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2012年2月エロパロ96: 【貴方なしでは】依存スレッド10【生きられない】 (424)
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【貴方なしでは】依存スレッド10【生きられない】
- 1 :11/11/19 〜 最終レス :12/02/11
- ・身体的、精神的、あるいは金銭や社会的地位など
ありとあらゆる”対人関係”における依存関係について小説を書いてみるスレッドです
・依存の程度は「貴方が居なければ生きられない」から「居たほうがいいかな?」ぐらいまで何でもOK
・対人ではなく対物でもOK
・男→女、女→男どちらでもOK
・キャラは既存でもオリジナルでもOK
・でも未完のまま放置は勘弁願います!
エロパロ依存スレ保管庫
http://wiki.livedoor.jp/izon_matome/
【貴方なしでは】依存スレッド9【生きられない】
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1305800986/
- 2 :
- >>1
サンクスGj
- 3 :
- スレ立てGj!
本当に助かりました
即回避もかねつつ書き込んどきます
- 4 :
- 乙!
共依存って結構好きな言葉なんだが、イマイチどういう状態なのかわからん俺ガイル
相思相愛とは違うんだよな?
- 5 :
- お互いに相手本位で自己犠牲的な献身をし合うドロドロ関係
相思相愛は、まず前提に自尊心があって、自分の「相手が好き・大事」と言う気持ちに従って献身なり行動する
っていう点で違うんでしょう多分
- 6 :
- 自己の成立に他者を必要とする状態、って漠然と認識してる。変ゼミかなんかで言ってた
- 7 :
- 共依存よりは片想い?の方が需要有りだな〜
- 8 :
- >>4「甘えぬように 寄り添うように 孤独を分け合うように」
これが相思相愛、理想的な関係
共依存は甘え合い、寄りかかり合い、孤独にならないように…
こんな感じじゃね?
- 9 :
- てか天秤9話wktk
- 10 :
- こんばんは〜
最近野球も出来る恋愛ゲームにはまっている私です。
私はこのゲームの事をずっと誤解してました。子供向けとばかり思ってたら、彼女が爆発したり、されたり、実はんでたり、未亡人だったり、身体売ったり、人の家キャンプファイアーしたり………
さらにはごつい親父と一晩過ごしたら絶倫が身についたり、なぜか無から肉が出来たり…………
それはともかく投下します。
どうか最後までお付き合い下さい。
- 11 :
- 変化
「み、三田。どうだ?」
「ええ、これで結構です。二度とすることのない様にしてください」
ようやく書き終わった反省文が無事に受理され、武田は安堵の息を吐く。やっと終わった……
「完成しました……ああ、教授も終わったんですね」
絶妙なタイミングで宮都が研究室に入ってくる。
「ああ、たった今終わったところだ。もう二度と虫になった夢は見ない」
ゲンナリした表情でそう言う武田。本当に反省しているのだろうか。
「そっちですか」
宮都は苦笑しながら言う。
「小宮君。綿あめ機見せて貰ってもいいかい?」
「小宮、綿菓子を作ってくれ。今の俺には糖分が必要だ。こんなに頭を使ったのは…本当に久しぶりだ……」
この男、本当に大学教授なのか⁉
「わかりました。ひとまずこちらへどうぞ」
実験室では准がわくわくしながら待っていた。早く綿あめを作りたいのだろう。
「なるほど。あの時の自転車 に繋げたのか」
綿あめ機は宮都がオープンキャンパスの時、客寄せに使った発電機付きの自転車と繋がっていた。どうやら自転車を漕ぐ事によって回転運動を得られるようになっているらしい。
「はい。遠心力はこれで十分ですので。もちろん1人しかいない時用に電力でも回転するようになってます」
「だから、加熱装置と回転装置のコンセントが別々になっているんだ。省エネも心掛けてるんだ」
三田が感心したように言う。
「全部准の発想ですよ、私は所々手伝っただけです」
「いや、そんな…」
准は少し俯く。照れているらしい。
「いや、夏目君はもっと誇っていい。実験で1番重要なのは発想力だ。こればっかりは本人の才能次第だからな」
武田が笑いながら准を褒める。こうして見ると格好良いのだ。
「教授が真面目な評価をなさるとは…!夏目さん、凄いね!」
「お前は俺を何だと思ってるんだ」
一転、渋い顔をする武田。周りからどう思われているか、全く自覚していない。
「それでは早速実験しましょう。准、ザラメと割り箸」
「はい、準備OK」
「俺が自転車を漕ごう。少しは教授らしいとこを見せんとな」
「それが教授らしいって……本当に何もやってないんですね」
デジカメを構えた三田のツッコミを、聞こえないふりでやり過ごして自転車にまたがる武田。何も言い返せない所が悲しい…………
武田のうしろ姿は深い哀愁を帯びていたように宮都は感じた。
- 12 :
- 10分後、休憩室で全員が作った綿あめを食べ終えた。
「すごいね。屋台の綿あめと出来が全く同じだったよ」
「ああ……糖分が吸収されて行く。幸せだぁ〜」
三田と武田がそれぞれ感想を告げる。
「ホント!造った私が1番驚いてます」
「良かったな、准」
頭を撫でる宮都。本当に嬉しそうだ。
「早速ホームページに載せましょう。あと、大学にチラシでも貼って皆さんにも来て貰わないと」
三田はそう言うと実験室から出て行きパソコンと向かい合った。
「あ、おい三田。チョット待て」
武田も後を追う。実験室には2人が残された。すると……
准は急に宮都にもたれ掛かってきた。緊張の糸が切れたのだろう。宮都は准を支えつつ頭を撫でる。
「良かったな、上手くいって」
「うん。ありがと宮都……しばらくこのままでいい?」
「ああ。……お疲れ様」
そう言って宮都は微笑んだ。
「どうだ?初めて自分の力で作った機械の感想は」
「感想は?って言われても……。凄く疲れた!」
「他には?」
「大変だった!」
「もうちょっとポジティブな感想はないのかよ…」
准は少し考える仕草を見せる。そして…
「………。なんか、私があんな物を作れたなんてまだ信じられない。でもやっぱり作れたんだなって思うと凄く嬉しい。うん、こんな感じ!」
嬉しそうな、そして誇らし気な笑顔を見せてそう言った。
「良い感想だな。その気持ちを忘れんなよ」
「うん…」
「あと、今日のご褒美を俺からもプレゼントだ。一回だけ准の言う事をなんでも聞いてやるよ、俺に出来る範疇でな」
「え⁉ほ、ほんとに?……なんでも?どんな事でも⁉」
「あんまりキツイのは嫌だぞ、お願いだからあんまり変な事は言わないでくれよ」
「宮都…。ありがとう‼」
准は満面の笑みを浮かべながらますます宮都にもたれ掛かる。ここで宮都はある事に気付いた。
「なぁ、もしかして眠いのか?」
「え⁉……うん。昨日の夜全然眠れなかったの」
「あんなにぐっすり眠ってたのに⁉俺の背中で⁉」
「むしろそれが原因なの。だから眠れなかった」
「そうなのか?それじゃあ今度からは帰り道のおんぶは自粛したほうが……っと⁉」
言いかけた瞬間、宮都は准に強く抱きしめられた。
「ダメッ‼絶対にダメッ‼!そんなの私耐えられない!絶対にイヤッ‼!」
涙目になりながら必に宮都に訴える准。目には涙が光っていてほとんどの男なら思わず抱きしめたくなってしまうような色っぽさがある。しかし宮都には通じない……
「わかった、わかったから……。そんなに叫ぶなよ、これからもおんぶしてやるから。な?」
「ほんと?ウソじゃない?絶対?」
「本当だって。俺が今まで嘘ついた事があるか?無いだろ。だから安心しろ」
宮都は准を慰めながらどうやって寝かしつけるかを考えていた。准は眠くなるとこのように子供っぽくなるのだ。もうそろそろ限界なのだろう。
- 13 :
- 「ヨシ!准、そこのソファーに座れ」
宮都は准にそう指示すると、奥にある備品置き場から綺麗な毛布と座布団を持って来た。
「それじゃあこの座布団を折り曲げて枕代わりにして…と。ほら、准。ここで眠っちゃえ。」
宮都は座布団をポンポン叩き寝るように言うが准は動かない。やはりこのような寝方は女の子はしたくないのだろうか?
「ご褒美」
「え?」
「ご褒美って今貰ってもいいんでしょ?だったら宮都、ソファーの端に座って」
よく意味がわからなかったがとりあえず准の言う通りに端に座る。
「ほら、これでいいか?」
「うん、それじゃお邪魔しまーす」
そう言うと准は宮都の脚を枕代わりにしてソファーに寝転んだ。
「なるほど、これがしたかったのか」
宮都は笑いながら准に毛布をかける。
「うん、膝枕。久しぶりにして貰ったけど…やっぱり気持ち良い……」
早くも准はウトウトし始めている。そんな准を宮都は優しく撫で始めた。
「ふぁ⁉……ん…」
准は一瞬ビクッとしたがすぐにリラックスした。とても心地良さそうな表情だ。
「なんかこの体勢だと耳かきしたくなるな……」
「んふふ……んふっ…」
「おい、聞いてるか?」
「ん〜?……んふふ」
「せめて日本語で返してくれよ」
そのまま撫で続ける。まるで借りて来た猫のようにおとなしい。
「……………………ん…」
准が小さく声を上げる。
「准?」
「………………………」
そのうち宮都の耳にスースーと規則正しい寝息が聞こえて来た、どうやら本当に眠ってしまったようだ。
そのまま10分ほど頭を撫で続け、宮都は眠りが深い事を確認してから静かに准の頭を足から降ろして立ち上がる。
「……みやとぉ」
ドアに向って歩こうとしたところで寝言が聞こえて来た。夢の中でも2人は一緒にいるらしく、その事を宮都は嬉しく思う。
「なんだ?」
宮都は優しく静かに返事を返す。夢の中にも届くよう、耳もとで囁くように。
「みやとぉ……だいすきぃ、これからも……ずっと…いっしょ………」
そして准はまた規則正しい寝息をたて始める。
宮都はなにも答えない。しかしその代わりに優しく微笑み准の頬を優しく撫でた。
「おやすみ」
優しくそう告げ、宮都は休憩室から出て行った。
- 14 :
- 「よし、出来た。あ!小宮君、チラシ完成したよ」
研究室に戻ってきた宮都に三田が声をかける。
「取り敢えずザラメ代とか材料費を考慮して一つ50円で販売する予定だ。流石に無料じゃ赤字だしな」
武田も続ける。
「わかりました。あと、私に新聞部の友達がいるのでそいつにも宣伝頼んでおきます」
「おう。そいつぁ楽でいい。よろしく頼む」
宮都はメールで柳田に連絡を取り、三田が作ったチラシを見せてもらう。かなり本格的な作りだ。
「さっき撮った動画もホームページに載せておいたよ。ほら」
宮都はパソコンを見せてもらう。トップページの目立つところに『綿あめ機出来ました!』というリンクが貼ってありそこから動画を観れるようになっている。
「ところで夏目君はどうした?」
パソコンから目を離した宮都に武田が尋ねてくる。
「疲れていたようで眠っちゃいました。今は休憩室のソファーに眠らせてます」
「夏目さんも頑張ったんだからね。静かに休ませてあげよう」
「だな。出来れば救護室のベットの方がいいんだが、起こすわけにもいかんしな」
2人も特に咎める事もなく、ゆっくり休ませるよう協力してくれる。
「俺は学生課に綿あめの販売許可を申請して来る」
「僕はチラシを大学の掲示板に貼ってくるよ。小宮君は少し休んでてね」
宮都は厚意に甘えさせてもらう事にした。
「よし!それじゃあ行くか!」
武田は首をコキコキ鳴らしながら立ち上がる。
「帰りがけに樹液の採取でもして……嘘です、ゴメンなさい」
まだ懲りていないのか、武田………。宮都からは見えなかったが三田の顔を見た瞬間90度に頭を下げた。そのまま土下座すればいいのに。
- 15 :
- 2人は研究室から出て行った後に、残された宮都はやかんで湯を沸かし紅茶を飲みながら一息吐いていた。
長い間設計図と睨めっこしていたのだ。やはり疲れる。
この研究室で宮都が1人になる事は初めてだった。いつもなら必ず准がそばにいるのだ。なんとなく落ち着かない。
すると………
コン、コン
ノックが聞こえて来た。柳田が来たのだろうか?それとも早速ホームページの効果が出たのだろうか。
宮都は少し冷めた紅茶を一気に飲み干すと、扉に向かって首を鳴らしながら歩いて行った。
「はい、どちら様ですか?」
宮都は扉を開ける。すると目の前にいたのは……
「よう。綿あめ食いに来たぜ、可愛いお客様と一緒にな」
柳田と2人の女の子、その1人が急に宮都に抱きついて来た。
「莉緒………⁉」
呆気に取られている宮都。
それも当たり前だ。『あの』莉緒が人目も憚らず顔を胸に埋めるように抱きついてきたのだから………
「お、おい。どうしたんだ?」
宮都は反射的に後ろに一歩下がるが、莉緒は離れない。
「あの〜」
もう一人の女の子が宮都に声をかける。
「君は?」
「初めまして。莉緒の友達の高橋 希美といいます。少しの間そのままでいてあげて下さい」
希美は頭を下げて宮都に頼む。
「い、いや。別に嫌なわけじゃないんだよ。頭を上げてくれ。ただ驚いてるだけで………!?」
莉緒が何か言っている。
「なんだ?莉緒」
莉緒は顔を赤らめながら上目遣いで宮都を見る。
「……あたま、撫でて」
宮都は少し驚いた様子だったが、ハッとして莉緒を撫でる。
「……ん…………」
気持ち良さそうに目を細める莉緒。頭を胸に擦り付けてくる。
5分立った頃、徐に莉緒が離れる。顔には恥ずかしそうな、それでいて満足そうな笑顔が張り付いている。
「……ありがと。お兄ちゃん」
「ああ、どう致しまして。それにしても何で急に来たんだ?」
「え…そ、それは…………」
すると莉緒と一緒に来た希美が口を開く。
「今日、学校で宮都先輩の話題が出たんです。それで私が先輩の大学を見学してみたくなって。……その、ご迷惑でしたか?」
申し訳ない表情をしてそう言う。
「いやいや、見学なら大歓迎だよ。一言言ってくれたら入口まで迎えに行ったのに。俺の携帯にかければいいものを……」
笑いながらそう言うと莉緒が
「だって、………ビックリさせたかったから」
「なるほどな。確かにビックリしたよ」
宮都は莉緒の頭を撫でながら愉快そうに笑う。
- 16 :
- 「っと、立ち話しも何だからな。入ってくれ」
宮都は3人を招き入れると冷蔵庫からコップと氷。そしてオレンジジュースのペットボトルを取り出しコップに注ぐ。
「えっと。そこに座ってくれ」
指示した場所に3人が座る。宮都を入れて、円形に座る形になる。
「本来ならあっちの休憩室に連れて行くんだけど、今准が寝ててね」
申し訳なさそうに謝る。
「え?准って夏目さんの事ですか?幼馴染の」
宮都が怪訝な顔をする。その表情を読んだのか希美は
「莉緒から聞いたんです。幼馴染がいることとか、他にもたくさん」
「なるほど。なぁ莉緒、俺の情報どのくらい喋ったんだ?」
ニヤニヤしながら聞く宮都。
「その、私の知ってる事……ほとんど」
「ここに来るまで俺も大分いろいろ聞いたからな。次の記事が楽しみだ」
笑いながらそう言う柳田。
恐らく喋ったのでは無く喋らされたのだろう。宮都は大袈裟にため息を吐いて見せて
「俺にプライバシーは無いのか。全部筒抜けかよ……」
俯いて肩を落とす。
「お、お兄ちゃん……ごめんなさい!」
慌てたように謝る莉緒。宮都は俯いたまま腕を伸ばし
ぽん
手を莉緒の頭に置く。
「本気で怒っちゃいないよ。トミーは何か言ってたか?」
「……トミー?」
「富井先生のことだよ。あだ名がトミーで『富井先生』って言うと怒られたんだよ」
俺は最後まで慣れなかったがな、と付け足す宮都。
「あっ、凄いベタ褒めでしたよ。生徒会に入らなかったのが不思議なくらいだって」
「うん。凄かった」
2人してそう言う。一体どんな話をしたのだろうか。
「そうか。まぁ悪い話しじゃなくて良かった」
オレンジジュースを飲みながら言う。富井はかなりお調子者だから放っておくと何を言われるかわかったものではない。
「小宮、トイレどこだ?」
「あ、私もちょっと行きたいです」
しばらく談笑した後、柳田と希美は立ち上がって宮都に尋ねる。
「扉をでて左に進めばあるぞ。電球はLEDライト使ってるから、自動で点いて自動で消えるようになってる。結構遠いし廊下は暗いから気をつけてな」
2人が出て行くと、途端に研究室が静寂に包まれた。お喋りな人間が一気に2人もいなくなったのだから、より一層静けさが際立つ。
「お兄ちゃん…やっぱり迷惑だった?」
莉緒が俯きながらおずおずと尋ねる。さっきまではあの2人がいたから叱られなかっただけかもしれない…。そんな考えが拭え無かった。
ぽん!
「きゃ!?」
宮都がその頭を軽く叩く。
「だからそんな事はないって。俺はお前の兄なんだぞ。迷惑をかけられてナンボだ」
そのまま莉緒は頭を撫でられる。莉緒の大好きなあの笑顔で。
「お兄ちゃん……」
それにな、と宮都は続ける。
「正直、家で全く話しかけてくれないからいつも淋しかったんだぞ。それがいきなり大学までわざわざ会いに来てくれるなんて…凄く嬉しい」
「………うん、ゴメンなさい。」
「謝る必要なんか無い。莉緒はな、心配し過ぎなんだよ。わざわざ会いに来てくれた可愛い妹を邪険にする兄がこの世界のどこにいるんだ?」
「え?かわ、可愛い?お、お兄ちゃ……」
「なに照れてるんだよ、まったく、本当に可愛い奴だな」
「え⁉……きゃ⁉」
そのまま軽く抱き寄せて頭を撫で続ける。周りから見たら非常に仲睦まじい兄妹にしか見えないだろう。
ここまでは……
- 17 :
- そして莉緒は我慢の限界を越えてしまう……
今までずっと我慢して来た。もう耐えられない、耐えたくない!
そのままの体勢でいきなり宮都に飛びつく。
「莉緒!?」
いきなりの行動に対処が遅れた。そのまま宮都は受け身も取れずに椅子ごと後ろにひっくり返ってしまう。
ーー莉緒に押し倒された?俺が?一体何故?ーー
宮都は混乱した。こんな事を莉緒がするなんて『あり得ない』
莉緒はもっと静かな子だ。荒っぽい事などするような子ではない。それは兄である宮都が一番良くわかっている…ハズだ。
ーーよくよく考えてみたら、さっきだって急に抱きついて来たりして…一体莉緒に何が起こったんだ?
これではまるで……… ーー
「おい莉緒。一体どうし……⁉」
ここで宮都は言葉を失う。莉緒は泣いていた。昔によく見せられたあの表情で。
「……たかった。ずっと、会いたかった。学校なんか…行きたくなかった、もう私を置いてかないでぇ」
莉緒は宮都を強く抱きしめる。二度と離さないと言わんばかりに強く。
「落ち着け、俺は絶対に莉緒を置いて行くような事はしない。それに今までだってそんな事をしたことは……」
「イヤだぁ……もう、もぅ置いてかないでぇ………何でもするからぁ……」
そのまま莉緒は宮都の胸で泣き出してしまう。
ーー俺はまた妹を泣かせたのか?しかし今回ばかりは原因が全くわからない……一体俺は莉緒に何をしたんだ?ーー
しかし宮都としては一刻も早く莉緒に泣き止んで貰わなくては困る。そのまま優しく莉緒を抱きしめる。
「莉緒、大丈夫だ。俺はどこにも行かないし莉緒を泣かせるような事なんか絶対にしないから…」
優しく諭すように語りかける。莉緒はうん、と何度も頷きながら涙を流し続ける。
3分ほど経ち、ようやく莉緒は泣き止んだ。まだ少しだけしゃくり上げてはいるが……。とにかくこのままでいるわけにはいかない。
「莉緒、ひとまず離れてくれ」
「いや!……絶対イヤッ!!」
「ここは大学なんだから、人が戻って来るかもしれないんだぞ」
「だって……離れたらまた置いてかれちゃう……」
「大丈夫だって、絶対にそんな事はしない」
ここで莉緒は顔を上げた。やっとわかってくれたのか?宮都はそう思った。しかし……
「…もうちょっと、後、少しだけこのままでいて…。お願い、お兄ちゃん……」
莉緒は自分の火照った顔を宮都の顔に近づける。2人の顔の距離は5cmほどしか離れてなく、莉緒の吐息や熱を感じれるほどに近い……
ーーこの目は…あの時の……ーー
宮都はこんな状況にも関わらず…いや、こんな状況だからこそだろうか、昔の事を思い出していた。
いつも俺の後ろをついて来た可愛い妹。家の中ではどんな時も離れようとせず、少し離れただけで泣きそうな顔でしがみ付いて来た。
今の莉緒はまさしくあの時の莉緒だ。少しでも俺から離れると何も出来なくなってしまう、昔の……
宮都が思い出に耽っている間に莉緒は顔を宮都のすぐ横に持って来て頬ずりをしていた。宮都の頬には莉緒の涙と体温が伝わって来る。
しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。早くしないと柳田と希美が帰って来てしまう。こんな場面を見られるわけには……
ガチャ…
ドアが開く音。しかしそれは研究室の入り口から聞こえてきたものではない。もっと近く、休憩室のあたりから聞こえてきた。
「何、してるの……」
掠れた声が聞こえてくる。宮都も何度も聞いた事のある、いつも一緒に過ごした大事な幼馴染。
夏目 准その人がそこに立っていた。
- 18 :
- 以上です。
気をつけてはいますが誤字脱字などありましたら、それとなく教えてください。
- 19 :
-
乙です
- 20 :
- GJ!
- 21 :
- おそろしやおそろしや
いったいどうなってしまうのか
どきどきです投下乙でしたー
- 22 :
- GJ! 修羅場期待!
- 23 :
- さ
- 24 :
- ん
- 25 :
- ファンタジー系SSが一番心踊る
これは断言できるな
- 26 :
- ぼくいぞまだー?
- 27 :
- >>26
まあまあ、そんなに慌てなさんな。
- 28 :
- さて以前から言っていた超能力依存っ娘もの投下します
- 29 :
- 私は不思議な、でも空想ではありふれた力を持っている。
心を読む能力。その人の考えている事や感情、欲望が頭の中に入ってくるのだ。
小さい頃の私には、この力の意味が分からなかった。
だから面白半分に、言葉の意味さえ分からないのに人の考えていることを口にした。
超能力少女として私は一躍、時の人になった。
両親から恐れられ、訳のわからない超能力研究の人からしつこく付きまとわれて、初めて私はこの力の意味を知った。
欲望、欲望、またまた欲望。
私を食い物にしようとする果てのない欲望。
そこでやっと危険に気付いた私は嘘の読心を告げ続けることにする。
世間や研究家達は、超能力少女はデタラメだとはやし立てた。
心を読み慣れた私は、その方が経済的にも人心的に受け入れられるだろうとわかっていた。
それでも心ない中傷は幼い私を人間不不信へと変えるには充分だった。
デタラメだったとしてマスコミはまた注目を集めて金を稼ぎ、世間の人々は未知が既知であったとしり安堵する。
こうして一人の傷ついた嘘つき少女だけが残された。
でも、初めから私を見ていた両親は、私の能力が本物だと確信していた。
恐れから両親は私を捨てた。今なら読んだ言葉の意味が分かる。
両親は犯罪に手を染めていたのだ。
ネグレクトなんて言葉はなかった時代だ。
私は世間体から叔母に預けられた。
叔母夫婦は私の嘘の理由は私を捨てるような親が愛情をきちんと与えなかったからだ、と同情的だった。
反対に、一人息子の正士は名前に反して不穏な事を考えていた。
『おどおどしてる奴やなぁ。いじめがいがありそうや』
関西人でもないくせにエセ関西弁を話す意味不明で、意地が悪そうな男の子。それが正士の第一印象だった。
「痛い、やめて!」
「なんや、この根暗がぁ」
髪を引っ張られたり、物を隠されたり、芋虫のついた枝を顔につき出されたり。
今にして思えばなんてことはないイタズラ。
それでも人間不信に陥っていた私は、まるで追い討ちをかけられたように思ったのだ。
だから封印していた能力で、正士を叩きのめしてやろうと思った。
正士の知られたくない事をことごとく暴いた。
正士をとことん追い詰めて、私を恐れさせてこちらに関わらないようにしてやる、そう決意した。
正士は初め、呆然とした。
当たり前だ。壊して隠していた皿、零点を取ったテスト、勝手に食べたおやつ、それらが知られていたのだから。
- 30 :
- しかし、期待した反応は裏切られる。
「お前、パペットモンスターのシュウツーみたいやのぅ!」
正士の意識を読むと、シュウツーとは指先くらいの小さなモンスターを捕まえて戦うゲームのキャラ。
シュウツーは超能力パペモンで、念動力や読心術で遠くから攻撃したり先読みして先制するラスボスらしい。
「私、化け物じゃない」
私は泣いていた。いくらなんでもあんまりだと思った。
私を恐れた人はたくさんいた。それでも化け物とまで思う人はいなかった。
でも正士は一転の曇りもなく、私を化け物だと思っていた。恐れもせずにただ事実として処理していた。
それがひどく哀しかった。
「いいや、お前はパペモンや!」
「私は、化け物なんかじゃない!」
泣きながら正士を睨み付けた。本気の憎悪。初めての意。
そんな私の様子など何処吹く風といったように私の背後に回り込む。
また叩かれると思った私は目を瞑り両手を頭の上に乗せて自分を守った。
お腹に彼の腕が回され、ぎゅっと抱かれる。
「パペモンゲットだぜ!」
満面の笑みでそう告げる。
意味がわからなかった。
ぽかんとする私に正士はこいつわかってねぇなあ、って顔をする。
「あー、説明めんどいわ。心読めや」
心を読むとパペモンは抱っこするミニゲームを通じて捕まえ、闘技場で戦わせるゲームらしい。
「私、捕まえられたの?」
正士はさらにぎゅっと強く私を抱き締める。
「そやで!お前は俺のもんや!」
「う、うん…………」
何だが抱き締める腕が暖かくて、笑顔が眩しくて、嫌いだったはずなのに頷いていた。
「よーし今日からお前は俺のパペモンや。いじめはやめたる。代わりに俺の言う事を聞けよ」
「き、聞ける範囲ならね」
何故だかドギマギする胸が止まらなかった。
そうして過ごした小学生時代。私はいつも正士と一緒にいた。
どうしていつも私と一緒にいるのか心を読んでみた事がある。
『こいつ、俺と一緒にいれんと、捨てられそうな猫みたいな目をしやがる。こいつのこんな目は嫌いや。させたない』
心のなかで、少しだけ感謝した。ほんの少しだけ。
- 31 :
- 「俺のちんぽなめろや」
中学生三年生になった私に、正士はそう言った。
「はぁ?嫌よ。その粗末なものをしまいなさいよ」
舌打ちすると正士はいそいそと男性器をしまう。
正士は思春期に入っても相変わらず馬鹿だった。
心が読める私にはわかっている。これが正士なりの誘いなんだって。
中学生になり私の姿は大きく変わった。胸は膨らみ、尻も大きくなった。
男勝りのつり目がちの目で生意気な小娘だった顔は、自分で言うのも何だけど挑発的な美人の顔へと仕上がってきたと思う。
セミロングにしている髪は天然パーマがかかりふんわりとしていて全体の雰囲気を女性らしく見せている。
最近、男子生徒の性欲に猛った思考が多く読み取れるようになった。
彼らからしたら私は女王様なんだそうだ。
女子にも男子にも関わらず、正士ぐらいしか関わらない孤高の女。
生意気だといじめようとした女たちがいつの間にか配下になっていた女傑。
私は妙な人気を中学で得ていた。私を好きでセックスしたいという男子はたくさんいた。
正士の頭の中を覗くと、同級生女子でやりたい女一位が私だったらしい。
そこで頭の中で私を幾度も犯している正士は、焦ったわけだ。
余りに馬鹿な誘い方だけど、私との仲を進展させようって気持ちが良くわかる。本当に馬鹿な奴。
ある日、同級生の男子から遊びに誘われた。
心を読むと、この少年は私の容貌に並々ならぬ性欲を持っていて私を犯していつかは孕ませて結婚したいらしい。
デートの最後には告白をし、カップルになるつもりで、その後の甘い生活を延々と妄想していたために読み取るのを止めた。
私は確認のためにその誘いに乗った。
『うおおおお、なんでだよ悠里ぃ、てめぇは俺のもんじゃねぇか!あんなやさ男がタイプだったのかよ!
あー、まさかネトラレが来るとは、俺の育てた悠里が、あんなイケメン野郎に奪われるなんて。
てゆーか悠里、てめー今、俺の思考読んでんだろ!笑ってんの見えたぞ』
キャラ作りの関西弁を止めて素で思考する彼に笑いが止まらない。
まだ私はあなたのものじゃないわよ。
- 32 :
- 同級生男子とのデートは思いの外楽しかった。
慣れているのだろう、頭の中で私の反応から様々な予測を行い、それに従って柔軟に予定を変えていく。
一瞬見せる私の反応から様々なものを読み取ろうとする姿勢は、普通の女の子なら大層気に入るはずだ。
優しくて、気が利いて、顔がいい。
同年代の女の子なら夢中になるんだろう。
これは確認だ、そう、確認。
「ねぇ、ちょっといいかしら」
「な、なんだい」
振り返る男の子の顔には期待が滲んでいる。
私に向けられた強い感情は勝手に私に流れてくる事がある。
ああ、期待してるのね。反応は悪くなかった。もしかしたら今日中にキスまでいけるかも。
ごめんなさいね、これは確認なの。
だからあなたの期待には応えられない。
「あなた、昨日の夕方、万引きしたでしょう。消しゴムと鉛筆。スリルが欲しかったの?
優等生は疲れる?馬鹿ねぇ」
「え………」
何故、何故知っている、何故だ、そんな思考ばかり。
「それに、一週間前、同じクラスの奈々の体操服盗んだのあなたでしょう。不審者のせいになってたけど。
へぇ、そうなんだ。奈々は同級生でやりたい女の二番目なんだ。
私とうまくいかなかったら奈々に粉をかけるつもりだったのね。
まぁ、わかるわ。奈々ったらぽわぽわ〜ってしてて、放っとくと蝶々でも追いかけてそうだものね」
同級生男子の顔から血の気が引いていく。
ああ、私を、私を恐れたわね。
「ふぅ、もう確認は済んだわ。デートありがとう。それじゃ」
困惑する相手を残して帰路につく。
家に帰ると正士が自分の部屋に籠って鬱々とした思考を繰り返していた。
私が部屋に入ると不機嫌な顔が向けられる。
『ちっ、何だ売女が。イケメンに股でも開いてきたんやろうが、くそが』
酷い男。一切私を信じていない。それにこいつなんて性格悪いのかしら。
「ただ、確認してきただけよ」
『確認だぁ?てめぇがイケメンからちやほやされるような女だって事かよ。あるいはイケメンのちんこの味を確認でもしてきたんかい、このアマ!』
呆れるくらいに最低ね、この男は。三つ子の魂百までもというけど、私を昔苛めただけはあるわね。
『言い訳くらいしろやあばずれ!尻軽女!やりまん!ビッチ!ビッチ!ビッチ!』
「へぇ、なら試してみる?」
『は?』
「私がやりまんか、試してみる?」
正士の心が驚愕で一色で染まった。
- 33 :
- 「な、何言うてんねん、お前は」
あらあら、拗ねて言葉を返さなかった癖に、自分が望んだものが手に入りそうなものが近付いてきたら、焦っちゃって。
ああ、わかる、わかるわ。あなたが無意識の奥で期待でどれだけ胸を熱くさせているか。
獣のような愛でも、どれだけ私を手に入れたくてたまらないか。
そんな正士の心を読むだけで嬉しさが止まらない。
「私を犯して、試してみればいいじゃない。新品かどうか。あ、おちんちんも舐めて欲しがってたわね。それもしてあげよっか」
表層では焦りながら、無意識では私を組み敷きたい、犯したい、やりたい、滅茶苦茶にしてやりたい、そればかり。
私に首輪をつけてやりたい。他の雄などの目に触れさせず監禁したい。
他の男とセックスしたらしてやる。
うふふ、中々病んでるじゃないの正士。
私は正士の耳にそっと口を寄せて、教えてあげる。
「私ばかり正士の秘密を一方的に暴いてるから、私の恥ずかしい秘密を教えてあげる。
実はね、正士は私が心を読むといってもそんなに頻繁に読んでないと思ってるでしょうけどそれは間違いよ。
私は貴方の思考を一瞬足りとも逃さず読み続けているのよ。
貴方が昨日私を雌奴隷にしている妄想で自慰していたことだってちゃんと知ってる。
私はそれを読み取りながらあなたで自慰したわ。
あなたが脳内で私に語らせた言葉を、私の脳内であなたに語りながら、ね」
「おいおいおいおい、待て、待てお前はっ、お前は!」
「あら何?まだ話は途中なのだけれど」
顔を真っ赤にさせて正士が抗議する。
「お前なぁ、そんなんストーカーちゃうんか?プライバシーの侵害ちゃうんか?」
「法には触れないわよ?まあ黙って話を聞いときなさい。
あなたの頭の中は筒抜け。私は可能な限り、深層意識まで読んで読んで、あんたの知らないとこまで知ってる。
ああ、どうしてかって?不安だから。あなたの考えている事を常に知ってないと安心できない。
一瞬でも嫌われたりしたら発狂しちゃう。求められてるとわからないと寂しさで凍えそう。
私の事を考えて自慰してくれてると最高に嬉しい。他の女の時はたまらなく悔しくていつも泣いてる。
いつだってあなたの感情も読み取ってる。嬉しさを共有して、悲しさを共有して。
私、あなたに狂ってる。私を犯したい?しなさい。雌奴隷にしたい?しなさい。監禁したい?しなさい。
あなたの頭の中が私が占められる度に幸せを感じる。私以外を考えられると絶望しそう。
両親から捨てられた私を拾ったあなたから捨てられたら、私はぬから」
- 34 :
- 正士の心は困惑、惑乱、混乱がみっしり詰まっている。恐怖さえある。
でもね正士、あなたは知ってるかな?
こんな気持ち悪い女にそこまですがられて嬉しく思っているあなたがいること。
ふふ、私でいっぱい。いっぱいだね、正士。
「お前は、俺が好きなんか?」
「うふふ、好き、愛してる、よく使われる言葉。それが簡単に使える人が羨ましい。
私には正士だけ。本当の意味の関係は、あなただけ。
あなた以外に私の気持ちの行き場はない。
結局、それを使える人は選べる人。誰を愛し、誰を好むか選べた人。
愛してるかと厳密に言えばイエス。
恋してるかと厳密に言えばイエス。
嫌ってるかと厳密に言えばイエス。
私の想いは、全てあなたに。
恋に執着も性欲も混じっているように、私の正士への気持ちもたくさん、たーくさん色んな気持ちが混じっている。
単なる性欲を愛や恋とは呼ばない。
それらは様々な想いを総括して呼ばれるもの。
では私の正士へのこの気持ちは?
何と呼べばいいかわからない。
ただただあらゆる形であなたを求める気持ちがある。
愛する相手として。憎む相手として。信じる相手として。
全てがあなたに依っている、としかいいようがない。」
「お前、そんならなんでデートなんかしたんやどあほぅが!」
何だがずれてるなぁ、正士って。あ、怒ってるなぁ。
「確認よ。私が選べるかどうかね。」
「選ぶぅ?何やそれは」
「私は、この力を偽る気はないの。小さい頃から心を読まれる事を慣れさせられてきたあなたにはわからない。
妖怪でさとりってのがいるわ。ただ心を読むだけの化け物。
どうしてそんなのが恐いって顔ね。誰だって知られたくない事くらいある。プライドもある。
多層的な構造を人は年を経るにつれて内界に作り出していく。
蝸牛の殻、木の年輪、喜怒哀楽の集大成。
それを全て知られてる。例えばあんたが朝から晩まで見知らぬ人に監視されたら。
昔の罪を、これから犯す罪を、知られたら。果たしてそんな存在を愛せるかしら?
物語では、心を読む力を持つ少女は、善人の王子様から助けられる。そんな事は気にしない、と言われて。
お姫様のように扱われて、一人の女性として、幸福になる。
もちろん現実にそんな存在はいない。でも、化け物扱いしていても傍にいてくれる人は、いた」
- 35 :
- 「私は、はじめの頃はあなたが憎くて憎くてたまらなかった。
私もお姫様のように扱われたかった。でも正士は一緒にいてはくれたけど、私を化け物だと思っていた。
それが不満で不満で、でも捨てられるのは嫌で強くいえなくて、あなたしかいないからどんどん好きになって。
塩味が甘さをより引き立てるように、少量の憎しみと多大な好意は混ざりあって正士を求める気持ちはより強靭になっていったの。
考えることはあなたのことばかり。
あなたがむかつく。あなたが嫌い。あなたが優しかった。あなたが……好き。
そしていつしか気付いたの。正士以外に何の気持ちも持たない自分に。
正確には相手に対して持つ印象や感情が、私の本質へと入り込まない。
どんなに嫌な印象を持とうとも、寝たら忘れてしまう。
その時にわかったの。もう私は他人の言葉で揺り動かされる事も突き動かされる事もない。
たとえそれがいかなる知性によるものであろうとも。
正士以外は私を変えない。
でもね、疑問はあった。引っ掛かりがあったの。
あなたが私を自分のものにしたいと思ってたのに靡いてあげなかったのはそのため。
本当なら精通した時から繋がるべきだったんだけどね。
果たして私は本当に正士だけなんだろうか、私の頭という狭い世界だけの結論。
もしかしたら、王子様が何処かにいるかもしれない。
本当に小さな棘。でも、憂いは無くして起きたかった。
人の心を読むとね、たいていの仲違いはそんな小さな棘なの。
でも人間は考えずにはいられない生き物だから疑心でそれを大きくしてしまう。
正士が童貞で他者と比べて劣ってるんじゃないかと思うのと一緒。
それがどんなにたわいのないことだとわかっていても、経験しなければ胸を張れないことが人にはある」
「それで、デートしたってわけかい。王子様はどないやったんや」
「嫉妬してくれてるのね。嬉しいな。
頭が軽い女ならそれが嬉しくてたまらなくてあなたをやきもきさせるために、デートしたり股を開いたりするんだろうけど。
私は一回で充分。
イケメンで優しいスポーツ万能秀才君は、一皮剥けば皆と同じ。まあ、女の扱いは慣れてたみたいだけど」
私は着ている服を脱いでいく。
「おっ、お前、何しとるん!?」
困惑する彼に簡潔に説明する。
「エッチ、セックス、交尾、交合、メイクラブ。ああ、でもその前にフェラ、尺八、おしゃぶりかしら」
「母ちゃん達が帰ってくるやろが!気まずいどころじゃないで!」
「ああ、大丈夫よ。叔母さんたちには今日エッチするから帰ってこないで下さいって言っといたから。
休日だしプチ旅行するみたいよ。ゴムも分けてもらっちゃった。
まあ今日は安全日だから使う気はないけど」
「母ちゃん達も中三の男女に不純異性交遊推奨すなや!」
- 36 :
- 「まあまあ、正士だってその気でしょ」
スカートのジッパーを下ろし、下着姿になる。
今日は紫のブラとパンティーだ。ガーターベルトとかも興味があったけど、余りに扇情的過ぎると引かれるかもしれないし。
普通は女の子なら清純さをアピールするために白かもしれないけど今日は外で歩いてきたし。
白は汚れが目立つからなぁ。
ああ、正士、興奮してるのね。動物みたいなじゅくじゅくした欲望が私の頭の中を駆け巡る。
触られなくても、正士の興奮だけで、とろりと私のあそこは湿ってしまう。
正士の、起ってる。
私は正士の服を脱ぐのを手伝ってあげる。いたずら心で首筋をさわってあげるとぴくん、とする。
パンツの上からおちんちんを撫でてあげるとその熱さと堅さに驚く。
膝まずいてパンツを取り去ると、取り去る……と……。
「えっ」
「何を驚いとるんや」
おっきくなってるの初めて見たけど大き過ぎない!?これが巨根ってやつ!?
え、無理。無理無理無理。
私はあまりの事態にしばし呆然とする。
私は言葉しか読めないから、実際に見たのは初めてだ。てゆうか血管とか浮かんでるんだ……。
気付くと私は正士のベッドに押し倒されていた。
ていうかいつの間にか脱がされてる!?童貞だからってがっつきすぎでしょ!
「いい、よな……」
「いや、無理無理無理だからっ。そんなの入らないからっ」
前戯はどうした前戯は。つーかでかすぎ。
「あー無理、我慢出来ん。お前もとろとろに濡れてるじゃん」
正士が私の性器の表面を優しく指でなぞる。
「ひゃうっ」
変な声が出てしまった。
正士はにやにや笑いながら言う。
「ほら、こんなに濡れてんだから大丈夫だろ」
「あんたって本当に最低っ、最低っの屑ね!」
私はやっぱりこいつが大嫌いだ。
それでも私は本気で拒めない。
もし嫌われたら?捨てられたら?
普段は自信によって覆い隠されている弱い面、正士という蜘蛛の糸にしがみつく私が現れる。
「入れるかんぐぅ!」
私は正士の唇に噛みつくように唇を合わせる。
舌で唇をなぞり、開けるよう促す。
口を開けた正士の舌に舌を絡める。
つたない絡み合いは、気持ちよくはなかったけど、心地好かった。
「はぁはぁ、ファーストキスもしないでセックスとか、あんたってほんと最っ低」
- 37 :
- 「ご、ごめん」
ああ、やめて、そんなに後悔しないで。
「い、いいわよ」
本当は良くないけど、うじうじ後悔されてインポにでもなったら後々の夫婦生活に問題が生まれる。
それに、苦しんでる貴方はいや。
私は足をゆっくりと開いて正士を受け入れる体勢を取る。
騎乗位の方が楽らしいけど、あんなのが重力に従って突き刺さるよりは正常位の方がいいわよね。
「い、いくぞ」
恐い、でも拒んで正士に煩わしく思われる方が恐い。
「うん、いいわよ」
にっこりと微笑む。鏡で何度も練習した正士用の特別可愛く見える笑顔だ。
そんな私の様子に安心したのか、ゆっくりと身体を私の股の間に差し込んでいく。
私の肉を引き裂く感触。鈍い下腹部の痛みがどんどん強くなっていく。
「あ、がぁっ!」
乙女らしからぬ声を出してしまうのもしょうがない。
「我慢せい、あとちょっとや!」
私は歯を食いしばって耐える。傷口に無理に鉄の棒を入れられてるみたい。
「おー入ったわ。ぬくいのー。ぬるぬるしとって何か腰が引けるのぉ」
余りの痛みに言葉を返せない。
「お前、泣いてるんか。おぉ、よしよし、指しゃぶっとけ。
俺と一緒に寝てた時にはいつも俺の指をしゃぶってたよな」
私は差し出された正士の指をなめ回し、口に含み、甘く噛み締める。
昔はこの指をしゃぶらないと寝れなかった。
本当はこの年齢でもしゃぶりたいけど子供っぽいと笑われると恥ずかしいから言えなかった。
「おぉ、よしよし、ちったぁ気が紛れたんか?ったく、毛の生えた俺の指の何処がいいんだか」
そう言って、もう片方の手で私の頭を撫でてくれる。
痛みを忘れて思わず頬が緩む。私はこいつの、打算のないたまに見せる優しさが大好きだ。
手荒く扱われた後に優しくされてほだされちゃうなんて、ヤクザにひっかかったちょろい女みたい。
それでもいい、ちょろくていい、正士になら。
「もう動いてええか?」
「まだ、無理……。もう、ちょっと……」
そう答えた私の胸を赤ちゃんみたいにしゃぶりだす。
- 38 :
- 「うおー、なんやこのぷりっぷりっのおっぱいは!触ってよし、舐めてよし、挟んでよしやな!
うひょー、最初に味わうべきはこれやろ、これこれ!焦り過ぎやなぁ」
私のおっぱいをぺろぺろ舐め回しながらぐにゅぐにゅと揉んで触り心地を堪能している。
胸に少し快楽が走るけど、股間の痛みがすぐにそれを打ち消してしまう。
痛みを読心でどうにか出来ないかしら。例えば正士の快楽を読み取ってやれれば……。
私は深く、より深く正士の意識へと自身を繋げる。表層ではない、より深い本能。
「ひゃ、ひゃああああん」
「な、なんや、どうした悠里!」
「お、おちんちんがぁ、は、生えちゃったぁぁ、ぬるぬるしてて、気持ちいいよぅ」
私の胸を揉む触感、私を貫いている正士のおちんちんの快楽。
それらが私に襲いかかってきた。
人の心をここまで深く読む事をしたことがない私は初めての体験に翻弄される。
「な、なんやぁ。ちんちんなんかないぞ」
そう言って私のクリトリスを正士がいしると、おちんちんの気持ちよさとクリトリスの気持ちよさが入り交じってしまう。
「や、やだぁ、くりちゃんまで触っちゃやだぁ。おちんちんだけでも気持ちいいのにぃ。
くりちゃんの皮剥いちゃやだぁ。いやぁ、いやなの、こんなの知らないよぅ。
あぁ、やだっ、わかんないっ、わかんないよぅ、たすけてよっ、ただしぃ」
私の子宮はぴくぴくと疼いて、おまんこはだらしなく痙攣して、絶頂させられてしまう。
ぴりぴりとした気だるい快楽が全身を走る。
正士の心は、自らの雌がむせび泣く姿に激しく欲情していた。理由はわからないが、気持ちよがっている。
もっといかせたい。もっと犯したい。もっとこの雌を全てを暴き、屈服させたい。
もっと支配したい。もっと、もっと、もっとだ!!
「あ、あ、あああ、ああ」
正士と繋がってしまった私の心も体も欲情の炎に焼かれていく。
たらたらと口とおまんこからだらしなく蜜をこぼし、みっともなくしがみつき、腰に足を絡み付かせる。
興奮が治まらない。私の興奮と、正士の興奮、期待から潤んだ瞳を向けてしまう。
正士の首に腕を回し、みっともなく唇を貪ってしまう。
「ぐちゅ、ちゅ、あぷぅ、すき、すきなの、あいしてるの、ただしぃ、ただしっ、ただしぃ!」
子供みたいにただ正士を求める。素面では言えない事まで。
こんな素直に言えない、色んな感情があって。
でも今は、欲情に惑わされて、化け物じゃなく、一匹の雌でいられるから。
お姫様扱いされなくても、浅ましくあなたを求める女でいられるから。
- 39 :
- 「おおっ、なんやなんや悠里ちゃんは初めてなのにこんな乱れちゃうん?
ま、ええわ。ほな好きなように動かさせてもらうで」
その言葉を始まりとして、腰をしっちゃかめっちゃかに動かす。
大方、エロ本に単純なピストン運動では駄目だと書いてあったのだろう。
そんなエロ本知識に私は腰砕けにされていた。
色んな角度から正士のおちんちんに膣肉がまとわりつく。それはたまらない気持ちよさだ。
それに加えて、女の膣内のあらゆる場所をえぐられるのは正士の欲情の炎によってすっかり発情した私にはたまらなかった。
「やっ、はっ、はやいよぅ、やだっ、ゆっくりっ、やだっ、またいくっ、いくのはやいよぅ」
ぱんぱん、と腰を打ち付ける音が部屋に響く。
正士の快感と自身の快感の二つが混ざり合い、私はあっという間に達してしまう。
「おおっ、えろい顔してんぞ悠里。とっろとろで気持ちよさそうやなぁ。
いつもの女王様がこんな雌豚も真っ青な顔とはたまらんわ!」
口寂しくなった私は正士の首筋に腕を回してキスをねだる。
「悠里は甘えんぼさんやのぅ。ああかわえぇなあ。お前は」
「んっ、ちゅぅぅ、あぁん、私は甘えんぼさんなの、ちゅっ、だからもっとキスしてぇ。これ好きぃ」
正常位で激しく突かれながらも、溶かしてしまうくらい正士の口のなかを舐め回し、貪る。
とろとろした唾液が流し込まれる度に喜びながらそれを飲み干してしまう。
正士が首筋や鎖骨にかいた汗も悦んで舌で舐めとってしまう。
「なんて気持ちいいんや!でてまう!くそ、出すぞ!」
複雑な腰の運動を止め、単調な、しかし深く自分の女にえぐり込まれるピストン運動を始める。
摩擦であそこが熱い。さっきからごんごん子宮口突かれちゃってる。
「ああっ、もう子宮つかないでぇ!ぐずぐずのおまんこ壊れちゃうからっ!」
それでも正士は止まらない。ただただ射精を目指して自らを高めていく。
心が繋がった私も、その快楽を受け取り、クリトリスはぱんぱんに腫れてしまっている。
「あっ、ああっ、あぁー!はぁ、いくっ、くるよっ、くるっ!」
繋がっていたからか、正士が射精するのに連動して私からおしっこだか潮とやらだかわけのわからないものが噴き出す。
どろどろと精液に胎内を犯される悦びと、射精する快感に、私の頭はぐちゃぐちゃにされてしまった。
- 40 :
- 「ほなもう一回や。体位変えるで」
ぼんやりとしている私の頭には正士が何を言ってるのか入ってこない。
私の中に収まったおちんちんの快楽と、それを収めているおまんこの快楽がでろでろと私に流されていた。
「あー、こりゃトリップってやつかい。ほら、俺の上に乗るんや」
「あい」
正士の言うとおりにする。
「なんやその返事は。呆けとるのぅ」
私を自身の上に跨がらせると下から突き上げるように腰を動かす。
ぶるんぶるん、と揺れるおっぱいの先を摘ままれる。
「ほら、もっと腰を動かさんかい」
「あっ、あっ、ひゃ、ひゃい」
言われた通りに腰を前後左右に動かす。下から突き上げられた私はまるで串刺しにされたようだ。
「いいか!悠里!お前はおれんだ!」
「うっ、ひゃ、ひゃい!あい!」
快楽に翻弄されながら訳もわからず肯定する。
どろどろに私は溶かされていく。
「や、やめてぇ、とかしないでぇ、これ以上わたしをとかさないれぇ、だめぇ」
そんな私の言葉を嘲笑うかのように正士は速度を上げて突き上げる。
「とけろっ、とけて俺の女に、俺だけの女になれっ!」
「いぐぅ、ぅぅあぁぁぁっ!あがぁっ、あぁ、はぁ、はぁぁ」
二度目の射精が私の子宮へ到する。体も、心も、正士の中へどろどろに溶けていく。
「あぁただしぃ、わたひとけちゃった、あれ、ただし、わたし、ただしだぁ、わたしただしになっひゃったよぅ」
心を繋げて身体を繋げた私は、母の子宮にいる赤子のような一体感を感じる。
脳味噌が蕩けた私は何もわからず正士にすがりついた。
その私を何とも嬉しそうに正士は抱き締めるのだった。
「ゴム使わず中出しなんて最低。鬼畜」
私の目の前には土下座した正士がいる。えせ関西弁もなりを潜めて反省モードだ。
「すまん、俺童貞だったから焦っちゃって。中にめちゃくちゃ出しちまった」
「責任、取りなさいよね。捨てたら、許さないんだから」
「もちろんだ。俺が悠里を幸せにする」
その言葉に嘘偽りのない事がわかり、赤面する。
初めてこの力を授けてくれた神様に、ほんの少しだけ感謝した。
- 41 :
- 投下終了です
ぼくいぞはプロットは組み終わってますがなんかつまらんので寝かせてます
三話目で話が伸びきっちゃってるんですもん
新しい要素入れて歯ごたえ出したいとこなんでキャラ四人くらい追加したら書くのが大変で
年内は無理ですねたぶん
変わりに姉依存ものと竜人依存ものと超能力依存っ娘もの2と不依存すすめてくんで
まあ私の予告はあてにならないんで話し半分で
さとりちゃんは実はもう少し長めでさとりちゃんが占い師で荒稼ぎしてて
嫉妬した正士が貞操帯つけたり尻穴開発する感じでしたが切りが良いのでやめました
まあ少しでも楽しんで頂けたら幸いです
- 42 :
- 間違いなく関西弁では無いなw関西弁っぽいどこかの言葉って感じw
面白かったですGJ
- 43 :
- あ、すいません
本当は関西弁しゃべるキャラにしたかったんですが東北人なのでね
エセという設定マジックで予防線張りました
不快になった方がいたらすいません
まぁ設定マジックはこれからも使っていきますが
- 44 :
- このスレのSSはホントレベル高いな
- 45 :
- >>41
面白かったです。
最近あなたのファンどす。
ぼくいぞ以外も楽しみですが、ぼくいぞ好きなんで楽しみに待っときます。
- 46 :
- さとり良いよね
- 47 :
- ええなぁ(エセ関西風に
- 48 :
- 長編SSって露骨なエロより矛盾のないストーリーに期待できるよな
- 49 :
- こんばんは、投下します。
エロ書けない分、矛盾しないように頑張ります………
- 50 :
- 危機
『おい、准。待ってくれよ』
『へへ〜ん。早く早く〜』
准と宮都は道を走っていた。今日は前から約束していたデートの日。
宮都には買い物に付き合って欲しいとしか言ってないが、准にとっては完全にデートのつもりだった。
一緒に洋服を選んだり、食事したり、手を繋いだり………そして腕を組んだり。他にもたくさんしたい事がある。
今日一日、宮都は私のもの。誰にも渡さない。だって私は宮都が大好きだから。
『宮都、早くこないと置いてっちゃうよ。急いでよ』
後ろを振り向きながら呼びかける。するとそこには“やれやれ”といった表情をした宮都が………
“いなかった”
『………え?』
そんな馬鹿な。ここは一本道のはず、いきなりいなくなるなんてあり得ない。
『み、宮都。どこ行ったの?』
呼びかけても何も帰ってこない。すると准の視界にマンホールが入ってきた。准は持っていた細い鉄の棒でマンホールの蓋を持ち上げるとそのままマンホールの中に入る。
螺旋階段を降りて行くと何やら複雑な形をした彫刻がおいてあった。准は恐る恐る彫刻を触る。
次の瞬間准は大空を飛んでいた。青い液体でできたパラシュートを上手く操作しなんとか地面に着地する。
『すみません。このお花一つ下さい』
急に誰かに話しかけられた。何処かで会ったような気がする老婆がそこにいた。
准は男にそばに置いてあった電車の模型を渡すと、後ろにある扉を
開き中に入って行く。
そこには宮都がいた。准は宮都に声をかけようとしたが、口に入っているモノのせいで声が出ない。
待って!
心の中で呼びかけるが宮都はどんどん先に進んでいく。よく見るとそばに女の子が1人いた。
宮都と女の子は腕を組みそのまま歩いていく。何でだろう、脚が動かない。
宮都がこっちを見た。そして微笑みながら手を振って『バイバイ』そう言って2人は腕を組んだまま歩いていく。
『待って!私を置いてかないでええええぇぇぇ!!!』
2人は何も応えない。まるで恋人同士のように歩いていく。
女の子が宮都に抱きつく。2人はそのまま飛行機から飛び降りていった。
そして……………
「はぁっ、ハァッ、はぁ、……夢?」
そこで准は目を覚ました。大粒の汗をかき肩で息をしている。ここは………休憩室。
そして准は思い出す。宮都に頭を撫でてもらったこと、膝枕してもらったこと、そのまま眠ってしまったことを。
宮都は……いない。本当は今すぐ抱きつきたいのに……
「ははっ。何で夢ってどんなにあり得ない事が起こっても受け入れられちゃうんだろ」
あまりにも恐ろしい夢だった。宮都が私から離れて行ってしまうなんて、考えるだけで泣きそうになってしまう。だから自分自身にあれはただの夢だと言い聞かせる為に無理矢理に笑い声を上げた。
今回の夢はあり得ない事だらけだった。余りにも前後の辻褄が合わなさすぎて、それなのに全く気づかなくて……だってそんな事あるわけない。
(起きなくちゃ)
このまま起きて扉を開ければそこには宮都がいる。私の顔を見れば一目で、怖い夢を見た事を察してくれるに違いない。
うんと甘えて、撫でてもらって、抱きしめてもらって、あの笑顔で微笑んでもらって………
あっ!でも武田教授と三田先輩がいる前じゃちょっと恥ずかしい。………そうだ‼宮都に手招きして休憩室に来てもらおう!そして2人っきりになってから………
准はソファーから起き上がると毛布を畳んで定位置に置く。ハンドタオルで顔を拭くと、研究室に戻るためドアを開けた。宮都にうんと甘えるために……
- 51 :
- 宮都は焦っていた。まさかこのタイミングで准が起きるとは夢にも思っていなかった。
准の寝起きの機嫌はとても悪い…情緒不安定になっていると言っても過言ではないくらいに。どうすればこの状況を簡潔に説明出来るのかを必に模索する。
「ねぇ」
いつの間にか2人のすぐそばに来ていた准は莉緒に声をかける。宮都も聞いた事の無い、とても冷たい声で。
莉緒はそこでやっと准の存在に気付いたらしい。顔を上げて准を見る。
准も莉緒を見る。そしてお互いの目があった瞬間……
「きゃっ!」
准が莉緒を突き飛ばした。両肩を掴んで力任せに。そのまま莉緒は仰向けに引っくり返って床に背中を打ってしまう。これには宮都も慌てて
「おい、准!お前なにやって…」
「それはこっちのセリフでしょ!私が寝てる間一体こいつは私の宮都に何をしてるのッ!!」
准は大声で叫び莉緒を睨む。敵意や憎しみ、下手をすれば意すらこもっているような目で。しかし莉緒は俯いているものの平然としている。
「准、少し落ち着け。お前も知ってるだろ?俺の妹の莉緒だよ。今日は友達と一緒に大学見学に来ただけだ」
宮都は諭すように語りかける。今の准は少し興奮しているだけだ。話せばちゃんとわかってくれる。
「だったらなんで、なんで抱きついたりなんか……あんなに身体擦り付けて……ねぇ、なんでぇ?」
今にも泣き出しそうな声でそう言われ、グッと言葉に詰まる。実際のところ宮都自身まったく理由が分からない。
「………妹が兄に抱きついては……いけないんですか?」
莉緒が静かにそう言った。すでに立ち上がっている。目には明らかに敵意が宿っていた。
准は莉緒を涙目ながらもキッと睨んで
「場所を考えなさいよ!よりにもよってこんな………」
(こんな、私の前で……私の、私の宮都に………)
悔しさで涙が溢れてくる。胸がキュッと締め付けられる。さっき見た夢と目の前の状況が准の中で重なる。
………さっきの夢?
あの夢の最後はどうなった?…確か宮都ともう一人の女の子が……。一緒に…どこかに……
「夏目先輩こそ……校内で手を繋いだり、腕にしがみ付いたり……片時も離れず一緒に行動してるらしいじゃないですか」
莉緒はここに来るまでに柳田からいろいろ話を聞いていた。2人の大学での様子や評判などを。
結果、2人は周りの人ほとんどから恋人と認識されている事がわかった。
このままでは兄が准に盗られてしまう……だから、このような行動をとった。
ーーこんな女にお兄ちゃんは渡さない!お兄ちゃんは私だけのモノ!ーー
「そんな人に……そんな事、注意されたく………ありません」
莉緒は既に覚悟している、准と宮都の盗り合いをする事に。
一度覚悟してしまえば勝手に言葉が出てくる。……普段は言えないような事でも
「それに……兄は私のものです。決してあなたのものじゃありません。……あなたなんか……ただの幼馴染じゃないですか」
「そんな、そんな事………」
“幼馴染” 宮都と准を繋ぐ唯一の関係。准もわかっている、自分と宮都は所詮“ただの幼馴染”でしかない事に。だから何も言い返せない……
- 52 :
- 「お前ら少し落ち着け」
宮都は静かに、しかし有無を言わせない口調で言う。顔にはポーカーフェイスが張り付いていて何を思っているのか2人にはわからない。
「えっと、准は莉緒を突き飛ばした事を謝れ」
「な、なんで!?なんでよ!だってこいつは宮都のこと押し倒して……」
「それでも突き飛ばしたのは事実だ。悪い事をしたんだから謝れ」
准は目の前が真っ暗になった気がした。私は宮都のためにやったのに、なんで謝らなくてはいけないのだろう?しかも助けた宮都自身に叱られるなんて………
しかし宮都には絶対に嫌われたくない。そんな事考えられない、あってはならない。
「突き飛ばして、ごめんなさい……」
准は悔しさに顔を歪めながらも頭を下げて謝る。悔しかった、ただ悔しかった。宮都が自分より莉緒を大事にしている事がこれでわかってしまったのだから……
しかし…
「よし、次は莉緒だ」
宮都は今度は莉緒に向き直る。
「………?」
「莉緒、お前も准に謝れ」
「……え?」
莉緒は困惑した。お兄ちゃんは今この女に謝らせたばかりなのに。なんで私まで謝らせるのか?
その表情を読み取ったのだろう、宮都は口を開く。
「突き飛ばされて怒ったのはわかるが、その後准を挑発するようなことを言っただろ。そのことだ」
「………だって私はいきなり、……突き飛ばされて…」
「それでもだ。あんなこという必要は無かっただろ」
莉緒は納得できない。この女は私の邪魔をした極悪人だ!私とお兄ちゃん、2人きりの時間を邪魔した!
「……イヤ」
「莉緒!」
「……私は何も悪くない。…悪いのはその女だけ………」
「准の事を“その女”と呼ぶな。俺の大事な幼馴染なんだぞ」
「……………………」
莉緒は下を向き黙り込む。
「ほら、早く謝るんだ」
絶対に謝りたくない。私は悪い事なんかなにもしてない。でも……
「夏目先輩。……すみませんでした」
お兄ちゃんに嫌われたくない。そのためならプライドだってドブに捨てて見せる。こんな女にだって頭を下げて見せる。
宮都は莉緒が謝罪したことを見届けると
「よし。これでこの件は終了だ。お互いもう何も言うなよ」
これで一件落着……はしていない。それは宮都にもわかっている。これはお互いが“仲直りした”という事にするための儀式だ。取り敢えず今のところはこれでいいだろう。細かい事は後日に後回しだ。
- 53 :
- 「それにしても、柳田と高橋さんは何やってるんだろうな。全然帰って来ないし」
「え、柳田君来てるの?それに高橋さんって?」
「柳田には綿あめ機の事で呼んだんだ。記事にして貰おうと思ってな。高橋さんってのは莉緒のクラスメートだ」
ふ〜ん、と言いながら椅子に座る准に宮都はジュースを注ぐ。
そこにドタドタと足音が聞こえて来た。2人が帰って来たのだろうか?
バタン!とドアが開き、武田が飛び込んで来た。気持ち悪いくらいの笑顔だった……、というか実際に気持ち悪い。
「おい、綿あめ機の許可が下りたぞ。しかも100円で売って良いらしい!!」
宮都は正直助かったと思った。これで話を別の方向に持っていける。何せ教授なのだから。
「そうですか。何よりです」
「おぅ!」
してやったり、といった表情で笑っている武田に宮都は高校生の妹と友達が見学に来ている事を告げる。
莉緒と武田はそれぞれ挨拶した後、早速研究室の説明を始めることになった。
「……よろしくお願いします」
「わかった。それじゃ色々説明するからこっちに来てくれ。あともう一人はどこだ?」
その瞬間
「ただいま〜」
希美と柳田が帰ってきた。希美は何故かホクホク顔だ。
「やっと帰ってきた。…希美、何してたの?」
「これ見てよ〜」
携帯を広げて見せる。画面には5〜6匹の猫に囲まれている希美が写っていた。
「凄く可愛かったぁ。私ここ受験する〜」
「おお、そうか!!研究室も是非ここを選んでくれよ」
武田がそう言うと希美はキョトンとして宮都に視線を向ける。
「この研究室の顧問の武田教授です。主に微生物についての研究をしています」
宮都がそう言うと希美は慌てて
「あ、申し遅れました。私、高橋 希美と申します。今日はお忙しい中………」
そんな希美を遮って
「そんな固っ苦しい挨拶なんか要らん。俺はそんな事全く気にしないからな」
笑いながらそう言う。このような所が武田の人気の秘訣なのだ。ただ本人がそういう堅っ苦しいのが嫌いなだけだが。
- 54 :
- その後10分ほど質疑応答が行わた。今の莉緒は先ほどからは考えられないほど無口になっている。これが本来の莉緒なのだから当然ではあるが……
それよりも問題は准の方だ。さっきから黙り込んだままで何も喋ろうとしない。
「綿あめのお客様がいらっしゃいました……あれ、先客がいますね」
そうしている内に三田が学生数人を引き連れて研究室へ戻ってきた。
「チラシを貼っている時に出くわしてね、全員同じ学科の人なんだ」
「「「「綿あめ食べに来ました〜」」」」
全員が一斉に声をあげた。なんか子供っぽい気がする。
「わかりました。それから教授、ちょっといいですか?」
宮都は武田に声をかける。
「ん?」
「先ほど作ったチラシには綿あめ代は50円と書いてありましたよね?だから三田先輩には………」
「諸君!!よくぞ来た、申し訳ないがチラシには50円と書かれていたのは三田が独断専行で決めた価格なんだ‼本当の値段は100円なのだ‼
だから100円を払ってもらうぞ!恨むなら俺と小宮と夏目君の3人で決めた値段を無視して勝手にチラシを作った三田を恨むがいい‼」
武田は一気にまくし立てた。恐らくさっきの仕返しをしようとしたのだろう。聞いた学生全員が目を丸くしてポカーンとした顔を武田に向けている……
「あの、知ってますケド。100円だって事」
1人がそう答え、他の全員も頷く。今度は武田がポカーンとした。
「あの、教授。先ほど三田先輩に電話してチラシを修正して貰ったんです。ですから皆さん知っていると……」
「それを先に言えぃ‼」
「言おうとしたんですよ、三田先輩に連絡を取ったって。そしたら教授がいきなり喋り始めたんじゃないですか………」
宮都の反論にぐうの音も出ない武田。勝手に早とちりして三田への意趣返しをしようとして見事に失敗してしまったのだから自業自得である。
その瞬間、部屋の温度が急に下がった気がする。というか実際に下がった!武田に三田がゆらりゆらりと近づいて行く。その様子には流石の宮都もゾクッとし、武田は完璧に固まっている。
「教授?どういうおつもりですか?」
静かに、丁寧に、そして微笑みながら武田に尋ねる三田。その微笑みが何よりも怖い!武田は今まさに蛇に睨まれた蛙の気持ちを体験しているだろう。早くなんとかしないと……武田の命が危ない‼
「あっ!そうだ‼ほら、高橋さんと小宮さんだったか?研究室の説明は休憩室でやるからな!俺は先に行って準備する。その間に綿あめでも食べててくれ!それじゃあな‼」
このセリフを5秒で言い切り走って休憩室に逃げて行った。武田にしてはナイス判断だ。
ちなみに、この状況を見ていた莉緒と希美は流れに付いて行けずに呆然としていた。2人にとって教師が学生に怒られるなど考えられなかったからだ。
「莉緒、それと高橋さん」
宮都は苦笑しながら声をかける。2人はゆっくりと顔を宮都に向けた。
「悪いけど今すぐ休憩室に行ってあげてくれないか?本当は用意なんて必要ないんだ」
「………うん」
「………は、はい。わかりました」
そのまま2人は休憩室へ歩いて行った。
「三田先輩はお客さんのご案内をお願いしてもいいですか?私と准は少し用事がありますので。
柳田も食べて味とか出来栄えとか良いところを記事にしてくれよ?代金は俺が払っとくからよろしく頼む」
今度は三田と柳田に向き直ってそのようにお願いする。ちなみに、今の三田は怖くない。
「任せろ、バッチリ記事にしてやるよ。写真も取るからな」
「うん、わかったよ。それでは皆さん、こちらへどうぞ」
三田は柳田を含む全員を引き連れて実験室に歩いて行く。
- 55 :
- 全員が実験室入るのを見届けた後、研究室には静寂が訪れた。宮都はそのまま何も言わずに准の手を取って研究室から出た。
そのまま研究棟の裏へ歩いて行く。ここなら誰も来ない、2人きりで会話するには絶好の場所だ。
「准、大丈夫か?」
さっきからずっと俯いてなんの反応もしない准に恐る恐る声をかける。この無表情がとても怖い……
「……………………」
「准?」
「……に、してたの?」
「………」
「私が眠ってる間、一体何してたの?」
無表情のまま准が聞いて来る。宮都は目線を下に下げて全てを説明するべきか迷う。というより、なんと説明すれば良いかわからない。
取り敢えず当たり障りの無い返答をしようと目をあげた瞬間いきなり服を誰かに…いや、准に掴まれた。
「はやく答えてよ‼」
いつの間に近づいて来たのだろうか……准が服を両手で強く掴んでいた。両目には涙が光っている。
「准……頼むから落ち着いて………」
「なんで、なんでみやとが……わたしじゃない、女の子にだ、抱きつかれて………うぅ、なん、で………」
「准……」
准の身体は自身の力だけでは立てなくなる程に震えていて、宮都の服を掴んでいなければ崩れ落ちてしまっているだろう。
「なんで?なんでなのぉ?私が悪かったの?それならあやまる…謝るからぁ、だから、だから許してよ……私から離れて行かないでぇ」
とうとう准は崩れ落ちてしまった。それでも必に宮都の脚に縋り付き決して離そうとしない。
宮都は何度も声をかけたが、今の准には何も届かない……
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
准が慟哭した。森全体に響くかのような大声で、宮都に縋り付きながら……宮都はすぐにでも准を慰めてやりたかった。昔からずっと泣いた時にはあやしていたから……
しかし脚に縋り付かれている今、しゃがむことは出来ないし准の腕を解く事も出来ない、そして声も届かない……ただ准が悲痛な声で泣き叫ぶのを聞くしか出来ない。
「いやぁ……捨てないで‼おねがいッ、おねがいだからあぁ!なんでも、なんでもするからぁ………」
「俺は絶対に准を捨てたりなんかしない‼」
「いや………いやぁ…そんなの、絶対いやぁ…私を嫌いにならないでぇ……」
宮都が何を言っても准には届かない。どうする事も出来ない。何も出来ない。准は壊れたオモチャのように同じ言葉を何度も繰り返し続け、宮都はそれを黙って聞いているしかなかった………
ーー俺は……無力だ。ーー
20分後、だんだんと准の声が小さくなっていき完全な沈黙が訪れた。どうやら泣き疲れて眠ってしまったらしい。
ここでようやく宮都は准の腕を解いてしゃがみ込む。准の顔は大泣きしたせいで厚ぼったく腫れていた。
ーー俺が准をこのような目に合わせた………この、俺が。…俺が?ーー
- 56 :
- その後何をしたのか宮都の記憶はない。ただ気づいた時は夏目家の前で准をおんぶして立っていた……
宮都はベルを鳴らして門の中に入って行く。玄関からエリザが出て来た。
「あら、いつもより全然早いわね?何かあったの?」
「ええ、エリザさん……准を、お願いします………」
ーー今のは俺の声なのか?こんな……暗い声が俺から………ーー
「み、宮都君⁉どうしたの?何があったの⁉………ッ⁉酷い顔……」
エリザは何か酷いモノを見るかのような表情で宮都を見る。
「え?俺ってそんな不気味な顔なんですか?流石にショックですよ。ハハハ………」
「茶化さないでっ!一体何があったの⁉大丈夫なの、宮都君⁉」
エリザは真剣な表情で聞いて来る。誤魔化しは一切通用しないだろう。
「ゴメンなさい、今日は勘弁してください。今度お話ししますから」
宮都はそう言って多少強引に准をエリザに押し付けると、そのまま踵を返し夏目家を後にしようとしたが………
「待ちなさい!」
エリザに肩を掴まれ軽く引っぱられて、そして尻餅をついてしまう。
「み、宮都君⁉大丈夫⁉なんでこの程度の力で転んじゃうのよ⁉」
これにはエリザも焦った。まさか宮都が尻餅をつくとは思っていなかった。エリザの予想以上に宮都は衰弱していたのだ。
「なんか今にもにそうな顔してるわよ!ウチでお風呂に入って行きなさい」
エリザは宮都の腕を掴んで、助け起こしながらそう言う。しかし……
「いえ、そのようなご迷惑はかけられません。帰ります」
立ち上がり、そのまま門へと歩いて行く。
「み、宮都君‼」
エリザは慌てて引き止めようとするが、准を支えているため一度離れてしまった宮都を引き戻すことは出来ない。
「あ、それと准が起きたら明日も9時に迎えに行くと伝えておいてください。お願いします」
そして宮都は夏目家をあとにした。後ろでエリザが何か言っていた気がしたが無視して歩き続けた。
気付くと宮都は自宅の玄関の前にいた。ドアを開けようとしたが鍵がかかっている。宮都は鍵を取り出そうとカバンを………ない?
今の今まで気付かなかったが、カバンは研究棟のロッカールームに置いたままだった……。それに気付き億劫そうにベルを鳴らす宮都。インターホンから香代の声が聞こえて来た。
『はーい、どちら様ですか?』
「俺だよ、母さん……開けてくれ」
『え?宮都⁉どうしたのこんな時間に帰って来て?』
そのままガチャッと音がしてインターホンが切れる。数秒後ドアが開いた。
「お帰りなさい、今日は早上がりだったの?……って、ちょっとどうしたのその顔⁉今にもにそうよ!!」
「いろいろあってな……どいてくれ、家に入れない……」
宮都は家に入るとそのまま階段を上って自室に向かう。香代はその背中に声をかける。
「宮都!!一体何が……」
「悪い、今日はもう休む。1人にさせてくれ。……あっ、あと莉緒の携帯に電話して俺が家にいることを伝えといてくれ」
バタン!
部屋に入りドアを閉め、そのままベッドに飛び込みうつ伏せに寝る。
ーー俺は一体何にショックを受けてるんだ?
莉緒に押し倒された事?
莉緒と准が言い争いをした事?
准を初めて泣かせてしまった事?
いや、わかっている。ただそれを認めたく無いだけだ……
俺が一度に2人の女性から尋常では無い好意を持たれている事を、しかもそれが幼馴染と妹だという事を………
第三者から見たらなんで俺がこんなにもショックを受けるか分からないだろうな………俺だって具体的に説明なんか出来やしない。
この、言葉にして言い表せないモヤモヤした感情。俺は……ーー
- 57 :
- 宮都はハッとした。何時の間にか眠ってしまったらしい。時計を確認すると夜中の2時だった。
ベッドから起き上がり部屋の電気を点けると、机の上に大学に持って行ったカバンが置いてあった。恐らく莉緒が持って来てくれたのだろう。
下に降りて浴室でシャワーを浴び頭、顔、身体をそれぞれ洗う。頭を乾かした後に自室でお茶を飲みながらやっと一息つく。
さっき洗面所で顔を確認してみたが、それほど酷い顔ではなかった。まぁ、いつもより少し疲れていそうな顔ではあったが。
それにしても、と宮都は思う。ついさっきまであんな非日常だったのに、今はそんな事無かったかのような日常を宮都は過ごしている。
父と母はいつものように眠っているし、家にもいつもの静けさが広がっている。莉緒も恐らく部屋で眠っているだろう。全くいつも通りだ。
ーーさっきの事は夢だったんじゃないか?ーー
そのような事をぼーっと考えながら横になり目を瞑る。もう、どうにかなってしまいそうだった………
そして気付いたら朝になっていた。目覚まし時計をかけ忘れたにも関わらず、体内時計のおかげでいつも通りの8時に起きた。
宮都は部屋を出て下に降りようと階段まで歩いた所でふと足を止める。言いようの無い不安感と共に莉緒の部屋をノックする。
「莉緒、いるか?」
返事はない。宮都はドアを開けて中を確認した。誰もいない……
ーーだよな。昨日あんな事を言ってたけど本当に登校拒否になるわけないよな………馬鹿馬鹿しい!ーー
今度こそ宮都は階段を降りリビングに入る。香代が食事の用意をしていた。その背中に声をかける。
「おはよう」
「あら、おはよう。もうすぐ出来るからちょっと待っててね」
「ん……。父さんと莉緒は?」
「一弥さんは急患が入ったからさっき出かけて行ったわ。莉緒は学校よ」
ここで宮都はようやく安堵した。
「わかった、ありがとう」
食事が出来るまでの時間で身なりを整え、食後に今日の弁当を作る。カバンの整理をして準備は完了した。
途中、香代は昨日の事について何も聞いて来なかった。その気遣いがとてもありがたかった。
全ての準備を終えて、行ってくる事を母に告げて玄関で靴を履く。気持ちの整理はなんとか済ませた。
そして宮都は、准にどのような態度で接すれば良いかを考えながらドアを開けた………
- 58 :
- ドサッ!
瞬間、宮都に何かが抱きついて来た。とっさの事に身体が固まったが、宮都はその姿を見なくとも抱きついて来た人物が誰だかわかってしまった………
「准………」
「みやとぉ……」
ーーおいおい、どうしたんだよ?そんな顔をしてさ……いつもの笑顔はどうしたんだ?ーー
そのまま准は上目遣いで宮都を見上げる。必に縋り付くように……
「私のこと、嫌いに、なら…ないでぇ。おねがい……」
ーーなにバカな事言ってんだよ、そんな事あるわけないだろ……なんなんだよ、その顔は………ーー
「これから毎日迎えに来るから……宮都のいう事、なんでも聞くからぁ……。だ、だから……おねがい、おねがいだからぁ……」
「……じゅ…ん…」
「これからも、ずっと…一緒にいて…くれる……よね?」
そして准は、痛々しい顔で無理矢理微笑んだ…………
- 59 :
- 投下終了です。誤字脱字ありましたら報告お願いします。
>>43
長編連載中に別の作品書けるなんて凄いですね!しかも完成度高いし!
自信が無くなって来た……、まぁもともとあまり無いけどさ…………
- 60 :
- 乙ニダ!毎回楽しんで読ませてもらってます!
- 61 :
- 投下乙です!
天秤の作者様は短編はわからないですけど
長編に重要な積み重ねる力は充分あると思いますよ
とてもヒロインが繊細に書けてると思いますよ
これからも何度もヒロインが衝突すると思うとぞくぞくしますね
楽しみにしてますんで頑張って下さい!
- 62 :
- gjgj いいのお
- 63 :
- GJ! いやすばらしいですよこれ!
- 64 :
- 面白かった
GJすぎる
- 65 :
- これ希美ちゃんも争いに加わるのか?
続編期待〜
- 66 :
- 保管庫で特にエロいのおせーて
- 67 :
- 全部読めと言いたいところだけどこれとかおすすめしとく
ttp://wiki.livedoor.jp/izon_matome/d/%a4%ef%a4%bf%a4%b7%a4%ce%c0%b3%a4%e0%c9%f4%b2%b0%281%29
あとこれとか
ttp://wiki.livedoor.jp/izon_matome/d/%cc%b5%c2%ea%b0%ec
- 68 :
- 昔のスレで見たちょっと知恵遅れ気味のヒロインのやつがすごいツボだった。電車の中で泣きそうになったわ
- 69 :
- なんで泣きそうになるんだ
- 70 :
- 分からんが泣きそうになった。まぁそれだけクオリティが高かったんだよ
- 71 :
- 痛々しい依存だと抜いた後すごく後味悪いことはある
出来がいいから起こるんだろうけど後腐れないネタじゃないから尚更困るな
- 72 :
- お久しぶりです。
まだ依存まではいきませんが、投下させていただきます。
- 73 :
- 子供の頃から要領が悪く、何をするにもアタフタするだけで人に助けてもらわないと何もできなかった。
周りからは当たり前のようにおっちょこちょいだなぁと言われ、それが嫌で嫌で何とか一人で頑張るけど……頑張れば頑張るほど空回りする。
その度「お前は何もするな」「お前が動くと周りに迷惑がかかる」散々言われ続けた。
だから私は自分が嫌い。
中学生になってもそれは変わらなかった…。
変わらなかったのに………私が高校生になった時――ある男子が私の前に現れた。
見たことが無い男子。
単純に目立たない男子だったので気がつかなかっただけ…。
私も目立たない部類の人間なので、すれ違ってもお互い視線を合わせる事がなかったのだろう…その男子に声をかけられるまで、同じクラスだということすらわからなかったのだ。
第一印象は…あまりよくなかったと思う。
放課後、数少ない友達と一緒に帰ろうとする私にオドオドした態度で近づき「み、三奈(みな)さんに話があるんです!」と唐突に私の名前を呼び、話しかけられたのだ。
- 74 :
- 男子に話しかけられるなんて殆ど無いのでビクビクしながら「な、なんですか?」と返答すると、隣に居た友達が見えないのか「三奈さん、つ、つき、付き合ってください!」と片手を差し出し、しどろもどろになりならが私に告白してきた。
無論告白などされた事の無い私は、友達に助けを求めるように涙目を見せる。
その友達は、何を勘違いしたのか一度うなずくと「お前なんか彼氏務まるか!気持ち悪いから近づくな!」と怒鳴り散らし、私の手を掴んで走り去ってしまったのだ…。
翌日にはその話がクラスに広まり、私は「キモい男子に告白された可哀想な子」その男子は「ただの気持ち悪い男」として扱われるようになってしまった。
気持ち悪いと言われていたが、顔はそれほど悪くないと私は思う。
幸か不幸か私はそれが原因で同姓の友達が出来るようになったのだが、その男子は軽いイジメを受けるようになってしまったのだ。
しかし、私は助ける事もできず関係無いという態度を取り続けた。
二年生に上がる頃にはイジメは無くなっていたが、私と違い彼は友達と呼べる人物はまったくいなかった。
仕方ない…自分にそう言い聞かせて今まで見て見ぬふりを続けて過ごした。
一週間前までは…。
- 75 :
- ――その日は朝から雪が降っており、マフラーと手袋をしていても身体の芯が痛くなるほど手先が赤くなっていたのを覚えている。
その日も朝からつまらない日常を満喫しながら授業を受け、放課後友達と一緒に帰る予定だったのだが……放課後友達が担任に呼び出されてしまい、私は友達を待つついでに借りていた本を返す為に図書室へと一人向かった。
それが間違いだった……いや、私には“救い”だった。
「はぁ…めんどくっさ。もう高校辞めようかな」
「辞めて何をするの?高校ぐらいは卒業したほうがいいわよ」
「お前が養えよ。俺ずっと家で寝てるから」
「嫌よ。何が悲しくてニート養わなきゃいけないのよ。」
図書室の中から聞こえる話し声に私の足は扉の前でピタリと止まった。
男性と女性の声…カップルが使っているのだろうか?
「……ふぅ」
昔の私なら友達を待つか後日また返しに来るかするのだけど、この一年でメンタル的にも成長した自分は一度深呼吸した後、思い切って図書室の扉を静かに開けた。
「……あら、どうしたの?」
扉を開けて真っ先に視界に入ってきたのは眼鏡を掛けた黒髪の見知った女性。
クラスメートの月森 静さん。
- 76 :
- 二年連続学年委員長で皆に頼られる俊才…教師に頼まれた図書委員長の掛け持ちをしており、容姿も相まって告白される事もよくあるそうだ。
「本返しに来たの?いつも昼休みに返しにくるのに珍しいわね、山科(やましな)さん」
私の名字を丁重に呼ぶと、椅子から立ち上がり迎え入れてくれた。
「あ、その……時間があったので返しにきました。遅くなってごめんなさい」
頭をペコッと下げて鞄から本を二冊取り出すと、月森さんに本を手渡たす。
細く綺麗な指が本を二冊しっかり掴むと、ニコッと微笑んだ。
「また、何か借りていく?」
「あっ、はい。ちょっと見たい本が何冊……か…」
月森さんから目を反らし本が並べられている本棚へと目を向ける。
――本棚手前の椅子に一人の男子が座っていた。
そう…彼が…。
心臓がはね上がり、自然と足が後ずさる。
「ほら、瞬太(しゅんた)がそこに座ってると山梨さん本棚に近づけないでしょ。早く帰りなさいよ」
その時初めて彼の名前を知った。
「……」
「い、いえ!本を探したらすぐに帰りますから」
何も言わずに立ち上がり帰ろうとする彼を両手で止めて、彼の横を通り過ぎ本棚へと向かう。
別に彼に嫌悪感を抱いている訳ではない。
- 77 :
- どちらかと言うと、やはり罪悪感のほうが大きい。
私のせいで、あんな事になってしまったのだから…。
後ろに彼を感じながらも、一冊一冊本を探していく。
「本の名前言ってくれたら借りられてるか確かめるわよ?」
数十分本棚を探していると、見かねた月森さんが後ろから声をかけてくれた。
「あ、その…お願いします」
本の題名を彼女に伝えてパソコンで調べてもらう。
初めからこうすればよかったのだ。
静かな部屋にキーボードをカタカタと叩く音が響く。
その間に周りを見渡し他に誰かいないか確認する。
あの会話をこの二人がしていたのだろうか?
私から見たらまったく接点の無い二人に見えるのだけど…。
と言うか、あんな会話を彼がするとは正直思えなかった。
「誰も借りてないみたいね。31番の本棚にあるはずだけど」
「は、はい。31番ですね…」
再度本棚へ視線を向ける。
本棚の上には数字がふっており、見つけやすくなっているのだ。
人差し指で本をなぞりながら調べていく…が、やはり探している本は見当たらない。
「あの…すいません…」
唐突にかけられた声に肩をビクつかせ条件反射で振り向いた。
そこには彼が立っており、小さな本を手に持っていた。
- 78 :
- 「多分…この本じゃ…」
恐る恐る差し出された本を此方も恐る恐る手に取る。
確かに私が探していた本だ。
「あ、読んでたんですね。それじゃ別に…」
「いえ、適当に取った本がそれだったってだけなので……すいません」
私から距離を取り一度頭を下げると、目を合わせる事なく鞄を手に取り歩き出してしまった。
「あ、あの!」
「……」
何故引き留めたのだろうか…。
自分でも分からなかった。
此方へ振り返る事なく立ち止まる彼に問いかける。
「学校…辞めちゃうんですか?」
寒さでは無く緊張で震える声は、静かな図書室に反響する。
自分の声なはずなのに反響して耳に入ると痛く感じた。
「分からないですけど…」
「あの…そ…わた、私は…その…」
まったく何も考えていなかった私はただ口ごもるだけで、言葉を発する事ができなかった。
「そ、それじゃあ…」
「あっ……」
呼び止めようとしたが、彼の背中を見ていると何故か声に詰まってしまう。
やはり罪悪感が私の胸を締め付けているのだろう…。
- 79 :
- 彼が学校を辞める理由も少なからず私にあるはず……彼にすればもう私は見たくもない人間になっているのかも知れない。
だけど謝りたい…謝って早くこのモヤモヤから逃げたい。
私はこんな時でも楽になる方法を探してしまうのです。
私は自分が嫌い……変えるといいながらも楽な方へと逃げようとする自分が嫌い。
「あの月森さん…」
「はい?」
「彼は放課後毎日来るんですか?」
「そうねぇ…暇な時は基本的に放課後図書室に来て、時間潰して帰るわね」
「そうですか。分かりました、ありがとうございます」
その日から私は本を返却すると言う口実で、放課後図書室へと足を運ぶようになり、なんとか一言〜二言彼と会話するようになった。
それもただの罪滅ぼし。
彼に謝る切っ掛けを私は探していた。
小さな罪から逃れたくて――。
- 80 :
- ありがとうございました、こんな感じで初っぱな投下終了です。
最後どうなるかは今のところ考えていないですが、完結はさせたいと思います。
よろしくお願いします。
- 81 :
- おおおお好みのはじまり方だ
これは期待
- 82 :
- GJ
つづきが気になる
- 83 :
- b
- 84 :
- おお、これは続きが気になる
GJ!!
- 85 :
- 期待
- 86 :
- こんばんは、投下します。
なんかまた新連載が投下されましたね。しかも超大御所!これからの展開が待ちどおしいです!
- 87 :
- 宮都と莉緒
あの日から10日経った。宮都は家で今日もあの日の事を整理していた。もはや自惚れているのではないかを疑う必要すらない。宮都は2人の女性に盗り合いをされている。
一人は大事な幼馴染。
一人は大事な妹。
あの場は無理やりに終わらせる事が出来たが、次からはそうも行かないだろう。あの2人は本気で憎しみ合っている…
いつもなら宮都が仲裁に入っているのだが、原因が他ならぬ宮都自身なのだから、今回はむしろ逆効果だろう。
かといって誰かに相談するわけにもいかない。というよりも相談できない。
「俺を取り合って准と莉緒が憎しみ合ってます。どうすれば良いのでしょうか?」
試しに口に出して言ってみるが、やはりこんな事誰にも相談できない。宮都自身したくない。
大体、一番の問題はそこじゃない
「それにしても……どうすりゃ良いんだ」
宮都は深いため息を吐く。今まで生きて来てこんな事は初めてだ。こんなのドラマや小説での出来事でなら何度も見たことがあるのだが……
取り敢えず何かの案を出さなければならない。このままでは行き着く先は恐らく崩壊だろう。現に准はかなり酷いことになっているのだから。
- 88 :
- 宮都にとって准は大切な幼馴染だ。今までずっと一緒に過ごして来たのだから当然だ。
もし准を失ってしまったら宮都は今までのように生きては行けないとさえ思っている。それほど大切な奴なのだ。
最近の准は宮都にべったりくっ付き、ほぼ毎日のように抱きついてくるようになった。
通学中、大学内、帰宅中、何処でも人目を憚らずに抱きついて来るのだ。
いつまでもこのままでいるわけにはいかない。気持ちが落ち着いたらなんとかして以前の距離に戻らなくてはいけないだろう。
宮都は准が好きだ。それは確実に言える。しかし恋愛感情となると………宮都自身全くわからなかった。一緒にいると楽しいし、准が悲しんでいると宮都は決して放ってはおけないだろう。
准が困っているなら必ず手を差し伸べるし、笑っている顔を見ると心が暖かくなり幸せな気持ちになる。
しかし、それは宮都にとって当たり前のことでこれが恋愛感情なのかと改めて考えるとどうしても答えは出ない。
恐らく幼馴染でいる期間が長過ぎたのだろうと宮都は思っている。だから抱き着かれた程度でドキドキしないし適当にあしらう事すら出来る。
ーー俺は一体准をどう思っているんだ………ーー
宮都とって莉緒は唯一無二の妹だ。無口で大人しくて、昔はいつもべったり後ろにくっ付いて来たかわいい妹。
それがパッタリと止んだのはいつ頃だっただろう。たしか、宮都が中学に入った頃だったか。そのくらいの時期から莉緒は宮都に話しかける事がなくなった。
最初は面食らったが、だんだんとそれが当たり前になり今に至る。
もちろんその程度で嫌いになったりなどしなかった。宮都は今でも莉緒を大切に思っているし、昔みたいにまた甘えてくれる事を嬉しくすら思っている。
でも……アレは度が過ぎている気がした。何せ宮都を押し倒したのだから。それも外で。
実は宮都は准に感謝していた。あのまま准が起きなかったら宮都は莉緒を払い除ける事が出来なかっただろう。少々やり方が強引だったが…
もちろん莉緒に押し倒されて抱き着かれても、驚きはするが別にドキドキはしないし、もちろん恋愛感情を持つこともないだろう。何せ実の妹なのだから。
つまりこの時点で莉緒の負けは決まっているのだ。兄妹は決して恋愛は出来ないし宮都もするつもりはない。それなら………
- 89 :
- 「ふざけるなよ」
宮都はポツリと呟き机に鉄拳を叩きつける。ペンが何本か落ちたがそれを無視して今度は机を殴りつける。手がジンジン痛むがそんな事を気にはしない。
「俺は一体どうしたいんだよ。准の気持ちに応えたら莉緒が悲しみ、その逆もまた然りだ。そんな決断俺に、俺なんかに出せるわけねぇだろ……」
怒鳴りたくなる気持ちを何とか抑える。
宮都はどちらも悲しませない方法をずっと模索している。しかしそれが見つからない。
今までたくさんの壁にぶつかったが全て乗り越えて来た。ある時は相談し、ある時は協力し、またある時は自分の力で、全てを解決してきた。
今までがなんとかなって来たのだから今回もどうにかなるはず、あの時はそう思っていた。そしてそれが自惚れだった事を10日かけて思い知らされたのだ。
宮都が何を言っても准に笑顔が戻る事は無かった。エリザに聞いたところ、家の中でも絶えず不安な顔をしているらしくふさぎ込んでいるらしい。
今この瞬間も准は家で不安に押し潰されようとしているのだ。宮都に捨てられる恐怖に……。そんな事などあるわけ無いのに………
だからこそ一刻も早く解決しなければならない。それが出来るのは宮都だけで、さらに義務でもある。
今回の問題はすでに解決方法は提示されているのだ。どちらか片方を選ぶという明確な方法が。ただそれを実行できないだけ。
宮都の中の天秤は決して片方に傾くという事はしてくれない。准と莉緒はピタリとつり合っている。どちらかに傾けるにはどちらかを外す以外に方法はない。
自分のエゴでどちらかを外せたらどれだけ楽だろうか。しかしそれをするには宮都は余りにも優しすぎた。
大体、どっちも同じくらいの年月を共に歩んで来たのだ。今更どちらかを捨てる事など宮都でなくともできるはず無い。厳密に言えば准の方が2年くらい長いが………
ーー考えてみたら家族の莉緒より准の方が付き合い長いのか……。まぁ当然っちゃあ当然か。妹と幼馴染なら幼馴染の方が長いに決まってる。
莉緒がいなかった時はまさに姉弟のように育ったらしいし……。莉緒が生まれた後も、いつも俺は准の後をついて歩いてたらしい。その後幼稚園、小学校、中学、高校と全部同じ所に通って来た。特に小学校の6年間はずっと同じクラスだったらしく、いつも仲が良かったらしい。
中学に入ってから最初の一年は同じクラスだったがその後は同じクラスにはならなかった………。そして中学1年のアレも………いや、よそう。これはもう終わった事だ!思い出す必要なんか無い!!ーー
ここまで来て宮都はなにか違和感を感じた。何かがおかしい。何がかは分からないが……。何か大切な事を忘れてるような………
- 90 :
- 必に違和感の正体を考えていると誰かが部屋をノックした。恐らく莉緒だろう。宮都は顔の表情を柔らかくする。
「入っていいぞ」
するとやはり莉緒が入ってきた。パジャマを着て、手にはクシとドライヤーを持っている。
「……あの、私の髪の毛乾かして」
宮都は頷き椅子に座るように指示する。しかし莉緒は座らず宮都に寄り添う。
「……お兄ちゃんに寄っ掛かりたい。………ダメ…?」
あの日以来、家の中で莉緒は片時も側を離れようとしなくなった。まるで身体がくっ付いてしまったかのようにピッタリと寄り添って来る。今まで離れていた分を取り戻すかのように。
何度か注意しようと莉緒に話しかけたが、その幸せそうな顔を見せられてしまうと何も言えなくなってしまうのだ。
宮都は床に足を広げて座りその隙間に莉緒が腰掛けて宮都の身体に寄っ掛かる。昔と全く同じ座り方だ。
宮都はドライヤーの電源を入れて髪を乾かし始めた。まずは手で軽く髪を梳く。全く手に引っかからない、とても滑らかな髪だ。そのまま軽く頭を撫でてみる。
「…ん……気持ち良い…」
目を細めて完全にリラックスしている。ある程度乾かしたら次はクシで髪を梳き始める。天然の癖っ毛も湿った状態なら素直にクシのいう事を聞く。
そのまま丹念に、決して髪が傷まないように乾かす。
「莉緒、熱くないか?」
「ううん、大丈夫。とっても気持ちいいよ、お兄ちゃん……」
夢心地な口調で返事をする。莉緒は人に髪を乾かしてもらうと眠くなってしまうのだ。昔はよく宮都にもたれ掛かって眠ってしまったものだった。
「よし、終わったぞ」
莉緒の髪を乾かし終え、手で軽く髪を整えてからそう言う。やはりどんなに整えても天然の癖っ毛は治らず、少し跳ねてしまう。
「うん。ありがと、お兄ちゃん」
そのまま宮都に抱きついてくる。風呂上りだから当然温かく、シャンプーのいい香りがする。
「おいおい、いちいち抱きつくなよ。もう子供じゃないんだから」
「だってお兄ちゃんのこと離したくないんだもん。ずぅっとこうしていたいくらい。……ん〜」
莉緒は目を細めながら顔を胸にすり寄せる。まるで猫みたいだ。
「お兄ちゃん、いい匂い……。私が一番大好きな匂い………」
莉緒はとろんとした目で宮都を見上げる。風呂上りだからなのか、それともそれ以外の理由なのか、莉緒の顔は上気していて、普段からは考えられない色っぽさを醸し出していた。
宮都は微笑みながらそんな妹を軽く撫でると、自分も入浴する事を告げて風呂場に向かう。まぁ腕を離してもらうまで少し掛かったが………
- 91 :
- 風呂から上がり髪を乾かそうとドライヤーを探したが、どこにも無い。よく考えたらドライヤーは今宮都の部屋にあるのだ。
それを思い出した宮都はタオルで髪を拭きながら自室へ向かう。
部屋では莉緒がドライヤーを持って待っていた。どうやら髪を乾かしてくれるらしい。特に断る理由も無いので宮都は椅子に座り微笑む。
「頼むよ」
「頑張る!」
莉緒は宮都の髪を乾かし始める。慣れない手つきではあったが頑張って乾かしている。
「ゴメンね、お兄ちゃん。下手で……」
申し訳なさそうに謝って来る莉緒に宮都は笑いながら返事をする。
「大丈夫だって、全然熱くないしちゃんと乾いているだろ?髪なんか乾けば良いんだよ」
「もぅ、お兄ちゃんったら……」
そしてしばらくの間無言。莉緒は髪を乾かす事に集中しているから、そして宮都は……
「なんか、眠くなって来たな。ふぁ〜あ……。莉緒の気持ちがわかるよ」
「そうでしょ?でもお兄ちゃんは私より全然上手いから、もっと気持ち良いんだよ?」
「そう?それは光栄だな」
宮都は莉緒と比べて髪が短い。だからその分乾くのも早いのだ。莉緒は乾いた事を確認して、軽く手で髪を整えた…が、アホ毛はなくならない。
「前から思ってたんだけど、お兄ちゃんも私みたいにかなり癖っ毛だよね」
「だよな……。父さんも母さんも癖っ毛じゃないのになんでだろうな?まぁ、万一2人が本当の親じゃなくても俺と莉緒は100%兄妹だな」
「うん、………お兄ちゃんとおんなじ……」
莉緒はうっとりと自分の髪をいじっている。そんな莉緒に笑いながら礼をする。
「ありがとな、なかなかに快適だったぞ」
「えへへ、どう致しまして」
莉緒は照れくさそうに笑い、頬を指で掻く仕草をした。
そして今はベッドの中。宮都と、莉緒がいる。莉緒は抱き枕に抱き付くかのように宮都を抱きしめて、胸に顔を埋めて眠っている。
莉緒に「……一緒に寝て」と言われた時、流石に宮都は断ったが莉緒は頑として聞き入れなかった。
結局宮都が根負けして一緒に寝ることになってしまった。宮都はため息を吐く。
「俺ってこんなに押しに弱かったのか…。まぁ、あんな泣きそうな顔は反則だよなぁ」
宮都はすでに眠ってしまっている莉緒を優しく抱きしめながらそう独りごちた。
その日から宮都の腕の中が莉緒の寝所になった………
- 92 :
- 以上です。恒例ですが、誤字脱字なとありましたら報告お願いします。
- 93 :
- うおおおおおテンションあがってきたよ!
ぐっとくるねぇ、いいねえ!
これからも楽しみにしてますんで頑張ってください!
- 94 :
- 待ってました!!GJ!
- 95 :
- >>92
お疲れ様でしたGJです。
話作るの上手いですねぇ…続きが凄く見たくなります。
偽りの罪、続き書いたので投下させてもらいます。
- 96 :
- 放課後の図書室――乾燥した空気が風と一緒にガラス窓の隙間から入り込んでくる。
カーディガンの縫い目をすり抜け、身体にあたる風は私の身体を痛く冷やす。
今の時間帯なら本来私は中学時代からの友達の島ちゃんこと、島田 圭(しまだ ケイ)と一緒に帰り道を歩いているのだけど…10日前から私は放課後この図書室に来るようになっていた。
「これはどうかな」
「それは一度見ましたけどあまり……あっ、これはどうですか?」
「それは見たことないかも…それじゃ、それ借りるかな」
理由は隣に座るこの男子――名前は滝 瞬太くん(たき しゅんた)
私は滝くんと呼ばせてもらっている。
私は異性の友達は一人としていない。
なぜ居ないのかと言うと、人見知り&軽い男性恐怖症が重なってしまい、男性の前に立つと呂律が回らなくなるから。
目の前に居る滝くんも実はそう……本人を目の前にしては口が裂けても言えないけど、本当は少し辛い……図書室なのだから静かにするのが当たり前なのだけど、会話が途切れる度に顔色を伺ってしまう。
滝くんも会話が途切れ無いように会話を振ってくれるのだけど、私は一言〜二言返すだけ…。
- 97 :
- 会話が途切れるのは完全に私が原因なのだけど、やはり男子との対話は一線引いてしまう。
そんな私がなぜ放課後、残ってまで友達でも無い異性と会話しているのかと言うと。
一言で言えば罪滅ぼし。
私の中にある罪が滅んでくれるのかは分からないけど、滝くんが学校を辞めないでいいように、少しでいいから学校生活の手助けになりたい…。
そしてもう一つ大きな理由がある。
それは、なぜ私に告白したのか…。
初めは罰ゲームや嫌がらせかと思っていたのだが、月日が経つにつれて友達が居ない事に気が付き、罰ゲームでは無い事を知る。
そして、こうして話しだしてから滝くんが嫌がらせ目的で人に告白するような人間では無いと判断できた。
じゃあなぜ何の魅力も無い私なんかに…
「どうかした?」
不思議そうに顔を覗き込む滝くん。
「え…ぁ、いえっ!なんでもないです!」
顔を反らして本棚に顔を向ける。
危ない…赤くなっているであろう顔をガラス窓に写らないように、うつ向き加減に本を探す。
「この列の本棚にまだ見てない本ってあるかな…」
私の顔色を知ってか知らずか、隣に滝くんが並び私と同じように本を探しだした。
- 98 :
- この一週間で私と滝くんはお互いの好きな本を、教え合うまでに会話が成立するようになっていた。
普通の人なら一日あれば笑いあっておどけあうのが当たり前なのかも知れない。
だけど私にはこれがものすごく大きな一歩だと思っている。
異性と会話が成り立つこの空間。
私と滝くんの二人で会話がちゃんと成立しているのだ。
「二人とも、もうすぐ閉めるわよ。本決まったの?」
と言っても図書室に二人しか居ない訳ではない。
月森さんが一緒に居るからこの空間が成り立っているのだろう。
“二人きり”なら多分まともに会話すらできないはず。
と言うか空気に耐えられない。
月森さんが居るから上手い具合に中和され、空間が保たれているのだ。
「はい、この三冊をお願いします」
薄い小説本を月森さんに手渡す。
一冊は私が決めて借りたモノ。
そして二冊は彼…滝くんのオススメで借りたモノ。
本ぐらいしか趣味の無い私は小説三冊程度軽く一晩で読んでしまう。
「図書カードに記入してね。それじゃ一週間までに返してね」
「はい、わかりました」
図書カードに借りた本の題名、借りた日付時間を書き込み、手渡した本を月森さんから再度受け取る。
- 99 :
- それを鞄に入れると「では、また明日」と、どうにも隠せない笑顔を浮かべながら二人に頭を下げて図書室を後にしようとした。
「おっ、三奈いたいた!」
扉を開けようと人差し指を窪みに引っ掻けた瞬間、突然力を入れてもいないのに扉が勝手にガラガラガラッと開いた。
「あれ?島ちゃんどうしたの?」
扉前に立っていたのは友達の島ちゃん。
図書室なんだからもう少し優しく開けなさいと言いたかったのだけど、私が島ちゃんに注意してもどうせ数分後には忘れてるだろう。
「皆と話し込んでたらこんな時間なっててさぁ、一緒に帰ろうよ。
あっ、静もお疲れ〜って……」
身長の低い私の頭上から滝くんが見えたのだろう。
月森さんを見た後、滝くんが居る方向に目を向けると、笑顔を消して私を見つめてきた。
「なんでアイツ居るの?」
島ちゃんが小さな声でぼそぼそっと耳元で呟く。
「なんでって…図書室なんだから誰が居ても不思議じゃないでしょ…」
別に間違った事は言ってない…。
「…まさか友達とかに…」
「な、なる訳ないでしょ…早く帰ろうよ」
まただ…また私は自分を偽ってる。
自分可愛さに…。
会話を聞かれていなかったか、ちらっと後ろを見て確認する。
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