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2012年6月少年漫画551: 【2次】漫画SS総合スレへようこそpart71【創作】 (261) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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【2次】漫画SS総合スレへようこそpart71【創作】


1 :11/07/13 〜 最終レス :12/03/05
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。
元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの話を、みんなで創り上げていきませんか?
◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇
SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。
過去スレはまとめサイト、現在の作品は>>2以降テンプレで。
前スレ
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1301615594/
まとめサイト(バレ氏)
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ(ゴート氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss

2 :
永遠の扉 (スターダスト氏)
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm(前サイト保管分)
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/552.html
上・ロンギヌスの槍 中・チルノのパーフェクトさいきょー教室
下・〈Lost chronicle〉未来のイヴの消失 (ハシ氏)
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/561.html
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/1020.html
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/1057.html
天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 〜惑いて来たれ、遊情の宴〜 (サマサ氏)
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/1110.html
上・ダイの大冒険AFTER 中・Hell's angel 下・邪神に魅入られて (ガモン氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/902.html
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1008.html
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1065.html
カイカイ (名無し氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1071.html 
AnotherAttraction BC (NB氏)
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm (前サイト保管分)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/104.html (現サイト連載中分)
美少女戦士の意外(?)な弱点 (ふら〜り氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1223.html

3 :
スターダストさんスレ立て乙、&力作乙です
なんかだんだんラストが近付いてくるようなキャストの集まりっぷりに
寂しさが募ってまいりますが、精神状態も躁状態になってる?
SSもそんな感じでぶっ飛んでたしw
何にせよ、年内で終わるのは確定っぽくて寂しいな。

4 :
強者も曲者も大集合ですな。草生やしキャラうぜえwwww
ダストさんもお忙しそうですが一気投稿は相変わらずで嬉しい。
現スレは盛るといいですね・・

5 :
ハルヒは長門が出した触手に体を弄られてる。
ハルヒ「ひっ…!ちょっとぉ!そこは違う!」
長門「いいえ。避妊でもある」
ハルヒ「くっ…、あ…」
長門「女性雑誌で、こちらがいいとデータあり。挿入します」
ハルヒ「ぎゃー!」

6 :
お疲れ様ですスターダストさん。
非常な奴や鋭利な奴も多いですけど、8割方は変人ばかりのSSですねw
ところが最近の新キャラはまで増えてきたwトキコが一番まともなんだろうな。
だけどビッチナースと今回の金髪ピアスはお気に入り。

7 :
>>http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1301615594/302-
刃牙が、じわりと間合いを詰める。優子が、ぞくりと押されて下がる。
優子は考えた。刃牙が何を考えているかはわからないが、弱点その1は間違いなく
的確に優子の弱点を見抜き、突いてきた。こうなると、その2もハッタリや勘違い
ではないだろう。
食らえば一撃KO。だが、必中ではないとも言っていた。ならば、食らわないように
するまで。防御重視、となれば【待ち】一択だ。
「ユーコスラッシュ!」
一つ覚え、と言われてもいい。自分の起点は全てここ。隙の少ない飛び道具、ユーコスラッシュ
をまず放ち、それに対して相手かどう動くかを見て自分が動くのだ。
刃牙は、跳んだ。スラッシュの上を越えて、優子の真上へと。
先ほど、ユーコインテレクチュアルで迎撃されたパターンだ。だが今の刃牙が、一度やられた
失敗を繰り返すとは思えない。何らかの対策を用意しているはず。つまり、ここで
インテレクチュアルを出せば、弱点その2とやらを突かれるのだろう。
『私の対空技が、一つだけだと思っているのなら。インテレクチュアルを破る手段を用意
できたというのが、「弱点その2」なら。貴方の負けよ、範馬君!』
優子は身を沈めた。一見、インテレクチュアルと同じ構えだ。そこへ刃牙が降下してくる。
だが、ここから優子の繰り出す技は、刃牙の想像を越えた威力を持つ技。ここまでの戦いで、
ゲージは既に満タン! 超必殺技の準備OKッ! ピキーンとSEがして光って、
優子は立ち上がったがその上半身の食らい判定は消失、そこを刃牙の蹴りが空振りした瞬間!
「ユーコノーボムッッ!」
ユーコインテレクチュアルを、残像を映す速度で三連続で放つNWOBHM。根元から全段食らえば
六段攻撃(インテレクチュアルは2HIT技)を受けることになり、そのダメージは絶大なものだ。
6HITの手応え、いや足応えを確かに感じて、優子は着地する。地面に、自分以外の人影=
刃牙の影が見える。それがどんどん小さくなっていく。ノーボムを受けて、上空へと舞い上がって
いるのだ。
後は、目の前にべちゃっと落下してディズニーアニメよろしく人型の穴を掘るであろう刃牙を
見下ろすだけ。ノーボムをガードできなかったのは視認したから、万一、立ち上がってきても、
流石にもうヨロレヒだろう。トドメを刺すのは容易だ。
「弱点その2、突けなかったみたいね範馬君」
刃牙の影が、大きくなってきた。落ちてきたのだ。このままここに立っていたら、当たってしまう
かもしれない。優子は一歩下がった。

8 :
「ん……?」
影の形が妙だ。気絶して、人形のように落ちてきているのとは違う。
まさか? と思って優子が顔を上げたのと、刃牙の咆哮が轟いたのは同時だった。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
頭を下にして、両腕を伸ばして、刃牙が元気に落ちてくる。
「そ、そんな馬鹿なっ?!」
ノーボムをまともに根元から全段受けて、こんなにあっさりと回復するなんて? いや、というか、
超必を空中で受けたくせにダウン回避できるなんて、根本的にシステム上、インチキだ。
とか言ってる場合ではない。勝ちを確信していたので、下タメができていないから、
インテレクチュアルは使えない。通常技での対空は不安がある。ここはガードしかないだろう。
間に合うか不安だったが、優子は上段ガードの構えを取る。一瞬後、刃牙が落ちてきて、
「ぅおりゃああああぁぁぁぁっ!」
ガシッッ! と。刃牙は優子の首を脇に抱え込んで、真正面から優子と向かい合う位置に降り立った。
プロレスなどでいう、フロントネックロックだ。
『? し、絞め技? 完全に私の隙を突いたのに? 今のタイミングならガードが間に合わない
可能性は充分あるんだから、最低でもジャンプ大キック→立ち大パンチ→必殺技の基本連続技を
狙うべきなのに。他にも小足の連打とか、投げとの二択とか、なんでもできたのに』
ギリギリと締められながら、優子はほくそ笑んだ。
『ふっ。ちょっとびっくりしたけど、やっぱり初心者ね範馬君。ここで、こんなミス……いえ、
ミスじゃないんでしょう。連続技とかをできる自信がない、もしくはそもそも知らなくて、
絞め技なんかを選択してしまったと。いいわ、締めなさい。そして離れた時、追撃を受けて
貴方は負ける』
ギリギリギリギリと絞められて、優子はちょっと苦しくなってきた。
『何だか……長すぎない、これ? そろそろ離れていいはず……』
ギリギリギリギリギリギリと締められて、優子の顔が青ざめてきた。
『ちょ、ちょっと! ストップ! タンマ! 何よこれ?! 私、さっきの跳び蹴り一発しか
受けてないのよ? まだまだ体力ゲージたっぷりあるのよ? まさか、このまま絞め技
一回だけでKOまで持っていかれるっていうのっっ?』

9 :
ギリギリギリギリギリギリギリギリと絞めながら、刃牙が言った。
「弱点その2。会長は、絞め技や関節技に弱い。正確に言うと、それらをかけられた後、
そこから脱出するような技術や力は備わっていない。まるで、そういう技は一定時間が
経過すると、相手が勝手に解放してくれると期待しているかのような」
『そ、そういうもんでしょ普通っっっっ?!』
「なんで会長がそんな風に考えているのかは知らないけど、俺はこのまま、会長が気絶するまで、」
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリと、刃牙は優子の細い首を絞める絞める。
「もう、放さないよ」
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ……………………優子の意識が、途切れた。
はっと気付いた時、優子はアンティークドールのようにぺたんと座っていて、後ろから刃牙に
支えられていた。どうやら、刃牙に活を入れてもらって覚醒したようだ。
つまり、負けたのだ。
「気付いたみたいだね」
「……負けちゃったみたいね」
はあ、と優子は溜息をつく。頭を振って立ち上がり、自分の拳を見つめた。
それから刃牙に向き直る。
「言い訳はしないわ。範馬君、貴方は強かった。私の常識を越えて、まるで別世界の人みたい」
いやいや非常識とか別世界の人とか、むしろ俺が言わせてほしい台詞なんスけど、
と刃牙は言いたかったが遠慮しておく。
「会長だって、凄く強かったですよ。俺がもう少し打たれ弱かったら、
最後の六連蹴りで終わってます。紙一重の勝負でした」
「ふふっ、ありがと。でもそれは、随分と分厚い紙一重……ってヤツよ」
差し出された優子の手を、刃牙が握る。
「知っての通り、俺にはやらなきゃならないことがあるんで。悪いですけど、
会長の計画とやらには協力できません」
「ん、わかってる。残念だけど仕方ないわよね。私、負けちゃったんだし」
優子は自嘲の苦笑を浮かべて、そっと手を放した。
「じゃあ、私はこれで。貴方の悲願達成を、陰ながら応援するわね」
「ありがと、会長。俺も、会長の計画の成功を祈ってるよ」
屋上を出て行く優子を、刃牙は手を振って見送った。

10 :
それにしても、と刃牙は思う。いろいろ言いたいこともなくはないが、とにかく
優子は強かった。まさかこんな身近に、これほどの強者がいようとは思わなかった。
まだまだ世界には、自分の知らない、想像もつかないような強者がひしめいている。
今度のトーナメントには、そんな奴らが集結するはず。
それらを全て打ち倒し、優勝したその時には。自分は、あの父の場所まで
駆け上がることができるだろうか。
『わからないけど……やるしかないよな』
決意も新たに、刃牙は拳をぐっと握って、
「刃牙くううううううううぅぅぅぅんっっ!」
後ろから轟く、梢江の叫びに突き飛ばされた。
振り向くと、またしても何やらただならぬ顔をした梢江が走ってきて、
「一体どーゆーことなのっ!」
「またいきなりそんなこと言われても、わかんねえよっ。今度は何?」
「だったら説明してあげるわ。今、ここへ上がってくる階段で、会長とすれ違ったのよ。
……あ、階段で、だからね。屋上へ出るドアに張り付いて、覗き見とか盗み聞きとか
してたわけじゃないからね」
それはそうだろう。あのバトルを目撃してたのなら、何がどうあれ優子を絞め落とした
刃牙に対して、フラッシュピストンマッハパンチぐらいは叩き込んでくるだろうから。
しかし見ていないのなら、この剣幕は何だ?
「で、会長に何があったのか聞いたのよ。そしたら会長、何だか残念そうに、でも
それを隠すように無理に微笑みを浮かべて、「フラれちゃったわ、私」ってひとこと
言って、去って行ったのよっ!」
『へ、変に気取った表現するのはやめてほしかったな会長っ!』
「さあ刃牙君、白状しなさいっ! あの、全校生徒のアイドルといっても
過言ではない会長をフったってのは、どういうことっ?!」 
「いや、それは、」
……説明してしまってもいいものか。優子はどうやら、自分の格闘能力のことに
ついては秘密にしているらしいし、「計画」のことも部外者に教える気はない=
秘密にしてる、ということらしいし。
などと刃牙が考えていると、

11 :
「会長よりキレイな女の子なんて、この学校にはいないと思うし、となると他校? 
もしかして女子大生のおねーさん、はたまた中学生に手を出した? それとも、
ま、まさか、女の子には興味ないとか? 実は男の子の方が……」
「待って待って待って待って! 落ちついて梢江ちゃんっ!」
「だったらどうして会長をフッたのよ」
「だからそれは、」
ここで「梢江ちゃんがいるからさ」とでも言えれば事態を収めることもできようが。
範馬刃牙、格闘経験は豊富でも恋愛経験についてはそうでなく、
まだ色を知らぬ年頃であるからして。
そして梢江の方も、自分が優子を差し置いて刃牙から想われている、とは
想像もしない。松本梢江、こう見えて慎ましやかな少女なのだ。
「ま、まあその、俺にもいろいろ事情があるってことで!」
刃牙は逃げた。
「あ、こら待ちなさーいっ!」
梢江は追いかける。
世界中から強者が集う、最大トーナメントの開催はもうすぐ。
範馬刃牙17歳、血生臭い戦いを控えて、束の間の平和な青春を送っていた。

12 :
以上です! ここまでご覧頂き、ありがとうございましたっ!
ベガやサガット、ギース様辺りなら勇次郎でも勝てそうな気もしますが、
流石にゲーニッツは無理だろうなぁ。でもオロチはきっと楽勝。
>>1さん=スターダストさん
おつ華麗さまですっ! 70を越え、振り返れば幾年月。ここまでの、スターダストさんや
サマサさんの総執筆量は相当なものになっているでしょうねぇ。しかも、ただ多いだけでなく、
燃え&萌えの質も充分に高くて。始祖たるパオさんも、そうでした。
>>サマサさん
QB、あくどいけど契約上のルールは厳守するってとこ、本格的に「悪魔」っぽい思考ですね。
で「おまじない」……こういうのはアレですよね、お礼に、とかごほうびに、とかそういう肩書き? 
がつくことで可愛さが増しますな。健気なヒロインと漢なヒロイン、双方それぞれ魅力的でした!
>>スターダストさん(原作のみならず、小説版までご存知とはああああぁぁぁぁっっ?!)
戦部が徹底的に戦部らしいですねえ。戦うことへの姿勢といい、ブレミュの捉え方といい。
とりあえず過去の因縁が一つ。ですが戦士たちは過去、かなりの人数がマレフィックにやられて
ますから、実は昔、親友を殺した謎の犯人が今明らかに! なんて因縁持ちが他にもいるかも。

13 :
ギガゾンビ「独裁者があのスイッチを使った例、そんなもんは都市伝説です」。
「だいたい、『第二の中世』『仙境の中世』と謳われて久しい宇宙世紀にどうやって何を独裁するの?」
ドラえもんが「独裁スイッチ」と呼んだ道具は、惑星の機械化・文明化をテストするものだ。
23世紀に於いては生活用として民間にも開放されているが、22世紀ではまだ違う。
児童・老衰者・各種障がい者はもちろん、性格紊乱者や単身世帯の一般人を
抜き打ちで投入して任意の期間住ませて、期間終了時の健康状態や満足度などを測るのだ。
22世紀ではしばしば、本来の用途でない使い方がされる。
たとえば、バトル・ロワイアル。
ナレーター「お待たせしました、天下一サムライ選手権を開催します!!」

14 :
カイカイです。出場するキャラクターを募ります。
時代はいつでもかまいませんが、飛び道具をあまり用いず
特殊能力も無いキャラクタに限ります。
その条件を満たせば、一般人とかでもかまいません。

15 :
じゃ、WATCHMENのロールシャッハとダークナイト(バットマン)のジョーカーだしてくりゃれ

16 :
名探偵コナンの毛利小五郎お願いします

17 :
ふらーりさんお疲れ様でした。
久しぶりのふらーりさんの可愛らしい世界を堪能しました
サマサさんとともに完結記録をまた増やして下され。
カイカイさん、斉藤一で。

18 :
ジョーカーはよく銃ぶっ放してるじゃないか
シャッハさんには俺も投票したい

19 :
カイカイさんギガゾンビ好きだなw
じゃあ、ガッツで
ふら〜りさん、またちょくちょく短編でいいので書いてください
あなたの変な方向への走りっぷりが大好きだ

20 :
「で? いつになったら話してくれるの?
 申し訳程度に作られた地下室。中央のヴィクトリアは嘆息しつつ問い掛ける。まひろはやや俯き加減なので、気持ち上体
を屈め覗きこむような格好だ。腰に手を当て返答するよう鋭い上目遣いを送っているがやればやるほどまひろは委縮する
らしく──怯えているというよりは、「びっきーがこれだけ真剣に聞いてくれるんだからちゃんと言わなきゃ」と言葉選びに一
生懸命になり、ますます言えなくなっているようだ──埒があかない。もとより狭量で短気なヴィクトリアだ。流石に怒りのマー
クが跳ねのある前髪で脈動し始めたころ、意外なところから声が掛った。
「いう必要もない!! 貴様の悩みなんてのはこの蝶・天才の俺にかかれば全部全部お見通しだ!!
「ひゃあああああ!?」
 素っ頓狂な声はヴィクトリアの口から上がった。見ればパピヨンの顔がすぐ横にいる。それだけなら何とか耐えられたが、
なぜか彼は逆さ吊りになっていた。名状しがたき気持ち悪さだった。うっすら涙の溜まった眼で慌てて天井を見る。申し訳程度
に低く作り過ぎたか。長身の彼は片足を天井に刺し、ぶら下がっていた。もう片方の足はバレエダンサーのように高々と掲
げられてはいたがあまり意味は感じられない。ただの趣味なのだろう。薄い胸に手をあて背を丸め「びっくりした」。見た目
相応のあどけなせで荒く息をつくヴィクトリアだ。
「? 何をそんなに驚いている?」
「どうしたのびっきー? 蜘蛛さんでも降ってきた? 任せて! 怖かったら私が取るよ!」
「な! なんでもないわよ!!」
 全く分かってない様子のボケ2人にヴィクトリアはかなり本気で泣きたくなった。パピヨンの容姿は決して嫌いではないが見
る角度によっては美しさが突然醜怪なものに変じるらしい。純粋に突然の声に驚いたというのもある。
「蜘蛛ねェ。おいヒキコモリ。そろそろ蜘蛛の糸を垂らしたらどうだ。この俺がめずらしく貴様の都合に付き合ってやったんだ。
さっさと出口を開けるのが筋にして貴様がやるべき責務! 急げ!! さっさと!!」
「分かったわよ」
 ぐんらぐんらとシャンデリアのように体を揺すってまくしたてるパピヨン(残像さえ発生し、そのせいで5体ばかりのパピヨン
が同時に存在するという悪夢を見せつけられた)にいささか辟易しながらヴィクトリアは地上への入口を開こうとし──…
少し考えてから冷笑を浮かべた。
「足。刺さってるわね。そこに開けたらどうなるかしら? やっぱり落ちる?」
「ホウ。いつの間にか随分なコトを言うようになったじゃあないか! やってみ!!」
「冗談よ冗談」
 クスクスと笑いながらヴィクトリアは部屋の隅に出口を開いた。転瞬パピヨンはくるりと宙を舞い「しゅた!」と言いながら
両手を広げとても華麗かつ美しく素晴らしく麗らかに華やかにとにかくすごくカッコよく着地した。まひろは拍手し「10.0」と
書かれたプレートを掲げた。無理やりそれを握らされたヴィクトリアも嫌そうな顔で相談相手に準じた。
「とにかくだ。武藤まひろ」
 軽く肩をいからせながらパピヨンは出口へ歩いていく。背中を向けているため表情までは分からない。
「奴が貴様の描く予想図通り動いた試しがあったか? なかっただろう。あの男は常に必ずこちらの企図を飛び越える。
ならば貴様如きが幾ら悩み抜こうと無駄なコト。下らない葛藤から逃げ回る暇があるならこの俺パピヨンのように何か一つ
でもそれらしいコトでもやってみせろ」
「……うん。ありがとう監督」
 振り返りもせずパピヨンは鼻を鳴らし──…
 やがて彼の姿が地下から消える頃、ヴィクトリアは嘆息した。
「いいわねアナタは。ああいう優しい言葉をかけて貰えて」
 しばらくパピヨンと行動を共にしているからこそ分かる。あれは彼なりのエールなのだ。平易すぎるまでに要約すれば「心
配無用。アイツを信じろ。やれるコトをやってその時を待て」だ。他者を受け入れないパピヨンとしては破格なまでに親身な
言葉だ。アイツ、とはもちろんカズキのコトだろう。
(私には、何もいってくれないのに)
 ヴィクターの件に関し特に励ましらしい励ましを受けた覚えのないヴィクトリアである。自分の力でどうにかすべきだとは
思っているが、いざ似たような立場のまひろにだけ優しい言葉が掛けられるのを見るとダメだ。心臓が軽く締め付けられ
る。睫毛の細い瞳を伏せる。鼓動が少し早くなる。自分とは違うまひろへの対応にこわごわとしたものを覚え、気づけば
セーラー服の胸元をくしゃりと握りしめていた。

21 :
(優しいのはアイツの妹だから? それとも──…)
「それにしてもやっぱりびっきーと監督って仲いいよね」
 何気ない一言にヴィクトリアは「ああもうこのコは!」と怒りたくなった。誰のせいで悩んでいると思っているのだ。やや不快
になりつつもまひろはそういう相手だとも割り切っているので口論には発展しない。ところどころ欠点もあるが美点も多い。
明るく、他人思いで、素敵な笑顔の持ち主で、その場にいるだけで周囲を和やかにして──…
 美点を数えるたびその名前の刻まれた石碑が肩にズンズン乗っかってくるようで全く落胆の一途だ。「どれも私にないじ
ゃない……」。羨ましいやら悲しいやらだ。暗い感情の具現たる紫色のどよどよした空気の中、ただただ溜息をつき肩を落
とす他ないヴィクトリアだ。。
(アイツが、アイツが気に入ってもおかしくない…………)
「どうしたのびっきー」
「……ほっといて。というか私とアイツそんなに仲良くないわよ」
 考えれば考えるほど悪循環に陥りそうなのでヴィクトリアは話題を変えた。
「そーかなあ。監督が誰かとあんなに打ち解けて話してる姿、初めて見たよ」
 優しい。慰めてくれる。私怒っているのに……。そんな碑銘の石ころ3つが石碑の塔へ次々ダイブ。重みで肩がまた落ちる。
(ああもうイヤ。悩み聞こうとしただけなのになんでこんな気持ちにならなきゃ……)
「そうよ! こんな会話してる場合じゃないでしょ!! さっさと悩み言ったらどう!!?」
「ええーーーーーーーーー!?」
 突然叫びだしたヴィクトリアに面食らったらしい。まひろは両目を剥いてあらん限りの驚愕を浮かべた。
 しまった叫び過ぎた。らしからぬ感情発露をごまかすようにぜぇぜぇ息を吐き、きゅっと唇を結ぶ。
 ヴィクトリアはやや迷いがちにトーンを落とし、ぽつりぽつりと呟いた。
「………私は、アナタや早坂秋水ほどたくさんの物事を乗り越えてきていないし第一こんな性格だから、解決策なんて出せ
ないかも知れないわよ」
 でも、と今度はややバツが悪そうに距離を取り、そっぽを向いた。そして一呼吸。二呼吸。わずかな沈黙を作ってから静
かに静かに呟いた。
「聞き手ぐらい、努めさせなさいよ」
「…………?」
 聞き逃してしまいそうなほど小さな声だった。最初まひろはこの人形のような少女が何をいったのか分からなかった。それも
その筈で彼女はよほどその文言を告げるのが気恥ずかしいらしく、か細い息をつきながらようやく言葉を捻出しているという
様子だった。右手は垂らし肘に左の掌を。そっぽを向いても”絵”になる少女だった。
「私なんかが相手でも、言って、スッキリして、本音に気付くぐらいはできるでしょ……?」
(あ…………)
 やっとまひろは気付いた。「相談してほしい」。遠まわしだが確かにそう言われているのを。
 微かに赤い頬の上で鋭い三角の目がじーっと自分を見ている。瞳孔は相変わらず明るいところのネコのような夜行性爬
虫類のような垂直のスリット型だ。「冷たい」、平素そう見えるそれもいまはどぎまぎと瞠目中だ。言い方が正しいかどうか迷っ
ているのだろう。そもそも相談に乗ろうとする姿勢が気恥ずかしくて照れくさいのだろう。そんな感情を持て余しているらしく
細い眉さえごうごうと吊り上がっているのも見えた。眦(まなじり)直下にはひとしずくの汗さえ浮かんでいる。焦りと羞恥と
真面目さとでガチガチに緊張した、ユーモラスでさえある目つきだった。横向きの口も珍しくにゃらにゃらとした波線に結ば
れている。まひろでさえ初めて見る表情(カオ)だった。
 もしかするとこの毒舌少女は生まれて初めて相談を受けようとしているのかも知れない。敢えて特技がまったく通じない行
為をやろうとしているのかも知れない。
 気づいたまひろは、後ろに手を回しふわりと微笑した。
「ありがとうびっきー。私なんかのために。心配かけてゴメンね」
「別に。感謝してるならさっさと言いなさいよ。まったく。武藤カズキがらみの悩みだなんて最初から見当ついてたのに」
 すぐ横道に逸れるんだから……ぶつくさと文句を言うヴィクトリアが髪をかきあげ向きなおった瞬間、まひろの腹はくくられた。
「そうだよね。監督の言う通りなんだよね。私がいくら悩んでもいても、「帰ってこないかも」って心配していても、お兄ちゃんは
いつだって戻ってくるって約束して、ちゃんとそれを守ってくれた。「すぐ」か「長いお別れになるけど」って違いはあるけど、
必ず……って」

22 :
 まひろはとても申し訳なさそうにヴィクトリアを見た。
「実をいうとねびっきー。少し前、秋水先輩が気付かせてくれたの。最後に会ったときお兄ちゃん、「長いお別れになるけど
必ず戻ってくる」って約束してくれてたの。なのにまた同じコトで悩んでいたのはね……」
 いま自分を苦しめている悩み。武藤まひろは訥々とそれを語りだした。
「ほう。こんなに長くねェ」
 校舎の傍の秋水を眺めながらパピヨンは下顎に指を当てた。毒々しい蝶々覆面の下に微かだが感心の色が浮かび、す
ぐ消えた。地上に戻りしばらく歩いていると疾走中の秋水が見えた。向こうはパピヨンにさえ気付いていなかった。何かを賢
明に求めているらしく、ただただひた走り体育館や校舎に入っては落胆と焦燥の表情で出てくるという繰り返し。15分ほど
は走っていた。面白半分に尾け回していたパピヨンは「そろそろ飽きたかな」と1人ごち秋水めがけ優雅に歩き出した。
「 呆 れ た 」
 相談を聞き終えるとまず、まさに言葉通りの顔つきをした。
 ヴィクトリアのコトである。
 乗る前の緊張もどこへやら。いつもの毒舌少女の顔つきで彼女は相談内容を実に簡潔に述べ、斬って捨てた。
「要するに『武藤カズキがいなくて寂しいから』『早坂秋水が自分のコト好きだったらいいなって思った』だけじゃないソレ」
 まひろの顔はみるみると赤くなった。「ちちち違うの」「そうじゃなくて」とあたふたするも悉くを論破され、こっきんと俯いた。
 勝った! 何にどう勝ったのかは分からないが、とにかくヴィクトリアは両手を腰に当て薄い胸を逸らし得意気に鼻を鳴らした。
「……簡単にまとめすぎだよ。びっきー。私、私、もっといろいろ言ったよ…………?」
「でも結局そうじゃない。そうだからそう言えずにアイツから逃げたんでしょ? 違うの?
 ぼっ、という音がした。よく見ると俯いたまひろは首筋まで真赤にして黙り込んでいる。図星としかいいようがない。
「とりあえずアナタのいったコト、順番にいうわよ。まず最近演劇部が賑やかになってきた。転校生たちも何人か入ってくる。
上り調子よ。だから部活が毎日楽しい」
「……うん」
「でもそこに武藤カズキはいない。楽しいからこそ不在が悲しい」
「……うん」
「一度そっち方面に気持ちが行っちゃうと、津村斗貴子や千里や沙織、武藤カズキの親友たちや早坂姉弟にあの管理人
(防人)も寂しいんだろうなって思って、どうしようもなくなる。合ってる?」
「……うん」
 頷くばかりのまひろだ。平素少しは自重しろと思っているヴィクトリアでさえ元気出しなさいよと毒づきたくなる状態だ。
「そして武藤カズキを含む他人のコトを考えると自分だけ楽しんでいていいのかと思う訳ね。で、楽しめなくなる。代わりに
もう解決した筈の”武藤カズキは戻ってくるのだろうか”という不安ばかりがまた首をもたげてきて、押しつぶされそうになる。
寂しくて寂しくて仕方なくなる」
 ヴィクトリアはだんだん楽しくなってきた。いよいよ羞恥が濃くなってきたまひろを冷たい笑顔で眺めた。
 口を開く、銃弾のように言葉を注ぐ。
「でもそれは相談できない。なぜかというとさっきいった通り、周りの人間も同じ悩みを抱えているから。迷惑をかけてしまう
……そんな妙な遠慮が湧いてきて、誰にも何もいえずにいる。早坂秋水でもそれは同じ。いえ、もっとヒドいかしら。なぜなら
武藤カズキの件はアイツが一度解決してるもの。蒸し返せばアイツは無力感を感じるでしょうね。自分の言葉では解決できて
いなかった……本当はそうじゃないからこそ、アナタは早坂秋水に無力感を覚えさせたくない。だから、相談できない」
 罵るような分析と反復だ。相談やカウンセリングにはとんと不向きな少女である。(特殊な需要層はヨロコぶだろうが)
「そんなとき、早坂秋水と目があった。アイツはアナタを見て微笑していた。だから期待してしまった。実は自分のコトを……と」
 ぶんぶんぶんとまひろは首を縦に振った。「そこは否定すべきトコでしょ」。呆れながらもあまりの素直さへ逆に感心さえ覚
えてしまう。
「でもアナタはこうも思った。『武藤カズキがいない寂しさを早坂秋水で埋めようとするのは失礼』……って」
 ここでまひろはやっと復活。いつものごとくヴィクトリアの肩を持ち、大っぴらに揺すり始めた。
「だだだだって秋水先輩まだいろいろやるコトがあって大変なんだよ!? きっとお兄ちゃんに直接会って謝らない限り、本
当の意味で前へ進めないと思うし……!!」」

23 :
(ハイハイ揺すりなさい揺すりなさい。元気出てきたようで何よりね。とても、すごく迷惑だけど)
 最近まひろに対する気分が悟りの域に達しているような気がしてならぬヴィクトリアだ。ガンジス川のように総てを受け入れ
柳のように受け流すのがもっとも効果的な戦法なのかも知れない。そんなコトを冷めた表情で思いながら束ねた金髪と形の
いい白い顎をやられるままされるまま、がっくんがっくん揺らしている。
「そんな時に私が困らせるようなコト言ったりしたらダメだよ! あくまで私は秋水先輩に協力しなきゃ!! 先輩がお兄ちゃ
んにちゃんと謝れるよう支えてあげなきゃ……今まで一生懸命私たちのために戦ってくれた2人に悪いよ!!」
 ヴィクトリアを解放するとまひろは明後日の方向を向きながら拳固めて力説した。「どこ向いて喋ってるの」。半眼ジト目の
ツッコミはまるで届いていないようだ。くるりと反転すると今度は深刻な表情でこう語る。テンションは乱高下まっさかりだ。
「みんな、みんな……お兄ちゃんがいなくて悲しいんだよ? 寂しいんだよ? なのに私だけ秋水先輩お兄ちゃんの代わり
にしようだなんて…………ダメだよ。斗貴子さんだって辛いよ」
 大きな瞳にうっすら涙を浮かべるまひろをヴィクトリアは無言で眺めた。
 カズキはいまもまだ月面で戦っているのである。この惑星(ほし)にいる大勢の守りたい人のために。その辺りを知ってい
るからこそ、周囲もまた辛さを感じているからこそ、、まひろは自分だけ楽しむコトを許せないのだろう。
「そうね。辛い時、楽しそうな人間が傍にいるのは気分悪いもの。そこまで考えて踏みとどまってるだけ、アナタはまだまだ
マシな方」
「偉くなんかないよ……。秋水先輩、お兄ちゃんの代わりにしようとか思っちゃったもん私」
(代わり、ね)
 まひろを悩ましているのはその言葉らしい。笑みが漏れる。ヴィクトリアは少し昔のコトを思い出した。振り返れば滑稽な、
それでも当時は深刻だった悩みが脳裏に去来する。それを言えばまひろの本音も幾分引き出しやすそうだが、いきなり
核心をついても却って縮こまるだろう。自分の弱さを嫌というほど見てきたヴィクトリアなのだ。弱みを突かれた人間が
どういう反応を示すかぐらいは知っている。まずはまひろの好きそうな話題で外堀を埋めるコトにした。
「別にいいんじゃないの。あっちもアナタのコト、嫌いじゃなさそうだし」
 むしろ別格といえるのではないか? 
 ヴィクトリアはこれまで見聞きした様々な情報を元に、いかにもまひろが喜びそうな秋水情報を提供する。
 沙織の話では入院中の秋水を見舞う女子生徒は数あれど、ともにハンバーガーを食べてるのはまひろだけらしい。
 千里の話では8月の終わりに秋水自らまひろを食事に誘ったとか。
 メイドカフェではまひろのメイド姿に目を奪われていたし、演劇がらみではまひろと一緒に何か作業をしているという。
 学園のアイドルに憧れる他の女子生徒にしてみれば血涙を流したくなるほどの圧倒的アドバンテージをまひろは誇っている。
 にも関わらず当の本人だけはまったくそれに気づいていない。
 なんだか普通の人間の、普通の女子生徒──実際そういう容貌なのだが──がする様なコイバナで持ち上げたり喜ばし
たりするヴィクトリアだ。心中「なにやってるのよ私」という疑問もあったが、話していると不思議なもので心がうきうきと踊り
立ち、だんだんだんだん本当に秋水がまひろを好いているように思えてきた。
 一方のまひろはいろいろ驚いたり期待に満ちた表情をしていたが、すぐに「でででででも」と手をばたつかせた。しかし表情
は満更でもなさそうなのがまひろのまひろたる所以なのだろう。
「いいじゃない。最初はアイツの代わりでも。付き合っていく内にその人そのものを見るようになっていけば案外うまく行く
んじゃないかしら? 人間関係の始まる、ひとつのきっかけとして捉えたらどう?」
「おー。さすがびっきー。大人だね」
「当たり前よ。こう見えてもアナタのおばあ様より年上だもの」
 ヴィクトリアというとあまつさえ上記がごとき悟った意見さえ述べ始めるから分からない。もちろんコレはまひろの心を自分
好みの方へ誘導するための方便だ。まひろ以外の人間を救う措置など何もない。斗貴子に聞かれたが最後ヴィクトリアの
首から上は鎌上(れんじょう)で罵声を浴びるだろう。

24 :
 他人思いではあるが刺激的な出来事にはすぐ忘我し暴走するまひろだ。呈示された解決策に思わず目を点にし両頬に
手を当てた。だいぶ心が揺らいだらしい。それでもやはりすぐさま他の人間との兼ね合いを思い出したらしく、ぶんぶんと
栗色の髪を左右に振り一生懸命喋り出した。
「確かに秋水先輩、お兄ちゃんのコトで私にいろいろ良くしてくれたけど……でもそれってやっぱりそれはお兄ちゃんのコ
トがあったからだし、ダメ。ダメなの。期待なんかしちゃ! それに、それにね、私!」
 またも拳を固めたまひろ、今度は目をぐるぐるの渦にし滝のごとく涙を流した。
「お兄ちゃんの代わりに私へ謝ろうなんていうのはダメだよ? ってカンジのコト、言っちゃってるしーーーーーーーーー!」
「墓穴ね。自分を武藤カズキの代わりにしないでって言った以上、アナタも早坂秋水をそうできない」
 この世の終わりを迎えているのかと聞きたくなるほどまひろは苦悩している。とうとう彼女はわーっと泣きながらヴィクトリアの
胸に飛び込んだ、
「どうしよう! 私どうしたらいいのかなびっきー!  このままじゃ秋水先輩にあわす顔がないよ!」
 機械のような無表情で頭をぽふぽふと叩きながらヴィクトリアは「そうね……」と言葉を紡ぎ始める。やっと本題に入れる。
 そういう思いがあった。
「馬鹿ね。さびしいから代わりにしたい。それだけしか考えられない人間が、アナタみたいに悩むと思う?」
「ふぇ?」
 ヴィクトリアは顔をしかめた。セーラー服にまひろの鼻水がべっとりと付いている。固めた拳を怒りに震わせかけたが
意志の力で鎮静し、ただしやや迫力のある力強い声で文言を継続する。
「最初に断わっておくわよ。同情はしないで。悪いコト聞いたなんて謝ったりしないで。いい? 私が自分で話すって決めた
コトなんだからいちいち嘴を挟まないで。分かった?」 
 良く分かっていないようだがまひろは不承不承うなずいた。
「ココに来る前、私のママがね。死んだの。しばらく……寂しかったわ」
 その言葉を皮切りにヴィクトリアは語りだす。かつてその母の面影を千里に見ていたコトを。髪を梳いてもらうたび母にそう
して貰っているようで嬉しくて、いつしか彼女を母の『代わり』として見ていたコトを。だが皮肉にもそれがきっかけで千里に
対して食人衝動を覚えてしまった……一時期寄宿舎から姿を消していた理由の暗澹たる部分まで包み隠さずまひろに話す。
彼女はフクザツな表情だが、ヴィクトリアの刺した釘を守り同情めいたコトは何一ついわない。食人衝動についても決して
蔑視を浮かべずただ「道理で辛かったんだ」という光を目に宿した。親友を食べようとした。その事実に対する恐れより、
食べたくなってしまった不幸を悼んでくれているようだった。そんなまひろで、少しだけ嬉しかった。
「いい。経験者に言わせればね。寂しいからすり寄る。そんな感情ならいちいち相手へ悪いとか思わないわよ。情けないぐ
らいめそめそして、悲しさから逃げる為だけにすりよって。そうして上手くいかなくなったら逃げるだけ。まったく。自分でも情
けなかったわよ」
「逃げる……」
 まひろの顔が曇った。「そんなカオは全部聞いてからにしなさい」。ぴしゃりと言葉で叩いてから、ヴィクトリアは冷たい上目
遣いで相談相手を凝視した。
「自分の寂しさを埋めたいから代わりにする。それだけしか考えられない人間が、アナタのようにいろいろ考えると思う?
現にアナタ、代わりにしたいって自覚した瞬間アイツから逃げてるじゃない。私は違うわよ。自覚してからもママとの区別を
つけようともせず千里に髪ばかり梳いて貰ってたもの」
「それは今もなの? びっきー」
「いえ。千里は千里だって分かっているわよ。お陰さまで、アナタとアイツに連れ戻された時からね。でもアナタは武藤カズキ
の代わりにしようとする前に早坂秋水から逃げた。つまり『本心では代わりにしたくない』。その辺りは昔の私と違うわよ」
「うぅ。私の心なのに難しい。難しすぎるよびっきー」
「呆れた。アナタの心だからでしょ。アナタ自身がフクザツにしてるだけじゃない」
 泣き笑いするまひろだが罪悪感はやや消えたらしい。そこを見計らったヴィクトリア、すかさず問題の核心へと斬り込んだ。
「アナタは言い訳しているんじゃないの? 本当の気持ちは別にあって、でもそれを満たそうとすると結果的にアイツを武藤カ
ズキの代わりにしてしまうって気付いてしまった。だから迷っている。私にはそう見えるけど」
 どんぐり眼が瞬いた。言葉の意味を測りかねたのが見て取れた。

25 :
 それもその筈だ。指摘が示すはまひろの悩みから2段も3段も上の領域だ。
「もう一度聞くけど、アナタの本音はどうなの? アナタの本当の気持ちはどうなの?」
「本音……?」
 切なげに眉を寄せ、まひろは少し視線を下げた。
「私の推測も交じってるけど、アナタ早坂秋水のコト、好きなの? 好きだからこそらしくもなく色々考えて遠慮して、怖がってるの?」
 一気に畳みかけるヴィクトリアだ。まひろ相手にはこれほど直截簡明(ちょくせつかんめい)な物言いの方が効くと踏んだから
だが、言い終わるやいなや別の思案も湧いてきた。
(なにこの青臭いセリフ)
 先ほどまひろの祖母より年上とのたまった少女がいうにはやや滑稽なセリフだ。鐶がするような黒一色の戯画的半眼を
しつつやや引き攣った顔をする。だんだん、恥ずかしくなってきた。何を自分は言っているのだろうかという思いが湧き、つ
いで他人の恋愛に口をはさむより先に自分のコトをどうにかしろという空しさも湧いてきた。恋愛? なぜか浮かぶパピヨン
の顔にやや顔を赤らめながらじつと俯く。知識の中にしかなかった思春期という化石が今は生々しく蘇り感情の中を泳いで
いるようだった。
 まひろはまひろで深刻だ。期せずして2人は同時に盛大な溜息をついた。
「そんなコト……考えたコトもないよ」
 まひろは顎に手をあて悩ましげに俯いた。瞳も熱く潤んでいる。
「そりゃ秋水先輩はカッコいいし優しいよ。でも照れ屋さんで不器用で、見てるとどうしても助けたくなっちゃうし、そこが可愛
いかなあとは思うよ。私だっていろいろ助けてもらったし…………。お兄ちゃんがいなくて、寂しいけど、先輩が色々いって
くれたから今まで何とかやってこれた訳で……。でも、好きかどうかなんていうのは…………分からないよ」
 まひろはくるりと背を向け小石を蹴るようなしぐさをした。腰のあたりに回された手と手の間で時おり幼い指同士がぎゅうっと
絡みう。籠る力は苦悩のほどを示していた。
「だってね。私……斗貴子さんもちーちんもさーちゃんも六舛先輩たちもブラボーも桜花先輩も、監督も、それからもちろん
びっきーも、とにかく周りにいるみんな大好きだよ。もちろん秋水先輩だって大好きだけど、でもみんなへの大好きと違うか
どうかまでは分からなくて……」
(気付きなさいよまったく)
 何度目かの嘆息をしつつ、ヴィクトリアは天を仰いだ。狭い地下なので灰色の天井が広がっているだけだが、何か挙動
を取らなければ間が持たない気がしたのだ。
(ふだん何も考えず突っ込んでくアナタがそこまで深刻になってる時点で──…)
(答えなんて分かりきってるじゃない)
 視線を移す。まひろの背中。語りかけるように凝視する。
 
 彼女はフラれるという結果など恐れていないようだった。秋水がそう決断したとしても彼への手助けはやめないだろう。ヴィ
クトリアは心底からそう思った。まひろは見返りや自分への好意は求めていない。何か問題があれば自分の身を顧みず、
他人のためだけに動ける少女だ。
 だから「フラれる」という結果的なものより、「カズキ不在の中、秋水へ一歩踏み出そうとする」自分の決断、過程こそ周囲に悪いと
思い相手にさえ遠慮しているフシがある。
(これ以上つつかない方が良さそうね。迷う気持ちはそうすぐには変えられない。自分のコトさえ100年間どうしようもなかった
私がこのコの悩みを全部解決しようなんて思い上がりもいい所。傲慢じゃない)
(できるコトは1つ。たった1つ──…)
 近づき、ぽんと肩を叩く。戸惑ったように見返してくるまひろにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「とにかく。まずはいまの指摘が合ってるかどうかじっくり考えなさいよ」
 思わぬスキンシップに一瞬喜色を浮かべたまひろではあるが、すぐに太い眉をハの字に歪め哀願するように訴える。
「でも、私そんなに頭良くないよ? すぐこんがらがって分からなくなっちゃうかも」
「その時は今みたく私に話せばいいでしょ?」
 唖然とするまひろに「してやったり」とばかりヴィクトリアは笑みを浮かべた。
「私なんかが相手でも、言って、スッキリして、本音に気付くぐらいはできるでしょ。どうせアナタは一人で悩んで貯め込んでも
何も解決できないわよ。だったらどこかで適当に発散すればいいじゃない」
「で、でも……それじゃびっきーに悪いような」
「悪い?」

26 :
 フンと鼻を鳴らすとヴィクトリアは思いっきり皮肉と冷淡の混じった笑みを浮かべた。演説の題目は2人の関係性。まひろにされた
所業がどれほど嫌で苦痛を感じたか、だ。氷の釘で射抜くようにチクチクと毒舌を振るう。そしてそれを最後にこう締めくくる。
「今まで散々私を苦しめたアナタよ。いまさら何したって悪いも何もないじゃない。ホラ。こっち向きなさいよ。ねえ」
 戯画的な表情で丸っこい涙をどらどら流すまひろの顎に手を伸ばす。首のしなやかな稜線を駆け抜けた繊手が下顎を撫でると
豊かな肢体がピクリと震えた。刺激に喘ぐ愛らしい顔立ちが恐る恐る見返してくる。いいカオ……妖しく震える嗜虐心。ヴィクトリアの手は
まひろの頬をつるりと撫で皮膚と栗髪の間に潜り込んだ。ぱさついた髪の束が浮き上がり、まひろは小さな叫びを軽くあげた。
「それとも……私じゃダメ……? アナタも武藤カズキしか見てないの……?」
 
 まひろは見た。眼下で急に瞳を潤ませるヴィクトリアを。やや紅潮した顔は名状しがたい切なさを孕んでいた。思わず唾を飲む。
彼女は恐ろしく攻撃的な姿勢とは裏腹に懸命に背伸びをしていた。踵や足の甲がぶるぶると震えていて、それだけなのにとてもと
てもズキリと来た。
 普段軽くのぼらせる「可愛い」とは違った何かを感じる。桜花の美しさともまた違う何かが。今すぐにでも抱きしめたいが抱きしめると
ヴィクトリアの関係性が変わっていってしまうような予感がした。それはともかくとしてまひろは純粋にヴィクトリアの申し出が嬉しかった
ので──そういう明るい感情を前面に押し出さないと美しくも甘い雰囲気にどうにかなってしまいそうだったので──とびきりの笑みを
浮かべ快諾した。
(アナタも? 誰か他の人もそうなの? 秋水先輩のコトならそこまで悩まないよね?)
(誰なのびっきー? その人は)
 かすかな疑問を、残しつつ。
「分かってくれればいいのよ。とにかく逃げるのだけは絶対ダメよ。何の解決にもならないんだから」
 かつて人喰い衝動の件で寄宿舎から逃げた時のコトを思い出しながらヴィクトリアは最後の注意を始めた。
「気遣うコト自体は悪くないわよ。むしろアナタにしてはよく配慮した方。だけど早坂秋水にしてみれば、アナタに逃げられ
るのは迷惑な話よ? 分かるわよね。少し前の話だけど、説得さえ怖がって地下へ逃げ込んだ誰かさんが居たでしょ?
その誰かさんを追ってわざわざ地下まで来るの、大変だったでしょ?」
「私は大変だなんて思わなかったけど……でもいま、秋水先輩は困っているよね」
 まひろはしゅんと肩を落とした。いろいろな感情の果てに彼を一番傷つけずにすむ選択をしたつもりだったが、それでも
やはり迷惑だし解決放棄だった。そんな反省をたっぷり聞くと、ヴィクトリアは「そうね」とだけ呟いた。
「それでもアナタ、少しぐらいいまの気持ちを整理できたでしょ? だったら無難な部分だけアイツにいえばいいじゃないの」
「そ!! そうだよね!! 私が秋水先輩好きかも知れないーってコトいうのが恥ずかしくて逃げたんだから、今度はそこだけ
伏せればいいんだよね」
「ええ。アナタにしては理解が早いわね」
 呆れたように呟いたヴィクトリアはふと顔を上げやや真剣な表情をした。
「どうしたびっきー?」
「やられた。パピヨンね。勝手に招き入れたみたい」
「?」
「早坂秋水よ。向かってきてる。私には分かるわ」
「ええええええええええええええええええ!?」
 まひろは絶叫しながらヴィクトリアの肩を揺すり始めた。
「どどどどうしようびっきー!! 私まだ先輩に何いうか決めてない! というか心の準備が……!!」
「準備も何も、さっきまとめたコトをいえば済む話じゃない。まさか忘れたりしてないでしょうね?」
 大丈夫! とまひろはふくよかな胸をドンと叩いた。
「何を隠そう私は記憶術の達人よ!! え、ええと。まとめるね。つまり私は演劇部が楽しくなってきたからお兄ちゃんがいな
いの寂しくて、でも他の人もそうだから悩みを言えずに困っていて、秋水先輩にもそれをいいたかったんだけど実はこの
前先輩に解決してもらった悩みだからいうの蒸し返すようで申し訳なくて言い出せなくて、で! 逃げちゃった! これで
いいかなびっきー!!」
「ええ。上出来よ。早坂秋水到着まであと5秒。さっさと準備しなさい」
「うん!! きっと大丈夫!! 何とかなる!! 来るなら来いだよ秋水先輩!!」

27 :
 俄然テンションを高めたまひろは部屋の片隅にある出入口を爛々と睨み──…
 10秒後。ヴィクトリア=パワードを爆笑させた。

 秋水が地下に着くと、まひろは先制攻撃だとばかり一気に駆け寄り、あの、あの! と先ほど逃げた理由を述べようとした。
 しかし彼は機先を制し、「俺の方こそ悪かった。君が悩むとすれば君の兄の件しかない。それにも気付かず不躾な質問をし
てしまった。触れられたくないのは当然だ」と深々と頭を垂れ、謝った。
 決してまひろの心理総てを言い当てた訳ではない、若干齟齬のある理解。しかし思わぬ先制攻撃にまひろはテンパった。
若干の齟齬しかないからほぼ大当たりなのだ。せっかくまとめた言葉が言えなくなった。しばらくあわあわと唇を震わせてから
「あのね!」と「そのっ!」をしつこく連呼し、最後にヤケクソのようにこう叫んだ。
「私! 秋水先輩のコトが好きかも知れなくて!!」
「でもソレが言い出せなくて思わず逃げちゃってたのーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「は!!」
 いま自分は何をした? そんな表情で目をパチクリさせるとまひろは全身を思いっきり戦慄かせ、鳴いた。

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 腹の底から笑ったのは一体何十年ぶりだろう。もしかすると1世紀またぎかも知れない。
(アナタは……アナタは……アナタは……アナタは……!!)
 たっぷり1分近く笑って気付いたコトがある。ホムンクルスは笑い死にする。絶対。ヴィクトリアは凄まじい筋肉痛の腹部を
さすりながら思った。きっと錬金術製の気管やら横隔膜やらが呼吸不全をもたらすのだろう。
 もし近くに秋水がいなければ臆面のない大爆笑を続け今ごろは川向うの母と楽しくおしゃべりしていた。
 身を丸め口を押さえてプルプル震え考えるのはそんなこと。
 まひろ。
 相談で得た成果を活かそうとするあまり、相談で得た何もかもをブチ壊してしまっている。普段からアホね馬鹿ねと呆れて
はいたがここまで景気よく自分の尽力を破壊されると皮肉でもなく本当に純粋に尊敬の念さえ覚えてしまう。
 一方、秋水。
 驚愕。まさにその一言の表情だ。真赤な顔で「違う、違うの。これには訳が……!」と懸命に弁明する告白相手を落ち着き
なく眺めている。頬には露骨に汗が浮かび、瞳も露骨に泳いでいる。
 寸劇だ。コントだ。
 パピヨン絡みで仄かに抱いていたまひろへの嫉妬も一時的に忘れ、ヴィクトリアはくつくつと笑いをかみ殺していた。

「嫉妬と」
「傲慢か」
 残っていそうな罪は。
 秋水を除く戦士一同はそんな分析をしていた。

28 :
 マレフィック……『凶星』を意味する敵組織の幹部たちはいわゆる7つの大罪に憂鬱と虚飾を加えた罪をそれぞれ持って
いるという。ただし10人いる幹部のうち盟主だけは例外的に何の罪も背負っていないという。というより彼の趣味で上記9つの
罪の持ち主が選ばれるらしい。そして鐶や貴信、香美や小札、無銘といった音楽隊が出会ったマレフィックの内
「不肖と縁ありまする『水星』の幹部ウィルどのにつきましてはまさに怠惰の権化!! 勤労のない社会を作るために悪の
組織に属されておりましたのです!! 働かなくてもよい社会! それはまさに地獄でありましょう!!」
「我をこの体に貶めた『木星』のイオイソゴは間違いなく……大食」
『虚飾』『憤怒』『色欲』『強欲』『憂鬱』『怠惰』『大食』は出た。残りは2つ。
 どんな幹部なのだろう。剛太と桜花はあれこれと想像を巡らせていた。
 迫りくる黒い影! それが胸にドンとブチ当てた衝撃!!
 刺された!! 金髪ピアスはぎゅっと目をつぶり思わず身を丸くした。
 しかし数秒後。
 何の痛みもない胸に違和感を覚えおそるおそる目を開いた。
 そこには。
「ひぐっ! ひぐ!! よ、よくも突き飛ばしてくれましたねえこの上なく!!」
 おそろしく情けない表情で泣きじゃくる女性がいた。
 不美人、という訳ではない。むしろこの晩出逢った「青っち」や「女医」に勝るとも劣らない美貌の持ち主だった。
 眼鏡をかけた大人しそうな雰囲気で、見た目は20代前半ほど。ぱちくりとした目と少し聞いただけでも忘れられなくなる
綺麗な声が印象的だ。
 やや傷のある黒髪は踵まで伸び、左耳の前あたりにぱっちん留めがついている。おかげで左肩辺りの髪の束がばさりと
かかりなんとも言えない色気を醸し出している。衣服はその辺りの安物を適当に身につけたという感じで、ロングスカート
はあちこちがほつれている。しかしスタイルは中々よく、着るものさえ選べばかなり化けるように思われた。
 ただし。
 全体に漂う”冴えない”感じが美貌も色気もスタイルも何もかも台無しにしている女性だった。
 詰め寄っている今でも腰を引いている。覇気のなさときたら少し怒鳴るだけで一気に折れそうだ。
 恐らく一番の美点である声さえ台無しにするように、会話の内容も、ひどかった。
「おかげで全身フードがこの上なくズッタズタじゃないですかあ!!」
「怒るポイントそこ!?」
「怒るポイントはこの上なくそこですよ!! あのですね!! 全身フードっていうのはですね!! 未知なる敵の命なんですよ!
「髪は乙女の命みたくいわれても!」
 金髪ピアスは気付いた。胸に当てられていたのはナイフではなく、乱雑に畳んだ全身フードだと。
 しかしなぜこいつらは全身フードを着ているんだ? 根本的な疑問をはらみつつもう1人の全身フード──ディプレス──
を見ると彼は笑い、肩を揺すった。
「こいつはクライマックスwwww マレフィックプルートwwwww 『嫉妬』の幹部wwww」
「そ、そうですよ!! 私こう見えても天性のシリアルキラーでクリスマスとか来るたび誰か世界中のカップル皆殺しにして
くれないかって願いながらも自分では実行しないほど極悪非道の幹部なんですよ!!」
「普通か!!」
「うぐ。でででも冥王星って肩書きからしてもういかにも最強って感じでこの上なくムチャクチャ怖いじゃないですかあ!!」
「惑星から降格されるってウワサあるぞ冥王星」
「え? そーなんですか? あ、いやいやいや。違いますよ。それはもう冥王星のあまりの力を恐れた学者さんたちのやっ
かみなのです。だから怖い筈です! だから謝るならこの上なく今です!! さあ!! さあ!! はやく謝るのデス!!」
 また奇妙な奴に出会った。そろそろこの運命から脱したい金髪ピアスである。

29 :
過去編の方ではマレフィックが自爆! こちらの方ではまひろが自爆! 自爆祭りじゃアアアアアアアアアアア!!!
ふら〜りさん(完結、おめでとうございますっ!)
ははは。確かに格ゲーなら締め技とかはすぐ終わりますものね。ですが現実的に考えればKOまで続ける方が正しい訳で。
メタ系であるが故にシステム上のご都合主義を信じすぎ、そして負ける。能力故に能力の不備を突かれる。これはやはり能
力バトルだったと!
>『そ、そういうもんでしょ普通っっっっ?!』
普通じゃないんですけど優子の感情考えると洒落にならないwwwwwww
更に最大トーナメント出場前の決め技が”あの”フロントネックロックというのが熱い! あの優勝の何割かは優子との戦い
あらばこそだったと思いたいですね。うん。
mugenですが(キャラクター面から)格ゲーを極めるとこうなります。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1465829

30 :
>>26訂正
「どうしたびっきー」→「どうしたのびっきー」

31 :
どうしたんだスターダストさんそのテンションw
お疲れさんです。ヴィクとリアとまひろの
「意思の疎通は出来てるけど、微妙に会話が成り立ってない」
感じが好きです。ひたすら素直だけど天然なまひろと、
根は素直なんだろうけど表面上ひん曲がってるヴィクトリアで
結構いい感じだと思うんですけどね。親友になれそうな。

32 :
カズキを思い出すシーンがちょっと切ない…

33 :
まひろなら何回告られている気がするけどなあ
秋水は何十人も想ってる女子がいただろうけど
完璧超人だし完璧な姉も近くにいるから告白されたなかったんだろうか
告白するのも、告白されるのもお互いに始めてなんだろうなあ
告白経験どっちも無いから知らんが。
ケッ。でも大学のコンパで随分食ったからいいや
快楽のみで刹那的な思い出しかないのも辛いな・・

34 :
>>カイカイさん(これまたお久しぶりです!)
そういえば独裁スイッチのシステムって、原作では全然説明されてませんよねえ。
消されてもほっといたら元に戻る、ぐらいしか。そんな道具の利用法をこうもって
来るとは……リクエストは「ホーリーランド」のキングか「刃牙」の三崎のどちらかを。
>>スターダストさん
今や秋水や斗貴子たちよりも、つまり誰よりも遥かに深く正確に、まっぴー(とパピヨン)
のことを理解しているびっきー。でもびっきーを挟んでるパピ・まぴの二人が至高の存在と
しているカズキのことは、ほぼ関心なんざ無いびっきー。人間関係の妙ってやつですな。

35 :
ふらーりさん乙でした。またなんか書いてください。
ここに来てまたスターダストさんハイペースになってきたか?
大団円が見えてきたからテンションが上ってきたのかな。

36 :
カイカイです。今のところ、斎藤一、ガッツ、バキの三崎がエントリーです。
他は知りませんが、同じホーリーランドからタカでどうでしょうか。
あと、毛利小五郎の代わりに金田一一でどうでしょうか。
バトロワは、10名を想定しています。
未来の世界では、こんな感じで「あいのり」「ガR!」みたいなのを放送してる設定です。
歴史物では、本人を違法コピーして古民家とか蒸気船に投入してリアル再現ドラマとか。

37 :
カオスなメンツだなー

38 :
10名は少なすぎる気がするなー

39 :
バトロワの武器の当たり外れの要素は、今回は本人の強さで代用します。
あと、不特定多数でリレーするならともかく、一人で完走を目指すなら10人が妥当です。
エクセルで管理しなきゃ作れないようなSSは、僕の作風ではありません。

40 :
じゃ、アンケートなんてするなよ
無茶ぶりする奴いるんだし

41 :
ここに書いたSSを、他のサイト(pixivとか)に投稿するのってやっぱマズイかな…?
本人の書いたものであっても。

42 :
>>カイカイさん
エンジェル伝説の北野くんとか
バトロワでもその悪魔の顔と天使の心で場をかき回しそうだ

43 :
>>40
全く知らないマンガはムリですが、そうでないなら妥協点で進めます。
そこがまた、楽しい。

44 :
自分のなら別にいいんじゃない?
カイカイさんは10人決まってるのかな
漫画の剣士キャラはどうしても超越キャラばかりになるからな

45 :
>>44
そうかな?
最近ちょっとpixiv小説始めたから投稿してみようかと思ったんで…

46 :
しかしPixiv小説って腐女子のカスみたいなBL小説しか評価されてないし
向こうで評価された時にこっち流れて荒れるってのは嫌だな
過疎は打開できるかもしれねーけど・・・

47 :
同じホモ好きなら腐女子よりまだ夢厨あたりの方がマシなんだよなぁ。ちなみにふら〜りさんは違います(ゲス顔)。

48 :
カイカイです。まあ、超越キャラもうまくコンバートしますよ。
たとえば、斉藤やガッツは昔の人物にすぎません。
神谷道場の土壁を砕いたことは、タカにとっては講談の中の斎藤一ですし
マイ世界ではそれが斎藤の戦闘能力です。
タフネスも同様です。タカの真向斬りが当たれば、頭が割れてしにます。
その代わりというか、相手が未成年でもさすのが斎藤です。
さすというより、現実世界でいう伯耆流の突き技ににた感じですね。

49 :
 あー、コイツもヘンな奴だ。しかも弱そう。冷めた目の金髪ピアスに構わず女性はひたすら一生懸命まくし立てる。
「私としてはですねー。戦士のみなさんに『女!?』『しかも割と普通の』みたいな反応して欲しかったんですよ。そしてですね、
そしてですよ? もし良かったら『見た目に騙されるな! 奴も幹部見くびってはならない』みたいなー反応してもらえたらー
この上なく嬉しいですなんて思ってた訳なんですけど。エヘヘ」
 後頭部をぽりぽり掻きながら女性は笑った。あどけない、というより幼稚な、世間ずれした笑みだ。「イタい」という方が正し
くもある。
「なあお前」
「なんでしょうーか!!」
「センス古くね?」
「え!?」
「仕方ねーよwwww こいつの肉体年齢ほぼ30だからなwwww」
「ちょ、ディプレスさん!? 女性の年齢をいうなんて失礼じゃないですか!!」
 クライマックスの視線。それを追い振り返る。背後には同伴者(ディプレス)がいた。いつの間にかそこにいる彼ときたら
相も変わらずフード姿だ。頭からつま先まで万遍なくすっぽり覆われているため表情こそ伺い知るコトはできないが……
露骨に震える肩。感情スートが喜怒哀楽いずれかなどまったく見るだけで丸分かりだ。
「な?ww な?ww 見てみwwww コイツの姿をようく」
「はぁ」
 改めて観察してみる。
 一言でいえば微妙だった。パーツだけ抜き出せばスタイルのいい黒髪美人なのだが冴えない雰囲気や安物の服のせいで
恐ろしく野暮ったい。垢抜けない雰囲気がぷんぷんだ。分の厚い黒ブチ眼鏡などもっての他だ。しかもよく見ると両目の瞳
孔の大きさが微妙に違う。更にやや猫背気味。髪もボリューム過多である。踵まであるそれは見るだけでゲンナリする。い
まは暑気残る秋の夜なのだ。切れよ鬱陶しい。そういう心情も相まってますます魅力薄く見えてくる。
(……うぅ。でもスペックはそこそこなんだよなあ。どうせ売れねーんだし試しに付き合って鍛えりゃ結構化けたりする可能性も)
(いや。いやいや。30間近だぜコイツ。遊ぶにゃ重すぎる。こっちの思惑がどうあれあっちはぜってー結婚前提だ)
(切り辛いし切るならよほど上手く切れなきゃ無茶苦茶厄介なコトになる) (だいたい結婚した後はどうするよ?)
(全身フードがどうとか喚く夢見がちなタイプ……幼稚な女だ)
                                     (家庭経営に必要な哲学など持てない)
(厄介事は全部俺任せにするだろーし家事だってちゃんとこなせるか怪しい)
(不況)
(子供)
(作る)
(大変)
(お袋の老後の問題)(場合によっちゃコイツの両親の介護も)
(長女か?)
(長女なのか?)
(兄弟は何人だ?)
(1人っ子だと負担全部来るしな〜。理想なのはアレだな。親が長男夫婦と同居!)
(って! だいたいコイツ悪い連中とつるんでるっぽいしその時点でやべえだろ! ないない。コイツだけは絶対ない)
 びゅんびゅんと脳髄をかけめぐるワードを総合するに、やはり”ない”相手だ。
 そういえば仲間らしき連中は誰も全身フードを着ていなかった。推奨を無視されたのだろう。見え透くのは低いヒエルラキー。
【結論】
(旅先で適当にナンパしてちょっと食べて終わらせる位がちょうどいいレベルの女!)
(だって見た目洗練しようとしてもぜってー途中で飽きそうだもん! 「ありのままの私を愛してくださいよぉ」とかなんとか言
って努力の放棄! こーいう女は論点をすり替えるからな!! 辛いやりたくない、そう思ったが最後ふにゃふにゃした感
情論で正当化ばかりするんだ!!)
 少なくても見た目に関しては「青っち」や「女医」といった連中の方が遥かに上だと金髪ピアスは1人頷いた。前者は天性
の輝くような美貌の少女だし後者は妖しく研ぎ澄まされた雰囲気の美女だ。
 対してクライマックスはなんだか「決して悪くはないが選んだら負け」という感じがして仕方ない。
 男性としてそんな気分を目ざとく見つけたのだろう。ディプレスがポンと肩をたたいた。
「お考えの通りwwwwwwwwwwwマレフィックの女どもの中じゃ一番情けなく、一番トウが立っているwwww」
 反論の余地をなくしたのだろう。クライマックスは口に雑巾でもねじ込まれたように数度呻くと双眸に瞳を湛え泣き始めた。
「うぅ。全身フード破かれた上に謂われなき暴言!!  あんまりです。この上なくあんまりですぅぅぅぅぅぅ!!」

50 :
 彼女はとうとう両膝をつきくずおれた。それなりに豊かな胸からズタズタの全身フードが零れおちた。それがますます哀切を
強くしたのだろう。平蜘蛛のように身をつくばらせ物言わぬコスチュームに取りすがって泣きに泣いた。
「あ!! そだ!! 金髪さん金髪さん!! お父さんかお母さんか妹さんあたり殺されてませんか!!」
 10秒は経っただろうか。クライマックスは不意に顔を上げそんな質問をした。表情は泣いていたのがウソのように大変明るく
それが金髪ピアスを覆いに困惑させた。困惑といえば彼女は四つん這いのまま腕ごと胸を地面につける姿勢だ。いきおい臀
部が心持ち高く突き上げられているのだが、佇まいのせいか煽情的というより滑稽な姿勢にしか映らない。
 そういったもろもろの事情もあり金髪ピアスは複雑な表情で頬をかいた。
「いや……一人っ子だし父親は去年ガンで死んだけど。でもなんでそんなコト聞く」
 ぴょこりと行儀よく座りなおしたクライマックス、「え、えぇと」と頬を染めて目を逸らした。ほつれた黒髪ともどもやや愛らしく
金髪ピアスは一瞬ドキリとした。
(くそ。しおらしい表情すると途端に二十歳ぐらいの雰囲気かよ! やべえ罠だ。落ちつけ。こんなのはフォトショ加工した
”出来のいい”一瞬の奇跡! コレに引っかかると後がマズい。表紙買いした写真集にガックリする100万倍マズい!)
 訳の分らぬ葛藤をよそにクライマックスははにかんだような表情で柔らかなブレスを継ぐ。それが妙に艶っぽくますます
どぎまぎする金髪ピアスである。
「この上なく、後付け設定で、ですね」
 まるで告白寸前の女子のような恥じらいとトキメキの入り混じった声だ。とても甘い。元声優だからなコイツ。ディプレス
の解説に成程とも思う。実にアニメアニメした声が耳をくすぐり突き刺さる。経歴は伊達ではない。三十路直前? 声だけ
聞けば10代だ。だからこそ欲望を刺激する。手練手管の限りを尽くしアレやコレやの声を聞きたい。
 やがて彼女はとても美しい声でこんなコトをいった。
「実はお父さんたちの仇が私たちレティクルエレメンツだった的なコトにしたら……その、全身フード破られたのもアリかなーって」
 わずかばかりのトキメキも好意も欲求も何もかもいっしょくたにして粉砕する絶望的な一言だった。泣きたい気分で金髪ピアス
は絶叫した。
「ああよく居るねえそういうの!!! 巨悪が主人公たちとコトを構える前に現れるモブ!! お父さんの仇だっつって
健気にナイフ一本で立ち向かうがボロゾーキンのようにやられるタイプの!! 確かにたまに素顔暴いたりするよね!」
「そ!! そう!! それです! それになってくれますか!!」
「なれるかァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
 ヤケクソのように放ったビンタ。それを認めたクライマックスはニヤリと笑って拳を突き出した。クロスカウンター!! 進撃
途中の腕にビンタが当たった。なぜか肘がカクリと鳴った。旋回する前腕部。向きを変えた拳が狙うのは……
「え?」
 唖然とするクライマックス。その顎の下に残影が奔った。やがて来(きた)るは力学の、爆発的開放。
「ぐべぇ!!」
 自らの拳にアッパーカットを喰らわされたクライマックスは情けない声を上げながら後ろ向きに倒れていく。
「うぅ。骨を削って肘の可動範囲を広げたのがこの上なくアダに……」
「プラモ感覚で体改造してんじゃねーよ!!!」
 ジョーを貫きたての拳はそれでも腕ごと頭の方でピンと張りつめられている。なんだか自爆にガッツポーズしているような
アホさ加減さえ感じられ金髪ピアスはつくづく悲しくなった。地面を揺るがす落着音が辺りに重く響き渡った瞬間、感情はと
うとう爆発した。
「何がしたいんだお前!!」
 黒髪を放射状に広げつつ仰向けのクライマックスは息も絶え絶えにこう答えた。
「ク、クロスカウンターをお見舞いしようと……そしたらこの上ない衝撃が下から上へ…………げふぅ」
「その結果が何だよ!! アッパーだよ! 一方的だよ!! 全ッ然クロスじゃないしカウンターもしてない!!」
「wwwwwwww 晩飯のとき漫画喫茶で何とかとかいうボクシング漫画読んでたからなあwwwwwww」
 影響か!! こめかみを抑える金髪ピアスの頭痛は「髪にごみが、髪にごみがあ!!」と泣き叫ぶ声にますます助長された。
「クロスカウンターなんて素人がやってうまくいく訳ないだろ!! ましてビンタ相手に!! 漫画と現実の区別ぐらいつけろ!!」

51 :
「そんな!! 一緒になりきって遊びましょうよぉ!! 二次元ってやっぱ素敵じゃないですか!! 金髪ピアスさんだって
漫画とかにアニメとかに可愛い女のコいたらこの上なくトキメクでしょ!?」
「……俺の初恋は峰不二子だ」
 髪を掃除し終えたのか。クライマックスは「しゃん!」と直立した。そして両手の指先をちょんちょん触れ合わせながら「です
よねー」「不二子ちゃん。分かります。いいですよねー」と頷いた。
 今度は妙に落ち着いた様子である。
「wwww 声優の次は小学校で女教師やってたからなwwww マジメにやりゃ割と年相応wwwwwww」
「なるほど」
 ディプレスのいうコトももっともだ。落ちついた様子のクライマックスには何かこう男としてクるものがある。いかがわしい気持ち
というよりはこう、初めて担任の女の先生が家庭訪問に来たときのような、中学校の個別面談で割と真剣な進路の相談に答えて
貰っている時のような、或いは保育園のときに保母さんに覚えたような、甘酸っぱい気持ち。「年上の女性への憧れ」。
 そんな落ちついた女性はニコリと微笑しながらこう言った。
「私いちおう女ですけどー、でもやっぱり漫画とかでこの上なく純粋でかわいい女のコ見たら、お店行って同人誌ないかナーって
探すじゃないですか。あ、同人誌っていうのはこの上なくえちぃ薄い本です!!」
「さすがに探さん!!」
「えー。口にするのも憚られるようないかがわしい行為の数々があんな所にもこんな所にもされまくってる薄い本ねえかなゲヘヘっ
て半笑いでお店うろついたりしないんですか? あと買ってからですね。この上なく白くてドロドロしたエフェクトが不足気味だっ
たら自分で付け足したり……あ、いや、ホワイトとかそういう市販の塗料的な手段でですよ? 付け足したりしないんですか?」
「するかボケ!!」
「ヘンですよそれ!!」
「ヘンなのはお前だ!! 女のクセに直球すぎるわ!!!」
 馬鹿だった。一瞬でも年上の女性へのほんわかした憧憬を抱いた自分が馬鹿だった。金髪ピアスは俯き右前腕部を両目に
当てオイオイないた。そんな反応が不服だったのか、クライマックスは腰に両手を当てムっと顔をしかめた。
「何をいうんですか!! 私なんかで騒いでいたらグレイズィングさんなんて直視できませんよこの上なく!!」
「まあアレの投げる直球はいつも歴史的大リーガー最高の一品でお前のはせいぜい少年草野球の5番手ピッチャーが下痢
ん時に投げるカス球だが!! それはともかく漫画のキャラ! まずは愛でろ!! 普通に!!」
「この上なく普通じゃないですか!! 好きだからこそこの上なくえちぃの見たい!!!!! どこがおかしいっていうんですかあ!!!」
 叫びながらクライマックスはずずいっと詰め寄った。凄まじい勢いだった。体が密着し金髪ピアスの上体を後ろへ押し曲げるほど
大迫力だった。いいデスか! とピストル状にした人差し指をぐいぐい振りつつ主張する。
「私はこの上なく腐ってはいますがね!! でも可愛い女のコも大好きなんですよぉ!! 愛でるなんていうのは漫画とか読んで
ほわほわ萌える状態! いわばデート!! デートを重ねると段々段々この上なくッ!! ”次”に移りたくなるのが人情って
ものじゃないですか! 三次元じゃそれこそこの上なく正しくてお友達とかに相談するネタにさえなるというのに!! どーして!! 
どーして二次元でそれをやるのがダメなんですかあ!!」
「なあもう助けてくれよあんた。こいつもう手遅れだ!! いろいろと手の施しようがない!」
 きーきーいいながら長い髪を振り乱すクライマックスは怒りながら泣きじゃくっておりまったく尋常ならざる様子だ。
 すがるように見たディプレスはしばらく腕組みをして黙っていたが、やがて「ブヒ」と笑いながら口を開いた。
「なあなあwwww」
「何だよ」
「もしココでオイラがフィギュアの鎖骨部分舐めるの好きとかカミングアウトしたらお前ビビる?wwwww」
「お 前 も か あ ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「ウwソwだwよwwwwww 顔真赤wwww 顔真赤wwww ビビった?www オタ2人に囲まれるかも知れないってビビった?wwwww」」
「ああもうフザけんな!!」
 怒りが爆発した。金髪ピアスはクライマックスを突き飛ばした。そして拳を固めて咆哮した。
「俺はちょっとあの青っちとかいう女襲おうとしただけだぞ!! なのにお前らみたいなおかしな連中と関わっちまっていろ
いろヒドい目にあってんだ!! これ以上巻き込むな!!」

52 :
「自業自得じゃね?w 自業自得じゃね?ww お前強姦未遂犯だよなwwww」
「女性の敵!!? ケダモノ!!? まままままさか次は私なのデスかーーー!! だだだダメですそーいうのは心に
決めた人じゃないといけません。だいたい金髪さんの顔って二次元の美男子さんに比べたらゴミ以下ですし……」」
「…………オイ」
「そ、そうですよね。気持はわかります。嘘はダメですこの上なく。じゃあお家行きましょうお家」
「は? なんの話を」
「お母さんをちょっと殺します!! そしたら全身フード破壊も、因縁を果たすための前払いみたいな感じになって帳尻が……」
「まだ拘ってたの!? しかもけっこう言うことゲスいのな!!!」
「wwwwwwwww マレフィックに真人間がいる訳ねーだろwwwwwwww」
「つーかマレフィックというのは何だよ!! お前たちはいったい何なんだ!!!」
                                                                     ……ギチッ
 辺りが、静まり返った。いや、違う。金髪ピアスは気付く。今は深夜。静まり返っている方が本来自然なのだ。
 やっと気付く。今までこそが不自然だったのだと。
 夜中に騒いでいる方が。
 そして。
 ディプレス。そしてクライマックス。これまで散々と自分を甚振ってきた連中の仲間。
 彼らがやいのやいのと雑談で騒いでいる方が。
 不自然だったのだ……。
                                                   ギチ
 クライマックスを見る。先ほどまでの騒々しさがウソのような無表情だ。しかし口元だけは微かに綻んでいる。
 腰の前で手を組んだまま氷像のように固まってもいる。
 なのにこちらをじっと凝視する様は彼女が信仰して止まぬ二次元世界の住人よろしく美しく、そして恐ろしい。
 ディプレスの表情は相変わらず分からない。分かったとしても言動の端々に狂気が感じられる男だ。
 腹臓の目論見など最初(ハナ)から計り知れない。
 ただ軽口を一切叩かなくなったのが逆に怖い。
   ギチッ
                    
 じわじわと変質を遂げつつある場の雰囲気に触発されたのか。
 冷汗が一滴、地面に落ちた。
 ギチ
                 ギチ
 ギチギチギチ
                                    ギチッ!

                               ギチギチギチギチギチギチ

「あーあwwwwwwww 突っ込んじゃったwwwwwwwwwww」

 最初に喋ったのはディプレスの方だった。

53 :
「教えてやるよwwww マレフィックというのは悪wのw幹w部wwwwwww 知った以上無事じゃいれねえよなあwwwwwwwww」
 先ほどのフィギュアうんぬんの下りと同じ冗談なのかそれとも本気なのか。
 笑っているからこそ分からない。
 ただ確かなのはディプレスの全身からギチギチという音がし始めているというコトだ。
 そして音とともに全身フードのそこかしこが「内側から」ぼこぼこと山を作り、膨れ上がっているというコトだ。
ギチッ! ギチギチギチ……ギチ!! ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ
ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ
ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ
ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ……ギチ! ギチギチ!! ギチ! ギチ! ギチ!!!!
ギチ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ひィ!!!」
 情けない悲鳴だと自分でも思う。金髪ピアスは尻もちをつきながら震え上がった。
 ディプレスという男の全身フードは変質を遂げていた。
 一回り大きくなった。体は今にもはち切れんばかりに膨れている。
 そして変質を決定づける明らかな異変が起こっていた。
 顔の辺りから、巨大な嘴が生えている。
 目深に被ったフードのせいで目のあたりはうす暗い闇に覆われており内実を伺い知るコトはできないが、おそらくそこも人外
めいた変貌を遂げていると考えて間違いはないだろう。
「さて、どぉーしょっかなアアアアアアアアアアアアwwwwwwwwwww ?w 殺しちゃう? お前いま俺
の正体に繋がるクチバシ見たし他の幹部連中とも関わったみたいだしwwwww 始末しておいた方がいいのかなアwwwwww
wwwwwww」
 笑いたくるディプレスの周囲に黒い靄のようなものが生まれた。最初コウモリの群れに見えたそれは保育用の玩具を思わせる
軽やかな音を奏でながら飛び狂い……塀や、建物や、ゴミや、地面とやかましく擦れあった。
 悪夢のような光景だった。黒い靄の触れるところ霧が立ち込め砂が舞う。塀は崩れ、建物は部屋を露にし、ゴミは風化し、
地面は舗装を粉々にする。その向こうから大きな嘴の全身フードがゆっくりと近づいてくる。先ほどまでそういう仕草はなかった
のになぜか急にびっこをひいているのが一層不気味だった。足を引きつつひょこりひょこりと忍び寄ってくるのだ。
「万が一戦士連中に遭遇して、情報を漏らされても、事・だ・し・なアアアアア〜 でも盟主様は騒ぎ起こすなっていってるけど、
どーしょっかなアアアアアアアアアアアアアアwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
 全身フードがまた破けた。翼だった。人間の腕を通すべき袖から灰色の翼が生まれた。足元も変貌を遂げており、鳥の
ひび割れた脚が見えている。
 やがて彼の周囲からひときわ多くの黒い靄が噴き上がった。やがて放たれたそれらは総て金髪ピアスへ吸い込まれ──…
「もー。ディプレスさん? やめましょうよぉ。口止めなんてブレイクさんに頼めば済む話でしょ〜」
 金髪ピアスは見た。自分の前で『何か人型をしたもの』が数体、ばらばらと風化していくのを。
「スーパーエクスプレス(レティクル座行き超特急)wwwwwwww 無限増援で防御かクライマックスwwwwwwwww」
「そうですよぉー。もともとスピリットレス(いくじなし)とじゃ分が悪いですけどねー。……よいしょっと」
 暖かな手の感触が両脇の下に挟(さしはさ)まれ視界が上へ上へと昇っていく。どうやら後ろから立たせて貰っている
らしい。ディプレスの口ぶりからすると背後にいるのはクライマックス。知らぬ間に背後へ来るのは彼らの趣味なのだろう
か。とにかく理由も理屈も分からないが彼女に助けられたというのは間違いない。
「分かっていて脅すなんて可哀想ですよー。だからですね。名案があるんですよ。この上なく平和的な解決の」
 ホッと安堵しつつ振り返った金髪ピアスを見てクライマックスもまた笑った。

54 :
.
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  
 ナイフを大きく振りかぶったまま。
 俗にいうコンバットナイフだった。明らかに首筋を狙っていた。その姿勢のままクライマックスはキラキラと双眸を輝かせ
とても嬉しそうに笑っていた。
「でwww解決手段は?wwwwww」
「この上なくぶっ殺しましょう!!!」
「のわあ!?」
 3つのセリフはほぼ同時に放たれた。岩をも削る勢いで振りかざされたナイフをしゃがみ程度で避けれたのはまったく
奇跡だった。髪が何本か斬撃軌道に吹っ飛ばされたが頸動脈をやられるコトを思えば些細すぎる問題だ。金髪ピアスは
そのまま地面を蹴りディプレスもクライマックスもいない方向へ着地した。無理のある跳躍だったため着地はつくづく不安定
で踵辺りの筋がズキズキと不快な痛みを訴えているがそうしてでも得るべき距離だった。
 一方、クライマックスは空を切ったナイフと金髪ピアスとを不思議そうに何回か見比べた後、首をかしげた。
「なんで避けるんデスか?」
「それ何!? 刃物! 死ぬだろ!」
「死なしてみたいんですよー♪ 夢なんです! 小さい頃からの!」
 胸の前でわきゃわきゃと両腕を動かしてから彼女はブイサインを繰り出した。(ナイフを持っていない方の手で)。
「おかしいだろ!! いまの流れじゃ口封じでの反対、みたいな感じだったろ!!」
「違いますよ。気もないのに脅すのが可哀相って意味ですよぉ」
「wwww アレはコケ脅しwwwwwww 釣りwwwwwwwww」
 ね、とクライマックスはディプレスを指差し、「だから殺して楽にしてあげようかと!」とブイサインを作りなおした。
「いやお前! 俺の、人の命を何だと思っているんだ!!」
 魂を込めた怒号だがどうしてそんなものを投げかけられたのかつくづく分かっていないらしい。
 クライマックスは一瞬メガネの奥で大きな瞳をきょとりと見開いたがすぐさま笑顔でブイサインを翻し、指折り何かを数え
始めた。
「大丈夫! わかってます! この上なく大事でー、地球より重くてー、みんなそれぞれ1度きりのー、とにかくとにかく守る
べきものですよね! ほら言えました! これでも声優やめた後は小学校の先生でしたからー、道徳は得意なんですよ」
 分かっていながらやってるのさ。くつくつ笑うディプレスに「ねー」と相槌を打つクライマックスはとても不気味だった。
「殺人が悪っていうのもこの上なく理解してますよ。誰かから誰かという大事な存在を奪う。うん。この上なく悪いコトです。殺
される人にだって明日の予定とか来月の目標とか来年始まるアニメを待つ心がありますよね。それを一方的に奪うというの
は良くありません。まったく最悪の行為デス」
 でもですね
 と、元声優で元教師のアラサーは胸の前で両手を組みきゃるきゃると瞳の中に星を浮かべた。
「でも最悪だからこそ命! 一度でいいから奪ってみたいんデス」
「二次元で可愛い女のコ見た時に生じるリビドー。綺麗だからこそメチャクチャにしたい!! それとこの上なく同じなんですよ」
 月明かりの下でクライマックスは少女のようにうっとりと笑った。先刻会ったブレイクも同じような表情をしていたが、あちら
は信仰心や集中力といったある種建設的な感情だ。
(コイツは違う。純粋な残虐性……何も生まない利己的な衝動のもと動いてやがる)
 劇団風味のブレイク。元声優のクライマックス。根本が違うにも関わらず両者ともその発露に陶酔を孕むのは芸術的な
感性ゆえか。
「だからですね!!」
 クライマックスは地を蹴った。長すぎる黒髪がぶわりとたなびき風のように舞った。
「いろいろな要素をつなぎ合わせて考えるとー、殺人が一番なんですよ! この上なく!」
 気付けばすでにメガネのアラサーが眼前でナイフを振りかざしている。小さな手にありあまるほど巨大な肉厚のナイフ。
触れれば指ぐらい簡単に切り飛ばされるだろう。一晩に二度もそれは御免だ。決死の思いで横に転がる。風が額を撫でた。
つま先が上へ突き抜ける最中だった。そのロングスカートでよくもまあ、少し中身を見たい思いを抑えながらごろごろ転がると
肩に何か当たった。ゴミ箱だった。自販機の。

55 :
「何しろほら、私に好かれたものって必ず後でヒドい目に遭うじゃないですか!」
 缶をブチ撒ける。酸っぱい匂いのする金属筒が宙を舞う。だが悉く紙吹雪のようにサクサク寸断される。何の牽制にもならない。
「逆に嫌いなものほど幸運に恵まれてグングングングン発達します」
 盾にしたゴミ箱も一瞬で寸断。へびり腰で踊るように駆ける。逃げる。回り込まれた。唸る右肘。来る刃。
「なんていうかこの上なく嫉ましいんですよぉ。他の人はちゃんと好きも嫌いも叶えられるのに何で私だけって」
 肩を竦め身をよじり嵐のような猛攻をどうにかこうにかくぐり抜ける。身代わりになった壁や塀が火花を噴く様は絶望の一言。
「だから私は一度でいいから”私の嫌い”を自分の手で貫きたいんです。嫌いかなーって思う相手を私の手でこの上なく
キチンと殺したいんですよ」
 しゅっとクライマックスは息を吐き、脇の辺りでナイフを構えそのまま突進。
「殺しさえすればいつものように!」
 のよくやる刺し方! ゾッとする思いで繰り出した足払いは見事に決まった。つんのめるアラサー。
「相手が幸運に恵まれるなんてコトありませんから!」
 鼻のあたりに鋭い感触が奔る。生ぬるい液体が垂れてくる。水平に立てられた刃が飛沫をブチ撒く様が見えた。遥か高いところに。
「それをきっかけに私の不幸体質が治るのだろうとこの上なく信じてます」
 ザっと足の滑りを止めたクライマックスは右腕を曲げ戻した。そしてシャリシャリとナイフを弄びながらニッコリ微笑んだ。
 やられた!! 踵を返し金髪ピアスは走り出した。
 足払いを決められたクライマックスは逆に倒れ込む勢いで攻撃を仕掛けてきた。
 鼻と……肩口に。
(一瞬で2か所も)
「5か所ですよぉ。この上なく」
 甘い声だが心臓を握られる思いだ。クライマックス。彼女は当然のような顔で並走し当然のような顔でナイフを振りかざしている。
 避ける。飛び退く。激痛が走る。脇腹。右大腿部。左側頭部。傷口が一斉に裂け血を噴いた。5か所同時は本当だった。
「ぬぇぬぇぬぇ!(←笑い声)。この上なくいいですよね! やっぱり。命を奪うっていう背徳的行為はきっと私の心を重くして
成長さえ促してくれるかも知れません!」
 そういいながらクライマックスは童女のような表情でナイフの向きをあれこれ変え始めた。ときどき先端を口に近付けては
何かを伺うように金髪ピアスを見て、遠ざける。
「……ひょっとしてベロで血を舐めたいのか?」
「は、はい! お約束ですから!! この上なくナイフ使いのロマンですから!!」
「じゃあ舐めろよ」
 い、いや……とクライマックスは後頭部を掻いた。
「舐め方が、分からないんですよぉ」
「…………」」
「あと金髪さん的にはヒきませんかそーいうの? なんかいやらしいというかやっぱり二次元と三次元の区別ついてないじゃ
ないかとか。あとこの上なく臭くて不健康ぽくて病気持ってそうだから純粋にイヤだなあというのもあります」
「ガチで殺しにきた上そんな暴言まで吐く方がヒくわ!! そーいうコトいう位ならやめろ!!」
「やめませんよ!! 私は私を救うためだったら他の人なんて幾らでもこの上なく犠牲にしたいタイプですから!!
「なんつー傲慢な意見だ!!」
「傲慢? いえ。私はこの上なく」
「嫉妬です!!」
 大きく踏み込むクライマックス。
 凄まじい風が路地裏に吹き込んだ。狂乱はまだまだ終わりそうになかった。

56 :
.
「世間で言われてるような傲慢なんてのは存外それほど恐れるべきじゃないのかも知れないね。パピヨン君がいい例さ」
『彼』は指を弾きそして語る。
 パピヨン。
 彼は人を見下すあまり遂には人そのものへの関心を失くし我が事のみに没頭している。
 Drバタフライもそうだった、と。 
「彼はヴィクター君を隠匿せんとするあまりホムンクルスの本分たる人喰いさえ見事に統制しきっていた。むーん。なんとも
コントロラーブル。皮肉だが傲慢さに救われた命も少なからずあるという訳さ」
 ねばついた腐肉がどこまでも広がる異常な部屋の中。
 半ば蹲(つくば)りながら坂口照星はため息をついた。
「そして私も今まさしく傲慢さに生かされているちいう訳ですねムーンフェイス」
 目の前に聳(そび)える長身の怪人は気の毒そうに顔を歪めた。
「同情するよ照星君。どうやら彼らに言わせればキミなどいつでも始末できるらしい」
 しかし、とムーンフェイスは乏しい顔のパーツを今度は最大限にしかめてみせた。
「愚かな話だよ。敵の戦力なんていうのは減らせる時に減らしておくものだ」
「真希士の話なら結構ですよ。コトの顛末は防人に聞かされていますからね」
「おやおや。キミも存外傲慢だね。又聞きだけで部下の生死を割り切るのかい? せめてそれなりの捜索隊に骨の一つで
も探しにいかせればもっと違った結末になるかも知れないのに。オススメするよ。見つけられればこれ以上悪くはならない」
「フフ。お気遣い感謝しますよムーンフェイス。ですがもし隊を編成できるのでしたら私はまず私を探しに行かせます。2人揃
えばもはやどうにもならぬ現状もそれなりに打開されるでしょう」
「……むーん。何とも上手なかわし方」
 剣持真希士を殺めた張本人は何とも期待外れという顔をした。
「もう限界とばかり嘯(うそぶ)きながらなお部下を殺した分裂性と交代性を当たり前のように求められる……キミの恐ろし
い所だね。妄言に見えて少しも熱に侵されてないときている」
「何に感心したかは分かりませんが……買いかぶりすぎですよ。拷問のおかげでマトモな受け答えができなくなっているだけです」
 平然と微笑する照星にムーンフェイスもまた笑いかけた。
「さっきの言葉、訂正するよ。少なくてもレティクルの連中の傲慢さだけは恐れるべきだ。それなりの意図はあるようだけど
キミほどの男をみすみす殺さず捨て置くデメリットを考えればいかなる方策も得策とは言い難い。むーん。まったく誰も彼も
愚か。望みのためとはいえ同盟を破棄できずお喋りに終始している私も含めてね」
「ところで、だね。この世でもっとも厄介な傲慢とはどんなものか……キミは分かるかい?」
 息もつかせず急に話題を変えたムーンフェイス。
 神父よりも静粛な顔つきが一瞬だが微妙な揺れを見せた。
「むーん。一足飛びだけど部下たちのコトでも心配したのかな? そう固くならない。グレイズィング君がやったようなオチは
ないよ。ただの雑談さ。リラックスリラックス」
 ニカリと歯を見せ笑ってみせる月の顔だが照星はいまだ怪訝の色が強い。
 それを無視するように朗々たる語りが悪臭漂う血膿の部屋に響き始めた。
「世界には実に様々な傲慢がある。最も一般的な物はやはりパピヨン君のようなものだね。私の知る限り彼ほどプレーンで
強力な傲慢な持ち主はまずいない」
「ただ前述の通り、世界に及ぼす害は少ない」

57 :
「少ないでしょうか」
 いつか写真で見た毒々しいファッションを思い出し照星はうめく。人にとっては恐ろしく不快になる姿だ。
「無害さ。武藤カズキとかいう戦士にご執心のあまり当初掲げていた世界全体への復讐などもはやどうでも良さげ。人喰い
さえもうやらないかも」
「その境地に至るまでかなりの犠牲者を出していますがね」
「キミのいう点も含めて色々難儀な相手だけれど、最も厄介な傲慢ではないね。むしろ月並みにいえば気高い。むーん。月
並み。私がいうと奇妙な感じ。とにかく彼は月(わたし)並みに多くの人間に好かれるタイプさ」
 片足を軽く曲げ人差し指を立てながらムーンフェイスは朗々と語りそして述べる。
「じゃあ権力へ執着し、悪政を敷く独裁者はどうかといえばこれも違う。一般大衆の諸君がすぐさま追い落としにかかる」
「組織の長は何かと目立ちますからね。現に火渡にとっての独裁者はいまこのような状態ですから」
 傷と欠損のよく目立つ体を眺めまわしながら照星は微苦笑した。微苦笑しつつもムーンフェイスの言葉を促す。
 曰く、もっとも厄介な傲慢とは何か?
「独裁者と同じく無能ではあるね。だが目立たない。とても普遍的で世界のどこにでも潜んでいて、害意などカケラもなく
したがって法では裁かれないが人々の嫌悪だけは一身に浴び続ける……そんな人種さ。駆逐不可能な、ね」
「貴方がいうと重みがあります」
 30体に分裂可能しかも1体でも残れば増殖というムーンフェイス。
 そんな恐ろしさを秘めた彼さえ「厄介」と目する傲慢とは何か?
「答えは……『何の力も持たない癖に他者を救えると信じている』だよ」
 もとより静粛な拷問部屋が静まり返った。反応を期待しているのだろう。ムーンフェイスは黙りこみ口元を綻ばせたまま
じつと照星を眺めた。返答を求められている。やれやれという顔で細い息をたっぷりつくと照星は自らの見解を述べ始めた。
「あなたのいいたいコトはだいたいわかりましたよムーンフェイス。結論からいえば『少年少女でもないのに』、ですね?」
「そうだね。今の双子や津村斗貴子ぐらいの年代なら大なり小なり持っている気持ちだよ。純粋、といっても過言じゃない」
 身の程などまるで与り知らないが故にただひたすら全力で大事な存在を救おうとするタイプ……やや嫌悪を込めてムー
ンフェイスは断言した。
「ですがどんなに遅くても防人たちの年齢(トシ)になるころ悟ります。全力を傾けても救えないコトがある。自分の力は決
して自覚や理想像ほど膨大ではないと。もっとも、真に強くなれるのはそこからですがね」
「けど稀にだね。ブラボー君たちが7年前直面したような『自負や理想を粉々にする』ひどい出来事に直面してなお成長して
いない者がいる」
 ムーンフェイスは肩を竦めてみせた。
「彼らは実にひどい。悲劇から自分の矮小さを何一つ学んでいない。無力だという自覚もない……。なのに人を救えると信じ
ている。揉め事を見つけては事情も考えずしゃしゃり出て、結果、ますます事態を悪くする」
「救いたい」、当事者たちの事情を一切無視した自分の考えばかり述べ立てる。
 そういう人種こそ厄介な傲慢の持ち主だとムーンフェイスはいいたいらしい。
「つまりは自分だけが正しいと信じ、諌める者やギャラリーを悪と断じる視野狭窄ですか」
「困ったコトに熱意だけはある」
 そして滅多に法を犯さないがために裁かれるコトもなくはびこりつづける。月の声音は笑いとも怒りともつかぬ様子で言葉
を紡ぐ。曰く、”返事どころではない”被災地に古着を送り続けるタイプ。曰く、事故現場で救急隊員を邪魔し民間療法を進
めるタイプ……。1つ1つ丁寧に事例を挙げるムーンフェイスに照星は嘴を挟んだ。
「いやに饒舌ですが、あなたひょっとして最近そういう者とましたか?」
「むん?」
 話を中座させられた月の怪人はもともと丸い目を更に円やかにした。
「マレフィック。いまこうして私を拘禁してくれている幹部たちは10年前もこれ見よがしに『罪』を掲げていました。今もそうです
ね。10年越しでようやく顔を見せてくれたイオイソゴは『大食』。大家さんことウィルは『怠惰』、デッド、でしたか。あの赤い筒
は『強欲』……いわゆる7つの大罪に古めかしい『憂鬱』と『虚飾』を加えた罪。幹部がそれを標榜する以上、居ますよね?」
 じっと顔を覗き込むコト5秒。ムーンフェイスはしばらく顎に手を当てていたがすぐに指を弾き明るい声で話し始めた。

58 :
.「『傲慢』かい? 確かにそんな幹部もいるよ。でもまずは雑談から片付けようじゃないか」
「雑談、ですか。そろそろ遠まわしな紹介にしか思えなくなってきましたが、まあいいでしょう」
 ダム。ダム。ダムダム。

 銀成市の路地裏で何かが弾む音がしていた。


「幸か不幸か。彼はとても頭がよく、そして何より前向きだ。だからブラボー君たちのように何もかもを背負いこんだりはしない。
後悔を引きずるコトもない。並の人間なら自責か責任転嫁で直視できなくなる凄まじい悲劇にさえメスを入れ、過失割合で
も算定するかのようにあらゆる要素を整理してしまう。動機はとても純粋。信念を貫こう。再発を防ごう。ただそれだけさ」


 街頭一つない真暗な露地で弾むそれは漆黒に覆われ色も質感も分からないが、時おり掌らしき物体に上部を叩かれる
たびアスファルトめがけ急降下しその勢いの分だけ跳ね上がる。そしてまた叩かれ、弾み、叩かれては弾み……。
 掌の主は歩いているようだった。掌の座標が前へ前へと移るたび「何か」も前へ前へと進んでいく。

「それもまた悲劇の中で命を繋いだものの務めでしょう。物事というのは何であれ複雑な要素が絡み合っていますからね。
残酷な言い方ですがそれは悲劇にしても同じです。誰か1人。あるいは何か1つ。それらにだけ原因を求め、元凶と呼び責
め続けたところで何の解決にもなりません
 毅然と言い放つ照星をムーンフェイスはいたく気に入ったようだった。
「さすがいうコトが違う。確かに職責が大きければ大きいほど総てを見渡し総てを公平に判断すべき……7年前しくじった
ブラボー君たちにもそうあるべきだとキミは言う訳だ」
「ええ。防人にいたっては感傷のあまり再起不能ですからね。戦士長たるものがそれでは部下に示しがつきません。もっとも
これまで7年前を雪ぐ任務を用意できなかった私も私ですが」

「何か」の動きが止まった。掌に掬いあげられ貴族服の前で静止した。
 かすかに、声が響いてた。
『いやお前! 俺の、人の命を何だと思っているんだ!!』
『大丈夫! わかってます! この上なく大事でー、地球より重くてー、みんなそれぞれ1度きりのー、とにかくとにかく守る
べきものですよね! ほら言えました! これでも声優やめた後は小学校の先生でしたからー、道徳は得意なんですよ』

 ムーンフェイスの舌はよく回る。無理もない。語るのはかつて自分を下した防人だ。密かな対抗意識とそれなりの思い入
れがあるのだろう。
「確かに彼らはいささか感傷的になりすぎだ。しかし私に言わせればまだブラボー君たちの方がマシさ。考えておくれよ」
「最も厄介な傲慢を、ですか?」
 何気なく答えながら照星はわずかに驚いていた。ムーンフェイスが防人を「マシ」と評している。敵はおろか味方にさえ
敬意を抱かぬ男が……。ともすれば比較対象を「自分を捕縛した防人以上に」嫌っているのかも知れない。
 機微を知られているという機微に気を良くしたのか。ムーンフェイスは軽やかに頷いた。
「ああ。責任の度合いはともかくだね。直接関わった、自分の根幹を揺るがすような悲劇の後でなお、守れなかった人間の
屍の傍で負うべき責任の正確すぎる量を弾き出せる……そういう男だからね彼は」

59 :
 ムーンフェイス曰く、どれほど責められても分析結果をタテに抗弁する。過失割合以上の反省など決してない。故に人間
好みの成長はないが挫折もなく、ただただ自我のみ貫き邁進する。彼はそうなのさ。念を押すように述べてから、ムーンフェ
イスは高い声をじっとりとねばつかせた。
「まったく面白味に欠けるタイプだよ。からかい甲斐がまるでない」
「フフ」
「むん?」
 不意に漏れた笑いをムーンフェイスは不思議そうに眺めた。めずらしく坂口照星は「素」で笑っているようだった。いまの
話のどこに笑う要素があるのか。訝る視線を感じた照星はまず「失礼」と品良く謝り、理由を述べ始めた。
「やや不快そうですがそれはただの同族嫌悪ですよムーンフェイス。あなたにとってL・X・E壊滅は何ですか? 属する組織
の瓦解……客観的な悲劇さえ最低限の自己反省を差し引けば後はもう単なる事故例。今後の参考材料程度の意味あいで
しょう。もちろんあなたはあの出来事に根幹を揺るがされてはいませんし元より人を救おうという意思もない。ですが求める
物の為だけ動くという点では同じじゃないですか? あなたが不快気に話す傲慢の持ち主とね」
 今度はムーンフェイスが「素」を見せる番だった。戯画的な顔をひどくあどけない無防備な様子にたっぷり歪めてから……
「かもね!」と歯を見せた。それを見ながら照星はサングラスを掛け直し、一言。
「ヤケになって肯定しているようにしか見えませんよムーンフェイス」
 笑顔が硬直し、しかめっ面になるまでさほどの時間を要さなかった。
「やれやれ。キミは本当に恐ろしい。私が彼に抱く嫌悪なんてとうにお見通しのようだね」
 ダム。
 ダム。
 ダムダム。
「私はこれでも寛大な方だけどね。彼だけはまったく好きになれない」
 再び路地裏に静かな音が響き始めた。
「何か」は弾む。ゆっくりと。

「つくづく『病気』だからね。マレフィックはキワモノ揃いだが彼ほど厄介な存在もない」

 貴族服からきらきらと光る粒子が散り、そして消えた。

「他の幹部連中は盟主を含め大なり小なり挫折を引きずりブラボー君たちよろしく背中に影を落としている。だが、彼は違う。
彼だけは迷いも葛藤も復讐心も嗜虐心も何もない。他の幹部たちとは出自からして一線を画す存在だ」
「そう」
「『土星』の幹部。リヴォルハイン=ピエムエスシーズ君はね」

 貴族服は「何か」を弾ませながら歩いていく。金髪ピアスとクライマックスの争う現場めがけゆっくりと、ゆっくりと。

 しばしの沈黙の後、照星は静かに告げた。
「ピエムエスシーズ、ですか。また特殊な武装錬金の使い手ですね」
「ほう。博識だね。まさか略称だけで分かるとは。流石は大戦士長」
「たまたまですよ。職務上そういう手合いの動向はよく耳にしますから」
「私は耳にした時驚いたよ。まったくもって有り得ない武装錬金だからね

「何しろ、その形状というのが──…」

60 :
以上ここまで

61 :
やっと規制がとけた。
ムーンフェイスは奇天烈な風体に結構思慮深いところがあって好きだ。
しかし変人ばかりのSSになったなw原作キャラもオリキャラもw
あとスターダストさんSS、今回は特にテンション高いのに
感想はまた素っ気無いのに戻ったな。なぜだw
るろ剣も実写化されるんでテンションあげてください

62 :
おーお久しぶりですスターダストさん。
クライマックスはふらーりさんがモデルですか?w
劇場型犯罪者みたいな、妙なテンションですね。
小札と愛通じるものがあるような、ないような。
しかしお話がゴールに近付きつつあるでしょうに
ますます登場人物が増えて賑やかになっていきますね。
大団円が見られるよう、私も見守っていきます。

63 :
スターダストさんお疲れ様です!
原作変人代表のムーンフェイスが普通に見えるほど
変人大集合ですね。太陽系はみんな揃ったかな?
スターダストさんのサイトに出演者一覧表とかないかな?

64 :
>>スターダストさん
>分の厚い黒ブチ眼鏡などもっての他
おぅこら金髪ピアス、そいつぁ眼鏡属性もちの私に対する挑戦か? 眼鏡ってのはそういう、
洒落っ気のない実用的なものこそ萌え……ま、私が何もせずとも既に悲惨極まってるから許す。
さて、ソフト(精神)・ハード(武装錬金)両面で他幹部と一線を画してるっぽい土星氏はどんな奴?

65 :
あげ
スレ復活はあきらめたけど
永遠の扉とサンレッドは完結してほしい

66 :
それにしても何で最近は新規執筆者が来ないんだろうか?

67 :
まあ・・
永遠の扉は最初から(というか根来から)読んでたので完結してほしいな
ここまで読んでスレの都合で打ち切りとかは勘弁

68 :
保守上げしとくか・・
サマサさんスターダストさん頑張って・・

69 :
二ヶ月で70か

70 :
全盛期は毎日4、5作来てたのにな・・

71 :
なら、何故いまは全然人が来なくなったのか? ってのがさ。
みんなVIPのSSスレッドに行ったのが原因でも無いでしょうに……

72 :
どんなスレにも寿命はあるということなのだろう
2002年くらいからスタートか?
考えてみれば凄い長いな。名作も結構あったし
でも、永遠の扉はちゃんと完結してほしいな・・

73 :
2ヶ月こないってのは厳しいな

74 :
終了

75 :
まあ書き込み規制が激しいから・・
スターダストさんもサマサさんも完結してくれると信じたい
とりあえず年内は見捨てないよ。今まで楽しましてくれたからな
・・ここ2年は寂しいが。全盛期を知ってるだけに

76 :
「さあそろそろ犠牲になってくださいよぉ。この上なく尊び(たっとび)ますからあ」
(追い詰められた)
 行き着いたのは袋小路。背後には塀。両側にも塀。これでもかと積まれた灰色のブロックどもは左官の奏功、目測が馬鹿
らしくなるほどの高さだ。登るのを考えた瞬間全身のそこかしこが悲鳴を上げた。手足の傷は決して軽くない。疲労もある。
衣服に染み込んだ血や汗ときたらクチクラやキチン質よろしくバリバリと凝固を重ね運動性というやつを大きく喪失せしめてい
る。もはやできそこないの甲虫外骨格か甲殻類の表面かというありさまで気だるい重量ばかり全身にのしかかる。つまりまっ
たく心身とも登攀(とうはん)不可の極地にまで追いやられている。
 そのうえ眼前には黒い影。
 まさしく絵に描いたような追い詰められ方だった。
 影が一歩進んだ。街頭に照らされ素顔が明らかになった。右手の得物も同じくだ。放たれた鈍い銀光に金髪ピアスは戦
いた。肉厚のナイフ。その刀身に漾(ただよ)うおぞましさという名の陽炎はいまや鹿の大腿を肉ごと切断できそうなまでに
膨れ上がっている。当たれば朽木のように消し飛ばされる……。不吉な、しかしかなり精度の高い予測が全身の汗腺を開
放する。こびりつく脂分や塩分があっという間に流し落された。口の中がひび割れるように痛い。水分ともに全霊が抜けて
しまったのではないか──…逃避じみたコトを考える間にも相手は着々とにじり寄る。
 見た目20代前半の女性だった。どちらかといえば美人だが冴えない感じが頭頂部からつま先に至るまで万遍なく振り分
けられている、黒縁眼鏡のスーパーロングヘアーだった。
 そして彼女は元気よく背筋を伸ばし、叫んだ。
「大丈夫! この上なくっ! だぁーいじょぉーぶ!! ぶいぶい! 死んでもグレイズィングさんが蘇らせてくれますよ!!」
「蘇らせた後どうなる!! アイツは間違いなく拷問狂!!」
「…………」
「いやなんか言えよ!! なんつーのココは三流悪役丸出しにせいぜい苦しむがいい下等種族くけけけみたいな安っぽい
文言吐かれる方が気楽な訳でさあ!! そしたらヒドい目に遭う俺は理不尽な被害者つー感でさ正義じみた怒りで耐えら
れるのになんで何も言わない訳!? 怖いよ、怖い!! 手なれた感じが怖い!!」
「ままま。グレイズィングさん、私の同人誌の監修してくれてますしー。イケニエさんを差し上げるのはお礼というコトで〜♪」
 クライマックスと名乗る女──見た目20代前半、元声優にして元女教師らしい──の口調は軽い。足取りも。殺人以外の
用途がまるで見いだせない武器を可愛らしい手ごと前後に振り振りゆっくり近づいてくる。あまつさえ軽く唇を綻ばせ周囲を
見渡している。あくまで落ち着き払い、「逃げ場のなさを再確認している」。戦慄が金髪ピアスを貫いた。脳天から
に至る正中線内部ときたら黒く野太い氷柱を差し込まれたようにぶるぶる震えている。
(家を出るときはこんなんなるって思わなかったのに!! ああ、お袋今頃どうしてんだろうなあ。またクラッカーにラード塗っ
て喰ってんのかなあ。夜それやるとますます太るっていつも怒ってんのに聞かねーの。買い物の時はいつもの賞味期限間近
の奴ばかり探すお袋。見つけると店員さん呼んで値引きシール貼らせる厚かましいお袋。息子はいま、ピンチです)
 ばかばかしい日常の一幕さえ今は懐かしい。
 現実はとにかく泣きたいほど悲惨である。
 彼が踏みしめる地帯は三方を高い塀に囲まれ、とても狭い。道路の幅はおよそ2m。正面突破は自殺行為、鋭く尖った
刃にハイどうぞと的を投げるようなものだ。奇跡が起こってすり抜けられたとしても首や背中を深く刺されるに違いない。
 クライマックスもその方向性で一致しているのは明らかでド真ん中で通せんぼ。
 いやな一致だ。涙と情けなさでくしゃくしゃになった顔で眺めていると彼女は不意に止まった。距離は3mほどだ。そこで両
手を胸の前で小さく構えガッツポーズをした。更に両方の拳をくりくりと回すさまは笑顔ともども愛らしい。もっとも右手のナイ
フが総てを御破算にしているのだが。
「ぬぇーぬぇっぬぇっぬぇっぬぇっぬぇっぬぇっぬぇっぬぇっ!」
「!?」
 奇妙な声が上がった。とても高く、いやにアニメアニメした奇声である。表情を見るにどうやらクライマックスは笑って
いるらしかった。とても楽しげにあどけない瞳──30間近とは思えないほど大きな──を輝かせ、マシンガンよろしく
甘ったるい声をばら撒いている。

77 :
「なにその笑い声」
「ぶっふっふ!! 分かっていませんねえ金髪さん!! キャラを立てるためにはヘンな語尾ヘンな口癖ヘンな笑い声が
この上なく不可欠ですっっ!! なにしろ見ての通り私ってばマレフィックの中で一番この上なく地味地味さん……キャラ立
てないと埋没する一方じゃないですか。ブレイクさんとかリバースさんとかみんなみんなアクが強すぎですし」
「知らん!!」」
「で、最初は敬語キャラで行こうかと思ってましたけどそれは仕事モードのウィルさんと被っちゃってるじゃないですかあ。
じゃあ方言カナって思ったんですけど関西弁ならデッドさん居ますし……」
 喋りながらクライマックスはその黒髪に手を掛けた。
 左肩に乗った、長すぎるそれへ……。
「いや聞いてないし。誰だよウィルとかデッドとか」
 内緒です。悪戯っぽく微笑するクライマックスの下で白い手だけがススリと動く。
「ディプレスさんから聞いてないですかこの上なく?」
 疵だらけの髪を鞣(なめ)すように上へ、上へ。
「とにかく周りを見渡せばこの上なく強烈すぎる人たちばかり!! だから私は埋没しないよう毎日必死!! 体のコトとか
能力のコトとかこの上なく一生懸命考えた結果こういう笑い方になりました!!!」
「……年齢考えるとイタくね? それ」
「イタいイタくないを考えたらやってけないのが声優!! 大御所さんなんか70超えても幼稚園児やりますよ!!」
 どこかズレた答え──そもそもこのアラサー、声優辞めていなかったか?──を返しながらクライマックス、ルンラルンラ
と音符を飛ばしつつ髪止めを軽く弄(いじ)った。左耳のちょうど前あたりにあるそれは少し奇妙な形だった。電車とその操縦
席をミックスしたような奇妙なデザインが幅10cmほどの半円の中にごちゃとごちゃと押し込められている。何気なくクライマック
スの挙措を追っていた金髪ピアスは更に奇妙な点に気付いた。
 液晶画面。
 ぱっちんを形作る奇抜なデザインは決して刻印されていたものではない。画面に浮かんでいたものだった。それが証拠に
クライマックスが表面を一撫でるするやバッとかき消え別のものを映し出した。今度はATMの初期画面──”引き出し”や
”預け入れ”といった項目名が規則正しく並んでいる──を思わせる画面だ。そのうちの1つに指が乗った。ピロリン。小気
味いい電子音とともに別の画面へと切り替わる。ピロリン。ピロリン。ピロリン。目まぐるしく変わる画面と電子音の洪水に
ただただ金髪ピアスは圧倒され呆然と立ち尽くした。好機を見ながらも逃げられない虜囚の心理が全身を支配していた。
「とにかくもーぅ逃げられませんよ金髪さん!! この上なく!!!」
「!?」
 金髪ピアスの両側で光が膨れ上がった。虹色に輝く無数の幾何学模様を内包したそれは瞬く間に人の輪郭を結び確か
な質量で佇立した。
(人形……?)
 左右を見渡した彼は2つほど重大な事実に気付いた。1つ。彼らには顔がない。代わりに迷彩柄が煙のように当所(あてど)
なく輪郭を這いずりまわっている。服飾品は光さえ飲みほしそうな漆黒のヘルメットといかにも防刃防弾の極厚プロテクター。
特殊部隊かよ……不穏な雰囲気に身震いした辺りで彼は気付く2つめの重大事実。
 両手が、拘束されている。
 さらに重大事実3つ目追加。
「ああ、憂鬱wwww」
 クライマックスが、景気よくナイフを構えている。そしてこちらをニッコニコと眺めている。
「クライマックスの武装錬金は装甲列車(アーマードトレイン)wwwwwwwwww 恐ろしく巨大な武装錬金だぜwwwww 長さ
たるや銀成市クラスの市町村をまるっと完全に包囲できるぐwらwいwwwwwwwwwwwwwww」
 肩に小石が当たった瞬間、金髪ピアスは情けない悲鳴を上げ首を背後めがけ捻じ曲げた。
 背後の塀。
 その上に。
 いたのは。
 2mを超える嘴の大きな。
 鳥。

78 :
 節くれだった鉤爪がごわごわした塀のてっぺんを掴んでいる。コンクリ製だというのに亀裂が入り握力の強さが伺えた。
 彼を見たクライマックスは双眸をキラキラ輝かせた。
「やりました!! 追い詰めました!! 追い詰めましたよっディプレスさん!!」
「手数かけすぎだろお前wwwwww 追い詰める、ってのは要するに追い詰めるまで時間かけちまったってコトじゃねーかww
wwwwwwww 戦士ならともかく一般人ぐらい路上でスパッ!!! ってよぉーwwwwwww 一撃で仕留めろwwwwwwwwwwwwww
幹部だろお前wwwwwwwww 悪wのw組w織wのw幹w部wwwwwwwwwwwwww」
 つくづく馬鹿にした声。クライマックスは一瞬唖然としてからえぐえぐとえづきだした。
「うー。言わないでくださいよぉディプレスさん。ここまでこの上なく梃子ずったのは不幸体質のせい……。殺そうとすれば
するほど相手の人は幸運に恵まれちゃうんです。相手がラッキーマンになるような感じでデスね!! この上なく実力
行使ができないんです。ああ思い返すに辛い不幸の数々!! 偶然転がっていた空き缶!! 偶然飛んできた古新聞!!
偶然埋まっていた不発弾とか偶然支柱部分が整備不良だった街灯とかいったものがことごとく!! 私の攻撃を邪魔して
くれたんですよぉ!!」
 色気もへったくれもない黒ブチ眼鏡から向こうの領土が洪水に見舞われた。引き攣った、葬式の弔辞をうまく読んでいる
ようなよく通る声が路地裏に弁解を振りまいた。よく見ると安物の服はところどころ破け顔面にはドロやススがたっぷりついて
いる。遠くから響くサイレンの音。今ごろ銀成市消防局は不発弾処理に追われているのだろう。ゴミ捨て場を焼く程度の
ちゃちい爆弾で良かった。一市民としては安堵の思いだ。
「つかよーwwww そろそろやめた方がいいと思うぜクライマックスwww 今回も多分ムリだわwwwwwwwwwwああ憂鬱wwww」
 彼はいったん金髪ピアスから視線を外すと『なぜか』説得を始めた。
 「やめておけ」「退散」そんな言葉がよくよく目立った。そして結果からいえば受け入れられなかった。「せっかくここまで
きたのにどうしてですか」。不満げに唇を尖らせるクライマックスからあきらめ交じりに視線を外したディプレス、翼をすぼめ
た。やれやれと、大儀そうに。
「じゃあーーーーーーーーー話ーーーーーーーーー戻すわーーーーーーーwwwwwwwwwww 武装錬金がデカすぎんもんだ
からよぉwwwwwwwwwwコイツいつも部分発動してんだよなーーーーwwwwww」
 何の話? 一瞬呆気にとられた金髪ピアスだがすぐに気付く。武装錬金。何かはよく分からないがどうやらクライマックスの
武器について解説しているらしい。
「髪止めのパッチンは端末wwwwwwwww 早坂桜花が弓なしでエンゼル御前発動できるようにwwwwwwwこいつは端末だ
けを発動できるwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwそして完全発動したり自動人形召喚したりする時にぃーーーーーーー使う!!
さっきお前を援護防御したようにwwwwwwwwwwつwかwうwのwだwっwぜwwwwwwwwwwwwwwww」
 直立姿勢でけたたましく笑う巨大な怪鳥──見た覚えがある。ハシビロコウだ。動かないコトで有名な鳥。テレビで見
た。1年もすれば消えゆく芸人を適当に配置しただけのお安いバラエティ番組で笑いを誘っていた。とにかく奇抜な──は
極端すぎる2.5頭身でずんぐりムックリした佇まいだ。青みがかった灰色はいかにも不吉な色合いで絶望感が加速する。
「あー。オイラは手ぇ出さねえぜwwwwwwwwwwwwwww どうせもう無理だし」
 鋭い三白眼をいぎたない笑みに歪める鳥。
 誰か聞くまでもない。狂的で常に嘲笑うようなその声の持ち主はどうやら全身フードをやめたらしい。
(……?)
 違和感。もう無駄? 小声で諦めるように呟かれたその言葉に引っかかるものを感じた。
(あの女が絶対俺を殺せるって確信があるのか?)
 にしては何か調子が違う。うまくはいい現わせないが……。
「話戻すけどよwwwwwwwwwwwww クライマックスの武装錬金で一番えげつないのはデカさじゃなくて特性wwwwwwwww 無
限増援ってなwwwwwwwww 装甲列車の中から無尽蔵に自動人形が生まれんだwwwwwwwwww 部分発動の時も召喚可能で
wwwwww 端末イジるだけで生みだせるwwwwwwwwwwwwww タッチして数とか種類を決めるんだぜwwwwwwwwwww」
 そういう経緯でやってきた人形どもの力は凄まじい。金髪ピアスがどれだけ身を揺すっても捩じっても微動だにする気配
がない。クライマックスは後ろで手を組み「どうです!」、上体を乗り出した。

79 :
「本当はー、追っかけてる時300体ばかり自動操作の人形出して追跡させようかな、って思ったりもしたんですけどねー。
でもやっちゃうとほかの市民さん達に見つかってこの上なく大騒ぎになるかもじゃないですかあ」
 それに、何よりぃ〜。歌うように囁くアラサーの唇がニヘリとだらしなく歪んだ。薄桜の肉たぶの端にヨダレが滲む。
「なにより、獲物は自分の手で仕留めたいじゃないですかこの上なく。……あ!! いま金髪ピアスさん、”人形に両手押さ
えさせてトドメさすのはいいのか”ってカオしましたねこの上なく!!! 正解は「ぃぇす」です「ぃぇす」!!! 人間を殺した
コトのない私ですから最初は誰かの何かの介助というのがこの上なく必要なのです。と!! ゆー訳でぇ!!」
 彼女はしゃきりとナイフを構え直し、笑う。「ぬぇぬぇぬぇ!!」。特徴的でけたたましい声のなか金髪ピアスは理解する。死
刑執行を告げられる虜囚ははたしてどんな気持ちなのかと。生きたいという渇望がどれほど反作用的に湧くのかを。
 絶望的な表情にクライマックスは興奮したらしい。「おおー。おおおおお〜」。全身に鳥肌を立てた。高所から落ちたアニメ
キャラよろしく足元からウェーブを駆け昇らせた。
 ご様子はもはや我慢の限界、頭上でぶんぶんナイフを回す。回す。回す。
「イイですよイイですよお〜〜〜〜。予感ッッッ!! っていうんですか!! 3等8万円の宝くじ買った日の朝のような!!
或いはリテイクに次ぐリテイクを迎えた収録現場でオーケーサイン勝ち取る演技をやる寸前のような!! 『今度こそイケる』
無意識の確信ッッ!! 湧いてきましたこの上なく!!  そーいえば今日は朝からいいコトありそうな気がしてたんですよう。
うんうんうん! めざましテレビの占いでも私の星座7位でしたしとくダネのきょうの占い血液型選手権でも3位でしたし!」
「両方ともロクな順位じゃねえwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「ええい放せ人形ども!! 俺はこんな訳の分からん女になんざ殺されたくねえ!!! チェンジ!! チェンジだ!!!
そ、そうだ!! アレ!! あのコ!! 青っち!! 青っちにしろ!! 思い返せば一番最初が一番マトモだった!! 
チェンジ!! チェーーーーーーーーンジ!!
「で、でででででわ行きますよ」
 クライマックスはやや緊張の面持ちで構え、すぅっと息を吸い、吸い、吸い──…
 とても恥ずかしげに瞳を潤した。
「私、人の初めてなんです。優しく……して下さい」
「何をどう!?」
「いいからさっさとやれよwwwwwwwwwww」
 ディプレスは薄く笑った。
「ま、もう無理だろーけどwwwwwwwwwww」
「ふへ?」
 ダッシュ途中でディプレスを見上げたクライマックス。その後頭部で衝突音が巻き起こった。バゴン! 乾いた音に叩き
出されるように彼女は鼻血をしこたま噴いた。笑顔のままというのが逆に惨たらしかった。血は噴水のような勢いだった。
「やっぱり元声優だからアニメっぽく鼻血噴くんだろうか」、ぼんやり考える金髪ピアスの足元に叩きつけられたのは哀れな
哀れなアラサー女。うつ伏せなのはすっ転んだからですっ転んだのはどうやら頭に何かぶつけられたせいらしい。そして彼
女はしばらくヒキガエルのように呻いていたが……やがてめでたく動かなくなった。
「失敗もいいじゃん♪wwwww 次につながっていくならwwwww そうでしょ〜♪ オウオウwwwwwwwwwww」
 気絶。両腕を抑えていた人形が消滅した。自由になった反動で金髪ピアスは前に向かって数歩たたらを踏み──誰か
の背中をクソ長い黒髪越しに思いっきり踏みつけたような気がしたがどうでもよかった。「ぐげぇ」という呻き声も──ただ呆
然と闇を見詰めた。
 正面に広がる、果てしない闇を。
 ダム。ダムダムダム……。
 
 何かが弾む音。悪寒が走る。危機は依然去っていない……緊張がぶり返す。まだ背後の塀にディプレスがいるという
のもあるが、それ以上に。
(あの女に何かぶつけたのは違う奴!! 何をぶつけたかまでは分からねーけどそれはあの馬鹿なアラサーの後頭部に
当たった!! ディプレスは……正面に居た!!)
 つまり第三者が近くにいる。クライマックスの背後から正体不明の何かをぶつけた存在が……。
「ヒュウwwwwwwwwwwwww こらまた予想外のおでましだぜwwwwwwwwwww」

80 :
 ディプレスが口笛を吹く中、それは来た。
 転がる何かを拾い上げ、闇の中からゆっくりと。
「ようwwwwww病気野郎wwwwwwwwww」
「土星の幹部・リヴォルハイン=ピエムエスシーズwwwwwwwwww」
【同時刻 日本のどこか山深い地方で】
「村だな」
「村ですね」
 狭く、近未来的な部屋だった。パネルやレバーといった操作器具が敷き詰められ電子音が規則正しく響いている。
 その部屋の正面にはモニターがあり今は粗く緑がかった風景を映し出している。
 モニターの中央と向かい合うように椅子が3つ、配置されていた。うち2つは隣同士で1mばかりの感覚が空いていた。
座っているのは両方とも20代以上の男性で、片方はやせ型、片方は小太り。生白い肌と浅黒い肌も対照的な彼ら、
先ほどからモニターを見てひそひそと話している。
 モニターが遠望していたのは確かに村だった。
 いかにも小規模なそこは山の中腹にあり提灯や屋台が所狭しと並んでいた。時節柄解釈するに祭りでも開いているとみ
るのが妥当だろう。いかにも農民風な人々が望遠レンズの映し出す世界で踊ったり屋台に並んだりとにかく祭りを楽しんでいる。
 麓と村を繋ぐ道は1本しかなかった。とびきり長くて緩やかなのが1本だけだった。村付近の斜面はどれも崖という
べき垂直ぶりだ。コンクリートが固めていなければ台風1つで崩落するだろう。しぜん道は傾斜の緩やかな方へと
伸びざるを得なかった。
 村から吐き出された道は山を螺旋状になぞり緩やかな勾配を描いている。と男たちがモニターから読み取れたのはコケ
の浮いたガードレールが木々の中で長々と自己主張していたからだ。規則正しく並ぶ街灯の向こうで碁盤状の法枠(のりわ
く)が整地区画の草花畑をどこまでもどこまでも伸ばしていた。
 様子からして路面はアスファルトだろう。村まで車で15分というところだ。
 
 その道に。
 麓の辺りに無数の人影がいた。
 黒い服とサングラスという「いかにも」な人種だ。それが6ダースほど闊歩していた。
 黒服の男たちはところどころ人間らしさを喪失していた。爪が恐ろしく長かったり牙がにゅっと伸びていたり羽根が生えて
いたりでとにかく怪物性を誇示していた。
「ホムンクルスだな」
「ホムンクルスですね」
 彼らは坂を上っていた。ペースは早い。車ほどではないが人間の速度は凌駕している。
 このままいけば20分で村に着くだろう。
 やせた方の若い男は生白い顔を後ろめがけ軽く捻じ曲げ、こう聞いた。
「どうしますか艦長」
「…………」
 最後の椅子は部屋の一番奥にあった。一段高いところにあるそれは見るからに上役用で肘掛けさえついていた。
 艦長と呼ばれたのはいかめしい顔つきの老人だ。彼はしばらく沈黙を保ったままただただ画面を見つめていた。目深に被っ
た帽子の下で瞳だけが鋭く光っていた。荒波を超え続けてきた男だけが持つ威圧感がひたすら黒服どもを射抜いていた。

81 :
 黒服たちは知らなかった。
 自分たちが見られているという事はもちろん……背後彼方の場所にある森の中に何があるかというコトを。
 戦艦が一隻、森の広場の中にいた。海からはかなり離れているというのに、どでんと。
 真鍮色のそれは鉄板をごてごて塗り固めたように不格好で、至るところに据え付けられた3連装砲や連装機銃座の数々が
とことん全体のフォルムをややこしくしていた。艦首に居たっては双頭の竜よろしくにゅっと2つに分かれている。
 つまりディティールこそ精緻を極めているが小学生が考えた出来の悪い発明品を思わせる気色の悪い物体だった。
 とても真っ当な軍隊の制式に収まりそうもないそれは錆びついたダンプカーの横にぷかぷかと浮かんでいる。積載量10t
の隣人さえ霞む大きさだった。高さこそ等しくしているが幅や全長はゆうに3倍を超えていた。にも関わらず空気の浮上力
によって一切の重量感を排している。通ってきたと思しき方角を見れば無数の木々が折り重なるように倒れている。強行軍。
これまでの『航路』を言い表すにふさわしい言葉である。
 2人の若い男といかめしい顔つきの老人はその戦艦の中にいた。
 「ディープブレッシング」という戦艦の中に、先ほどからずっと。
 
 武装錬金の中には複数の創造者や核鉄を要するものもある。好例がディープブレッシングであり、核鉄の組み合わせに
よって姿さえ自在に変える。基本形態こそ潜水艦だが宇宙船を思わせる空中戦艦にも変形可能。創造者たちいわく三核鉄
六変化、つまりは全部で6つの形態を持つ変わり種の武装錬金なのである。
 その操縦席の奥で老人──艦長──が口を開いた。とても厳かな声だった。
「諸君。我々は現在大戦士長救出作戦を補佐する立場にある。数多くの戦士たちを合流ポイントに向けて輸送中……。
それもヴィクターにはとうとう見せてやれなかった陸戦艇形態でだ」
「アイアイ」
「アイアイ」
「本来戦艦であるディープブレッシングがこのような扱いを受けている。不当だと感ずる者もいるだろう。だが戦団がヴィク
ター討伐により数多くの輸送手段を失っている以上、やらねばならない。辛いだろうが諸君らの一層の克己と奮励に期待
する」
「アイアイ」
「アイアイ」
「敵はレティクルエレメンツ。1秒の遅参も許されない。海域空中戦形態で空を飛べばもっと早くつけるだろうとかという
文句も戦士たちから上がっているがアレは目立つし第一ヴィクターに見せたからもういい」
 アイアイ。アイアイ。機械のような返事を聞き届けると艦長は深く息を吐き椅子にもたれた。画面の中では黒服たちが
とうとう山の中腹にまで登り詰めている。進行速度は予想以上でともすればあと5分で村は惨劇の舞台になるだろう。
「では艦長。村民たちは」
「航海長。命令を忘れたか。『とにかく余計な戦闘に時間を裂くな』。火渡戦士長は我々にそう伝えた筈だ」
 底冷えのする声だ。航海長と呼ばれた痩躯の男は沈黙した。
「すでに上層部は彼を大戦士長代行とさえ認めている。である以上、火渡戦士長の命令は絶対だ。私は艦長として万難を
排し不要な戦闘を避けねばならない。……という訳だ航海長」
「アイアイ」
 ・ ・ ・ ・ ・ ・
「村へ向かえ」
「アイアイ。また命令違反ですか艦長」
 にこりともせず艦長は答えた。
「人命を助ける。そのどこが余計だね?」
「アイアイ」
 航海長は特にどうという感慨も浮かべぬまま桿を握った。こんな問答は茶飯事らしい。
 やがて戦艦各所にしつらえられた通風口を大量の空気が通り抜けた。唸る艦底。熱ぼったい奔流が艦全体を緩やかに
持ち上げる。草木がさざめいた。流れる木の葉は五線譜の音符だった。さらさらと綺麗に鳴り消えていった。

82 :
 静かな空気の音が充満する操縦室の中、小太りの男が一言ぼやく。「帰ったらまた大ゲンカか」。浅黒い顔の後ろで腕を
組み天井を眺めるうち艦はとうとう錆まみれの隣人に別れを告げた。
 ほどなくして山裾に達した艦は木々の犇めく斜面を登り始めた。艦長はぽつりと呟いた。
「第一火渡はディープブレッシングをいろいろ小馬鹿にしてくる上に何かと突っかかってくる。嫌いだ。命令など聞いてやらん。
まったく。戦士になりたての頃誰がサバイバル訓練に付き合ってやったと思っている」
「やはり重りを付けて深海に放置したのはマズかったですね」
「火炎同化を持つアイツにはあれが一番サバイバルだと思ったのだ。ディープブレッシングの全形態も見せたかった」
………………水雷長。艦砲射撃準備」
「アイアイ。もう終わってますよ艦長。いつでも行けます!!」
 やがてディープブレッシングは山を登り始めた。道は使わず直接村を目指した。木々の密集する斜面へ突入し山肌を削
るように疾走し、登りながらも高度を上げた。「ガードレールまで距離200」「面舵いっぱい」。大きく円弧を描きながらガード
レールをブチ破り道へ合流。風が法面に吹きつき艦の動きが静止した。
 遥か前方で黒い影がまろぶように駆けている。
「艦長! やはり気付かれたようです!! 黒服たちは……村へ!!」
「ああやっぱり。ばらばらに発動した方が良かったんじゃ」
「艦内へ通達。総員前方からのGに備えよ。これより本艦は最大船速に入る。目標到達後は船速の如何に関わらず村へ
突入……ホムンクルスを殲滅せよ」
「アイアイ。要するに爆走中の戦艦から飛び降りろってコトですか」
「アイアイ。時間がないとはいえ恨まれますよ」
「機動力のあるものや押しつぶされたくないものは直ちに下艦。のち後方より本艦を援護せよ」
 やがて艦後部で空気が爆発した。道路の幅いっぱい以上に広がるディープブレッシングはガードレールを歪なかつら剥き
にしながら火花を散らしぐんぐんと黒服に追いすがり、追いすがり、追いすがり──…
 村の入口付近で6人ばかり撥ね飛ばした。
 振り向いた黒服たちはまず艦の威容に息を呑んだ。慌てた様子で村を振り返り再び艦を見るものもいた。逡巡。わずか
だが一同を迷いが支配しその動きが止まった。その瞬間ディープブレッシング右側面のある位置でハッチが開いた。
 出てきてきたのは老若男女さまざまだ。服装もまちまちで手にした武器もどれ1つとして同じ物がない。
 ただ全員ただならぬ眼光を持っているのだけは共通しており、それが黒服たちに不吉な予感をもたらした。
 戦士たちが、一歩踏み出した。
(来る)
 身を固くする黒服たちの前で…………戦士たちはそろって踵を返し、艦を蹴った。
「あれほど言ったのに急加速してんじゃねえ!!!」
「おぇ。ただでさえ船酔いしてんのに……いきなりあんな速……おぇ」
「最高船速の船から飛び降りろだあ! できるか!! !」
「あの……」
 黒服たちは困惑した。戦士たちはみな悪態をつきながら執拗に艦を蹴っている。とても異様な光景だった。
「だいたい何で陸戦艇なんだよヴォケ!!!」
「3人別々に小型飛行機発動してピストン輸送する方が効率いいだろ!! どう考えても!!」
「傷病兵だって乗っているんだ!! 目立ちたいからって無茶すんな!!!」
「だからお前らに輸送されたくなかったんだよ!!!!」
 ハッチの奥から海兵らしい人物たちが引きずり出された。若い男2人と老人だった。彼らは顔面に殴られたような痕が
あり衣服もところどころが乱れている。特に老人などは筋骨隆々の中年男に襟首を掴まれいまにも処刑されそうな勢い
だ。(そのくせ眼光は異常なまでに鋭かったが)
「なんかいえよ艦長!! ア゛!!」
「諸君らに告ぐ。我々は目標地点に到達せり。速やかにホムンクルスを殲滅し村民を救助せよ」
「おーおーおーおーおー!!! 命令する方は楽でいいよなあ本当に!!」
「だいたいお前ただのヒラだろヒラ!! 勝手に艦長とか名乗ってるだけだよな!!?」
 筋骨隆々の男は露骨に青筋を浮かべながら艦長のヒゲを引き始めた。それなりの痛覚があるらしく艦長はうっすらと
脂汗を浮かべた。

83 :
「やめろ。私に手を上げるのは構わんがディープブレッシングを蹴るのは止めてもらおうか……!!」
「蹴りでもしなきゃやってらんねーだろうがアアアアアアアアア!!」
「デカいから目立つんだよコレ!! 人の目のあるところ飛べないんだよ!!」
「潜水艦形態は嫌だっつーし!」
「いつも通るの獣道! しかもそういう場所に限って共同体があるからケンカふっかけられるのな!!」
「お陰で俺たちボロボロ!! 決戦前なのに!!」
「くそう!! あのときパーを出してればヘリ乗れたのになあ!!」
「ヘリ組は毎日ホテルで寝れるらしいぜ。フランス料理とか好きなん食えるらしい」
「もうすぐ決戦で死ぬかも知れないから? いいなあ。俺も寿司食べたい」
「あのー」
 黒服たちは困り果てた。仲間の肩を借りているのは先ほど跳ね飛ばされた者だろう。彼らもまた呆然と見守るばかりだ。
攻撃された恨みも忘れるほど異様で滑稽な喧噪だ。
「クーデターが発生」
「艦内放送後すぐ戦士たちが操舵室を制圧。安全な速度でここまで来る事になった」
「は、はあ」
 いかにもデコボココンビな男たち──航海長と水雷長──の説明に黒服たちが首を傾げていると。
 騒ぎを聞きつけてきたのだろう。
 村人たちが何人か、誰何の声を上げた。
「オイ騒いでる場合じゃねえぞ!! 要救助対象者がホムと鉢合わせだ!!」
「誰だよお前たち!! ココで何を……」
「ええいもうこうなったら襲うしかねえっぺよ!!!」
 三者三様の喧噪の中で最も早く動いたのは黒服たちだ。
 混乱と動揺を振り切りるように村人たちへ振り返るや凄まじい形相で突貫し──…
 30分後。村は灰燼と化していた。
 生き残りだろうか。村人が黒服に追い立てられ金切り声を上げている。
 求められた助け。戦士である筈の艦長はしかし一瞥さえくれず黙殺し、じっとその場にたたずんでいる。
 彼を軸に林立する航海長や水雷長も同じだった。戦士たちはというと事後処理に忙しく駆け回っている。
 怨嗟と憤怒と断末魔の絶叫が混じり合い響き合い、村は狂乱の様相を呈していた。
「航海長。これはいったいどういう事だね」
「アイアイ。調査結果を報告します。ホムンクルスは村人の方でした」
「で、麓から人間攫ってきてお祭り騒ぎかよ」
 大柄な男──水雷長──は溜息をついた。元民家のカーボンが視界両側にどこまでも伸びるこの場所は大通りとみえ
屋台の残骸があちこちに散乱している。「焼き人間」。煤まみれの看板が転がっているのが見えた。比較的原状を保って
いるその屋台へ何気なく視線を移した水雷長はうっと口を抑えた。調理用の小型ガスボンベの前で横倒しになったバケツ
から色々なものが零れていた。長い髪や小さな手はまだいい方だったがウニやネギトロに似た質感のサーモンピンクは流
石にダメだったらしい。「陽菜!!」「ヤスシ!!」。別の屋台の商品もだいたい似たような品ぞろえだ。『商品』へ涙ながら
にすがりつく黒服たちが如実に証明していた。
「……ちなみに黒服たちは人間とのコトです。麓に住んでいるといえば何をしに来たか……言うまでもありません」
「人間!? んな馬鹿な!! お前もモニター見たろ。アイツら確かに牙とか爪とか生やしてたよな!?」
「しかし調査の結果、全員間違いなく人間……錬金術とは無縁の一般人です」
「でもあの黒服たち、ホムンクルスども圧倒してるぞ。陸戦艇に魅かれた人も無事だし」
 水雷長の指さす先で村人が袋叩きにあっている。本来錬金術以外の力では破壊不能のホムンクルスが無手の黒服たちの
殴る蹴るでどんどん壊れている。事態の異常さに気付いたのだろう。何人かの戦士たちが驚いたように凝視している。
「戦士でもない人間がホムンクルス倒せるとかおかしいだろ」
「それですが興味深い証言があります。実は──…」
「オイ!!!! あれはなんだ!!!!」
 戦士の誰かが発したのだろう。割れんばかりの声が航海長を遮った。

84 :
 すわ何事かと目を剥く水雷長の足元が大きく揺らいだ。すんでのところで転びそうになったがどうにかこうにか持ち直す。ズドン。
足元が再び揺らいだ。それは村にいるもの総ての身上に注ぐ宿命だった。消し炭の家屋も崩滅寸前の屋台も何もかも飛び
あがって元の場所へ叩きつけられた。地響きがしている。当たり前でつまらない結論へたどり着くまで3度のズドンを要した
水雷長は”判断力が衰えている”そんな痛感と──最初に訪れるのは20をいくらか過ぎたあたりだ。もっとも何万かの脳細
胞が死滅し始めるころだいたいは社会に対するうまいやり方を覚え互助に預かれるので30年後ぐらいまでどうにかトント
ンでいられる──痛感と、どよめきの中で見た。
 ホムンクルスを。
 高さ200mを超えるシロナガスクジラ型を。
 そしてダンプカーさえスクラップにできそうなほど巨大なヒレが頭上3mでうねりを上げているのを。
 水雷長の口を叫びが貫いた。恰幅のいい体は猛然と航海長を跳ね飛ばし野太い腕は無遠慮に艦長をひっつかみ、そして
投げ飛ばした。
 痩せた色白の相棒は心得たもので上役を受けとめながら地を蹴った。幸運を上げるとすればヒレの向きがそうだった。水
雷長たちの視線と水平だったのだから。30m超の長さに不釣り合いな狭幅(きょうふく)の稜線。仲間たちがその埒外に無事
逃げおおせたのを確認すると水雷長は誰ともなしにニカリと笑い──…
 山が煙を噴いた。村の辺りからたなびくそれは闇夜にとても生える茶色だった。震度6クラスの振動が大地を揺るがした。
 爆発的な衝撃が水雷長の全身を貫いた。黒光りする749kgの金属板は彼の肉体に接触しまるで勢いを殺さぬまま地面に
向かって振り抜かれた。ダイナイマイトの炸裂の方がまだマシだという破裂音が航海長や艦長の鼓膜を著しく傷つけ膨大な
土煙を巻き上げた。屋台や家屋のひしゃげるめりめりという音がした。難を逃れたものたちはただ唖然とその様子を見ていた。
尻もちをつく黒服もおり中には涙を浮かべる戦士さえいた。
「具申しよう!! みどもはこの村の村長……つまりは共同体のボォス!! どうだこの大きさスゴいだろう絶望だろう!!」
 山の手高くにある村へ悠然と並び立ったホムンクルスはとてもとてもクジラだった。瞳は球体型ジャングルジムに匹敵す
る大きさでそれがぎょろぎょろぎょろぎょろ忙しく動き回りながら戦士を見ていた。
「普段はこの大きさゆえに村入るンじゃあねえ出禁くらってやむなく穴掘って地下でうつらうつら眠っているが今回みたいな
有事の際には何かと頼られるタイプ!! 現に戦士1名殺害!! え!! なんでみんな祭りやってたの!! 先週貰った
お知らせのプリントには一言もなかったのに!! 連絡の不備なのかなあどうなんだろう」
 でっかい頭をぐにぐに左右へ振りながらシロナガス型は「ま。いっか」と潮を吹いた
「戦士全滅させれば誘ってもらえるよねえきっと。うん。さあ覚悟しろこんなでっかい村長さんに効く武装錬金などある訳──…」
「なあー!! いまの文言訂正しておいた方がいいぜー」
 戦士の1人が声を上げた。
「???」
「だからー。お前いま水雷長殺したようなコトいったけどー」
 大通りに振り下ろされたままのヒレに異変が生じた。ほぼ中央。水雷長の居た辺りに穴が1つ。穿たれた。
「??????」
 針でも刺したような、凝視せねば分からぬほど微細な穴。だがそれを中心に大きく亀裂が入った。ピキリ。ヒレの外装が
花瓶のように割れ飛んで火花散る内装を露呈した。ピキリ。ピキリ。スプーンで叩いたゆで卵を思わせる様相で伝播する
亀裂。それはあっという間にヒレ全体を覆い尽くし息も尽かさず粉々にした。そして──…
「なんだ。この程度か」
 破片の雨の中、水雷長はぼんやり呟いた。腕を無造作に突き上げたまま無造作に突っ立っている彼は特にどうという
外傷もなく、それがシロナガス型をうろたえさせた。
「な。言った通りだろ」
「俺らのかなり本気の総攻撃喰らって無事だもんな」
「防人戦士長との組手、33勝56敗だからな。シルスキなしのガRだけど」
「負け越し? いやいや素手で勝てるだけでも大したもんだ」
 楽しそうに顔を見合わせうんうん頷く戦士たちがまた混乱に拍車をかける。

85 :
.
「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!! なんだよ!! なんでだよ!! 村長さんの
ヒレはねえ!! 749kgあるんだよ!! しかもホムンクルスだから金属っぽいし!! なのに生身の人間が直撃受けて
無事なのはどうしてなの! 手ごたえは確かにあったよね! ね!!」
「あー。いや。俺いちおう深海を生身で動けるし。6000mぐらいなら平気」
「はい?」
「だって俺らとか艦長とか潜水艦持ちだろ。万が一武装解除に追い込まれた場合でも核鉄だけは持ち帰れって戦団から強く
いわれてるんだよな。だから訓練した。今まで味わった超深海層の圧力とかの悪条件に比べたらお前のヒレは、そのまあ、
別に……かなあ?」
 気休め程度だけどいちおうこの制服も耐圧使用だし。後頭部をかきつつ淡々と述べる水雷長。シロナガスは「ええと、え
えと」と汗を飛ばしてからまくし立てた。
「いやいやいや。どんな訓練ですかそれは。学研の2年の科学とかだとカップラーメンの容器がめちゃくちゃ小さく圧縮され
るのが深海なんですってば。それ以外にもいろいろあるし、普通絶対死ぬんじゃ」
「いや。戦士の特訓の要領で核鉄治療繰り返せば割と何とかなる。わざと死にそうになって回復。わざと死にそうになって回
復。すると段々頑丈になる。最初は大変だったな。浅いところから始めてみたけど深さ4ケタ辺りから様子が変わってきてさあ
ちょっと生身で潜るだけで半年ぐらい意識不明。植物状態になったな。で、治ったら寝てた分だけリハビリしてまたチャレンジ。
それを8セットぐらい繰り返したかな。10代のころ学校も通わず。航海長も似たようなものさ」
「…………えーと」
「脳だけで200回は手術した。なんだかったかな。よく覚えてないけど血栓だか浮腫だかの問題で手術しなきゃ死ぬって言
われたから仕方なくサインしてさ。自前の肺なんてもう32分の1ぐらいしか残っていない。後は深海用にチューニングされた
人工物。でもまあいいかなって。だって肺ガンにだけはならない、なりようがないって聖サンジェルマンの連中はいってくれるし。
あ、でも骨は一応全部自前。ただ困ったコトに」
 『白い輝き』が不自然に目立つ拳を水雷長は突き上げた。
「頑丈になりすぎちまった。トドメこそさせないけどホムンクルスの攻撃凌ぐぐらいはできるんだよなあ……」
(ヒレに皮膚擂り潰されたせいで露出した骨!! それで防……いや、ヒレにカウンターかまして砕いた!!? うそぉん!!)
「いま考えると部分発動だけで防御できたかもな。こういう風に」
 水雷長の腕の辺りで空間が……”歪んだ”。小さな光とゴテゴテした影が収束し、そして消えた。
 次の瞬間。
 妙な物体が30本ほどシロナガス型を襲撃した。筒に羽根とトンガリのついたタイプのミサイルだった。「3BK29?」「成形
炸薬弾キタコレ」「水雷長のくせにアイツいろいろなミサイル使えるんだぜ」。はやし立てる戦士たちの目の前で巨大なホム
ンクルスは顔面のあちこちを爆発させた。内部機械が剥き出しになり破片がガラガラと降り注いだ。
「あれはキくぜー。ユゴニオ弾性限界を超えた銅のメタルジェットがうんぬん」
「なんやかんやで装甲との相互作用面が装甲材自体の機械的強度を無視するんだ!」
「つまり防御力無視? でかくて頑強そうな分、ショックだろうな」
「ああ。よろめいた。侵徹口から弾片や爆風が染み込んだんだ」
 シロナガスクジラは後ろに向かってたたらを踏んだ。身長ゆえに後ずさりもダイナミックだ。あっというまに先ほどディープブ
レッシングが停泊していた森へ達し。とうとう錆びついたダンプカーに足を──クジラにも関わらず、ある。不思議な──取
られ蹴躓いた。そのとき村にいた戦士のひとりは大笑いした。10tは積める決して小さくはない車両運搬具がヒラリヒラリと
夜空にきり揉んでいた。夜中(やちゅう)にも関わらず観測できた理由は高度にあり、最高時はおよそ58mまで達していた。
弱り目に祟り目。律儀にも垂直に飛び上っていたダンプカーはほぼ元の位置に落着した。そこはやや様子が変わっており、
仰向けで呻くクジラの腹が広がっていた。落着。ダンプカーはささくれたバンパーから全重量をねじ込んだ。柔らかな腹が
地軸へ向かってひん曲りトランポリンよろしく陥没した。ほとんどテイルランプの辺りまで埋まった巨大車両は何本かの脊柱
にヒビを入れた辺りでようやくびょーんと飛び上り森の奥へと去って行った。

86 :
 さてクジラ。彼は泣きながら立ち上がり大慌てで走り始めた。口から零れおちる消化液臭い大量のオキアミが道程をどし
ゃどしゃと汚した。脊柱のヒビはすぐ治ったが──錬金術制のダンプでなかったのがせめてもの幸いだった──あらゆる非
情の予想外に決心した。
 逃げよう。
 どこか海で暮らそう。
 彼の旅は、ここから始まった。
「逃げるのは勝手だが一言だけ言わせてもらおう」
 エコーの掛った厳粛な声。その出所を求め頭上を見上げたクジラは戦慄した。
 潜水艦。全長だけなら自分を凌ぐ超ド級の武装錬金が……飛んでいる。
 落ちて、来ていた。
 もちろん頭部──急所たる章印のある──めがけ轟然と。
 体感だがそれは音速を超えているようでまだまだ20mある距離などまったく気休めにならなかった。
「私は貴様を絶対に許さん。絶対にだ。なぜなら……」
 わずかな沈黙の後、艦長はいらただしげに肘掛けを叩いた。
「クジラが陸にいるなど……まったく場違いにもほどがある。不愉快だ!」
「潜水艦に言われたかねえええええええええええええ!!!」
 絶叫と轟音が世界を揺るがす中、戦士たちは胸中「まったくだ」と十字を切った。それがせめてもの哀悼だった。
 10分後。夜空を巨大な戦艦が飛んでいた。満ち始めた月も背後に緩やかに飛んでいくその船は艦首に巨大な
ドリルが付いている。やがて雲海の中で艦影が加速を帯びた。艦は何事もなかったように飛んでいく。
「戦団本部に打電。我ら無辜の人々を救出せり。以後は予備兵にて保護されたし。場所は──…」
「……以上だ」
「アイアイ」
「アイアイ」
 いわれたとおりの作業を行うと狭い操舵室に安堵の空気が満ちた。
「しかし結局何だったんだあの黒服ども? 最初見た時は明らかに化け物だったよな?」
「ホムンクルスも圧倒していた。ディープブレッシングに跳ね飛ばされてもほぼ無傷だった」
 珍しく雑談に紛れ込んできた艦長に水雷長は気をよくした。軽く席から身を乗り出し航海長に呼び掛けた。
「でも調べじゃあの黒服たち人間なんだろ? どういう訳だ」
「ええ。人間です。その点については聴取済みです。艦長。報告してよろしいですか?」
「うむ」
 艦長はただ、重苦しく頷いた。

87 :
【以下、黒服たちの証言】
「山神さまだべ。山神さまがおでらに力ばくれたんたべ!!」
「んだんだ。先代がむかす迷惑かけちまったからって助けてくれた!!」
「よぐできた2代目さんだべ。先代はあなたもう本当ヒドイ奴だったば」
「作物は荒らすわコッコ食べまくるわ娘ご犯すわで本当手がつけられんかった」
「おで子供6人ぐらい喰われたべ。仕方ねーから父ちゃんと頑張って10人ぐらいこさえたべ!! ははは!!」
「先代の山神さんべか? あー。7年前か8年前だったべか? 死んだの」
「金髪の剣士さんとか実況好きな女のコとかが退治してくれたんだべ」
「あんとき不慣れな感じでビクついてた鎖使いさんいま何してだろーね」
「やたら声がでかくてねえ。しゃべるたび山さ崩れるんじゃねーかってオラ不安で不安で」
「2代目の山神さんべか? 1年半ぐらい前からちょくちょく村さ来るようになったべ」
「最近? 最近はあなた来なかったべよ。なんか関東の辺りさ出稼ぎに行くとか何とかで」
「入れ替わりに村の奴らさ来だのもそのころだっぺ」
「あいつらもまたヒドかった!!」
「作物は荒らすわコッコ食べまくるわ娘ご犯すわで本当手がつけられんかった」
「おで子供6人ぐらい喰われたべ。仕方ねーからまた父ちゃんと頑張って10人ぐらいこさえるべ!! ははは!!」
「実際アイツラもまたヒドくて! でもどうせ戦っても勝てねーからってオラたちじっと我慢してた」
「そこであーた2代目さんが帰ってきたべよ」
「いーい山神さんだったべ」
「事情話したらあいつら倒せる力ぽんとくれたべ。最初腕とか変形した時はびっくらこいたけどよー」
「ん? お金取られたかって? いんや何にも。タダでくれたべタダで!」
「怪しい実験? それもされなかったべ」
「んだんだ。ちょっと自己紹介して欲しいって言われたぐらいだな」
「名前教えるぐらい普通だっぺ。それがお前敬意ってもんだぁ」
「最近の都会の若いコたづはそこがダメだべ。ゆとり世代の弊害だべか」」
「とにかく山神さまがオラたち点呼したらキバとか生えたべ」
【以上、黒服たちの証言おわり】

88 :

「するとアレか? その山神さまとかいうのが黒服たちに」
「ホムンクルスを打破しうる力を与えたようです」
 水雷長はあんぐりと口を開けたまま天井をしばらく眺め……面倒くさそうに溜息をついた。
「いまはもう黒服たち、人間に戻ってるんだよな」
「はい。調査用の武装錬金を持つ戦士が何人か彼らをくまなく調べましたがどの結果も”シロ”です」
「じゃあ何なんだ? ホムンクルス幼体を埋め込まれたって感じでもないし」
「……武装錬金だ」
 はい? 若い男2人は思わずハモりながら背後を見た。
 そこにいるのはやはり艦長で、やはりいつものまま鋭い三白眼をギラつかせている。
「航海長。戦団に再び打電。調査要請を掛けろ」
「アイアイ。相手は誰ですか」
 艦長は迷いなくその名を告げた。
「戦士・千歳と根来だ」

89 :
以上ここまで

90 :
>>スターダストさん
>市町村をまるっと完全に包囲できる
バスターバロンなんか「どきなよチビ」ですなぁ。一体このヒトの何が投影というか影響されて
こんなシロモノが生まれたのやら。潜水艦トリオの意外な経歴(?)にも驚きましたが、根来と
千歳! 原作未読状態の私がさんざん萌えた二人が来る! 少しは仲が進展……は、ないか。 

91 :
よかった。久しぶりに来たらスターダストさん来てた。
おそらく物語最終盤だと思いますが、濃いというか
ある意味「キモい」キャラがどんどん出張ってきてますなあw
草連発は2chでもうっとうしいけどSSになると更にウザいw
前作の主役の根来がおいしいところを持ってく予感w
あげとこう。

92 :
クールな根来が小うるさい連中に無双してくれるのが楽しみだなあ。
前作好きだったし。それにスターダストさんが書いてくれたのが嬉しい。

93 :
イーモバ1ヶ月ぶりに規制解除したよw
スターダストさんお疲れ様です!
今、この状況で投稿してくれるだけでなく、手抜き無しのガチSSで嬉しいっすw
千歳とネゴロの大人の魅力コンビが活躍しそうで嬉しいですね。
強者や曲者たちが続々と集まってきて決戦間近って感じもして嬉しいやら寂しいやら。

94 :
1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. ONE 〜輝く季節へ〜 茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司のSS
茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司を主人公にして、
中学生時代の里村茜、柚木詩子、南条先生を攻略する OR 城島司ルート、城島司 帰還END(茜以外の
他のヒロインEND後なら大丈夫なのに。)
5. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
6. ファーランド サーガ1、ファーランド サーガ2
ファーランド シリーズ 歴代最高名作 RPG
7. MinDeaD BlooD 〜支配者の為の狂死曲〜
8. Phantom of Inferno
END.11 終わりなき悪夢(帰国end)後 玲二×美緒
9. 銀色-完全版-、朱
『銀色』『朱』に連なる 現代を 背景で 輪廻転生した久世がが通ってる学園に
ラッテが転校生,石切が先生である 石切×久世
SS予定は無いのでしょうか?

95 :
【2次】ギャルゲーSS総合スレへようこそ【創作】
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/gal/1298707927/101-200

96 :
エロいよね

97 :
 影は一歩進んだ。街頭を頂点とする円錐の輝き、そこへ向かって。やがて影が明度的事由により漆黒のベールを脱ぎ捨
てたとき、金髪ピアスは瞠目しつつ思った。
 でけぇ。
 いま背後の壁のてっぺんでケタケタ笑っているディプレスを2mとすればそれより10cmほどは高い。がっしりとした体格
だが逆三角形ではなく筒型で、巨漢ながらも野卑な印象はまったくない。
 しかも着衣ときたらうらぶれた路地裏にまったく不釣り合いで、貴族服だった。上着は青と銀を基調にしたジャケットで、下
は純白のズボン。一目で高級品と分かる生地は内包する筋骨隆々にほとほと辟易しているようで、”今にもはち切れるよ”、
男が動くたび泣いていた。
 顔は衣服に負けないほど気品がある。どちらかといえば短い髪にウェーブを掛けているところは先ほど遭遇したリバース
──青っち──と似ていなくもない。違いを上げるとすれば右側頭部から伸びる髪で、それはいかにも気ざったらしく長く長
くぐにゃぐにゃと伸びている。髪が途絶える辺りのちょうど反対側──つまり左の首筋──には黒いドクロのタトゥーがある
が不思議と全体の気品を損なっていない。
 ただ気品高ずるあまりいかにも貴公子という顔つきなのが逆に欠点ともいえた。庶民は結局相手の高尚さにひれ伏した
りはしない。とっかかりや取っつきやすさといった「自分がどこか優位を覚えられる要素」……欠点や欠如にこそ心惹かれる
ものなのだ。そこから選出された被害者候補は嫌悪を覚えながらもぞっとしていた。男の顔はどこまでも端正で気品に溢れ
ている。だからこそ氷のような冷たさばかり感じられる。冷淡、冷酷。今度はどんな酷い仕打ちをされるのか。不安と恐怖
しか覚えられない顔つきだった。
 その顔が、金髪ピアスをついに見た。そして……喋った。
「大丈夫だったであるか!!」
「…………はい?」
 底抜けに明るい声に瞳をぱちくりとする。視界の中では巨大な体がどたどたと走ってくる。殺到、というよりは飼い主を
見つけた大型犬だ。無邪気な調子ではふはふ言いながら突進してくる。ひたすら嬉しさの赴くまま向かってくるのだ。一言
でいえば……アホ。どこか足りない男のようだった。
「おっと服に泥が……。お取りになってあげよう。紳士たるものやはり身だしなみはしっかりすべきである。すれ違う人々に
不快な思いをさせぬよう頑張ろうという思い。それこそが敬意! もちろんそれ自体はちっぽけなものよ!!」
「ぐぇ!!」
 一歩踏み出した巨人の足元で何かうめき声が聞こえた。金髪ピアスの記憶が正しければ先ほどその辺りに黒ブチ眼鏡の
アラサーがすっ転がっていた筈だ。移動した気配はないのでたぶんそういうコトなのだろう。リヴォルハインと呼ばれた男は
そこで立ち止まり熱弁を振るい始めた。大きな声だった。足元から巻き起こる悲痛な移動要請がかき消されるほど大きな
声だった。
「しかし世界のありようとは結局小さなものが積み重なって積み重なって積み重なって、ななななんだ、うん!! なんかいっ
ぱいのアレコレ!! アレコレが組み合わさったりしたりで決まるのではないか!? ……真偽はともかく及公(だいこう)、
表敬は常にすべきだと思っている!!」
 まくしたてつつ金髪ピアスの着衣を払うと彼は手にした何かを突き始めた。まるで子供だ。或いは明文化さえ危ぶま
れる酷い表現さえ浮かんだ。。踏みにじられるアラサーの声はいよいよなりふり構わなくなっている。「痛い痛い」「重いん
ですってばあ! どいてくださいよぉ」「う゛にゃああああああああああ」。
 助けを求めるように足をつかんだ細い手を無言で振りほどき思いきり蹴り飛ばすと、金髪ピアスは嘆息交じりに問いかけた。
「及公(だいこう)ってなんだよ?」
「”余”みたいな一人称だwwwwwwwww 偉い奴が自分をwwwwwww 呼ぶときのwwwwwwwwwww」
 あーそう。背後で笑うハシビロコウに軽く手を上げると、今度は足元から声がかかった。
「クライマックス先生のはちみつ授業〜〜〜」
 どうやらやっと足をどけて貰ったらしい。元声優の元教師は地べたに伏せたまま青白い顔だけぬっと持ち上げている。
「なんだお前まだいたの? 早くばいいのに」

98 :
「この上なくヒドい文言!? うぅ。私これでも一生懸命生きてるんですよぉ。10代のころ私なんかどうせオシャレしたって無
駄だって女磨くの放棄したばかりにいまだに恋人できませんし20代は灰色でしたけどぉ、ひょっとしたらこの先ステキな出
会いがあって救われるかも知れないって。だから退屈な毎日を何とか生きているんですよー」
「生々しい。コメントし辛い」
「過去が消えていくなら私はせめて明日が欲しい! のです、この上なく」
「アニメか特撮かしらねーけどそういうセリフへの拘泥をまず捨てろ。そしてちゃんと現実を見ろ! 救われたいなら尚更!」
「ちちち。甘いですよ! 救われないから拘泥するんですよ!! いろいろ忘れさせてくれますからねこの上なく!!」
 これ以上問答を続けても埒があかない。そう判断した金髪ピアスは本題に入るよう促した。
「『及』は『だい』とも読みます」
「ちょっと特殊な読みですけど! 『きゅうだいてん』の『だい』と覚えればこの上なく簡単です!」
「あー。なるほ……」
 納得しかけた金髪ピアスはふと眉を顰めた。
「……『きゅうだいてん』の『だい』は『第』じゃなかったか? 字ぃ、『及第点』だよな?」
「うぇ?」
 分厚いレンズの向こうで大きな瞳が瞬いた。よく見ると左右で大きさの違う瞳孔が驚愕に絞られるまでさほどの時間を
要さなかった。髪が一房、ぱらりと落ちた。
「ぬ、ぬぇぬぇぬぇ。そそそそーですよォ〜〜〜〜!! そこに気付いて貰えるかというのを先生この上なく試したのです」
(素で間違えてたなコイツ。大丈夫なのか元教師)
 気配を察したのだろう。クライマックスは慌てて立ち上がり金髪を揺すり始めた。すごい涙目だった。必死だった。
「間違えていませんよぉ!! うぅ!! 学習の要諦というのは取っつきやすさな訳でして! あの! あのですねあの
ですね! イキナリ『及』は『だい』と読みますなんて言ったって誰も覚えてくれないじゃないですかこの上なく!! だいた
い生徒さんなんてのはこっちが一生懸命授業してるのに英語の辞書を1枚破りマジックでなんチャラかんチャラ描いて紙
飛行機にして先生に命中させるんです」
「……やっぱお前のセンス古いわ」
「だからこその取っつきやすさです。生徒さんが興味を持つようなアプローチ、記憶に残りやすい授業! それが私の
この上ないモットーです。ああ、あのとき先生が及第点うんぬんミスってたなあという生暖かい記憶があれば及公が
どう読むか覚えられる筈ですこの上なく」
「結局認めるのかよ!! ミスったって!!」
「ミミミミスじゃありません! たとえばの話です!」
 いいかげん認めろよ。呆れる金髪の視線の先で、クライマックスの袖がくいくい引かれた。
「先生!! 先生!! お話は終わりましたであるか!」
 ブラウンの髪を持つ巨大な青年が輝くような笑みを浮かべていた。人差し指を物欲しそうに咥えているのはまったく
大きな子供という感じだ。
「そーいえばお前になんかブツけたのコイツだよな? なんでだ?」
「なんでも何も。リヴォルハインさん、人が襲われていると助けに行くタイプなんですこの上なく」
「えーと。お前の仲間ってコトはコイツも」
「ええ。悪の幹部ですよぉ。でも人助けがこの上なく好きで……だからいつも困るというかぁ……」
 やや歯切れの悪い元声優は肩を落とした。その後頭部をリヴォルハインが「あたまー。あったまー」と歌いながら撫でている。
「先生、つーのは?」
「私がまだ小学校で教師やってたころ、生徒のフリして学校に潜んでたんですよぉ。で、手引きしちゃってくれたもんですから
私以外の先生や生徒さんたち全滅……。その時私をマレフィックに誘ったのがリヴォルハインさんという訳です」
 いやいや。と金髪ピアスはクライマックスの元生徒を見た。身長は2mを超えている。
「なにまさかコイツこんなデカいのに小学生ぶれると思ってたワケ!? ムリだろ! 頭おかしくね? 頭おかしくね?」
「くしゅん」

99 :

.
「……風邪か?」
「いえ。ただのくしゃみよ」
 万病の元だな。言葉短かにその男は金の刃を跳ね上げた。ブタの顔を持つ亜人が血煙を上げどうと倒れ伏した。
 男を取り巻いていた群衆からどよめきが上がった。円環が一団と後ずさり粗笨(そほん)さを増した。最外周から人影
が1つまた1つと零れ出した。リーダー格だろうか。プテラノドン型が声を張り上げ制止する。隣のサル型の顔面を
衝撃が貫いたのはその時だ。爆ぜるような音に慌ててそちらを見た彼は相棒の目玉が短刀に高速輸送されているのを見
た。刀はそのまま壁──廃工場の──に当たり……突き刺さるコトなく『埋没した』。
 刀は、忍者刀だった。
「シークレットトレイル必勝の型」
「真・鶉隠れ」
 後はもう終わるだけだった。剣の風と刃の嵐が無数のホムンクルスを薙ぎ払い、薙ぎ払い、薙ぎ払い──…
 壁の下でサルの目玉が塵と化すころ彼の領袖以下総ての集団がこの世から消えた。
 クライマックスは腰に手を当てえっへんと胸を逸らした。
「リヴォルハインさんですね。私と出逢ったときはどういう訳かイソゴさん……あ、イソゴさんっていうのは小さな女の子なん
ですけど、その人の姿になってたんです。だから小学生として潜入できてたわけです」
「はぁ」
 気のない返事を漏らすと超ロングヘアーはなぜか急に眼を剥いた。
「え? リ、リヴォルハインさん? いま私の後ろに居るのってリヴォルハインさんなんですかこの上なく?」
「なに急に驚いているんだ? さっきまでフツーに語ってたんじゃ──…」
「ぎみゃあああ! ヤバイですヤバイ!! 感染カンセンKANSEEEN!! 入れてくださいディプレスさんーー!」
 感嘆すべき逃げっぷりだった。黒光りする害虫のように地面を疾駆したかと思うと、ディプレスのいる高い塀を超高速の
ロッククライミングで登りつめた。
 驚いたのは金髪ピアスである。彼女の叫びは聞き捨てならない代物が過ぎた。真偽のほどを確かめるべく慌てて後を追う。
もっとも、高い壁は登れず、はるか下で見上げるばかりだったが。
 話しかけようとしたとき、ヒソヒソとした会話が聞こえてきた。頭上のクライマックスを見る。とても青ざめていた。
(ちょちょちょちょ、ディプレスさん!? この上なく聞いてませんよリヴォルハインさんが来るなんて!!!)
(オイラも聞いてねーけど?wwww まぁ盟主様のいつもの気まぐれだろ気にすんなwwwwww)
(お!! 落ち付いている場合ですかあこの上なく!! リヴォルハインさんはああ見えて『病気』なんですよ!!)
(確かに病気だけどいいんじゃねwww オイラたちの下準備手伝ってくれそうだし)
(いやいやいやいや!!! そんなのこの上なく吹っ飛ばされますよぉ!! だって!! だって!!)
 一拍置いてクライマックス、身震いしながらこう告げた。
(その気になれば1時間で銀成市民全員殺せますよ!? リヴォルハインさん!!)
 元声優だけありよく通る声だ。小声でもなお聞こえるほど。金髪ピアスは「え?」と息を呑んだ。
(まーwwww 鐶作ったリバースの最新作だしwwww もともとの設計思想は広域殲滅だからなあwwww)
(そうですよ!! マレフィックにはこの上なくいろいろな能力の人がいますけど広域殲滅に限っていうなら最強なのはリヴォ
ルハインさん! この上なく理論的最強で実際やったコトはありませんけど!!)
(やろうと思えばやれるわなwwwwwwwwwwww リルカズフューネラルの特性ならwwwww)
 リルカズ? 耳慣れない名前に首を傾げる金髪ピアス。気配を察したのかいったん彼を見たクライマックスは一層声をひ
そめた。それでも聞こえてくるのは「バンデミック」「致死率100%」「対処不能」といった物騒な言葉ばかり。
(まあよっぽどのコトがない限り皆殺しはしないだろwwww まずはちょっと探りを入れようぜwwwwwwww)
(は、はい。目的によってはこの上なく手綱を握れるかも知れません。
 影が2つ、地上に降りた。彼らは貴族服の青年に向きなおり、質問を始めた。

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