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2013年04月なりきりネタ82: 【TRP】フィジル魔法学園にようこそ!10thシーズン (229) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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【TRP】フィジル魔法学園にようこそ!10thシーズン


1 :2012/10/16 〜 最終レス :2013/04/02
統一基準歴355年。
魔法文明は隆盛を極め、あらゆる場所、場面に魔法が活用されていた。
そんな栄華の果てにいつしか異変が起きる。
確認されたのは20年前にもなるだろうか?
ある属性の魔法に異常なまでの適性を示す。
ある魔法を生まれつき能力として有している。
未知なる力に開眼する。
今までは天才と言われて来た種類の子供たちが、続々と生まれ始めたのだ。
このことに世界は大いに恐れ、憂慮した。
なぜならば、本来数十年単位の修行と研究の果てに身につけていく力を僅か数年の学習で身につけてしまうのだ。
あるいは持って生まれてくるのだ。
修行と研究は何も力を得るためだけの時間ではない。
力を振るう為の経験や知識をも身につけるための時間でもあるのだ。
仮に、今は凡人同然であったとしても、何かのきっかけで潜在能力が一気に発現することもある。
大きな力を当たり前のように使える事への危惧は、やがて現実のものとなる。
世界各地で引き起こされる悲劇に、統一魔法評議会は一つの決定をなした。
魔法学園の開設!
魔海域を回遊するとも、海と空の狭間にあるとも言われるフィジル諸島に魔法学園を開校し、子供たちに学ばせるのだ。
己が力を振るう術を。

―――― 【TRPG】フィジル魔法学園にようこそ!10thシーズン ――――

2 :
■舞台はファンタジー世界。謎多きフィジル諸島にある全寮制の魔法学園です。
フィジル付近は気流や海流が乱れがちなので、島には基本的に、転移装置を使ってくる場合が多いです。
■学園が舞台だからといって参加資格は学生キャラのみではありません。
  参加キャラは生徒でも、学園関係者でも、全く無関係な侵入者でも可。敵役大歓迎。
  また、舞台が必ずしも学園の敷地内で起きるとは限りません。
  いきなり見知らぬ土地に放り出されても泣かないで下さい。 貴方の傍にはいつも名無しさんと仲間がいます。
■当学園には種族制限はありません。お好きな種族と得意分野でどうぞ。
■オリジナルキャラクターでも版権キャラクターでも参加できます。
  完走したスレのキャラを使ってもOKですが、過去の因縁は水に流しておきましょう。
  また版権キャラの人は、原作を知らなくても支障が無いような説明をお願いします。
■途中参加、一発ネタ、短期ネタ大大大歓迎。
 ネタ投下の場合、テンプレは必ずしも埋める必要はありません。
 ただしテンプレが無い場合、受け手が設定をでっち上げたり改変したりする可能性があります。ご了承を。
■名無しでのネタ投下も、もちろん大歓迎!
  スレに新風を吹き込み、思いもよらぬ展開のきっかけを作るのは貴方のレスかも!
■(重要)
 このスレでは、決定リール、後手キャンセル採用しています。
 決定リールとは、他コテに対する自分の行動の結果までを、自分の裁量で決定し書けるというものです。
 後手キャンセルとは、決定リールで行動を制限されたキャラが、自分のターンの時に
 「前の人に指定された自分の未来」を変えることが出来るというシステムです。
例:AがBに殴りかかった。
 その行動の結果(Bに命中・ガード・回避など)をAが書く事が可能です。
 これを実行すると、話のテンポが早くなるし、大胆な展開が可能となります。
 その反面、相手の行動を制限してしまう事にもなるので、後からレスを書く人は、「前の人に指定された行動結果」
 つまり決定リールをキャンセル(後手キャンセル)する事が出来ます。
 先の例に当てはめると、
 AがBに殴りかかった→Bはまともに喰らって受けては吹き飛んだ。
 と決定リールで書いてしまっても、受け手(B)が自分の行動の時に、
 「Bはまともに喰らったように見えたが紙一重で避けていた」
 と書けば、先に書いたレスの決定書き(BはAの拳をまともに受けては吹き飛んだ。)をキャンセル出来るのです。
 ただし、操作する人の存在するキャラを、相手の許可無く決定リールで喋らせるのは歓迎されません。要注意です。
※参加に関して不安があったり、何かわからないことがあったら(説明が下手でごめんね)、どうか避難所にお越しください。
  相談、質問、雑談何でもOKです。気軽に遊びに来てね。

3 :
【TRPG】フィジル魔法学園にようこそ!9thシーズン(前スレ)
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1333383614/
【TRPG】フィジル魔法学園にようこそ!8thシーズン
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1316207939/
TRPG】フィジル魔法学園にようこそ!7thシーズン
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1302609427/
【TRPG】フィジル魔法学園にようこそ!6thシーズン
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1294657842
【TRPG】フィジル魔法学園にようこそ!5thシーズン
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1291300916
【TRPG】フィジル魔法学園にようこそ!4thシーズン
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1284645469
【TRPG】フィジル魔法学園にようこそ!3rdシーズン
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1278699028
【TRPG】フィジル魔法学園にようこそ!2ndシーズン
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1273242531
【TRPG】フィジル魔法学園にようこそ!
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1270216495
■避難所
【TRPG】フィジル魔法学園にようこそ!避難所
http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1329748719/
【TRPG】フィジル魔法学園にようこそ!避難所 (前スレ。板消滅でデータ消失/wikiにログあり)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/42940/1295181582
【TRPG】フィジル魔法学園にようこそ!避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1270211641
規制の巻き添えで書き込めないときは、上記の避難所か代理投稿スレでレスの代行を依頼してみてください。
代理投稿スレ(なな板TRPGまとめサイト、千夜万夜さん内)
ttp://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1277996017
■テンプレ
名前・
性別・
年齢・
髪型・
瞳色・
容姿・
備考・
得意技・
好きなもの・
苦手なもの・
うわさ1・
うわさ2・
【備考】
全部埋める必要はありません。
テンプレはあくまでキャラのイメージを掴みやすくしたりするものです。
また使える技や魔法も、物語をより楽しむためのエッセンスです。
余り悩まず、気楽に行きましょう。
(外部参考サイト)
TRPに関する用語の確認はこちらでどうぞ
過去ログやテンプレも見やすく纏めて下さっています
(ボランティア編集人様に感謝!)
なな板TRPG広辞苑
http://www43.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/37.html

4 :
テンプレは以上です。
では、引き続き魔法学園生活をお楽しみください。

5 :
ルナは逆詰め魔法「ワディワジ」を放った。
その目的は巨大カエルに咥えられたササミを助けるため。
ターコイズブルーの奔流がびりびりとカエルに衝突する。
と同時にその滑った体が光に包み込まれる。
すると、ササミの濡れそぼった体がずるんと抜き出されて宙に舞う。
おまけにリリィもひっついて飛んでゆく。
ルナは一瞬びっくりしたけど二人を目で追い、丘の上での無事を確認。
>「そしてルナ=サンの願いですが、それを現実にするには思いの力が足りないようです。
 ですがこの学園には、生き別れになっていた家族と巡り会えるとの噂もあり。
 この噂が現実になれば、ルナ=サンが探し続ければまた兄弟と出会えるかもしれません。 友情!」
「友情ぉ!」
ルナはユリ(偽)にむかって、ぐっと親指を突き上げた。
なぜならユリが親指を突き出してきたから思わず釣られてしまったのだ。
でもすぐに引っ込めしょんぼりする。その顔には失望の色が滲んでいる。
夢見石ではルナの願いが叶わなかったから。
ルナは肩を落としながら、丘の上にいる二人に向かって歩んでゆく。
その途中で耳に届いたのはササミの声。
>「ルナ、あんたさんやっぱりユリ(偽)とつながっとったんやな!
 カエルの腹から不意打ちかまそうとしたのを察して蜂の巣に突っ込むとはやることがえげつないがね!
 あんたにしてやられたのはこれで二回目だぎゃ…あだだだ…」
「もう!ちがうってばっ…わたしはただ、カエルに飲み込まれたあなたを助けようとしただけよ!」
ルナは声を荒げた。でもすぐに言葉を失った。
なぜなら見上げたササミの顔がハチに刺されて腫れていたからだ。
「腫れてる…ぱんぱんに腫れあがってる。とくに胸が…。あ、そこは元からね」
てくてくと丘をのぼるルナの背後では巨大カエルがカドゥケウスの杖を飲み込み跳躍。
あっとゆうまにルナを抜き去って、リリィとササミに蜂蜜をかけようとしていた。
そこへ間一髪、現れたのはフリード。
>「これを文字通り盾にしてください!!」
「おおおー…蜂蜜と氷の盾とかとってもおいしそうっ!」
目を輝かせるルナ。

6 :
木上に飛ばされたリリィと、木の穴に上半身を突っ込んだ形のササミ。
穴の中から絶叫が聞こえてきたかと思うと、木が石に変わり、さらに透明の刃が何本も突き出てきた。
「ひいっ?!」
刀が顔のすぐ横を通過して言ったのに気づいたリリィも、石のように固まってしまう。
だがそれも、怒りの叫びと共に木を砕き、姿を現したササミを見るまでだった。
「きゃあああ!!出たお化けえぇぇ!ごめんなさいごめんなさい、すぐ立ち去るから祟らないでぇえ!・・・・キャッ?!」
ずるりと足を踏み外したリリィは、あわてて目の前にある足にすがりついた。
顔をぼこぼこに晴らした相手から強い視線を向けられ、思わず絶句する。
「・・・・・え?あれ?まさか・・・・・・サ、ササミちゃん?どうして?なんでこんなにボロボロに?」
ササミは無言でゆっくり下降すると、地面に着陸するなり倒れこんでしまった。
ぎゅう、と下敷きになったリリィは、自分より体格の良い相手の下から、何とか這い出す。
そこに、ユリ改めミヤモト・ムニが、巨大カエルと友に一足飛びにやってきた。
着地音の地響きに、ヒイッとリリィがすくみ上がる。
>「本物のユリ=サンには一時期ニンジュツを教えていましたが、痩せてきたので寮に帰しておきました。
> 後は私に倒されるだけですね。 ムッハッハ!」
経緯はよくわからなかったが、ユリが現在人質になっているという訳ではないらしい。
ユリが無事なのは喜ばしいことだが、それはこちらのピンチが去ったと同義語ではない。
ミヤモト・ムニはササミを倒す気まんまんだ。
(どうする?ササミちゃんでもかなわなかったのに、今の私にあんなのまともに相手出来るわけ無い)
リリィの脳裏に、いくつかの選択肢が浮かぶ。
一つ目は敵前逃亡、二つ目はこの場にいるリリィとササミで応戦、三つ目は、話を引き伸ばしてフリード達の合流を待つ、である。
だが、一つ目はササミがもうろくに動けないのと、昏睡している女性を置いていけないから却下だ。
二つ目はリリィ一人の力で戦うことになるが、正直返り討ちにあうビジョンしか浮かばない。
三つ目が一番現実的だが、果たしてフリード達の合流は間に合うだろうか?
ミヤモトが連れた巨大カエルが口を開けたかと思うと、中から“金色の液体が”がササミに向かって吹き付けられる。
「危ないササミちゃん!」
>「これを文字通り盾にしてください!!」
リリィはササミの前に飛び出したが、なぞの液体はリリィにもササミにも降りかかることは無かった。
その寸前、リリィの前に降ってきた巨大な氷の盾が防いでくれたからだ。
「ルナちゃん!それに・・・・・フリード・・・・・え?あれ?そこの美少女って、まさかフリード君?
 いつの間にボロボロの服に着替えたの?
 あ、いや!何を着てもフリード君なら似合うけど。うん・・・・・似合う似合う大丈夫!」
着替えが無いとかそういった理由だと勘違いしたリリィは、傷口に塩をせっせと塗りこむような真似をした。
少し遅れて、ルナも到着した。
だが、彼女に向けるササミの視線は冷たいものだった。
>「ルナ、あんたさんやっぱりユリ(偽)とつながっとったんやな!
 カエルの腹から不意打ちかまそうとしたのを察して蜂の巣に突っ込むとはやることがえげつないがね!
> あんたにしてやられたのはこれで二回目だぎゃ…あだだだ…」
ササミはぼこぼこに腫れ上がった顔で、それでも眼光鋭くルナを睨み付けた。完全に敵認定である。
>「もう!ちがうってばっ…わたしはただ、カエルに飲み込まれたあなたを助けようとしただけよ!」
「ササミちゃん、ササミちゃん、大丈夫?!やっぱり冷やしたほうがいいのかな・・・・・。
 で、でもね、ルナちゃんが言ったように、わざとじゃないんだよ、ササミちゃんを助けようとしただけなんだから」
>「腫れてる…ぱんぱんに腫れあがってる。とくに胸が…。あ、そこは元からね」
(このときばかりは、リリィも「キィッ!」と顔をしかめていたようだが)
リリィの前に立っている盾からは、甘い蜂蜜のにおいがした。指先で触ってみる。さすがに舐める勇気は無いが。
「ホントだ、蜂蜜。ミヤモトさん、はにーとらっぷでも仕掛けるつもりだったのかな?」
残念!言葉の用途が間違っています。

7 :
「ミヤモトさん、さっき何でもひとつ石の力でかなえてあげるって言ってましたよね?
 じゃあ私の願い事を言います。おとなしく杖と石版を置いて、島から出て行ってください。 
 ねー、フリード君にルナちゃんだってそう思うよね?」
リリィは精一杯の虚勢と胸を張ってそう叫ぶが、しょせんミヤモトとは役者の格が違っていた。
だが、それでもリリィは話を続ける。
それは、少し前のササミとの会話が原因だった。
リリィはミヤモトが高笑いをしているときに、ササミにテレパシーで話しかけていた。
内容はこうだ。
『ササミちゃん、聞こえる?あのね、ササミちゃんは魔界で草食系ですか?』
リリィは高笑いするミヤモトを睨み付けたまま、ササミにテレパシーを送った。
『ミヤモトって人、強いよ。しかも、ササミちゃんを倒す気まんまんだよ。
 その怪我をちょっとでも回復しないと、この場から逃げることもままならないよ。
 ・・・・・・・えっとね、私、昔話の本で読んだことがある。魔界の人の中には、人の血肉を糧にする者もいるって。
 肉はちょっと無理だけど、血ならいくらでも分けてあげる。食料がいいなら、このかばんに少し入ってる。
 何とか動けるくらいに傷を治して、ミヤモトさんを追い払うか、全員でこの場から逃げよう!
 あんな石版、欲しいって言うならあげちゃえば良いよ。皆の安否にはかえられないよ』
リリィはとがった石をこっそり握りこんでいる。
ササミの返答次第では、すぐにも『魔法使い(の卵)の血』を用立てる気なのだ。
「ミヤモトさん、仮に私達ひよっこに勝てても、この島から無事に逃げられると思ってるの?
 島を出るためには、闇払いや先生達の包囲網を突破しなきゃいけないのよ?
 そもそもあなた、どうやって島に入り込んだの?まさかムササビ飛行で飛んできた、なんて言わないわよね?」
リリィはミヤモトに途切れず話しかけている。
別にきちんとした返答を期待しているわけではないが、こんな小細工はそう長くは持たないだろう。
「それに、それに、そうだ!願い事をひとつ叶えるって言うんなら、その石版の願い事もかなえないとフェアじゃないでしょう!
 その石版だって、さっきまでは人間の姿だったんだから!
 ミヤモトさんは、さっきからずっと夢見石にお願いして、願い事叶えてもらってばかりじゃない。
 夢見石の願い事だって、一度くらい代理で叶えたってバチは当たらないでしょう?そうでしょう!」
もう無茶苦茶である。

8 :
ゾブリ……!
リリィの首元から齧られ食い千切られる音が響いた。

再生力があるといっても血液の入れ替えで弱まっており、さらに蜂毒が体内に残っているために腫れはなかなかひかない。
痛みの為に動くこともままならず巨大カエルに乗って迫るユリ(偽)ことミヤモトとユリを睨むしかできずにいるササミ。
守るはずのリリィに逆に身を挺して庇われながらも何もできない無力感に苛まされるのみであった。
巨大カエルから吐き出された蜂蜜はフリードの氷の盾によって塞がれる。
基本的に戦闘においては自分の戦闘力以外当てにしないため、この思わぬ救いの手に驚き、安堵する。
だが状況が好転したとは言い難い。
フリードやリリィはそんなわけないと言い、ルナ自身も否定しているのだが、状況的に見てとてもそれに同意することはできないのだから。
ミヤモトに対して対抗手段をとるわけでもなく、それどころか親指を突き上げあっている。
これを見ればどうしてルナの言葉を信じられようか。
だがだからと言って今の自分にはどうすることもできない。
いや、できることはある。
それを気付かせたのはリリィからのテレパシーだった。
> ・・・・・・・えっとね、私、昔話の本で読んだことがある。魔界の人の中には、人の血肉を糧にする者もいるって。
> 肉はちょっと無理だけど、血ならいくらでも分けてあげる。食料がいいなら、このかばんに少し入ってる。
その言葉にササミはビクリと体を震わせた。
それとともに全身の痛みは消えてゆき、代わりに冷たい汗が噴き出すのだ。
魔界と交流のある人間を知っているし、そういった者たちに留学前、人間社会の風習や生活を学んだ。
だが人間界に来るのは初めてであり、人間を食べたことはない。
が……リリィの想像通り、魔界の多くの者は人間の血肉を糧にすることができる。
それはササミにも当てはまる。
正確に言えば、人間の血肉ではなく、魔力の宿った血肉を糧にするのだ。
この際細かい分類は差し置いて、ここでリリィの血肉を食らえば体力は回復するだろう。
そのことを想像してササミは体を震わせたのだ。
自分が?リリィを……食べる?
現状においてそれが最も合理的で最善の方法だろう。
できれば血をすするより、その肉体を喰らう方がいい。
単純な話、摂取に要する時間の問題だ。
だが、だが……ササミは迷っていた。
魔界にいた頃の、フィジルにやってきたばかりのころのササミならばなんら迷うことなく即断できたはずだ。
しかし今、ササミの心は大きく揺れ動いていた。
リリィを食べるの、か?
少女のような美少年だったフリードが少女そのものに変わった。
ルナの願いはかなえられなかった。
どちらも害のない(?)ものだ。
今事ここに至り、リリィは夢見石を諦めミヤモトの撃退のみを念頭に身を犠牲にしようとしている。
倒すのではなく、この場から退ける、だけだ。
ならば最初から敵対せずに願いを叶えさせ大人しく去らせるでもよかった。
その選択肢を潰した自分に対し、凄まじい後悔の念が伸し掛かる。

リリィがミヤモトにめちゃくちゃとも言える話をかけ続け交渉を長引かせる後ろで、ササミがゆらりと立ち上がる。
よろめくようにしてリリィの背にたどり着き、大きく開けた口に鋭い牙が月の光に輝いた。
ゾブリ……!
リリィの首元から齧られ食い千切られる音が響いた。

9 :
ササミが食い千切り貪ったのはリリィの三つ編みのおさげの片方。
金色のおさげ髪は無残に噛み切られ、ほどけて広がる。
一方、おさげを貪り飲み込んだササミの目には光が戻る。
だがそれと同時に言い知れぬ喪失感がササミの胸を満たすのを感じていた。
それがなんなのか、は、今は考えはしない。
やるべきことがあるのだから。
そう思っていてもササミの目からはとめどなく涙が流れ続けるのだった。
まだ全身腫れ上がってはいるが、それでも鋭い動きを取り戻し、枝分刀を14本に分裂させて剣陣を敷いていた。
思考とは別に体は動く。
リリィの前に出ると、剣陣は竜巻のように吹き荒れ、おさまった時にはササミの手に握られた一本以外姿を消していた。
その後、さらに一歩踏み出した途端に蜂蜜を防いでいた氷の盾がサイの目状に分割されその中にササミは突っ込んでいく。
バラバラになって崩れ落ちる氷の中でササミの声が響く。
「魔家百烈が一つ、橙家地走剣!!」
横凪に振るわれた剣閃から繰り出された斬撃は地面すれすれを飛び、巨大ガエルの前足を切り裂くのだ。
それと同時に消えた枝分刀が次々に上空から降ってくる。
先ほど剣陣が渦巻き吹き荒れた時、その動きに紛れさせて上空へと飛ばしていたのだった。
が、それが巨大カエルとその上のミヤモトに当たることはない。
巨大カエルを取り囲むように地に突き刺さるのだ。
もちろんこれがただ狙いを外した、というわけでない事はすぐにわかるだろう。
ミヤモトの耳に流れ込む耳鳴りが凄まじい速さで大きくなっていくのだから。
これはササミの怪音波。
だが、本来ササミの怪音波は閉鎖空間で相手の三半規管を攻撃するか、枝分刀を共振させて切れ味を持たせるくらいの威力しかない。
こういった開けた場所では効果が半減するのだが、今この時点においては話は別である。
巨大カエルを取り囲んだ複数の枝分刀は音叉の役割を果たし、陣となる。
陣内部で怪音波は乱反射して共鳴増幅していく。
それがどういう結果に結びつくかは賽の目切りした氷の中で気持ちよさそうなササミの口から語られる。
「ちょっとべたつきゃーすけど気持ちいいがね。
さあ、九元瘴音陣だぎゃ。乱反射させとるからそのカエルの振動膜も追いつきゃーせんでよー。
ぐずぐずしとったら岩は粉砕して血は沸騰するだぎゃ!」
残虐な笑みを浮かべ、更に怪音波の出力を上げる。
その言葉通り、乱反射した怪音波に巨大ガエルの血は沸き立ち今にも破裂しそうである。
ミヤモトも脱出するか何らかの対策を立てなければ同じ運命をたどるであろう。
どう出るか、ササミは氷に浸かり、蜂毒を冷やしながら一挙手一投足を見逃すまいと見据える。
目的はあくまで撃退。
向かってくるのなら撃退するが、逃げるのであればそれでよいのだ。

ミヤモトに一気呵成に攻勢をかけたササミであったが、ミヤモトだけに集中していたわけではない。
項と背中の目が鋭く見つめる先にはルナがいる。
「ルナ、あたしゃリリィやフリードみたくあんたを信用せえへん。
両手両足くらいはもらうがね!疑いが晴れたらくっつけたるだぎゃ!」
背中の顔の発した言葉は、そのままの意味としてルナに襲い掛かる。
上空から二本の枝分かれ刃がルナに向かって落ちてくるのだ。
ミヤモトを囲んだようにただ落ちてくるのではない。
明確な意思と切れ味をもってルナに上空から襲いかかるのだ。

10 :
リリィはミヤモトに、おとなしく島から出て行って欲しいと願った。
それを聞いたルナは人形のような顔。感情を潜めた。
出来るだけ深く、この場にいる誰からも心を読まれないように、
リリィと出会ったころのイメチェンする前の大人しいルナより深く。
わびしく…
でも、次のシーンを見て絹を裂くような悲鳴をあげる。
ゾブリ……!
頭が真っ白になってこめかみがじんじんする。思考停止の一歩手前。
リリィの首筋に喰らいついているササミをみて、目を疑う。
何かの間違いであってほしいと……
案の定、よく見てみればササミがずるずると飲み込んでいるのはリリィのおさげ一本。
それはまるで黄金の味噌スープで、光輝く細めんのように綺麗なしろものだった。
(どうして?ササミ……)
ルナの疑問にはすぐ答えが出た。
リリィの髪を食べて力を取り戻したササミはミヤモトへと猛攻。
そして――
>「ルナ、あたしゃリリィやフリードみたくあんたを信用せえへん。
 両手両足くらいはもらうがね!疑いが晴れたらくっつけたるだぎゃ!」
上空から二本の枝分かれ刃がルナに向かって落ちてくる。
「そうね。ここであんたと決着をつけて、ユリと手を組むってのも大ありかも」
タクトを構えて、全魔力を先端に集中する。
「大いなる力の根源よ、光と闇よ。天の理、地の理、人の理よ。
我は法を破り理を超え反転の意志をここに示すものなり。
反転せよ。反転せよ。反転せよ。繰り返すつど三度。
ただ移り流れるうつし世を反転する!――メガワジッ!!」
詠唱とともにタクトの先端から放たれた光はターコイズブルーを超えて
銀色を超え、真っ白な光龍と化し「ミヤモト」へと迫る。
ルナはササミの枝分かれ刃を避けもせずに両手両足と斬断され芋虫のようにその場に転がる。
「…わたしにとって、リリィは一番のおともだちだから。
リリィがユリを追い払いたいっていうのならそうする。だから
ササミもわたしを信じて……」
ルナは反転魔法でミヤモトの速さを封じるつもりで極大反転魔法を放ったのだ。
だが、力みすぎてその効果は謎。
ただ速さを反転させてミヤモトを遅くすれば、非力なリリィとフリードでも、
弱ったササミでも何とかできるかもと、あとのことを託したのだ。
「わたしの願いはひとつよ。ずっとリリィとおともだちでいること…」
ルナは不敵な笑みを浮かべ、ミヤモトを見据えた。

11 :
>5-10
カエルが蜂ではなく蜂蜜を吹き出したのはミヤモトには計算外だったが、氷の盾で防がれては結果は同じ。
ミヤモトとしても邪魔になる盾を放置する気はないが、リリィが話しかけてきたためにそちらを優先する事になる。
敵と決まっていないのに人の話を聞かないのは、シツレイになるのだ。
>「ミヤモトさん、さっき何でもひとつ石の力でかなえてあげるって言ってましたよね?
> じゃあ私の願い事を言います。おとなしく杖と石版を置いて、島から出て行ってください。 
> ねー、フリード君にルナちゃんだってそう思うよね?」
「ワタシの目的が石である以上、杖も石版も渡せません。 イセキ・二チョー!」
アクのニンジャなりに丁寧に事情を説明するミヤモトであったが、リリィは聞かずに言葉を続ける。
リリィの目的が時間稼ぎにあるのをミヤモトが見抜けなかったわけではない。
攻撃しなかったのは、はっきり言ってリリィを甘く見ていたからである。
テレパシーを聞かなかったミヤモトは、リリィが援軍(闇払いや先生)到着を願っていると考えたのだ。
自分の血肉でササミを回復しようなどというのは、悪のニンジャには理解不能だったので。
「ベツジンに変装して島に乗り込むなど、ワタシにはベビー・サブミッションなのです。
 石版の願いなどは聞き出すことも不可能であり……」
律儀にリリィに返答していたミヤモトは、そこで言葉を止めた。
おさげを食いちぎって立つササミの目に光が宿るのを見て、時間稼ぎをしていたリリィの真の狙いを知ったので。
「ドーモ、リリィ=サン。 ミヤモト・ムニです」
ササミにしたのと同様のオジギは、ニンジャにとって戦い前の儀式のようなもの。
ミヤモトは明確にリリィを敵と認定したのだ!
>「魔家百烈が一つ、橙家地走剣!!」
「ムウッ!」
氷の盾を切り裂いて剣閃を飛ばすササミに対応すべく、ミヤモトは妖刀ヘイボンを抜いて身構える。
足を切られて大きく体制を崩すカエルの上で巧みにバランスを取っているのは、タツジンのワザマエであろうか。
しかし、ミヤモトの予想に反して上空から落ちる刃は、直撃ではなく周囲を囲むように落ちてくる。
目的は何か、それはすぐにササミの口から明らかになった。
>「ちょっとべたつきゃーすけど気持ちいいがね。
>さあ、九元瘴音陣だぎゃ。乱反射させとるからそのカエルの振動膜も追いつきゃーせんでよー。
>ぐずぐずしとったら岩は粉砕して血は沸騰するだぎゃ!」
その言葉が事実なのはすぐに身を持って知ることになるが、ミヤモトは動じない。
「ショーシ・センバン! カトン・ジツ!イヤーッ!」
ミヤモトは 妖刀ヘイボンを 天にかざした!
なんと! 妖刀ヘイボンから炎が天に向けて立ち上がった!
炎は攻撃には役立たずだが、目を引ければそれで十分。
本命は巨大カエルの行動だ。
カエルが一瞬口を開いたかと思うと、その舌が電光石火の速さで複雑に伸びる。
狙いは戦闘力の無いリリィであり、舌を避けることが出来なければリリィはカエルの腹の中だ。
「ニンジツ・クナイダーツストーム! イヤーッ!!」
攻撃の成否に関わらずミヤモトの次にする事はササミの攻撃を防ぐ事。
ミヤモトがその場で竜巻のように回転すると、四方八方にクナイダーツが投げられる。
無数にあるかのように投げられるダーツの矢のうち、下に向かうものは音叉の役割をはたす枝分刀を壊すための物。
それ以外の周囲に撒き散らされる物は、無差別に周囲を襲う攻防一体の武器となる。
止めるのが間に合わなかったためにニンポウで呼び出されたカエルは爆発四散したようになるが、そこはニンポウカエル。
体は消え失せ、カエルの腹の中に入っていたものがミヤモトの足下に転がるのみだ。
その後放たれたルナの反転魔法を避けることは無かったが、それは避けた所をササミに狙い撃ちにされるのを防ぐため。
また“何か”を反転されても自分の優位は動かないと確信しての判断だ。
実際ルナの反転魔法を受けて動きが遅くなっても、ミヤモトはクナイダーツを投げ続けている。
ササミはもちろん、フリードやルナやリリィにも無数のクナイダーツが襲いかかるのだ。
ただし、リリィがカエルに食べられていればクナイダーツには当たらないだろう。
クナイダーツストームは、足下にクナイダーツを投げる事はないニンジツなのである

12 :
フリードは防御体制をとっている
グレンは敵を睨みつけている
>「ニンジツ・クナイダーツストーム! イヤーッ!!」
「フリージングシールドラァァァイ!!」
『らぁい?』(猫語)
飛びクナイを止め砕け散るフリージングシールド
だが攻撃を防ぐという役割は十分に果たした
「反撃させてもらいます!フリージングニードル!!」
フリードの目の前に氷柱が出現し尖った方を向けミヤモトへ飛んでいく
「あたれぇぇぇぇぇ!!」
叫んだところで当たるわけが無いと思うのだが
精神力を力に変える魔法ならばもしかしたら効果があるのかもしれない
「連射!連射!連射!!」
次々と新しいツララを出現させ飛ばすフリードリッヒ
このツララには当たったところが凍りつくような追加効果は無いが
しかしながら一発あたりの使用魔力が低いと言う特徴を持ち連射が効くのだ
 僕の背をドワーフよりは高くしてくれた事は感謝しますが・・・・・僕の大切な友達を傷つけると言うのなら
 このフリードリッヒ・カイ・ポリアフ・ザンギュラビッチ・シャーベットビッチ・デューク・ノクターン容赦せん!!」
『貴族ってやたらフルネーム長いよね』(猫語)

はたしてどう戦い抜くのか?

13 :
>「ベツジンに変装して島に乗り込むなど、ワタシにはベビー・サブミッションなのです。
> 石版の願いなどは聞き出すことも不可能であり……」
けっこう律儀なミヤモトの言葉を聴くともなしに聴いていると、ササミの息遣いをごく近くに感じた。
ササミもようやく、リリィの血を使う決心がついたのだろう。
次にくるであろう衝撃を覚悟し、知らずリリィはぎゅっと拳を握り締める。
ゾブリ……!
だが、何かが食いちぎられる音が聞こえても、リリィの身に痛みは訪れなかった。
(・・・・・?)
振り返ると、ササミは何かを租借していた。思わず首筋に触れて、そして知った。
ササミはリリィの血肉ではなく、髪を喰らうことで回復したということを。
(何で泣いてるの?ササミちゃんは私のためを思って、血ではなく髪にしてくれたのに))
リリィは、自分の行動が、ササミにどのような影響を与えたかまるで気づいてない。
だから微笑を向け、ぴっと親指を立ててみせた。
ササミに力が戻れば、全員の力でこの場を切り抜けることがそう難しくないことを知っていたからだ。
だが、リリィの考えは半分正しく、半分は間違っていた。
>「ドーモ、リリィ=サン。 ミヤモト・ムニです」
はは、とリリィはひきつった笑いを浮かべると、知らず一歩後ずさりした。
怖い。
「Rぞ」と口汚くすごまれたほうが余程ましである。
>「魔家百烈が一つ、橙家地走剣!!」
>「ムウッ!」
体制を立て直したササミの攻撃に、ミヤモトは妖刀ヘイボンを抜いて身構えている。
足を切られて大きく体制を崩すカエルの上なのに、転げ落ちもせず平然としているのは、さすがである。
だが、リリィがちゃんと把握できたのはここまでだ。
このさきリリィは、戦闘以外のことで頭がいっぱいになるのだから。
それは、ササミの宣言から端を発した。
>「ルナ、あたしゃリリィやフリードみたくあんたを信用せえへん。
>両手両足くらいはもらうがね!疑いが晴れたらくっつけたるだぎゃ!」
ササミの枝分かれ刃が、上空から二本ルナに向かって落ちてくる。
とめる暇などあるはずがなかった。
「ルナちゃん!避けて!!」
>「そうね。ここであんたと決着をつけて、ユリと手を組むってのも大ありかも」
>タクトを構えて、全魔力を先端に集中する。
リリィが驚愕に目を見開いた。
この期に及んで、なぜそんな心にもないことを、と。
>詠唱とともにタクトの先端から放たれた光はターコイズブルーを超えて
>銀色を超え、真っ白な光龍と化し「ミヤモト」へと迫る。
>ルナはササミの枝分かれ刃を避けもせずに両手両足と斬断され芋虫のようにその場に転がる。

14 :
「あああああああ!うわああああ!!」
リリィは大声で叫びながら、ルナに駆け寄った。
足元には、切り落とされたルナの手足が転がっている。
「ルナちゃん!ルナちゃん!何でなの?何であんな馬鹿なことを!」
>「…わたしにとって、リリィは一番のおともだちだから。
>リリィがユリを追い払いたいっていうのならそうする。だから
>ササミもわたしを信じて……」
「ルナちゃん、しゃべっちゃだめ。今血を止めるから。だから・・・・・」
リリィはそこで言葉につまった。顔がくしゃりとゆがむ。
「・・・・・・・馬鹿だ、ルナちゃん本当に大馬鹿だよ。
 あの人はミヤモトって名前のニンジャで、本物のユリさんは別にいるんだよ。
 そんなことも知らされていないルナちゃんが、仲間なんてありえないでしょう?
 なのに、なんで嘘言ったの?なんで避けなかったの?」
わかっている。きっとルナは、ササミに信頼して欲しかったのだろう。
だが、そのささやかな願いが招いた結果はあまりにも重い。
この怪我では、ササミから血を分けてもらう前に、ショック死してしまうかもしれないのだ。
信じてもらう前に死んでしまっては、元も子もないではないか!
「本当に・・・・・・ルナちゃんの天邪鬼!!」
だが、リリィはルナの傷口を消毒しようとして、はっとした。
なぜだろう?これだけの重傷だというのに、出血量があまりにも少ない。
そして、洗い流して現れた切断面は、あまりにきれい過ぎた。まるで鏡のように滑らかで、ありえないほどに。
(まさか・・・・・・)
リリィは切断面同士を目を凝らして確認しつつ、ルナの右腕を慎重に傷口に押し当てた。
足元に応急手当キットを置くと、その中から出した包帯で腕を胴体に密着させるように固定する。
「ルナちゃん、どう?指先は動く?」
>「ショーシ・センバン! カトン・ジツ!イヤーッ!」
「ふぇ?」
>カエルが一瞬口を開いたかと思うと、その舌が電光石火の速さで複雑に伸びる。
次の瞬間、リリィはルナの目前から消滅した。
リリィはニンポウカエルの腹へ消えたが、まだぼろをまとった美少女・・・・美少年フリードが健在だ。
仲間であるルナも、そのシールドで守ったことは想像に堅くなかった。
一方、巨大カエルの腹の中に納まったリリィは混乱していた。
突然真っ暗で、妙に生暖かく湿った場所に放り出されたからだ。
「なにここ・・・・・痛っ!この水、ぴりぴりする・・・・・・」
リリィは手探りならぬ足探りで、水が無い場所を探した。
そしてすぐに、他よりも一段高い場所を見つけた。足場は小さかったが他よりも硬くしっかりしていた。
(ふぅ。それにしてもここどこだろ?何でこんなに地面がぐにゃぐにゃで揺れてるの?
 はっ!もしかして、これも学園の七不思議?!)
リリィは大声で、助けを呼ぼうと大きく息を吸い込んだ。
と、その時。
ぱあっと霧が晴れるように、突然視界が開けた。
「ギャフッ?!」
ニンポウガエルを消したミヤモトの足元に、石版と、謎の杖と、ぼろぼろのリリィが落ちてくる。
リリィは視界の端に、ミヤモトが皆に攻撃しえいるのを捕らえた。
「止めて!」
リリィは石版の上にしりもちをつきながら、思わずそう叫んだ。
「東方の友達からは、ニンジャは正義の味方だって聞かされてたのに!
 私の友達にひどい糊塗するなんて、ただの悪い人じゃない!もうがっかりです!」
そう叫ぶなり、リリィはミヤモトの足元にタックルした。
避けなければ、動きが遅くなったミヤモトは引き倒されてしまうだろう。

15 :
>「・・・・・・・馬鹿だ、ルナちゃん本当に大馬鹿だよ。
 あの人はミヤモトって名前のニンジャで、本物のユリさんは別にいるんだよ。
 そんなことも知らされていないルナちゃんが、仲間なんてありえないでしょう?
 なのに、なんで嘘言ったの?なんで避けなかったの?」
「嘘を言ったのは、敵をだますにはまず味方だから…。
避けなかったのは、ササミがほんとに狙ってるなんて夢にも思わなかったんだもん…。
でもおかげで…疑いは晴れたかも……。私が…ミヤモトに攻撃したから……」
血の気の失せた薄い唇が動く。途切れがちの呼気と一緒に次第に消えゆく声。
ルナは、長い睫毛をゆるく閉じたまま微笑んでいた。
>「本当に・・・・・・ルナちゃんの天邪鬼!!」
「……そうだね。わたし、天邪鬼だね。ごめんね、リリィ」
>リリィは切断面同士を目を凝らして確認しつつ、ルナの右腕を慎重に傷口に押し当てた。
>足元に応急手当キットを置くと、その中から出した包帯で腕を胴体に密着させるように固定する。
>「ルナちゃん、どう?指先は動く?」
「……んん、うごく。うごくよぉ」
手の指を、ぞろぞろと動かせて見せるルナ。すると次の瞬間、リリィが眼前から消えた。
なんと、巨大ガエルが彼女を飲み込んだのだ。魂消たルナがタクトを振りかざすも、魔力はゼロ。
ぴちちと静電気のようなものが先っちょから出るだけで逆にニンジャの反撃が繰り出される。
ミヤモトが竜巻のように回転しながらクナイダーツを乱射してくるのだ。
「ふいいいっ!!」
冷たいきらめきがルナを襲う。とっさに突き出した手のひらに痛みが走り
うなじを影が抜けると髪の毛がひとつまみ…、宙に舞い散った。
無数のクナイがびゅんびゅんと飛んで、所かまわず突き刺さっているのだ。
怖すぎる。そう思ったルナが身をすくめたその時…
>「フリージングシールドラァァァイ!!」
「はわわ!!」
氷の盾が出現してルナを守る。そしてフリードの反撃。氷柱の連射。
続けてニンポウガエルを消えて、ミヤモトの足元に、石版と、謎の杖と、ぼろぼろのリリィが落ちてくる。

16 :
「リリィーーっ!!」ルナは叫ぶ。
ぼろぼろのリリィ。ぼろぼろのササミ。美少女姿のフリード。
こうなってしまったのもみんなミヤモトのせいなのだ。
ルナは自分の反転魔法で、善忍のミヤモトを悪忍に変えてしまったことなんて知らない。
知りたくもない。
リリィはミヤモトの足元にタックルした。
その努力を無にしないためにも、ルナは駆ける。
ミヤモトのもとに!
そして謎の杖をかすめとり、地に沿って振り回す。 銀光が弧を描く。
石版をゴルフボールのように叩いてフリードにパスするのだ。
彼が守ることが得意そうとルナはふんだのである。
それにリリィに何かあれば、母性本能で猛るササミにミヤモトは攻撃される。
「夢見石は、悪いことに使っちゃだめなのよ!」
ルナは叫んだ。でも、悪い願いも良い願いも、ほんとのことはよくわかっていない。
願い事を叶えられたら幸せ。単純にそんな気持ちしかないのだ。

17 :
>12-16
>「反撃させてもらいます!フリージングニードル!!」
>「あたれぇぇぇぇぇ!!」
>「連射!連射!連射!!」
「イヤーッ!」
反転魔法で動きが遅くなったミヤモトだが、その周囲にはニンジュツによって次々にクナイダーツが作り出されていく。
避けられないなら氷針とクナイダーツの相殺を狙うというわけだ。
> 僕の背をドワーフよりは高くしてくれた事は感謝しますが・・・・・僕の大切な友達を傷つけると言うのなら
> このフリードリッヒ・カイ・ポリアフ・ザンギュラビッチ・シャーベットビッチ・デューク・ノクターン容赦せん!!」
「それで勝つつもりかフリード=サン! バットージュツ!」
ニンジュツによって一瞬で抜き放たれた妖刀ヘイボンが、ミヤモトの手に握られてギラリとブッソウな光を放つ。
ミヤモトは妖刀ヘイボンの斬撃で一気に切り返しをはかったのだ。
しかしその一撃は、足を狙ったリリィの不意打ちに阻止される。
>「止めて!」
>「東方の友達からは、ニンジャは正義の味方だって聞かされてたのに!
「グワーッ!」
ウカツ! リリィのタックルを受けたミヤモトは綺麗にすっころんだ!
動きが遅くなっている上に攻撃中ではあったが、タツジンのニンジャともなれば避ける時は避けるのだ。
リリィが捨て身でなかったなら、ここまで見事にタックルは決まらなかっただろう。
それでもヤバイ級ニンジャであるミヤモトは、その隙を狙うルナの行動を見逃しはしない。
>「夢見石は、悪いことに使っちゃだめなのよ!」
「キリステゴーメン!」
跳ね起きるミヤモトの持つ抜き身の妖刀がルナの持つ杖に向かい、石版を打ち渡すのを止めようとする。
結果夢見石を打たれるのを止めは出来なかったものの、妖刀ヘイボンはルナの手から杖を叩き落とした。
そのまま勢いを殺さずに動く妖刀ヘイボンがピタリと止まったのは、近くにいたリリィの首の側。
捨て身であった事がタックルの成功につながったが、それがリリィに取って大きな不利益になったのだ。
速度を落とす効果が終わったのか、もうミヤモトの動きはいつもと同じ速さになっている。
「フリーズ! ニンジュツ、シニガミシールド!」
高らかに宣言するミヤモトの言葉の意味はわからなくても、意図は見る者全てにわかっただろう。
動くな。 下手に動けば人質にしたリリィの命はないぞ。 と!
「なかなかのコンビネーションでしたが、ルナ=サンはまずお友達のリリィ=サンを助けるべきでした。
 ササミ=サンもリリィ=サンもフリード=サンも残念に思っているでしょう。
 ルナ=サンがお友達の命よりも夢見石で自分の願いを叶えるのを優先させた事を!」
場の混乱を願うミヤモトは、思ってもいない事を口にした。
ミヤモトにしてみれば、リリィを連れて行って夢見石を置いていった方が良かったのだ。
「リリィ=サンは杖を拾ってからゆっくりと起き上がってください。
 フリード=サンには、夢見石を置いてゆっくり後ろに下がってもらいましょう。
 ルナ=サンとササミ=サンはリリィ=サンの命が大事なら動かないように。
 人質交換です。 リリィ=サンは石版を持った私が島を離れて安全な場所に行ってから解放します。
 変な気を起こしてワレワレの問題をこれ以上複雑にするのはお互いにやめましょう……カラダヲタイセツニネ!」
嘘である。 悪忍と化したミヤモトは、安全な場所に逃げたらリリィをザンサツする気満々だ! コワイ!
「私も少し前までは仲間や他人の事を優先するのがタイセツだと思っていました。
 しかしわかったのです。 世の中やはり自分が大事であると。
 魔法学園の皆=サンも自分に正直になりましょう。
 他人の事を優先しても死んだら終わりです。 ショッギョウ・ムッジョ!」

18 :
賽の目切りになった氷に身を浸しながらササミは戦況を見ていた。
九元瘴音陣の超音波領域にいながらミヤモトは動く気配がない。
カエルは前足を斬られほとんど動けず、爆散は時間の問題。
だがかといって、ミヤモトが動けば即座にそこを狙い撃ちにする。
流石にそれを読んでいるのだろうが、ササミはこのままミヤモトを爆散させてもかまわない。
むしろその方が後顧の憂いが断てると思っていた。
それと同時に後方、ルナに対しても注意は怠っていなかった。
だからこそ、ササミの項と背中の目はある意味信じられないものを見てしまった。
なんとルナはミヤモトに極大反転魔法を放ったまま、回避も防御もせずに四肢を切り落とされたのだ。
どんなに隠しても僅かでも背信があれば四肢切断という局面に際して体は動いてしまうもの。
だがルナは一切の動きをしなかった。
すなわち、背信など全くしなかったという事なのだ。
「そうやったかね。ほやったらくっつけたらんとあかんね」
絶叫しながらルナに向かうリリィに「傷口をあてがうだけでくっつく、そのように切ったから」そう告げようとした時、ミヤモトが動いた。
>「ショーシ・センバン! カトン・ジツ!イヤーッ!」
ミヤモトがカエルの上で妖刀ヘイボンを天にかざし炎が天に立ち上る。
「はっ!この距離で当たるとおもやーすか!?」
それに素早く反応するササミだが、その狙いまでは判っていなかった。
いや、それ以上に誰かを背に守りながら戦うという事にあまりにも慣れていなかったのだ。
既に体は十分に冷えて蜂毒も抜けた。
天に立ち上る炎がどのようになろうとも回避できるようにその場から動いてしまったのだ。
「この陣はどこから怪音波を照射しようとも効果は変わらんがね…!?」
ミヤモトも炎がササミに当たるとは思ってはいないだろう。
回避の為に音源が動くことで九元瘴音陣を崩そうとしている、という狙いだとササミは思ってしまっていた。
それが大きな間違いであると、即座に知ることになる。
爆散寸前のカエルの口が大きく開き、電光石火の速さで舌が伸びてルナの手足をくっつけていたリリィに伸びたのだから。
回避さえしていなければその舌を迎撃することもできたかもしれない。
だが、この位置からではどうにもできず、よすぎるササミの動体視力はただただリリィが飲み込まれる様を見送るしかなかったのだ。
歯ぎしりをしたササミの胸に己の不覚という気持ちと共に信じられない感情がうねり顔を出す。
それは「自分の食い物を横取りされた」という感情である。
その感情はササミの反応をさらに一歩遅らせた。
リリィ救出に飛び出そうとした時にはミヤモトが既に攻撃に移っていた。
>「ニンジツ・クナイダーツストーム! イヤーッ!!」
四方八方に打ち出される苦無の嵐!
ある程度距離を取れば躱し叩き落とすこともできるが、近づくことは至難の業。
それと共に次々と苦無は陣を形成する枝分刀を砕いていく。
「〜〜〜!!甘くみやあすなよ!」
崩壊しつつある人に最大出力の怪音波を照射し、カエルが爆発四散したところでミヤモトを囲んでいた枝分刀は全て砕かれてしまった。
元は水晶である。
粉々になった枝分刀はキラキラと月光を反射しながら周囲に舞い上がる。
だがそれでもミヤモトのクナイダーツストームは止まらない。
カエルを爆発四散させたのでその腹に入っていたリリィと夢見石、杖が転がり出たのだが近づけない。
>「反撃させてもらいます!フリージングニードル!!」
氷でシールドを形成しつつ氷柱を無数に飛ばして苦無を相殺していく。
その隙を突き走り出すルナを見てササミは次の手に入った。

19 :
キラキラと輝く破片の中、フリードの反撃にクナイダーツストリームを止めて妖刀ヘイボンを振りかざすミヤモト。
そんな中、ササミの背ではいくつかの手袋が忙しく印を結び、項と背と両手の甲の口が小さく呪文を刻む。
駆け寄ったルナが手にした杖で夢見石を打ってフリードに。
が、そこまでだった。
リリィの捨身タックルで体勢を崩してフリードに切りかかる事は出来なかったが、ルナの手から杖を叩き落とすミヤモト。
そのままの速さでリリィの首に刃を当ててそれぞれの動きは止まる。
ミヤモトはリリィを人質にとってこの戦闘を終わらせようとしたのだ。
杖と夢見石を置き、脱出できたらリリィを開放する、と。
そして付け加えるようにこう続けた。
>「私も少し前までは仲間や他人の事を優先するのがタイセツだと思っていました。
> しかしわかったのです。 世の中やはり自分が大事であると。
「魔界では、人質は意味をなさんのだがね。
それは逆にいやあ人質を取って交渉できやせんと、もう自力では打開できへんっていっとるようなもんだからだぎゃ。
つまりは弱みを見せとるゆーだけなんだわ」
その言葉と共にササミの体は歪み消えてしまう。
代わってミヤモトの数歩後ろ、枝分刀の破片が煌めくところからササミが現れた。
その小脇にはボロボロになったリリィが抱えられている。
「残念なんておもっとりゃせえへんがや。
ルナが夢見石をはじいとる間に私がリリィを助けたんやからにゃー。
九元瘴音陣は音叉の刀を砕いて破られるような簡単なもんやないんだがね。
破片を使って幻術に移行する二段、三段も構えがあるんやわ」
その言葉と共に首筋に刃を当てていたリリィも輪郭が歪み消えていった。
そして二段、三段と言い放つことで、今見えているササミとリリィは実体であるかどうかもはっきりさせない。
更にササミは言葉を続ける。
「あんたさん、少し前まではって言ったけど、それって何時の話だがね?
もしかしたらあの時、ルナの反転魔法で変わったんやあらへんのか?」
なんとなくではあるが、確信に近いものがあった。
そして今ミヤモトに一番近い位置にいるルナに視線を向ける。
「ルナ、反転魔法でミヤモトが心変わりしたのならあんたの責任やがね。
あんたに魔力がもうないのはわかっとる。
けどな、闘いってのは最後の最後は根性!
精根尽き果て限界を超えたその先に戦士だけが味わえる快感があるんだがね!
限界を超えて根性見せてみやあせ!!」
そう宣言してルナに決着をつけることを強要するのだった。
それと共にルナの四肢を切り落とした二本の枝分刀がゆらりとルナの周りに浮かぶ。
一本はルナを守るために。
一本はミヤモトの動きをけん制するために。

20 :
あ、ありのまま 今起こったことを話すぜ!
「ミヤモトさんへのタックルが成功したと思ったら、いつの間にかササミちゃんの小脇に抱えられていた」
 な… 何を言ってるのか わからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった…
(何をされたのかわからなかった…みたいな?)
ぶらーん、と、小脇に抱えられたままのリリィはそう一人ごちた。
目の前には、なかなかシュールな光景が広がっていた。
なんと、ミヤモトは『リリィ』に刃を突きつけ人質にとっているのだ!
そして脅している相手は、ルナ、フリード&グレン、そして何と!『ササミ』である!
(じゃあ、ここにいる私達は何なの?ユータイリダツってやつ?)
優秀な魔法使いは、魂だけで飛べると聞いたことがあるが、あいにくリリィはそんな優秀ではなかった。
ミヤモトは一同を制しつつ、人質になっている『リリィ』に杖を拾えと命じている。
(うーん。拾えっていわれても・・・・・・ねえ?)
ちらっとササミのほうを見るが、彼女は微動だにしていない。
どうしたものかと考えているうちに、ミヤモトが刀を突きつけていた『リリィ』は消えてしまった。
>「残念なんておもっとりゃせえへんがや。
>ルナが夢見石をはじいとる間に私がリリィを助けたんやからにゃー」
リリィはなんとも言いがたい顔をしながら「どうも」というように片手をあげた。
声を出さないのは、それが九元瘴音陣にどんな悪影響を及ぼすかわからなかったからだ。
>「あんたさん、少し前まではって言ったけど、それって何時の話だがね?
>もしかしたらあの時、ルナの反転魔法で変わったんやあらへんのか?」
ササミはルナに、もう一度反転魔法を使ってミヤモトを元に戻し、自分の魔法の落とし前をつけろと言った。
リリィは軽い違和感を覚えながら、ササミの言うところの『少し前』を思い出してみた。
状況と会話から察するに、ササミが言っているのは、手足が切断される寸前に放った魔法ではないだろう。
そこまで考えて、リリィはあれ?と首をひねった。
そして声の代わりに、テレパシーを使ってミヤモト以外のメンバーに語りかける。
『ちょっと待ってよササミちゃん。それってさっき、ルナちゃんが手足斬られる直前に放った魔法じゃないよね?
ミヤモトさんが「ルナちゃんに感謝」とか言った時の魔法は、命中、してなかった気がするんだけど
 あの時の魔法が命中したと言うのなら、ルナちゃんが両手足切り落とされる直前に使った魔法も命中してることになるよ。
 でも・・・・・・ミヤモトさん、心境には全っ然!変化なさそうに見えるよ。
 これって、一体どういうこと?』
似たような条件で魔法を発動させても、同じ効果が得られない。ということは・・・・・・
『まさかと思うけど、ルナちゃんの魔法って、毎回違う効果になるの?
 反転魔法を重ねかけして元の状態に戻すためには、前回と同じ状況にしないとだめ・・・・・・とか?』
もしそうだとしたら、再現は至難の業だ。
もしも場所や体調まで同じでないと無理、ということなら、ほぼ不可能と言っていい。
『ま、まさかね』
リリィが想像してしまった『不可能』を『可能』にするもの。
それは、確かに今この場に存在している。しかも、味方の手の内にあった。
だが、リリィはそのことについては何も触れなかった。
当然だ。
大事な友達に、危険なものかもしれないが、とりあえず使ってみろ、などと、どうして言えるだろう?
自分が試すならともかく、である。
それでも、どうしても視線は『それ』に吸い寄せられてしまう。
フリードが受け取った『願い事を何でもかなえてくれる石版』へと。

21 :
>「他人の事を優先しても死んだら終わりです。 ショッギョウ・ムッジョ!」
「そうですよね死んでしまったら御終いですよね・・・・なんて言うと思いましたかこの卑怯者!!」
『さすが忍者汚い!汚い忍者!!』(猫語)
>「残念なんておもっとりゃせえへんがや。
>ルナが夢見石をはじいとる間に私がリリィを助けたんやからにゃー」
「いつの間に!?」
『さすがササミさんすばやい!そこに痺れるあこがれる』(猫語)
フリードに視線を向けるリリィ
「ちょっとそんなに見つめられたら照れるじゃないですか・・・・・って言う冗談はともかく
 こういう何でも願いが適う系のアイテムは何かてひどいしっぺ返しがあるに決まってますので
 あまり多用するのはどうかと・・・・・・いやむしろ破壊すべきかもしれません
 下手をすれば世界が滅ぶ原因になりかねませんので」
『そうかな?そんなに万能でもなさそうだけど』(猫語)
「じゃあもしミヤモトさんを善人にしてくれと願ったらどうなるんですか?
 人間の人格を捻じ曲げるなんて絶対にやってはいけないことの一つですよ?
 人を洗脳して操る悪の結社とやってることは変わらないんですよ」
『そうだねカタルシスウェーブだね』(猫語)
はたしてついかっとなって願ってしまうのか?

22 :
>「なかなかのコンビネーションでしたが、ルナ=サンはまずお友達のリリィ=サンを助けるべきでした。
 ササミ=サンもリリィ=サンもフリード=サンも残念に思っているでしょう。
 ルナ=サンがお友達の命よりも夢見石で自分の願いを叶えるのを優先させた事を!」
「それはちがうわよ!リリィは夢見石が悪用されることを心配してた。
だからわたしは、あのこの命よりも心のほうを大切におもったんだから!」
ミヤモトに手を叩かれて、手の甲に一筋の血を滲ませながらルナは叫んだ。
正直、ミヤモトの動きは意外。
ルナはミヤモトが夢見石を追いかけて、リリィから離れると思っていたのだ。
そうなれば動きは特定されて読みやすい。距離が生まれれば間が生まれる。
ササミの広い刃圏にミヤモトが飛んで入れば勝利は必至。そう確信していた。
しかし、ミヤモトのほうが一枚上手だった。
彼はリリィを人質にとり夢見石の返却を要求する。
>「私も少し前までは仲間や他人の事を優先するのがタイセツだと思っていました。
 しかしわかったのです。 世の中やはり自分が大事であると。
 魔法学園の皆=サンも自分に正直になりましょう。
 他人の事を優先しても死んだら終わりです。 ショッギョウ・ムッジョ!」
「人って死んだら終わりだから他人を優先するんじゃないの!?
みんなを思う気持ちが、たくさん絡み合って練りあがっていって
永遠に終わらないものができあがるのよ。だからあなたは、リリィを放したほうがいい。
もしもリリィに何かあったら、ササミもフリードも私もあなたのことを死ぬまで許さないよ」
そういって、ミヤモトをねめつけるルナだったがリリィが人質にとられていてはどうしようもなかった。
口から出た言葉は負け惜しみのようなもの。でも…
状況は一変した。なんとリリィが人質にとられて見えていたのはササミの幻術だったのだ。
>「ルナ、反転魔法でミヤモトが心変わりしたのならあんたの責任やがね。
 あんたに魔力がもうないのはわかっとる。
 けどな、闘いってのは最後の最後は根性!
 精根尽き果て限界を超えたその先に戦士だけが味わえる快感があるんだがね!
 限界を超えて根性見せてみやあせ!!」
「そ、そんなめちゃくちゃな…。わたし、戦士じゃないのに」
二本の枝分刀がゆらりとルナの周りに浮かぶ。 タクトが浮かぶ刀にぴちちと静電気の反応を起こす。
(え?これってもしかして…)
先ほどつかったルナの極大反転魔法が、周辺一帯に帯電するかの如くストックされていたのだ。
発動されないまま。ずっと。
>「じゃあもしミヤモトさんを善人にしてくれと願ったらどうなるんですか?
 人間の人格を捻じ曲げるなんて絶対にやってはいけないことの一つですよ?
「それなら私は、ミヤモトを元にもどすから。ううん、ミヤモトだけじゃなくって
リリィの姿も、フリードの姿も、ササミも、みんなを元にもどすから!」
タクトの先っちょを枝分刀にくっつけるとスパークした魔力が電気のように周辺に迸る。
同時に破れた衣服が元に戻ってゆく。その場にあるものが本来ある姿に戻ってゆく。
それはフリードの手に持つ『それ』も同義だった。

23 :
>18-22
>「残念なんておもっとりゃせえへんがや。
> ルナが夢見石をはじいとる間に私がリリィを助けたんやからにゃー。
「アィエエエ! 幻覚!?幻覚ナンデ!?」
ササミの早技に一番驚いたのは、おそらくミヤモトだったろう。
タツジンのニンジャとしての自負があるぶん、気づかぬうちに人質を取りかえされたショックも大きかった。
>「じゃあもしミヤモトさんを善人にしてくれと願ったらどうなるんですか?
> 人間の人格を捻じ曲げるなんて絶対にやってはいけないことの一つですよ?
>「それなら私は、ミヤモトを元にもどすから。ううん、ミヤモトだけじゃなくって
>リリィの姿も、フリードの姿も、ササミも、みんなを元にもどすから!」
「そうはトンヤがオロシません!
 バットージュツ・フルムーンサッポー! イヤーッ!」
狼狽から回復したミヤモトは、満月を描くように刀を振ってルナを切り捨てようとする。
が、それよりもルナの魔法発動の方が速かった。
魔力を浴びたミヤモトは時間が止まったように動きを止め、振り下ろしていた刀を降ろして静かに地面に座った。
ニンジャの座り方のサホーの1つ、セイザである。
落ち着きのある所作から、ルナの魔法が無事に効果を発揮したのは誰の目にも明らかだろう。
悪忍ではなく、善忍ミヤモトの復活だ。
「今回の一件で皆様に多大なる御迷惑をおかけし、誠に申し訳ない。
 かくなる上は不始末のケジメをつけるため、セップクして見事果てる所存にて」
セイザしたミヤモトは刀の切っ先を自分の腹に向けるように持ち帰ると、自害して死のうとした。
止めなければ無事にケジメが終了できる。
逆にセップクを止めた場合には石版と杖を一行に託し、恩は忘れない主旨の事を言った後で素早く姿を消すだろう。
陰の存在である善忍は、人前に姿を現す事を好まないのだ。

24 :
リリィの救出を完了し、幻影に紛れながら見る先にはミヤモトと対峙するルナ、そしてフリード。
目的の夢見石はフリードにあり、人質はなく、ミヤモトを撃退するだけ。
そんな折にリリィからのテレパシーが送られてくる。
その問いにリリィを抱えている手の甲の口が小さな声で答えた。
「ん?不思議空間でルナがミヤモトに反転魔法を放って空間に穴をあけやーしたやろ?
あの時やにゃーの?勘だけど。ほやけどそれは大した問題じゃないんだがね」
自信満々にルナに言い放った言葉をあっさりと勘で片づけ、あまつさえ大した問題ではないと言い切るササミ。
更に言葉は続く。
「悪に転向したのは間違いあらへんのやし、ルナの反転魔法で戻れば儲けもの。
それより、見てみやーせ。
ああやって煽ったら嫌でもミヤモトの注意はルナに集中するし、夢見石を持つフリードへの注意は薄れるがね。
あとは、わかるだぎゃ?」
リリィが想像しながら口に出すことを憚ったことをササミは言外の言葉で言い放ったのだ。
フリードが夢見石を使ってもよし、そのまま逃走しても目的物の夢見石は無事、という事だ。
当のフリードはそのことを察したか察していないか、迷っているようだがそれでもよかった。
「まあ、心理誘導でルナを囮に使ったゆーわけやけど、大丈夫だがね。
あれでルナは私を何度も痛い目にあわせとるからね、やるときゃやる女やしなも」
フリードが夢見石を使い解決するもよし、ルナが解決するもよし。
二枚重ねで対処するならばなんとかなるし、最悪幻覚に紛れている自分とリリィは無事である、という打算もあった。
が、それ以上に四肢切断を受け入れたことも含め、ルナには何度も痛い目に合わされたからこその信頼というものがササミの中に芽生えていたのだ。
一通り説明する手の甲の顔だが、リリィに見つめられればあわてて目を逸らすだろう。
それ以外の部分の顔も一切リリィを見ようとはしない。
様々な計算の上に導き出された行動ではあったが、今リリィに対して湧き上がる感情に戸惑っていたのだ。
それは【食欲】
リリィの髪を齧り貪った時の喪失感。愛する者を必要とはいえ貪ったことにより自ら【獲物】としてしまった。
必要性を超えその甘美なる味に酔ってしまった自分の業にササミは慄いたのだ。
今目を合わせると、どんな目でリリィを見てしまっているか、自分でも自信がない。
己の業を隠しながら事態の推移を見守ると、ササミは知ることになる。
ルナに痛い目にあわされた回数がまた増える事を!
先ほどルナが放った極大反転魔法は発動がされていなかったのだ。
ミヤモトの動きを遅くしたのは余波による作用でしかなく、強大な魔法はその場にとどまっていた。
それが今はなった小さなルナの魔力を呼び水にして発動する。
もちろんそれが知覚できたわけではないが、身をもってその効果を知る。
「ん?お?どういうわけだがね!?」
突如として発生する全身の痛み。
しかもこの痛みは先ほど味わったばかり!
叫びと共に抱えていたリリィを落としもだえるササミの身体は体中蜂に刺されたように腫れていく!
だがそれもすぐに収まって、いや、刺される前の状態に戻っていく。
「どうなっとりゃーす?これはまさか、事象の逆流?」
ルナの得意とする【反転】魔法と体に起こる現象からササミは事態を察して総毛だつ。
もし予想が当たっているのであれば次に起こる現象も判ってしまっているのだから!
ササミの身体から血が抜けていき、弱弱しく崩れ落ちる。
更にその体は人の形を保てず、巨大な七本首の怪鳥へと!
「あぢぃ〜〜〜〜!!」
背中が熱湯でもかけられたかのように沸き立ち、ササミの絶叫がこだまする。
ここでようやくササミの【巻き戻り】の終焉を迎えた。
血が抜け落ち衰弱し、正体を露わにしてしまったあの時点で。
「恐ろしい魔法だがね…。どうせなら夢見石に割られた光物が戻るまで巻き戻ってほしかったぎゃー」
ぐったりと呟くササミにミヤモトが正座し謝罪するのが見える。
どうやらミヤモトも巻き戻り善忍に戻ったのだろう。
けじめを取るために切腹をするとの事だが、それに対して何らかのアクションが取れるような余力はササミには残っていなかった。

25 :
>22-24
>「今回の一件で皆様に多大なる御迷惑をおかけし、誠に申し訳ない。
 かくなる上は不始末のケジメをつけるため、セップクして見事果てる所存にて」
「ちょっと!ここで死んだら誰があなたの死体を片付けるんですか!
 止めてくださいよ!!」
『死ぬんだったら誰も見てない所でやってよね
 それとも止めて欲しいの?』(猫語)
まさに外道である
さてフリードリッヒが持っている夢見石
それの元々の姿
それは何もかも絶望したような一人の少年であったはずだ
はたしてどこまで戻ってしまったのだろうか?
人型まで戻っていたのならフリードはどうやって支えればいいのだろうか?
「どうしましょうこれ・・・・とりあえず関節技の実験台にでもなってもらいましょうか?」
『やめてあげてよ!間接が捻じ切れちゃう!!』(猫語)
「ふん・・・・まあいいでしょうきりきり歩いてもらいますよ七不思議の元凶さん」
『ああそういえば七不思議の謎を解くって話だったね
 忍者のせいですっかり忘れてたよ』(猫語)

忍者との激闘を終え無事に学園の建物内に戻ってきたフリード達
「ササミさん大丈夫ですか?それにしてもすっかり日も暮れて・・・・・ない
 いったいどういうことです!ほとんど時間が経ってないじゃないですか!!」
と時計の針を見て驚愕するフリードリッヒ
『まあ謎空間にいたんだし不思議じゃないよね』(猫語)
魔法の世界では常識と非常識が逆転することもよくあることである
「で、誰がこの女の人を保健室に連れて行くんですか?
 ササミさんもだいぶ大変なことになっているみたいですし」
『それはあなたです』(猫語)
この女の人・・・と言うのは元スケルトンで元姫のことである

保健室に行った彼らが見たものとは
「あれ保健室にいたんですか姉さ・・・・ん?」
すっかり小学生のようになってしまった自身の姉とその服を無理やり脱がそうとしている保険医(女性)であった
「・・・・なんですかこのカオス?」

26 :
空間に停滞していたルナの反転魔法は、巨大風船を針でつついたかのように爆発し辺りに流れ出していた。
それはタクトによってお尻を叩かれた暴れ馬とも言えた。少しだけルナの意識で方向性を見つけたものの
巨大なエネルギーを制御しきれないまま暴走していたのだ。
視線を落とせば怪鳥へと捲き戻ってしまったササミの姿。血も失っていて元気もない。
それを見たルナは肩を落とす。よく考えてみたら、どうしてこんな極大魔法を使ってしまったのだろう。
それほどまでにミヤモトに追い詰められてしまっていたのだろうか。
心の奥底で蠢動する後ろめたい気持ち。
>「今回の一件で皆様に多大なる御迷惑をおかけし、誠に申し訳ない。
 かくなる上は不始末のケジメをつけるため、セップクして見事果てる所存にて」
>「ちょっと!ここで死んだら誰があなたの死体を片付けるんですか!
 止めてくださいよ!!」
「そ、そうよ、やめなさいよ。みんなに迷惑をかけたのはどうしようもない事実だけど自Rることなんてないわ。
自殺は自分に対しての最大のいじめよ。……っていうかほんとにやめて、私のためにも」
語尾が小さくなって震える。ルナもうすうす気付きはじめていたのだ。
ササミが独り言のように言っていることから、リリィがテレパシーで何かを会話しているということ。
反転魔法がミヤモトに及ぼしたであろう影響のこと。それが事実なら諸悪の根源は自分自身だということに。
リリィの後頭部をじっとみる。本当のことをリリィは知っている。
あの小さな頭のなかで考えている。もちろんササミも知っているのだろう。
ミヤモト本人も気付いているけど黙っていてくれてるのかも知れない。
そんなことを考えてるとルナの胸は締め付けられ良心の呵責にも耐え切れなくなる。
「……う、ごめんなさい!」
刹那、口から言葉が飛び出した。深々とお辞儀をしてじっとそのまま。
そしてそっと体を起こす。でもそこにミヤモトの姿はなかった。
ルナは言葉を失ってしまう。風が吹いて、立ち尽くしている少女の髪だけが揺れる。
ざわざわと梢をもみ、緑の林を嘆かせ、つれない風がすさぶ。
風の行方を目で追い、雲間からこぼれた陽射しのまぶしさに、ルナが目びさしをすると
光を浴びた雲はゆるゆると青い空を流れていた。何事もなかったかのように正常に。

27 :
ミヤモト・ムニとの戦いも終わって学園に帰ってきた生徒たち。
ルナは保健室に行くまえに職員室にいき、簡単に今まであったことを先生に説明すると
保健室で再び皆と合流する。
>「・・・・なんですかこのカオス?」
「カオス?どうゆう意味?フリードって双子だったの?」
カオスという言葉に嫌な予感しかしない。
まさかフリードの姉も捲き戻ってしまったのだろうか。
それはさておき、少女の衣服を女医が脱がそうとする行為は、保健室ではそれほど珍しい行為ではないと思う。
患者の汗で湿った下着を取り替えることはよくあること。それを嫌がる子どもの姿も。
だからルナはフリードの姉を他の人に任せて見過ごすことにした。
かぶりをふり、氷の担架に乗っけた姫をベッドに移動するのに手伝う。
じつは夢見石の美少年が、姫を保健室まで運ぶのを手伝ってくれていた。
(夢見石は、ルナの極大反転魔法で少年の姿まで戻っていた)
彼は終始無言だったけど、まるで召使のようにテキパキとはたらく。
もともとは夢見石という古代兵器で、自分のことを学園の生徒と錯覚している不気味な存在。
おそらくは七不思議を起こした元凶。でも夢見石がどうして人の姿になっているのかは今もって謎。
なぜ偽りの記憶をもっていたのかも。疑問が胸を渦巻く。記憶を改変されているのだろうか。
何者かの意図によって。
ルナは、彼のことにはあまり触れずにササミに視線を移す。
「大丈夫?またリリィのおさげを食べたりなんてしないよね?
あ、私の髪なんて食べても美味しくないよ。腐った蕎麦みたいな味がするかも」
うすい笑みを浮かべながら踵を返すと、とことこと戸棚に向かって歩く。
そして、リリィの治療に使う骨生え薬を探して指先を硝子に這わす。
「あっ!あった。これね?骨生え薬って。……先生、これって骨生え薬ですよね?」
戸棚から薬を取り出して、ふたを開ける。
スプーンで蜂蜜のようにトロトロな液体をすくう。
「あーんして、あーん」
自分も口を開けながらリリィの口に差し出し、
彼女が飲み込むのを確認して「骨、生えた?」と問う。
いっぽうで夢見石の美少年は、姫をじっと見たまま椅子に座っていた。
「あの姫ってなにものなの……」
ルナは眉をひそめてつぶやいた。

28 :
ササミは、ルナをけしかけはしたが、結果にはあまり期待していなかったようだ。
むしろルナよりは、フリードが持つ石版の力が本命らしい。
それは、リリィが口にするのをためらった内容そのものでだった。
「それなら私は、ミヤモトを元にもどすから。ううん、ミヤモトだけじゃなくって
>リリィの姿も、フリードの姿も、ササミも、みんなを元にもどすから!」
「でも・・・・・ルナちゃんは、やるときは絶対にやる子だよ?」
まあ、そんなことは口に出さなくても、ササミならとっくに承知のことだろうが。
>「ん?お?どういうわけだがね!?」
「ふぎゃっ?!」
ぼとっ、と何の予告もなく地面におろされたリリィは、鼻を打ちつけ痛みにうめいた。。
何で、と思いながら顔を上げると、すぐ隣には、全身の痛みにもだえ苦しむササミの姿があった。
「ふぁ、ファファミしゃん?なんれ、ろうひて?」
見えない蜂に全身を刺されている!と思ったが、それも潮が引くように痕跡が消えていく。
>「どうなっとりゃーす?これはまさか、事象の逆流?」
「それって、時間の撒き戻りみたいなもの?・・・・・え?ま、まさか!
 は、早く魔法発動範囲の外へ!早く!」
リリィはササミを担ぎ上げてその場を離れようとしたが、間に合わなかった。
ササミは、巨大な七本首の怪鳥へと戻ってしまった。
彼女に肩を貸していたリリィとしては、たまったものではない。
「うわあっ!ササミちゃん重い!重いよぅ!!」
ササミの翼の下敷きになったリリィは、その場でじたばたともがいていた。
彼女達の状態に関係なく、事象の逆流はなおも続く。
そしてとうとう、リリィの手に、具現化させた杖が吸い寄せられるように収まった。
すうっと薄れていく杖に、全身の血が音を立てて引いていく。
「嫌っ!!」
リリィは思いっきり杖を振り払った。と同時に、彼女の胸元で何かが砕けたような音がした。
杖はすんなり彼女の手を離れ、草むらの中へと転がっていった。
さて。
どうにかササミの下から這い出したリリィは、自分の状態を確認した。
カエルの胃に入ったせいで、生地のあちこちが痛んだTシャツとスパッツと、擦り傷だらけの手足。
めがねはどこかになくしてしまったようだ。
そして・・・・・・・片方だけ残ったままのお下げ髪。
どうやら、事象の逆流は、多少の個人差があったようだ。
ササミが食べたお下げ髪は元には戻らなかったが、ササミ自身は、髪を取り込む前の状態まで戻ってしまっている。
リリィの髪がどこに消えたのかは未だ謎のままだが、戻ろうが戻ろうまいが、彼女は頓着しないだろう。
なぜならそれは、リリィがササミに食べさせたものだからだ。

29 :
(あの杖は、どうなったのかな?)
消えたのだろうか?それとも、元の場所にもどったというのだろうか?
いずれにしても、二度と係わり合いになりたくない。
その杖が何か全くわかっていないくせに、リリィは漠然とそんなことを考えていた。
だが、彼女の物思いはそう長く続かなかった。
彼女の目の前には、すっかり弱りきったササミの姿が。
リリィは片方だけ残ったお下げと、ササミを見比べた後、カバンから小刀を取り出した。
そして何のためらいもなく、片方だけのお下げ髪の根元に刃を滑り込ませる。
「ササミちゃん。これ」
リリィは切り取ったばかりの髪の束を、ササミの口元へそっと運びささやいた。
「どっちみち切ろうと思ってたんだ。片方だけ残っててもバランス取れないしね。
 その姿じゃ学園に帰れないでしょ?だから、嫌かもしれないけど、これ食べて。動けるようになったら、一緒に帰ろ」
リリィは髪の束を押し付けると、ササミから離れミヤモトのほうへと移動した。
さて。
ルナの魔法を食らった「悪のニンジャミヤモト」は、神妙な顔つきで、地面に跪くような形で座っていた。
今のミヤモトは、先ほどとはまるで別人だった。剣呑なオーラなど微塵もない。
その姿は、静寂な竹林を思わせた。
>「今回の一件で皆様に多大なる御迷惑をおかけし、誠に申し訳ない。
> かくなる上は不始末のケジメをつけるため、セップクして見事果てる所存にて」
セイザしたミヤモトは刀の切っ先を自分の腹に向けるように持ち帰ると、自害して死のうとした。
「うわあっ!ちょっと待って、早まらないでぇ!!」
あわあわ、とリリィは手を振ってミヤモトを制そうとした。
>「ちょっと!ここで死んだら誰があなたの死体を片付けるんですか!
> 止めてくださいよ!!」
「ちょっとフリード君、悪気ないのはわかってるけど、ぶっちゃけ過ぎ!ぶっちゃけ過ぎだから!」
>『死ぬんだったら誰も見てない所でやってよね
> それとも止めて欲しいの?』(猫語)
「グレン黒いっ、黒いよ!そこは素直に止めようよ!!」
>「そ、そうよ、やめなさいよ。みんなに迷惑をかけたのはどうしようもない事実だけど自Rることなんてないわ。
>自殺は自分に対しての最大のいじめよ。……っていうかほんとにやめて、私のためにも」
「ルナちゃん・・・・・・」
どうやらルナは、ササミの発言を聞いて、リリィが何を話していたか察してしまったようだ。
「ち、違うってば!そんなのルナちゃんのせいじゃないわよ!
 私達は生徒で、未熟なんだから。だからこそ、今、学園にいるんじゃない」
>「……う、ごめんなさい!」
ルナは、泣きそうな声で謝罪した。みんなの視線が彼女に集中する。
「・・・・・・・あれ?ミヤモトさんは?」
まるで煙のように、ミヤモトの姿はそこから消えていた。

30 :
さて。
ミヤモトが消えた後は、フリードリッヒが持っていた夢見石の変化、という問題が残っていた。
夢見石は、少年の姿に戻っている。
「どうしましょうこれ・・・・とりあえず関節技の実験台にでもなってもらいましょうか?」
『やめてあげてよ!間接が捻じ切れちゃう!!』(猫語)
「そんな。やめたげてよ。ていうか、こんな薄着の相手に関節技かけたら、いろいろまずいって!!」
フリードの姉は狂喜するかもしれないが。
「とりあえずフリード君、執事さんに頼んで、上着でも貸してあげたら?」
少年は特に抵抗するでもなく、フリードの後ろをとぼとぼとついてきた。
そしていわれるままに、不思議空間から救出した女性を運ぶ手助けをする。
「い、意外と力持ちね」

忍者との激闘を終え無事に学園の建物内に戻ってきたフリード達
>『ああそういえば七不思議の謎を解くって話だったね
> 忍者のせいですっかり忘れてたよ』(猫語)
「えー、結局七不思議ってなんだったの?
 七不思議の原因は全部、この男の子が原因でした!って連れて行っても、信じてもらえるのかなぁ?」
どこからどう見ても、今の彼は男の子である。
もっとも、不思議空間では気づかなかったが、今改めてみると、少年の体の一部には石版がむき出しになっているのだが。
(まあ、服着ればそんなに目立たないよね。学園には変わったセンスの人多いし。
 石版くっつけてても、これはファッションだと言い張れば、意外といけるかもしれないしね)
実際に石版を顔に持つ友人は、変わった仮面をつけることで問題をクリアしていたからだ。
だから、リリィは気づかなかった。
少年の体の一部が、未だ石版のままで見えているのが自分だけだ、ということは。
>「ササミさん大丈夫ですか?それにしてもすっかり日も暮れて・・・・・ない
> いったいどういうことです!ほとんど時間が経ってないじゃないですか!!」
と時計の針を見て驚愕するフリードリッヒ
『まあ謎空間にいたんだし不思議じゃないよね』(猫語)
魔法の世界では常識と非常識が逆転することもよくあることである
「あれっ?私の貼ったメンバー募集のポスターがない!
 っていうか、ほかの募集ポスターも全部剥がされてる?なんでー?
 ちゃんと掲示許可印だって貰ってたのに!」
>「で、誰がこの女の人を保健室に連れて行くんですか?
> ササミさんもだいぶ大変なことになっているみたいですし」
>『それはあなたです』(猫語)
「あ、私も手伝うよ!指の骨生やさなきゃいけないし!」

31 :
保健室に行った彼らが見たものとは
>「あれ保健室にいたんですか姉さ・・・・ん?」
「あれ?なんでフリード君が二人いるの?っていうか、先生何してるんですか?」
リリィは目の前の少女が、小さくなったフリージアだと気づかなかった。
「・・・・なんですかこのカオス?」
「とりあえずこの女の人、ベットに運びますねー」
リリィは、ルナや少年達と一緒に、女性をベットに運んだ。
「まあ、落ち着いたら状況説明するよ。センセー、骨生え薬、ちょっと貰いますねー」
>「大丈夫?またリリィのおさげを食べたりなんてしないよね?
>あ、私の髪なんて食べても美味しくないよ。腐った蕎麦みたいな味がするかも」
「た、た、た、食べてないよ!うん!
 あれはキンキュージタイだったから仕方なかったんだよ!
 それと、髪は元に戻らなかったから、バランス取るために切ったんだよ。ただのイメチェンだから、イメチェン!」
>「あっ!あった。これね?骨生え薬って。……先生、これって骨生え薬ですよね?」
「そだよー」
よく怪我をするリリィが、保険医の代わりにそう請け負った。
>「あーんして、あーん」
「・・・・・・・・・あーん」
リリィは意を決したように、ぱくっとスプーンを口に含んだ。
そしてそのままの姿勢で固まり、脂汗をだらだら流し始める。味は相当ひどいようだ。
>「骨、生えた?」
「う、うん・・・・・・今日は・・・折れたんじゃなくて盗られちゃってるから・・・・・もう少し時間かかる、かな。
 保健室で休むほどのことじゃないから、後で部屋に戻るよ」
リリィは痛そうに顔をゆがめながら、さらに続ける。
「女の人の件は、あとで保険医さんに学園の行方不明者を検索してもらえれば、きっと身元わかると思う」
スケルトンが学園外に出て、一般人を襲うことは考えにくい。
おそらくは生徒か、学園関係者のいずれかだろう。
「ねえ、今回の七不思議の件だけど、これ、どこに話を持ち込めばいいんだろう?
 なんかこの男の子と引き換えに食券貰うのも人身売買みたいで嫌だし・・・・・彼の処遇も考えないとだし・・・・・。
 でも、今までのこと全部話しても、信じてもらえるのかな?」
夢見石の美少年は、姫をじっと見たまま椅子に座っていた。

32 :
七首の怪鳥の姿に戻り朦朧となったササミには自分の下敷きになったリリィに気づく余裕すらなかった。
意識がはっきりしたのはリリィが自分の下から這い出て小刀で残ったおさげを切り取って巨大な嘴に差し出したところだった。
急激な意識の覚醒は食欲の名を持ちそのおさげをつまみ上げる。
時同じくしてフリードがミヤモトに外道名言葉をかけてルナとリリィがあわてて止めにかかる。
だがササミにはどうでもいいことだ。
ルナの反転魔法の影響であろうがミヤモトが転向し驚異でなくなったのであればあとは自害しようがこの場を晦ませようが同じこと。
目的である夢見石の防衛が成ったのであればそれでいいのだから。
目的外のものにも気を配り新たなる目的として自害阻止にむかい動けるほどまだササミは人間というものに染まっていなかった。
そんな事よりもササミの中では猛烈な葛藤が生まれていたのだ。
嘴に摘まんだ子の髪を味わい、食べたい。
しかしそれをしたが最後、完全にリリィとの、いや、人間との関係は食うものと食われるものになってしまう。
それを本能的に感じて葛藤していたのだ。
首が持ち上がり嘴に摘ままれたおさげを飲み込もうとした瞬間、他の六つの首が一斉に持ち上がって飲み込もうとした頭に嘴を突き立てる!
餌を取り合っているのか、食する事を阻止しようとしているのか。
判断の付きにくい争いのあと、結局はリリィのおさげは食べられることなく終結した。
>「ササミさん大丈夫ですか?それにしてもすっかり日も暮れて・・・・・ない
「何とか動けるくらいにはなったがね」
ミヤモトの一件が決着し、フリードが移動を促すころにはササミも人型の姿に戻っていた。
変わったところと言えば、腰のあたりにリリィのおさげがぶら下げられていた事と、頭にいくつものこぶができていたくらいか。
以前は体中に宝物である光物をつけていたのだが、不思議空間での戦いで砕かれてしまった。
だがそれらすべてを引き替えにしても十分すぎる光物を手に入れたのだ、とササミは満足していた。
実際、他に光るものがないので金色に輝くおさげはよく目立つ。

保健室に行くとRの服を脱がそうとしている女医の姿。
>「・・・・なんですかこのカオス?」
フリードの言葉が全てを余すことなくあらわしている状況である。
本来ならば何らかのツッコミを入れる状況なのだろうが、あまりにカオスすぎてササミの手には余るのでそっと14の目を閉じてみなかったことにして。
>「大丈夫?またリリィのおさげを食べたりなんてしないよね?
>あ、私の髪なんて食べても美味しくないよ。腐った蕎麦みたいな味がするかも」
ルナの言葉にギクリとし、ふと考えが過る。
もう食べないつもりではあるが、確約はできそうにない。
腰につけているおさげからは常に誘惑されるし、リリィ自体も食べてみたいという衝動がないわけではない。
そしてその衝動はルナの言葉によってリリィを超えて他の【人間】にも及んでしまったのだから。
リリィが旨いのか人間自体が旨いのか。
凝視してしまいその意図が伝わったのか、あわてて「腐った蕎麦」と自分を表すルナ。
その言葉を聞いてササミはそう思う事にした。
確証も実践もなく根拠もなくそう思い込むことに。
本来ならばあるまじき思考ではあったが、そう思わなければ衝動に抗えそうにないのだから。
人間の世界には「食べてしまいたいくらい好き」という言葉があったことを思い出してまで。
だがこれは、食人衝動をリリィに集中させてしまう事になり、ササミの葛藤はまだしばらく続きそうである。
>「た、た、た、食べてないよ!うん!
葛藤しているササミに代わってリリィが取り繕うように応える言葉にようやくササミは思考の迷宮から抜け出した。
「あ、そやな。記念にもらってここにぶら下げとるがね」
確かに記念ではあるし、身に着けることはササミの宝物であることを現している。
だが、食べなくてもそのまま手放せない事もまた事実なのだった。
「まーとりあえず疲れたし、少し横になるがね」
そういって保健室のベッドにもぐりこむササミ。
これ以上起きていて余計な事を考えないように。

33 :
>「カオス?どうゆう意味?フリードって双子だったの?」
「これ・・・・・姉さんです」
つまりこの小さな・・・と言ってもフリードリッヒと同じぐらいの背はある少女は
フリードリッヒの姉であるフリージアということなのだ
「ちょっと!これとは何ですの!これとは!!」
弟にこれ扱いされたフリージアはご立腹のようだ
姉曰く風邪気味で眠っている間に保険医にエターナルチャイルドを仕込まれたらしい
「いつか仕返しをしてやりますわ!!」
フリージアさんに復讐フラグが経ちました
「やめてよ姉さん!そんなことしたら往き様様に幼稚園にでも忍び込むに決まってるじゃないですか!!」
必死で止めるフリードリッヒ
「駄目だ!姉さんは強い!!」
あっと言う間に逆転され関節を決められるフリードリッヒ
『君たち・・・魔法使いだよね』(猫語)
>「ついにやってやったぞ!ついにだ!!」
そんな会話を無視して目論見が大成功したロリコンでガチレズの保険医は大いに喜んでいる
>「後は男に効かない様に改良すれば・・・・うふふふふ
  そして後は空気感染するようにして・・・」
このままでは薬害事件が起きてしまう誰か保険医を止めてくれ
>「あっ!あった。これね?骨生え薬って。……先生、これって骨生え薬ですよね?」
との疑問にああそうだが?
と答える保険医
>「女の人の件は、あとで保険医さんに学園の行方不明者を検索してもらえれば、きっと身元わかると思う」
>「任せろ!Rじゃないから残念だが・・・・・まあ何年か前ならRだろうしな」
と請け負う保険医
まさに変態である
>「まーとりあえず疲れたし、少し横になるがね」
「起きたら小さくなってなければ良いんですが・・・・・」
フリードは心配するが・・・・まあ大丈夫だろう
そもそも人類種用のエタチャイが効くかどうかも不明であるのだし

そして下校時間が過ぎ慌ただしかった一日も終わる
「今週末の休みにどっか遊びに行きたいですよねグレン」
『そうだねグリーンだね』(猫語)

34 :
カオスな状況な保健室に新たなる来訪者が現れた。
静かに開いた扉には鏡の仮面をつけ、黄色いローブをまとった女生徒、セラエノ・プレアデス。
その後ろに教師と見知らぬ黒服の男を引き連れて。
直後、保健室にキーンという耳鳴りを伴う音が短く響いた。
「この共鳴、やはり…」
黒服のつぶやきを背にセラエノが夢見石の少年に近づいき手を差し出す。
仮面に覆われない口元はいつもの柔和な笑みではなく、固く閉ざされている。
セラエノの出現に呼応するように夢見石の少年は立ち上がり、その手を取った。
保健室のカオスな状況もリリィをはじめルナやフリード、起き上がったササミがまるで存在しないかのように二人は手を取り保健室を出ていく。
黒服は二人について去り、残された教師は
「この件についてはあとは学園が処理します」
説明になっていない一方的な宣言だったが、それ以上有無を言わせない何かが言葉には籠っていた。
「わかりました。こちらも私が」
カオスな状況を作り出していた女医も佇まいを正して姫の方へ視線を向けるのであった。

35 :
>「あ、そやな。記念にもらってここにぶら下げとるがね」
「そうそう・・・・・・ええっ?!」
リリィも相槌を打っていたが、意味を知って飛び上がった。
そう、ササミの『記念品』は確かに目立っていた。
なぜならササミを彩っていた宝石の数々は、皆を守るために惜しげもなく使ってしまったからだ。
リリィはしゅんとなった。
素人のリリィにさえ、ササミの宝石は高価なものだったことくらい理解できた。魔力が篭められていたとしたら、それこそお高いに違いない。
(これじゃ全然釣り合いが取れてないよね)
ササミは記念品をとても喜んでくれたようだし、もちろん、リリィも演技だとは思っていない。
だからこそ、申し訳ないと思った。
>「これ・・・・・姉さんです」
>「ちょっと!これとは何ですの!これとは!!」
「うわー・・・・・・・あのフリージアさんがこんなお姿に・・・・・・」
フリードと保険医、そして謎のRならぬフリージアの言い争いは続いている。
姉曰く風邪気味で眠っている間に保険医にエターナルチャイルドを仕込まれたらしい
「・・・・・・美少女って怒ってても美少女なんだね」
怒り心頭のフリージアを、フリードが必死に止めている。
>「駄目だ!姉さんは強い!!」
あっと言う間に逆転され関節を決められるフリードリッヒ
>『君たち・・・魔法使いだよね』(猫語)
「何を言うのグレン。魔法で勝負なんかされたら保健室なんて跡形もなくなっちゃうじゃない!」
ジルべリア人の一般人は、普通の人間から見えれば逸般人でる。いわんや魔法使いをや。
>「後は男に効かない様に改良すれば・・・・うふふふふ
>  そして後は空気感染するようにして・・・」
リリィはこめかみを押さえた。
「・・・・・・・アリス先生に報告しとけば大丈夫よね」
薬害事件はそれで回避できるだろう。・・・・・・・・多分。
リリィは保険医とフリージアの戦いの仲裁はする気が無かった。
なぜかと問われれば、こう答えるだろう。
「スフィンクスとスノードラゴンの戦いを、素手で仲裁なんて無理無理。
 一般人は巻き込まれないうちに、尻尾巻いて退散するのが身のためだよ」
保険医は謎の女性の素性を当たってみてくれるといった。
変態な本音駄々漏れでしょうがない人だが、一度請け負ったのだから任せて問題ないだろう。
「まーとりあえず疲れたし、少し横になるがね」
>そういって保健室のベッドにもぐりこむササミ。
>「起きたら小さくなってなければ良いんですが・・・・・」
「小さくって、ペンギンとか?変な薬飲まなきゃ大丈夫だよ。そもそもササミちゃん、薬飲む必要ないし」
リリィはササミがもぐりこんだベット脇の椅子にちょこんと座った。
そして、不思議そうにササミの頭を覗き込む。
「・・・・・・何でこぶが増えてるの?」
リリィは頭に触ろうとして手を止め、かわりにササミの手を両手で握った。
「ササミちゃん、今日は守ってくれて本当にありがとう。
 ・・・・・・・でも、これからはあんまり無茶しないでね
 いくら回復力強くても、傷ついて痛かったり辛かったりするのは、人もササミちゃんも同じだと思うから。
 ササミちゃんは、自分にも他人にも躊躇しないから、ちょっと心配だよ」
リリィはちょっと考えた後、手の甲に顔を寄せ、囁きかけた。
「人は弱いから。いくら魔法みたいな血で傷は完璧に治せる!っていっても、心の傷までは無理なんだからね。
 せっかく学園に来たのに、ササミちゃんって人を知ってもらう前に怖がられたらもったいないよ。
 ・・・・・あ、ルナちゃんは多分平気だと思うよ。見かけによらずタフだしね」
それ以前に、ルナの服装と気弱はどう考えても無縁に思えるのだが、リリィはそうは思わなかったようだ。

36 :
>カオスな状況な保健室に新たなる来訪者が現れた。
>静かに開いた扉には鏡の仮面をつけ、黄色いローブをまとった女生徒、セラエノ・プレアデス。
「セラエノちゃん?何でここに?やっぱりこの子の」
知り合いか?と良いかけたが、後から入ってきた教師と見知らぬ黒服の男に気づき言葉を飲み込んだ。
>直後、保健室にキーンという耳鳴りを伴う音が短く響いた。
>「この共鳴、やはり…」
リリィは、セラエノが少年を連れ出し、黒服の男が部屋を去るまで微動だにしなかった。
>「この件についてはあとは学園が処理します」
>説明になっていない一方的な宣言だったが、それ以上有無を言わせない何かが言葉には籠っていた。
>「わかりました。こちらも私が」
>カオスな状況を作り出していた女医も佇まいを正して姫の方へ視線を向けるのであった。
だが、リリィはそこで引けなかった。
セラエノは不思議空間で、たくさんの血を流し、沢山の宝石を犠牲にしている。
セラエノだけではない。ルナもフリードもグレンもリリィも、大変な一日になったのだ。
あんなひどい目にあったのに、何一つ報われないのでは救われない。
「えっ!あの!でも!七不思議を解き明かしたら、お食事券がもらえるって話が・・・・・」
じろりと教師ににらまれたリリィは、ひっと首をすくめた。
ここでようやくリリィは、掲示板に貼られたポスター類がすべて消えていた理由に思い至った。
おそらく依頼は無効にされている。
今日得た情報は誰にも話せないし、仮に話したとしても、提示されていた報酬は手に入らないだろう、と。
教師はしばし考え込んだ後、懐から小さな紙片を取り出し、さらさらと何か書き込んだ。
「これで良いだろう」
ぽいと投げ渡された名刺サイズの紙をあわあわと受け取る。
「ねえ見てみて、これって?」
そこには、「この名刺を持ち込んだグループに、1回だけ好きなものを食べさせてやって欲しい」という趣旨のことが書いてあった。
「じゃあササミちゃん、私は寮に戻るね。お大事に。
 フリード君、えーと。暴れてもいいけど保健室壊さないでね」
リリィはひらひらと手を振りながら、目配せでルナに「一緒に帰らない?」と誘った。
一緒に帰らなかったとしても、ルナならきっと保健室の入り口までくらい来てくれるだろう。
「ところでルナちゃん、さっきササミちゃんに言ってた腐ったソバってあれ何?」
リリィは暫くルナを凝視した後、はあっ、とため息をついた。
「そんなこと言わなくても、ササミちゃんはルナちゃんの髪の毛食べたりしないよ。
 だいたいササミちゃんは確かに私の髪の毛食べたけど、あれはあくまで緊急避難みたいなものだからね?
 私は、本当は、怪我をしてるササミちゃんに血を分けるよって言ってたんだから。」
リリィは顔を上げると、にこっと微笑んだ。
「私はルナちゃんの髪の毛、とっても好きだよ。可愛くて」

さて。明日はどうしようか。
ササミが起き上がれるようになったら、食堂でパーティもいいかもしれない。
外出許可をもらい、街へショッピングに繰り出すのも悪くない。
「そうだ、ルナちゃん。素敵なアクセサリーショップってしらない?」
リリィは楽しそうに明日の予定を語りだした。
変化は確実に訪れているのに、明日もあさっても同じ一日が続くと思っているようだった。

37 :
>「私はルナちゃんの髪の毛、とっても好きだよ。可愛くて」
「にひひひ…」
リリィの言葉を思い出したルナは、鏡の前で艶然と微笑んでいた。
ここは女子寮のルナの自室で、今日はリリィとアクセサリーショップにいく約束の日。
そして午後からは食堂でパーティの日。
ルナはしなやかな動きで微細なアイラインをひくと、次に唇の形を修正し、
頬紅をはき、シャドーを入れて鼻筋をすっきりとみせる。
(あ、ゆっくりしてたら約束の時間に間に合わないかも!)
カバンを掻っ攫って駆け足。
そっと玄関の扉を開けて外に出ると冷たい風が頬をなでる。
(うぎ、さむい!)
見上げると鉛色の空だった。赤や黄色の色鮮やかだったはずの木の葉の絨毯は雨風で腐食し
石畳をこげ茶色に装飾していた。もう間近に冬は迫っていた。
ルナはリリィと合流したあと街に出る。
「おさげもいいけど短いのも似合うかも」
リリィの髪を見ながら言った。おさげがなくなってしまったことを後悔しても仕方ないと思うし
リリィが望んだ結果を否定するのも野暮と思ってのこと。それが心意気というもの。
通りの両側に並ぶ街灯は重々しい空を支えるかのようにアーチを描いている。
「あの靴屋のかどを曲がった先に、たしかボレアースっていうアクセサリーショップがあるはずよ。
すぐ隣は喫茶店になってるの。そこのコーヒーがとっても美味しくて器も綺麗なの」
指をさした方角には木造の田舎家があった。一部を仕切って店舗にしてあるようだ。
「あ、ササミも誘えばよかったかも。いつもササミなりにがんばってるし、
だってあのこも光物好きじゃん。
あ、でもあんな高価な宝石を普段から身につけてるってことは、
こんなちっちゃい店のアクセサリーなんてササミにとっては玩具かも。
てかあのコお金持ちなの?こっちはなけなしのお小遣いを切り崩してるってのにさ」
アクセサリーショップ「ボレアース」に到着し扉を開けて店内に入る。
ひんやりとした外気が店内に侵入して、天井から吊り下げられている色とりどりの紙風船をゆらゆらと揺らめかす。
ルナは店員に会釈をして、店内を物色し始めた。
「きれいでしょう?」
カウンターの向こうから店員が笑顔を向けている。
ルナは手にしていた首飾りを掲げて見せた。
それはまるで雪の結晶のような形の、見事な首飾りだった。
「でも、高そう。って私どうして持っちゃってるんだろ…。
こんな高価そうなもの。ぜったいに私のお小遣いじゃ買えないし…。
それに見栄張ってお洒落したって、見せる男がいないもの。
ちびすけのフリード一人に見せるだけじゃあもったいないし」
ルナは悲しげに目を伏せた。店内には美しいアクセサリーがたくさん飾ってあった。

38 :
煮汁魔法学園にようこそ!

39 :
長い。3行で

40 :
拙者…拙者、Rビンビン丸でござる…

41 :
文章まとめられない奴は逆にバカ

42 :
ベッドから起き上がったササミは大きく伸びをし、首を二、三度横に振る。
コキコキという音と共にふわりと浮きあがり室内を見回した。
小さなテーブルとベッド。
そして壁と言わず床と言わず散乱する光物。
高価な宝石や魔石から、瓶の欠片やペンの蓋まで。
光れば何でもいいかのように節操なく集められた光物。
そして中央にはT字状の止まり木と、そこに立てかけられている枝分刀。
それがササミの部屋の全てであった。
散乱する光物の内、その日に気に入ったものを身に着けて出かけるのだが、しばらくしてはいない。
ここしばらくササミが装飾品として身に付けるのは金色に輝くおさげ髪……そう、切り取られたリリィの髪の毛だけであった。
石化したり痛まないように魔法的処置を施したのち、腰に結わえてぶら下げておく。
ただ光るだけ以上のものをこの髪に見出しているのだ。
身支度を整えた後、窓から外へと出ていく。
その先はいつものササミの指定席。
学園で一番高い尖塔の上だ。
いつものように高みから学園を見下ろしていると、異変に気付いた。
吐く息が白く、首筋のあたりに冷たい風が吹き抜ける。
「フリードきゃ?」
冷気に思わず思い浮かぶ名前を呼んでみるが、全天をカバーするササミの視界にフリードの姿はいない。
それと共に直上から舞い降りてくる白い小さな粒。
落ちてくるのをじっと見ながら、自分の鼻に舞い降り解けて消えたのを確認し驚いた。
「こりゃ、雪ってゆーもんだがね!」
直上に意識を向けると、先ほどのひとひらを皮切りに、音もなく無数の雪が舞い降りてくる。
雪というものを知らなかったわけではない。
魔界にも寒冷な地域はあり、冷気を操る者もいる。
しかしササミは魔界でも亜熱帯の地域を生息域としていたため、気象としての雪というものは初めての経験だった。
「これが雪かね!つまり冬って事だがね!」
初めて見る雪に、初めて経験する冬にササミの声は弾み、体は浮き上がる。
雪が降り注ぐ中、ワルツを踊るようにクルクルと回りながら学園上空を舞うのだ。
「冷たいぎゃー。面白いがね!どこからきやあした?(来たの?)」
歌うように問いかけるとともに、ササミは一気に上昇する。
雪がどこから来るか、それを確かめるために。
数分後。
フィジル諸島にどんよりと重くのしかかった雪雲から雪にまみれたササミが降りてきた。
「さ、さ、さ、寒い……が、ね……雪の巣は、どえりゃーところだったがね……!」
先ほどまでの浮かれた気分は雪雲の中で吹き飛ばされてきた。
ガタガタと震えながら体についた雪を払い、自室へと戻り、ベッドへと潜り込むのであった。

「ぶあっくしょん!げっほ!ごほっごほっ!!」
しばらくしたのち盛大なくしゃみと咳と共にベッドから起き上がるササミ。
七つある顔の全ての目は充血し、鼻からは鼻水が垂れてきている。
フラフラと止まり木へと移動した。
「こっちで寝るのは久しぶりだがね」
そういって目をやったベッドはほとんど石と化していたのだ。
くしゃみや咳をすると意に反して石化ブレスが出てしまい、柔らかなベッドは見る影もない。
七つも顔があると咳やくしゃみも防ぎようもなし。
また、各所に顔がついている関係上服装も肩や背中を盛大に露出したチューブトップに限定されるので暖をとる事もできず。
すっかり風邪をひいてしまったササミの明日はどっちだ!?

43 :
リリィは、ドアの外においてあった制服を手に取ると、小さくため息をついた。
これは、リリィが七不思議究明の折、事件に関わったと思われる女性に貸したものだ。
あちこちぼろぼろだったのだが、今日戻ってきたものは新品になっていた。
割れた金色の手鏡も荷物に混じっているが、見覚えが無い。
メモなども一切無い。
仮に問い合わせたとしても、この件に関しては誰も答えてくれないだろう。
例の女性も、夢見石の化身と思われる少年も、リリィはあれ以来姿を見ていなかった。
変な杖がどうなったのかもわからない。
もっとも、夢見石の少年に関しては、もしかしたら友人の女子生徒に聞けば何かわかるのかもしれない。
だが、まだ行動を起こすかどうかは考えあぐねている。
友人と少年の間に複雑そうな事情がありそうで気後れするのもあったが、単純にリリィがしばらく体調を崩していたせいでもあった。
学園があるフィジル諸島は、気流や海流が乱れがちなので、気候も大きく変化しやすい。
体調不良の理由は、保険医によると、「体内の魔力バランスが大きく崩れたせい」とのことだった。
もっともリリィは、もっとシンプルに風邪をひいたせいで魔力バランスが崩れたのだろうと考えていた。
ゆえに、保険医が勧めた怪しげな薬は口にしていない。
よほどの問題が発生してない限り、怪しげな成分が混じっているかもしれない薬を飲む勇気はなかった。
目が覚めたらペンギンだった、などというショッキングな体験は、一度で十分だ。
(まあ、薬なしでも元気になったんだから。万事オッケーだよね)
リリィは作り付けの鏡の鏡を覗き込むと、顎のラインで整えられた髪を両手ですいた。
分厚いレンズの伊達眼鏡を先日無くしてしまったので、今は裸眼である。
余計なものがなくなったせいか、世界が以前よりクリアに見える気すらした。
(眼鏡を外せば絶世の美女!・・・・・・だったら良かったのになー)
そんなものは、フィクションの中だけだよね。
鏡に写った少女は、学校指定の黒コートとマフラー姿で苦笑いを浮かべていた。
リリィはルナと合流したあと、外出許可を得て街に出た。
街には学園生徒の姿がちらほら目に付いた。リリィ達の他にも、街に繰り出した生徒がいるのかもしれない。

―――― 【TRPG】フィジル魔法学園にようこそ!11thシーズン ――――
                          Dancing with the north wind

44 :
>「おさげもいいけど短いのも似合うかも」
「ホント?!ありがとう!でも短いと髪が纏まりにくくて」
待ち合わせ場所でルナと合流したリリィは、弾けるような笑みを浮かべると、ゆるく波打つ髪を手で押さえた。
「ルナちゃんは、今日も気合い入ってるね」
ちょっと怖いと思っていたメイクやファッションも、見慣れてしまえばそう違和感もない。
それに・・・・・・・この姿は、ルナなりの自己表現なのだから。受け入れるのはちっとも苦ではなかった。
白い息を吐きながら石畳の街を歩くと、冬のにおいがした。
足元からしんしんと冷気が昇ってくる。
革靴でなく冬用のブーツを履いてくれば良かったと後悔し始めた頃、ルナお目当ての店が見えてきた。
ボレアースという木造の田舎家風の店は、隣に喫茶店を併設しているらしい。
>「そこのコーヒーがとっても美味しくて器も綺麗なの」
「それはひゃのしみ(楽しみ)」
リリィはマフラーを手で押し上げながら、赤くなった鼻を押さえた。
>「あ、ササミも誘えばよかったかも。いつもササミなりにがんばってるし、
>だってあのこも光物好きじゃん。
>あ、でもあんな高価な宝石を普段から身につけてるってことは、
>こんなちっちゃい店のアクセサリーなんてササミにとっては玩具かも。
>てかあのコお金持ちなの?こっちはなけなしのお小遣いを切り崩してるってのにさ」
「今日は外出許可取った人、そこそこいたみたいだけど、ササミちゃんは違うみたい」
本性が巨大な鳥だから、許可下りにくいのかもしれないと思ったが、口には出さなかった。
リリィは今日、アクセサリーの完成品ではなく、パーツを買うつもりだった。
完成品はそれなりに(リリィ基準では)高価だが、パーツなら乏しいお小遣いでも何とかなりそうだからだ。
「それにさ、ササミちゃんは確かに光物好きだけど、値段で身に着けてるわけじゃ無いと思うよ。
 要は好きか嫌いか、気に入ったか気に入らなかったか、じゃないかな?」
そう言い切ってしまってから、リリィははっとして頬をかすかに赤らめた。
そして、「い、いや、好きって別に変な意味じゃ無いし気に入ってもらえてるなら別に」などとぶつぶつ言っている。
挙動不審の理由はきわめて簡単だ。
最近のササミは、リリィが渡したお下げ髪をアクセサリーとして身に着けているからだ。
それを見るたび、リリィはくすぐったいような、うれしいような、居たたまれないような気分になる。
アクセサリーショップ「ボレアース」に到着し扉を開けると、暖かでどこか懐かしい空気が頬を包んだ。
揺れる紙風船を興味深げに眺めていると、ルナは顔見知りらしい店員に会釈し、店の奥へと進んだ。
「可愛いお店ね」
上を見ながら歩いていたリリィは、ディスプレイのテーブルにぶつかりそうになり肝を冷やした。
あははは、と笑ってごまかすと、こほんと咳払いをし、店員に細工ボタンはどこかと尋ねる。
「ショールに使うのですが、このくらいの大きさのものを探しているのです」
リリィは指でボタンのサイズを示すと、店員は愛想良く頷いた。
そして奥から、小さな引き出しをいくつか抜いてリリィの前に並べる。
「むー」

45 :
>「おさげもいいけど短いのも似合うかも」
「ホント?!ありがと!」
待ち合わせ場所で合流したリリィは、弾けるような笑みを浮かべた。そしてゆるく波打つ髪を手で押さえる。
「でもね、短いと髪が纏まりにくくて。ルナちゃんは、今日も気合い入ってるね」
ちょっと怖いと思っていたメイクやファッションも、見慣れてしまえばそう違和感もない。
それに・・・・・・・この姿は、ルナなりの自己表現なのだから。受け入れるのはちっとも苦ではなかった。
白い息を吐きながら石畳の街を歩くと、足元からしんしんと冷気が伝わってくる。
革靴でなく冬用のブーツを履いてくれば良かったと後悔し始めた頃、ルナお目当ての店が見えてきた。
ボレアースという木造の田舎家風の店は、隣に喫茶店を併設しているらしい。
>「そこのコーヒーがとっても美味しくて器も綺麗なの」
「それはひゃのしみ(楽しみ)」
リリィはマフラーを手で押し上げながら、赤くなった鼻を押さえた。
>「あ、ササミも誘えばよかったかも。いつもササミなりにがんばってるし、
>だってあのこも光物好きじゃん。
>あ、でもあんな高価な宝石を普段から身につけてるってことは、
>こんなちっちゃい店のアクセサリーなんてササミにとっては玩具かも。
>てかあのコお金持ちなの?こっちはなけなしのお小遣いを切り崩してるってのにさ」
「今日は外出許可取った人、そこそこいたみたいだけど、ササミちゃんは違うみたい」
本性が巨大な鳥だから、許可下りにくいのかもしれないと思ったが、口には出さなかった。
リリィは今日、アクセサリーの完成品ではなく、パーツを買うつもりだった。
完成品はそれなりに(リリィ基準では)高価だが、パーツなら乏しいお小遣いでも何とかなりそうだからだ。
「それにさ、ササミちゃんは確かに光物好きだけど、値段で身に着けてるわけじゃ無いと思うよ。
 要は好きか嫌いか、気に入ったか気に入らなかったか、じゃないかな?」
そう言い切ってしまってから、リリィははっとして頬をかすかに赤らめた。
そして、「い、いや、好きって別に変な意味じゃ無いし気に入ってもらえてるなら別に」などとぶつぶつ言っている。
挙動不審の理由はきわめて簡単だ。
最近のササミは、リリィが渡したお下げ髪をアクセサリーとして身に着けているからだ。
それを見るたび、リリィはくすぐったいような、うれしいような、居たたまれないような気分になる。
アクセサリーショップ「ボレアース」に到着し扉を開けると、暖かでどこか懐かしい空気が頬を包んだ。
揺れる紙風船を興味深げに眺めていると、ルナは顔見知りらしい店員に会釈し、店の奥へと進んだ。
「可愛いお店ね」
上を見ながら歩いていたリリィは、ディスプレイのテーブルにぶつかりそうになり肝を冷やした。
あははは、と笑ってごまかすと、こほんと咳払いをし、店員に細工ボタンはどこかと尋ねる。
「ショールに使うのですが、このくらいの大きさのものを探しているのです」
リリィは指でボタンのサイズを示すと、店員は愛想良く頷いた。
そして奥から、小さな引き出しをいくつか抜いてリリィの前に並べる。
「むー」

46 :
ルナはペンダントを吟味しているようだ。
>「きれいでしょう?」
リリィにボタンを出した店員が、ルナに笑顔を向けている。
>ルナは手にしていた首飾りを掲げて見せた。
>それはまるで雪の結晶のような形の、見事な首飾りだった。
>「でも、高そう。って私どうして持っちゃってるんだろ…。
>こんな高価そうなもの。ぜったいに私のお小遣いじゃ買えないし…。
>それに見栄張ってお洒落したって、見せる男がいないもの。
>ちびすけのフリード一人に見せるだけじゃあもったいないし」
リリィは笑った。確かに、「着飾った美少女以上に美少女な」紳士フリードに見せても仕方ない、かもしれない。
「フリード君はきっと、とっても可愛いですって褒めてくれると思うけどね。
 でもさ、そう思えるならいい機会じゃない?
 そろそろルナちゃんは、フリード君以外の男の子とも交友関係を広げるべき・・・・・じゃないかなぁ?」
リリィは水晶のボタンを手に取りながら、「今日はパーティもあるんでしょ?」と畳み掛けた。
>「そういう事なら、少し勉強いたしますよ?」
店員が柔らかな笑みを浮かべて、ルナを促している。
「あ、じゃあ、私も私も。このボタンを4つ。お値段はこのくらいで何とか・・・・・・・」
リリィは指を2本立てて、困惑顔の店員にそこを何とかと値切りはじめた。
「ああ、いい買い物できた。お茶代が残ってホントに良かったよー」
喫茶室の窓際に腰掛けると、リリィは嬉しそうに戦利品である紙袋を抱きしめた。
中身はチェーンと、ルースの貴石と、飾りボタンがいくつかだ。
「今日買った細工ボタンは、ササミちゃんにプレゼントするのに使うんだ。
 ほら、ササミちゃんっていつも薄着でしょ?今日も寒い格好で尖塔の上に止まってたし。
 服とかだと、背中とかの顔が隠れちゃうから、ショールを編んでみたの。
 最初からいくつかわざと穴を開けててね、ボタンの開閉で開いたり閉じたりするの。
 だから一枚もので使ったり、マフラーにしたり、羽織った時には背中とかの顔が出せるようにって思って。こんな感じで」
リリィはテーブルの上に指で書いてみたが、多分ルナにはうまく伝わらないだろう。
「あとはボタンつけるだけだから、今日ササミちゃんに持っていくんだー」
「・・・・・・あ、とうとう降ってきたね」
曇天からひらひらと粉雪がちらつき始めた。
白い雪は見る見るうちに、石畳の落ち葉の上を覆い隠していく。
あの上を知らずに踏んだら、滑って危ないかもしれない。
飽きもせず窓の外の景色を眺めていたリリィだったが、誰か知り合いを見つけたようだ。
曇る窓を紙ナプキンで拭くと、こっちこっちと手招きしている。
外を熱心に眺めていたリリィだったが、人の気配と濃厚なコーヒーの香りに、やっと視線を店内に戻す。
目の前には、アンティークなカップに注がれたカRテがおかれていた。
ふわふわの泡の上には、雪だるまをモチーフにした絵が描かれている。
リリィは目を輝かせ、すまし顔のマスターに満面の笑みで会釈した。
見て見て、とルナにコーヒーカップの中を指差し、「可愛くて飲めない」とちょっぴり眉を寄せた。
 
「・・・・・・・ところでルナちゃんは、結局何を買ったの? もしかして、さっきの雪の結晶みたいなペンダント?」
ルナにシュガーポットを勧めながら、リリィはうきうきとルナの手元を覗き込んだ。

47 :
「うぉおっ!?」
学ランを来たちょんまげ頭の男子生徒が、突然バランスを崩してコケそうになった。
その男子生徒は何事も無かったかのように三歩進み、そして後ろを振り返る。
どうやら雪に隠された落ち葉で足を滑らせてしまったようだ。
「気に入らねーぜっ!」
彼はびしっと自分が足を滑らせた跡を指さした。
「どうせならすっきり転んでたらよ〜話のネタにもなるってもんだぜ!
 だが、足を滑らせてハイ終わりってんじゃあよぉ、何の笑いにもなんねーじゃねぇか!」
そしてくるりと向きを変え、彼は元の道を進み始めた。
「ま、俺は怪我がなけりゃそれでいいけどよ」
>46
「な〜んか知った顔が手招きしてると思ったらよぉ、リリィじゃねぇか。
 相変わらずマヌケな面しやがってよ〜」
男子生徒は、笑いながらボレアースの喫茶店に入ってきた。
リリィとは学園入学当初からの知り合いなのだ。
「いや、マヌケ面ってのは嘘だぜ〜。しばらく会ってなかったけどよぉ、
 ちょっと印象変わったよなー。眼鏡がねぇ方が美人なんじゃね?」
へへへ、と笑っていた彼は、すぐにルナの存在に気づく。
彼はさも当然のように彼女に話しかけた。
「へぇ、なかなかマブいねぇ、そこの彼女ォ。リリィのツレか?名前はなんてーの?」
男子生徒は名乗った。
「俺の名前はエンカ・ウォン。この学園の全ての生徒と友達になる男だ!」
ただし可愛い女子に限るけどな〜、とエンカは心の中で付け足した。

48 :
フィジル島の街。
はらはらと雪の粉が舞う中、敷き詰められた石畳の上を歩く影が一つあった。
フードを目深に被った男は、街の建物の間をふらふらと歩いていた。
古ぼけた旅行鞄を片手にあっちへふらふら、こっちへふらふらと、道行く人にも怪奇の目を注がれる。
「い…………。池は、こっちか……?」
白い息も出さずにうわ言を呟く。
彼の眼には、あと5軒ほど向こうの小さな池が映っていた。
そこへ行こうと、彼は覚束ない足つきでよろよろと進む。
しかし、悲しいかな、最早言うことを聞かぬ足はあらぬ方向へと彼を進ませる。
よろけた先には喫茶店の窓。
倒れるまいと、手を伸ばして体を支えようとするが。
バァンッ!!!
意図せず掌を叩き付けて、大きな音を出してしまった。
その拍子に建物の中をちらと覗くと、驚いた表情の男女3名。
一瞬の後に驚かせた事への罪悪感が芽生え、「すまん」と口の動きで伝えようとしてみる。
直後、彼はバランスを崩し、ぎいいいっと嫌な音を生じて窓に深く爪痕を残し、無様に倒れこんだ。
冷たい雪と石畳にぶるりと体を震わせた後、死人の如く冷たい肌のまま動かなくなってしまった。
辛うじて意識はあるが、動かす気力はほぼなく、彼の前に人が立てば
「み……水……」
とだけ呟くだろう。もっとも、このままでも死ぬことはないのだが。

49 :
まるで神の作った人形のように美しい少年
そんなフリードリッヒの朝は一杯の牛Rから始まる
「なんで毎日飲んでるのに背が伸びないんでしょうねえ」
雪のような白い肌金糸のような美しい髪
サファイアのような青い目、そして薔薇のように赤い唇
そんな美しい少年フリードリッヒにも欠点はある
もう14歳だと言うのにまるで小学生のような低い身長である
窓から外を見ていたフリードリッヒの使い魔グレン
正式名称グレン・ダイザー
彼は使い魔の定番黒猫でありそんなに珍しい存在ではない
普通の黒猫と違うとしたら二本の足で歩行しなんだか赤い物を頭に被っていると言う点である
そんなグレンはいつもと違う外の様子に驚いた
『ねえ見てよ外、真っ白だよ』(猫語)
「雪ですか・・・・なんだかジルベリアを思い出しますね」
ジルベリアに雨は降らない
あまりにも寒いためにすべて雪か雹になってしまうからだ
そんな国で生まれ育ったフリードリッヒにとって雪は懐かしいものであると言えよう
『僕知ってるよすごく冷たいんでしょ・・・・外出たくないよ』(猫語)
「そうですか?ジルベリアに比べればだいぶ暖かいと思うんですけど
 この程度の寒さで怯んでいたらジルベリアの大地は踏めませんよグレン?」
何でもかんでも自分の故郷と比べてしまうのはフリードリッヒの悪い癖である
そしてその使い魔であるグレンはフリードリッヒの卒業後ジルベリアに連れて行かれる
運命を背負っているのだ
「それにグレンには例のあれがあるでしょう」
例のあれ・・・・それは背中に背負うタイプの特別な防寒具
それを背負ったグレンはもはや寒さに負けることは無いだろう
その名も「万能式動物用コタツ スペイザー」
そこ猫なのに亀っぽいとか言わない!!
外に出たフリードリッヒと何故か宙に浮いているグレンは不思議なものを見つけた
いわゆる一つの行き倒れである
>「み……水……」
「分かりましたちょっと待っててください!」
と地面を掘り起こそうとするフリードリッヒ
『ミミズじゃないしここは石畳だから掘り起こしても出ないと思うよ』(猫語)
「おっといけない水でしたねそこの池になら・・・・・って完全に凍ってる!?
 まあジルベリアでも良くある事です」
と懐から瓶を取り出し
「僕の国では水がすぐ凍ってしまうのでお酒を水代わりにうんぬんかんぬん」
『いいから早く飲ませてあげてよ死ぬよこの人!!』(猫語)
「仕方ありませんね・・・・そぉい!!」
と酒の瓶の蓋を素手(!)で外し手渡すフリードリッヒ
はたしてどうなってしまうのか?

50 :
>「ルナちゃんは、今日も気合い入ってるね」
「えへへ、そうでしょ。やっぱこういうメイクの良さがわかるのってリリィだけね。
私の場合、気合い入れてメイクをがんばんないと存在感ゼロなんだもん」
リリィの何気ない言葉にルナは破顔。
うれしく思いながら冬の冷気の停滞する石畳を歩む。
>「それにさ、ササミちゃんは確かに光物好きだけど、値段で身に着けてるわけじゃ無いと思うよ。
 要は好きか嫌いか、気に入ったか気に入らなかったか、じゃないかな?」
「えー…、なにその価値観。ざっくりしちゃってるw。まあ、ササミらしいっちゃササミらしいけど…」
ルナがそう言い返した視線の先には、何故か頬を赤らめているリリィがいた。
その様子にルナは、やはりササミを連れてこなかったことに後悔する。
たぶん、リリィはササミのことを憧れているのかもしれない。もしかしたらそれ以上の感情…。
ルナにもその気持ちはわからなくもなかった。
実際、マイナスから始まったササミとの関係も今ではほんの少しプラスに傾いている。
まるで心が溶け出した氷のように。これも学園のみんなのおかげかもしれない。
そして、ボレアースに二人は到着した。
ルナは氷の首飾りを手にとってみる。
>「フリード君はきっと、とっても可愛いですって褒めてくれると思うけどね。
 でもさ、そう思えるならいい機会じゃない?
 そろそろルナちゃんは、フリード君以外の男の子とも交友関係を広げるべき・・・・・じゃないかなぁ?」
 リリィは水晶のボタンを手に取りながら、「今日はパーティもあるんでしょ?」と畳み掛けた。
「え!?なにそれ。ふざけてるの!」
真っ赤な顔でルナは声を荒げた。
そんなつもりで言ったわけじゃ…と返したかったけど、考えてみればそうなのだ。

51 :
ほんのりと頬を赤らめたまま、しばらく首飾りとにらめっこ。すると…
>「そういう事なら、少し勉強いたしますよ?」
「えぇ!ほんとにぃ!?」
店員が伝えてくれた首飾りの値段にルナは驚愕する。
安すぎるのだ。不気味なほどに、低価格なのだ。
※               ※               ※
>「ああ、いい買い物できた。お茶代が残ってホントに良かったよー」
ルナもこくこくとうなずきながら喫茶店の椅子に腰をおろす。
リリィも嬉しそうに戦利品である紙袋を抱きしめている。
> 「今日買った細工ボタンは、ササミちゃんにプレゼントするのに使うんだ。
> ほら、ササミちゃんっていつも薄着でしょ?今日も寒い格好で尖塔の上に止まってたし。
> 服とかだと、背中とかの顔が隠れちゃうから、ショールを編んでみたの。
> 最初からいくつかわざと穴を開けててね、ボタンの開閉で開いたり閉じたりするの。
> だから一枚もので使ったり、マフラーにしたり、羽織った時には背中とかの顔が出せるようにって思って。こんな感じで」
> リリィはテーブルの上に指で書いてみたが、多分ルナにはうまく伝わらないだろう。
> 「あとはボタンつけるだけだから、今日ササミちゃんに持っていくんだー」
「へー…。やっぱリリィってやさしい。
それじゃあ私も何かプレゼントしようかなー。かわいいくつしたとか」
>「・・・・・・あ、とうとう降ってきたね」
>曇天からひらひらと粉雪がちらつき始めた。
「……うん」
ルナはちょっと悲しい気持ちになる。
>見て見て、とルナにコーヒーカップの中を指差し、「可愛くて飲めない」とちょっぴり眉を寄せた。
微苦笑したあとルナもコーヒーカップの中をみてみる。
するとそこにはシロクマがいた。
ルナはリリィと一緒にマスターに会釈。
>「・・・・・・・ところでルナちゃんは、結局何を買ったの? もしかして、さっきの雪の結晶みたいなペンダント?」
>ルナにシュガーポットを勧めながら、リリィはうきうきとルナの手元を覗き込んだ。
「じゃーん!」
満面の笑み。手元で冷たく光る首飾り。
ルナは両手を首の後ろにまわして首飾りをかけてみせる。
と同時に自分の体が急速に縮んでしまったかのような錯覚に陥り身震いしてしまった。
そして嘆きや悲しみにも似た雄たけびが耳の奥に聞こえたような気もした。
「……」
そこへ現れたのはエンカという男子生徒。
>「へぇ、なかなかマブいねぇ、そこの彼女ォ。リリィのツレか?名前はなんてーの?」
「…ルナ・チップル」
>「俺の名前はエンカ・ウォン。この学園の全ての生徒と友達になる男だ!」
「……え、えっと、がんばって」
苦笑いでエンカにそう返すと、困惑した顔でリリィをみる。
ていうか先ほどリリィが言った言葉のせいで変な意識が生まれてしまっていたのだ。
今まで接してきた男子生徒とといえば、ほとんど美少女にしか見えないフリードだけ。
それゆえに、ルナは男子生徒に対しての免疫が少ないのかもしれない。
>バァンッ!!!
突然の大きな音にびくりと体を竦ませる。
>「み……水……」
>「分かりましたちょっと待っててください!」
音のした方向、窓の外を見ると何者かにフリードがお酒のビンを手渡していた。

52 :
「あんたたちなにやってるの!?」
外に出ると遠く風の音が聞こえる。それはひどく物悲しい音色だった。
目前に迫った「冬」の到来に身構えたフィジルの島々が交わす囁き声のようにも
この世界の奥底に封じ込められた巨大な存在が、外の世界を思って続ける慟哭のようにも聞こえる。
じっと耳を傾けているとそれだけで鈍い痛みの形をした感情が止め処なく胸の奥底から滲みだして来そうな感覚。
ルナは一瞬目眩のようなものに襲われたが、気を取り直して目の前の光景に意識を集中する。
「その人、喉が渇いてるの?じゃあリリィの口移しで…。
なーんて上手い話があるわけないじゃん!
この私が反転魔法であなたのお口にお酒を詰め込んであげるけど、
苦情は受け付けないからね!」
タクトから迸る稲妻。
フリードリッヒの持つ酒ビンにワディワジを放つ。
それを受けた酒ビンからは液体が噴出しフードの男の口元に迫る。
刹那、凍えた風が切れ味の良い刃物の鋭さで顔を切りつけてきた。
冷たいのも痛いのも通り越し、逆に熱く痺れたような衝撃でルナの頬を叩く。
いつのまにか雪は降りしきっている。
まだ昼だというのに視力を支える光の絶対量そのものは夜のそれに近かった。
墨を溶かしたような黒い空間をその純白の粒で埋め尽くそうとするように
雪は激しく狂おしく乱れ舞っている。
「…これってなんかやばくない?」
どんどんと降り積もってゆく雪が足に重い。
一呼吸ごとに喉を焼く冷気。
「このままじゃパーティーに行けなくなちゃう!下手したら寮にも帰れなくなっちゃう。
みんな、はやく学園に帰ろう!フリード、あなた寒い国出身なんでしょ?なんとかしてよ!」
ルナはいち早く学園に戻ることを選択する。他にも選択肢はあるかも知れない。
リリィとエンカの手を握って無理やり引っ張ってゆく。が、その手は氷のように冷たかった。
皆の頭上、吹雪の奥、漆黒の空から無数の馬の嘶きが聞こえたような気もした。

53 :
>48>49>51
> 「……え、えっと、がんばって」
ルナの返答はそっけないものであった。
シャイなのかな?エンカがそう思った時、
> バァンッ!!!
突然喫茶店の窓からそんな音がした。
「な、なんだぁ!?」
外を見ると男が一人、窓に爪痕を残しながら倒れこむ様子が見えた。
その傍で、その男に瓶のようなものを手渡そうとしている美少年にエンカは見覚えがあった。
フリードだ。
>52
> 「あんたたちなにやってるの!?」
エンカもルナに続いて外に出た。
「穏やかじゃあねーよなーっ!この文明開化の世の中に、行き倒れなんてよーっ!」
謎の男の介抱はどうやらフリードとルナの二人がしているようだ。
エンカは謎の男が窓に残した爪痕をそっと撫で、その深さを確かめる。
「…こいつぁ、くせぇ。トラブルの匂いがプンプンするぜ」
トラブルは間もなくやってきた。
まだ昼だというのに空は暗くなり、激しい風雪がエンカ達を襲う。
「おいおい、早速かよ!?スノーボーダー大歓喜なこの大寒気!
 虎が震えるほどのこの冷気は、まさにトラブルだぜ!」
> 「このままじゃパーティーに行けなくなちゃう!下手したら寮にも帰れなくなっちゃう。
> みんな、はやく学園に帰ろう!フリード、あなた寒い国出身なんでしょ?なんとかしてよ!」
ルナはそう叫んでリリィとエンカの手を引っ張った。
「じょ、冗談じゃねーぜルナちゃん!?俺もリリィもフリードと違ってパンピーなんだぜ〜!
 この吹雪の中を学園まで突っ切るのは、控えめに言っても無茶ってもんだぜ!
 安全な場所で吹雪が過ぎるまで待つかよぉ、
 テレポートとかそういう安全に移動できる手段を考えた方がいいんじゃねぇか〜?」
エンカはそう提案した。はたしてそう都合よくいくだろうか?

54 :
>「じゃーん!」
満面の笑みで、ルナは手に入れたペンダントを見せてくれた。
雪の結晶がついた首飾りは、ルナの手元で冷たい光を放っている。
>ルナは両手を首の後ろにまわして首飾りをかけてみた。
「わあ!すごく素敵!」
リリィは単純に喜んでいたが、なぜかルナの表情は冴えなかった。
(あ、パーティのこと思い出して、変に緊張しちゃったのかな?)
その時、入り口のドアが開き、男子生徒が店内に入ってきた。
>「な〜んか知った顔が手招きしてると思ったらよぉ、リリィじゃねぇか。
> 相変わらずマヌケな面しやがってよ〜」
「もー、さすがにマヌケはひどいんじゃない?エンカったら・・・・・・」
リリィは笑いながら振り返り・・・・・・・そして、そのまま固まってしまった。
エンカはリリィの変化に気づくことなく軽口を続け、そして親しげに初対面のルナに話しかけている。
顔にワイルドな傷を持つエンカに話しかけられ、ルナは少し戸惑い気味だった。
普段なら間に入って二人の自己紹介をするところなのだが、あいにく今は、自分の考えで頭がいっぱいだった。
彼女の動揺の原因は、エンカの顔にあった。
エンカの顔に走る三本の傷は、どう見ても人間の手によるものではない。
猛獣か、獣人か、あるいはそれ以外の何かよって刻まれたものだ。
そしてリリィには、彼に傷をつけたものに心当たりがあった。
召喚主と同じ嗜好であるため、エンカ(の左手だけ)をこよなく愛する、キラー・チューンという名の悪魔だ。
キラー・チューンは以前、エンカの左手を手に入れようと目論んだが、紆余曲折の末没収され、エンカの腕に戻された。
だが、召喚主と正式な契約を結んでいなかったキラーチューンは、そのまま拘束を振り切り逃亡してしまった。
彼女は、去り際にこういい残していた。
>『馬鹿な奴らめ。今ここであたいを消しておけば良かったものを。あんた達をいつか全員血祭りにしてやる。
> それまで…あたい以外の誰にも殺されるなよ?』
あれからずいぶん時間がたっている。
キラー・チューンが態勢を立て直し、再びエンカを襲撃していてもなんら不思議ではないのだ。
だが、初対面のルナの前で、エンカの顔煮付けられた傷を問い詰めるのも憚られた。
だからリリィは、テレパシーを使うことにした。
内容はこうだ。
『エンカ、その顔の傷はどうしたの?まさか、またキラー・チューンに襲われたんじゃ・・・・・。
 あ、でも、左手はちゃんと残ってるから違うか。
 別に、憧れのスフィンクスと生活してるなら、それで良いんだけど』
もしもキラー・チューン絡みなら、リリィにも事情を聞く権利はあるだろう。
なにせキラーチューンの血祭り予定リストには、リリィの名もはっきり記載されているのだから。

55 :
> バァンッ!!!
突然喫茶店の窓からそんな音がした。
>「な、なんだぁ!?」
ギギギギ、と窓を爪で引っかく音がした。
ひいい、と耳を押さえていると、窓を引っかいていた人物が消えた。倒れたのだ。
『後でいいから、話、ちゃんと聞かせてね』
ルナとエンカが外へ飛び出していった。
リリィも続きたかったのだが、代金を払っていたため、外の出たのはルナが魔法を唱えた後だった。
リリィはフリードが手に持っていたビンを見るなり、
「やだルナちゃん、それ、ホントに飲ませちゃったの?
 フリード君ったら、またそんな高いお酒を水代わり・・・・・ゴホッゴホッ!!」
凍った風を胸いっぱい吸い込んでしまったリリィは咽てしまった。
>「…これってなんかやばくない?」
「すごい吹雪。冬ってこんなに寒いものだったのね」
>「このままじゃパーティーに行けなくなちゃう!下手したら寮にも帰れなくなっちゃう。
>みんな、はやく学園に帰ろう!フリード、あなた寒い国出身なんでしょ?なんとかしてよ!」
ルナは、リリィとエンカの手を握って無理やり引っ張っていこうとする。
「え、あ、ルナちゃんちょっと待ってよ。どうしたの?なんか変だよ」
>「じょ、冗談じゃねーぜルナちゃん!?俺もリリィもフリードと違ってパンピーなんだぜ〜!
> この吹雪の中を学園まで突っ切るのは、控えめに言っても無茶ってもんだぜ!
> 安全な場所で吹雪が過ぎるまで待つかよぉ、 」
「そうだよ。それに、具合が悪くて行き倒れてる人がいるのに。
 フリード君だけに全部押し付けて、私達だけ立ち去るなんて出来ないよ。
 この人見たところこの街の住人って感じじゃないし、家を持ってるって感じじゃなさそう。
 宿屋かどこかで休ませてあげたらいいのかな?」
> テレポートとかそういう安全に移動できる手段を考えた方がいいんじゃねぇか〜?」
「外出許可証出してるから、待ってたら学園の保有する乗り合い馬車に乗れるかもしれないね」

56 :
>50-55
>「やだルナちゃん、それ、ホントに飲ませちゃったの?
 フリード君ったら、またそんな高いお酒を水代わり・・・・・ゴホッゴホッ!!」
「まあいいじゃないですか命でお金は・・・・もといお金で命は買えないんですよ
 こんなものでこの人の命が助かるなら安いものです」
『急性アルコール中毒で死んだら笑うけどね』(猫語)
>「このままじゃパーティーに行けなくなちゃう!下手したら寮にも帰れなくなっちゃう。
みんな、はやく学園に帰ろう!フリード、あなた寒い国出身なんでしょ?なんとかしてよ!」
>『じょ、冗談じゃねーぜ    中略
 テレポートとかそういう安全に移動できる手段を考えた方がいいんじゃねぇか〜?」
『え?あの学園に通ってる時点で同類なんじゃないの』(猫語)
「移動手段?うふふふふ♪まぁかぁせぇてぇ♪てけててん♪ソリ!!」
物理的にありえない大きさのソリを懐から取り出すフリードリッヒ
まるで例の青タヌキの四次元袋のようだ
『で、それどうやって動かすの?』(猫語)
「気合と魔力と根性で」
超精神論だった
「まあごく一般的な何の変哲もないソリですが
 僕は雪の精霊さんと仲良しなのできっとたぶん自由自在に動くはずです」
『きっととかたぶんとか言わないでよ』(猫語)
>「外出許可証出してるから、待ってたら学園の保有する乗り合い馬車に乗れるかもしれないね」
「おお!その手がありましたか!!って乗れるのは僕たち学園の生徒だけでこの人は乗れないんじゃ?」
フリードはそのことが心配だった
「で、結局あなたはいったいどなたなんですか?」
とフードの男に尋ねるフリードリッヒ
「おっと人に名を尋ねる前に自分から名乗るべきでしたね
 僕の名はフリードリッヒ!フリードリッヒ・ノクターン!!
 またの名を氷結剣フリード!格好良いい二つ名を考える会、会員No2515011です」

57 :
>49>51-53
見るからに行き倒れの人物の前に、一人と一匹が立ちはだかる。
>「僕の国では水がすぐ凍ってしまうのでお酒を水代わりにうんぬんかんぬん」
「お、おお……?」
金髪の美少年が、酒瓶を手渡してくる。
震える手で男がその瓶を受け取り、口に運ぼうとした。
>「あんたたちなにやってるの!?」
>「穏やかじゃあねーよなーっ!この文明開化の世の中に、行き倒れなんてよーっ!」
そこに、二人の男女が駆けつけてくる。
どうやらそこの窓の傍にいた3人の内の二人であるようだ。
焦点の合わぬ目で見ると、随分とカッコいい化粧の少女に、いわゆる東方のマゲの頭の男子であるらしい。
>「(省略)この私が反転魔法であなたのお口にお酒を詰め込んであげるけど、
>苦情は受け付けないからね!」
そう言って少女の方が手のタクトを振ると、酒瓶から中身が飛び出し、なんと男の開いた口に押し込まれた!
「ガボッ!?ガボガボッ、ガボォ……!」
突然のことに反応もできず、為すがままに喉の奥へと押し込まれる酒!
彼は文字通り、酒に溺れる羽目となった。

58 :
>52-53>55-56
男が溺れている内に、粉雪は風を伴い吹雪となっていく。
日の光は彼らを射すことなく雪に散らされ、昼も夜と見紛うような暗さとなる。
後から遅れて出てきた少女を含め、4人が少しの間話し合ううちに男が幽鬼の如く立ち上がった。
>「で、結局あなたはいったいどなたなんですか?」
>とフードの男に尋ねるフリードリッヒ
>「おっと人に名を尋ねる前に自分から名乗るべきでしたね
> 僕の名はフリードリッヒ!フリードリッヒ・ノクターン!!
> またの名を氷結剣フリード!格好良いい二つ名を考える会、会員No2515011です」
美少年が名乗ると、男は体に付いた雪を払い、大きく息をついた。
「フー……助けてもらった感謝か、それとも酷い目にあった文句か、どちらを述べればいいんだろうか?
 ……まあ、助けてもらったのは間違いない事だ。とりあえずは感謝の意でも送ろう。ありがとう、とね」
一先ず乱れた服装を整え、改めて4人と向き合う。
「私はジェナス、テオボルト・ジェナス。残念な事に二つ名は無い。
 おっと、自己紹介だというのにフードも外さないのは些か失礼だったか」
そう言ってフードを脱ぐと、丁度雪を欺く白髪と赤い目の青年が現れた。
外見上は4人とは大きく変わらない年齢だろう。
「ええと、確か、学園の乗り合い馬車に乗るんだったかな?
 君達のお邪魔じゃあないなら私もついて行っても構わないだろうか、何せこちらには来たばかりで…」
言葉を切ると、自分の旅行鞄を持ち上げる。                      ...
「きっと私も乗れるだろう。なあに、心配はいらない。私は魔法学園の転入生らしいので。
 さて、その馬車は向こうにあるアレでいいんだろうか。5人も乗れるといいがね」
骨張った指で、吹雪の向こうの馬車を指す。
5人だけなら十分乗れるが、他にも多く人が乗るなら乗れるかどうかも怪しい大きさである。少なくとも見た目は。

59 :
>>53-56
>「じょ、冗談じゃねーぜルナちゃん!?俺もリリィもフリードと違ってパンピーなんだぜ〜!
 この吹雪の中を学園まで突っ切るのは、控えめに言っても無茶ってもんだぜ!
 安全な場所で吹雪が過ぎるまで待つかよぉ、
 テレポートとかそういう安全に移動できる手段を考えた方がいいんじゃねぇか〜?」
>「そうだよ。それに、具合が悪くて行き倒れてる人がいるのに。
 フリード君だけに全部押し付けて、私達だけ立ち去るなんて出来ないよ。
 この人見たところこの街の住人って感じじゃないし、家を持ってるって感じじゃなさそう。
 宿屋かどこかで休ませてあげたらいいのかな?」
「はあ?」
ルナは不機嫌になっていた。焦燥感に苛立ち。
はやくここから逃げなければ行けない。閉塞感から解放されたい。
そんな気持ちが胸を締め付けていた。それは自分でもわけのわからない感情だった。
>「外出許可証出してるから、待ってたら学園の保有する乗り合い馬車に乗れるかもしれないね」
>「おお!その手がありましたか!!って乗れるのは僕たち学園の生徒だけでこの人は乗れないんじゃ?」
「乗れないのならあなたの出したソリにでも乗っけたらいいじゃん。
馬車の後ろにヒモつけて引っ張ったら問題ないわよ」
ルナは見下した目でとんでもないことを言う。
>「おっと人に名を尋ねる前に自分から名乗るべきでしたね
> 僕の名はフリードリッヒ!フリードリッヒ・ノクターン!!
> またの名を氷結剣フリード!格好良いい二つ名を考える会、会員No2515011です」
フリードが自己紹介し、テオボルトとが答える。
>「きっと私も乗れるだろう。なあに、心配はいらない。私は魔法学園の転入生らしいので。
 さて、その馬車は向こうにあるアレでいいんだろうか。5人も乗れるといいがね」
「へー、テオボルト君も転入生なら問題ないわ。私の名前はルナ、よろしくね。
それじゃあ早速馬車に乗りましょうよ。ここにいたら凍え死んでしまうもの。
はやくあたたかいところへいきましょ」
ルナは馬車に乗り込んだ。
席に座ると両手をクロスしてガチガチと体を震わせる。
馬車のなかは暖かいはずなのにおかしい。
少しずつ魔力が吸い取られてしまう感じもする。
そして生徒たちは会話を始めた。エンカに対するリリィの問いや詳しい自己紹介など
その内容は様々だった。それを馬車の中でなんともなしに聞きながら
ルナは気分が悪いのを我慢していた。
しばらくして……
「さむい…」
瞼を閉じてころんと転がるルナ。
周囲の音が小さく聞こえる。意識が遠くなってきたらしい。
そのときだった。お馬の嘶き。後方から近づく蹄の音。巨大な影。
いつのまにか雄雄しい馬たちが馬車と並走している。
力強い胴体。大地を蹴る四本の脚。その躍動感には神々しささえ感じ取れる。
どん!体当たりしてくる馬たち。それは明らかに普通の馬ではない。
その体からは魔力を感じる。
おまけに天から駆け下りてくる巨馬。雷鳴のようの轟く嘶き。
それはガイステスブリッツ(霊的雷光)を纏いながら、
蹄で馬車の屋根を蹴り破らんと迫っていた。

60 :
>56
> 「移動手段?うふふふふ♪まぁかぁせぇてぇ♪てけててん♪ソリ!!」
> 物理的にありえない大きさのソリを懐から取り出すフリードリッヒ
「これに乗って学園まで帰るナリね!」
となぜか某サムライ型からくり人形風の口調になるエンカ。
> 『で、それどうやって動かすの?』(猫語)
> 「気合と魔力と根性で」
「じょ、冗談じゃねーぜ!?俺が一番嫌いな言葉は『気合と魔力と根性』で、
 次に嫌いな言葉が『だが断る』なんだぜーっ!」
結局ソリには乗らず、エンカ達は学園の乗り合い馬車に乗ることになった。
「やれやれ、これでくつろいで学園まで帰れるな。
 一時はどうなるかと思ったこのエンカ・ウォンが午後3時をお知らせするぜ」
チーン♪
>58
「ところで、お前転入生なんだって?俺はエンカ・ウォンっつーケチな野郎だけどよぉ」
エンカがテオボルトに話しかけた。
「転入してきて早々行き倒れるなんてよーっ、さい先良くねぇよなーっ!
 この学園の生徒はよぉ、もっとタフじゃねぇとつとまらねぇぜ〜。
 ま、このエンカさんをよく見習うことだな〜」
エンカは無駄に先輩風を吹かせた。
>54
「ところでリリィ、さっきのテレパシーの件だけどよぉ・・・
 やっぱりお前には隠し事できねぇよな〜。
 お前は俺の妹分みてぇなもんだしよ〜」
エンカはリリィの耳元で小声で囁いた。
「お前が考えている通り、この顔の傷はキラー・チューンにやられたもんだ。
 俺はあいつと仲良くしようとしているんだけどよぉ、なかなかあっちがその気にならなくってなー」
エンカはヘヘヘと笑った。
「そう心配そうな顔すんなよ、リリィ。あいつとはそのうち仲良くなれるさ。」
そう、うまくやれるさ。
エンカは声に出さずにつぶやいた。
>59
「お?寒そうだなールナちゃん。なんなら俺が体を温めるツボを押してやろうか?」
エンカは寒そうにしているルナにそう話しかけたが、
間もなく彼女は> 「さむい…」と一言だけ言って転がってしまった。
「お、おいおい。こいつぁ、マジでやばいんじゃねーのか!?」
とその時、どん!という音がして馬車が大きく揺れた。
動揺しつつも窓の外を見たエンカは、
いつの間にか自分達の乗っている馬車と並走していた馬達にこの時初めて気づいた。
「なんだあいつらー!?俺にもわかるくらい、あきらかにおかしな馬共だぜ!
 『馬によるトラブルだけにトラウマもんだ』なんてクダらねーこと言うつもりはねぇけどよーっ!」
再び馬が馬車に体当たりしてきた。
馬車が大きく軋み、車輪が悲鳴をあげる。
こんな力で何度もぶつかられては馬車がもたない!
「おい転入生!」
エンカがテオボルトに叫んだ。
「ここは汚名返上といこうぜーっ!あのおかしな馬共をよぉ、パパーッと魔法で追っ払っちまえよなーっ!」
次にフリードに叫んだ。
「馬車が壊れたら氷で修復を頼むぜフリード!俺は壊れた物を治すような魔法は使えねぇからなーっ!」
この時エンカは、天より駆け下りてくる巨馬の存在にまだ気づいていなかった。

61 :
>56-60
値段が高・・・・・じゃなかった、アルコール度数が高い飲み物を、苛ついたルナの魔法で強引に飲まされたフードの男性。
>「ガボッ!?ガボガボッ、ガボォ……!」
文字通り彼は酒に溺れかけた。
が、天候の急変のせいで周りに気づいてもらえなかった。合掌。
>「乗れないのならあなたの出したソリにでも乗っけたらいいじゃん。
>馬車の後ろにヒモつけて引っ張ったら問題ないわよ」
「・・・・・・・ルナちゃん?どうしたの?本当に変よ?」
リリィは戸惑った顔でルナを見つめ返した。
お店ではあんなに上機嫌だったのに、いったいどうしたというのだろう?
> 「移動手段?うふふふふ♪まぁかぁせぇてぇ♪てけててん♪ソリ!!」
学園の馬車に乗せてもらえないかもしれないフード男の身を案じ、フリードは巨大なソリを出現させた。
> 物理的にありえない大きさのソリを懐から取り出すフリードリッヒ
>「これに乗って学園まで帰るナリね!」
帰れるー!と、リリィは手をパチパチさせた。
> 『で、それどうやって動かすの?』(猫語)
> 「気合と魔力と根性で」
>「じょ、冗談じゃねーぜ!?俺が一番嫌いな言葉は『気合と魔力と根性』で、
> 次に嫌いな言葉が『だが断る』なんだぜーっ!」
「細かい事に気にすると人間のスコールが小さくなるの」
リリィは大真面目な顔でそう返した。
>57
リリィ達が今後どうするかについて話し合っていると、フード姿の男性は起き上がった。
とりあえず、飲み物を飲んで人心地ついたのかもしれない。
>「で、結局あなたはいったいどなたなんですか?」
フリードは紳士らしく、まず自分から自己紹介をした。
行き倒れていたフード姿の男性は、 ジェナス、テオボルト・ジェナスと名乗った。
フードを取ったテオボルトは、まるで雪の精のように真っ白だった。美少年フリードと並ぶと、なかなか壮観である。
エンカは学園の転入生と聞いて、早速先輩風を吹かせている。
・・・・まあ、街で行き倒れは恥ずかしいだろうと思った、彼なりの場の和ませ方なのかもしれないが。
>「きっと私も乗れるだろう。なあに、心配はいらない。私は魔法学園の転入生らしいので。
> さて、その馬車は向こうにあるアレでいいんだろうか。5人も乗れるといいがね」
「人数に合わせて中も広くなるから、大丈夫ですよ」
>「へー、テオボルト君も転入生なら問題ないわ。私の名前はルナ、よろしくね。
>それじゃあ早速馬車に乗りましょうよ。ここにいたら凍え死んでしまうもの。
>はやくあたたかいところへいきましょ」
ルナは早口でそう言うと、さっさと馬車に乗り込んでしまった。
(えーっ?!テオボルト君に、それだけ?)
リリィは、ルナが消えた馬車のドアとジェナスを交互に見た後、遅れて馬車へ乗り込もうとするジェナスに小走りで近寄った。
「えと、初めまして。テオボルトさん。私はリリィです。よろしくです。
 先ほどは手違いで溺れさせてしまってごめんなさい。ルナちゃんに悪気は無かったんです。
 で、でも!お酒、お強いんですね。良かったです!
 それからですね、私、さっきのお話聞いて思ったんですけれど・・・・・」
リリィは、ずっと動かしていた両手を開いた。
「また喉が渇いたら、雪を齧ったらいいと思うんです。良かったら、これどうぞ」
差し出されたのは、バターロールサイズの雪玉だった。

62 :
馬車に乗り込むと、3人がけでも十分過ぎる広さの座席が、向かい合わせになっていくつか並んでいた。
街に出かけていたらしきいくつかのグループが、座席の半分くらいを埋めている。
天井は意外と高く、中はストーブをたいているかのように暖かかった。
革靴に入った雪を払いながら、リリィはふと、先ほどのエンカとの会話を思い出していた。
エンカの顔の傷は、リリィが危惧したとおり、キラー・チューンがつけたものだった。
どうやら、エンカはキラー・チューンと「仲良く」したいらしい。
危ないことを!と、思わず怒鳴りつけそうになったが、
>「そう心配そうな顔すんなよ、リリィ。あいつとはそのうち仲良くなれるさ。」
そう言った時のエンカの表情を見てしまっては、それ以上何も言えなかった。
「・・・・・・わかった。じゃあ、何か力になれることがあったら、その時はちゃんと頼ってね。
 まあ、私じゃあんまり頼りにならないかもしれないけど」
リリィはため息をつくと、重い空気を振り払うように、がらりと表情を変えると
「でもエンカ、私が妹分ってのは無いわ。私の方が絶対大人っぽいもの。
 これからは親しみを込めて、リリィお姉ちゃんっ、て呼んでいいからね」と笑ってみせた。
>59
「ルナちゃん寒いの?私のマフラー使う?」
>「お?寒そうだなールナちゃん。なんなら俺が体を温めるツボを押してやろうか?」
だがルナは返事をせず、「さむい…」と一言だけ言って転がってしまった。 エンカは心配そうだ。
「もしかして風邪かな?そう言えば、さっきから様子がおかしかったし。
 辛いのかな。さっき触った手だって、すごく冷たかったのよね」
ルナの額に手を当てようとしたところで、どん!と馬車が大きく揺れた。
「な、何の音?」
>「なんだあいつらー!?俺にもわかるくらい、あきらかにおかしな馬共だぜ!
> 『馬によるトラブルだけにトラウマもんだ』なんてクダらねーこと言うつもりはねぇけどよーっ!」
「寒い寒いよエンカ!」
リリィも窓の外を覗き込み、驚く。馬車に併走した馬が、こちらに向かって体当たりをはじめたのだ。
ドン!と大きく揺れるたびに、車内からは悲鳴と怒りの声があがった。
「ていうか、あの馬本当におかしいよ!誰かに召還でもされてるの?何のために?!」
>「ここは汚名返上といこうぜーっ!あのおかしな馬共をよぉ、パパーッと魔法で追っ払っちまえよなーっ!」
>「馬車が壊れたら氷で修復を頼むぜフリード!俺は壊れた物を治すような魔法は使えねぇからなーっ!」
「・・・・・・あれ?エンカは?」
リリィは自分のコートでルナを包みながら、素朴な疑問を口にした。
が、そこまでだった。
雷鳴のような音が鳴った直後、馬車の天井から大きな風船が割れるような音がした。
強力な魔力同士がぶつかり、馬車の天井に張られていた魔法障壁が消し飛んだのだ。
電撃だけはどうにか相殺されたようだが、物理的な衝撃を阻むだけの力までは残っていない。
巨大な足で踏みつけられた天井は大きくゆがみ、空席だった後ろ側二つの座席が押しつぶされた。
今の衝撃で後輪が破壊されていれば、このまま走り続けるのは難しいだろう。
だが、この馬車は魔法の暴発の可能性がある生徒を乗せるためのものだ。
内部の安全装置は徹底している。
今の衝撃によって、行動不動になるほどの大怪我を負うような生徒は、まず出ないはずだ。
大穴からは、冷たい吹雪が容赦なく吹き込んでくる。
ルナにコートもマフラーも掛けてしまったリリィは、がたがた震え始めた。
寒すぎて言葉も出ない。
外にいる馬はどうなっただろうか?巨大な馬は?
馬車には教師も乗り込んでいるが、大穴を明けるほどの馬を一人で相手するには、少々荷が重いかもしれない。
また、走行距離から考えれば、彼らは今、学園からそう遠くない位置にいる。
この場に残るか、学園に逃げるか、早急に決める必要があるだろう。

63 :
>59-62
>「人数に合わせて中も広くなるから、大丈夫ですよ」
「ほう、それは凄い。まさしく魔法の所業、魔法学園にふさわしいな?」
外見上は普通の馬車であるが、その辺りは流石に学園所有の馬車と言うべきか。
珍しげにとくとくと眺めて、感心していた。
>「へー、テオボルト君も転入生なら問題ないわ。私の名前はルナ、よろしくね。
>それじゃあ早速馬車に乗りましょうよ。ここにいたら凍え死んでしまうもの。
>はやくあたたかいところへいきましょ」
女子生徒、ルナは随分と冷たく言うと、返事も聞かずにさっさと馬車に乗りこんでしまった。
その態度に思うものがありつつも、テオボルトは自分が何かすることもないと判断を下す。
とりあえずは自分も後に続いて乗り込もうとすると、もう一人の女子生徒が近寄ってきた。
>「えと、初めまして。テオボルトさん。私はリリィです。よろしくです。
> 先ほどは手違いで溺れさせてしまってごめんなさい。ルナちゃんに悪気は無かったんです。
> で、でも!お酒、お強いんですね。良かったです!
> それからですね、私、さっきのお話聞いて思ったんですけれど・・・・・」
>リリィは、ずっと動かしていた両手を開いた。
>「また喉が渇いたら、雪を齧ったらいいと思うんです。良かったら、これどうぞ」
>差し出されたのは、バターロールサイズの雪玉だった。
雪玉を見て、テオボルトは苦笑を浮かべる。
「こちらこそよろしく。そしてご厚意はありがたい……が。
 雪を食べてもかえって喉が渇くと聞いたことがあるのでね?その雪は遠慮しよう。
 なあに、先の酒でいくらか元気は出た。学園に着くまでなら我慢も出来る、心配ご無用」
そう言って、今度こそ馬車に乗り込んだ。

64 :
>「ところで、お前転入生なんだって?俺はエンカ・ウォンっつーケチな野郎だけどよぉ」
>「転入してきて早々行き倒れるなんてよーっ、さい先良くねぇよなーっ!
> この学園の生徒はよぉ、もっとタフじゃねぇとつとまらねぇぜ〜。
> ま、このエンカさんをよく見習うことだな〜」
先輩風を吹かすエンカに、それならとばかりにテオボルトはフンと鼻息を鳴らす。
「体の頑丈さなら些か自信はあるのだがねぇ。どうにも燃費が悪いのだよ、燃費が。
 まあ、幸い頼りになる先達も居ますので。その姿を見てよ〜く勉強させていただきましょうかね、エンカさん?」
少し厭味ったらしい煽りである。言い終えて一瞬間を開け、プッと吹き出す。
テオボルトなりの冗談の言葉だったのだ。エンカがどう思うかは知らないにしても。

さて、馬車の中で談笑している内に、ルナがさむいと一言呟き横になる。
エンカやリリィが心配していると、突如馬車が何かにぶつかられたように大きく揺れた。
原因は先ほどから横で並走していた、怪しげな馬だったらしい。
テオボルトは座ったまま腕を組み、呑気に窓の外を眺めている。
「うーむ、何だあの馬。送り狼ならぬ送り馬かと思ってたんだがなぁ……」
的外れの想像に気落ちし、ため息をついた。
再び馬が体当たりし、再び馬車が揺れる。
今度は車体や車輪の軋む音が聞こえてきた。
皆がこのままだと拙いと感じ始め、車内は混乱の様子を呈してきた。
>「おい転入生!」
>エンカがテオボルトに叫んだ。
>「ここは汚名返上といこうぜーっ!あのおかしな馬共をよぉ、パパーッと魔法で追っ払っちまえよなーっ!」
「うん? 私か? 転入生たる私よりも、先達たるエンカさんがやるべきではないですかね?」
先ほどと同じく厭味を返し、しかし、何とかするべく馬車のドアに手をかける。
「ああ、そうだ。誰か私のカバンを見ておいてくれ。大したものは入ってないがね」

65 :
その時、風船の割れるような音に続け、後ろから馬車が破壊される音が聞こえた。
流れ込んでくる冷たい空気に逆らい後ろを向くと、押しつぶされた座席が見える。
「問題は上にもあるというわけか。どれ、どういうことだ?」
ドアを開いて空を見上げると、灰色の雲の下で雷光を伴う巨大な馬が空を駆けていた。
あの巨体で馬車を攻撃されれば、確かにたまったものではないだろう。
「ええい、このままだと学園まで持たないな。まずは横から片付けるぞ」
片手で馬車につかまり、並走する馬達に違う手を向ける。
「稲妻の餌食となるがいい!『サンダー・ボルト』!!」
掌から放たれた雷は見事に大方の馬達を貫き、痺れさせて転倒させた。
すぐさま上を向き、懐から小さな杖を取り出して巨馬へと向ける。
「電撃は効きそうに無いしな。仕方ない、気絶しててもらおう!『ステューピファイ』!」
杖先から赤い閃光が迸り、巨馬に突き刺さる。
……が、効果は全く無いらしく、身動ぎ一つもせずに駆け続けていた。
「……ダメだ、私じゃあ手の施しようがない!」
そう叫ぶなり、すかさず馬車を牽引する馬へと飛び乗る。
同時に、巨馬が再び馬車を踏みつぶした。

66 :
ぜー……ヒュー……という不自然な呼吸音が学園女子寮廊下を移動していく。
口元からあふれる灰色の息は随分と色が薄く、石化効果はほとんどない。
それを見てササミは止まり木から飛び立ち、移動し始めたのだ。
目的地は学園第三食堂。
学園の縁に位置するこの第三食堂は女子寮から通路を伝い直接学園内へとつながる位置にある。
故に登校前の忙しい時間帯にテイクアウトされていく光景がよく見受けられる。
だが大食堂に比べれば規模は小さく、特に今日のような日には利用者もまばらである。
だからこそ、ササミは第三食堂へと来たのだ。
近い、通路内にある、そして利用者が少ない。
今の状態ではあまり人の多い所にはいきたくなかったからである。
「お、おばちゃん。ステーキセット、レアで一つ頼むがね!あと味噌煮込みうどんも」
カウンターに齧りつくようにして注文を済ませる。
ササミの持論であるのだが、病気の時こそ病気に対抗するためのエネルギーが必要である。
だからこそ、栄養価が高い食料を大量に摂取するのだ!
消化や吸収を考えておかゆにする、などという選択肢は存在しないのだ!
カチカチと七つの歯から音を奏でながら運ばれてきた料理に天を仰いだ。
すっかり風邪をひき食欲のない今のササミにステーキセットやグツグツと音を立てる味噌煮込みうどんはあまりにも重すぎる。
しばらく天を仰いだのちに覚悟を決めると手袋が7対浮かび上がり、七つの顔で一斉に食べ始めるのだ!

数分後……
汗だくになりながらも何とか完食したササミは窓の外を眺める。
窓に張り付いた雪や荒れ狂う吹雪で視界はすこぶる悪い。
その吹雪は雲の中で見た雪の巣と遜色のない荒天。
「これは凄いがね。雪というのは魔力と熱を奪うような力をもっとるんやねえ」
血の滴るようなステーキと煮えたぎるような味噌煮込みうどんを食べた直後なので、体は熱いが体調不良なのは紛れもない事実。
寒風と雪の力をしみじみと思い浮かべていた時、ササミの超視力は吹雪の向こう側の異変を捉えていた。
馬車に体当たりし、伸し掛かる巨大な馬たち。
発せられる紫電と赤い閃光。
「な、なんだぎゃ!?」
尋常でないその光景にササミは立ち上がり窓に張り付いて目を凝らす。

67 :
>62>65
「上から来るぞ!気をつけろーっ!!」
後部座席の天井に大きくあいた穴から風雪が吹き込んでくるのを見てエンカが叫んだ。
普段のエンカならばこういった明らかに危険な匂いがするものには近寄らないだろう。
しかしふと、がたがたと震えるリリィを見たエンカは、先ほどまでの彼女とのやりとりを思い出した。
> 『でもエンカ、私が妹分ってのは無いわ。私の方が絶対大人っぽいもの。
>  これからは親しみを込めて、リリィお姉ちゃんっ、て呼んでいいからね』
(ちんちくりんのくせに生意気いいやがってよ〜。
 ここは男らしいところの一つや二つ、見せつけてやんねーとな〜)
エンカは馬車の天井にあいた大穴をよじ登って、屋根の上に出た。
「なんだあの巨大な馬はーっ!?」
空を駆ける巨大な馬は、再び馬車に攻撃をしかけるべく戻ってくるようだ。
> 「稲妻の餌食となるがいい!『サンダー・ボルト』!!」
テオボルトが馬車と並走していた馬達を雷の魔法で一蹴する。
「おおーっ!やるじゃねぇか、転入生!ちったぁ見直したぜ!」
次にテオボルトは懐から取り出した小さな杖で、
巨大な空飛ぶ馬に赤い閃光を放ったが効果は薄いようだった。
余談だが、以前エンカは同じ魔法をとある魔女からくらったことがあるため、
その魔法が力不足ではないということは十分理解していた。
> 「……ダメだ、私じゃあ手の施しようがない!」
「どうやら簡単な相手じゃあなさそうだな…
 だが安心しな転入生!あの巨大な馬はこのエンカ・ウォンが直々にぶちのめす。
 裁くのは俺の悪魔だ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
エンカのまわりの空気が震え始め、ピリピリとしたプレッシャーがあたりを包み込む。
エンカの傍から何かが出ようとしている。その瞬間!
「……………!??」
何も起こらなかったのだ。張り詰めていた空気はいつの間にか消え去り、
エンカの顔に刻まれた傷跡から、たらりと血がしたたり落ちる。
そして、巨大な馬の攻撃は止まらない。
「イ゙ェアアアア!?」
馬と接触したエンカは激しく真上に吹き飛ばされた。
おそらく、馬の眼中にはエンカなど入っていなかったに違いない。
再び馬車を踏み潰した際、たまたまそこにあった障害物といった程度の認識なのだろう。
エンカを一瞥することもなく、ひたすらにその目的を果たそうとしている。
馬車の上から弾き飛ばされたエンカは深く積もった雪の上にそのまま投げ出された。
幸い厚くつもった雪がエンカの体を優しく受け止めてくれたが、
やはりそれ以前に受けたダメージが深刻なようだ。
「……どうして…俺の言うことを聞いてくれなかった……?」
エンカは見えない何かにそうつぶやきながら天を仰いだ後、そのまま気を失ってしまった。

68 :
馬車と並走していた馬たちはテオボルトのサンダーボルトで次々と打ち倒された。
雪原に転倒した馬たちが無数の雪煙を巻き上げる。
と同時に巨馬の咆哮。それは明らかに怒りを孕んでいた。
>「電撃は効きそうに無いしな。仕方ない、気絶しててもらおう!『ステューピファイ』!」
馬車馬の上でテオボルトが杖を振る。赤い閃光がきらめく。
巨馬の冷徹な双眸は彼を捕らえていた。自分の分身たる馬たちを屈辱的に打ち払ったテオボルトの姿を。
猪突しながら巨馬は眼前に青白い光球を出現させる。そして再び咆哮。
すると上に向けて放たれたそれは漆黒の空で弾け四散し、降り注ぐ稲妻となった。
無論、その稲妻の奔流はテオボルトへと降り注ぐのだ。
>「イ゙ェアアアア!?」
巨馬はテオボルトの生死を確認することもなくそのまま重戦車の如く馬車の屋根を押しつぶす。
テオボルトのステューピファイではほんの一瞬だけ巨馬を気絶させただけに過ぎなかった。
不運なのはその気絶したほんの一瞬の間に吹き飛ばされたエンカだろう。
巨馬はエンカを吹き飛ばしたことにも気付くこともなく、馬車に前足を突き刺すと、
とうとうその自重で、走る馬車を止めてしまった。
馬車の中で、リリィのコートに包まれたルナは震えている。
ぽたぽたと床に落ちる水滴。それは汗ではなかった。
よく見たらわかるだろう。氷の首飾りがとけ出していたのだ。
ルナの魔力を吸い、古の眠りから目覚めたそれは慟哭を始めていた。
それを感じた巨馬の顔には明らかに恐怖の色が現れていた。
巨体を揺らしながら馬車にできた穴に首をねじ込んでくる。
大口を開き、ルナの頭を噛み砕かんとしている。

69 :
>「馬車が壊れたら氷で修復を頼むぜフリード!俺は壊れた物を治すような魔法は使えねぇからなーっ!」
「任せてくださいこの馬車を立派なチャリオットに仕立てて差し上げますよ
 銀色に輝くチャリオットにね」
誰も魔改造しろとは言ってない
馬車の屋根を押しつぶす巨馬
「これは天井にスパイクを取り付ける必要がありそうですね」
普通に天井に空いた穴から攻撃呪文をぶっぱしたほうが早いと思われるが
フリードリッヒは天井の穴を塞ごうと呪文を唱え始める
天井の穴に首を突っ込みルナの頭を齧ろうとする巨馬
「フリージングニードル!!」
天井に刺をくっつけようと氷の針を放つフリードリッヒ
そのタイミングが重なりかなりスプラッタな状況になってしまったようだ
「す、すいませんこんなつもりはなかったんですが・・・・まあルナさんの命が助かったからいいとしましょう」

70 :
>「フリージングニードル!!」
>天井に刺をくっつけようと氷の針を放つフリードリッヒ

「!!」
ガチンガチンと歯をかみ合わせる音が馬車の中で鳴り響く。
間近でルナの髪が揺れている。馬の荒々しい鼻息は室内に空気の対流を巻き起こしていた。
巨馬の動きは止まっていた。
フリードが放ったフリージングニードルが巨馬の体と馬車の屋根を凍らせて固定したのだ。
しかし巨馬に氷のダメージはない。
ただ巨大な氷の華に囚われその鋭利な花弁にその身を突き刺され身動きのとれない状態。
馬車を捨て、脱出するには今しかないだろう。
拘束から逃れんと暴れる巨馬は、室内にきらきらと氷の破片を降らし続けている。
フリージングニードルの結界が破られるのも時間の問題だ。
いやそれ以前にリリィたちは気付くだろう。帯電した空気の焦げ臭いことを。
巨馬の眼前に出現した光の球がばちばちと稲妻を宿し始めていることを。
そう、彼らの行動は冷酷だった。目的のためなら人間の命など取るに足らないのである。
暗い吹雪のなか、馬車の窓からは小さな明かりが見える。学園の明かりだろうか。
その小さな光は林を額縁とし少し見下ろすような形で見えた。
いま馬車は少し傾斜のついた丘の上にいるのかも知れない。
それに雪に埋もれたエンカはどうなってしまったのだろう。
そして馬上のテオボルトは。
巨馬が極大電撃魔法を放つまでには数ターン要するらしい。
さきほどテオボルトに一撃放ってしまったため再びチャージするには時間がかかるのだ。

71 :
>63-65 >67-70
>「ああ、そうだ。誰か私のカバンを見ておいてくれ。大したものは入ってないがね」
「わかった!」
リリィは古びた旅行カバンを引き寄せると、ルナの隣に並べた。
持ち手に軽くひざを乗せ、カバンが動かないようにする。
その後馬車の後部が破壊され、車内には雪が吹き込んできている。
凍えたリリィはまともに話せる状態ではなくなった。以後の呼びかけはテレパシーになる。
ルナの顔色はどんどん悪くなっている。
『ルナちゃん、しっかりして。何で・・・・・こんなに衰弱するなんて、風邪にしたってさすがに変だわ』
リリィはぺちぺちとルナの頬を叩く。反応はない。
エンカはそんなリリィ達を一瞥すると、馬車の天井にあいた大穴をよじ登って、屋根の上に出た。
>「なんだあの巨大な馬はーっ!?」
空を駆ける巨大な馬は、再び馬車に攻撃をしかけるべく戻ってくるようだ。
>「ええい、このままだと学園まで持たないな。まずは横から片付けるぞ」
馬車の扉から大きく身を乗り出したテオボルトが、暗い外に向かって呪文を詠唱し始めた。
>「稲妻の餌食となるがいい!『サンダー・ボルト』!!」
ぱっと窓の外が明るくなり、風の音に混じって何かが倒れるような音がした。
>「おおーっ!やるじゃねぇか、転入生!ちったぁ見直したぜ!」
馬車の周りにあった馬らしき気配が消え、エンカが快哉をあげた。
が、まだ上空から何か大きなモノが迫っているのは、リリィでも感じ取れた。
>「電撃は効きそうに無いしな。仕方ない、気絶しててもらおう!『ステューピファイ』!」
>杖先から赤い閃光が迸り、上空の巨馬に突き刺さる。
>「……ダメだ、私じゃあ手の施しようがない!」
>「どうやら簡単な相手じゃあなさそうだな…
> だが安心しな転入生!あの巨大な馬はこのエンカ・ウォンが直々にぶちのめす。
> 裁くのは俺の悪魔だ!」
(悪魔?まさか・・・・・・)
天井の上にいる、エンカのまわりからピリピリとしたプレッシャーが伝わってくる。
リリィの脳裏に、羽根が生えたライオンの姿が浮かび上がっていた。
強く、ただ強く、傲慢で、自分を証明するためにエンカを夫に迎えようとしていた悪魔だ。
だが、張り詰めていた空気はあっけなく霧散した。
>「イ゙ェアアアア!?」
エンカの悲鳴が遠ざかっていった。
ほぼ時を同じくして、デオボルトが車内から姿を消した。
「------ !!」
リリィが声にならない悲鳴を上げた。二人とも、馬車から投げ出されたと思ったのだ。
リリィの混乱などお構いなしで、馬車に、巨大な蹄が再び突き刺さった。
馬によって馬車は強引に停止する。
>「これは天井にスパイクを取り付ける必要がありそうですね」
そういう問題ではないが、突っ込む気力もない。
大穴が開いた天井からは、巨大な馬の顔が見えた。
口から吐き出される息が、リリィ達の顔を撫でていく。
『こ、こっち来ないで・・・・・!!』
リリィはルナを抱きかかえ、じりじりと通路を後ずさりした。
リリィがルナの首に巻きつけていたマフラーが外れ、湿っぽい音を立てて床に落ちる。
馬は恐ろしい目でこちらをにらみつけると、大きく口を開いてリリィ達に襲い掛かった。
殺される!
思わず目を閉じるのと、フリードの魔法が発動するのは同時だった。
>「フリージングニードル!!」
>フリードが放ったフリージングニードルが、巨馬の体と馬車の屋根を凍らせて固定したのだ。
しかし巨馬に氷のダメージはない。
>「す、すいませんこんなつもりはなかったんですが・・・・まあルナさんの命が助かったからいいとしましょう」
>リリィは巨大な口からルナを引き離すと、グッジョブ、と言いたげに、ぐっと親指を立てて見せた。

72 :
『フリード君ありがと!助かった。この大きい馬が馬車の天井に縫い付けられているうちに、私たちも逃げよう!
 さっきの攻撃で、エンカとテオボルトさんが外に投げ出されたみたいなの!助けてあげて!
 私はその間に、ルナちゃんを外に連れ出すから』
リリィは解けたマフラーを拾ったが、ぐしゅっとした水の感触に眉をひそめる。
(何これ。何でルナちゃんの首に巻いていただけなのに、こんなにびしょ濡れなの?)
ルナが首に怪我をしたのかと思ったリリィは、あわてて首を確認し・・・・・・・・息を呑んだ。
(何よこれ?ルナちゃんのペンダント?!何で溶けかけてるの??)
リリィの脳裏に、喫茶店から今までのルナの行動が走馬灯のように浮かんだ。
ルナは明らかに様子が変だった。彼女らしからぬ言動、行動、そして突然の衰弱。
思い当たるのはこのペンダントしかない。
だけど、今は巨大馬の危機が差し迫っている。今は何か出来る状況ではない。
リリィはよろよろとルナをおんぶしながら車外へ出てきた。
『グレン、テオボルトさんのカバンを運んであげて!・・・・・・え?無理じゃない!そこは努力と根性で』
馬車の窓から見えていた小さな明かりは、外に出るといっそう明るく輝き、リリィ達を誘っていた。
外に出てハッキリしたが、ここは光の方角に傾斜がついている。
先ほどフリードが出して見せたソリがあれば、何とかなるかもしれない。
『誰か来て!ルナちゃんの首飾りが変なの。もしかしたらこれ、カーズアイテムなのかも・・・・・』
リリィは呪いの可能性を口にしているのに、不用意にも首飾りを引きちぎろうと手を伸ばしている。
どうやら低体温で、相当思考が鈍っているようだ。

73 :
>67-72
テオボルトが馬上に出ると同時に、巨馬もまた行動を起こしていた。
青白い光球を咆哮と共に空へと繰り出し、弾けた光球は稲妻となって彼に襲い掛かる。
「ぐわあああああああああっ!!?」
咄嗟の事に反応も出来ず、その身を雷に貫かれた。
馬に雷を落とした彼が、馬に雷を落とされるというのは何という皮肉であろうか。
エンカの魔法が不発に終わり、雪の中へと投げ出される。
同様にテオボルトもまた馬上から落ちて雪に埋もれた。
エンカは気を失ったようではあるが、片やテオボルトは辛うじて意識を保っている。
「……何の容赦もない、な。下手したら……死んでいた」
息も絶え絶えながら、ずりずりと馬車へと向かう。
ただの人間であれば即死していたであろう攻撃に耐えたが、体の状態は全く持って酷い。
雷の凄まじい電圧を掛けられた身体はあちこちが酷く火傷を負っている。
加えて痺れも残っているにも関わらず動く彼は、ただの人間であれば奇跡的だろう。
馬車に手をかけ、体を支えて立ち上がったところで、テレパスが聞こえた。
>『誰か来て!ルナちゃんの首飾りが変なの。もしかしたらこれ、カーズアイテムなのかも・・・・・』
「何……? どういう……ことやら……。事態の原因は……それなのか?」
疑問を浮かべど、それよりもバチバチという音と窓やドアから漏れる光の方も危ういとしか言いようがない。
少し逡巡してから、馬車から離れたリリィ達へと握りしめていた杖を向ける。
「おい!……その首飾りとやらを……こちらに向けろ!私が……破壊する!!」
雷系統の魔法では間違いなくリリィ達まで巻き込む。
先の気絶呪文であれば、閃光自体にパワーを持つ。そのためペンダントを破壊できるかもしれない。
巨馬が電撃を放つ前に、リリィがこちらにペンダントをしっかり向けていようがいまいが、それに照準を定める。
「『ステューピファイ』!!」
大量の魔力を込めた閃光が放たれた。

74 :
「なんだがねありゃあ……げふっげほっ」
吹雪の向こう側に稲光が煌めき雪煙が立ち上がる。
それを見たササミの前身の毛が逆立った。
思わず叫んだ後に急き込んでしまったが、そこで倒れるわけにはいかない。
腰につけたリリィのおさげが告げている。
そこにリリィがいる、と。
そして危険にさらされている、と。
ただの勘ではあったが、それはササミにとっては確信も同然。
枝分刀を無数に分裂させ自分の前に円錐状に展開させ飛び立った。
轟音と共に第三食堂の窓が砕け散ったのは、既にササミが学園敷地外へと飛び出した頃であった。
円錐状に展開した枝分刀が吹雪を切り裂くように蛇行する。
食事をしたとはいえ変わらず風邪をひいており、熱で苦しむササミはまっすぐ飛ぶことができないでいたのだ。
こまめに修正だを利かし、蛇行しながらも目的物へと向かう。
目的は雪に埋もれたエンカである。
風邪で喉をやられ怪音波も出せない、すなわち、枝分刀に超振動による切れ味を与えられない。
第三食堂の窓を斬らずに突き破ったのもその為なのだ。
尤も風邪でなくともこの吹雪では怪音波は拡散してしまい効果を期待できなかっただろう。
つまりはササミには武器が必要だったのだ。
通りすがりに速度を落とさず野兎を狩る猛禽類のように右足で雪に埋まったエンカの足首を掴む。
エンカを引き抜いたまま馬車の扉を打ち破り、中へと滑り込んだ。
先ほど巨馬が放った極大電撃魔法は周囲の磁場を狂わせていた。
本来磁力はササミの平衡感覚を奪うのだが、こと風邪をひいて既に平衡感覚が失われている状態ではかえって正常に作用させる役割をなしていた。
故に高速で雪に埋もれたエンカを掴み、場所の扉を違うことなく打ち破れたのだった。
が、既に場所の中は無人で、反対側の開け放たれた扉からリリィとルナの姿が見えた。
上には氷の華で固定された巨大な馬の首と稲妻の光球!
このまま放っておくわけにはいかない!
氷によって動けないとはいえ追撃されることは必定なのだから!
「かあああ”あ”あ”っぅぇっあっあ”!!!」
天井の巨馬を見据え、威嚇するような声と共に回し蹴りを放つのだ。
正確に言えば足で掴んだエンカを巨馬の鼻っ面に叩きつけたのだ。
ダメージを期待したわけではない。
術の行使中にその集中力を乱されるようなことがあれば……魔法使いならば誰でも知っている。
そのままエンカを引きずり反対側の扉から飛び出していく際
「行きがけの駄賃だがね。ナニモンかは知らんけど死にくさりゃーせや!」
稲妻の光球に幾本もの枝分刀が突き刺さしていった。
枝分刀の刀身は水晶でできており、水晶に電気を流すとクォーツ振動を始める。
術者の集中力を乱し、形成中の雷球を複数の振動でかき乱せばあとは自爆するのみ!
爆発を起こす馬車を背に、リリィの下へと辿り着いた時にはテオボルトが赤い閃光を放つ直前だった。
尖塔からいつも学園生徒を観察しているササミではあるが、転入生で今日来たばかりのテオボルトの顔までは知ろうはずもない。
前後の事情を知らずこの場面だけ見れば攻撃者でしかないのだ。
「や・・・ややらぜやぜんがね!!!」
ガラガラな声で叫び枝分刀をかざしてステューピファイを受け止めた。
状態が閃光である以上、水晶のプリズム効果で虹色となって屈折しその軌道を変えるのだ。
閃光を防いだとはいえ、ササミとしても攻め手がない。
未だ状況の判っていないのに、ここで武器(エンカ)を投げつけるという愚は冒せはしない。
ならばすることは一つのみ。
「な、なんや知らんげど、無事やね。一旦逃げるなも!」
リリィとルナを抱え、エンカを足で掴み飛び上がろうとしたが、ついにエンカが雪から離れることはなかった。
よろよろっと飛び立つも、すぐに高度は落ち、雪原に着いてしまう。
抱えられたリリィとルナは気づくだろう。ササミの体温が異常に高い事に。

75 :
>73
テオボルトの背後では、バチバチという音とともに、窓やドアから光が漏れていた。
リリィのカーズアイテム発言と、背後の巨大馬。
本来なら巨大馬を優先するところだろう。
だが、リリィの切羽詰ったテレパシーに何かを感じとってくれたのか、テオボルトはルナを優先してくれた。
>「おい!……その首飾りとやらを……こちらに向けろ!私が……破壊する!!」
リリィは震える手で、ルナのペンダントをつかみ、テオボルトのほうへと向けようとした。
「・・・・・・・・・!!」
と同時に、冷たい手で心臓を鷲づかみされるような衝撃が走る。
(何これ・・・・・・まさか、ペンダント・・・の、せい・・・・・・?)
リリィは歯を食いしばると、残る力を振り絞ってペンダントを持ち上げる。
>74
テオボルトの背後の馬車内からは、怒号と轟音が二、三度響いた。
その後破壊音とともに、何かが飛び出してきた気配。
例の巨大な馬ではない。
では、まだ馬車に残っていた誰かが、巨大馬と戦っているのだろうか?
(・・・・・・・誰か?誰かって、誰?)
ぼうっとした頭でリリィはそんなことを考えていた。
今にも意識が飛びそうだが、テオボルトも満身創痍で、ルナも動けない。
消えたエンカのことも気になる。無事だろうか?
フリードがもし怪我していなかったとしても、この場にいる全員の面倒をグレンと二人(?)で見るのは骨だろう。
ルナのペンダントを破壊し、馬から逃げ切るまで、リリィも倒れるわけには行かないのだ。
テオボルトの杖先から赤い閃光が迸り、まさにペンダントに直撃すると思われたその瞬間!
>「や・・・ややらぜやぜんがね!!!」
聞き覚えのない声とともに飛び込んできた黒い影が、枝分刀をかざしてステューピファイを受け止めた。
(え?・・・・・・・何?まさかササミちゃん?!)
一瞬誰だかわからなかった。
が、わしっと抱えられたとき感じた、大きく柔らかな弾力に、ああ、ササミちゃんだだなと確信する。
>「な、なんや知らんげど、無事やね。一旦逃げるなも!」
>リリィとルナを抱え、エンカを足で掴み飛び上がろうとしたが、ついにエンカが雪から離れることはなかった。
>よろよろっと飛び立つも、すぐに高度は落ち、雪原に着いてしまう。
ササミの様子がおかしい。それに熱い。声も変だ。
変だとは思ったが、頭の芯まで凍えきったリリィの中で、まだ全部が結びついていなかった。
それよりも、まず優先しなければならないことがあったからだ。
この状況では、テオボルトはどう考えても攻撃者にしか見えないだろう。
そしてササミは、敵には容赦ない。今テオボルトに問答無用で枝分刀を叩き込まなかったのは幸運だったくらいだ。
『違・・・・・・この人・・・友達・・・・・敵・・・・・馬・・・・・』
テオボルトとササミに呼びかけようとして、リリィは顔をゆがめた。
テレパシーを送るための集中も、そろそろおぼつかなくなってきた。
リリィは意を決し、目を閉じてササミの胸元の顔に、自分の額を押し付けた。
ササミが抵抗しなければ、彼女は心のガードを解き、今までの自分の記憶をそのまま直接流し込むだろう。
リリィが過去体験したことを、ササミは見ようと思う分だけ見られるはずだ。
運がよければ、テオボルトが敵でないことも理解してくれるかもしれない。
ただ、問題は、リリィが掴んだままのペンダントだ。
彼女はササミだけでなく、ペンダントに対しても完全に無防備になるだろう。

76 :
「僕はね、風景を求めてるんだ」
と言って、夢見石の少年は微笑んだ。
ベッドの上だった。
肌触りの良い毛布と柔らかい大きな枕。
快適に暖められた室温。
一方で、対照的に外は大吹雪だった。
少年のうすく開いた目は、窓の外に爆炎の華を捉える。
「ふふふ、自分が身を置くべき風景。
その中にいて、この僕という存在の意味をもっとも実感できるそんな風景。
原風景とでも言ったらいいのかな。そう、そんな風景を僕は探している。
それは忘れてしまった子どものころの記憶かもしれないし、
生まれる前の混沌の中で見たものなのかもしれない。
……ねえ、先生はわかってくれるかい?」
保険医は困った顔をしながら赤いルージュの唇を窄めた。
頬がもごもごと動いている。キャンディーを頬張っているらしい。
「なんだろう…、僕と似たようなものが外にいる。
……魂が共鳴している。人じゃないものが近くにいる」
※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※
大爆発。
巨馬はササミの奇襲によって仰向けにひっくり返った。
大地が震える。しかし次の瞬間、その巨体が嘘のように素早く起き直った。
その両眼は怒りで燃えている。視線の先にはササミ・テバサコーチン。
彼女は巨馬の怒りを買ってしまったらしい。
ただ、問題は、リリィが掴んだままのペンダントだ。
それはリリィの魔力を吸い、体温を奪い、氷の封印を自ら解こうとしていた。
何を隠そうルナの買った氷の首飾りの正体は「クロノストーン」
クロノスがタルタロスに落とされる前に、己の体から排出し、
禍々しい力を込めて世に放ったという狂気のカーズアイテムだ。
もともとはクロノスに喰らわれるはずのゼウスの変わりに食べられてしまった石である。
それは北風の神ボレアースによって氷の封印を受けたはずであったのだが
罷り間違ってアクセサリーショップで売られてしまっていた。
ペンダントに触れてしまっているリリィにはクロノストーンの記憶が流れ込んでゆくことだろう。
ゼウスと戦い敗れ、タルタロス(奈落)に落とされた屈辱などである。
ルナは薄れた自分を取り戻しながら、クロノストーンの記憶を語る。
「……この石、大昔にボレアースっていう神さまに氷の中に封印されてバラバラに砕かれちゃったみたい。
だからお返しにボレアースたちを馬の姿のままでいるように呪いをかけたの。
石はとんでもなく強力な力をもってるわ。だからいますぐに封印しなおさなきゃ…」
氷の首飾りの封印はどんどん解けつつあった。
リリィやルナ、そしてササミ。間接的でも触れている人間の魔力を吸って
復活を果たそうとしているのである。

77 :
>70-76
>『フリード君ありがと!助かった。この大きい馬が馬車の天井に縫い付けられているうちに、私たちも逃げよう!』
「言われなくてもすたこらさっさですよ!」
と扉をフリージングサーベルでぶった切るフリードリッヒ
”言われなくとも”のタイミングで刃のないサーベルを鞘から取り出し
”すたこらさっさですよ”のタイミングで斬る寸前に氷の刃を生み出し扉を切り裂く
一瞬馬車から手が飛び出し真剣白刃取りをしようとしたように見えたが気のせいだろう
難なく切り裂かれる
「この馬車を操っていた御者さんは・・・・・もうすでに地面に脱出してるみたいですね」
いいえ落ちただけです
>『グレン、テオボルトさんのカバンを運んであげて!・・・・・・え?無理じゃない!そこは努力と根性で』
いや重いから無理だってと首をふるグレンだったが仕方がないのでスペイザー(空飛ぶコタツ)の天板の上にカバンを載せる
>「『ステューピファイ』!!」
>「や・・・ややらぜやぜんがね!!!」
>「行きがけの駄賃だがね。ナニモンかは知らんけど死にくさりゃーせや!」
どうも様子がおかしいササミ
どうやらテオボルトを敵と勘違いしているようである
>「な、なんや知らんげど、無事やね。一旦逃げるなも!」
>『違・・・・・・この人・・・友達・・・・・敵・・・・・馬・・・・・』
「一時的な状況判断による行動は危険ですよ!
 年若き少女が常に善で巨漢の大男が常に悪とは限らないんですから!!」
もしかしたら悪漢と被害者の少女ではなく万引き少女と警備員かもしれないのだ
ルナの話によるとあの馬はボレアースという神が変化させられたものらしい
「大変です!あの馬は神様らしいんですって!
 これは伝説の武器チェーンソーでも用意しなくては勝ち目はありませんよ!!」
別に勝つ必要は無く生き残ればそれでいいはずである
『もしかしたらダブルクレセントハーケンなら・・・・・
 でも駄目だよ!神様殺したら永遠に天国に行く事も地獄に行く事も出来なくなっちゃう』(猫語)
たった猫缶十個でレンタルできるお手軽な神々の武器ダブルクレセントハーケン
だが神官の息子であるグレンは神殺しの罪だけはどうしても避けたいようだ
その時空から一枚の紙が降ってくる
そこには”死なない程度にボコればいいんじゃね?
     そんな事より猫缶プリーズby猫神パテスト”
とメッセージが書かれていた
『・・・・僕信者辞めようかな』(猫語)
あまりに適当な神のメッセージにちょっと不信感を抱くグレンであった
「そんな暴力でなんでも解決しなくても」
と言いつつフリージングフォールという呪文を唱えるフリード
その呪文は一種の召喚術であり
巨馬の頭の上に巨大な雪だるまを降らせるというものだ
人間だったらその質量で首が曲がってはいけない方向に曲がってしまうだろう
だが相手が相手なので牽制程度にしかならない
「あのペンダントを言われたとおりにもう一度封印すれば・・・・・」
だがフリードは結界師でも何でもないただの氷の魔法使い・・・・・氷に閉じ込めるぐらいしか封印の方法は思いつかない
はたしていかに封印するつもりなのか?
「氷の棺桶に閉じ込めてフィジル島の海にでも沈めてしまいましょう」
まるでギャングの制裁みたいな方法だった

78 :
なされるがままだったエンカが、ピクリと動いた。
彼は意識をもうろうとさせながら懐からクシを取り出し、
ササミに振り回された際に無茶苦茶になった自慢のヘアスタイルを整える。
そしてぶつぶつと何事かを唱え始めた。
「……我は、汝、悪魔を呼び起こさん。至高の名にかけて、我汝に命ず。
 あらゆるものの造り主、その下にあらゆる生がひざまずくかたの名にかけて、万物の主の威光にかけて。
 いと高きかたの姿によって生まれし、我が名に応じよ。
 神によって生まれ、神の意思をなす我が名に従い、現れよ。
 アドニー、エル、エルオーヒーム、エーヘイエー、ツアバオト、エルオーン、テトラグラマトン、シャダイ、
 いと高き、万能の主にかけて、汝、悪魔よ、しかるべき姿で、いかなる悪臭も音響もなく、
 すみやかに現れよ」
エンカが呪文を唱えても、やはり何も起こらなかった。
しかし、リリィの心には変化が起こったかもしれない。
そして、もしもササミがリリィの記憶を読めるのならば知識として知るだろう。
これはとある魔道書に書かれているプレイヤー(祈祷文)であることを。
その魔道書の名は『アナベル・ガトーの鍵』、悪魔召喚のための書である。
注意が必要なのは、この書に書かれている悪魔が、
現実に種族として存在する悪魔を意味しているわけではない点である。
人間には意識と無意識がある。
意識は無意識と比べればちっぽけな力しかないが、無意識には隠された大きな力が秘められている。
その無意識の持つ力こそが、『アナベル・ガトーの鍵』に書かれている“悪魔”なのである。
とある魔女はかつてこの魔道書を使って自分の心をアンロック(開錠)し、
凶暴なライオンの姿をした悪魔を召喚した。
そしてリリィは…
そう、彼女もこのプレイヤー(祈祷文)を唱えたことがあるのである。
そして彼女はその際に悪魔を召喚したと“錯覚”したと思っている。
“客観的な事実”として悪魔を召喚したことは無いと思っている。
あの日目の前に現れた、金髪で、美しい白いドレスをまとった女の悪魔は幻想だったと思っている。
しかしそれでも、“主観的な事実”が消えることはない。
目の前に現れた、顔だけが真っ暗になっているその悪魔の姿を忘れることはない。
魔法使いにとって本当に重要な“事実”はどちらなのか?
それをリリィが望むのなら悪魔は再び彼女の前に現れるだろう。
今のリリィの精神に、最もふさわしい形となって。
どうでもいいが。すこぶる、どうでもいいが。
エンカはヘアスタイルを整えた後、クシを懐にしまってから再び気を失ってしまった。
彼は何の役にもたたないだろう。

79 :
>74-78
爆発音が発される中、杖から放たれた赤い閃光が冷たい空気を貫きペンダントへと突き刺さらんとした。
その時!
>「や・・・ややらぜやぜんがね!!!」
「!?」
失神呪文は、空から舞い降りた何者かによって防がれた。
水晶の枝分刀を透過した閃光は、虹色の光と化して地面を彩るだけとなった。
防いだのは普通ではない容姿の女性。腰に翼をもち、体のあちこちにいくつもの顔が張り付いている。
>「な、なんや知らんげど、無事やね。一旦逃げるなも!」
そう言ってリリィ、ルナ、向こうにいたエンカを抱えて飛び去ろうとする……が、すぐに墜落した。
「く、化生か……! タイミングから察するに、首飾りの守護者のようなものか……?」
爆発する馬車から離れ、足取りは少々危ういながら、きちんと雪原を二本の足で歩く。
時間が経つにつれ、テオボルトの体は明らかに回復していた。人ではありえないほどの速さで。
途切れ途切れのテレパスと呟くようなルナの語り、それを伝えるフリード。
そして先ほどの女性に向かって走り出さんとする巨馬。
纏まらないどころか、先ほどは薄れかかった意識をなんとかせんとするテオボルト。
「(ダメだ、頭が混乱している。『首飾り』『巨馬』『神』『封印』『謎の化生』……! どうやって切り抜ける、この場面……!)」
冷たい空気を飲み込み、冷えたままの息を吐き出す。
「私には目的がある! それは『生きること!』『テオボルト・ジェナスが何者か』を知ることだ……!
 ゆえに、ここで死んでは元も子もない……訳の分からん馬や首飾り如きに阻まれる訳にはいかん」
再び杖を上げ――再び巨馬へと向ける。
テオボルトには記憶が無い。今ある記憶の原初は、一人で放浪していたところである。
古ぼけたカバンと僅かな貨幣、二、三の魔導書、魔法学園への書状。
少ない持ち物から自身を辿るため、彼は学園へとやってきた。
ほとんど唯一の手がかりといってよい学園への書状。自分が何者かわからない不安から逃れるために、やってきている。
「(今、大きな問題になってるのは『巨馬』と『首飾り』。
  生き残るだけなら逃げてもいいが……逃げたところで追ってこない保証はない。逃げ切れる確証もない。
  あの三人が動けない今、フリードとここで何とかするのが得策、か?)」
今ある魔力を根こそぎかき集めて杖先に集中させる。魔力はテオボルトの持つ雷の属性を帯び、バチバチと音を立てる。
「(そしてフリードは首飾りの傍! ならば首飾りはあちらに任せて、私は馬の相手をした方がいい……。
  馬には気絶呪文こそ効かなかったが、『切り裂き呪文』のような物理的な攻撃の方が効き目はありそうだ)」
杖先には暴走寸前まで溜められた魔力が、紫電が漏れ始めている。
この魔力で放たれる魔法は相当な威力が出るだろう。おそらくは、巨馬をも害しうるほどの。

80 :
猛吹雪のなか、巨馬の咆哮が冷え切った生徒たちの肺腑を貫く。
それはまさに魂までも凍らせるような恐怖の嘶きだった。
二本の前足を天に掲げ巨影は立ち上がる。
次の瞬間に雪原を疾駆しササミごとすべての命を奪うために。
リリィの持つペンダントにこれ以上魔力が供給されるのを防ぐために。
だがしかし
フリードの召喚した魔法の雪だるまが天から降ってきた。
巨馬は驚愕し前足でそのだるまを蹴り飛ばす。
空中で二つに割れた雪だるまは雪原に落ちるとゴロゴロと坂を回転、
更に巨大さを増しながらササミの胸に顔を埋めるようにしているリリィに迫る。
「きゃあああ」
ルナはリリィとササミを鷲づかむ。
誰かが彼女たちを守らなければ、それか自力でなんとかしなければ
新年早々、フィジル魔法学園はその長い歴史の幕を閉じるのだ。
巨大雪玉に押しつぶされてしまえばみんなおそらく死ぬだろう。
気絶しているエンカも、たぶん雪国育ちのフリードでさえも。
となれば残る者はテオボルトのみ。
巨馬は生き残るために必死なテオボルトの命を試してみたいと意識を集中させる。
すると開いた口から一本の巨大な氷の槍が生えてくる。
全身を硬く凍らせながらも巨馬はテオボルトの心意気に乗ったのだった。
そして、体内に凝縮された魔力で氷の槍を空気鉄砲のように打ち出すのだ。

81 :
吹きすさぶ吹雪の中、ササミは雪に膝をついていた。
風邪で体力が落ちているうえこの荒天ではリリィ、ルナ、エンカを抱えて飛ぶことは不可能だったのだ。
その背後では爆発のダメージもほとんどないかのように起き上がる巨馬を背中の目が捉えている。
目で見る以上に突き刺さる巨馬の怒りの波動を背で感じつつ、ササミは状況を理解した。
リリィが送ったテレパシー。
光線を放った男はフィジル魔法学園への転入生であり、原因と思しき首輪を破壊する為に攻撃しもので、自分が判断を誤りそれを台無しにしてしまったのだ、と。
これによりササミの中での相関図が大きく入れ替わる。
更にルナの語る首飾りと巨馬ボレアースとの関係を聞き、総毛だった。
「上等!!!どこの田舎神族かは知らせんけどお!世代交代のごたごたを勝手に持ち込んどる言う訳やがね!!」
白い息とともに吐かれるササミの気迫。
ササミは魔界では次世代魔王候補の一人である。
それはすなわち、次の世代での神々との戦いを担う事を意味する。
襲撃した巨馬もその原因を作った首飾りに封印された旧神も神々の敵対者であるササミにとっては敵なのだ。
とはいえ、ササミは高速機動戦を得意とするが、風邪と吹雪とリリィ、ルナ、エンカの三人を抱えそれができない。
逆にどこまでも不向きな拠点防衛を強いられる闘いとあっては勝機どころか逃げる事すら難しい。
この厳しい状況の中、ササミは即座にできる事を始める。
右手の顔が舌を噛み、大量の血を手袋に染み込ませてテオボルトへと飛ばす。
自分がまともに動けない以上、味方を増強する必要がある。
吹雪の中でも届と、痛んだ喉を振り絞りテオボルトに叫ぶ。
「事情は把握じだがね!再生酵素を含んだ血を染み込まぜた手袋やがら!傷口にあでるか飲むがじやーせ!」
手袋の血を得ればテオボルトの傷は癒えるだろう。
手袋を飛ばしていると、足元でエンカが櫛で髪型を整えていた。
「きづきゃーたか?使って悪いけど……?」
声をかけようとして様子がおかしい事に気が付いた。
まるでトランス状態での呪文詠唱のように、何かを唱える。
それが何かは、リリィのテレパシーによって繋がるササミにリリィの記憶として流れ込んできた。
アナベル・ガトーの鍵の祈祷文。
人の意識領域の更に下層にある無意識領域の力を引き出すもの。
それを知った時、ササミの脳裏には人の想いや願望、集団的無意識を具現化する夢見石の少年の姿が過った。
「あんた、それって……」
ササミの言葉は途中で途切れる。
エンカがヘアスタイルを整えた後、また気絶ししてしまったからだ。
これによりどういった変化が起こるかはまだわからない。
だが身に迫る危険はすぐ目の前に来ているのだから。
フリードが召喚した巨大雪だるまは巨馬の攻撃を止めてくれたが、蹴り飛ばされた雪だるまの片割れはこちらい向かってきているのだから。
しかも文字通り雪だるま式に大きくなりながら!
「フリード!ひろってちょーよ!って、ルナ!離しゃーせ!」
エンカを投げつけ、それをクッションとしてリリィを投げつける。
あとは雪上行動が得意そうなフリードに任せれば二人は巨大雪玉から回避できるだろう、という算段だった。
だが巨大雪玉にパニックを起こしたのか、ルナがしがみ付き投げられない!
「あ〜〜〜こうなったら一蓮托生だぎゃあああ!!」
本来ならば首飾りに選ばれたルナと神の敵対者であるササミだけでするつもりだった。
だがこうなっては仕方がない。
リリィの持つ氷の首飾りに寒さと熱で震える手を重ねる。
「神同士潰しあってりゃぁええがね!!!」
ササミは魔力を首飾りに注ぎ込む!
巨馬ボレアースの目的は首飾りの封印すなわちクロノストーンの欠片を封じること。
だったら封印を解き、勝手に戦っていてもらおうという事なのだ。
現状で巨馬ボレアースを自力で撃退ですることが難しい以上、利用できるものは利用するというわけだ。
とはいえ、神々の封印がそう簡単に解けるとも思っていない。
封印の綻びからクロノストーンの力の一部でも漏れ出て巨大雪玉でも壊してもらえれば十分なのだから。

82 :
フリードがペンダントの封印を提案している。
リリィの手はペンダントに張り付いたまま動かすことが出来ない。
せめてルナだけでもと思い、ペンダントをはずすよう伝えたかったのが、体力だけでなく魔力まで急激に低下したのではどうしようもない。
薄れていく視界で、エンカが起き上がったのが見えた。
彼は乱れた髪を整えると、独り言のように何事かを詠唱し始めるのを感じる。
(・・・・・・『アナベル・ガトーの鍵』の祈祷文?何で・・・・・・これを今?)
最後まで詠唱を聞き終える前に、リリィの意識は闇へと沈んだ。
気絶したリリィの体から、白い靄のようなものが立ち上り始めた。
それらは集まり、淡く発光しながら白いドレスを着た女の姿をとり始める。
金髪の女の顔は真っ暗で、大きな空洞になっている。
姿ははっきりしないようで、時々ノイズのように輪郭がぼやけた。
顔の無い女は、幽霊のようにササミとリリィにしがみつくルナの周りを浮遊しはじめた。
ササミは意識を失ったエンカをフリードに任せ、次にリリィも渡そうとしていたが、ルナにしがみつかれたため適わない。
幽霊のような白い女は、ササミがペンダントに魔力を供給し始めるのを見計らったように、けたたましい笑い声を立てた。
>「あ〜〜〜こうなったら一蓮托生だぎゃあああ!!」
そして、ルナとそのペンダントに両手をかざした。
白い女の手から、50センチ程の薄い六角形のガラス板としか見えないものが浮かび上がった。
それらは見る間に数を増やし、ルナ達の周りをくるくる周回し・・・・・背丈ほど巨大化した後、一気に圧縮される!
その時、気絶していたはずのリリィの頭が、だらりとルナのほうに覆いかぶさるように崩れてきた。
直後リリィは姿を消し、後には硬質なボール状の物体が転がっていた。
白いドレスの女は、「次はお前だ」とばかりにルナを指差す。
しかし、巨大馬とテオボルトとのバトルはともかく、流れ弾ならぬ巨大流れ雪だるまが来たのだからたまらない。
女はルナと雪玉を見比べるような仕草を見せた後、とりあえず雪玉を優先させることにしたようだ。
自分の周りに数え切れないほど六角形の物体を、雪玉が来る方向の地面へと放った。
六角形の物体は背丈ほどに膨れ上がり、壁状に変わった。
どうやら真っ向から雪玉を止めるのではなく、六角の板を並べることで進行方向へ介入し、直撃を回避するつもりのようだ。

83 :
>78-82
迫りくる巨大雪玉
「まさかこんな結果になってしまうとは…予想外です」
『言ってる場合じゃないよ!どうするの?』(猫語)
「自分だけ助かる手段ならいくらでもありますがそういうわけにもいかないでしょうし
 姉さんならフリージング・ディストラクションの一撃で雪玉を粉砕して終わりでしょうけど
 僕にはそんな極大破壊呪文は使えませんし」
>「フリード!ひろってちょーよ!って、ルナ!離しゃーせ!」
とりあえずエンカを受け取るフリードリッヒ
「さてと、横に避けるか上に飛び越すか地面に潜るか
 こんな時に炎使いがいれば楽なんですけど今居ませんし
 残念なことに僕は空を飛べませんちょっと強引ですが………」
と呪文を唱え始める
「グレン!僕にしっかりつかまってくださいよ!!
 フリージングアッパー!!ぷげら!?」
呪文の効果により生み出された巨大な氷の腕がフリードリッヒをアッパーカットで
吹っ飛ばし迫りくる巨大雪玉を飛び越え逆方向まで吹き飛ばす
頭を地面に叩き付けられるいわゆる車田落ちをするフリード
「いたたたた……ライフバーが半分減りましたけど即死よりはましですよね」
『ちょっと!エンカさんのライフバーってフィー坊の何分の一!?」(猫語)
それでも雪玉に潰されるよりはましである
「うーんこれで僕が気絶でもすれば雪玉の核である雪だるまのパーツが召喚元に戻り
 雪玉が崩壊してめでたしめでたしだったはずなんですけど…………
 僕が頑丈すぎたのが敗因ですね」
ちなみに雪だるまを召喚した元の世界は一年中クリスマスという異世界サンタワールドである
『そのアッパーで雪玉のほうを攻撃すればよかったんじゃ?』(猫語)
「せいぜい人間二人と猫一匹を吹っ飛ばす威力しかないのにあの大きい雪玉をどうしろと……」
とりあえずエンカとフリード、グレンは雪玉の脅威から脱出に成功したようである
残りのメンバーはどう避けるのだろうか?
「だれか僕に斜め45度ぐらいで当身お願いします
 僕が気絶すれば雪玉が崩壊しますので」
『ねえあの雪玉の進行方向って総統の屋敷じゃない?』(猫語)
「あれ?そうでしたっけ?」

84 :
巨馬の黒瞳に映る紫電の光。視線の先には杖を持ち決死の覚悟を決めるテオボルト。
ボレアースは、このような人間(?)が実在しているということに驚きの色を隠せないでいた。
その覚悟と秘められた魔導の才に…。そう言えば、風の噂で聞いたことがある。
ある属性の魔法に異常なまでの適性を示す。
ある魔法を生まれつき能力として有している。
未知なる力に開眼する。
今までは天才と言われて来た種類の子供たちが、
続々と生まれ始めているという噂を。
なるほど、このような人間が増え始めているというのなら
神に対する信仰心などが減少しているということも頷けた。
しかし、まだ早い。ボレアースは全身に力をこめる。
神の前では人はまだまだ無力なのだということを、この世界に示さなければならない。
人が神にとって代わるなどあってはならぬことなのだ。
そのときだった。
>「神同士潰しあってりゃぁええがね!!!」
ササミの声が頭の中で何度も反響する。魔力の放出を感じる。「まずい」と巨馬は思う。
しかし、氷の槍を放つべく、氷の魔力を最大限まで宿した体はまるで固定砲台。
自らの強力過ぎる魔力のために凍てついて動けないのだ。射線上に立つテオボルトに氷の槍を放つまでは。
続けて両耳が捉えたのは僅かな時空震。
なんということか。リリィの体から幽霊のような女が浮かび上がっている。
それは六角形の物体を連続し壁を展開させると、巨大雪玉の軌道を大きく変えることに成功する。
これはボレアース最大の失策だった。
ササミの魔力を吸収した首飾りに亀裂が生じる。
その僅かな隙間から無数の触手が噴出した。「蔦」だった。
それは魔力の高いものを求め彷徨うように広がると身動きのとれないボレアースを捉える。
捲きつき固定するとその巨体に突き刺さり呪いを解く。
そして神の姿に戻したあとにエネルギーである神気というものを飲み込んでゆく。
「うおおおお!吸われるのじゃあああ!きさまらが邪魔をしたせいじゃ。
クロノストーンが復活してしまうぞいいいいい!!」
神の姿に戻ったボレアースは髭もじゃの初老の姿をしていたが、みるみるうちにやせ細ってミイラのようになってしまった

85 :
頭がキンキンする。冷気で血が淀んでいる。
だからルナの思考は鈍くなっていた。
ボレアースに蹴飛ばされ、二つに割れた雪だるまの片割れをどうにかするべく
フリードは自分自身を氷の腕で吹っ飛ばす。
なんという元気だろうか。否、それは元気というものを超えている。
彼は術者である自分を気絶させて雪玉を消すつもりだったのだろう。
ルナはフリードの心意気に感化され、腰に下がったタクトに手をかける。
もう自分たちでなんとかするしかない。こうなったらわずかに残された魔力で、
足元の雪原に反転魔法をかけ、冷たさを熱さに変え穴を開けるしか…
しかしその表情は凍りつく。
幽霊の女の出現。続いて
>「あ〜〜〜こうなったら一蓮托生だぎゃあああ!!」
なんとササミが首飾りに魔力を供給しはじめたのだ。
と同時に負ぶさってきたリリィが丸い物体になってころりと落ちる。
「ひっ!!」
ルナは生首が落ちてきたと思ってびっくりした。
しかしすぐに首飾りを外してササミから離れると、丸いものを拾い上げて反転魔法を流そうとする。
時間を捲き戻してリリィを再生するつもりなのだ。
でも魔力も少なく、まして時間に干渉するほどの力をルナはもっていない。
「なにこれ!どうなっちゃってるのよ。誰かなんとかして!!」
パニックになり金切り声をあげたが、その声は自分でも驚いてしまうほど小さい。
気道も肺も寒さで縮み上がっているのだ。声など出ないのだ。
そして目の前に現れた白いドレスの女が、「次はお前だ」とばかりにルナを指差す。
ルナは負けじと迫り来る雪玉を指差す。すると女は雪玉の排除を優先させ
女が出現させた壁は雪玉の軌道を変える事に成功する。
「た、たすかったっ!」
とりあえず雪玉という目の前の恐怖は去った。
だがササミの魔力を吸収した首飾りには亀裂が生じていた。
その僅かな隙間から無数の触手が溢れ出して来る。それは「蔦」だった。
蔦の主タナトストーンは、ボレアースをわざと神に戻し、純正の神気の吸収に成功すると
次に生徒たちの魔力に反応しざわざわと触手のように動きだす。

86 :
「我が世の春が来た!ハッハッハッハ、このときをどんなに待ち望んでいたことか。
母なる大地よ。小生は帰って来たぞっ!!」
蔦の中心から男の声がする。男はぼさぼさでこげ茶色の髪を振り乱し泣きながら叫んでいた。
古代ギリシア人のような出で立ちで背には翼。右手に持った大きな鎌で
自分の左手を突き刺していた。蔦が生えているのはその左手からだった。
背丈はササミより一回り大きいくらいだろうか。
まだ完全ではないがタナトストーンが復活したのだ。
「んんん、漲ってきた!少々黴臭かったがボレアースの荒々しい神の力。確かに頂戴した。
それとこの魔界の者の魔力は、じつに香しい味だったぞ。狂おしく酔ってしまいそうな味であった!
田舎神族と侮蔑した無礼はそれで帳消しとしよう!」
タナトストーンは左手をササミの腰にまわし、生えている蔦で体に絡み付けている。空は青空。
風で舞った粉雪が雪原に光の波を立てる。
「おおそうだ。魔界の小娘、もといササミさんよ。わが国の最初の民とならぬか?
小生はこの世界のすべての大地を田畑に変えたい。小生は農耕の神の力を持っている。
我が国の民となったあかつきには子々孫々永遠に飢えることはないであろう。どうだササミさんよ?
それと他の者たちもだ。農民となり小生を永遠に信仰し続けるのだ。悪い話ではあるまいが」
ルナはあわあわと立ちすくんでいた。タナトストーンの言葉の意味がわからない。
それにササミが捕まってしまっているからだ。 胸元には球体となってしまったリリィを抱きしめている。
どうしよう…、思考を働かせようとした次の瞬間、その体はひっくり返る。
「ルナさん!君もそうだ。農民となって大地とともに生きてはみぬか!?
それとも死んでその身を大地の肥やしと変えるか?さあどっちーーーーー!?」
問いかけのあと、クロノストーンは雪原を滑空する。
ボレアースのミイラとルナを結婚式のとき車の後ろにつける缶のようにして。
ササミは抱いたまま。球体となったリリィはルナが抱きしめたまま。
そして彼はフリードとエンカの前に降り立つのだ。
「逃がさんぞ。フリード君。君は小生を氷漬けにして海に沈めるとかなんとか言っていたが、
そんなことが出来るのかね?このタナトストーンを…もう一度封じられると思っているのかああああ!!?」
泣き声と混じったヒステリックな声をあげ、タナトストーンは右手にもった大鎌を振り下ろすのだった。

87 :
フリードの雪だるまに潰されかけた馬は、それを蹴飛ばしてリリィらに転がす。
それから残りで唯一巨馬を攻撃せんとしているテオボルトに対峙し、大きく開けた口から氷の槍を撃たんとしていた。
テオボルトも巨馬に杖を向けたまま、タイミングを計っていた。
「ち……どちらが先手を打つか、だな」
今『切り裂き呪文』を放っても巨馬に当たるだろうが、その場合カウンターで放たれた氷の槍に体を貫かれる。
テオボルトが戦略的に勝利するためには、相手の呪文を貫いて巨馬を倒さねばならない。
互いに、慎重に機を窺っていた。
そこに、先ほど知り合った4人ではない声が飛んできた。
>「事情は把握じだがね!再生酵素を含んだ血を染み込まぜた手袋やがら!傷口にあでるか飲むがじやーせ!」
ガラガラ声の方向を横目で見ると、血で真っ赤な手袋が飛んできていた。
異形の女性がどうやら状況を把握したらしい。
「再生……寿命を延ばすユニコーンの血に似ているな? 恩に着る!」
空いている手で手袋をつかむと、そのまま噛んで血を吸う。
途端、テオボルトに幾つもの変化が起き始めた。
ササミの言葉通り火傷が癒え始めるが、それに加えフラフラしていた体に力が戻る。
杖の先で暴走寸前だった魔力の制御が不思議と簡単になる、どころか何処からか漲った魔力が加算されていく。
紫電も先ほどの比ではないほど強く迸っている。
「(血を飲むだけでこれほどとは……血に魔力が宿っていたのか?)」
自身でもおかしいほどの調子であり、気付いてはいないが、ずっと感じていた喉の渇きも一時的に治まっていた。

そこで、異変は起きた。
白いドレスの女が現れ、リリィが消え、ルナの胸元――正確にはペンダント――から蔓が噴出した。
瞬時にテオボルトは首飾りの封印が解けてしまったことを悟る。
蔓は巨馬を絡め取り、それを振り解こうと慌てて氷の槍を放ってどうにかしようとした。
だが、巨馬が何とかする前にエネルギーを吸われ、老人の姿となってしまった。
「……!? くっ、『セクタムセンプラ』ッ!!」
テオボルトがカウンターに呪文を放ち、放たれた閃光が氷の槍を粉々に砕き散らす。
閃光は馬の姿のままであれば直撃したであろうが、向かった先は蔓であった。
大量の魔力を孕んだ閃光は効果を発揮し、蔓の一部をずたずたに、それこそ細切れとなるほどに切り裂く。
しかし、活動は支障はないようで、老人のエネルギーを吸い続けた。
>「うおおおお!吸われるのじゃあああ!きさまらが邪魔をしたせいじゃ。
>クロノストーンが復活してしまうぞいいいいい!!」
老人が恨みたっぷりに叫ぶも、カラカラのミイラと化してしまった。
「な……何事だ? 何が……? っと、『セクタムセンプラ』!」
蔓は老人だけでは物足りなかったか、テオボルトにも蔓を伸ばし始めた。
切り裂き呪文で伸びてくる蔓を片っ端から切断しているが、気を抜けばあっという間に捕まるに違いない。

88 :
>87修正
×
>「な……何事だ? 何が……? っと、『セクタムセンプラ』!」 〜 捕まるに違いない。
>86
>「我が世の春が来た!ハッハッハッハ、このときをどんなに待ち望んでいたことか。
>母なる大地よ。小生は帰って来たぞっ!!」
>蔦の中心から男の声がする。男はぼさぼさでこげ茶色の髪を振り乱し泣きながら叫んでいた。
>古代ギリシア人のような出で立ちで背には翼。右手に持った大きな鎌で
>自分の左手を突き刺していた。蔦が生えているのはその左手からだった。
>「んんん、漲ってきた!少々黴臭かったがボレアースの荒々しい神の力。確かに頂戴した。
>それとこの魔界の者の魔力は、じつに香しい味だったぞ。狂おしく酔ってしまいそうな味であった!
>田舎神族と侮蔑した無礼はそれで帳消しとしよう!」
大層な演説をする男が現れたのに、テオボルトは呆然とした。
耳障りな声で叫び、ササミとルナを勧誘し、二人とミイラを連れてエンカとフリードの前へと降り立つ。
>「逃がさんぞ。フリード君。君は小生を氷漬けにして海に沈めるとかなんとか言っていたが、
>そんなことが出来るのかね?このタナトストーンを…もう一度封じられると思っているのかああああ!!?」
>泣き声と混じったヒステリックな声をあげ、タナトストーンは右手にもった大鎌を振り下ろすのだった。
「『セクタムセンプラ』!」
閃光がタナトストーンの右手に突き刺さる。
同時に、右手から血飛沫が上がった。呪文の効果でズタズタに切り裂かれたのだ。
「……おや? 化生や女生徒には誘いをかけるのに、私には無いんだな。男としてはわからんでもないがね」
ザッザッと雪を踏みしめて、テオボルトが歩いてきていた。
口からササミの手袋をぶら下げ、片手に握った杖はタナトストーンに向け、空いた手ではバチバチと雷の魔力が音を立てていた。
「名前が知りたければ教えて差し上げよう。テオボルト・ジェナス。自分探し途中のただの魔法使いだ。
 封印されてたのは貴様か? 封じられるのが嫌なら、そっ首落としてそこらの森の獣の餌にしてくれよう」
タナストーンの首元に杖先をずらす。
テオボルトは血の如く赤い眼をギラギラ光らせ、口元を釣り上げた。

89 :
なされるがままだったエンカが、ピクリと動いた。
彼は意識をもうろうとさせながら懐からクシを取り出し、
フリードの出した氷の腕に殴り飛ばされた際に無茶苦茶になった自慢のヘアスタイルを整える。
エンカのライフバーはフリードの1/4だが、
どうやらヘアスタイルを整えることでライフポイントが1だけ残る効果が発揮されるらしい。
また、エンカにはたいした魔力は無いのでクロノストーンの蔦からは無視されたようである。
>88
やっと目を覚ましたエンカが最初に見たのは、右手から血を流す…オッサンだった。
今まで気絶していたエンカに、そのオッサンが一体何者であるか知るよしもない。
「…なぁ、オッサン。右手からよぉ、すっげ〜血が出てるぜ?
 何があったか知らねぇけどよぉ、手当てが必要なんじゃあねぇのか〜?」
クノロストーンからすれば滑稽極まりない少年に思えるだろう。
なにしろ自分がさきほど攻撃しようとした少年が、
あきらかに自分よりも治療が必要そうな少年が怪我の心配をしてくれているのだから。

90 :
首飾りに魔力を注ぎ込み、封印を解除しようとするササミ。
クロノストーンの封印を解除してボレアースにあて、共倒れを狙おうとしているのだ。
そんなさなか、リリィの身体から白い靄が立ち上り金髪の女の姿を取った。
顔の部分が真っ黒な空洞という異形の姿でけたたましく笑いリリィを小さな玉に変えてしまう。
一瞬枝分刀を振りかけたササミだが、思いとどまる。
実体をもたない霊体を斬りつけても無駄、というだけではない。
そう、これは突如現れた敵ではなく、先ほどのアナベルガトーの祈祷文によって呼び出された悪魔。
すなわちリリィの無意識領域から引き出された力の具現なのだから。
そう考えればこの行動も危険な状態からリリィを封印することによって身の安全を確保したと解釈できるからだ。
リリィの安全はとりあえず確保されたのだが、かといって状況が変わったわけではない。
巨大雪玉は変わらず迫ってきており、ササミ立ちより前にいるフリードとエンカに迫っているのだから。
封印解除にはまだ時間がかかるらしく、それに対応する術はない。
氷結魔法を専攻するフリードなら、と期待を寄せたが、フリードはササミの斜め上の発想で雪玉を回避した!
なんと自分にフリージングアッパーを食らわせることで吹き飛び飛び越えたのだ!
もちろんこれでフリードが気絶すれば召喚主と相殺されて核となる雪だるまが消え、巨大雪だるまも崩壊という算段もあったのだろう。
だがそこは逸般人たるシルベリア出身のフリード。
ライフポイントを半分に減らした程度で普通に立ち上がってきてしまった。
>「だれか僕に斜め45度ぐらいで当身お願いします
> 僕が気絶すれば雪玉が崩壊しますので」
「そこまで行けるなら雪玉なんて勝手に転がせとけばえーがね!」
思わず突っ込むササミ。
そんなササミは見た。
フリードのライフポイントを半分減らすほどのフリージングアッパーを共に受けながらも髪形を整え命を取り留めるエンカの姿を。
どれだけ丁髷にこだわっているんだ!というツッコミをする前にいよいよ封印が解けそうになってきて、魔力注入に集中する。
封印が解ける直前。
僅かに巨大雪玉の方が早いのがわかったが、今更どうにもできない。
が、どうにかしたのはリリィ、から生まれた金髪の女幽霊だった。
六角形の結晶体を並べ、巨大雪玉の軌道を変えることに成功したのだから。
ちなみに軌道を変えた巨大雪玉が総帥の館へ一直線に向かっていったのだが、激突の瞬間木端微塵に砕けて飛び散った。
強力な結界が張ってあったのであろう、とササミの項の顔がその一部始終を見ていたのだ。
巨大雪玉の回避が成功した後はこちらのターンである。
封印にほころびが生まれ、そこから蔦が溢れ出る!
蔦は高い魔力に反応して巨馬ボレアースを捉えた。
絡みつき、突き刺さり、神気を吸収する蔦。
ボレアースはそれにより馬の姿から神の姿となり、吼え声をあげた。
>「うおおおお!吸われるのじゃあああ!きさまらが邪魔をしたせいじゃ。
>クロノストーンが復活してしまうぞいいいいい!!」
「やかましいはどたーけ!己らの管理が悪いせいだがね!ざまーみ晒せ!」
たーけとは田分け。
田を分割することで作業効率を落してしまう愚か者の事である。
どはドレッドノート級、すなわちすんごいという事だ。
すなわち、どたーけとは超お馬鹿さん!という罵倒語なのである。
ササミがミイラのようになっていくボレアースとの応酬をしている間についにクロノストーンが復活した!
ボレアースがミイラ状態になったおかげか、吹雪も止み、むしろ小春日和のような暖かさを感じる尾はクロノストーンの力だろうか?
復活したクロノストーンは嬉しげにササミの腰に左手を回し、蔦を巻きつけ動きを封じる。
>「おおそうだ。魔界の小娘、もといササミさんよ。わが国の最初の民とならぬか?(略
上機嫌に勧誘しながら更にはルナにも蔦を巻きつけ、農民となるか死んで肥やしとなるかという無茶苦茶な要求を突き付けるのだ。
それと共にフリードとエンカの前に降り立って、封じ込めようとした恨みを晴らすかのように大鎌を振り下ろす!
が、その直前、鎌を持ったクロノストーンの右手に閃光が走り、ズタズタに切り裂いた!
迫る蔦を切り裂き一撃を与えたのはテオボルト!
血が染み込んだ手袋を加えながら赤い目をギラギラと輝かせ、啖呵を切る姿にはどことなく闇の狂気を感じさせるものだった。

91 :
さて、そんな中ササミは何をしていたかというと。
クロノストーンに抱えられ蔦に絡め取られながら青い顔をして頬をふくらましていた。
激しく揺れる一連の移動や行動に、いよいよ限界が来ていた。
そこにテオボルトの一撃で右手を引き裂かれ痛みで一瞬左手の力が緩んだ瞬間。
「ぼええええ〜〜〜〜〜!!げほっがほっ・・・・うべえええええ〜〜〜〜!!」
ササミの身体の各所に着く七つの顔が一斉に嘔吐した。
咳と共に石化ガスが意図せず出たように、派手な嘔吐と共に濃厚な石化ガスがササミを中心にクロノストーンの姿が見えなくなるほどに充満したのだ。
流石に神であるクロノストーンを石と変える事はできずとも、ササミに絡みついた蔦は石となる。
石化ガスの煙幕の中、バキバキという破壊音が響き、ササミが拘束を解き緩んだ左腕からすり抜けて飛び出した。
ルナとボレアースを絡め取る蔦もその力を失うだろう。
石化ガスはそこまで及んでいなくとも、根元部分が石化してしまえば切り取られたも同然なのだから。
「あ”〜〜〜吐いてすっきりしたがね
封印とかれたてにしてもボケるのも大概にしやしゃーせや!
神々の敵対者である魔族の魔力で復活したのに喜ぶって神としてのプライドはあらせんのか!
たとえおみゃーさんが気にせんでも他の神々からは神の癖に魔族によって救われたゆー烙印を一生背負わされるんだぎゃ!」
神としてのアイデンティティーを崩壊させるようなことを言い放つササミ。
そのままルナと玉と化したリリィの下へと着地し、ボレアースから距離を取ろうと引き寄せる。
「そっちの爺さんも!封印の管理者ならぼやいとりゃせんでさっさと戦やーせ!
エンカ、神同士の戦いは勝手にやらせときゃえーし、ほっときゃええがね!」
エンカに忠告しながらクロノストーンに向きかえる。
石化ガスも拡散し、姿が見えるようになったクロノストーンに侮蔑の視線を向けながら。
「魔族に蘇らせてもらった穢れた神さんもだがね!
あんたがやる事は自分を封印した張本人である神への復讐だがね!
こんなところで人間ども相手にはしゃいでないで、天界に行って暴れるのが筋だろーがや!
それもできんようなボケ神が信仰を集めようなんぞ片腹いたいぎゃ!」
烈火の様にまくしたて、二人の神を煽り立てるササミ。
風邪で体力を失い、思考力が低下し、魔力を注いだためにそれすらも低調な今、ササミができることは弁舌による攻撃しかないのだから。

92 :
>83-91
白い女の幽霊はふわふわ浮遊していたが、クロノストーンから噴出した蔦に触れたとたん霧散してしまった。
だが、結晶化したリリィは以前そのままの状態である。
さて、そのリリィ本人といえば。
最初に頭に浮かんだのは、「寒くない」ということだった。
「う・・・・うーん、あれ?ここどこ?」
くらくらする頭を抑えながら起き上がると、そこは薄暗い、丸い部屋の中だった。
広さは寮の寝室くらいだろうか?壁は六角形が無数に集まったような模様がついていて、天井は丸いドーム状になっている。
窓は無い。
そして部屋の中央には、一抱えもありそうなサイズの砂時計が置かれていた。
砂時計の砂は、すでに半分以上落ちていた。
(えー。いったい何がどうなって?確か、何か変な女の幽霊に指差されたのまでは覚えてるんだけど・・・・・・)
リリィはぺちぺちと頬を叩いてみた。痛い。
(ということは、まだ死んでないってことだよね?皆はどうしちゃったんだろう?)
寒くないせいか、体に力が戻ってきている。
リリィは立ち上がり、ふらつかず普通に立てることに安堵した。
「おーい!誰かいませんかぁ?ササミちゃーん、ルナちゃーん!
 エンカにフリード君にテオボルト・・・・テオポルド?あ、あれ?・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・。」
どうやら、テオボルトの正確な名前が分からなくなったようだ。
「フリード君にテオ君!いませんかー?」
返事は無い。
「もう!何なのよここは!外はいったいどうなってるのよー!!」
そう喚いた瞬間、世界が開けた。
もっとも、部屋の壁が透明になったのだと気づくには、一呼吸ほどの時間が必要だったが。
最初に見えたのは、壁の一部を覆っている巨大な手だった。
その手は今にも部屋を押しつぶそうとしているようだ。
「キャー!イヤー!!つぶさないでぇ!!」
リリィが頭を抱え砂時計の後ろに隠れたがが、いつまでたっても何も起こらない。
恐る恐るもう一度外を眺めてみる。すると、手の持ち主が巨大化したルナであることが分かった。
(ルナちゃんだけじゃないわね、さっき見えたササミちゃんも巨大化しているし・・・・・・)
自分が親指姫サイズ並に小さくなっている、などとは、夢にも思わないリリィだった。
リリィはルナにおーい!と両手を振って見せたが、反応が無い。
もしかしたら、外からは中が見えない仕掛けなのかもしれない。

93 :
>「名前が知りたければ教えて差し上げよう。テオボルト・ジェナス。自分探し途中のただの魔法使いだ。
> 封印されてたのは貴様か? 封じられるのが嫌なら、そっ首落としてそこらの森の獣の餌にしてくれよう」
「キャー!かっこいい!そかそか、テオ君の名前はテオボルト君だったのね。今後は間違えないようメモメモ・・・・・・じゃなくて!
 テオ君ったら、神様を挑発してどーするのよぉ!!」
きいい!と一人突っ込むリリィ。
>「逃がさんぞ。フリード君。君は小生を氷漬けにして海に沈めるとかなんとか言っていたが、
>そんなことが出来るのかね?このタナトストーンを…もう一度封じられると思っているのかああああ!!?」
「フリード君逃げてー!超逃げて!!グレン、早く猫缶捧げるのよ!」
その時、空気を読まない・・・・・否!絶妙なタイミングでエンカが割って入った。
>「…なぁ、オッサン。右手からよぉ、すっげ〜血が出てるぜ?
> 何があったか知らねぇけどよぉ、手当てが必要なんじゃあねぇのか〜?」
「エンカ危ない離れて!っていうか血が!何でそんなに血が出てるの!貴方が一番手当て必要でしょうよ!」
>「あ”〜〜〜吐いてすっきりしたがね
>封印とかれたてにしてもボケるのも大概にしやしゃーせや!
>神々の敵対者である魔族の魔力で復活したのに喜ぶって神としてのプライドはあらせんのか!
>たとえおみゃーさんが気にせんでも他の神々からは神の癖に魔族によって救われたゆー烙印を一生背負わされるんだぎゃ!」
>「魔族に蘇らせてもらった穢れた神さんもだがね!
>あんたがやる事は自分を封印した張本人である神への復讐だがね!
>こんなところで人間ども相手にはしゃいでないで、天界に行って暴れるのが筋だろーがや!
>それもできんようなボケ神が信仰を集めようなんぞ片腹いたいぎゃ!」
そういうものなのかな?とリリィは首を傾げた。
神様同士の関係はよく分からない。巨大馬と仲が悪そうだということは理解できたのだが。
(そう言えば、あの馬はどこに行っちゃったのかな?・・・・・・まさか、あのぺらぺらのミイラみたいなやつ?)
まさかね、とリリィは首を振った。
「信者の魔力と祈りを糧にした、ってことにしたいんだろうなあ・・・・・。信者なら人種とか関係なさそうだし。
 忘れられた神様って、殆ど信仰されてないから力弱ってそうだしなあ・・・・・はっ!
 じゃあ、学園に乗り込まれでもしたら、すっごくまずくない?
 生徒達の魔力を、あの蔦みたいなので根こそぎ吸い取られちゃうかも!」
外に声が届いていないと思っているリリィは、一人で皆の話に突っ込んでいる。
実際にはとても声が小さくなっているだけで、耳を済ませてもらわないと、結晶の中の声が届かないだけなのだが。
「おーいルナちゃん!神様!誰でもいいから私をここから出してよー!」
リリィは、懇親の力で見えない壁を叩いている。
背後の砂時計は、そろそろ砂が落ちきってしまいそうだ。

94 :
>「逃がさんぞ。フリード君。君は小生を氷漬けにして海に沈めるとかなんとか言っていたが、
>そんなことが出来るのかね?このタナトストーンを…もう一度封じられると思っているのかああああ!!?」
>「フリード君逃げてー!超逃げて!!グレン、早く猫缶捧げるのよ!」
だがその声は小さすぎて聞こえない
>「『セクタムセンプラ』!」
>閃光がタナトストーンの右手に突き刺さる。
「相手の武器は大鎌!ならば!!」
今がチャンスとばかりに相手の懐に飛び込もうとするフリードリッヒ
ポールウェポン系の武器はリーチが長いがその分懐に入られると弱いものである
「子孫断絶脚!!」
思いっきり男の急所めがけて蹴りを食らわせようとするフリード
そもそも神に性別があるのかは知らないが声からして男だろう
「ちょっと肩に傷がついてしまいましたがまあこれぐらいは問題ないでしょう
 見せてあげますよ人類のインフレというものを!!」
『よし僕もコールゴットしちゃうよ』(猫語)
「辞めてくださいよグレン!その呪文使ったら死ぬ奴じゃないですかぁ!!」
コールゴット……神降ろし
自らの肉体に神を憑依させる神聖系最大呪文の一つ
ただし神の霊気に肉体が耐えられずに漏れなく死ぬ
>「…なぁ、オッサン。右手からよぉ、すっげ〜血が出てるぜ?
 何があったか知らねぇけどよぉ、手当てが必要なんじゃあねぇのか〜?」
「いやこの人…いえ神……いや信仰を失った神は妖怪に堕ちるらしいから
 妖怪ですかね?とにかく敵なんですってば!!」
>「こんなところで人間ども相手にはしゃいでないで、天界に行って暴れるのが筋だろーがや!
 それもできんようなボケ神が信仰を集めようなんぞ片腹いたいぎゃ!」
そのセリフの後一枚の紙がひらひらと落ちてきた
『え〜と何々……天界で相手すんのめんどくさいので地上で何とかしてくださいby猫神バースト
 追伸 いいから猫缶寄越せよ信者ども』(猫語)
「グレンのところの神様っていったい」
『神は僕らが何があっても神が何でもしてくれると思って
 努力することを止めるのを防ぐためにギリギリまで頑張って
 ギリギリまで頑張ってどうにもどうにもどうにもならないとき
 初めて力を貸してくれるんだそうだよ本神いわく』(猫語)
「それってめんどくさいって意味なんじゃ……」
『ただし代償を捧げれば別だけどね』(猫語)
頭に被っているなんだかよくわからない赤い被り物から猫缶を取り出そうとするグレン
はたして無事に生贄を捧げることに成功し
神の武器ダブルクレッセントハーケンを召喚できるのか?
>「おーいルナちゃん!神様!誰でもいいから私をここから出してよー!」
だがその声は聞こえないあまりに小さすぎるからだ

95 :
>>87-88
テオドールの魔法でズタズタに破壊されるクロノストーンの右腕。噴出する真紅の鮮血。
フリードに打ち下ろされんとしていた大鎌は、握力を失った主のもとからすり抜けて、雪原へと突き刺さる。
>「名前が知りたければ教えて差し上げよう。テオボルト・ジェナス。自分探し途中のただの魔法使いだ。
 封印されてたのは貴様か? 封じられるのが嫌なら、そっ首落としてそこらの森の獣の餌にしてくれよう」
「ほほう、君はテオボルトというのかね?自分探しの旅をしている?
ふむ、では聞こう。君が小生の首を落としたところで、探し物はみつかるのか?
たぶん見つからないだろう?それなら君は農民になるといい。
大地を耕し自分を耕せ。虫を見つけ自分を見つけろ。
そうすればいつか君は、輝かしい黄金の自分と出会えるはずだああ!
ハッハッハッハッハー!」
怒れるテオボルトを見つめながら、クロノストーンは叫び返す。
>>89
>「…なぁ、オッサン。右手からよぉ、すっげ〜血が出てるぜ?
 何があったか知らねぇけどよぉ、手当てが必要なんじゃあねぇのか〜?」
「そのやさしさに感謝するぞエンカ君!我が名はクロノストーン。農耕の神である。
君の言動は馬車の中で注目していた。君はクラスメイト想いのやさしい少年だ。
それならいっそクラスメイト想いの野菜少年にならぬか?
そう、君は優しい野菜農家になったほうがいい。そして心のうちに潜む獅子など一生眠らせてしまえ。
そのほうがよかろう?そうなってしまえば、もう誰も傷つけることはない。君も傷つく心配もないのだ!!」
エンカの無意識に、荒ぶる獣の力を感じつつクロノストーンは言った。
その言動は彼なりの真実でもあり、エンカを惑わすつもりでもあった。

96 :
>>90
>「あ”〜〜〜吐いてすっきりしたがね
 封印とかれたてにしてもボケるのも大概にしやしゃーせや!
 神々の敵対者である魔族の魔力で復活したのに喜ぶって神としてのプライドはあらせんのか!
 たとえおみゃーさんが気にせんでも他の神々からは神の癖に魔族によって救われたゆー烙印を一生背負わされるんだぎゃ!」
「おお、考えてみればそれは困るな。なによりガイアが悲しむ。
しかしササミさんよ。君はどうして魔族になど生まれてしまったのだ。
小生はこの大地をこよなく愛している。できれば君とともに、この大地と生きたかったぞ」
目を細め、微笑しているクロノストーン。
>>91
>「そっちの爺さんも!封印の管理者ならぼやいとりゃせんでさっさと戦やーせ!
 エンカ、神同士の戦いは勝手にやらせときゃえーし、ほっときゃええがね!」
「…な、なんじゃとぉ。小鳥がようほざいたわぁ」
ボレアースはよれよれと這い蹲っている。
思えばクロノストーンによって、ボレアースの運命も狂わされてしまったのだ。
封印しようとして呪いをかけられ、馬にされてしまったあと
彼は恥ずかしくて天界に戻れないでいた。なので山の奥にひっそりと暮らしていた。
それに年々と薄れてゆく人々の信仰心。年金暮らしの老人のように細々とした生活。
そこへ過去から現れた因縁の宿敵クロノストーン。
退治出来てなかったと皆が知ってしまえば、恥の上塗り。
何としてでもこのことは内密に処理しなければならないのだ。
「ひょおおおお…」
ボレアースは最後の気力で立ち上がる。

97 :
>>92-93
ササミの石化ガスのおかげで、ルナはクロノストーンの拘束から抜け出した。
手に持っていた球体も、今は胸に抱きしめている。
お化けによって、リリィがどんな魔法をかけられたのか理解できないでいたルナは、
球体を割るとかそんな発想は出来ずにいた。
でも…球体の中から音がするのに気付く。
>「おーいルナちゃん!神様!誰でもいいから私をここから出してよー!」
「リリィ!?」
小さな声がする。ルナは球体をまじまじと見つめる。
穴や隙間、シールみたいなものがないか調べる。
「リリィ、大丈夫?…かわいそう。
あのお化けがボールの中に閉じ込めちゃったのね。
ねえ、怪我はない?私、どうしたらいいの?あのお化けったらなんだってこんなこと…」
ルナは球体に耳をぴたっとつける。
>>94
>「子孫断絶脚!!」
「ぐはーーーーっ!!」
悶絶。吐血。血の雨。虹の橋。
>「いやこの人…いえ神……いや信仰を失った神は妖怪に堕ちるらしいから
 妖怪ですかね?とにかく敵なんですってば!!」
「否!小生は神である。それに敵か味方かなど君の一存で決められることなのかね?
そうだよなあ、みんなー? ハッハッハッハー!
さあ、どっちだ?小生は敵か味方か?さあどっちーーーー!!?」
口から血を流しながら狂気の笑み。
こんなわけのわからない者が味方なわけがないだろう。

98 :
>「魔族に蘇らせてもらった穢れた神さんもだがね!
 あんたがやる事は自分を封印した張本人である神への復讐だがね!
 こんなところで人間ども相手にはしゃいでないで、天界に行って暴れるのが筋だろーがや!
 それもできんようなボケ神が信仰を集めようなんぞ片腹いたいぎゃ!」
「うぬぬぬ…」
クロノストーンは唸った。ササミの侮蔑の視線は彼にとって耐え難いものだった。
モノには順番がある。そう言い返したかったのだが、その前に神特有の矜持が立ちはだかる。
さらにテオドールに攻撃を受け放り投げてしまった大鎌との距離10メートル。
目の前にはテオドール。視線を移せば、猫神と交渉しているフリード。未知の力を秘めているエンカ。
学園との距離は50メートルはあるだろうか。校内には無数の魔力を感じる。
それを吸収できればさらなるパワーアップが可能なのだが。
そう逡巡した刹那
「クロノストーン!!」
ボレアースが死に物狂いで猪突して来るのが見えた。
唾棄し、クロノストーンは大鎌を回収すべく大地を蹴る。
そして二神は衝突。お互いにもんどりうって吹っ飛んだ。
「ぐほっ!」
腹部に衝撃を受けたタナトストーンの口から濡れた石が顔を出している。
「あ、あれじゃ、あれが奴の本体の石ころじゃ!大昔にタナトスがゼウスと間違えて飲み込んだという石じゃ。
あれを何かに閉じ込めてしまえば奴をもう一度封印できるはず!」
力を使い果たしたボレアースは、すでに半透明になっていたが、最後の力を振り絞って神の力を放つ。
すると、もよもよとした直径50センチくらいの霧のようなものが生まれた。
「その霧の玉に触れて願うのじゃ。さすれば冷気を生み出す道具を生み出すことができよう。
それで奴との戦いを優位にもってゆくのじゃ。…たのむ。たのんだぞ」
そう勝手なことをいい遺して、ボレアースは消えてしまった。
「むもももも!」
一方のクロノストーン。彼はは口から顔を出した石を手で押し込んで再び飲み込んでいた。
その背後、学園の窓に映る小さな顔。保健室の窓から外をじっと見ている夢見石の少年。
だがそれは本筋と関係ない。ただ見ているだけである。
「小生に従う者は、力をかせい!だが邪魔するものは大地の肥やしと変えてやろう!」
クロノストーンは翼を羽ばたかせた。
生じた小さな竜巻は邪魔するものを吹き飛ばすだろう。
と同時に天高く舞い上がった彼は、大地に突き刺さっている大鎌を取らんと舞い降りるのだった。

99 :
>>95
すみません。
コテ名を間違えてしまいました。
タナトストーンではなくクロノストーンでした。
>>98
×大昔にタナトスがゼウスと間違えて
○大昔にクロノスがゼウスと間違えて
すみません。

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