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2013年08月FF・ドラクエ206: FFの恋する小説スレPart12 (225) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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FFの恋する小説スレPart12


1 :2011/12/17 〜 最終レス :2013/08/10
文章で遊べる小説スレです。
SS職人さん、名無しさんの御感想・ネタ振り・リクエスト歓迎!
皆様のボケ、ツッコミ、イッパツネタもщ(゚Д゚щ)カモーン
=======================================================================
 ※(*´Д`)ハァハァは有りですが、エロは無しでお願いします。
 ※sage推奨。
 ※己が萌えにかけて、煽り荒らしはスルー。(゚ε゚)キニシナイ!! マターリいきましょう。
 ※職人がここに投稿するのは、読んで下さる「あなた」がいるからなんです。
 ※職人が励みになる書き込みをお願いします。書き手が居なくなったら成り立ちません。
 ※ちなみに、萌ゲージが満タンになったヤシから書き込みがあるATMシステム採用のスレです。
=======================================================================
前スレ
FFの恋する小説スレPart11
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1294596979/l50

2 :
【過去スレ】
初代スレ FFカップルのエロ小説が読みたい
http://game2.2ch.net/test/read.cgi/ff/1048776793/
*廃スレ利用のため、中身は非エロ
FFの恋する小説スレ
http://game2.2ch.net/test/read.cgi/ff/1055341944/
FFの恋する小説スレPart2
http://game5.2ch.net/test/read.cgi/ff/1060778928/
FFの恋する小説スレPart3
http://game8.2ch.net/test/read.cgi/ff/1073751654/
FFの恋する小説スレPart4
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1101760588/
FFの恋する小説スレPart5
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1134799733/
FFの恋する小説スレPart6
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1150527327/
FFの恋する小説スレPart7
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1162293926/
FFの恋する小説スレPart8
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1191628286/
FFの恋する小説スレPart9
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1230802230/
FFの恋する小説スレPart10
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/ff/1263141359/
FFの恋する小説スレPart11
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1294596979/
【FF・DQ板内文章系スレ】
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら18泊目
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1324047634/l50

3 :
【お約束】
 ※18禁なシーンに突入したら、エロパロ板に書いてここからリンクを貼るようにしてください。
   その際、向こうに書いた部分は概略を書くなりして見なくても話はわかるようにお願いします。
【推奨】
 ※長篇を書かれる方は、「>>?-?から続きます。」の1文を冒頭に添えた方が読みやすいです。
 ※カップリング・どのシリーズかを冒頭に添えてくれると尚有り難いかも。
 初心者の館別館 http://m-ragon.cool.ne.jp/2ch/FFDQ/yakata/
◇書き手さん向け(以下2つは千一夜サイト内のコンテンツ)
 FFDQ板の官能小説の取扱い ttp://yotsuba.saiin.net/~1001ya/kijun.html#kannou
 記述の一般的な決まり ttp://yotsuba.saiin.net/~1001ya/guideline.htm
◇関連保管サイト
 FF・DQ千一夜 ttp://www3.to/ffdqss
◇関連スレ
FF・DQ千一夜物語 第五百五十二夜の3
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1182600123/
◇21禁板
 FFシリーズ総合エロパロスレ 7
 pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1273935472/
 FFDQカッコイイ男キャラコンテスト〜小説専用板〜
 jbbs.livedoor.jp/game//3012/
【補足】
 トリップ(#任意の文字列)を付けた創作者が望まない限り、批評はお控えください。
 どうしても議論や研鑽したい方は http://toro.2ch.net/bun/
 挿し絵をうpしたい方はこちらへどうぞ ttp://ponta.s19.xrea.com/

4 :
【参考】
 FFDQ板での設定
 http://schiphol.2ch.net/ff/SETTING.TXT
  1回の書き込み容量上限:3072バイト(=1500文字程度?)
  1回の書き込み行数上限:60行
  名前欄の文字数上限   :24文字
  書き込み間隔       :20秒以上※
  (書き込み後、次の投稿が可能になるまでの時間)
  連続投稿規制       :5回まで※
  (板全体で見た時の同一IPからの書き込みを規制するもの)
   1スレの容量制限    :512kbまで※
  (500kbが近付いたら、次スレを準備した方が安全です)

5 :
前スレログです
FFの恋する小説スレPart11
ttp://mimizun.com/log/2ch/ff/1294596979

6 :
>>1乙です。
さっそく作品を待ちつつ保守。

7 :


8 :


9 :


10 :
新スレ乙〜

11 :


12 :


13 :


14 :
前話:Part7 294-298(FF7Disc1のプレート崩落直前ぐらいをシャルア視点で)
※ねつ造過多ですのでご注意下さい。
----------

 不意に、まだ私の左腕が自身の体組織で構成されていた頃の事を思い出した。
 この頃はまだ日常的に白衣を身に着ける身分ではなかったし、好奇心や向学心よりもただ
必要に迫られて得た知識ばかりが肥大していった時期だった。使うなら頭よりも拳銃や体術の
方が頻繁だったし、自分でもそちらの方が得意だと公言していたぐらいだ。
                    ***
 その日も、私は飽きもせずミッドガルを歩き回っていた。べつに観光を楽しんでいる訳ではないし、
そんな余裕も興味もない。
 妹はこの都市のどこかにいる。確証こそ得られていないが、確信があった。だから未だにここを
離れられずにいた。
 もちろん、今回は勝算があった。私の確信を確証に変えてくれる情報の持ち主の行方に目星が
付いたからだ。その人物こそ誰あろう、先日、六番街スラムで偶然に出会したミッドガル都市開発
の責任者リーブ・トゥエスティ。
(周囲の取り巻き連中のおかげで、こっちから接触するのは容易じゃないな)
 アバランチによる壱番魔晄炉爆破テロの直後という情勢だけあって、スラム街からプレート上層
に繋がる場所は今やどこも厳戒態勢だ。それでなくとも神羅カンパニーの重役幹部には身辺警護
が四六時中ついている。強行突破したところでその場は凌げたとしても、すぐさまやって来る増援
に数で押し負けるのは目に見えている。
 まさにあの日は千載一遇の好機だった。神羅カンパニーの重役幹部が、護衛も付けずにひとり
でスラム街をうろついているなんて、いったい誰が想像できた?
(うまく敵の裏をかいたとは言え、魔晄炉爆破テロのあった直後に重役自ら単身でスラム街へ赴く
とは)
 これほど巨大な都市開発の責任者と言うだけあって頭の切れる人物だとは思っていたが、加えて
なかなか骨のある男の様だ。
(あの時、自分を脅しているのが女一人だと察していたのだとしても、拳銃を突きつけられても臆し
た様子は全くなかった。それどころか、こちらの目的を聞き出すために話を引き延ばしていた)
 普通なら身の安全の確保を優先して行動するものなのに。
 だからこそ、あの場で男の後頭部に銃口を突きつけておきながら、さらに威嚇の意味も込めて
拳銃のスライドを引いた。あんな至近距離でなら、その音は嫌でも耳に入っていたはずだ。その
意味が分からないような奴なら、そんな小細工はしなかっただろう。
 それでもあの男は動じなかった。動じるどころかこう断言した。
 ――「もしもあなたの言うことが事実であるなら、喜んで協力しましょう。
    ……しかし、そんな事実ある筈がない」
 表情こそ分からないが、声と態度にはっきりと現れていた堅強な意志と揺るぎない信念。認めた
くはないが、あの場で負けたのは自分だった。
 もちろん、私だって生半可な覚悟で来ているのではない。おまけに無抵抗の相手に銃を突きつけ
優位を保っていたはずなのに、それでも負けたのだ。
(……あの男は本当に何も知らない?)

15 :
 神羅カンパニーは確かに誘拐を行っている。私自身がそれを目にしている以上、否定しようの
ない事実だ。しかし社員すべてが誘拐に荷担しているとは限らない。ミッドガル自体も、単に誘拐
した人々の受け皿に利用されているだけなのかも知れない。
 仮にそうだとしても、都市開発責任者なら誰よりも多くの情報を持っているはず。彼ら自身に
自覚がなかったのだとしても、都市に内在するものを聞き出す相手として彼以上の適任者は
いないだろう。
 あの日以来、あらゆる手を尽くして必死に情報を集めた。
 私はもう一度、あの男に会う必要がある。
 そして今度こそ、なんとしても妹の居所を聞き出さなければならない。
(だがあの男の口を割らせるには、単独では無理だろうな)
 形振り構っていられない。手段を選んでいる余裕もない。
 武力に屈しない相手なら交渉の手札を用意する、私にはそれしか思いつかなかった。
 皮肉にもその手札は、ミッドガル六番街スラムにある事を突き止めた。よくよく考えてみれば、
それも納得のいく話だった。
(……あそこであの男に会ったのは“偶然”ではなかった、と言う訳か)
 ミッドガル六番街スラム。頭上を覆うプレートによって空を奪われた常夜のスラムにあって、そこ
は光に溢れる歓楽街。人々を魅惑しあらゆる欲望を満たす為に無秩序な発展を遂げ、それ故に
構造はどこよりも複雑になった街。
 リーブ・トゥエスティの両親は現在、一時的に六番街の一角にある郭に滞在しているという。本来
彼らは、プレート上にある五番街の社宅区画に住居がある。にも関わらず、わざわざスラム街に
やって来た。つまり自宅が必ずしも安全ではないと言う事になる。
 たとえ街全体が厳重に警備されているのだとしても、家族にまで一日中護衛が張り付いている
と言う訳ではない。街が警戒態勢にあったとしても居場所は分かりきっているのだから、狙うのだ
としたら間違いなくここだろう。現に私がそれを証明している。
(六番街ならば街自体が格好の隠れ蓑、……考えたものだ)
 その一方で引っ掛かりを感じていたのも確かだ。
 自ら開発を手がけ、この都市にあれだけの自信を持っていた男が、わざわざ自宅以外の場所に
大切な家族を移すだろうか? それも歓楽街の一角に。伊達や酔狂でもあるまいし、敵の裏を
かくという意図があるのだとしてもリスクは少なくないはずだ。六番街スラムは秩序や統制とは
無縁の場所。いつ何時テロリストと遭遇するか分からないし、神羅の目の行き届かない場所は
それこそ無数にある。そんな場所で安全を確保、そのための正確な状況を常に把握するのは
至難の業だ。
(これではまるで、神羅の目さえも欺こうとしているようだな……)
 頭が切れる分、必要以上に用心深い性格なのだろうか? それとも。
(自分が属する神羅カンパニー内部も、決して安全という訳ではないと?)
 さすがに考えすぎだろうか。
 それに彼の立場や境遇を考えたところでどうにもならないし、どうする気も無い。
 シャルアは立ち上がり拳銃をホルスターにしまうと、その上からコートを羽織って仮拠点として
いたスラムのあばら屋を出た。

 歓楽街に向かう道すがら、通りがかった小さな公園にいた白髪の男性が目に止まった。
 お世辞にも綺麗とは言えない公園には、どこからともなくスラムの子ども達が集まっていた。
賑やかと言う程ではないものの、スラムでは珍しく子ども達の声が聞こえる場所だった。

16 :
 そんな中にあって、白髪の男はひときわ異質だった。しかも子ども達に何か声をかけて回って
いる。彼の行動を最大限好意的に解釈したとしても、公園から子ども達を追い出そうとしている
様に見えた。
 見かねた私はきびすを返し、公園の中へ入っていった。
 滑り台の手前まで来ると、立っていた男の肩に手を置く。
「おい、あんた何してる?」
 しゃんとした立ち姿ではあるが、振り向いた顔には大小多くのしわが刻まれていた。見た目から
して初老と言ったところだろうか。てっきり酔っ払いの類かと思っていたが、そうでは無さそうだ。
何か事情でもあるのだろうか?
 しわのせいか、表情は穏やかにも見える。しかし、彼の口からは出されたのは似つかわしくない
重々しい声だった。
「お嬢さんも早うここから出なさい」
 あまりの差違に戸惑ったが、気を取り直して言い返す。
「いい年した大人が、公園を独り占めでもしたいのか?」
「そう思いたいなら勝手にすると良い。ほれ、さっさと行きなさい」
 こちらの話には取り合おうともせず、半ば一方的に男は遠くに見えた教会の屋根を指しながら、
もう片方の手で私の背中を押した。
「ちょっと待て。私の話……」
「老い先短い自分にできる事も限られとる。なあお嬢さん、ここは黙って年寄りの意見を尊重して
くれんかの?」
 背後ではわいわいと子ども達が教会を目指して駆け出していく。どうやら子ども達に嫌がらせを
しているのでは無さそうだ。ここで足を止めて声をかけたのは早計だった。
「生憎、一方的に押しつけられた理屈に従うのは性に合わないんだ。まあ良いさ、この先はお互い
好きにしようじゃないか」
 いずれにせよ、私がこれ以上ここに留まっている理由はない。じいさんも私の話に聞く耳を持って
いる訳では無さそうだ。だとすれば話は終いだ。
 背を向けて歩き出すと、今度は腕を掴まれた。
「そっちはいかん」
「じいさんには関係ないだろう?」
 掴まれた手を振り解いて再び歩き出すと、男は無言で後を追ってきた。互いに干渉しないという
解決策を見出した矢先だったので、ひどく癇に障った。
「帰れ」
「そっちはいかんと言っとるやろ。そろそろ怒るで?」
 怒りたくなるのはこっちだ、と言いたくなる気持ちをぐっと抑えて別の言葉を探す。
「怒るのは勝手だがなじいさん、こっちにも事情があるんだ。ただ散歩に来てる訳じゃない」
 すると、背後から聞こえいた足音が止んだ。安堵したのも束の間、ひときわ低くよく通る声音が
告げる。
「……『あんたの尋ね人はそっちにおらん』と言うたら?」
 私は思わず足を止めて振り返る。
「あんた何者だ?」
「見ての通り、ただの年寄り」
 突然声のトーンが明るくなったかと思えば、言いながら両手を広げて満面の笑みを浮かべる。
顔のしわがさらに増えたせいで、表情から相手の意図をまったく読み取れない。
「嘘を吐け」
「では『さすらいの占い師』、でどうかな?」
「ふざけるな」

17 :
 こいつは呆けているのか? それとも話をはぐらかそうと意図的にやっているのか?
「お嬢さんの事を占った結果を述べたまでだ。当たるも八卦、当たらぬも八卦」そこで笑顔がすっと
消える「……しかしな、絶対にそっちへ行ってはいかん」。
 言い終えた後も一度ゆっくりと首を振る。そんな老人に向き直って、彼の両肩に手を置いた。
「頼むじいさん、私にも分かるように説明してくれないか?」
「さっきから説明しとるやろ。『そっちに行ってはいけない』、簡単な話や」
 まるで「呆れた奴だな」と言いたげな視線を私に向ける。
「それは分かってる。私が聞いてるのはその根拠だ。まさか占いか?」
「予知能力者とまでは言わないが、年寄りの戯言扱いされるほど精度は悪くない」
 再び浮かべた笑みを崩さないままで老人は言ってのけた。
(このじいさんと、以前にどこかで会った事が?)
 思い返してみるが心当たりがない。だからどう考えても自分の事は当て推量でしかないのだが、
推測するにもその材料をどこから持って来たのかが分からない。いや、だからこそ占いなのか。
 あるいは、年の功がなせる巧みな話術か。
「お前さんに真相を打ち明ける事は我が子を裏切る行為。だがお前さんをそのまま放っておく
なんてワシにはようできん。……願わくば我が子と孫を恨まんでおくれ」
 そう言って老人は私の左手を取り、両手で包み込むようにしてそっと握った。顔と同じ様にしわ
だらけの温かい手は、小刻みに震えていた。
「じいさん……?」
 私に問い返されるのを拒むようにして、ゆっくりと手を離したあと深々と頭を下げた。それから
老人は背を向け、先に歩いて行ってしまった。
 ただなんとなく、その姿が見えなくなるまで私はその場から動けずに、彼の背中を見送った。
 けれど結局、私は老人の忠告を無視して彼の後を追って歩を進めた。そのためにここへ来た
のだから。
                    ***
 その日、轟音と共に空の一部がはがれ落ち、地上にあった街の全てを飲み込んだ。私が覚えて
いるのはそこまでだった。
 その後の記憶はほとんど無い。誰に助け出されたのかも、どこへ運ばれたのかも。
 ただ言える事は、あのとき老人の忠告に耳を傾け公園で足を止めていたからこそ、こうして生き
存えているのは間違いない。もしもあそこで立ち止まっていなければ、今ごろプレートの下敷きに
なっていただろう。

18 :
 そして本当の意味で老人の忠告が正しかったと知るのは、それからさらに3年の月日が経って
からだった。会って礼の一つでも言いたいところだが、残念ながら今もって彼が何者だったのかは
分からずじまい。せめて名前ぐらい聞いておけば良かったと、今さら悔いたところでどうにもならない。
 年を重ねるにつれて当時の記憶は徐々に薄れていった。けれど、しわだらけの手のひらと小刻み
に震えていた老人の手の感覚は、左腕を失った今でもはっきりと覚えている。
 何故それを思い出したのかは分からない、だがちょうど良い機会だから礼を言っておこう。
 ありがとう。

----------
・話の流れはPart7 294-298(まとめページで言うとMemory1)の続き。
・FF7本編で蜜蜂の館にいたけど、デンゼル編では自宅にいなかったあの人と、シャルアさんの
 左腕の行方をねつ造。
・どう考えても蜜蜂の館に両親を連れて行ったリーブの思考は常軌を逸してると思うのですが
 (そりゃもうFF7本編の父の反応が最も適切だと思いますw)
 この後のプレートの件を予見していたんだとしたら、やむを得ない選択であり最善だったんでしょうね。
 …機会があればこの話はいずれ。(なんとなく、リーブの名誉のためにw)

スレ立てて下さった方、いつも保守して下さる方、拙作を読んで下さる方、皆さんどうもありがとう。
またここで書けて嬉しいです。
そしてまだ見ぬ新作や新たな書き手さんの登場にも期待sageしつつ、保守のお供に。

19 :
GJ!

20 :
GJ!

21 :
乙!

22 :
初めて書きます
FF8の三つ編みの図書委員の一人称で、F.H.のイベント後の辺り。
◆◇◆◇◆◇◆
ゼル=ディン。17歳。食堂のパンが大好きな、格闘家。
今年、SeeD試験に合格し、初の任務でレオンハート先輩、ティルミット先輩共々、何やら面倒に巻き込まれる。
愛読書は児童書のププルンシリーズ。
これが、私が貴方について知り得たすべてで、当番ではない日にも図書室に足を運ぶ理由のすべてです。
きっかけ、というものが自分でも分かりません。
落ち着きのない人、と思っていました。あれなら、私の同級生の男子の方がまだ、大人しいと……。
風紀委員長やレオンハート先輩のように、怖いとは思いませんでしたが、積極的に関わろうとも思いませんでした。
いいえ、それ以前に貴方と私には、接点などまるで無かったのです。
強いて言えば、一冊の本でしょうか。
「これと同じシリーズの、ある?」
貴方はそう言って、貸出作業に従事していた私に、ぼろぼろになった、でも本好きが見れば大切にされてきたと
一目で分かる『さよならププルン』を差し出しました。
意外、と思ったのを、良く覚えています。この人、本なんか読むんだ。
私は蔵書検索をかけ、今借りられる状態のものは一冊だけ、児童書コーナーにあると伝えました。
(続き)

23 :
>>22の続きです
その日から、足繁く貴方は図書室に通うようになり、ププルンシリーズをリクエストしていきました。
私はそのたびに、該当する本を借りたままにしている生徒(主に某風紀委員)に督促をしたり、
まだ入っていないものについては、図書室担当の教官に購入できないか掛け合ったりしました。
それが私の仕事だからです。本好きとして、本を求める方には何としても提供しなくてはなりません。
ですがある日、友人の図書委員に言われました。
「あんた、ディン先輩が来ると、真っ先に立ち上がるよね。頼まれごとも、
超速く処理するし。
あんた真面目だけど、ちょっととろいから、びっくり!
で、すっごい嬉しそうな顔してるの。気づいてないでしょ?」
言われて初めて気づくこともある。揺さぶられることもある。
私はいつしか、貴方の来るのを心待ちにしていたのです。
(続きます)

24 :
>>22,23の続きです
「ププルン、お好きなんですね」
あの日、私は勇気を出して初めて事務的ではない言葉を掛けました。
「ああ、いや、この間実家に帰ったら、俺の部屋に置いてあったんだよ。
おふくろに聞いたら、俺が好きだった本が出て来たって言ってた。
こんなにぼろぼろになるくらい読んだなら、少しくらい覚えてても良さそうなのに、全然内容思い出せねーの。
……参ったぜ」
貴方はいつものように笑って言いましたが、その笑顔はひどく寂しそうで、いつもとは何かが違っていて、
この日から、私の図書室通いが始まったのです。
放課後、私はいつものように1階に下りて、ホールを左にまがります。
見えて来ました。「図書室」というプレートの前で、シャドウボクシングに勤しむ貴方の姿が。
私に気がついてくれたようで、動きを止め、軽く右手を挙げました。私も軽くおじぎをします。
そんな笑顔を向けられたら、期待してしまう。願ってしまう。
今だに顔や腕や脚に絆創膏が絶えず、幾度となくTボードを没収されているくらい、体を動かすのが好きな貴方が、
訓練施設へ行かず、ここにいる理由。
学園長やレオンハート先輩たちとの会議がなく、外に出ていないときに、ここにいる理由。
もしかして、私と同じだと思ってしまって、良いのでしょうか。
◆◇◆◇◆◇◆
この純粋培養っぽい二人が大好きです。
最後まで目を通して下さって、ありがとうございました。

25 :
GJ、乙!
甘酸っぱくて可愛いのう

26 :
>>22-24
この二人いいな〜!新鮮。
なんだろう、読んでるとこう、くすぐったくなるこの感覚がたまらない(変な感想ですみませんw)
FF8の物語って、G.F.ジャンクションの弊害で記憶障害が起きるってものだったと思うのですが、
プレイ当時、これが結構怖かった様に記憶しています。知らないうちに忘れてくって怖い。
ゼルが不確かな自分の過去(という自分の一部)をつなぎ止める為に選んだ手段が本だとしたら、
そこにいた三つ編み図書委員(の一人称)は、彼の今をつなぎ止める重要な人になり得る。
…って考えたら、このお話ってかなりシリアスなんですよね。
なのになんなんだこのくすぐったい二人は!!いいぞもっとやれw

今年もこのスレでたくさんの作品と出会えますように。

27 :
>>25-26
レスありがとうございます。
反応があるって、嬉しいですね〜!
調子に乗って、新作投下します。
またまた三つ編みちゃんの一人称、ガルバディアガーデンとの衝突前夜、あたりのお話です。
忍法帖が作成されてしまい、細切れでの投下となります……

28 :
そろそろまともに投下できるかしらん?
 FF8、三つ編みちゃん一人称。
ガルバディアガーデンとの衝突前。
◆◇◆◇◆◇◆
 バラムガーデンが漂流生活をはじめてから、どれくらいたったでしょうか。
F.Hに衝突して、かの地の方々に航行装置を改造していただいてからは、ガーデンも
目的を持って動いているようではあります。
 ですが、今、どういう状況にあって何を目的としているか……その詳しいことまでは、
私たち、一般のSeeD候補生には知らされません。それでも皆、
反抗せず粛々と従っているのは、ひとえにレオンハート先輩を中心とした、
リーダーの先輩方のカリスマ性の賜物と言って良いでしょう。
 ガーデンは空を飛び、海を渡るという非日常的な状態にありながら、
私たちは極めて日常的な生活に戻りつつありました。ただ一つ、私のこころを除いて……。

29 :
>>28の続きです
 その日、図書館当番同士のじゃんけんに負けた私は、司書室でストックしておく
おやつを買いに食堂に併設された売店へ向かいました。お昼時は食料をめぐる骨肉の争いが絶えない
学生食堂ですが、放課後はおしゃべりに興じる女子、何か食べながら勉強したい生徒、
カードゲームに熱中する男子(稀に正SeeDや教官も)などで賑わっています。
天窓から穏やかな光の差し込むカフェテリアは、学園長派とマスター派の内紛があったことなど
遠い過去に思えるほど、平和そのものの色をしています。コーヒーやお菓子の、甘い誘惑に満ちた
においの充満した一帯は、まるで誰かの幸福な夢を覗いているようです。
 私はクッキーやチョコレートを両腕いっぱいに抱えながら、売店のレジへ向かいました。
 ――と。
 不意に、カフェテリアの方から聞き覚えのある、そして私がいつも知らず知らずのうちに
さがしてしまっている声が耳に届きました。
 私は声のするほうを見ます。そこには、目が覚めるようなスカイ・ブルーの服を着た黒髪の女子と向かい合い、
親しげに話をする貴方の姿がありました。
 こちらから貴方のところまでは結構な距離があり、また、周りのざわめきとも溶けあって、
話の内容までは聞こえません。心臓が今までにないくらい慄え、浮遊感にも似た、
脳髄までもが脈打っているような感覚。見たくない、見てはいけない、見たくないと
心の内では絶叫しているのに、私の目はふたりの姿を捉えて離しません。
 
(続きます)

30 :
>>28-29の続きです
 黒髪の女子は、腕を後ろに組み、少し前かがみになって貴方の顔を覗き込んでいます。
何を言われたのでしょう、貴方は驚きの表情を浮かべると同時に、少し大げさに後ろに下がります。
女子は笑いながら首を横に振り、貴方の胸を軽く叩いて――。
 視界が真っ暗になりました。
 そこから先のことは覚えていません。気が付くと私は、自分の部屋のベッドの上にいました。
床にはお菓子の袋や箱が散らばっています。サイドボードの上には、くしゃくしゃになった
売店のレシートと、10ギルコインが3枚。
 決して幸福とは言えない、むしろ胃袋が胸の辺りまでせり上がって自己主張している
不快な満腹感から、私はストック分のお菓子をひとりでほぼ食べつくしてしまったことを知ったのです。
 それから数日、私は学生寮で寝込んでいました。カドワキ先生が時折看に来て下さいましたが、
「回復には数日かかるだろうねぇ。申し訳ないけど、私には薬は出せないよ。
時間が解決するか、想い人に不安を取り除いてもらうか、どっちかだね」と言うので、哀しくなってしまいました。
 私の不安が除かれることなど、ない。だって、貴方はあの女子とあんなにも、親しい。
貴方が図書館に来る、来ないで一喜一憂する私には、貴方の胸に触れることなど、到底、できない。

(続きます)

31 :
>>28-30の続きです
一瞬でも、貴方が私と同じ理由で毎日図書館前にいるのだと思ってしまっていた自分が、
いかに舞い上がっていたかを思い知らされました。
「ねえ、あんたのことをすっごく心配しているSeeDの人が、毎日図書館に来てるんだけど」
 同室の図書委員の友人が、ベッドに横になっている私に言いました。
私は顔を彼女のほうへ向けます。
 SeeD。でもきっと、貴方ではない。でも、それでも、もしかしたら……。
 私はベッドから起き上がり、髪の毛を後ろで三つ編みに結い始めました。
 
 そして私はまた、図書館の貸し出しカウンターに復帰しました。私の目の前にいるのは、貴方……
ではなく、見知らぬSeeDの男性。SeeD服はまだ真新しく、彼が新人か、
さほど派遣の経験を積んでいないかのどちらかであることを物語っていました。
 貴方が私のことを心配してくれるはずなんて、ない。
 私は再び感傷に片足を浸しながら、よく動く目の前のSeeDの口を眺めていました。
「ねえ、君、少しやせた? すごく心配したよ、具合が悪いって聞いて。
最近はずっと毎日、カウンターに立っていたのにね? そうそう、君が出てきたら聞こうと思っていたんだけど、
『失われた古代文明〜セントラ遺跡の秘密』って本、あるかな?」
 そんな本、あったかしらん?
 私は疑問を抱きながら、一応端末から蔵書検索をかけます。
それが私の仕事だからです。思ったとおり、ディスプレイに浮かび上がる、
「検索結果:0件」の文字。

(続きます)

32 :
>>28-31の続きです
「ないみたいですね。購入希望を出されますか?」
「いや、いいんだ。……ねえ、それより、抜けられないのかな? お茶しない?」
「今、ですか? 当番なので……」
 他の委員が、こちらを気にしているのが、気配で分かります。
私は早くどっか行け、と心の中で悪態を吐きました。
しかし、彼にそれが伝わるはずもなく……。
「きゃっ!」
 私は思わず、小さく悲鳴をあげてしまいました。入り口付近の書架を眺めていた生徒が、一瞬、
こちらに視線をよこすのが、のびてきたおしゃべりSeeDの腕と肩の隙間から見えました。
私が悲鳴をあげた理由。それは、目の前にいるSeeDが私の髪に手をのばし、指先で撫ではじめたからでした。
「ああ、驚かせてごめんね。……君はまるで、ラプンツェルのようだ……。
その髪の一筋一筋まで、僕を捉えて離さない」
 背筋がぞくっと粟立ちます。瞬間、貴方と楽しげに話をしていた女子の姿が浮かびました。
あの、慣れていそうなあの人なら、どう切り抜けるのでしょうか。
ふと、喉の奥から熱い塊が込み上げてきて、目の奥に苦い涙の気配を感じました。
私はこいつだけには涙を見せまい、とうつむきました。
「ねえ、恥ずかしがらないで? 今度、君とゆっくり話がしたい。
当番じゃないのは、いつ?」
「や……」
 やめてください、と唇が動きかけたそのとき。

(続きます)

33 :
>>28-32の続きです。
「おい」
 私の髪にまとわりついていた指がすっ、と離れます。聞き覚えのある声。
私の心を優しく包んでくれる一方で、嵐のようにかき回す……。
私はゆっくりと顔を上げました。
「なんだ、暴れん坊チキンか。邪魔しないでくれ。
今、僕は彼女と愛を語り合っているところなんだ」
「はーぁ? 俺には嫌がっているようにしか見えなかったけどな」
「何だって? 新人の君が僕に盾つこうなんて、」
 どん。
 貴方は気持ちの悪いSeeDの言葉を遮るように、足で床を鳴らし、睨みつけます。
男性にしては幾分小柄な貴方は、相手を見上げる形にはなっているけれども、
その表情には怒りとも威嚇ともつかない色が浮かんでいて、いつもの朗らかな
貴方からは想像もつかない凶暴さを感じさせます。
けれど、私は貴方の顔から目を逸らすことが出来ず、高鳴りつつある鼓動を感じていました。
 嘘、と私は心の中で呟きます。
 嘘、貴方が私を助けてくれている……。
「あっ、そう言えば次の任務の時間だ。本部に戻らなくちゃ。
阿呆の相手をしているほど、暇じゃないんでね」
 気色悪いSeeDは貴方から目を逸らしつつ、早口でそういい残し、足早に図書館から出て行きました。
入り口ゲートの近くに立って、いつしかこちらを見物していたらしい
テンガロンハットの男性が、彼に柔らかい声で語りかけます。

(続きます)

34 :
>>28-33の続きです
「ねぇ君〜、今時そんなんじゃ、女の子は落ちないよ〜? 僕が個人レッスンするかい? 
ガルバディア風の、レディの口説き方をさ」
「う、うるさい! このエロカウボーイ!」
 ひどいなぁ、という間延びした声が、不快なSeeDの背中を追いかけます。
その声で、私の緊張の糸もふっととけてしまいました。
 貴方は私の方を見ます。碧い睛に射すくめられ、身じろぎひとつ出来ず、
私もまた、貴方を見つめます。
「大丈夫か? 何かされなかったか?」
 幸福感で胸がいっぱいで、言葉が出てきません。私は壊れた人形のように、
ただこくこくとうなずくばかりです。どうしよう、お礼、言いたいのに……。
「ゼル、カッコよかったよ! あのままじゃ、ゼルの用事も足せなかったもんね」
 そう言いながら、黒髪の女子が貴方の傍らに立ちました。つかの間の幸福。
貴方は、この人と一緒にいたんだ。
 貴方は真っ直ぐな人。別に、私だから助けてくれた訳ではないのです。
たまたま通りがかったところで、見つけただけ。そんなこと、分かっているのに、期待してしまう。
ならばいっそ、知らん顔をして欲しかった。図書委員は、何も私でなくても、他にもいるのだから……。
 ――え?
 私は貴方の顔を見ました。もし、もし、私の見間違いでなければ、
「あ、俺スコールとキスティスと打ち合わせ! 
リノア、その子に事情話せば、本、借りられっから! じゃ!」

35 :
>>28-34の続きです
 貴方は駆け足で図書館を去っていきます。私は視線だけで貴方の背中を見送ります。
 リノアと呼ばれた女子が、微笑みながら言いました。
「ふふっ、ゼルってばね、あなたが絡まれていたのを見つけた瞬間、顔色変えて
あの人に声かけてたんだよ。あいつ、腹立つ、って言って」
 私の胸は、再び高鳴ります。貴方は私を助けてくれたのですね。私だけを見てくれていた。
甘い甘い感情が、ゆっくりと波紋を描きながら、体のすみずみにまで、広がります。
それはまるで、指先まで浸透して、軽い痺れを引き起こすかのようで……。
「本当は、打ち合わせなんかないの。ゼルも用事があるっていうから、一緒に来たんだけど、
貴方の顔が見られて、安心したみたい。素直じゃないよね」
 私のなかの不安や、この人に対するよくない思いが、するするとほどけて消えてゆくのがわかりました。
 リノアさんは、外来者用の貸し出しカードを作り、本を借りていきました。
甘くない、ほろ苦い恋愛小説を数冊。こういう借り方をする人は、間違いなく恋をしている人です。
 
 もし、もし、私の見間違いでなければ、あのときの貴方の耳は、赤く染まっていました。
 ねえ?
 見間違いなんかじゃ、ないですよね?
◆◇◆◇◆◇◆
三つ編みちゃんはおそらく、ゼルがリノアに指輪つくってあげるよ!
みたいなくだりの辺りを、目撃してしまったのだと思います
最後まで目を通してくださって、ありがとうございました。
予定よりはるかに長文になってしまいました。
スレの私物化、失礼いたしました……。

36 :
かわいい!GJ!

37 :
乙!

38 :
乙!

39 :
>>28-35
リノアがめっちゃ頼もしいw
最後の三つ編み図書委員の分析力との対比がいい余韻になりますね。
一人称ということもあって、作中、終始ふわふわドキドキな雰囲気も良かったです。

40 :
※お話の舞台はDCFF7終了後。登場人物はDC組の3人+1匹(?)。
※タイトルが大袈裟ですが所謂“誕生日ネタ”。時期はずれも甚だしいですが、保守のお供に。
----------

 誕生日。
 日付そのものの正確性や真偽あるいは表記上の問題は別として、誰しもが暦年の中の
どこかで必ず迎える日。
 多くの者にとって、それは両手を使えば数えられる程度に貴重なもの。
 だがある者にとっては、永劫の中で繰り返される瞬きの一部であり。
 またある者にとっては、永遠に訪れないもの。
 多くの者は、その日を迎えれば祝う事を当然の風習として過ごしていた。
 だがある者は祝う事に意味を見出せず。
 またある者は祝う機会に恵まれず。
 これは一見すると正反対の境遇に見える彼らが迎えた、ある日の風景である。
                    ***
 迷路の様に入り組んだWRO本部の最上階には局長室があった。局長室と言ってもただの
部屋ではなく、中もかなり広い作りになっている。
 局長室は大きく2つの区画に分かれており、そのうちの1つが司令所区画と呼ばれていた。
ここはその機能を果たすために数多くの電子機器が持ち込まれており、有事の際にはここで
直接指揮を執る事もできる。WRO設立当初からあったものではなく、カダージュ達の一件が
あってから設計が見直された部分で、ディープグラウンドとの交戦時には敵勢に制圧される
まで司令室として十二分に機能を発揮していた。
 もう1つはリーブが執務に専念するための区画だ。襲撃を受ける前の室内には観葉植物など
も置かれ、どちらかというと清潔なオフィスといった印象だった。今はひとまず散乱した建材や
ガラス片などを退かし、作業スペースと最低限必要な機材を確保しただけで雑然としている。
天井のパネルや壁面の弾痕は襲撃当時そのままで、機器同士をつなぐ配線もむき出しだった
が、作業に支障は無いからとリーブは平然としている。隊員達が「局長室」と言う場合、多くは
ここを指している。この奥にある扉の向こうには、申し訳程度のスペースに水回りの設備一式と
仮眠室が設けられている。

41 :
 戦場の1つとなった本部施設の復旧作業は、各地からの応援も加わって急ピッチで進められ
た。今では目に見える場所は一通りの補修が済み、ディープグラウンドソルジャー襲撃前の
おおよその形を取り戻しつつあった。
 こうして隊員達の尽力によって取り戻したのは、なにも本部施設の機能だけではない。むしろ
彼らの本分は、その先にある世界の平和な日常だ。ディープグラウンドがもたらした混乱の
影響は未だ各地に深い爪痕を残している今は、彼らにとってはまだ通過点でしかない。隊員達
の戦いはこの先しばらく続きそうだ。
 それでも、以前に比べれば隊員達の心に余裕が出てきたのが見て取れた。それは決して
悪い傾向では無い。行き交う彼らの顔にも自然と笑顔が浮かび、交わす挨拶の声も明るい。
 そんな本部施設の廊下を颯爽と――まるで足早に何かから逃げる様にして――歩く男の
姿があった。
 男の名はヴィンセント・ヴァレンタイン。類い稀な運動能力の持ち主で拳銃の扱いにも長け、
さらに秀麗な容貌までもを備えたその人物には非の打ち所がない。そればかりか、ジェノバ戦役
で活躍した「英雄」として、周囲に広く知られる程の人物だ。
 ことさらディープグラウンドとの大規模な交戦のさなか、特に激戦区だったミッドガルを知る
隊員達にとってヴィンセントは今や「“無敵の”英雄」であり、尊敬どころか畏怖の対象にすら
なっていた。
 そんなヴィンセントが、追っ手を振り切ろうとでも言うような勢いで歩を進める姿は、ひときわ
不自然に映った。すれ違った隊員が声を掛ける暇を与えず横を通り過ぎ、背中を向けて歩き
去ってしまう。
「一体どうしたんでしょうね?」
 そんな疑問とも心配ともつかぬ声が、本部施設のあちこちで聞かれた。

 局長室の自動扉が開く無機質な機械音。彼の来訪を告げるのはその僅かな音だけだった。
この部屋の主、WRO局長リーブ・トゥエスティは穏やかな笑顔を浮かべ訪問者を歓迎する。
「何か問題でも?」
 しかしその一方で、彼がこの部屋へとやって来る動機に見当がつかなかった。暇ができた
からと談笑に来る様な人物では無い、大抵の事は自力で解決してしまう、だからここへ来る
となると余程の問題を抱えているのではないかと。
「いや」
 そんなリーブの懸念を一言で否定すると、訪問者は自動扉脇の壁に背を凭せ掛けると、腕を
組んだ「私がいると支障があるか?」。
「いえ、こちらは特に問題ありませんが……。一体どうされましたか?」
 気掛かりを拭いきれないとさらに問うリーブの声に、稍あってヴィンセントが答える。
 神羅勤続時代から、毎年この日になると皆から祝詞や贈り物をもらう。その度に彼は無表情に
小さな会釈を返さなければならない――局長室の壁に背を預けながら、これが未だに馴染め
ないのだと僅かにだが困り顔で零したのだ。
 それを聞いたリーブがようやく納得したと言わんばかりに頷いてみせると、晴々とした表情で
心当たりを口にする。

42 :
「言われてみれば今朝からユフィさんが熱心にあなたを捜していましたけれど、そういう事情
でしたか」
 自分と同じで、この男も誕生日というものにあまり頓着が無い様子だった。もっとも、だから
避難場所としてヴィンセントはここを選んだわけだが。
「なぜ皆、こうも熱心に誕生日を祝いたがるのだろう?」ヴィンセントが口にしたのは純粋な
疑問だった。その呟きめいた疑問の声に、リーブはさも当然という表情で応える。
「それはもちろん、祝い事だからですよ」
「誕生日を祝うという事が、私にはどうも理解できない。そもそも誕生日など、私自身が記憶して
いる事では無いのだしな」
 そう語ったヴィンセントには嫌みや批難という意図はないが、理解するための努力は明らかに
不足していた。
 もっとも、これまでの大部分の時間を定命の理から外れて過ごすことを余儀なくされていた
彼の境遇を考慮すれば、尤もな意見ではある。それを踏まえた上で、リーブは大きなため息を
吐いてからヴィンセントを見上げるとこう言った。
「……一般の方から言わせれば、誕生日を棺桶の中で迎える心境の方がよっぽど理解に苦しみ
ますけどね」
 猫の方であればまだ分かるが、この男自身も意外と毒舌家だなとヴィンセントは考える。とは
いえ、目の前にいるのも“本体”でない可能性もゼロではないが。
 一方のリーブは、真顔でこんな事を言い出す。
「ではこう考えてはいかがですか? 他人があなたの誕生日を祝うというのは、“あなたと出会え
た事に感謝する”という意味だと」
 それを聞いたヴィンセントは、このとき初めてリーブの心中に思慮を巡らせた。もしかしてこの
男は今、少なからず気分を害しているのだろうか?
「それともうひとつ、自分の誕生日を疑うなんてよっぽどの親不孝者と疑われますよ」
 続く言葉を聞いて、リーブの心中が穏やかでは無いのだと確信する。しかしその理由が分から
ない。
「……意外だな」ヴィンセントが口を開く「お前はてっきり誕生日などには関心がない物と思って
いたが」。
「祝うとなったら心を込めて、それが相手に対する礼ですから」
 平然と言い放った男に視線を向けながら、彼の言葉を律儀と取るべきか、あるいは折衝術に
必須の心構えなのかと些か判断に困ったヴィンセントは、いっそどちらであるかを尋ねてみたい
気もしたが、興味を抑えて言葉を飲み込む。
「それは面白い見解だな。参考にするとしよう」
「そういう事だととらえれば、会釈を返すのも煩わしさと感じる事は少なくなりますよ」
「煩わしいなど……」
 形だけでも抗弁してみるが、どうせすぐに看破されるだろうとヴィンセントは半ば諦めていた。
リーブの言い分が完全に正しいとは言えないが、煩わしいと思う面が皆無というわけでは無い。
「では、今日ここへいらしたのはどういったご用向きですか?」
 そう問うリーブには勝算があった。案の定、ヴィンセントの口から反論が出る事は無かった。
 満足げに応えるリーブを見ていて、ある事に気が付いた。ヴィンセントは反論の代わりにそれを
口にする。
「……ところで、お前が誕生日を祝われているところを見た事が無いが」
 ジェノバ戦役から数えればもう数年来の付き合いになる。しかも他の仲間達以上に今や衆目に
晒されている身分の筈だが、不思議と彼の誕生日についての話は一度も耳にしたことが無いのだ。

43 :
「私の誕生日をお教えしたら、祝って頂けるんですか?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべてリーブは問い返す。
「……返答によってはそれもやぶさかでは無い」
 そう言ったヴィンセントを見上げて「では期待しないでおきましょう」と笑ったリーブは、再び
机上の山積みとなった書類に視線を落とす。どうやら質問に答えるつもりは無いようだ。
「あまりのんびりし過ぎていると、ユフィさんがこちらへ戻ってきますよ」
「そうか」
 そんなリーブの姿に、少なからぬ違和感を覚えてヴィンセントは内心で首をかしげた。彼の
ありがたい忠告に従って、このまま部屋を出る気にはなれなかった。
                    ***
 同じ頃、WROのエントランスではケット・シーがユフィの詰問にあっていた。
「ネタは挙がってるんだぞケット・シー! ヴィンセントはどこにいるのさ!?」
『な、なんやねんユフィさん、濡れ衣や! ボクは無実や!!』
 そう言って後ずさるケット・シーの背後に素早く回り込んだユフィによって、彼の退路は断たれた。
 しゃがみ込んだユフィはケット・シーの耳元でささやく様にして言った。
「その態度いかにも怪しい! うしろめたい事があるんだろ? さあ吐くんだ、苦しい思いは
したくなかろう?」
『ってセリフがすっかり悪役やないか! 疚しい事なくても逃げたなるわ!!』
 いつも通り戯けた様子のケット・シーだったが、今日のアタシはひと味違うのだとユフィは彼の
しっぽを掴むと立ち上がった。
 突如としてケット・シーの視界が床一面になる。何事が起きたのか一瞬では理解できなかったが、
自分が逆さまになっていると把握したケット・シーが、じたばたと手足を動かす。
『わわわ、いきなり何すんねん! 降ろして〜! 降ろして〜な〜!』
「居場所を吐けばすぐに楽にしてやるぞ〜」
『堪忍や〜、ホンマに“ボク”はなんも知らんのや〜』
 エントランスに響き渡ったその声は、もはや懇願と言うより絶叫に近かった。

----------
・次回投下分で完結します。

44 :
 何の前触れもなく、リーブはこめかみに手を当てて小刻みに首を振る。
「これは参りました……。私はシドの様な経歴の持ち主では無いというのに」
 唐突に呟いた言葉の指すところが分からず、ヴィンセントがその意図を問うと、リーブは
恨めしげな視線を返す。
「いったい何の話だ?」
「ユフィさんがあなたの居所を吐かせようとケット・シーの尻尾を掴んで振り回しているん
ですよ。……まあ、文字通りにこれなら私を吐かせるには有効な作戦なのは間違いない
でしょうけど」確かにケット・シーぐらいのサイズなら、ユフィが振り回すには手頃だ。しかし
ケット・シーと感覚を共有するリーブにとっては良い迷惑だ。
「以前読んだ資料にあった飛行士の訓練カリキュラムに、こういった物があったように記憶
していますが、私はその道の人間ではありません。さすがにこれは身に応えます」
 つまりユフィの狙いは当たっている。まさかこれほどの強硬手段に出るとは思いもしなかった。
 もっとも、リーブがケット・シーとの感覚共有を完全に断てば良いだけの話だが、そうする
にはケット・シーが不憫に思えてならないし、相手がユフィとなると本気で抵抗するわけにも
行かない。
「ヴィンセントさん、これは腹をくくった方が良さそうですよ。彼女は本気です」
「……なぜそこまで?」
 うんざりしたように呟くヴィンセントを横目に、リーブがさも愉快だと言う様に笑った。
「ユフィさんの場合は、あなたに対する先行投資という意味合いが大きいでしょうね」
 リーブの浮かべた笑みの真意を理解したヴィンセントは、これまで避難場所としていた
局長室の安全が脅かされていると言う現実を悟った。壁から背を離すと組んでいた腕をほどき、
退去の準備に取りかかる。
「なにはともあれ、良い一日を」
「そうなるかどうかは、お前次第だな」
 はははと笑って、リーブは扉から出て行くヴィンセントの背中を見送った。自動扉が閉まると、
局長室は静まりかえる。
 無意識にふとため息を吐く。どうやらケット・シーの方も無事に解放されたようだ。
「よく堪えましたねケット・シー、お疲れ様でした」
 口に出す必要は無かったが、気が付くと声に出ていた。そう言って振り回されていたケット・シー
を労ってやる。やがてユフィがこの部屋にやって来るのは分かりきっている。嵐の前の静けさ
といったところか。
「ご褒美に、なにかご希望があれば承りますよ?」
『……どういう風の吹き回しや?』
 ものすごく訝しんでいる様子が手に取るように分かる。まぁ、元々は自分の分身だし労を労う
なんて事はしていなかったから当然と言えば当然の反応だった。
「いつもよく働いてくれますからね、たまにはお礼もしなければなと」
『なんや急にそんなん言われると気持ち悪いなぁ』
「なんです? 人聞きの悪い」

45 :
 ケット・シーは記憶や感覚を共有する自分の分身であって、けれども感情と行動を別にした
自分とは異なる不思議な存在。
『……はは〜ん? なんやまた気にせんでもエエこと気にしとるんやろ?』
「余計なお世話です」
 ああしまったとリーブが察する前に、いつものように戯けた口ぶりでケット・シーが懸念の元を
言い当てる。
『あんたも分かってる通り、しゃーないやろ。こんなご時世、ボクらの用途から考えたら1年も
使えてればご長寿さんやて。マントやのうてちゃんちゃんこ羽織らなアカンぐらいや』
 先程ユフィに振り回されていた感覚や記憶をリーブが共有できる様に、ケット・シーがリーブの
身に起きた出来事――つまり先程までのヴィンセントとのやりとりを共有することは造作も無い
事で。
『まぁ、ちゃんちゃんこは格好悪いからボクはマントの方がエエけど。あんたの言う定義に当て
はめたら、ボクは毎日が誕生日やね。“誕生日”って言うのが気に食わんなら、“命の日”で
エエやないか』
「……“命日”とは皮肉ですね」
 リーブの返答を受けてケット・シーは呆れたと言わんばかりのため息を吐いてから。
『こらこら勝手に短縮したらアカン。こうしてみんなと居るだけでも御の字やないか。それにな、
こういう環境の方が毎日を全力で過ごせるやろ? ボクはわりと気に入ってるで』
 けど今日みたいに振り回されたりするんは勘弁やけどな、と付け加えることも忘れない。
 そうですねと穏やかに相づちを打とうとしたが、今し方の事を思うとリーブとしては笑うに笑えない。
『……その、なんや。あんたに隠し事してもしゃーないし、エエ機会やから言うとくけどな』
 一転してケット・シーが神妙な様子でこう話を切り出す。
『ボクは自分の役割をきちんと理解しとるし、もちろん納得もしとる。せやから“ボク”の誕生日
なんてどうでもエエねん。あんたもホンマは分かっとるやろ? けどな、こうやって余計なところに
気を回してくれはるんは嬉しい……っちゅーか、ちょっとホッとするんや』
「……?」
 ケット・シーの意図するところが分からずに、リーブはただ黙って話に耳を傾けていた。
 局長室の自動扉が開いたのは、そんなときだった。
「お〜いヴィンセント! ……ってあれ?」
「一足違いでしたねユフィさん」
 リーブは何事も無かったかのようにいつもの笑顔を向ける。局長室に一人だけ残っていた
リーブの姿を認めるなり、ユフィはあからさまな疑いの目を向ける。
「誤解ですよ」
「アタシまだな〜んにも言ってないんですけど?」
「『目は口ほどに物を言う』とね」
 リーブは笑顔を崩さない。
 対するユフィはデスクの前まで歩み寄ると、机上に片手をついてリーブを見下ろしこう言った。
「では、逃走の手引きをしたのはおっちゃんだと認めるんだな?」
「あれだけ振り回されれば、否が応でも吐きますよ」

46 :
 今し方ユフィがケット・シーにした事を示すように、リーブはあげた左手をくるくると回して見せた。
「……おっちゃん、それ日頃の運動不足だよ」
 ユフィは身を乗り出し、さも自信たっぷりに断言する。
「ところで三半規管と運動不足って直接関係あるんですか?」
「ま〜、おっちゃんの場合は睡眠不足かな〜」って話を逸らすな! とユフィが口を尖らせる。
 そもそも最初に話を切り出したのはユフィ自身の様な気もするが、そこは敢えて追及しない
方が話がスムーズに行くだろうかと考えていたリーブの左手を、ユフィが掴んで思い切り引っ
張った。
「ちょ……ユフィさん?!」
「おっちゃんの運動不足解消に協力してあげる代わりに、おっちゃんもアタシの計画に協力する。
うん、これでいいじゃない!」
 さあさあと引っ張るものだから、リーブは仕方なしに椅子から立ち上がり、ユフィの後に付いて
いく。しかし局長室の扉を目の前にして、気掛かりだった事を尋ねてみる。
「ところでユフィさん、今朝からこれだけ熱心にヴィンセントを探しているのは彼の誕生日祝いが
目的ですよね?」
「もちろん!」
「ですが彼はあまりこの手の行事が得意では無いように見えるんですが」
 その言葉にくるりと振り向いたユフィが、リーブを見上げて目をしばたたいた。
「だからに決まってるじゃん。いーっつもすました顔してるヴィンセントが驚くトコって、見てみたい
じゃん?」
 屈託の無い笑顔を浮かべるユフィに、最初こそリーブははっと息を呑むが、やがて目を細めて
心からの笑みを浮かべる。
「そうですね。私もヴィンセントが“喜ぶ”ところを見てみたいですね」
 彼女は上手くごまかしているつもりだろうが、ここは敢えて“驚く”ではなく“喜ぶ”と言い換えて
みる。
「…………」
 するとユフィは照れ隠しか無言になって背を向けてしまった。そんな彼女の姿が微笑ましく映る
反面、少し意地悪をしただろうか? と形ばかりの反省をしてみる。同時にこれこそが彼女の誇る
べき長所であり、自分には足りないものだとリーブは改めて思うのだった。
「そういう事でしたら、ユフィさんの計画に喜んで協力させてもらいますよ」
「ホント!?」
 リーブの言葉でぱっとユフィの表情が明るくなった。ころころと表情豊かに変化するユフィの
様子は、見ていて飽きることがない。
(ああ、私は少しばかり難しく考えすぎていたかも知れませんね)
 感慨深げに頷くリーブの前で、スキップする様な仕草で自動扉をくぐりながらユフィが呟く。
「へへっ、先に借りを作っておけば後で倍返しだもんね〜」
 この強かさもまた、将来のウータイを背負って立つに相応しいですねとリーブは感心しつつ
彼女の後を追って局長室を出た。
----------
・文量が多くなったので1回追加で、次こそ完結。

47 :
乙!!!

48 :
 補修と補強が施された風防ガラスの上を軽やかな足取りで渡りきると、支柱の間に渡された
梁を足場がわりに駆け上がって塔の頂上を目指した。その先でヴィンセントを出迎えてくれた
のは、所狭しと並べられたアンテナ群。本来は設備の保守点検のために命綱をつけた整備士
達が訪れる場所だったが、普段は誰もいない。
 山岳部を抜けてくる風が乱暴に肌を叩く。ここで作業に勤しむ整備士達にとっては厄介者で
しかないこの強風も、ヴィンセントにとっては心地よさを運んでくれるものだった。
 頭上の雲は休むこと無く形を変えながら流れ行き、眼下に広がる緑とその中に浮かび上がる
鉄橋、さらにその下を流れる水面が、降り注ぐ日差しを受けてそれぞれの色彩を放っていた。
 多くの人が集まるWROの施設の中では落ち着ける場所が少ない、そんな中でもここは喧噪
から距離を置くことができた。絶好の眺望と静寂がヴィンセントは特に気に入っていた。
 しかし、どうやら先客がいた様だ。
「……それで? お前の機嫌が悪かった理由は何だ」
 だからという訳では無いが、先客に問うヴィンセントの声は常よりも低かった。
『おやヴィンセントはん。こんな所で何してはるんです?』携帯電話でメールを打つのもまま
ならない彼が、まさか設備の保守作業に来たという事はないだろうとケット・シーが振り返る。
「質問をしたのは私だと思ったが」
 決して大きくは無いはずの声音は、まるで声そのものが風圧を押しのけているかの様に
はっきりと聞こえた。ごまかせないと悟ると、ケット・シーは観念したように返答した。
『……勘違いしてまっせ。機嫌が悪かったんはボクやのうてリーブはんや』
「では尋ね方を変えよう。『リーブの様子がおかしかった原因に心当たりはあるか?』」
 そう問うと、笑顔を絶やすことの無いぬいぐるみの表情に僅かな憂いが浮かんだような気が
する。
『ヴィンセントはんはホンマに優しいんやね』
「お前達ほどのお人好しではないが」
『ボクはお人好しちゃうで?』
 大きく首を傾げ、戯けた調子でケット・シーが言う。ヴィンセントは黙ったままその姿を見つめて
いた。
『……んー、参ったなぁ』
 くるくると首を回しながら、話をはぐらかそうとするがヴィンセントは一向に動じない。舌戦なら
まだしも、持久戦となれば明らかにヴィンセントに分があった。
『ボクがこんなん言うたら怒られてしまいそうやけど……』なにやら気まずそうに首を振りながら、
ケット・シーがこわごわと語り出す『時々な、リーブはんが怖くなるねん』。
 その返答を受けて、ヴィンセントはリーブの「怖さ」について考えを巡らせる。
 WROの局長となるだけあって度量も大きく、それなりに人使いも荒いが上手い。戦うのは苦手
とする本人の弁に反して、都市開発部門の出と言うには意外なほど銃の扱いにも長けてる。
特にディープグラウンドにまつわる一連の騒動においては、ミッドガルが戦場になったとは言え
彼の策士としての一面を垣間見た。
 こうしてリーブについて思い返すと、器用あるいは多才だと感心こそするものの、どれも「怖さ」
と呼べる物ではない。
「なぜ怖いと感じるんだ?」

49 :
 そう問うヴィンセントの心中を察したようにケット・シーが答える。
『いやぁ怖い言うても、威圧とかやのうて……どない言うたらエエんやろか……』
 あれだけ饒舌なケット・シーが珍しく言葉に迷っている。幸いにしてヴィンセントは気の長い方
だったから、話の先を急かそうという気は起きなかった。ただ、このケット・シーの様子から察す
るに、これから彼の口から語られる話が、やや深刻なものなのだろうと気構えていた。
『リーブはんにとってボクは“道具”って言うよりも、“自分の一部”って感覚なんやね』自分の
手や足が傷つけば痛みを感じるのと同じ様に、その痛みを受け入れる事で目的が果たせるの
なら、その犠牲を憂慮する必要はどこにもない。それがリーブと自分の関係性なのだと、まるで
確かめでもするように『ボクもそれに文句は無いし、こうしておる事自体が楽しいんや。なんや
言うても煩い事に悩まされんで済むし』。
 いつ終わるか分からないなら、日々を全力で生きられる。それが自分の役得みたいなものだと
ケット・シーは笑った。
『けどリーブはんは、……WROの局長として背負とるモンは、ボクには想像もつかんぐらい重たい
んやろね。現にボクじゃ分からへんし』
 ケット・シーの言う通り、リーブの周囲には常に多くの死がつきまとう。WRO局長を指して「死の
においを纏う男」などと言う者さえいる。表現に潜む悪意の有無はさておきミッドガル、メテオ災害、
星痕症候群、そしてディープグラウンド――確かにここ十年も経たない内に、彼は数え切れない
ほどの死に触れてきた。その度に飲み干せないほどの苦汁、時には煮え湯さえも飲まされた。
それでも尚、彼は歩みを止める事はしなかった。
『……星と、そこで生活するたくさんの人達のために心を砕いとる。けど、そんなん続けてたら
そのうち粉々になって無くなってしまうんやないか? って怖くなるんや』
「なるほど」そう呟いたヴィンセントは目を細めた「お前の言う『怖い』は心配という意味だな」。
 同時にリーブ自身の誕生日について話題に上らない理由も、なんとなくだが分かった気がした。
恐らく今し方リーブの口から出た“出会えた事に感謝”の対象が生者だけではないという事であり、
それが積み重ねてきた過去に対する彼なりの向き合い方なのだろう。
 律儀と難儀、リーブはどちらに該当するだろうかとヴィンセントはふと考える。
『ボクから言わせたらあのおっさん、危なっかしいったら無いわ』
「……そうだな」
 息抜きを奨めたところで、おとなしく聞き入れるとは思えなかったが「ケット・シーがこれだけ
心配しているのだから、話をしてみるのも良いかもしれないな」。
『頼んますわ〜。ボクが言うても聞かへんのや』

 その数時間後、ヴィンセントの姿はエッジのセブンスヘブンにあった。久々に集まった仲間達
と共にゲーブルを囲む、それこそまさにユフィの目論見どおりの光景だった。ティファと彼女を
手伝うマリンの手料理がテーブルを彩り、酒を酌み交わしながら話に花を咲かせる中年連中や、
賑やかな声と笑顔に溢れる若者達。目の前に並んだケーキを巡ってじゃれ合うデンゼルと
ナナキとケット・シーの姿を横目にしながら、ヴィンセントはぽつりと呟いた。
「……謀ったな」
 その声に顔を向けたケット・シーがしたり顔でこう言った。
『ああでも言わな、ヴィンセントはんここまで来なかったやろ?』

50 :
「そう主張するなら、“本体”はどうした?」
『心配せんでも、ちゃ〜んと後で来ますわ』
 悪びれた様子は全くない。
「……ほう?」
 疑いの眼差し向けるヴィンセントにも臆すること無くケット・シーはころころと笑う。
『ほれほれ、今日の主役がそんな顔したらアカンで〜』
 大皿を運んできたティファがケット・シーに加勢する。
「そうよ? ふだん誘っても来てくれないんだから。またどっか行っちゃったのかと心配になる
じゃない」
 そう言ってティファはにっこりと微笑む。オメガの一件では彼女たちにもずいぶん心配をかけ
てしまった。そういう経緯もあってティファに反論することもできない。
 それに。
「たまにはこうしてみんなと過ごすのも楽しいよね」
 ナナキの言う事も否定できず、最終的にはユフィに感謝しなければなと言う結論に落ち着いた。

 ちなみにこの約1ヶ月後、ヴィンセントは本格的に頭を悩ませる事になるのだが、それはまた
別のお話。

                                        ―1/8760 - 定命の理<終>―
----------
・10/13と11/20がヴィンセントとユフィの誕生日ということで、DC組で唯一誕生日設定されていない
 リーブとケット・シー(?!)の誕生日についてこじつけた話。時期はずれも甚だしい。
・こじつけた結果、若干シリアスになる。仕方が無いね。
 (というかインスパイアが“生命を吹き込む”なんて超能力設定されてるから、大抵シリアスになる)
・“誕生日を祝う”というのは文化的な側面から見るともっと深い部分があると思いますが、
 今回はどちらかというと「日常のひとコマ」なお話。
・FF7本編もそうですが、>>49がケット・シーの独立した意識なのか、リーブの介入があるか
 どうかで解釈が変わります。「謀る」云々の発言はこの辺に対するもの。(分かりづらくてすんません)
・オチがいまいち曖昧になりました。言いたいことがまとまらなかった結果です、反省。

51 :
乙!
ヴィンセントの誕生日祝うのは確かに苦労しそうだw
ユフィの誕生日に頭悩ませるヴィンセントも見てみたいw

52 :
GJ!

53 :
GJ
おもしろかった!

54 :
セブンスヘブンの表現がうまいなーくそー
>◆Lv.1/MrrYw

55 :


56 :


57 :


58 :
ねむねむ

59 :


60 :
保管サイトの管理人・関係者とかサイト放置しちゃったまんまいなくなってしまったのかな?
メアドの連絡が取れなくなっている。誰か知ってる人いませんか?

61 :


62 :


63 :


64 :
※(FF7)魔晄炉と魔晄文明のお話。
  タイトルとあわせて嫌な予感・不快に思った方は読まない方が良い。
----------

 見渡す限りどこまでも続く荒涼とした大地。空は青く澄み渡り、空の高いところにはうっすらと
筋雲がたなびいている。
 岩場と砂地ばかりの土地は植物が地に根を張るどころか、芽吹くことすら許さないとでも言う
ようにじりじりと照りつける太陽に晒され、衰えた土地をさらに干上がらせていく。かつて存在した
生命の僅かな痕跡さえも風にさらわれ、すっかり生気を失った不毛の地。
 そんな場所に、砂塵を伴って大小3つの影が現れる。深紅の体毛と立派な鬣を持った獣の
親子だ。躍動する筋肉と力強い鼓動はまるで炎の化身であるかのように、もしこの土地に彼ら
以外の生命がいれば、3頭の姿は目も眩むほどに輝いて見えたに違いない。
 やがて親子の行く手を遮るようにしてそびえ立つ断崖に近づくと、3頭はさらに速度を上げた。
足場になりそうな場所を瞬時に見極め、3つの中でもっとも大きな影が勢いよく駆け上がる。
しなやかな四肢を活かしあっという間に崖の頂上まで辿り着くと、眼下には断崖の向こう側に
広がった緑の生い茂る大地が一望できた。後に続いた2つの小さな影も、ややおぼつかない
足取りながら、先頭を行く大きな影に追いつこうと跳躍を繰り返しながら頂上を目指す。
 崖の頂で親子を出迎えたのは、吹き荒ぶ風と絶好の眺望だった。鬣や全身を覆う体毛が
強風にあおられる。まるでここが生と死の世界を隔てる絶壁であるかのように、彼らの眼下に
広がる世界は、この断崖を境にして相反する色を見せていた。
 長い年月の間に、この星のあらゆる場所を歩き、この目に風景を焼き付けて来た。そんな中
でもここは、故郷とは別の意味で特別な場所だった。
 そこはかつて――すでに懐旧を通り越し、はるか昔と呼べる程の時間が経つ――かけがえの
ない仲間達とR、彼らと共にひと時を過ごした場所。
 自分のあとに続いた2つの影が到着するのを確認すると、先に待っていた大きな影が眼下に
向けて首を振った。
「さあ、みてごらん」
 まだヒトの言葉を理解することはできなくても、子ども達は父の動作に倣って、眼下に広がる
緑の大地に目を向けた。

65 :
「ずっと昔、あそこには二本足で立つ者達が多く暮らしていたんだ」
 繁茂する草木に覆い隠されているものの、目を凝らせばその下にある遺跡群の輪郭を見出す
ことができる。長年の風雨によって腐食が進み、都市として繁栄を謳歌していた当時の面影こそ
失われているが、500年ほどが経過した今でもプレートを支えている支柱の多くが緑を纏い
ながらも健在である事には驚かされる。彼が思っていたよりもずっと堅牢な作りだった都市は、
皮肉にもそこで暮らす人々が消えた後も、ずっとその地に残り続けた。
 ふと、その都市の建造に深く携わった仲間のひとりが思い起こされた。思慮深い一方で、
自身の本音を覆い隠すようにしていつも笑顔を絶やさなかった男。
 もしも彼が自分と同じ風景を目にしていたとしたら、どう思ったのだろうか? と。
「……彼らはあの土地を、『ミッドガル』と呼んでいたんだ」
 堅固な都市の建造に関われたことを誇りと思うだろうか?
 この地から人々が去ってしまった事を憂うだろうか?
 それとも――。
                    ***
 ナナキの故郷は、かつて星命学の聖地と呼ばれたコスモキャニオン。
 幼年期の彼を育てたのは生みの親ではなく、峡谷に暮らす穏やかな人々だった。
 中でも親代わりに彼の面倒を見てくれたのが、峡谷の長老ブーゲンハーゲン。
 まだ谷を出たこともない程に幼かったナナキに、長老はよく谷の外の事を話して聞かせた。

 天の高みで煌々と輝く太陽に憧れ、大地に恵みをもたらすそれこそが神の偉業、あるいは
純粋な感謝の念から、一部の人々はそれを崇拝した。
 長い年月を経て、いつしか人々はそれを自らの手中に収めようと試行錯誤を繰り返した。
 ある者はそれを鼻で笑い、またある者は冒涜だと批難した。
 その間に多くの思想が生まれ、数え切れないほどの議論が交わされた。
 しかし結果的に技術の進歩が止まることはなかった。
 魔晄炉。
 地中を循環する星の生命そのものを汲み上げ、ヒトが利用可能なエネルギーに変換する
ための施設。
 人は太陽のように自らエネルギーを生産するのではなく、星の内にある限られた資源を
エネルギーとする術を見出した。
 それは文字通りに星の命を削る行為。非難の声は当然に上がった。
 一方でそれは、人々の生活に飛躍的な進歩と利便性をもたらした。
 そんな状況を目の当たりにして功罪相半ばすると評した者がいた。魔晄炉は今を生きる
人々には功を、未来を生きる人々には罪過の遺産になるのだと。
 繁栄に沸き返る中でさえ、少なくない人々が様々な方法で警鐘を鳴らした。
 けれど魔晄炉は無くならなかった。
 いちど知ってしまった豊かさを手放して、過去の不便な生活には戻れない。それが人の弱さ。
 同時に、今以上の豊かさを追求して困難にも立ち向かっていく力。それが人の強さ。

 結局のところ、人は自らの意志で魔晄炉の恩恵を手放すことはできなかった。
 彼らの中で神を気取った連中の辿った末路、それこそが500年が経った後にナナキ達の
眼下に広がる光景だった。

66 :

                    ***
 ミッドガルが遺跡群になるよりもはるか昔。まだその全貌が世に現れていなかった頃。
 多くの若手社員を前に、社長は弁舌を振るっていた。
「『安全だ』と口で言うことは簡単だが、無知な市民にはそれを実証して知らしめる必要がある」
 プレジデント神羅の打ち出した方針は、最初期のミッドガル都市建設構想から既に盛り込まれ
ていた。彼らの発見した魔晄エネルギーを象徴する新たな都市。地上にある八基の魔晄炉の
中心に本社を据え、都市に住む人々は富を享受し繁栄を謳歌する。都市は一定の区画ごとに
分割し、それぞれのセクターに商工産業の機能を割り当て、必要なすべてを都市内部でまかなう
仕組みを作る。
「我々は自社の技術に絶対の自信を持っている。なぜならその自信は現実によって裏打ちされて
いるのだからな。これなら市民も納得するに違いない」
 エネルギーは全てを生み出す文字通りの源泉だとプレジデントは考えた。一介の軍事企業
ではとうてい得ることのできない富を我が手にできる。しかもその富には、民の信頼という付加
価値まで付いてくるのだから、こんな絶好の商機を見逃す手はない。
 商機どころか、もしかしたらこの都市を足掛かりに“星の絶対者”になれるのかも知れない。
そんなことを言えば「子供じみている」と笑われるかも知れないが、そうやって笑った奴らを後悔
させてやろうではないか。
 市民に富を与えれば、彼らは提供者に服従する。
 いちど豊かさを味わった者は、それ以前の生活には戻れない。
 ヒトにとって幸福とは、クスリのような物なのだ。
 同じ量の幸福では、やがて満足しなくなる。今以上の幸福を渇望する。
 それを手に入れるためなら、どんな努力をも厭わない。
 たとえ他者の命を奪う事も。あるいは自分の身を削る事になるとしても。
「需要があるからこそ我々供給者たる産業が成り立つのだよ。私は兵器を売ることになんら
後ろめたさは持ってない。戦争は悪ではないのだから」
 プレジデントはそう言い切る。皆、自分の正義のために戦っているだけなのだ。戦争そのもの
が悪ではないのだと。
 反論の声を上げる者はいなかった。誰もが疑問を口にすることもしなかった。それこそが
プレジデント神羅の語った世界の縮図だったのである。
「……本題に戻ろう」咳払いと共にプレジデントが向き直る「先程も言った通り、我々は自社の
技術に絶対の自信を持っている。これから我々は過去に類がない大都市を作り上げる。その
ためにも、このプロジェクトには1つの失敗も許されない」

67 :
 言葉以上の威圧感が場を支配する。呼吸さえ止まるかと思う程のプレッシャーが、その場に
いた若手社員の心身を支配した。
「この都市が完成した暁には、人々はこれまでに無い豊かさを享受する事になる。住民が憂い
を感じる事無く暮らせる都市。その成否は、君たちの働きにかかっている」
 技術の進歩。文明の発展。そして、人々の幸福。それらを実現するためのプロジェクトこそが、
ミッドガル都市計画。誰かを傷つけるための兵器開発ではなく、戦をするための軍需産業でも
なく、君たちは人々の幸福の担い手なのだとプレジデントは続けた。
 話を聞いていた若者の一人は、自身の心身を支配しているのがプレッシャーだけではない
事に気が付いた。今は紙面上に描かれた設計図でしかない都市に対する期待や昂揚。そして
彼の脳裏では既に、引かれた図面から基礎や骨組みが組み上げられ、外構作業までが記録
映像とでも言うべき精度で再現されている。それはもはや確信を超えていた。
 八基が集中する魔晄炉の出力制御にも問題は無い。彼の中にあるルールさえ遵守すれば、
憂う様な事態は起こらないのだと言う確信があった。
 以来、彼の想像通りにミッドガルでは魔晄炉の事故は一度も起きなかったし、それは
プレジデントの語った様に、人々にエネルギーという形で豊かさと幸福をもたらす施設になった。
 後に彼は都市開発部門の統括職を務め、自身の確信が過ちであったことを認める。
                    ***
 ――それとも。

 吹き付ける風が強くなってきた。後ろに立っている子ども達が気にかかり、ナナキは我に返る。
 我が子らと共にミッドガルを訪れるにはまだ早すぎる。そう思って、ナナキはミッドガルに背を
向け、来た道を引き返す。
 近いうちに、自分だけでミッドガルを訪れよう。久方振りにあそこに供えてあるぬいぐるみに
会いに行こう。
 今も尚その土地に残る“彼”は、きっと笑顔で出迎えてくれるだろう。

                                        ―人類半減期<終>―
----------
・半減期500年、1000年でザナルカンドというオチではありません。
・書いている本人が言うのもなんですが、今作は決して面白い話ではありませんね…。
 微妙なテーマのお話ですみません。保守のお供に。
・FF7(シリーズ)ではすっかり悪役になってしまったプレジデント神羅ですが、彼の政治
 手腕というのはかなりのものだと思います。(意外と書いてて楽しいのがプレジデントw)

68 :
GJ

69 :
GJ111

70 :


71 :


72 :
前話:Part11 241-246
その後のシェルクさん
----------

 家々の屋根が夕日色に染まり始める頃、空は家路を急ぐ鳥たちの鳴き声で賑わい始めて
いた。地上ではまだ遊び足りないと走り回る子ども達の声。そんな彼らも、しばらくすると漂い
始めた夕餉の香りに足を止める。やがてあちこちで聞こえてくるのは、じゃあね、またねと弾ん
だ声で別れの挨拶。
 子ども達の帰り道を照らす様にして家々の軒先に明かりが灯る。玄関先では明るい「ただ
いま」に呼応する「おかえり」の声。それらはまるで町に夜を呼び寄せる呪文のように、路頭
から子ども達の姿が消えると日は落ちて、町はあっという間に静寂に包まれた。土を踏み
固めただけで特に舗装されていない通りには人影も無く、車の往来も滅多に無い。利便性と
機能性は無いけれど、そこにあったのは質素な暮らしと人々の笑顔。
 ――見た事の無いはずの風景に感じたのは、郷愁。
 まばたきした次の瞬間、気が付くと私は姉に手を引かれながら宵闇がせまる歩道を歩いて
いた。家族の笑顔と夕飯が待っている、我が家へと帰るために。
(お姉ちゃん? ……いつの間に)
 タイルで舗装された歩道と、幅の広い車道。等間隔に立ち並んだ街灯と、至る所に設けられ
た案内用の電光掲示板。利便性と機能性に満ちた、その代わりに自然物が排された街。
 自分の知らない場所なのに、そこから姉と一緒に家に帰ろうとしている。まるで脈絡の無い
展開に、それが自分の見ている夢だという事に気づく。でも、これが夢ならそれでも良いと
思った。
(わたし、ずっと……)
 人が見る夢は、自分の願望や深層意識の表れだと誰かが言っていた。そうなんだろうなと、
今なら心から納得できる。
(望んでいた)

73 :
 そのとき唐突に、足下が大きく揺れ体が傾いた。一瞬遅れて辺りには轟音が響き渡った。
真っ二つに裂けた鋼鉄の大地に飲み込まれていく家々。吸い込まれる様にして闇の底に
落ちていく灯火。巻き上がる風に鳥たちのさざめきが混じり、徐々に大きくなる人々の悲鳴や
怒号が風の中で渦を巻く。どことも知れず方々で上がった火の手は夜の闇を煌々と照らし
出す。風の渦は灼熱を帯び、地上に迸る炎を煽り立てる。
 さっきまで繋いでいた手は、ただ宙をさまよっていた。隣にいたはずの姉の姿が無い。
(お姉ちゃん!)
 煙を吸い込んだのか声が出せなかった。燃えさかる炎と立ち上る黒煙に包まれ、逃げ惑う
人々でごった返す街の中を必死になって走った。道路をふさぐ瓦礫を乗り越え、さっきまで
一緒にいた姉を捜し回った。やがて深く亀裂の入った道路と、立ち上る炎の壁を越えたところ
に姉の背中が見えた。
(こっち! お姉ちゃん!!)
 姉の名を叫ぼうにも声は出なかった。しかも悪いことに姉はこちらに気づいていないし、手を
伸ばしたところで届く距離ではない。このままでは姉は炎に巻き込まれてしまう、なんとしても
姉を助け出したい。その一心で、亀裂を飛び越えようと跳躍した。飛び越せる確証は無い、
けれど迫り来る炎と、その向こうにいる姉の後ろ姿が見えているのだから、躊躇している場合
では無い。
 このとき私は、これが夢だという事をすっかり忘れていた。前後のつながりなど何も無い、
それなのに、どこかリアルな夢だった。
 確かなことは、夢の中で私は姉を助けたいと切に願っていた。
 姉が助かるのなら、自分が炎の中に飛び込む事も厭わなかった。
「お姉ちゃん!」
 やっとの思いで掠れ声が出た、私の声にようやく振り返った姉は、私にこう言った。
「ダメだ戻れ! 早く!」
                    ***
 目前にまで炎が迫り意識が途切れる間際、視界が一瞬にしてまばゆい光に包まれたかと
思うと、先ほどまで燃えさかる炎のあった場所には、無機質な文字列が延々と流れている。
 額どころか体中が汗ばんでいる。目尻に溜まっているのは涙だろうか。
 それでようやく、自分が悪夢から目覚めたのだと認識した。ヘッドセットを外そうと腕を上げ
ようとしたが、鉛の様に重たくなった腕は少しも動かす事ができなかった。
「……わ……?」
 すっかり掠れて声も出ない。シェルクは自分の置かれている状況が理解できずにいた。
 それどころか、目覚めたばかりだというのに強烈な睡魔に引きずり込まれてしまいそうだった。
「わたし……?」
 襲い来る睡魔に抗いながら、すっかり回転の鈍くなった頭で必死に記憶をたぐり寄せた
シェルクはようやく思い出す。あの時、ケット・シーの記憶領域(ライブラリ)にあった“感情の
源泉”――言ってみれば外傷体験――に触れてしまったのだ。
 本来であれば年単位で取得する膨大な量の情報と付随する感情に、いちどきに触れて
しまったせいで処理能力が追いついていないのだ。今こうして肉体を支配する気怠さも、
恐ろしいほどの眠気も、外部からの情報を遮断しようとする一種の防衛反応だ。
「助……かった」
 シェルクが覚醒する直前――彼女の意識がライブラリから切り離される寸前――に見た
“夢”の正体は、恐らく現時点でシェルクが整理し終えた、あるいは整理中の情報だろう。

74 :
 人が見る夢は、当人の願望や深層意識とは別に、これまでに取得した情報の取捨選択と
いう側面もあるのだと言う。
 そう考えれば、自身の身体機能はひとつも損なわれていない。それなりの無茶をした割には、
ほぼ無傷で帰還できたのは奇跡に近い。その原因をシェルクは推測する。
「……助かったのではなく、『助けられた』?」
 相手がその気になれば――たとえばかつての自分の様に――この身を壊す事もできた
はず。しかしそうしなかった。そうする必要は無かったという事だろう。
(とは言え……これでは満足に動く事もできませんね……)
 通信状態を示す表示を目で追い、幸いにも通信には影響が出ていない事を知る。そこまで
確認し終えると、ひとまず自分ができる事はやれたのだろうと目処を付けたシェルクはまぶた
を閉じ、目の前に広がった闇に身を委ねた。こうして彼女は、自身の肉体を支配する気怠さと、
抗いがたいほどの睡魔に屈した。
 しかしそんな闇を切り裂くように、ある記憶がフラッシュバックする。

 ――『死んでしまった人にとっては、それが“全部”なんやて……!』

 休息を求める肉体とは裏腹に、シェルクの精神は高揚する。
(あれは、誰の感情?)
 操作主だったリーブ=トゥエスティのものと考えるのが妥当だろうが、もしかするとケット・シー
の物なのかも知れない。
 ケット・シーの中で記憶を保管しているライブラリには、それぞれの体験に基づいた記憶と
感情が関連づけされた状態で格納されていたが、どれもすべて共有されている様子だった。
つまりケット・シーの中にあるからといって、それが彼の体験に基づく記憶と断定する事は
できない。
(ケット・シーではない誰か……?)
 思う様に頭が働かない。一つ一つの現象は関連性のあるもののはずなのに、それらを結び
つける共通点を探す事ができない。
(だけど、あの時)
 シェルクが記憶の渦に飲み込まれる直前。
(確かに聞こえた)
 ――「ここから先、彼女に動かれると少々都合が悪いので」
 あれはリーブ=トゥエスティの声。いいえ意識。
 だとしたら。
(私には……まだできる事がある?)
 いや違う。もっと決定的な事。
(私にしか、できない事……?)
 ならば、こんなところでのんびりしている場合では無い。
 どうにかして、動かなければ。

75 :
 一刻も早く、この状況を打開する為の最良の方策を考えて、実行しなければ。
(……どうやって?)
 行き詰まるシェルクに回答をもたらしたのは、彼女の埋め込まれた“断片”だった。

「……“私”を使って。たぶん一時的でしかないけど、今ならきっと、あなたの助けになれる」


----------
・断片化ファイルの有効活用。
 …ルクレツィア(→シェルク)や宝条(→ヴァイス)がやった様に、感情と関連づけした
 知識(記録、記憶)断片化ファイルという発想は、インスパイア能力の解釈としては有効なんじゃないか。
 そんな夢を見た結果こうなった。この後、拙作の中で関連性をきちんと示せればいいな。
・作者のルクレツィア観が少しズレている可能性があります。あらかじめお詫びしときます。

76 :
GJ!

77 :
GJ!

78 :


79 :
ほっしゅ

80 :
前話:>>72-75
※Part7 357-361(まとめ10-1)から繋がる話。
※DCFF7を基にしたルクレツィアさんと断片化技術が、作者に都合良くねつ造されています。
----------

 声の主は元神羅の科学者ルクレツィア=クレシェント。ジェノバプロジェクトの研究チームの
中心人物の一人であり、セフィロスを産んだ女性でした。同時に、かつて私の中に取り込んだ
断片データであり、直接の面識が無い私達が知り合ったきっかけでもあります。彼女の声を
聞くのは実に約3年ぶりの事でした。
 私が彼女(の断片データ)と巡り会う事になったのはディープグラウンド時代。
当時エンシェントマテリアを求める私達は、神羅の残した膨大な量の研究記録を調べ、辿り
着いた彼女の記憶データを利用しようと試みた為です。
 一方では彼女も、断片データを取り込んだ私を失われた肉体の代わりとして利用しようと
しました。
 目的はどうであれ互いの利害は一致していました。そこで私は、私の中に異なる人物の
記憶と感情データを保有する事に同意――もっとも、当時の私に拒否権などありませんが
――しました。時折、彼女の断片がこちらの記憶や感情に干渉してくる事を除けば、身体的・
精神的な負担は殆ど無く、今なお私の中に断片が存在し続けていた事も、声を聞くまで忘れ
ていた程です。
 取り込んだ断片からの干渉にはいくつかの条件がありました。その1つは、ルクレツィア=クレシェント
にとって強い後悔や願望といった“心残り”であり、その多くはヴィンセント=ヴァレンタインに
まつわる出来事が引き金になっていました。科学者としての過ち。女性としての葛藤。
母親としての後悔。それら全てに、何らかの形で関わっていたのがヴィンセント=ヴァレンタインでした。
 オメガ戦役が決着した時、ヴィンセント=ヴァレンタインの身に宿されたカオスもエンシェント
マテリアと共に星に還り、ルクレツィア=クレシェントの心残りも晴れたものと推測できました。
 現にその日以来、今日ここに至るまで断片データが私に干渉してくる事は無かったのです。
 それが、一体どうして?
「オーバーフローした情報を一時的に私が預かるわ、時間稼ぎにしかならないでしょうけど、
その間あなたは行動ができる。どうかしら?」
 ひとまず有用性についての問題はさておき、提案そのものはありがたいものでした。ただ、
どうしても疑問が残るのです。
「……そうね。あなたにとって私は放漫に見えるのかも知れない。確かに褒められた生き方は
しなかったと思う。でもね」
 断片データは私の心中にそのまま反応し、彼女はこう続けました。
「白衣を着たあの人」
 どうやら私の姉の事を指しているようです。
 けれどルクレツィア=クレシェントと姉とは何の接点も無い筈。なのになぜ? 私の中の疑問
は増える一方でした。
「あのね、……お節介かも知れないんだけど」少しだけ言い淀みながらも、彼女は先を続けます。
「あの人にね、『後悔しないためにも、白衣を脱いで』って、伝えて欲しいんだ」
(え?)
 言葉が示す真意を考えるよりも、どうしてこんなに回りくどい言い方をするのだろう? と言う
疑問が先にありました。
「……これじゃあ意味が分からないよね。私が分かる範囲だけど説明、するね」

81 :
 私の中にあるルクレツィア=クレシェントの断片データが語り始めます。

 もともと“私”――あなたが言うところの“断片データ”――は、あなたが考えている通り、
私自身の心残りを無くすためだけに存在しているの。
 それは、私の研究が招いた災厄。
 それは、私の弱さが招いた不幸。
 それは、私の未熟さが招いた過ち。
 それらを償うために、あなたを利用した。……ごめんなさい。
(謝る必要はありません。こちらもあなたを利用しましたから、お互い様です)
 ありがとう。
(……いえ)
 話を戻すわね。
 “私”自身が利用した断片化技術。実はそれを研究していた者がいるの。その人物が残した
レポートが、以前あなたが見た『星還』というデータ。
(W.R.O.の廃棄データ群の中で偶然見つけた、データの残滓……)
 そう。
 『星還論』そのものは情報分野、ましてネットワーク技術とは異なるものの様だけど、私や
宝条が利用したのはこの概念。断片化した記録と記憶をネットワークにばら撒いて、それを
第三者に拾ってもらう。あわよくばその第三者の感情を依り代として、思惑通りの行動を取ら
せること。この辺は、ジェノバ細胞の性質からヒントを得ている部分もあるわ。
(つまりあなたにとって私は宿主だと?)
 そういう事ね。理解が早くて助かるわ。
(……対象の記憶データを上書きし、感情を発露させるというのは、ディープグラウンド時代に
SNDでやって来た事ですから。共生関係を築けない分、こちらはただの侵略者ですが)
 私も専門の研究者ではないから推測でしか無いけれど。あなたのSNDも、根底にはこの
『星還論』があるんじゃないかしら?
(どういう事ですか?)
 あなたが得てきたデータと、私が知っている事を合わせて考えると……あくまでも推測の
域を出ないけれど、神羅は古代種そのものを自分達の手で作り出そうとしていたんじゃない
かしら? 私が研究者として在籍していた当時から、既に古代種は絶滅が確定的だった。
だから神羅は、古代種の能力を人為的に作り出す事を考えていた。
 知識の奔流であるライフストリームをネットワークに。星の声を聞く能力を持つ古代種を、
SNDの技術として。
(……古代種……)
 ――「私は、古代種。最後に残った一人。だから神羅に追われていたの」
 …………。
 そう。あの娘の言う通り。
 ――「星の命、知の奔流、ライフストリーム。神羅は、それを人工的に作り出した。
    “ここ”には、たくさんの言葉や、思いがある。そうでしょう?」
 この記憶は、あのぬいぐるみを経由して得た物? それともあなたが触れてきた情報から
組み上げた仮想? いずれにしても、あなたはこの古代種の生き残りの事を知らないはず。
私自身も、彼女と直接顔を合わせた事は無いけど、彼女の父親のことなら知っているから……。
 ……。
 そうね、干渉能力と言う点でも双方に類似点があると言う事かしら?
(もしかすると……)
 確証は無い。でも、私も同じ考えよ。
(それでは?)
 もし仮に、SNDが古代種の特殊能力を人為的に再現すための過程であったのだとしたら。
『星還論』こそがその最終形を示唆したものだったのではないかしら?
(そんな物がW.R.O.のデータ内に残滓として存在していたのは、それが“不都合な物”だった
から?)

82 :
 私にはそれがどう影響するのかは分からない。ただ少なくとも、あれだけ細かな断片に
なっていると言う事は、あなたの考えている通り、再統合を見越しての断片化ではなく、破砕
処理した残滓であると見て間違いないと思う。
(その不都合とは、リーブ=トゥエスティにとって?)
 今し方あなたが受けた仕打ちを見れば、明らかね。
 だからこそ、私が役に立てる筈。あの人にとって、“私”の存在は完全に想定外だったはず
だから。
(でも、あなたは?)
 私はもともと“断片”、放っておいてもあなたの中の記憶領域を無駄に占有しているだけの
存在。あなたへの負担を極力減らしているとは言え、本来あなたの中には存在しないはずの
物。だから、あなたの為にできる事をしたい。さすがに「恩返し」、と言ったら恩着せがましい
かしら?
(いいえ……)
 ふふ、ありがとう。
 でもね、本当はやっぱり私の我が儘なの。私と、同じ様な間違いをして欲しくないって、どこ
かでそう思ってる。
(私が?)
 違うわ。あの、白衣の人。
(……姉さん?)
 あの人が同じって言う訳じゃ無いけど、少なからず科学者っていう生き物は、いろんな現象に
理由をつけたがるもの、なのかな。
 理屈を並べて、思いや行動を正当化して自分を守ったりして。そうしているうちに、いつの間にか
自分の本心に向き合えなくなって、中途半端に距離を置いて、結局そこから逃げ出して、最後は
行き場を失って……。それが、私だった。
(…………)
 私ね、失敗ばかりだった。だからこそ確信してる。
 あのね。あの白衣の人、……あなたのお姉さん。
 きっと、恋をしている。


----------
・ようやくスレタイに則した内容になって…無いようだ。
・DCFF7のオンライン→シングルプレイの流れで解釈すると、
 HJウィルスに感染してたヴァイスではルクレツィアデータを集める事ができなかった。
 →シェルクの出番。って展開で良いのかな?
・色々言いたいことを詰め込んだけど、要するに「大人って面倒くさい」。
 ルクレツィアに対するシェルクの見解は、それを元にしています(言い訳は長くなるので後日まとめページの雑記にでも)。
・ルクレツィアに最後のセリフを言わせたかっただけ、と言うのもある(身もふたも無い)。

83 :
GJ !!

84 :
GJ!

85 :
ホシュッとな

86 :
ホー…

87 :
…ックシュ!

88 :
[Vincent Valentine 1]
※DCFF7『10年ぶりの再会』をヴィンセント視点で。
※関連はPart9 353-355(まとめ29-1)辺り。
※過去(タークス時代)話は作者の想像というかねつ造です。間違ってたらすみません。
----------

 総務部調査課、通称『タークス』。名称こそ社内の庶務を担当する総務部に区分されて
いるが、やっていることを有り体に言えば、表沙汰にできない種々の案件を一手に引き受け、
すべてを秘密裏のうちに処理する影の部署である。
 そんな性質上、一般の社員には正確な全容を知られておらず、また名前を知っている者
でさえ、自社の関わりが疑われる不穏な出来事があると、半ばスケープゴートの様にして
持ち出す程度の存在だった。
 一方で腕に覚えのある者達の中では、少数精鋭主義のタークスは羨望の対象として
語られる事もあったそうだ。採用条件や運用実態も分からぬまま、彼らの描くタークスは
夢の精鋭部隊という側面がひときわ誇張されていた。
 そんな世間の動向や事情には無頓着だった若かりし日の私は、期せずしてタークスに
登用された。当時の採用担当者に何を見込まれたのかは今もって不明である。
 しかし残念ながらタークスに籍を置いてからの期間はそれほど長いとは言えない。研究員
護衛任務の為に訪れた施設で、護衛対象に射殺されたところで私の経歴には終止符が
打たれ、記録からは抹消された。社内、とりわけ部外で私を知る者がいたならば、この失踪を
不審に思ったかも知れない。仮に社が死亡通知を出そうにも宛所はなく、社外に知れる
心配はまず無かった。加えて当時のタークスはそもそも公にされていない部署であり、
私の失踪に気が付く者はいなかったし、いたとしても真相まで辿り着ける可能性は皆無だった。
なぜなら護衛対象が従事していたのは社の重要機密とされていた研究で、プロジェクトの
存在自体を知らない社員も多く、部外への情報開示はかなり厳しく制限されていたからだ。
 記録上は死亡扱いとされたものの、場所と状態を問わなければ、私は生きていた。死線を
さまよった末、本来であれば死者が安らかな眠りにつく場所で悪夢と後悔に魘されながら、
それこそ生ける屍も同然にそこに存えていた。
 タークスとして受けた訓練と、不本意ながら身に宿された野獣の遺伝子、勝敗を問わず積み
重ねてきた戦いの経験。そんなもののお陰で、再び目覚めた私の能力は常人のそれ以上に
発達していた。
 考えるよりも先に脅威を知覚し、危害を加えられる前に照準を定めこれを排除する――それ
が、多くの代償と共に私が半生を費やして得た能力だった。
 こうして世捨て人となった私は成り行きで星を救う旅の一員となり、いつしか英雄と呼ぶ者
まで現れた。
 あるいはケルベロスを従え、死の淵から陽の下へと舞い戻った私の姿を指した皮肉である
のかも知れないが。

89 :
[Vincent Valentine 2]
                    ***
 そんな私に言わせれば、いかなる状況においても対象への殺意や敵意は表に出すべきでは
ない。それができない様なら確実にこの種の仕事には向いていないし、それを理解できないなら
すぐに命を落とすことになるだろう。殺意などは特に、我々のような者からすれば声と同様の
意味合いを持っている。要するにむき出しの殺意は、大声を張り上げて自身の所在を知らせて
歩くのと同じなのだ。
 逆に敵意や殺意を露わにすることで、それを威圧として用い相手の動きを鈍らせる事もできるが、
その為にはいくつかの条件を満たす必要がある。野生動物が好例だが、威嚇のためには自身を
大きく見せたり、武器となる牙や爪をむき出しにしたりする。つまり個体としての優位性を示し、
対象の戦意を喪失させるのだ。
 だから私がW.R.O.本部で初めてシェルクを見た時、とてもちぐはぐな印象を受けた。小柄な
身の丈と手持ちの武器、そして彼女の特性を踏まえて考えればどう見ても斥候だ。実際に
視覚を欺く手段まで備えていたのだから、殺意を露わにするなど以ての外だ。リーブから事前に
知らされていなければ、彼女をシャルアの元へ誘導する事は困難だっただろう。
「お二人には少々事情がありまして。多少の荒事があっても手出しは無用に願います」
 あとは推して知るべしとばかりに手短な説明だったが、彼女たちのやりとりを見れば状況把握
は容易だった。姉妹にとって不可抗力とは言え、和解は本人達の手によってのみ成し得るもの
だというリーブの意図するところも理解できる。
 理解はできるが、それが可能かどうかと問われれば首を傾げたくなるし、なによりも今の私は
護衛という立場でW.R.O.に関わっている。あれほどの殺意を向けられて、ただ黙っている訳には
いかない。
 しかしこの組織の長であるリーブはその自覚が足りないのか、あるいはお人好しが過ぎるのか、
私からすればほぼ丸腰も同然でシェルクの前に進み出て説得を試みる。しかしどう見ても話の
通じる状況ではない。敵対陣営に属し武装までした相手に対してリーブの取った行動は、無策
無謀としか言いようが無い。
 ここらが限界だと見切りをつけて、私は銃口をシェルクに向けた。ところが先に引き金を引いた
のはリーブだった。
「いけません!」
 私を制止する声と共に護身用に携帯していた拳銃を取り出したかと思うと、それを迷わず天井に
向けた。発射された弾丸は消火用の散水装置に命中し、たちまち辺りは水浸しになった。リーブの
意図に考えを巡らせる前に、目前でうずくまったまま動かないシャルアを庇おうと反射的に体が
前に出る。霞がかった視界の向こうに振り上げられたランスが見えた。一刻の猶予も無い状態
だったのは明らかだったが、それでもホルスターに拳銃をしまうことを優先したのは、誤射を恐れて
無意識に取った行動だった。
 しかしその一瞬の差は歴然たる結果として現れた。振り下ろされたランスからシャルアを引き
離すどころか、庇うこともままならなかった。最早これまでかと諦めかけたところで、ようやく
リーブの狙いを知った。
 シャルアの頭上で短く鈍い音と共に火花を散らし、ランスは折れたようにして輝きを失った。
 見事な武装解除だった。

90 :
[Vincent Valentine 3]
 後になってリーブに聞けば、シェルクの所有する武器が水気に弱いと把握しての行動だった
らしい。まったく、護衛の立場からしたらやりづらい事この上ないが、私には得がたい能力の
持ち主であるのは疑いようが無い。
 同時に、こういった男こそW.R.O.に、ひいては今の世界に必要な人材なのだろうと納得させ
られる。
 少ない語彙でそれを告げれば、リーブは笑みを浮かべたまま礼を言うだけで取り合おうとは
しない。ようやく口を開いたかと思えば。
「ご存知の通り私は戦うのが苦手ですし、誰かに拳銃を向けるだけの意気地もありません。
事実、最終的にはあなたの力が無ければ事態の打開は不可能でしたしね」
 などと自嘲気味に述べるにとどまった。しかし護身用の小型拳銃とはいえ、片手持ちで構え
た状態から、あの一瞬に天井の小さな的を正確に撃ちぬくなど、偶然では到底あり得ない。
 そう、あれは“偶然”ではなく歴とした意思の表れだったのだ。
 問題は自覚の有無。
 しかしそれこそ本人によって成し得るもので、私が口を差し挟む問題ではない。どちらにして
も偉そうに言える義理では無いが、それでも僅かだが、私の立場で助言できることもある。
「……リーブ、差し出がましいようだがこれだけは伝えておこう」
 これまでに数え切れない程そうしたように、私は右手に愛銃を構え、その銃口を天頂に向ける。
「発射した弾丸には射手のすべてが反映されるものだ」
 躊躇は引き金を錆び付かせ、雑念は照準器を曇らせる。射手に一分でも迷いがあれば弾道は
歪み標的には到達しない。言うほど簡単では無いし、理解と実践は別物だ。
「そしてお前が拳銃を手にする少ない機会のどれも、弾道に迷いは無い。……つまり、あの時の
お前にも迷いは無かったという訳だ」
「今日は珍しく多弁ですね」
 リーブが笑う。その笑みの裏にある真意を垣間見ることはできない。
「急にどうされましたか?」
 黙っている私が逆に問われる。改めて問われると、いったい私は何をリーブに伝えようとして
いたのだろうかと、返答に窮した。
「……そうですね」そんな姿を見かねたのか、リーブが口を開く「弓矢の時代から見れば
ずいぶん補助を受けていますが、あなたの仰る通りなのかも知れません。ただ、そういった
類の話なら私よりもユフィさんの方が……」
「お前と武器についての議論をしに来たのでは無い」
「はぁ……」
 切り出した話の落とし所が見えなくなって途方に暮れた私に、助け船を出したはずのリーブは
話の腰を折られてため息を漏らす。その姿を見て、我ながら何という仕打ちだろうと思い直した
のと、リーブが再び口を開いたのはほぼ同時だった。
「あなたが雑談しに来てくれたのだと思えば、これも貴重な機会ですね」
 今度はあからさまに悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

91 :
[Vincent Valentine 4]
 会話のペースを握るのが上手いと言うよりも、相手や状況の先を見通しているという事か。
                    ***
 今にして思えばあの日、リーブがどこを見通していたのかを私が知る由も無く。
 さらに言えば、あの日伝えようとしていたことを私自身がはっきり理解したのは、この建物へ
足を踏み入れて、ここまで降りてきてからの事だった。

 今はただ、私の持つ銃が仲間を傷つける為の兵器としてではなく、彼を救うための道具と
なることを願っている。

                    ―Fragment of Memorize[Vincent Valentine ]<終>―
----------
・前置きが長いですがDCFF7のルーイ姉妹再会時(スプリンクラー)の話。
 個人的にあのイベントはかなり印象的だったので、ちゃんと書いてみたかった。
 (以前、同イベントを元にリーブの過去話をでっち上げたので、今回はゲームに忠実な
 描写を目指…そうとした結果この有様)
 さらにヴィンセントの過去をねつ造している感が否めないです(すみません)。
・コリオリの力とかじゃなく、引き金を引く意志の強さという表現はファンタジーならでは、と言う
 事でひとつ。(そもそも作者にはそんな知識がry)

92 :
GJ!

93 :
GJ!

94 :
GJ

95 :
gj

96 :
 ho ho ho ho ho

97 :


98 :


99 :


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