……と細めると感心したように言った。
「撤退を選ぶか。なかなか賢いじゃないか。激情にかかれて襲いかかるか、我を失って殴りかかって来ると思っていたぞ」
「……生憎『あんた達』の恐ろしさは身にしみるほど知っているんでね」
「…………ほぉ」
それが意味することは柱の男たちと戦ったことがあるという事実。
そして同時に今こうやってカーズの前で立っているということは柱の男と戦って生き残った、勝利したほどの強者と言うことでもある。
そんな相手をどうしてみすみす見逃せようか。カーズのプライドにかけて、そんなことは許せるはずもない。
カーズは唇を釣り上げると凶暴な笑みを浮かべ腕を振りかざした。背筋が凍るような金属音と共に、鋭く磨かれた刃がむき出しになる。
カーズに二人を見逃す気はさらさらない。慎重に、一切油断することなく……この刃で真っ二つにするつもりだッ!
距離はそう離れていない。三人の間にある間合いは柱の一族の前ではあまりに短すぎる距離。
カーズが全力で飛び出せば、一歩、二歩で縮めれるほどの距離だ。問題はタイミング。
マウンテン・ティムが背を向けて走る瞬間。カーズが脚に込める時。
どちらが動くか、どちらへ動くか。きっかけをつかめずに微動だにしないまま時間が流れる。
マウンテン・ティムは鋭い視線でカーズを睨む。暴れる康一を押さえつけ、ひたすら逃げる隙を伺い続ける。
カーズは瓦礫の隙間より射し込む太陽の位置を確認し、襲いかかる最短経路を探し出す。獲物の様子を伺い、行動を読むために目を凝らす。

焦れるような沈黙が流れ……そしてカーズが一歩踏み出した ――― その時だったッ!

「む!?」
「行って、マウンテン・ティム……。アタシはもう長くない。せいぜい時間稼ぎと言っても、もってほんの少しだけ……」

その瞬間、脱兎のごとく走り出したティム。カーズは動けない。カーズの足を止めたのは虫の息だった由花子だった!
カーズの足首にまとわりつくラブ・デラックス。最後の力を振り絞り、由花子はスタンドを動かしカーズを引きとめたのだ。
一秒でも長くその場に引き留めるために。すこしでも確実にマウンテン・ティムと康一が逃げ伸びることができるように!
消えそうな命のともしびを必死でつなぎとめ、由花子は最後まで抗った!

「おのれ、この小娘がッ!」

44 :
492 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 20:01:00 ID:TFUPmPs.
ティムが走る。その肩に担がれた康一は声にならない叫びを放つ。
即座に由花子の静止を振り切ったカーズであったが、今から走ったところで間にあわないのは明らかであった。
二人は既に瓦礫の間を抜け、崩れた家から抜け出し、陽のあたる場所まで走り去ってしまっていたのだから。
ティムは走り続けた。カーズの視界から完全に消えるまで、一度として止まることなく、走り続けた。
歯がみする柱の男にできたのは苛立ち気に悪態をつくだけだった。
足元に転がる、瀕死の小娘に足止めされたという事実は彼の神経を逆なでした。
なんたる恥! なんたる醜態! 餌のまたその餌にごときにこのカーズが邪魔をされただと?
この石仮面を作りし最強で最高のカーズが……たかが人間の小娘に、まんまと一杯食わされただとォ……?!
「貴様……ただではおかんぞッ!」

しかし、その言葉を吐いた後、カーズはその言葉がもはや意味をもたないことを理解した。
カーズが見下ろすその先で、由花子はもう既に死んでいた。康一が逃げ延びたのを最後に見届けた彼女は、満足げに頬笑みを浮かべ、こと切れていた。
残されたのは瓦礫の山、二つの死体、一人の柱の男と敗北感。
カーズは顔をしかめると拳をぎゅっと握った。フンと鼻を鳴らし、振り上げかけた拳をほどくと代わりに刃を振るい、二人の首輪を回収する。

カーズはきっと認めないだろう。しかし確かな事実として、マウンテン・ティムと広瀬康一は生き延びた。
山岸由花子は勝利した。たった一人の少女は自分身を犠牲に、二人の命を救ったのだ。柱の男を相手に、勝利した。
後にも先にもそんな偉業を成し遂げたのは彼女ぐらいだろう。
あのカーズを相手に! 一人の女の子が! 真正面から挑み! 二人の命を救ったのだ!

それを成し遂げさせたのは大きな、大きな愛。
それは一人の少女が少年に恋をして、その恋に一生懸命生き、その果てに成し遂げた……大きな愛の物語。
山岸由花子。彼女は愛と共に生き、愛のために死んだ ――― どこにでもいる、ただの少女だった。
彼女は恋する、夢見る少女だったのだ。

強いて言うならば柱の男は山岸由花子にではなく……偉大な偉大な愛(ラブ・デラックス)の前に敗北したのだ。

カーズが刃を振るうその直前、由花子は最後にそっと恋する少年の名を呼んだ。
誰にも届かないその名前を呼び、彼女はそっと目を閉じた。

45 :
493 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 20:01:20 ID:TFUPmPs.






【J・ガイル 死亡】
【残り 62人】

46 :
494 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 20:01:39 ID:TFUPmPs.
【B-5 南部/一日目 午前】
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:悲しみ、ショック、全身傷だらけ、顔中傷だらけ、血まみれ、貧血気味、体力消耗(大)、ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1.由花子さん…………
【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミ―』
[時間軸]:ブラックモアに『上』に立たれた直後
[状態]:全身ダメージ(中)、体力消耗(大)
[装備]:ポコロコの投げ縄、琢馬の投げナイフ×2本、ローパーのチェーンソー
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
0.康一が落ち着くのを待つ。
1.シュトロハイムたちの元へ戻り、合流する。
2.各施設を回り、協力者を集める。

【B-5 南部 民家/一日目 午前】
【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:健康
[装備]:服一式
[道具]:基本支給品×5、サヴェージガーデン一匹、首輪×4(億泰、SPW、J・ガイル、由花子)
    ランダム支給品3〜7(億泰+由花子+アクセル・RO:1〜2/カーズ:0〜1)
    工具用品一式、コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる。
0.首輪解析に取り掛かるべきか、洞窟探索を続けるか。
1.柱の男と合流。
2.エイジャの赤石の行方について調べる。

47 :
投下乙!代理投下も乙!
そして由花子超乙!!

48 :
投下乙です。
愛に生き、愛に殉じた女の子。
恋する乙女に勝てる生物などいない!

49 :
投下&代理投下乙です。
人間の愛ってすごいんだなぁ、由花子の散り様と、康一の成長に期待が高まりますね
それでは仮投下していた自分の作品の投下を開始します

50 :
地上最強の生物と呼ばれる父親がいる。
強靭で無敵で最強だと評価される究極の龍がいる。
あたいは最強だと自負する妖精もいる。
地球人最強と呼ばれる武闘家もいる。
白い死神と呼ばれる最強の狙撃手もいた。

彼らはどうして最強であり続けたのだろうか?

……お待たせ。約束通り話をしよう。

●●●

51 :
どこからともなく響いてきた放送は、空中の二人と一匹の耳にも届いてきた。だがしかし。
「……ちっ」
そう小さく舌を鳴らすのはサーレー。
敵対する連中の隙がこの放送で発生すれば、などと考えていたのが甘かった。
たとえ聞き逃そうとも放送の内容なんざ別の相手から聞き出せば良い、あるいは最初から興味がないか。
彼らは一瞬たりともお互いから目を離さないままであった。
とはいえ『戦闘』という言葉で表現する程派手なドンパチは行っていない。
ペット・ショップはサーレーが己の氷塊を固定してきた段階で次弾の発射を止め、警戒態勢を取りながら周囲を飛行するに留めている。
チョコラータは自分のスタンドの特性を殺さぬようにサーレーのやや下に陣取ったまま。
そんな連中に警戒されっぱなしのサーレー当人は――
「おいチョコラータよぉ、まずはあの鳥公から片付けるぜ」
「まずは、か……ククク」
「ニヤニヤすんな、気持ちわりぃ。ホレ俺が固定しといた『鳩三羽』だ。さっさと使いな。さっき聞いたお前の能力にはおあつらえ向きだろ?」
「そう――おあつらえ向きだ。それを理解し、協力させるために私はあえて能力を明かしたのだよ、サーレー君」
そう言ってチョコラータに“弾丸”を提供した。あるいはそれは“爆弾”と言っても良いかもしれない。
名簿を提供しに来た鳩達を、その任務を全うさせる前に空中に固定していたのだ。

そこからはまさに秒殺。
殺しという行為に後ろめたさを感じぬ者たちだからこその鮮やかさであった。
地面に叩きつけられる二人と一羽。
立ち上がったのは――?決着は――?

52 :
――作者から――
スタンドバトルでは格闘技や銃撃戦などの常識は全く通用しない。
……というのは決着がすごく一瞬で起こるのだ。
スタンドの値打ち(能力)を知らない敵のスタンド使いはいったい何が起こったのか見当もつかず、すぐ殺されてしまう。
しかしここの世界ではRことは悪いことではない。
ハメられて殺されてしまったやつが間抜けなのである!
ここで決着の顛末を解説しよう――

チョコラータがグリーン・デイの腕力でもって虚空に向け三羽の鳩を投擲。
ペット・ショップは自分に直接向けられたものではないそれをヤケクソの苦し紛れと判断、見送った。
――が、それこそ二人の思惑である。
固定の能力によって羽ばたくことが出来ない三羽の鳩はそのまま『爆弾』となって黴をまき散らしながら降り注ぐ。
眼下の二人に意識を向けていたペット・ショップは一瞬遅れてこの策に気付いた。
咄嗟に氷ミサイルで撃墜する。が……“カビる前”に氷漬けにしていれば『超低温で生まれる生物がいない』ように彼への攻撃はストップしていたかも知れない。
ペット・ショップは“一手”しくじった。
傷ついた体ですべての黴を避け切ることは彼にとっては不可能な芸当。
結局のところ黴まみれになった鳩のうち一羽の体当たりを受け無様に落下していった。
そして!その落下はそのままサーレーへの攻撃へと変換される!
「言ったよなァ、“まずは”鳥公だ、と。お前自身が」
そんなチョコラータの言葉を背中に聞きながらサーレーはニヤリと口元を歪める。
「そうさ。……“次は”お前だよ、バイキンマン」
言うが早いか、サーレーは思い切り空中に飛び出したッ!そこには固定できる小石も何も無いというのに!
当然、一瞬の浮遊感の後に一気に落下する。もちろん黴に蝕まれながら。しかし!それでも彼は空中に自分を留めようとしなかった。
「ククク……ハハハハハッッ!諦めたかサーレー!この私に敵わぬと知って!」
サーレーが気絶したのだろう。固定の能力が解けチョコラータ自身も落下を始めるがそれを意に介せず声を上げて笑う。
「どれ!見せてみろ!貴様の恐怖に歪んだツラを!この俺にッ!
 もっとも、この声が届いてるとは思えないがなァ〜〜ッ」
絶望した奴が自分より上に位置するというのは彼にとって妙な感覚ではあるが、それでも勝利には変わりない。

53 :
――そう思った一瞬の後だった。
「いや、恐怖するのはテメェだけだ。
 カビは皮膚に触れてる部分だけ固定してる。他が動いてるから気付かなかったな。
 そしてこのカビの分、俺には『空気抵抗』が出来た。どっちが先に地面にキスするんだろうなァ!?
 その“足のないスタンド”でどうやって着地する!?」
長々と解説臭い台詞を吐かれたチョコラータの眼が見開かれた。サーレーは気絶など最初からしていなかった。能力の解除は任意だったのだ!
言い終わるが早いか、サーレーは四肢を大きく広げスカイダイビングのような体勢をとる。
こうなってしまえば確かにチョコラータが地面に激突するのは避けられない。
サーレーの言うとおり、半身がないと表現して差し支えないグリーン・デイでは手を使って受け身を取らざるを得ないし、それは事実上の両腕骨折も意味する。
そう、何の装備もなければの話だが。チョコラータは背負ったデイパックから一枚の紙を取り出した。
落下の風圧で開かれたそれに書かれていた文字は『ナチス軍用機に搭載されていたパラシュート(人形付き)』。
下手くそな文字で顔の描かれてあるその人形にしがみつきながら叫ぶ。
「フン――褒めてやるぞ、ここまで私を追い詰めたのは!だがやはり“次は”貴様に変わりない!」
だが、だがしかし。勝ち誇った人間は既に敗北している、という法則があるのもまた事実。
いくら高度の空中で戦ったと言えどそこはせいぜい上空数百メートル。パラシュートの展開から着地までに身体を減速させるにはあまりにも低すぎた。
一方のサーレーもまとわりつく黴を次々と固定し即席の翼を作り上げるが、それでも安定した減速は望めないし、まして肉体を食われながらである。

メ メ タ ァ
  ド グ チ ア ッ

●●●

54 :
「よぉ……生きていたか、鳥公よ」
生きていたのがアイツなら尚のこと良かったんだがよ、とは口にしなかった。そんなのはマンモーニが言うセリフである。
しかし心には誓った。『ティッツァを殺した奴をぶっ殺した』と言い切るまでは戦い続けると。
そのために利用できるならやかましい刀だろうと言葉通じぬ隼だろうと利用する。スクアーロの心は完全に固まった。
声をかけられたペットショップの身体から緑色の黴はとうに消え去っている。
黴にまみれながら落下したペットショップは、グリーン・デイの能力の法則性を見出していた。
先の戦闘で受けた傷を止血していた氷。そこにだけ黴が生えないことを発見しすぐさま全身を氷の中に包み込み、黴の繁殖を防いだのだ。
あとは“敗者”を演じながら決着を待っていればいい。案の定というべきか、間もなくして二人とも落っこちてきた。
落下のショックで二人とも死んだのかどうかは定かじゃあないがとにかくスタンド能力は解除された。カビも消えたし空中から石やらピアノやらが降ってくる。
そこで初めて防御態勢を解く。そこにちょうどよくスクアーロが登場したという訳だ。
「おい、犬野郎は逃げたぜ。お前も負傷しているがプライドの傷のが大きいんじゃあねーのか?
 俺はお前に借りを作りたくはねーからな、とりあえず先に追ってやるよ」
未だ動かないペット・ショップに一瞥をくれて歩き出す。ついて来いと言わんばかりに。

――数瞬の後、スクアーロは背中に強い衝撃を受ける。
何が起きたと視線を落とす。そこには胸から顔を出す氷柱が。
このクソ鳥、俺にまで八つ当たりかよ、結局誰でも良いってのかッ!?
……そう言いたくとも肺や器官が潰れ碌に声も出ない。
倒れこみながら振り向く。そこにはアヌビス神をつかみ飛び上がろうとするペット・ショップの姿が。
常人ならばダメージのショックや出血、あるいは絶望感などからここで意識を手放し、そのまま死にゆく運命だったろう。
だがしかし、スクアーロは違った。胸の氷柱を思い切り引っこ抜いた!
大量の血があたりに飛び散る。
その行動が何を意味するかを解らぬペット・ショップではない。その血を浴びる訳にはいかないと飛行の軌道を変える。
しかしそれも傷ついた体ではほとんど敵わず。さらに言うなら地面に撒き散らされた血液も攻撃の範囲。そこから逃れることはもはや不可能だった。
目にもとまらぬ速度で飛びかかるクラッシュ。最初から欲を捨てアヌビス神を無視し飛んでいればあるいは結末が変わったのかもしれない。
だがそれらはすべて結果論。スクアーロの分身は見事にペット・ショップの腹を食い破った。

●●●

55 :
「なるほど……この三人と一匹は『共倒れ』か……『全滅』ではなさそうだ」
そう一人呟くのはGDS刑務所から物音を聞きつけ参上したディ・ス・コである。
状況をひと通り認識した彼は、しばし顎に手を当て考え込んだのち、その場に倒れ伏す連中を引っ掴み歩き出す。
ディ・ス・コは命を受けた。
『私にとって不要なジョースターどもやその他参加者を始末してきてくれよ』と。
そして『もう少し首輪のサンプルがあればとも思っている。持ってきてくれないか』とも。
この“瀕死の連中”を連れて行けばDIO様に首輪も生き血も提供することも出来るし、あるいは自分が知らされていないDIO様の友人たちかもしれない。
なんだかんだ言ってもジョースターの連中は自らの手で始末したいかもしれない。
全てはDIO様のために。
一度に全員を運び込むのは無理だが、それでも確実に彼は手足を動かす。
ずるり、ずるり。
数分の後、静かな音を立てて刑務所のドアが閉じられた。

●●●

56 :
――え?
『共倒れじゃ誰が最強なんだ』ァ?
『一人無事なディ・ス・コが最強なのか』だと?
『負けぬが勝ちって言ったのはお前だろ』ォ?
……って、おいおい。
『負けぬが勝ち』…………?
それは君らが勝手に聞き間違えて解釈した法則。
直訳は『“曲げぬ”が勝ち』
強い信念を最初から最後まで貫き通せるものが最強と俺は呼んでいる。

――もちろん、さっき話した『勝利の定義』は否定するつもりはないけどね。
となれば、今回の話で誰が“最強”かはどうなるか?考えてみようか。
まずはチョコラータ。彼は『生き残りつつも、精一杯殺し合いを楽しむ』という行動方針だった。
この『ナニナニしつつも』という発想。歪んで曲がってるな。
次、サーレー。『とりあえず生き残る』ってなぁ。まっすぐも何も最初から線を引いてない感じだ。
あるいはその場その場でのみまっすぐな線を引けるだろうけど、それじゃ線は“放射線”になってしまう。
そのあと、先にスクアーロについて。『ティッツァーノと合流、いなければゲームに乗ってもいい』と思っており、結果ティッツァが死に。
そしてその後は『ティッツァを殺した奴をぶっ殺したと言い切るまでは戦い続ける』なんてねぇ。方向転換も良いところだ。
行動の中心にティッツァーノがいるあたり、まぁ信念を貫いてるとも言えなくはないが、俺に言わせれば80点。
で、ペット・ショップ。今回の話で言えば俺の考える『最強』に最も近いのはコイツだな。
『サーチ・アンド・デストロイ』見つけてR。空条徐倫への復讐やら何やらもあるが、動物の本能っていうかね。ある意味では真にまっすぐだ。
だが、これで何度目だ?“結果”が付いてこなかった。
それから最後の最後まで八つ当たりしたこと。これはアウトだろ。ゆえに彼は最強になれなかった。
――え?ディ・ス・コ?
だってほら、いくら信念やら何やらを持ってたとしても、DIO“様”に捻じ曲げられちゃったじゃん。最初から議論の外だよ。

……なんだよ?注文が多いな君らは。
だって俺は『最強について』の話をする、とは確かに言ったが。
『この話で生き残ったやつが最強なんだよ』とは一言も言っていないだろう?
さらに言うなら“これが正解”とも言っていないからな。あくまでこの俺が考える最強論だからな、そこは勘違いしないでくれよ。
ま、朝を迎えて行動の方針が大きく変わる奴もいると思う。そんな中で信念を貫き通す『最強』が現れることに期待してるよ、俺はね。

57 :
【E-2 GDS刑務所 外/一日目 午前】
【サーレー】
[スタンド]:『クラフト・ワーク』
[時間軸]:恥知らずのパープルヘイズ・ビットリオの胸に拳を叩きこんだ瞬間
[状態]:瀕死(落下による全身打撲および骨折、グリーン・デイによる黴の浸食)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず生き残る
0.???
1.ボス(ジョルノ)の事はとりあえず保留
【チョコラータ】
[スタンド]:『グリーン・デイ』
[時間軸]:コミックス60巻 ジョルノの無駄無駄ラッシュの直後
[状態]:瀕死(落下による全身打撲および骨折)
[装備]:ナチス軍用機に搭載されていたパラシュート(人形付き)
[道具]:基本支給品×二人分
[思考・状況]
基本行動方針:生き残りつつも、精一杯殺し合いを楽しむ
0.???
[備考]
間田の支給品は『ナチス軍用機に搭載されていたパラシュート(人形付き)』でした、
[支給品紹介]
ナチス軍用機に搭載されていたパラシュート(人形付き)@2部
JC12巻にて登場。究極生命体となったカーズに立ち向かうためにスピードワゴンやシュトロハイムが乗ってきた軍用機。それに搭載されていたパラシュートである。
墜落する軍用機からパラシュートで空中漂うジョセフのその姿はくもの巣に引っかかった蝶だとカーズに評価された。
……が、それさえもJOJOの策。人形を括り付けたそれを囮にカーズとともに火山に突っ込んだのだ。
ここで気になるのが人形。よくもまあ、あれだけの短期間に似顔絵まで書いた人形を用意できたものだ(胴体は布を丸めれば作れるだろうが足がある)

58 :
【ペット・ショップ】
[スタンド]:『ホルス神』
[時間軸]:本編で登場する前
[状態]:瀕死(蓄積したダメージ、グリーン・デイによる黴の浸食)
[装備]:アヌビス神
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:サーチ&デストロイ
0.???
1.DIOとその側近以外の参加者を襲う
【スクアーロ】
[スタンド]:『クラッシュ』
[時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前
[状態]:瀕死(ホルス神による胴体貫通の穴、脇腹打撲、前歯数本消失)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:ティッツァーノを殺したやつをぶっ殺した、と言い切れるまで戦う
0:???
【ディ・ス・コ】
[スタンド]:『チョコレート・ディスコ』
[時間軸]:SBR17巻 ジャイロに再起不能にされた直後
[状態]:健康。肉の芽
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、シュガー・マウンテンのランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様のために、不要な参加者とジョースター一族を始末する
1.DIOさま……
2.とりあえず瀕死のこいつらをDIO様に献上
[備考]
※肉の芽を埋め込まれました。制限は次以降の書き手さんにお任せします。ジョースター家についての情報がどの程度渡されたかもお任せします。

59 :
投下は終了しましたが最後のご挨拶でさるさん規制w
仮投下からの変更点:誤字脱字・表現の変更、ペットショップがスクアーロを撃った理由=八つ当たりの心境をやや追加。
サンドマンの空耳パロは使ってみたかったんで自分パートで使用してみました。
あとは『作者からパロ』これは2ndでも一度やってますね。お気に入りですw
書いてて問題かなと思ったのは『誰一人として死んでいないこと』です。どこからどう見ても『いやそこは死んどけよ』な感じがねぇ。
後は戦闘での矛盾とか。サーレー正直に落っこちないでも&パラシュートはそんな使い方しねぇよ→落っこちた瞬間の描写はないの?ペットショップ無限コンボはどうした、スクアーロ何しに来たんだ、などなど。
それから文章の表現法や文体。ちょっと原点回帰というか、『小説っぽいSS』でなく『2chのパロディまみれなSS』を意識してみました。
未来の書き手さん、こういう書き方で良いんだよ、ってことでw……え、いつものこと?まぁそう言わず。
そんなこんなで突っ込みどころ満載かとは思いますが多少強引にでも動かさなきゃなぁと私なりに考えた結果です。
誤字脱字、指摘等ありましたらご意見ください。それではまた次回作でお会いしましょう。

60 :
投下乙
死者が出ないのは意外でしたが、全員瀕死なので次の回はやばそうですね
曲げぬが勝ちは普通に知らなかったですね。
氏の話の作り方は本当に大好きです。
誰になんと言われようと、自分のスタイルを貫く氏にもピッタリの言葉だと思います。
これからもこのスタイルで名作を生み続けていってください。

61 :
代理投下します

62 :
510 : ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:50:06 ID:Tb5DzS7w
音石明というチンピラの死から、宮本輝之輔の身にはアクシデント続き、最低最悪のジェットコースター気分。
 今ならどんな神にでも、すがって頼りたい心境。
 いっそ、あのまま本にされ湿っぽくて薄暗い図書館の棚に収まっていたほうが、何倍幸せだったか知れなかった。
 それならば、耳たぶの肉を根こそぎ『指先で削り取られる』などという経験をすることもなかったろうに。
 音も無く滴る血の筋を、輝之助は頬に感じる。
 周囲は薄暗く、闇に慣れない目を限界まで見開いても、まともな景色を認識できない。 
 何処かの地下らしいということだけは分かったが、紙の中で震えていた彼には、現在位置など推測しようにも無理な話だった。
 どこかも分からないような陰気な、土の下の空間に、二メートル近くある大男と二人きり。
 ――頭がくらくらする。
 なぜこうなってしまったのだろう。紙の中にいれば安全だとばかり思っていたのに。
 あの殺人事件の後、わけがわからないまま紙の中に収まっていたら、こんな取り返しの付かない事になってしまった。
 全ては第一回放送後、短い時間に起こったこと。
 出てこないならば破いて捨てると、『エニグマ』の性質も知らないはずなのに、その弱点を押さえられた。
 人間離れした感の鋭さは、スタンド使いになったばかりの少年にはショックが甚大、恐怖のボルテージははちきれそうに高まる。 
 渋々紙から出てきてみれば、襟首を掴み上げられ、主催者との関係を問いただされて、何も知らなくて、震えて上手く喋れなくて。
 口からは、意味のない音を吐き出すしかできなかった。
 その結果がこれだ。
 大男の指先が米神をかすったと思うと、頬を伝い口の中に侵入してくる血。
 耳をやわやわと襲う痛み。
 鉄の味のぬるい液体が、震える舌をさらにこわばらせる。
 死のイメージを呼び覚ます、この生暖かさ。

63 :
511 : ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:50:23 ID:Tb5DzS7w
「あ、あ……」
「俺が人間に触れるとこのように、な。わかったのなら知っていることを話せ」
 
 人間を超越した種族と名乗った『ワムウ』は、煩わしそうな声で言う。
 恐怖の中でのっそりと起き上がった痛みに、恐れが限界点を超えた輝之助は、デタラメに暴れだした。
 襟首を掴まれた状態でじたばたともがき、哀れ『エニグマの少年』は、苦労の末、懐から拳銃を取り出す事に成功する。
 その浅黒い手のひらに収まったコルト・パイソンが、闇雲に動いて、かろうじてワムウの体を捉えた。
 硬い銃口が男の顎にあてがわれたのを視界の隅で捕らえるが早いか、輝之助の指先は冷たいトリガーを押す。
 破裂音が静かな地下に響いた。空間を伝わり、どこかへと広がっていく。
 反響するその音が闇に吸われて消える頃、輝之助の顔は、拳銃を撃つ前のそれよりもより強い恐怖に引き攣っていた。
「は。な、んであんた、何だそれ、顔撃ったのに、血も流れてない……?」
 軽蔑の色をたたえて、男はふ、と全身をこわばらせた。
 弾丸の型にめり込んだ皮膚から、スイカの種でも吐き出すように、潰れた鉛玉が飛び出てくる。
 乾いた音を立てて転がる、ひしゃげた金属。
「全く呆れ果てる。こんなチャチな武器なぞで、このワムウに傷を負わせることができると? 人間という種族は、幾世紀を経てもこの程度か。
 武器の見てくれと手軽さが変わっただけで、性能はまるで石槍と変わらんな」
 おしまいだ、と固く目を閉じた輝之助の耳に、怪物の独白めいた言葉が落ちてきた。
「ここまで差し迫っても吐かんとは……貴様、真実何も知らんのか」
「い、い、い、いや……たしかに、なんで僕の能力が、支給品に使われてるかのは知らない、けど……けど」
 声は、輝之助自身が思った以上に震えている。
 ここで自分に価値がないと分かれば、まるでろうそくの炎を消すような手軽さで、命を吹き飛ばされるだろう。
 何とか生き残るための言葉、情報、理由を絞り出さなくては。しかし焦るほどに思考が空回る。
「R気はない……貴様の能力は使える。それに、依然主催者との関わりが全くないと判明しきったわけでもない。
 貴様があの忌々しい老人への『道』となるかもしれんのだからな」
 見透かしたように怪物はしめくくり、掴んでいた襟首を離す。間抜けな音と一緒に尻餅をついた。
 ようやく布地の圧迫から逃れるが、輝之助の胸中は窒息しそうなほど恐れおののいている。
 それは延命宣告であり処刑宣告だった。
 ひとまず殺されることはない代わりに、この怪物にいいように引きずり回され、用無しとなれば殺されるのだ。
 疑いなく、殺される。それだけの凄み、怪物の『表情』から読み取ることができる。
 今は、情報提供がこの乱暴者の求めることだとわかったのなら、輝之助にそれを拒む理由はない。
 自分がここに来る前、何をしていたのか。誰の命令で、どんな事情で。
 微に入り細を穿って、事細かに並べ立てていく。隠せば命はないと悟り、自分のスタンド能力さえも。

64 :
512 : ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:50:45 ID:Tb5DzS7w
「……ていう、感じ、でした」
 腕を組みうつむきながら聞いていたワムウは、輝之助の語りが終わったと見るや、すぐに名簿を取り出して言った。
「第一の異常は、死者が生存しているらしいということ……名簿を率直に信じるならば。
 貴様の言う『虹村兄弟』。死んでいるはずの兄が生存者と数えられ、弟が死者として発表されている?
 そして、エシディシ様が、『サンタナ』と人間どもに呼ばれていたあいつが! 死亡者、として数えられているということは、生者としてこの地にあったということ!
 さらに、『シーザー・ツェペリ』! なぜ生きている? このワムウが確かに葬ったはず。これがスタンド能力によるものだというのかッ」
 矢継ぎ早に立ち上がる疑念と、激しい怒りの感情がせめぎ合っている様は嵐のよう。
 輝之助は圧倒され、ぽかんと口を開けたまま、ワムウを凝視するしかできなかった。
 『人間を超越した種族』は、伝書鳩が運んだ名簿を握りしめ、思いの丈を表し続ける。
「そして、最も怪奇極まりないと同時に、俺に対する最大の嘲りである、この名簿の内容……」
 ギリ、と歯の軋む音。
「『ジョセフ・ジョースター』! 生存者として記載されているのはどういうことだ!? 俺はたしかにあの広場で見届けたぞ、奴の鮮血がほとばしるさまを。
 名簿に載っているのは、JOJOの名を騙る者!?」
 その怒り、突風が巻き起こらんばかりの凄まじさ。
 輝之助は逃げ出したい衝動にかられながらも、動けない。男の覇気の激しさに足が震え、立ち上がることもままならない。
 何より、その常軌を逸した『体質』、人間に触れるだけでその肉を吸収してしまうとあれば、すこしでも変な動きをみられただけで、命取りになりかねない。きっとなる。
 名簿が引き裂けるかというほどの力で掴み、わずかに震えながら、ワムウはくぐもった憎悪の言葉を吐いた。
「憎いぞ、このような座興を企んだ存在……スティーブン・スティールッ! 決闘に水を差すだけでは飽きたらず、奴の偽物まで創り出したのかッ!?
 ……いや、JOJOに会うことがない限りどうにもわからん。『蘇り』を可能にする能力があるかも知れぬのだから。
 しかし、第二の異常『動かされた地形』……第三は『年代の著しい隔たり』……第一、第二、第三と、各種の異常に共通点が無い。
 我ら柱の一族にとっても奇想天外な能力の産物か。どうであれ、許さん。よくもこの戦闘の天才たるワムウの、誇りある戦いを、これほどまでに侮辱できたものだな……」
 頭部から垂れ下がった幾本もの紐を振り乱し、ワムウは今や立ち上がって同じ場所を歩き回っていた。
 まるで、得物に狙いを定める獣のように。
 柱の男の独白は続く。
「俺も、シーザーも、JOJOもたった一つの命をかけて戦っていた。エシディシ様や『サンタナ』とて同じ事。
 それを、まるで遊技盤の駒を右から左へ動かすように生き返らせ、あるいは殺し……これは、戦いの中にその身を置く者の『尊厳』に対する侮辱と見なすッ!」
 見えない敵、主催者への宣戦布告。
 戦い? 尊厳? 侮辱? 訳の分からぬ内容ながら、輝之助はその極まった激情に、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 
「JOJOとの誇り高き決闘と、奴の生命を汚した罪、エシディシ様やシーザー、すべての戦士達への侮辱、その死を持って以外には贖えぬと知れ……」
 燃え上がるかと思うほど、その瞳は怒気をはらんで煌めている。
 戦士の固く握りしめた大きな拳が、くぐもった音を立てた。

65 :
513 : ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:51:01 ID:Tb5DzS7w
その拳が、今にも自分に振るわれるのではないかと身構える輝之助をよそに、ワムウは自分のデイパックを掴みあげた。
「ここに長居するつもりはい。本来なら足を運ぶことも避けたかった場所だ」
「な、なんでだよ。とりあえずは安全だろ」
 どもりながら言う輝之助の言葉が聞こえているのかいないのか、怒れる戦士は、ひとりきりの思惑に沈んだ様子。
「エシディシ様と『サンタナ』が逝ってしまった今……ここへ飛ばされる前と同様、残る柱の一族はカーズ様とこのワムウ、たった二人。
 やはり、我らの悲願、赤石を追い求めるカーズ様に、俺の目的を理解していただくことは……」
 輝之助はふと、その表情に織り込まれた『変化』に気がついた。
 恐怖のサインを探し続け、人を観察する能力を極限まで練り上げたといえる彼にのみ、気づくことができたもの。
 何者にも動ずることが無いように思われたこの怪物の、静かな表情のなかに薄く広がった、ごく僅かな。
 これはなんだろう。悲しみ? 怒り? いや、違う。そんな単純なものじゃない。
 強烈な何か、狂おしい何か。
 輝之助は胸中で相応しい言葉を探しあぐねて惑う。
 その訝しげな視線に気付いたのか、ワムウは一点を見つめていた視線をこちらに向けると、毅然とした表情を取り戻して言った。
「……余計な話だった、忘れろ。ともかく、俺はカーズ様にお会いするわけにはいかん故に、ここには留まらん」
「あ、『カーズ』って、ここ確か地図で『カーズのアジト』とか書いてあった場所……カーズ様、って知り合いなのか? なのに会いたくない?」
 慌てて地図を広げる輝之助の言葉には答えず、大男は鼻を鳴らす。
 
「宮本とやら、貴様は少ない脳みそを使ってあれこれ思い悩む必要はない。
 どうせ太陽の出ているうちは自由に動けぬ身、ならば地下でつながっている『ドレス研究所』まで足を運んでみても損はないだろう」
 さり気なく罵倒されていることを感じつつ、荷物をまとめにかかる。
 怪物にわりと会話が通じるとわかり、震えが幾らか和らいだ。
 紙の中で怯えていて聞き逃した第一回放送も、大体の必要な部分を教えてもらえた。
 おそらく足手まといにしないためで、それ以上でもそれ以下でもないのだろうけど。
 今のところ、能力にも価値があると思ってもらえているらしい。すぐに殺されることも無さそうだ。
 ようやく生きた心地が戻ってきた。
 耳の傷は痛むが、袖の一部を破って手で抑えている。じきに出血も止まるだろう。
 輝之助は考える。
 さっきのワムウの表情、まるで人間のような感情のゆらぎについて。
 この怪物にも感情があるのならば、『恐怖のサイン』も存在する?
 人間を紙にするための条件を話した時も、自分には関係ないとでも思っているかのように、無関心だった。
 だが、感情がある以上、『恐怖』も当然存在するのではないか。
 一抹の望み。
 こいつを紙にさえしてしまえば、煮るのも焼くのも思いのまま、この絶望的な状況から一発逆転も夢ではない。
 だが、なんなのだろう。
 輝之助は胸に違和感を覚え、ワムウの表情を盗み見ながら、そっと手のひらを握り絞める。
 この、自分には窺い知れない深い深い感情の、底知れないゆらぎの名は?
 無表情だと思っていたこの人物は――人ではないが――よくよく見れば、表情豊かだ。
 耳たぶを吸収された痛みも忘れるほどの集中力で、輝之助は怪物を凝視する。

66 :
514 : ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:51:15 ID:Tb5DzS7w
この世にたった二人しかいなくなったという柱の男は、今は顎に手を当てて思案顔だ。
 やはりこいつ、ずっと無表情に見えてそうでもない。
「貴様を紙に閉じ込めて持ち運んだほうが、俺にとって面倒がないか? どう思う、人間。宮本輝之助よ」
「か、勘弁……話したけど、燃えたり破れたりしたら、中身も駄目になるって言ったろ。
 あんた、戦闘になっても僕を気にして戦ってくれるつもりなんかないだろうし……」
「FUM、俺が戦闘に臨んだ時に、紙ごとどこかへふっ飛ばされてもかなわんな。同じ理由から、荷物を収納することも避けたほうが良かろう。
 ならばせいぜいついてこい。逃げられぬのはわかっているな? 妙な気配を悟った瞬間、貴様の体は消し飛ぶぞ」
 今度はニヤリと笑う、目の前の怪物。恐怖がまた胸に迫り、輝之助はひゅっと悲鳴に近い呼気を漏らす。
 ――僕は、死にたくないんだ! 
 彼は決心したように唇を噛み、思う。
 ――こいつの恐怖のサイン、それを見つけ出す!
 見つけられるだろうか? こんな異形の生物が『恐怖』する瞬間を。 
 自分をバカにして道具扱いした報いを、きっと受けさせてみせる。
 でも、あの一瞬だけ見えた、悲しそうな、苦しそうな表情が、なぜか心に焼き付いてはなれない。
 血がダラダラ流れるほどの怪我を負わされたばかりだというのに、一体何だというのだろう。
 大股に歩き出したワムウの後をつんのめり気味に追いながら、輝之助は心の内を持て余している。
 傲慢な化け物の鼻を明かしてやりたいと思う一方で、人間ではないと豪語する生物の計り知れない感情が、心の中をチラついて消えない。
 ――人の肉をえぐっておいて何も思わないような奴が、悲しむ? 苦しむ? そもそもこいつは、人間じゃあ無いんだ。
     
 ただそれだけのこと。
 言い聞かせ、振り切るようにぶんぶんと頭を振って思考を保つ。
 地下は静まり返り、二人の歩くヒタヒタという音だけが不気味に響いていた。
 輝之助が付いて来ていることを肩越しに確認し、警戒するように周囲を見渡したワムウは、なぜか同行者のさらに後ろ、影になっている一点を強く睨む。
 釣られた輝之助が不思議そうに振り返ったが、そこには何もなく、薄暗い空間しか見えない。
 
 「……今は良い。遅れるな、人間」
 「あ、歩くの速……」 
 二人は湿った地下道へと進む。
 少年と怪物が闇に吸い込まれると、少し遅れて、一枚のトランプカードがひらりと舞い落ち、その後を追った。
 これは、長く続く闘いの、ほんの幕の内の物語。

67 :
515 名前: ◆33DEIZ1cds[sage] 投稿日:2013/02/01(金) 00:54:47 ID:Tb5DzS7w
【宮本輝之輔】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前
[状態]:恐怖、片方の耳たぶ欠損(どちらの耳かは後の書き手さんにお任せします)
[装備]:コルト・パイソン
[道具]:重ちーのウイスキー
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない
0.ドレス研究所へ
1.ワムウに従うふりをしつつ、紙にするために恐怖のサインを探る。
2.ワムウの表情が心に引っかかっている
※スタンド能力と、バトルロワイヤルに来るまでに何をやっていたかを、ワムウに洗いざらい話しました。
※放送の内容は、紙の中では聞いていませんでしたが、ワムウから教えてもらいました。
【ワムウ】
[能力]:『風の流法』
[時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前
[状態]:疲労(小)、身体ダメージ(小)、身体あちこちに小さな波紋の傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:JOJOやすべての戦士達の誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)をR。
0.ドレス研究所へ
1.強者との戦い、与する相手を探し地下道を探索。
2.カーズ様には会いたくない。
3.カーズ様に仇なす相手には容赦しない。
4.12時間後、『DIOの館』でJ・ガイルと合流。
※『エニグマ』の能力と、輝之助が参戦するまでの、彼の持っている情報を全て得ました。
 脅しによって吐かせたので嘘はなく、主催者との直接の関わりはないと考えています。
※輝之助についていた『オール・アロング・ウォッチタワー』の追跡に気付きました。今のところ放置。
>>507氏にご指摘いただき、たしかにワムウが突然死者の「蘇生」と言い出すのは不自然かと思い、表現を変えたところが主な修正点です。
その他時間軸の矛盾などがあればよろしくお願い致します。
無さそうであればお手数ですが、代理投下をお願い致します。

68 :
最終レスだけ代理投下させていただきました。
作者さま、先に代理投下されていた方、乙です。
ワムウの誇りはやっぱりカッコイイなぁ。
人間らしく恐怖する宮本はこれからワムウをどう評することになるんだろう
ただただ敵として警戒するだけなのか、それとも何かその誇りに影響を受けるんだろうか。

69 :
保守

70 :
516 : ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:22:44 ID:fHviQRHE
遅れました。すみません。投下します。
517 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:24:01 ID:fHviQRHE
開け放した窓から雨の臭いがした。風は吹いていない。雨の臭いだけが部屋の中にそっと忍び込んでいた。
雨が降っている。目を凝らさないとよく見えないぐらいのきめ細かい雨。
ジョルノは窓越しにそれをじっと見つめていたが、ふと思い出したように手もとの時計へ目を落とす。
濡れる街、薄暗い空。時計の針は短針が九を、長針が六を指していた。気が滅入りそうになる午前九時半だ。BGM代わりの雨音が店内に響いている。
ここはダービーズ・カフェ、ジョルノがミスタと合流を約束した場所。窓際の席に腰かけたジョルノは何も言わず、雨打つ街を眺めていた。
聞こえるのはしとしとと降りそそぐ雨の音、少し低めの天井にとりつけられたファンが回る音。そして朝食にがっつく男たちの声。
ジョルノの真正面に腰かけたミスタが派手に食器を打ち鳴らし朝食を堪能する。
隣に座ったミキタカも一度として手を止めることなく、皿に盛られた料理に食らいついていた。よっぽど腹が減っていたのだろう。

「それでよォ、ミキタカのやつ、いきなり俺を担いで走り出すもんだから……」
「ミスタさんはそんなこと言いますけど、ほんと危なかったんですよ! 私、冗談じゃなくて死ぬかと思いました」

口の中をからにした途端、ミスタがフォークを振り上げ大袈裟にそう言った。
頬についたパンの欠片に気づくことなく、彼は如何に自分たちが大変な目に会ったかをジョルノに語って見せた。
その話の内どこまでが本当で、どこからが誇張されたものなのだろうか。
時折入るミキタカの的確な突っ込みに、ジョルノの頬もついつい緩む。そうやって会話を交わす二人の姿が面白くて、ジョルノは少しだけ頬笑んだ。
いつも通りの朝だ……そう勘違いしてしまいそうになるほど辺りは平和に包まれ、何事もなく進んでいるように見えた。

「それでまた最後になァ……って、オイ、ジョルノ! 聞いてるのかよ!」
「ジョルノさん?」
「すみません、少しぼうっとしてました。あまりに平和すぎて、つい……」

霧雨の向こうに向けられた視線。影は見えなかった。
そして店内を見直せばどうしたって空いている椅子のことが気になる。ミスタ、ミキタカ、ジョルノ……そして誰も座っていない四つ目の空席。
ジョルノはウェザー・リポートの事を考えた。
少しだけ辺りの様子を見回って来る、そう言い残したウェザー・リポートは、まだ帰って来ていない。

『何かあったら雨が教えてくれる……心配するな、俺は弱くない。それに“何もわからぬまま”死ぬ気もない』

カフェを出る直前にそうウェザーは言っていた。ミスタ達と入れちがいになるような形で、ウェザーは霧けぶる街に姿を消したのだ。
控え目ではあるが確かな自信と確固たる意志がウェザーの口調には込められていた。
きっとジョルノの考えすぎなのだろう。すぐにでもウェザーは帰って来る……。
ミスタとミキタカの笑い声がどこか遠くで聞こえた様な気がした。話に集中できない。薄い雨音がジョルノの頭にゆっくりとしのびこむ。
ウェザーは強い。間違いなく強い。だがそれでもジョルノは彼が無事帰って来てくれるかは、確信が持てなかった。
復讐心と失った過去。蓮見琢馬とエリザベス。ウェザーの憂いを含んだ横顔がちらつく。
見回りというものは何かの口実でしかないのかもしれない。ひょっとしたらウェザーに帰って来る気はないのかもしれない。
ジョルノにウェザーを止める権利はなかった。背負うべき過去を失ったわけでもない、ジョルノには。

71 :
518 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:24:30 ID:fHviQRHE

―――カラァァン……

その時、唐突にベルの音が響いた。店内が一瞬凍りつく。ミスタも、ミキタカも、ジョルノも。三人はそろってはたと動きを止めた。
扉のほうを向けば全身を雨で濡らし、立ちすくむ男の影が見えた。ウェザー・リポートだ。ウェザーは約束通り、帰ってきた。
だがミスタとミキタカはウェザーのことを知らない。ウェザーもミスタとミキタカの顔を見ていない。
戸惑い気味の三人に慌ててジョルノは互いのことを紹介した。ウェザーに空いている席を勧め、簡単な自己紹介をすませる。
ミスタがウェザーの手を握る。ミキタカは馬鹿丁寧なお辞儀を繰り返していた。
ジョルノはそっと横目でウェザーの様子を伺った。これといって変わりは見えなかった。ウェザーは二人と何事もないように、淡々と会話を交わしている。硬さも見られない。
案外人見知りしない人なのかもしれない。ジョルノは椅子に深く座りなおすと、気のせいだったか、と誰に聞かれるわけでもなく、呟いた。

「グイード・ミスタだ。ミスタでいいぜ。よろしくな」
「ウェザー・リポートだ。ジョルノに話は聞いている。ミスタと……、それとアンタは?」
「よくぞ聞いてくれました。私、実は宇宙人なんです……―――」

―――雨が少し強くなったような気がする。
雨音にまぎれながら飛び込んでくる三人の会話を聞き、ジョルノは顔をしかめた。
さっきから何かおかしい気がする。理由のわからない違和感だ。もどかしさと不安。顎をゆっくりと撫で、考える。
だが見つからない。“何か”がおかしいはずなのに、その“何か”が見つからなかった。気を紛らわすように会話に集中しようとするがそれすらもうまくいかない。
ジョルノは舌打ちしたくなる気持ちをぐっとこらえた。何なのだろうか、この違和感は。
違和感の始まりはミスタとミキタカにウェザーのことを言ったころからだったような気がする……。
詳しい説明は省いたものの、もう一人仲間がいると真っ先にジョルノは言った……。信頼できる仲間、ウェザー・リポート。
琢馬とエリザベスは引きとめられなかったがウェ―ザは残ってくれた……。
詳しい事はわからないが、直感的に頼りになる仲間だとわかった……。そうジョルノはウェザーのことを説明した。
ミスタとミキタカを何も言わず、そんなものかと受け入れてくれた。事実今だってこうやって四人で今後のことを話している……―――。

「……待って下さい」

三人の会話に割って入るよう、唐突にジョルノは言葉を口にした。訝しげな表情で三人がジョルノを見る。ジョルノ自身も口にした自分に驚いていた。
“それ”は“おかしなこと”だった。“ありえない”ことだった。
三人の雰囲気がどうだとか、せっかくのうちとける機会だとか……それを越えてでも聞かずにはいられなかった。
ジョルノは立ち上がると、きっかり三歩だけ、距離を取った。そして隣にゴールド・エクスペリエンスを呼び出す。
この間合いならばジョルノのほうが早い。仮にウェザーがスタンドを出したとしても、それはスタンドを叩きこむ十分な隙になるだろう。
唇を一舐めすると、ジョルノはミスタを見つめ口を開いた。困惑した表情のミスタ、不思議そうに首を傾けるミキタカ。そしていつも通り無口で無表情な、ウェザー・リポート。

72 :
519 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:25:05 ID:fHviQRHE
「ミスタ……僕の思い違いならばそれで構いません。考えすぎだとしたらそれはそれで笑い話になるでしょうし、むしろ僕はそれを期待しています」
「おいおい、どうしたんだよ、ジョルノ? 何か俺、失礼なことでもしたか? それとも何かヤバい事?」
「ウェザーは“四人目”の男なんですよ、ミスタ。なんで貴方はそんなに彼に打ち解けられるのですか?」

自分で言いながらも馬鹿らしいと思った。きっと言い終ると同時にミスタは笑いだすだろう。ウェザーとミキタカは何を言っているんだと混乱するだろう。
そうであってくれ、むしろジョルノはそう願った。自分のこの些細な違和感がくだらないジョークとして終わって欲しいと心から思った。
もしかしたらミスタはわかっていて敢えてそれに触れなかったのかもしれない。自分のジンクスを押し殺してでもウェザーを歓迎してくれているのかもしれない。
だが聞かずにはいられなかった。店の外の天気のように、薄く霧がかった不安がジョルノをまとわりついていた。
何か不気味な違和感が……、湿りついた異常なぎこちなさが……。ジョルノの心に張り付き、離れなかった。

 そして…………―――    ―――……瞬間

ミスタの顔から表情が滑り落ちる様に消えた。一瞬何もかもが停止する。沈黙が針のようにジョルノを突き刺した。
背中の産毛が一斉に逆立つ感覚。隣に立つミキタカも不自然なまでにピタリと動きを止める。ウェザーも動かない。
一瞬のうちに、ジョルノの世界全てが凍りついた。
「な……ッ! ま、まさか…………!?」
跳ねあがるように飛び下がれば、机が倒れ、椅子が転がった。ジョルノは慌てて三人から距離を取り、そして違和感に気がついた。
音が遠く聞こえたのだ。倒れた椅子がゆっくりと宙に浮いた気がした。フローリングの上で跳ねあがったはずだというのに何も聞こえない。
そしてなにより……身体にぶつかった感覚がなかった。痛みすら感じなかった。そのことがジョルノの中で焦燥と、そして同時に確信を生んだ。

「これはスタンド攻撃…………ッ!」

誰にいうでもなく、自分自身に言い聞かせるように叫んだ。信頼できるはずの仲間は何も言わなかった。
ミスタも、ミキタカも、ウェザーも。案山子のように突っ立ったまま、ガラス玉のような眼でジョルノを見つめていただけだった。
それが尚更不気味だった。自分が知っていると思っていた仲間たちが、不気味な何者かにすり替えられたことがなによりも恐ろしかった。
ジョルノは叫んだ。自分自身を目覚めさせるように、喉が壊れんばかりに叫んだ。

「幻覚だッ! このスタンドは……僕に幻覚を見せているッ!」




73 :
520 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:25:29 ID:fHviQRHE
ウェザー・リポートが最初に理解したことは自分が誰かに殴られた、ということだった。
電流を流されたような痛みに身体がビクリと反応し、背中を強く打ちつけた感触が身体中を駆け巡る。
ガシャン、と家具を倒れる音も聞こえた。きっと殴り飛ばされた拍子に椅子や机をなぎ倒してしまったのだろう。
じわりと痛みが広がるとともに意識が覚醒していく。混乱する頭でまず考えたのは現状の把握。
殴られた。左頬を殴られた。そして椅子や机のあった場所に突っ込んだ。だけど誰に? そしていったい何故? そもそもここはいったい……?
鉛のように重たい瞼をこじ開けると異様な様子が目に飛び込んできた。あまりに不思議な光景だった。
ウェザーが今いるのはダービーズ・カフェだ。ジョルノと一緒に朝食とった場所。しかし朝食を取った、ついさっきまでと比べて、その様子はあまりに異なっている。
天井に取り付けられたファンは止まり、その先から不気味な液体が滴り落ちる。天井も壁も床も……全部、水浸しだ。
椅子や机、ウェザーの体までびっしょりと濡れている。そして僅かではあるが、溶けている。服も、家具も。全てがまるで使いかけの蝋燭のようにただれている。
カフェ全体が何かの胃の中かの様な、そんな不気味な光景だった。ウェザーは頭を振って意識をはっきりとさせた。それでも目の前のその光景は変わらなかった。

「ウェザー・リポート…………」

机に突っ伏したままのジョルノがそう呻いた。ジョルノの状態もひどい有様だった。
液体に覆われ、謎のドロドロが彼の体という体を濡らしている。とても弱っている。息をするのも苦しそうだ。
ウェザーは立ち上がりジョルノを助けようとしたが、ウェザー自身も消耗が激しかった。“ただれ”は彼自身をも覆っている。
立ち上がりかけたウェザーをジョルノは視線だけで押しとどめた。助ける必要はない。ジョルノはそう眼で訴えた。
息も絶え絶えにジョルノが言う。

「スタンド攻撃です……僕たちは、幻覚を、見せられていました」

ウェザーは自分を落ち着けるように大きく深呼吸を繰り返した。冷や汗が額を伝った。唾を飲み込めば、大きな音をたてて喉が鳴った。
そうだ、自分はカフェを出て見回りに出たはずだ。心配そうな顔をしたジョルノを安心させるよう、自分のスタンドを少しだけ見せたことも覚えている。
雨がやめば自分の危機を知らせてくれる。そう言ってカフェを後にして……それで、それから……。
―――ならいったい何故自分はカフェにいる?
重たい頭に痛みが走る。全てが混乱していた。全ての記憶があいまいで、ごちゃごちゃにされている。
スタンド攻撃で幻覚を見せられていた。ならばどこからが『幻覚』で、どこまでが『幻覚じゃない』んだ?
いや、待て、そもそもこの状況、このスタンド……俺は“知っている”。実際にこのスタンド攻撃を受けたことがある……?
馬鹿な。そんなことなら覚えているはずだ。だがしかし、忘れたこともあるかもしれない……?
それすらもしやこのスタンドの幻覚が見せたことかもしれなくて…………ウェザーは頭を振って、奥歯を噛んだ。
なにもかもがわからない。駄目だ。今の自分は何かを考えるには混乱しすぎていたし……なによりひどく頭が痛んだ。
万力で締められているかのように、ひどい頭痛がした。

「行ってください……僕は、もう限界です。
 なにかが……『決定的な』何、かが僕、の中から失われてしま、ったよう な…………」

74 :
521 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:26:43 ID:fHviQRHE

痛む頭と歪んだ視界。ウェザーは思う。今、何か影を見た気がする。ジョルノの後方、窓の外を駆け抜けていった影が見えた様な気がした……!
よろめく身体をおこし、ジョルノが突っ伏す机までなんとか辿り着いた。ジョルノを起こそうとその身体に触れ、ウェザーは愕然とした。
冷蔵庫に入れられたようにジョルノの身体は冷たくなっていた。まさかと思った。しかし僅かにではあるが脈はある。呼吸もしている。ただ意識は……ない。
―――俺は、この病状を……知っている?
ノイズがかかったように視界の中を砂嵐が通り抜けていく。ウェザーは強烈な眩暈を感じた。
ジョルノを助け起こし、隣の部屋のソファになんとか寝かしつけるその間も、脳にかかった霧が晴れることは起きなかった。
あたまが痛い、割れるように痛い。いっそのことジョルノの隣の床に倒れ込んでしまいたいぐらいだ。
大きく唾を飲み込むと、ウェザーは目を瞑り意識を取り戻す。駄目だ。そんなことはできない。
ジョルノは言った。“奪われた”、“決定的な何かを奪われた”と。
そうやって奪われている間にも、ジョルノはウェザーを救いだした。幻覚から覚めたのはジョルノがウェザーを殴り飛ばしたからだ。
ジョルノがいなければ、やられていたのはウェザーだったのかもしれない。ジョルノはウェザーを庇ったのだ。
身体を溶かしながら、致命的な何かを奪われながら……ジョルノはウェザーを救いだした。

「すぐに助けに戻る。待っていてくれ」

よろめく身体に鞭をうち、ウェザーはカフェを飛び出した。雨には止んでおらず、薄い雨の向こうに虹がかかっているのが見えた。
ウェザーは走る。辺りを見渡し、怪しげな人影が見つかりやしないかと目を凝らし、走り続ける。
ジョルノはウェザーを救った。精神的にも、そして肉体的にも。この短い数時間で二度も、彼は救われた。
ジョルノがいなければウェザーは過去に囚われたままだったかもしれない。エリザベスが見せた確固たる意志、琢馬が見せた気高い意志。
あの時ウェザーが感じたのは自己嫌悪と劣等感だ。ジョルノはそれをなんでもないことだと慰めてくれた。些細なことだが、それは確かにウェザーを救ったのだ。
ジョルノがいなければあの幻想の中に囚われたままだったかもしれない。そして気づかぬうちに体全身を解かされ……そのまま死んでいたのかもしれない。
「ジョルノ……」
ジョルノを放っておけるわけがない。ウェザーは拳を握りしめ、固く誓う。
同時にウェザーは徐倫のことを思い出していた。守りたかった一人の女の子。
どこかジョルノに似ていて、そしてウェザーの知らぬところで逝ってしまった女の子。
ジョルノは未来を見据えていた。だから脚を止めなかった。だから過去を振りかえらなかった。
徐倫はいつも希望を抱いていた。現実に立ち向かう時、脚が止まってしまいそうな時……いつだって彼女は希望を見つめていた。
震える脚に鞭をうつ。徐倫のことを思い出すと勇気がわいてきた。ジョルノのことを考えれば頭痛のことなんて吹っ飛んだ。
今度は間にあわせる……! また間に合わなかったなんて……・、“三度”失うだなんて、もうごめんだ……!
ジョルノを死なすわけにはいかない……! 絶対に、絶対死なすものかッ!
ウェザーは一人街を走っていく。どこへ知れず、ただ己の勘と運を信じ、走り続けた……。




75 :
522 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:29:02 ID:fHviQRHE
雨が降っていた。エンリコ・プッチはそんな雨の中、微動だにせず、全身を濡らしている。
吐く息が白い。雨は相当冷たい様子だ。だがプッチはそんなこと気にも留めていない。それどころか雨が降っていることにも気づいていないのかもしれない。
プッチの足元には一人の女性が寝そべっている。目は固く閉じられ、手足がだらりと投げ出されている。一目には眠っているようにも見える。
プッチがそっと言った。囁くような口調だった。

「……君は“運命”というものを信じるかね?」

返事も待たずにプッチは続ける。

「ホット・パンツ、もしも君が私に出発を促すようなことしなければ……。もしも君がダービーズ・カフェでなく、DIOの館に向かっていれば……。
 もしも君が店内の様子を伺った時にジョルノ・ジョバァーナに気づかれていれば……。ウェザー・リポートに気づかれていれば……。
 もしも君がそのまま私に相談することなく、二人に接触していたならば……。もしも私がスタンドを使わずに、二人に対して交渉することを選択していたならば……。
 もしもジョルノ・ジョバァーナが、あのDIOの息子でなかったならば……ッ!」

プッチの手には一枚のDISCが握られていた。微かではあるがその表面に写っているのはジョルノ・ジョバァーナの顔だった。
それはジョルノの記憶DISCだ。たった今の今までプッチがその中身をのぞいていたDISC。
プッチは少しの間何も言わず、ただそこに立っていた。誰かの返事を待っているようにも見える。勢いを増した雨が彼の顔をうち、水滴がその顎から滴り落ちた。

「君は聖女だ、ホット・パンツ……。巫女であり、祈りの人であり、しかし私にとって君はそれ以上の存在となった。
 君は私を導いてくれた。君の選択が、そして運命が、私をここまで連れてきた……! それはもはや奇跡ではなく運命だ。
 君の運命が私を押し上げた! ジョルノ・ジョバァーナ! DIOの、あのDIOの息子との邂逅を!」

静かな興奮がプッチを包んでいる。震えているのは寒いからではない。激情が彼を震わせていた。
ホット・パンツを見下ろすプッチの視線は慈愛に溢れている。彼は心の底から思っているのだろう。
ホット・パンツが成し遂げたことが彼の考えた通りであると。彼女こそが聖なるものであるに違いないと。

「ここに教会を建てよう。君のための教会だ」

プッチの口調が早くなる。隠しきれない興奮が彼を突き動かす。
一度大きく息を吸い込むと、プッチは呼吸を整えた。焦ることではない。大切なのは尊厳だ。厳粛さだ。
再びプッチが口を開いた時にその口調はいつもの控え目で厳かなものに戻っていた。
しかし押し隠した感情はやはり言葉に飛び出る。声が震えた。意図せずとも頬が緩む。

「人と人のRは運命だ。なるべくしてそうなったもの。
 だがそれを運命と片付け、得意げに鼻を高くするのは神に対する冒涜だ。
 私たちは祈るべきなんだ、感謝するべきなんだ。君のような存在に……それを導く神と、その全てに……」

誰も何も言わない。プッチの独白にホット・パンツが返事をするようなことは起きなかった。
しかし代わりにプッチは振り向くと霧雨の奥に見える影に問いかけた。
“彼”がそこにいることはとっくに気がついていた。いや、彼がここにやって来ることはわかっていた。
プッチに言わせたならば……それもまた“運命”なのだから。

「なあ、そう思わないかい……ウェザー・リポート?」

76 :
523 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:29:23 ID:fHviQRHE
ザァザァ……という雨音にまぎれ、革靴が地面をうつ音が響いた。
うっすらと映っていた影が濃くなり、やがてプッチの目にはっきりと像となってその姿が映った。
険しい顔のウェザー・リポートが姿を現す。プッチの顔を真正面から睨みつけると、ウェザーは十メートルほど離れた場所で立ち止まる。
隠す気もないほどに、その表情は憎しみに塗られていた。奥歯を噛みしめ、その隙間からひねり出すようにウェザーは言う。

「ジョルノに何をした」
「聞くまでもなくお前はわかりきっているだろう」
「DISCを返せ」
「それはできない」

そこで会話は途切れ、雨音が二人を包んだ。睨み合う視線、絡みあう感情。
プッチは見下すような、憐れむような目線でウェザーを見つめ、ウェザーは今にもプッチを殺さんばかりの凶暴な目で見返す。
雨が強くなったような雰囲気が辺りを包んだ。しかし、雨脚は強くなどなっていない。
二人の敵意と、戦意が辺りの緊張感を高めていた。それはあまりに強烈で、宙を落ちる雨粒がはじけ飛びそうなほどだった。
何も言わず、二人は長い事睨み合っていた。沈黙の後、唐突にプッチは視線を切ると、ふぅ……と息を吐いた。
瞳を閉じ、腰に手を当てる。聞きわけの悪い修道士に説教をするような感じでプッチは言った。

「私は全てを赦そう、ウェザー・リポート」

そして付け足す。

「いいや……、“ウェス・ブルーマリン”」

ウェザーは何も言わなかった。反射的に彼は右手で頭の後ろ辺りをそっと撫でた。そこに入ったであろう、自らの“記憶”を確かめるように、優しく。
プッチに言わせるならば、それすらも“運命”であった。全てがこのために用意された、こうするべきだから導かれた一つの事実。
ホット・パンツがジョルノとウェザーを見つけることも。ジョルノがDIOの息子だったことも。そこにウェザー・リポートがいることも。
そして……プッチに支給されたランダム支給品が『ウェザー・リポートの記憶DISC』であったことも……!

「我が弟よ、私は全てを赦そう」

ウェザー・リポートは何も言わない。ずっと睨みつけていた視線を足元に落とすと、彼は俯き、唇をかんだ。
何を言うべきか、長い事ウェザーは悩んでいた。言いたいことが多すぎた。突きつけたい感情は溢れるほどあった。
ウェザー・リポートがぎゅっと拳を握った。腕が震える、唇がわななく。これほどに感情が高まったことは生きていて今が初めてだった。
ペルラに恋をした時よりも……。ペルラにそっとお別れのキスをした時よりも……そして彼女が、死んだ時よりも……、ずっと……。

77 :
524 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:29:44 ID:fHviQRHE
結局出てきた言葉は何の意味も持たない言葉だった。それが今のウェザーには限界だった。

「なんのつもりだ……?」

そう問いかける。プッチはため息を吐き、あきれた様子で返事をする。

「だから言っているだろう……私はお前を赦す、と。お前が望んでいるものを私は差し出そう。
 記憶を返した。それはそれがお前の望みだったはずだからだ。記憶を取り戻す前のお前は何よりも望んだこと。
 そして記憶を取り戻した今、お前が望んでいることは……」

その時、辺りを静寂が包んだ。雨音がやんだ。時間が止まったような感覚がウェザーを襲う。
プッチの体から影が飛び出る。薄い膜のような影。反射的にウェザーは腕をあげ、頭を庇う。
音が聞こえない。超速で浮き上がったホワイト・スネイクがウェザーに迫る。強く地面をけり上げたプッチの体が宙を舞い、その影がウェザーを覆う。
上空からプッチが囁いた。文言を唱えるように穏やかな声だった。

「―――死だ」

交差する二つのスタンド。間一髪で間にあった『ウェザー・リポート』。
硬く閉じられたガードを押しとおし、行き場をなくした運動エネルギーがウェザーを吹き飛ばす。
バシャバシャと水しぶきを上げながら、ウェザーは後ろに大きく跳び下がった。水が舞う。雨粒が顔をうつ。
二人の距離は大きく離れた。ウェザーはプッチを睨みあげる。プッチは冷たい眼でウェザーを見下す。

「これは運命だ、弟よ。神が選んだのだ。
 ジョルノ・ジョバァーナに相応しいのはお前ではない。彼の隣にお前が立つのはあってはならないことだ。
 私だ。私こそが彼に相応しい。DIOがいて、そして彼の息子である彼の隣に立つべきはお前ではない! この私だ!」

今度は押しとどめる必要がなかった。
背後に小さな竜巻を展開、風に乗った体全身で真正面からプッチにぶつかっていくウェザー。
全体重を乗せ、全ての感情を乗せ、ウェザーは拳を振るった。受け止めたホワイト・スネイクの腕が衝撃で軋む。プッチの顔が苦悶の色に染まった。
互いの腕を掴みあい、つばぜり合いのような至近距離からウェザーは吠える。
今度は躊躇わなかった。迷わなかった。最初から言うべき事はわかっていた。思うがままに、感じるがままに言えばいいだけだったのだ。

「お前は俺から怒りすら奪うのか……! 覚悟すら取り上げるのかッ!!
 過去を奪い、ペルラを奪い……それでも飽き足らず、まだ奪う気かッ!!」

78 :
525 名前:Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/02/13(水) 00:30:25 ID:fHviQRHE
右の拳で殴りつける。受け止めたプッチのその顎狙い、蹴りあげる。どちらもなんとかプッチは受け止める。
左からの拳は力に加え風を利用した一撃だ。今までの一撃とは違う重さにホワイト・スネイクがぐらつく。プッチの顔に汗が浮かぶ。
堪らずプッチは後退する。隙を創り出さんと、ウェザーの顔めがけて腕を伸ばした。DISCを奪われるわけにはいかず、ウェザーも身体を大きく振りさげる。
それは一瞬ではあった。だがプッチにはそれで充分だった。プッチは跳び下がり、距離を取る。二人はまた元の通りに、離れた位置で互いに隙を伺う形。
雨音に包まれ、互いに睨み合う。雨が二人に染みいるわずかな間、二人は何も言わなかった。
突然、ウェザーの右の頬がパックリと開いた。真っ赤な血が滴り落ちる。ウェザーはそれを拭わなかった。
プッチの胴着が大きく切り裂かれた。胸ポケットにしまっていたジョルノの記憶DISCが音もなく、落下する。
プッチはゆっくりとそれを拾い上げると、もう一度ポケットにしまいなおす。ウェザーは動かなかった。プッチもまた隙を見せなかった。

―――雨が強くなった。

気のせいではなく、確かな事実として二人をうつ雨粒が大きく、そして多くなる。
滝のように二人の顔から水滴が散る。落ちては落ちて、それでも止むことのない雨。

「“虹”は出ないようだな」

そうプッチが言う。ウェザー・リポートが返す。

「出す必要はない」
「私を殺したいのではないのか、“ウェズ”?」
「なら尚更だ」
「ほう」

以前ならば、そう一瞬だけウェザー・リポートの脳裏を想いが走った。
ここに呼び出される前ならば……。この殺し合いとやらに巻き込まれていなかったならば……。
もしかしたら、ウェザーは“虹”を望んだかもしれない。
だがもう彼は虹を望んでいなかった。
雨に溶けるようなレインコートを着た男。雪のように真っ白な肌を持つ青年。霧に包まれ微笑む老人。
そして黄金のように輝く、太陽のような少年……。皆全てこの場で会った人たちだ。
そして誰もが何かを背負っている。過去を背負って、それでも生きている。

「プッチィィィイイイイ―――――――ッ!!」

バシャリ、と音をたてウェザー・リポートの足元で水が舞う。飛び出すように動くその身体。水たまりに写るウェザー・リポートの姿。
プッチは構えを取り、そんなウェザー・リポートを迎え撃つ。跳ねあがった水滴にぶつかるよう前に飛ぶと、ホワイト・スネイクが躍動する。

雨はまだやまない。今はまだ……止まない。



                             to be continue......

79 :
526 名前:Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/02/13(水) 00:30:50 ID:fHviQRHE
【B-2 ダービーズ・カフェ店内 / 1日目 午前】  
【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:瀕死、記憶DISCなし
[装備]:閃光弾×1
[道具]:基本支給品一式 (食料1、水ボトル半分消費)
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える。
0.気絶
1.ミスタたちとの合流。もう少しダービーズ・カフェで待つ?
2.放送、及び名簿などからの情報を整理したい。
[参考]
※時間軸の違いに気付きましたが、まだ誰にも話していません。
※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。

【C-2 北部/ 1日目 午前】
【ウェザー・リポート】
[スタンド]:『ウェザー・リポート』→『ヘビー・ウェザー』
[時間軸]:ヴェルサスに記憶DISCを挿入される直前。
[状態]:記憶を取り戻す、体力消耗(中)
[装備]:スージQの傘、エイジャの赤石、ウェザー・リポートの記憶DISC
[道具]: 基本支給品×2(食料1、水ボトル半分消費)、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者と仲間を殺したものは許さない。
1.プッチを倒し、ジョルノを救う。
【エンリコ・プッチ】
[スタンド]:『ホワイト・スネイク』
[時間軸]:6部12巻 DIOの子供たちに出会った後
[状態]:健康、有頂天
[装備]:トランシーバー
[道具]:基本支給品、シルバー・バレットの記憶DISC、ミスタの記憶DISC
    クリーム・スターターのスタンドDISC、ホット・パンツの記憶DISC、ジョルノ・ジョバァーナの記憶DISC
[思考・状況]
基本行動方針:脱出し、天国を目指す。手段は未定
1.ウェザー・リポートを殺し、自分がジョルノの隣に立つ。
2.ホット・パンツを利用しながら目的を果たす
3.DIOやディエゴ・ブランドーを探す
4.「ジョースター」「Dio」「遺体」に興味
[備考]
※シルバー・バレットの記憶を見たことにより、ホット・パンツの話は信用できると考えました。
※ミスタの記憶を見たことにより、彼のゲーム開始からの行動や出会った人物、得た情報を知りました。
※プッチのランダム支給品は「ウェザー・リポートの記憶DISC」でした

【ホット・パンツ】
[スタンド]:『クリーム・スターター』
[時間軸]:SBR20巻 ラブトレインの能力で列車から落ちる直前
[状態]:気絶中、両方のDISCを奪われている
[装備]:トランシーバー
[道具]:基本支給品×3、閃光弾×2、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に戻り、遺体を集める
0.気絶中
1.プッチと協力する。しかし彼は信用しきれないッ……!
2.おそらくスティール氏の背後にいるであろう、真の主催者を探す。

80 :
527 名前:Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/02/13(水) 00:33:04 ID:fHviQRHE
以上です。何かありましたら指摘ください。
毎度毎度代理投下をお願いして申し訳ないです。
そして予約期限ぶっちぎりまくりでごめんなさい。
Catch The Rainbow - Ritchie Blackmore's Rainbow
ttp://www.youtube.com/watch?v=tV8x2HKTRdM

81 :
途中からの代理投下をさせていただきました。
作者様、代理投下を行っていた方、乙です。
予約状況を確認していなかったのもあって始めの幻のミスタたちにはあれ?と思わされつつ、
それでもジョルノが確信するまで理解できず、面白い見せ方で始まったと驚かせられて。
そこからのウェザーの心情が痛いくらいに伝わってきて、いやぁ楽しい時間を過ごさせてもたいました。

82 :
面白かった。いつの間にかハマっているスタンド攻撃の恐ろしさたるや!
投下乙ー

83 :
投下乙です。
前向きになり、悪魔の虹を制御したウェザー。
相も変わらず他者を利用し、それこそが運命だと嘯く神父。
兄弟対決の行方や如何に。

84 :
やっと1stから見て追いつけた…
投下乙です、プッチとウェザーどっちが勝つんだろう

85 :
プッチとジョルノは2ndに続いて今回も出会ったか
あっちでは悪くない関係性だったけど今回はどうなるやら
一方のウェザーとプッチはロワ初遭遇か
こちらも気になる対面だなあ
そしてなにより新規読者が増えたことはやっぱり嬉しい

86 :
支給品で、シルバーチャリオッツレクイエムとかって駄目だよね?

87 :
独断では判断できないけど、やめたほうがいいと思う

88 :
参加者のスタンドが支給されるのはNGだろ流石に

89 :
作中に出てきたディスクなら参加者のがあってもいい感じなのかな?
ウェザー・リポートとか承太郎の記憶ディスクとか
逆に参加者にいないのはどうだろう
サバイバーとか

あと遺体はなしだよな
眼球があればスキャンだと思うけど
Dioが博士と同じ遺体から同じ能力を手に入れてたけど

90 :
>>1のまとめサイトぐらい読もうぜ

91 :
>>90
ありがとう 見てきた
違う疑問なんだけど
支給品の生き物ってどこまで可能かな
Dioの首(七部)とか緑色の赤ん坊(六部)とか幽霊(四部)とか

92 :
何であろうと、結局のところ他の書き手が続き書けるかどうかだからなー
やばそうな支給品が出るSSが投下されてから議論すればいい話かと
読み手なら気にする必要なし、書き手志望者ならあんまり気にせずYOU書いちゃいなよ(心配ならしたらばの仮投下スレに投下するのがベネ)
という書き手の意見

93 :
あれ?もしかして代理投下するべきか?

94 :
528 :理由 その1  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:43:58 ID:4qAwTwKE 例えば……君らが、あるマンガキャラを原作とした対戦格闘ゲームを予約したとする。
別に発売日に店頭に並んで待ってたっていいのに、予約したとする。
……なぜ?
どうしても発売初日に手に入れたい?
売り切れが心配?
初回封入特典のダウンロードコードとメモ帳がほしかった?
数量限定生産のエッチングプレートがほしいから?
――おいおいそう熱くなるなよ。俺は何もゲームそのものについて話をしようとしてる訳じゃあない。
要は“欲しかった『理由』”について聞いてるんだよ。
何もゲームの購入に限ったことじゃあない。
全ての行動に理由はある。
……たぶん、きっと。

●●●

95 :
529 :理由 その2  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:46:18 ID:4qAwTwKE 「よくもエリナを……エリナばあちゃんを見殺しにしやがったなッ」
バキィッ!
「……」
「治したとか言って手ェ抜いたんじゃねぇだろうなァアッ」
ドムッ!
「……」
「彼女は俺のこと本物の旦那と信じて疑わなかったんだぞッ」
ベチィッ!
「……」
「なんで、なんで死なせたんだ!このハンバーグ頭ッ」
ボスッ!
「……」
「何とか……何とか言えよ!この野郎ッ……クッソ……」
「……」
「オイ……ナメてんのかテm」
ドガァッ!
「おい――俺の頭がなんだって?
 ドサクサに紛れてバカにしてんじゃあねぇぜッ!
 殴って気が済むならいくらでも殴りやがれ!
 ……俺のは一発で許してやるよ、えぇ?親父」
「――え」
「俺だって“曾祖母ぁちゃん”を救えなくって悲しいさ。悔しいんだ。
 だがよ、俺は一緒に暮らしてた祖父さんが死んだときにゃあ一秒も泣かずにその意思を継いだもんさ。
 ジョセフ・ジョースターっつったな?
 『ジジイ』の若いころがこんな泣き虫野郎だとは思わなかったぜ」
「お、おま――じゃあ本当に」
「んな事今ここで問答するこっちゃあねぇだろ。
 『エリナばーちゃん』はそんな事望んでるのか?
 見てみろよ、幸せそうな顔で眠るようでよ――
 アナタは泣かないで前向いて歩いてくださいね、って、そういってる風には見えねぇか?」
「……何が言いてぇんだ?かたき討ちでもしに行けってのかッ!?」
「それをバーチャンは望んでないだろうがな。
 きっかけなんて、理由なんてそんなもんでいいだろ、とにかく立ちやがれ。
 ここでグズってるよりは百倍マシだと思うぜ、俺ぁよ」

●●●

96 :
530 :理由 その3  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:49:08 ID:4qAwTwKE 「畜生!おいなんで行かせてくれないんだよ!仲間攫われてんだぞ!」
そう叫ぶ男は噴上裕也。目の前には立ちはだかる一人の軍人。
「何度も言っておろうが!マウンテン・ティムに任せておけとォ!
 貴様らごときが行ったところで足手まといにしかならんわァアア!」
周囲の目も気にせず高らかに声を上げるのはシュトロハイムである。
ちなみに、
「あーあ、だめだこのガンコ軍人。あたしはエルメェスのそばにいるから何とか説得しておいて」
早々に説得を放棄したシーラEはそう言って救急車の中に戻ってしまった。
「ホラホラァ!言葉で説得できなければ力ずくでも俺を納得させて見せろォ!」
「クッソ!言われなくてもッ!ハイウェイ・スター!次は左からだ!」
言いながら己の分身をシュトロハイムにぶつける。
身体に張り付く無数の足跡に、普通の人間なら栄養失調で立ってなどいられない。
更に上半身は拳でのラッシュを無防備な顔面に叩きこむ。
しかし。
「――効かぬわアァァッ!」
それらの猛攻をものともせず本体である噴上の足元に威嚇射撃。
当然弾丸は当たらないものの、不意を突かれた上にその気迫に押し負けた噴上はスタンドを消してしまう。
「――えぇい!ナチス軍のサイボーグはバケモノかッ!?」
思わずこぼす噴上。それに対しシュトロハイムは鼻を鳴らす。
「バケモノ?違うなァ!貴様らが軟弱すぎるのだ!
 なーにが『スタンド』!なァにが『ひ・と・り・ひ・と・の・う・りょ・く』だッ!
 そんな慎ましさで今後襲いくる脅威に敵うモノかァ!サンタナなどカーズらに比べれば赤子も同然よ!」
「おい……スタンド使いバカにしてんのかよ」
「そうともよ!マウンテン・ティムはスタンド使いである以前に『カウボーイ』で『保安官』!さらに『ルックスもイケメン』だ!
 たかだか『学生』でしかない貴様よりは十分に有能よ!ゆえに康一の捜索を依頼した!貴様の匂いの能力も不要!」
「それが――それがさっきまで一緒に戦った仲間に言うセリフかよ(つーかイケメン関係ねーだろ)」
もはや噴上からは闘志が抜けきってしまっている。
目の前の男に叶わない事実。仲間を追う事すら許されない悔しさ。
「フン、貴様が重要なことを忘れて――お、終わったか、気分はどうだ、ジョジョ」

●●●

97 :
エラー…

98 :
531 :理由 その4  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:52:27 ID:4qAwTwKE
「気分はどうだ、ジョジョ」
そういって後ろに立つジョセフ・ジョースターに向かって歩き出すシュトロハイムを手で制す。
「康一を追わせてもらうぜ」
「なんだなんだ、パパの前に子供が立つだなんて、なかなか面白い光景じゃあないか?普通は逆だぞォ?えぇ?ジョースケよ」
シュトロハイムの奴がやっすい挑発をかましてくるが気にしてなどいられない。
康一が攫われてるっつーのにこの泣き虫野郎の説得に時間をかけすぎたからな……
これが“ジジイ”いや『オヤジ』なんて信じられっかっつーの、俺は絶対ェに認めたくねーぞ――
「話題変えてんじゃあねぇ。康一を追いたいっつってんだ」
「ホホォ〜?それじゃあ噴上に代わってこの俺を説得してみるんだなァ?」
なるほど……それで噴上はこんなに悔しそうなのか。シュトロハイムも面倒な事しやがったな――
「ホラホラァ〜何とかして康一を追いたいんだろォ?その理由言ってみなァ」
わーったよ……そんなに聞きたきゃ言ってやる。
たっぷり十秒くらいは間を開けた後、軽く息を吸い込む。
極力感情を抑えて俺は口を開いた。

「ダチ助けるのにいちいち理由がいるのかよ」

「んん?ダチぃ〜?」
「そうよ、広瀬康一は俺の親友だ。そいつを助けに行きたいんだ。理由なんかいらねぇだろ」
眉一つ動かさずそう付け加えた。
俺のメンチとタンカを黙って聞いてたシュトロハイムは……
「フン、やっと友人という単語を聞けたわ。
 そう、それでいいッ!『仲間は友とは限らん』が!『友は仲間』なのだァァァ!
 よし良いだろうッ!合格だ!全員で追うぞォッ」
そう返してきた。

……き、決まったァ〜仗助君カッコイイ〜!

99 :
「お、ちょうどいいタイミングだったかな?行くんだろ?コウイチ君を追っかけに」
「君が治療してくれたんだってな、ありがとよ、ジョウスケ。
 ……ちょっと前から見てたけど、ナチスのアンタ。うめぇなぁ、ピエロごっこがよ、ハハハ」
振り返ればシーラEがそう言って手を振ってる。隣にいるのはエルメェス!意識を取り戻したみてーだな。
「チッ、なんだ俺ぁやられ損かよ。おい仗助、良い役回りやったんだから今度なんか奢れよ――もういいだろ、行けッハイウェイ・スター!」
背中をドツいてきた噴上も、悪態付きながらスタンドを展開してる。思ったよりショック少なそうだな。

で――問題の奴は……?
「――ジョースケ、悪かったな。
 まだ漠然としちゃあいるが、俺だってなんかしなくっちゃあな。
 きっとエリナばぁちゃんもそう望んでるだろうからな」

……大丈夫そうだな、さっそくシュトロハイムの激励攻撃にあっていやがる。

よっしゃ、いっちょ康一を攫ったやつをぶん殴りに行こうじゃあねーか!

●●●

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