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2013年05月エロパロ351: 【腐男子】音ゲー総合スレ4【専用】 (102) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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【腐男子】音ゲー総合スレ4【専用】


1 :2011/07/02 〜 最終レス :2013/03/22
音ゲーキャラで萌える腐男子・ガチゲイ専用スレです。

Q.文章(絵)が初心者レベルなんだが。
A.気にせずどんどん投下してください。
 (リンクを貼る場合は直リンにならないよう注意)
Q.叩かれそう。
A.気にせずどんどん投下してください。
 読んだ人はちゃんと感想を書いてあげよう。
Q.それ無理!
A.ショタ好きもガチムチ好きも仲良くしろ。
 書き手側も冒頭に注意書き等で配慮を。
Q.絵が見られない!
A.PC派も携帯厨も、画像うp環境等においてはお互いを気遣おう。
 だからと言って見られなくても喚かないこと!

まとめWiki
ttp://www39.atwiki.jp/otogeparo/
前スレ
【腐男子】音ゲー総合スレ3【専用】
ttp://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1266326637/

sage進行推奨。
荒らし・煽りは徹底スルー、どう見ても腐女子な書き込みはやんわりスルー。
次スレは>>970が立てる決まりです。踏んで無理なときはレス番を指定してください。

2 :
ヌルポゲー総合スレ

3 :
代理スレで新しく建ててもらいました。
皆さん>>1に心から感謝を込めつつ、盛り上げていきませう。

4 :
スレ復活おめ
鉄男とケンジの6畳セックス見たい

5 :
六受け来い

6 :
おぉ復活してる!
超乙です。

7 :
ちょっと聞きたかったんだけど
このスレって基本はポップン中心のスレなのか?

8 :
現状ポップンが多いだけで、そーゆーわけではないと思う

9 :
よく書いてる人がポップンキャラしか分からないってのが現状だと思う。
そもそもコナミに限ったわけじゃないし、きっと太鼓でもMガンでもスレ的にはアリっちゃアリ(?)
ただし差別するわけじゃないけどボカロ(DIVA)は例外。

10 :
>>前スレ320
 その日、久しぶりに雨が降った。
 天気予報によると記録的な大雨らしく、交通網の大半は麻痺しているらしい。
 つまり、殆どの人間は撮影所に取り残される羽目になるのだ。
 更に最悪な事に、この大雨は次の日の夜明け前まで続くと予報されている。
「参ったねぇ。まさかこんなに降るとは思わなかった」
 流石の監督もこれには頭を抱えた。
 普段から撮影所に寝泊まりする機会は何度もあるらしい。
 しかし劇団の、それもほぼ全員が泊まる程の寝具は持ち合わせていなかった。
「取り敢えず帰れる人間だけでも帰した方が良いだろう。ここから家まで近い奴は俺が送って行く」
「あぁ頼む。だが、それでもまだ十分では無いぞ。この雨であちこちが通行止めになってるみたいだ。ケビン、セシル。あんた達の家の近くもな」
「げ、嘘」
「どうしよう…」
「どうするもこうするも、あんた達はもう居残り組確定なんだから。…と言う訳で、二人には手伝って貰うよ」
「手伝う?」
 鸚鵡返しにケビンが疑問符をあげる。
 セシルも同じように首を捻った。
「そ。あんた達二人には今日の晩飯作って貰うよ」
「へ?」
 珍しく二人同時に思考がフリーズする。
 外の雨音がより一層この空間の静けさを浮き彫りにしていた。
「ぼ、僕達二人だけ!?」
「ケビン、突っ込む所それだけじゃないよ…」
「いや折角だからさ、前に言っていたセシルの腕前とやらを味わってみたくてさ。おいお泊まり組、あんた達もそう思うだろ?」
『意義無〜し!』
 気味が悪い位に会場の意見が合致する。
 もうこの時点で諦めていた事だが、その中には当然の如くケビンが紛れ込んでいた。
「何、流石にこの人数分全部を任せようなんて思って無いさ。皆にも手伝って貰うしな。だからあんたには全体の指示をして欲しい。残ったメンバーは寝具の確保。ちょっと近所まで借りに行かないと足りんから、あまりそっちにも人数割けないけどな」
 結局少人数になる事に変わりは無いらしい。
 しかし既に多数決で敗退しているセシルに最早拒否権は無い。
 何より、ここに居る皆の期待を裏切りたくは無かった。
「分かったよ。こんなに大人数の料理を作るのは初めてだけど、やってみる」
「よし来た。そんじゃ、そっちは任せたよ。厨房に行けば多分材料も一式揃ってる筈だからさ。そんじゃ、こっちも漁りに行きますか」

11 :
>>10
 等と冗談半分に洒落にならない言葉を残して監督組はホールを出て行った。
 残ったのは、ケビンやセシルと同年代かそれ以下の少年少女数名のみ。
「と言っても…何を作ろうかな」
「う〜ん…大人数で食べるんだから、基本的な所でカレーじゃないの?」
 恐らく何も考え無しに発言したのだろう。
 ケビンの側に居たこのメンバーの中で一番年長の少女が待ったを掛ける。
「はい、ここでそんなケビン君に質問。カレーは甘い派辛い派?」
「へ? 僕は甘い方が好きだけど…」
「それじゃあここに居る皆さんにも質問。はい、順番に?」
「甘口」「辛口」「中辛」「激辛」
「う…」
「じゃあ今度は…野菜の大きさはどれ位が良い?」
「大きいの」「小さいの」「柔らかいの」「ニンジン嫌い…」
「うぅ…」
 見事なまでに意見の食い違いが発生している上に最後の方は答えですら無い。
 考えてみれば、各家庭において最も違いの出る料理がカレーである。
 一番小さな子が激辛が好みである事から十分に伺える。
「二択で済むならまだしも、辛さどころか具材にまで好みが分かれているんだから。そんな文句しか出なさそうな料理を大人数分作れる訳無いでしょう」
「あうぅ…」
 流石年長の貫禄と言った所だろうか、ケビンは完全に自分の意見に負けていた。
 この畳み掛ける様な圧し方は監督譲りだろうか。
「それよりも、シチューだったら好みが分かれなくて良いと思うけど」
「うん、それなら大丈夫かも。ケビンはどう…思う……」
 セシルが振り替えると、ホールの隅の方でケビンが頭を抱えて座り込んでいた。
 小さい声でぶつぶつと何か言っているのが聞こえる。
「ケビンおにーちゃんどーしたの?」
「放っておきなさい。ここ最近自分の意見が尽く否決されてるから拗ねてるだけよ」
「ボクには撃沈している様に見えるけど…」
「何れにせよ責任者はセシルなんだから、決定権は貴方にある。私達はそれに従うんだから」
「あ、うん。分かったよ。じゃあ作る物が決まった所で、早速厨房に行ってみようか」
『は〜い!』
 子供達の元気の良い返事がホールに響く。
 そして、未だに傷心中のケビンを放ったらかしにしてぞろぞろとロビーに出て行った。
「ほら、ケビンもいつまでも拗ねてないで」
「だぁって、どうせ僕の話なんて皆聞いてくれないんだもん」

12 :
>>11
 膝を組んで頬を膨らませているケビンを思わず抱き締めそうになるのをぐっと堪える。
 今ここで誰かに見られると、また言い訳が面倒だ。
 その上責任者である自分がこれ以上遅れる訳にもいかない。
 ここは早くも最終手段に出る事にする。
「そんな事してると、もうボクご飯作ってあげないよ?」
「ふぇ!? や、やだよそんなの」
「だってケビンが来ないなら、ボクの作ったご飯はいらないって事だよね?」
「やだやだやだ! い、行くからそんな事言わないでよぉ!!」
 脱兎の如くケビンは立上がり、セシルの手を取る。
「僕もちゃんと手伝うから、早く行こう!」
「はいはい分かったから。じゃあ、ケビンにはいっぱい手伝って貰うからね」
「うぅ…」
「返事は?」
「は、はい!」
 少し前を駆けるケビンの後ろ姿を見て、最早イニシアチブと言う物が何よりも似合わなくなっているケビンに少し同情を覚えた。
(でも、こんな風に普通に笑ったり…出来無かったんだよね)
 そう思うからこそ、今のケビンが何よりも掛け替えの無く、愛しく思える。
(このままボク達ずっと―)

「じゃあ、これから役割を分けるよ。ボクのグループは野菜を大き目に、ケビンの方は逆にちょっと小さ目に切ってね」
「どうして? 野菜毎に分担した方が良くない?」
「さっきもあったけど、大きさにも好みがあるから。それに、毎回違う大きさに切ってたら感覚が分からなくなるでしょう?」
「あ、そっか」
 どうやら先刻の経験が見事に生かされていない様で、セシルは少し先の未来に一抹の不安を覚えた。
 今はまだ平気な様だが、またケビンが潰れてしまわない内に進めるのが賢明な様だ。
「俺達はどうすれば良いんだ?」
「じゃあ、君達は野菜の皮剥きお願い出来るかな」
「OK了解」
「ぼくたちは〜?」
 今になって思うと何故この様な場所に自分達よりもずっと年下の子まで居るのだろうか。
 流石に彼達に包丁を持たせる訳にも火の前に置いておく事も下手な力仕事も任せられない。
「そうだね。お兄ちゃん達が野菜の皮を切っていくから、君達はその野菜を持って来て貰う係。そして、切り終わった野菜をボウルに入れて運んでくれるかな」
『はぁ〜い!』

13 :
>>12
 威勢の良い返事と共に手を上げる子供達を可愛らしく思いながら、セシルは小さく笑う。
「じゃあ始めるよ。何か分からない事があったら、ボクか近くのお兄ちゃんお姉ちゃんに聞くんだよ」
『はぁ〜〜い!!』
 何処からこんなにパワーが溢れて来るのだろうか、先刻の倍以上の返事が返って来た。
 これが若さだろうかと年と外見に似つかわしくない事を考えながら、セシルは彼達の元気に負けない様に立ち回らなければならない。
 洗い方の分からない子供は次々とセシルの所に押し寄せ、簡単に実践して教える。
 それ以外は比較的に早く済むと思っていたが、案外そうでもなかった。
 ジャガイモの芽の取り方や、タマネギの切り方。
 どれも一筋縄では教えられない部分が次々と浮き出て来た。
(これは、ちょっとキツい…かも)
 兎に角、先刻抱いた不安を実証させてはいけない。
 幸い野菜の積まれたボウルを見てもそれなりに形にはなっている。
 要はあの監督を納得させる味付けを出せば良い訳だから、最終的な作業までに余計な事をしなければ大丈夫だろう。
 寧ろ、そこまでの過程に行くまでに自分の指示に全てがかかっていると言えるだろう。
(それに、こう言うの…)
「何だか、楽しいね」
 後ろからセシルに合わせる様にケビンが声を掛けた。
 同じ事を考えていたと分かって、思わず顔が弛む。
「うん、そうだね。ボク、こんなにいっぱいの友達と一緒に料理するのは初めてだから。すごく、楽しい…」
「だね」
「ケビンも?」
「ほら、僕は家まで近いから。今日みたいに帰れなくなる方が珍しいよ」
「そっか」
(それは、ただ遠慮しているだけ)
 今日の様な人数制限がある日には、いつも自分から身を引いていたのだろう。
 それは決してケビンが遠慮深いだけでは無い筈だ。
(独りになるのが怖くなりたくなかったんだよね)
 孤独に慣れようとしている最中に、皆と一緒に居るのが楽しいと思いたくなかったのだろう。
「順調…とはちょっと言い難いけど、形にはなってるかな。それじゃあセシル、この後はどうするの?」
「あ、うん。後は煮込むだけなんだけど、これだけじゃ味気無いから…」
「パンなんてどうかな。ほら、前に僕達も家でドーナツ作ったからさ」
 傷を舐める様な提案ではあるが、生産性を考慮すると悪くは無い提案だろう。
 何より、以前の楽しそうな表情を覚えている。
 あの時の楽しさを、ケビンは今度はここに居る皆で味わいたいのだろう。

14 :
復活おめでとう!
夏だし、淫乱なタローSS書きたいなあ。
タロー「おにーさん、おれのケツともっこり、ずっと見てたでしょ。やっぱウェットスーツってぴったりなっちゃうから、どうしてもいろんなとこが強調されちゃうんだよねー。
えっ、てか図星? マジでおれのこと見てこーふんしてんの? ほら、水着からはみ出そうなくらいチンポびんびんになってんよ。
……なんか、おにーさんのチンポ見てたらおれも勃ってきちゃった(笑) ほら、金玉のかたちまでくっきり。おれの勃起したもっこりチンポ、さわってみる……?」
↑こんなん

>>835
きゅんきゅんする/// セシルもケビンも抱きしめてあげたい。

15 :
>>13
「うん、良いかも。シチューが出来るまでまだ時間が掛かるし、その間に皆で作るのも楽しいかもね」
「あら楽しそう。それって私達でも出来るの?」
「大丈夫だよ。道具を使って何かを切ったりする訳でも無いし、粘土遊びみたいで楽しいと思うよ」
「ぼくもやってみたい」
 次々と興味が湧いたであろう子供達がセシルに寄る。
 舞台に身を寄せているとは言え、やはりまだまだ遊びたい盛り真っ直中という事だろう。
「じゃあケビン、生地を作るからちょっと手伝ってくれる?」
「りょーかい」
「皆は生地が出来るまで少し待っててね。きっと監督達が返って来る頃には焼上がると思うから」
「そうね。じゃあ私達は手を洗って外で待ってましょう。二人も私達が見ていたら落ち着かないだろうから」
「そんな。そこまで気を遣ってくれなくても大丈夫だよ」
「ケビンは良くてもセシルはそうもいかない。監督に腕前を見せつけるんでしょう?」
「う、うん。そうなんだけど…」
「だったら尚更。監督の事だから、私達のせいで料理が失敗した所で譲歩なんてすると思えない。寧ろそれで監督に良い様に扱われ兼ねないでしょう?」
「あはは…仰る通りで」
 流石年長と言った所か、監督と言う人物を良く理解している。
 彼女が殿で厨房を出て行くと、途端に辺りは静まり返る。
 思わず二人は顔を見合わせ、軽く吹き出した。
「皆とっても楽しみにしてるみたいだね」
「うん。その分ボク達が頑張らなきゃ」
「ほんとだね。人数分ちゃんと出来るかな?」
「それは多分…ボク達がどれだけあの子達を管理出来るかにかかってるんじゃないかな」
 若干の気怠さがセシルの言葉に伸し掛かっていた。
 それにはケビンも苦笑いを浮かべずにはいられない。
「それにしても、この厨房ってすごいね。監督の言ってた通り、本当に一通りの材料が揃ってる」
「それはね、いつもは料理を作ってくれる人が居るからなんだ。だけど今日は急に帰れなくなったから、事前に頼めなかったんだよ」
「なるほど。…よし、大体こんな感じかな?」
 一通り生地を練ると、二人は一度手を休める。
 悪い夢の様に膨れ上がったパン生地が、台の上でふてぶてしくその威圧感を醸し出していた。
「そろそろ出来た頃?」
「あ、もう皆入って大丈夫だよ。ごめんね、待たせちゃって」
「気にする必要は無いわ。込み入った話があると思ってたけど…」
「え?」
「何でも無い。気にしないで、ただの独り言だから」
 後半の言葉が聞き取れなかったが、深く気にしない方が身の為の様な気がした。
 この少女の背後に監督のあの不敵な笑みが見え隠れした様に見えたからだ。
 決して怒っている訳では無い様だが、冷たい眼差しに一瞬身体が竦む。
「どうしたの?」
「う、ううん。何でも無いよ」
「あら、そう…」
 それはケビンも気付いている様で、言葉の端々に恐怖とも不安とも取れる様子が表れていた。

16 :
>>16
「じ、じゃあ今から生地をひとり一個ずつくばるから。千切ったりしなければ好きな形にしていいよ。あ、年長組は悪いけど二人分作ってくれるかな。それと…出来れば小さい子達を見張ってて」
「大した物は無いけど、トッピングは一応冷蔵庫の中に入ってたから。でも、使いたい時はボクに言うんだよ」
『はぁ〜〜い!』
 ここまで念を押しておけば、取り敢えず最悪の事態は免れるだろう。
 一段落終えて、ようやく二人は盛大に溜め息を吐いた。
「セシルお兄ちゃ〜ん」
「あぁ、はいはいどうしたの?」
 等と余裕を置く暇がある訳が無く、様々な形の生地の残骸をオーブンに全て放り込むまで二人はテーブルを行ったり来たりするのだった。

「お〜随分良い匂いがするじゃないか。これは…パンか?」
「監督、お帰りなさい」
 食器をテーブルに配膳している最中に戻って来た監督一行を玄関先で迎えたのは、少女と年少の子供達だけだった。
 その中に本来居る筈の二人が居ない事に監督は首を傾げる。
「あぁ、あの二人なら…」
 食器で両手が塞がってるので彼女は目線で促す。
 ロビーのソファーで溶けたアイスの様にぐったりしている二人がそこに居た。
「相当無理させちゃったみたい」
「人手よりも手間の方がずっと大きかったみたいだな」
「でも、監督の思惑通りだった」
「あ?」
「何でも…。それより、お兄さんが帰って来る前に皆テーブルに着いて。折角私達が作ったんだから」
「お、そうだな。じゃあお前達、荷物はここにまとめて置いて、手を洗って食堂に集合!」
 その合図で、訓練を受けた何処かの兵隊の様な動きで食堂へと向かって行く。
 彼女達にとってはいつもの事なので、小さく笑うと配膳の作業に戻る。
 やがてロビーに誰も居なくなると、ようやくセシルから言葉が生まれる。
「ケビン…生きてる?」
「多分…」
 実際、生きている心地と言う実感が無かった。
 そこにある筈の地面に足が付いていない様な、現実離れした浮遊感に襲われていた。
「ボク達もそろそろ行かなきゃ…」
「そう、だよね…」
「きっと大丈夫だよ。皆とっても頑張ってくれたから。ほら、皆待ってるよ」
「うん」
 手を取り合いながら立ち上がる。
 繋がった部分が、暖かかった。
「セシル、少し冷たい…」
「ボクは暖かいから、これで良いかな」
「僕も、ひんやりして気持ち良い」
「うん」
 そのまま二人は厨房の扉を開く。
 当然の様に、既に中に居たメンバーのほぼ全員が一斉にこちらに振り向いた。

17 :
>>16
「遅いじゃないか。皆ハラ空かしてるのに、あんた達が居ないと始まらないだろう」
「だったら食べてればいいのに…」
「何言ってるの。貴方達が中心になって作ったのに、その貴方達が居なかったら意味が無いでしょう」
「ケビンお兄ちゃんもセシルお兄ちゃんも、おつかれさま」
「皆…」
 思わずケビンと顔を見合わせた。
 つい先刻まで疲労が表情に表れていたのが、自然と雪解けの様に柔らかくなった。
「ほら。監督の言う通り皆お腹が減ってるんだから、最後まで貴方が仕切り通してみなさい」
「分かったよ。じゃあ…いただきます」
『いただきま〜す!』
 全員が食べ始めた事を確認すると、二人分開いていた席に座る。
 幸い監督の隣りや向かい合わせにはならなかったので、気取られない様に安堵する。
 セシルが椅子に座ると、隣りの男の子から「おつかれさま」と言われた。
 ごく自然な笑顔で対応すると、ようやくシチューを口にした。
 近くの誰かが「おいしい…」と声を漏らしているのが聞こえた。
 その為なのかシチューの温かさからか、この時初めて自分が落ち着いていると自覚出来た。
「おいしいね、セシル」
「うん。良かった…」
 初めて大勢の為に作った料理で、しかも直接手を加えたのは僅かな部分でしかなかったが、それでも満足の出来栄えだった。
 心の中で手伝ってくれた子供達にお礼を言いながら、セシルは食を進める。
 追加のおかわりをする子供もかなり居て、それなりに評判だった様だ。
 中には普段は余り多めの食事を取らない子供も含まれていた。
 あっと言う間に二種類あった筈の鍋の中は空になり、不満の声もちらほら聞こえた。
「なんだあんた達、そんなにセシルの料理が美味かったのか。だったらまた今度機会を作らないとな。そうだろ?」
 監督に合わせて目線が一斉にこちらを向く。
 思わず二人はその雰囲気に一瞬気圧されてしまう。
 子供達の期待に満たされた眼差しが、この上無く眩しく見えた。
「そ、そうだね…。今度は皆でやりたい、かな…?」
「ホント? やったぁ!」
「良かったなあんた達。料理長様から御許しが出たよ」
(…やっぱり早まったかなぁ)
 皆に期待される事は悪い気はしない。
 だがあの監督の眼下においての口約束は、最悪の言質を取られた気分だった。
「大変な事になっちゃったね…」
「良いんじゃないかな。初めて疲れて気持ち良いって思えたから」
「そう…かな。そうかも」
「だね」
 頭の高さでタッチを交わす。
 周りに居た小さな子供の数人が呆気にとられた表情を浮かべていたが、特に気にしない。
「じゃあ、次は何を作るか考えておかなきゃ。また頭を抱える羽目になるわよ」
「あぅ…」

18 :
>>17
 容赦の無い少女の言葉に、ケビンはまた詰まってしまう。
 尤もな指摘ではあるのだが、セシルには彼女の言葉に茨の様なものが見え隠れしている気がしてならない。
 かと言って、その様子からケビンを嫌っているとも思えない。
(寧ろ―)
「何?」
「え? あ、別に…」
「あら、そう」
 思わず少女の方に視線が固まってしまっていたらしい。
 セシルの中で妙な気恥ずかしさが込み上げた。
「むぅ〜」
 ケビンが何故か頬を膨らませて不貞腐れていた。
 丁度隣に居た年少の男の子がそれに気付いて、ケビンの顔を覗き込む。
「ケビンお兄ちゃんどうしたの?」
「何でも無いよ!」
「ケビン…?」
 その様子を見ていた少女が、持っていたコーヒーカップをテーブルに置くと、クスリと笑った。
「心配しなくても、セシルはそういうのじゃ無いから安心なさい」
「なっ…。どう言う事だよ」
「そう言う事」
「むっ。あぅ…」
 隙の無い返答に、またケビンは絶句してしまう。
 実に楽しそうに微笑むので、他の子供達も珍しそうに少女の方を向いた。
「ねーねーお姉ちゃん。どう言うコト?」
「私に関するから秘密」
 人差し指で男の子の唇に軽く触れて、少女はもう一度小さく笑う。
 腑に落ちない表情で男の子は更に考え込む。
「何だあんた達。随分と仲が良いじゃないか」
「えぇ。お陰様でね」
 監督にも興味を持たれた様だ。
 テレビだか何かで一度見た天使と悪魔の絵画が頭に浮かんだ。
 ただし、天使の方は頭に堕の字が付くが。
「どうやら私は歓迎されて無い様だねぇ」
「そう思うんだったら少し空気読んでくれる?」
「馬鹿ね。読んでるから引っ掻き回しに来たに決まってるじゃない」
 御尤もな意見だが、冗談じゃない。
「今私がどんな人間だと思われているかよぉ〜く分かったよ。だがな、私が用があるのはセシルだよ」
「ボク?」
「あぁ。お楽しみの所悪いけど、少し来てくれるか?」
「分かったよ」
 自分には少し脚の高かった椅子から飛び下りると、先に出て行った監督を追いかける。
 正に部屋を出る直前で、セシルは腕を掴まれて足を止めた。

19 :
>>18
「待ってよ。ねぇ、いつも監督と何を話してるの?」
「ケビン…? 何って、色々だよ。演技とか、舞台の話だとか。どうして?」
「だってセシル、監督に呼び出された時は必ず険しい顔をするから」
「あ、それは…」
 表情には出さない様にしている筈だった。
 だが余りにも自分が露骨だったのかケビンの洞察力が鋭かったのか。
 何れにせよ、勘付かれた事には間違い無い。
 だがそんなケビンの額を、コーヒーカップを持ったままの少女が軽く小突く。
「馬鹿ね。個人的に呼び出されたんだから、勝手に気も引き締まるでしょう。私が監督だったら、ヘラヘラした顔で話を聞かれたら殴っているわよ」
「あ、そっか…そうだよね」
 言い訳でも無い事実の片々を上手い事抜き出した、尤もな理由だった。
 それに自然に同意する様に頷くと、ケビンは納得した満足そうな表情を浮かべて戻って行った。
「ほら、貴方も。監督待たせたらまずいんじゃない?」
「そうだね。ありがとう」
「………いつまで」
「え?」
「何でも無いわ。急ぎなさい」
「うん…」
 ひっそりと呟いた少女の言葉が、セシルの耳に張り付いて離れなかった。
 言葉の続きに気付いたから。
 ずっとセシルの中で渦巻いていたモノの、中心点にあったから。
「随分と遅かったじゃないか」
「ちょっと、色々あってね」
「ちょっと、色々か…」
 言葉の矛盾を示唆された訳では無い。
 監督はその言葉の奥に潜んでいる、セシルと言う人物を見ている。
「まあ良いさ。あんたも、呼び出されたからには何の話か気付いているんだろう?」
「分かってるよ。…ケビンだよね」
「まぁ、そう言う事だな。先週の練習に比べて吹っ切れた様に見えたからな。…何があった?」
 僅かな間の変化に気付く。
 獲物を捕らえた鳥の様に鋭い、ほんの少しの空気の変化すらも見逃さない。
 つまり、自分には退却する術が何一つ無いのだ。
「もう、隠し通すのも辛くなって来たんだ」
 廊下の非常灯の明かりが、静寂を引き立てる。
 未だに嵐は過ぎ去っておらず、矢の様に打ち付ける雨音が微かに聞こえる。
「…話した、か?」
「まだ。だけど、自分に誤魔化しが効かなくなってるみたいなんだ。ボクが何かを抱え込む度、どうしてもそれをケビンが気付いてしまう。不安に思ってしまう。さっきだって…そうだった」
 孤独に潰されそうだったケビンの表情が脳裏に甦る。
 自分が側に居るのに、寂しい思いをさせてしまった夜。
「泣かせちゃったんだ。ケビン独りには広過ぎるあの家のホールで、両親の声を聞いてた」
「そうか。あいつが、ね…」

20 :
>>19
 溜め息を一つ、零した。
 頭の上に置かれた手が、温かかった。
「監…督?」
「もう、戻って良いぞ。ついでに寝具の準備をする様に言っておいてくれ」
「うん…」
 廊下の奥に、小さな足音が消えて行く。
 その音が完全に聞こえなくなると、彼女は廊下の手摺を椅子にして壁に凭れ掛かった。
 額に手を置き、また一つ溜め息を零した。
「これ以上誤魔化すのは無理、か…」
「当然じゃない」
 突然の第三者の存在に監督が驚いた様子は無かった。
 その声の主がセシルが消えて行った方を一度確認した後、物陰から監督の前に姿を表した。
「何年も嘘の手紙で誤魔化し切れる訳が無い。貴女も今が潮時だと思っているんでしょう?」
「あんたは反対か?」
「さぁね。私にも何が正しいか分からないから。ただ言える事は、ケビンには『秘密』と言う鎖が幾つも絡まっていて、解錠も切断も難しいって事かしら?」
「幾つも、か…」
「分かっているでしょうけど、一番その要因を作っているのは…」
 監督にも十分過ぎる程分かっていた。
 その最たる理由が、セシルにある事を。
 ケビンと似た境遇にある少女から見れば、セシルの存在は不審極まり無い。
「それでも貴女はセシルをこの場所に置いている。他の皆もセシルを受け入れている。そして、何故かそのセシルまでもケビンを気に掛けている。正直、分からない事だらけだわ。だけど…」
「あんたが気に食わないのはそっちじゃないだろ」
「当たり前でしょう。私は貴女“だけ”が知った顔をしているのが気に入らないの。今一番胡散臭いのは、紛れも無い貴女なのだから」
 また一層と、雨の音が強くなった。
 透き間風の唸り声が廊下に響き渡る。
 やがて音が止み、再び静寂が訪れると、少女は踵を返す。
「私が言いたい事はこれで全て。後はどうするのかは貴女に任せるから」
「胡散臭いんじゃなかったか?」
「さぁ。私には分からないわ」
 それだけを言い残し、少女もセシルの後を追う様に消えて行った。
「まいったね…」
 鬱陶しい雨音を気晴らしに聴いてみた。
 何処かの自然の中に自分が居る様な気がした。
「本当、どこまでもお人好しなんだな。あいつらは…」

21 :
連続投稿数に変な制限かかってるみたいで、とりあえずここで止めます。
それと、>>9は自分です。
名前書いてないことに今更気付いた。
>>エイタロの人
思う存分に抱き締めてあげてください(ちょ
…一番濃厚な奴を頼む

22 :
>>20
 寝具の準備が一通り整い、後は眠るだけとなった。
 しかし好奇心旺盛な子供達は、嵐の夜に何かときめきを覚えたらしい。
 余り認知したくない事実だが、体力がまだまだ有り余っているのは年少の子供達で、それよりも年上の者はほとんどが疲れ果てた表情をしていた。
「あ〜あ、私も随分と年食ったもんだな」
「監督がそれを言わないでくれる?」
 そう言えば彼女の年齢は幾つなんだろうと、女性に対して失礼な疑問を抱いてしまった。
 外見はまだまだ二十代前半にしか見えないが、自分の父親を『愚弟』と言い捨てた時点で三十は既に超えているのは間違い無い。
「おい」
「あ痛っ!」
 頭部に石の様な堅いものを落とされた。
 見上げると、拳を握り締めた監督がそこに居た。
「あんた今失礼な事考えてたろ」
「う…」
「痛そう…」
「実際痛いんだよ」
「一体何を考えてたの?」
 ケビンのその一言は言うまでも無く、辺り一帯の温度を下げた。
 冷たく白けた視線を大量に浴びて、ようやく自分の置かれている状況を認識し始めた様だ。
「さぁて、程よく眠気が出て来た所でさっさと寝てしまうか」
「私、ちょっと身体が冷えたからシャワー浴びてきたいんだけど」
「あの、ボクも…」
「え?」
「許可」
「えぇ!? じ、じゃあ…僕も」
 結局他にも数名の要望があり、男女別に分かれた大浴場を使う事になった。
 どうやらまだまだ休息には有り着けないらしい。
 そう言えば自分は大浴場が何処にあるのかは知らないのでケビンに引率を任せた。
 雨音が囁く薄暗い廊下を歩く間に泣き出してしまいそうな子供が居ないか見張る為に、殿はセシルと少女が担う。
「なんかさ、ゲームのダンジョンにいるみたいだね」
「これでモンスターとかでてきたらおもしろいのにね」
 等と余計な事を言う人物まで居る始末。
 ちょっとした恐怖を体験出来る様な場所では、得てしてそれを煽る者が居るものである。
「ちょっと、こわいこといわないでよぉ!」
 早くも涙目になる子供が現れ、慌ててセシルが制止に入る。
「ほ…ほら、こんなにいっぱい人が居るんだからさ。モンスターが出て来ても倒せるから。…ね?」
「セシル、それじゃ余りフォローにならない気が…」
「やっぱりでてくるんだ…」
「あ…」

23 :
>>22 規制解除?
 子供達に合わせて冗談を交えたフォローのつもりが、予想通りの解釈をしてくれなかった。
(ケビンに突っ込まれちゃったよ…)
 いつもと逆の立場に追い込まれ、どう立ち回れば良いか分からなくなった。
 それがケビンに伝わったのかは分からないが、その人物は列の一番前で苦笑していた。
「馬鹿ね貴方達。この御時世でモンスターなんて出て来る訳無いじゃない」
「ホント?」
「え〜? つまんない…」
 いや、実際出て来られたらそれ所じゃない。
 寧ろ問題なのは、純粋な子供達の夢を玉砕させる様な発言の方だろう。
「早く行きましょう。幽霊なら兎も角、モンスターの話なんてしていても仕方無いから」
「そうだね…って、幽霊?」
 思わず聞き返さずにはいられなかった。
 前進しようと前に出した足の踏み場に迷い、注に浮いたままの子供も居た。
「知らないなら教えてあげる。少し前までこのホールはまだうちの劇団所属の物では無いシティホールだったの。出来たばかりだったから当然連日様々な劇団がここを使ってたみたい」
「そうか。今は専属だから撮影所として使えてるんだ」
「そう言う事。ある日私達みたいな少年少女劇団の公演が決まって、このホールにゲネプロに来たの。子供同士の恋愛を悲観的に捉えた、束縛的な劇のね」
 束縛的と言う言葉がどの様な意味を指しているのかは分からないが、明るい内容では無いらしい。
 子供達も分かる単語だけを掻い摘まんでそれぞれの解釈をしている様だった。
「だけど、その主役二人には問題があった。いいえ、そもそもキャスティングの時点で駄目だったのよね」
「駄目?」
 今度はケビンが尋ねる。
 いつの間にか列が崩れ、話を聞こうと彼女の周りを子供達が囲んでいた。
「実際その二人が恋仲同士だったのよ。と言っても、お互いがお互いを意識し合う程度で付き合っていた訳では無いみたい」
「こい…なか?」
 やはり子供達には少し単語が難しいらしい。
「どちらも相手を好きだと思っていたって事ね。それだけじゃ無くて、その二人の片方が他の沢山のメンバーからも好かれていたの。当然そのメンバーは怒りを覚えた」
「偶然、なのかな…」
「さぁね。キャスティングを担当した人物が知ってか知らずか。状況をややこしくしてるのはそれだけじゃ無い」
「ま、まだあるの…?」
 季節外れの怪談話には、まだまだ裏があるらしい。
 子供達もそろそろ退屈し始めたかと思ったが、意外と彼女の話を聞き入ってる様だった。
「主役の二人は男同士だったのよ」
「ふぇっ!?」
 露骨に奇妙な声を上げるケビンに注目が集まる。
 かく言う自分も顔が熱くなるのが分かった。
「そんなに驚いてくれるとこの後も話し甲斐があるわね」
「あ、いや…。たはは…」
「脚本からもメンバーからも奇異の目で見られる。その重圧に耐え切れなくなって、周囲に妬まれていた子は風呂場にあった剃刀で手首を切って自…。結局その劇も公演されず終い。もう一人も同じ方法で後を追った」
 雨音が何処か遠くに感じた。
 まるでその二人の境遇が自分達の様に思えた。

24 :
>>23 また名前消えてた
「あんまりだよ。そんなの…」
「どうなのかしらね。周囲が悪かったのか脚本が悪かったのか。若しくは心弱かった二人か…。私には分からないわ」
 不意にセシルは服を引っ張られる。
 先刻まで自分のすぐ前に並んでいた男の子だった。
「ねぇ、おとこのひとがおとこのひとをすきになったらだめなの?」
「え?」
「だってぼく、みんなのことだいすきだよ? それってだめなことなの?」
 成る程と思う。
 この男の子の『すき』は…
「馬鹿ね。そう言う『すき』じゃ無いの。難しい言葉で言うと、お互いを愛し合う事を言うの」
 儚くも哀しい程に純粋な、子供の疑問。
 それに対して、少女は言い訳もせずに真っ直ぐ答える。
「覚えておきなさい。一つの言葉に対して意味は一つとは限らない。今は分からなくても少しずつ、その意味を考える様になれば良いから」
 その少女の瞳は何処か淋しげで。
 泣き出してしまうのではないかと思った。
「ここまで来れば後は在り来たりな話し。夜中に大浴場を使っていると、何故か湯船のお湯が真っ赤に染まるの。発現条件は分からないけどね」
「それが、その二人の血だって事?」
「まぁ、そうなるわね」
 余りにも謂れの方が大き過ぎて、怪現象の方が霞んでしまう。
 予想通り誰も怖がっている様子は無い。
「何か…うん」
「あら、拍子抜けしている余裕は無いわよ。成就出来無かった想いが怨念となって、仲睦まじい人が居ようものなら襲われるかも知れないんだから」
「え…?」
 思い当たる節があり過ぎるだけに、その新情報は見逃せない。
 怪現象を信じている訳では無いが。
「幽霊で無くても嫉妬って怖いものだもの」
「嫉妬、か…」
 人間の負の感情の象徴。
 溢れ過ぎると破裂してしまう、爆弾の様なもの。
 人を人として見えなくしてしまう、快楽の無い麻薬。
「それって、好きな人同士が居たら…」
「想像の通り、引き裂こうとするわね。彼達にしてみれば、成就しなかった想いを当て付けられているんだもの」
 それが本当だとしたら、その二人の傷は相当深くまで刻まれているだろう。
「そんなの…」
「ケビン?」
「あ、ううん。何でもない。それより、そろそろ行かないと遅くなっちゃうよ」
「そうね。私も随分と長話をしてしまったわ。お風呂を早めに切り上げるなんて愚行はしたくないし、もう行きましょう」
 先刻の列を再び作り、一行は足を進める。
 だが、その間に口を開く者は居なかった。
 大浴場の前に着いても、時間を確認するだけだった。
 ようやく口を開いたのは子供達だった。

25 :
>>24
「おねえちゃんのいってた『すき』って、なんなのかな」
 脱衣所で服を脱いでいる最中、一番年下の子供が先陣を切った。
 先刻言葉に疑問を問うた男の子だった。
「う〜ん…。おれはよくわからなかった」
「セシルおにいちゃんは?」
「ボク? ううん、どうだろうね…」
 分からない訳では無い。
 だがこれは、子供達が自分で気付いていくものだと思った。
 それに、自分だってまだまだ子供なのだ。
 自分の固定観念を純真無垢な彼達に植え付けたくは無い。
 第一、説明出来る自信が無い。
(それよりも…)
 黙々と服を丁寧に畳んでいるケビンを見やる。
 女性陣と別れてから一度も口を開く様子は無く、何かを考えている様だった。
「ケビンおにいちゃんはどうおもう?」
「うん…」
「おにいちゃん…?」
「ケビン」
「え?」
 セシルの呼び掛けでようやく振り返る。
「どうしたのさ。さっきからずっと何か考え込んでるみたいだったけど」
「そう…だった?」
「うん」
 自分の代わりに男の子が返答してくれた。
 それに軽く苦笑いした後、セシルは表情を戻す。
「さっきの話、ずっと考えてる?」
「うん…」
「入りながらで良いから、教えてくれる?」
 黙って頷くと、ケビンは着ていた衣服を形を崩さない様に籠に放り込んだ。
 入浴用のタオルを掴んで浴場に入ると、既に子供達は浴槽に入って思い思いに遊んでいた。
 どこから持ち出したのか、中には玩具を浮かべて遊ぶ子供も居た。
「あんまり暴れると滑って転んじゃうよ」
「だいじょ〜ぶだよ」
 返事は良いが、危っかしくて仕方が無い。
 大体本当に怪我をされてはホールに残って居る他のメンバーに合わせる顔が無い。
「ボク達も入ろう」
「そうだね」
 適度に身体にお湯を掛け、二人も浴槽に入る。
 先刻の話で皆気分が下がってしまったのだろうか。
 それとも子供達なりに気遣いあっているのだろうか。
 遊び方がそれぞれ違っていても、誰一人として孤立している子供は居なかった。

26 :
>>25
「皆、本当に良い子だよね」
「うん。きっと、監督のおかげなんだと思うよ。ここでは当たり前の様に皆で助け合ってるんだ。昔から、ずっと…」
「すごいね。当たり前の事を当たり前にするのって、実はすごく難しいから」
「僕だってそう思う。でも、それでも自然に出来ている。だから、皆が皆を好きになれる」
 『好き』と言う言葉の意味を考える。
 ケビンは果たしてどちらの意味で言ったのだろう。
 先刻少女が否定したが、あの男の子の『すき』にはもう一つの意味も含まれている気がした。
「ねぇ、セシルはどんな風に思った?」
「どんな…って?」
「さっきの、付き合っていたって言う二人の話」
「…正直、ボクにも良く分からない。周りが悪かったのかも知れないし。自ら命を絶った二人が悪いのかも知れない」
「違う。そうじゃ無いんだ」
「え?」
「僕がずっと考えていたのは―」
「う、うわあぁぁ!?」
 突然の悲鳴に二人は顔を見上げる。
 それとほぼ同時に、この空間の照明が全て消えた。
「て、停電!?」
「皆そこから動かないで、じっとしてるんだ!」
「で、でも…」
 不意に脱衣所に非常用の懐中電灯が掛かっていた事を思い出す。
 出口に一番近い自分が取りに行くべきだろう。
「今明かりを持ってくるから、それまで我慢してるんだよ」
 子供達の様子から、停電の直前に何かに驚いていたのは間違い無い。
 出来るだけ早急に子供達を集める必要があるだろう。
 浴槽から上がり、早足で脱衣所に戻る。
「確かこの辺…。あった!」
 手探りで非常灯を見付け引き抜くと、暗闇には明る過ぎる程に点灯する。
 吹き抜ける隙間風が一糸纏わない肌に突き刺さる。
(早く戻らないと風邪引いちゃうよ…)
 行きと同じ様量で浴場に戻ると、その温度差がより実感出来た。
「セシル!」
「早くボクの所に集まって!」
 冷めた身体に風呂の御湯は熱かったが、それを気にしている余裕は無い。
 恐怖に震えている子供達に少しでも落ち着いてもらう為、雪山の遭難者の様に子供達を抱き寄せた。
 幸い全員が集まったようだ。
「少し経てばまた明るくなるから、それまで我慢してるんだよ。ね?」
「う、うん…」
「だけど、ゆーれいがきちゃうよ!」
「ゆ、幽霊?」

27 :
>>26
 非常灯で浴場全体を見渡す。
 少なくとも、幽霊や人影らしきものは確認出来無かった。
「せ、セシル…」
「え?」
 ケビンが震えながらある方向を指差す。
 それと同時に照明が回復し、暗闇に慣れていた眼を腕で覆った。
 僅かに見える風景だけを頼りに現状を把握する。
 しかしそれより先に眼の方が慣れて来た為、腕から開放する。
「なっ…」
 言葉に詰まる。
 正にその表現が正しかった。
「何だ、これ…」
 子供達を驚かせた正体が、眼前に姿を現していた。
 彼達が驚き、怯えるのも無理は無い。
「これって…」
「血…?」
 間仕切りされた浴槽の一角だけが、赤黒く染まっていた。
 更にその浴槽の縁には、破裂したトマトの様な飛散痕も生まれていた。
「ゆ、ゆーれい…だ」
「まさか。だけど…」
「ぼくたち、ころされちゃうの?」
「やだ! やだやだやだ、やだぁ…」
 要約程度に理解していただけあって、その怪現象の意味は分かるらしい。
 セシルは恐怖に竦む子供達をより強く抱き締めた。
 かく言う自分も目の前に広がる疑い様の無い怪奇現象に恐怖を覚えずにはいられなかった。
 ただ一人だけ、輪から外れて俯いていたケビンを見やる。
「ケビン…?」
「違う…違うよ」
 小さく呟いた後、ケビンはセシルの腕を掴む。
 そして強引に腕を引っ張り、あの血溜まりの前に立った。
「ケビン、何をする…!」
 「わっ」と言う子供達の驚愕の声が聞こえた。
 本当は自分も同じ声を出していた筈だが、それは不可能だった。
 口を完全に塞がれていたからだ。
 それも、ケビンの唇で。
 どれだけ時間が経っただろうか。
 それともほんの一瞬の出来事だったのだろうか。
 唇を開放されると、今度は身体を抱き寄せられる。

28 :
>>27
「なっ…」
 開放された筈なのに、声を発する事が出来無かった。
 思考回路の処理が全く追い付かず、身体中を駆け巡る血液が沸騰している様な感覚に陥る。
「け、ケビ…ン」
「驚かせて、ごめんね。だけど…」
 震えていた身体がセシルから離れる。
 だが、それでも鋭く顔を見上げた。
「本当に君達が居るのかも見てるのかも分から無い。だけど、僕達は…。僕は、
 セシルをこんなにも大事に想ってる」
「だれと、はなして…」
「ゆー…れい?」
「しっ」
 後ろの方で子供達のやり取りが聞こえていたが、セシルはケビンをただ見ている事しか出来無かった。
「君達がそうだった様に、僕だってセシルが大好きなんだ。だけど、だからってそれを邪魔したり引き裂いたりするのは間違ってるよ。だって…」
(あぁ、そうか。ケビンが言おうとしていたのは…)
「だって、好きな人同士を否定する事は…君達自身を否定するって事だから!」
 居る筈の無い幽霊と言うものが存在している矛盾。
 同時に、それの存在意義の矛盾。
 だから存在するのだろう。
「やっぱりそう言う事、か…」
 後方で扉の開く音が鳴り、この場に本来そぐわない人物の声が響き渡った。
 誰もがその人物の方に振り向き、それぞれが色んな意味で驚いていた。
「何で…?」
「その前に、どうでも良いんだけど…」
「え?」
「見えてるわよ」
 少女の言葉と指差された先の意味に気付き、セシルはその場にしゃがみ込む。
 大分時間を掛けた後、ケビンも崩壊する勢いで同じ行動を取った。
 クスリと小さく笑うと、彼女は足下の点灯したままの非常灯を拾い上げた。
「どう言う事だよ。何で君がここに居るのさ」
「見れば分かるでしょう。様子を見に来たに決まってるじゃない」
「それで、僕達が信じると思ってるの?」
「あら、間違いじゃ無いわよ。私が見に来たのは、その真っ赤な血の海と…貴方達だもの」
「ボク…達?」
 ようやくセシルは彼女の言葉の意味を理解する。
「君は、まさか…!」
「セシル?」
 血糊の痕に近付いて、セシルはそれを指で拭ってみる。
 最近になって馴染み出した感触そのものだった。

29 :
>>28
「撮影用の、小道具…」
「なっ…。じゃあ、さっきの停電…」
「えぇ。ただこの場所の電気を消しただけ。暗がりの中でもすぐに仕掛けられる様にしていたの。廊下も元々暗かったから、セシルも気付かなかったみたいね」
 撮影用だけあって見た目こそ本物に見えるが、感触はただの絵の具でしかない。
 考えてみれば、飛散痕が波紋状に広がっている筈が無いのだ。
「ペイントボールは失敗したと思ったけど、なかなか様になってるでしょう?」
「何、で…」
「確証が欲しかった。ただそれだけ」
「確証…?」
「あれだけ見せ付けられたもの。諦めも付くと言うものでしょう?」
 血溜りに近付くと、彼女は底の栓を一気に引き抜く。
 その後に近くのホースで血糊に御湯をかけた。
 当然その朱は流れ落ち、何事も無かったかの様に排水口へ消えて行った。
「さっきの話も、嘘…だったの?」
「さぁ、どうかしら。それはケビン、貴方が決めて良い事じゃないの? いいえ、貴方の気持ちが自ずと決めてくれる筈」
「僕の…」
 それだけを言い残して踵を返すと、彼女は風呂場から出て行った。
 辺りがしんと静まり返る。
 何処かの水道の音すらも嫌に大きく聞こえた。
「そんなの、分かんない…分かんないよ……」
 喉まで出掛かった言葉をぐっと飲み込む。
 それはこの場に居る誰にも聞いて欲しく無かった。
「ケビンは知らなくて良い事だよ」
 きっと自分は此所に居られなくなる。
 何処か遠くへ、消えてしまいたくなる。
 余計な優しさに、潰されてしまいそうになる。
(ごめん、ケビン。その理由はボクには教えてあげられない。教えたく、無いから…)
 初めて、自分が父親と同じ血を引いている事を自覚する。
 独占欲と言う底知れない嫉妬深さに、何処までも墜ちて行けそうな気がした。

30 :
>>29

「おにいちゃんたちもおねえちゃんも…どうしちゃったの?」
「さぁ…ぼくにはわからないよ」
「へんなの。すきならすきだっていえばいいのに」
「どういうこと?」
「だって、おねえちゃんはずっとケビンおにいちゃんが―」

 風呂場に戻ると頭から一気に御湯をかぶった。
 少女よりも小さな子供達は、彼女の言いつけ通り大人しく入浴していた。
 生まれて初めて思い知る。
 身を裂かれそうになる。
 失恋。

「でもさーぼくたちがあかくなってるのをみたのって、まっくらになるまえだよね〜」
「ん…?」

噛ませ犬登場の巻。
もういっその事ここに居る人達に名前考えてもらえばレギュラーで使えると言う馬鹿な期待を抱きつつごめんなさい。

31 :
保守

32 :
藤林丈司は裏切り者

33 :
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/gboy/1241618318/

34 :
ほしゅあげ

35 :
保守age

36 :
前スレ>421
 翔が中古のベビーベッドを卒業するのと我が愚兄が進級するのはほぼ同時だった。
 実年齢の事もあってか、超鈍足成長の割に歩き始めるのは拍子抜けする程早かった。
 要は体格以外は普通人並に揃ったのだ。
 言葉、歩行、認識。
 これら三つが身に付いたのは、我ながら教育の賜物だと思う。
 問題は馬鹿兄の方だった。
 小学校で言う最上級生になり、中途半端な威厳を撒き散らす様になったのだから。
 入学したばかりの中学生が奇天烈極まり無い大人意識を持つ様なものだ。
 まぁそれで多少の我が儘は罷り通る様にはなったので、その点に関してはまだ譲歩出来る。
 その代わり、両親が外出等で家を暫く離れる場合、責任意思表示過剰の愚兄に翔の責任をどうしても任されてしまう。
 自分自身がまだ幼い身であるので、仕方が無いのは解っている。
 それでも『兄』と言う役職を振り翳して翔に付き纏うのは許せなかった。
 正直、自分でも驚いている。
 余り他人に対して関心を持たなかった自分が、これ程までに翔に執心しているのだから。
 得たいの知れない感情が、自分の中で蠢いていた。
 なのだが、実際それ程気味が悪いと思った事は無い。
 たとえそれが何であれ、翔が自分にとって掛け替えの無い『弟』である事に変わりは無い。
 眠っている翔の柔らかい髪に手櫛をかける。
 何よりもこの時間が、一番の至福の時。
 翔を間近に感じる、改めて自分が『姉』と意識出来る時。
 身体の中に温かいものが溢れて、自分が硬質の硝子では無いと思える。
「んー…」
「ごめんね、起こしちゃった?」
 自分の手の体温に気付いたのか、翔は小さな唸り声をあげた。
 しかし、ただ寝返りをうっただけで再び元の心地よい寝息に戻った。
 その様子が可愛くて、思わず小さく吹き出した。
 決して他の人間には見せない表情。
 知り合いなら未だしも、家族にすら見せる事の無い。
 鏡の向こうに居るもう一人の自分だけに見せる、唯一無二の宝物。
 余りにも眩く、余りにも甘美。
 その存在を、出来れば忘れていたかった。
 自分の知らない自分に、気付きたくは無かった。
 それが余りにも自分から掛け離れている気がして、自分と認めるのが嫌だった。
 それを、今翔に対して向けている。
 それはつまり、翔に対してのみ自分をさらけ出している事を意味する。
(でも、それは―)

37 :
>>36
 ただ単に翔が眠っているから。
 だからこれは、ほんの人形遊び。
 それに気付いてしまったのは、それから暫く後の事だった。
 自分と翔が幼稚園に入園して、自分と同じ年齢の子供達が楽しんでいた。
 楽しい楽しい、御飯事遊び。
 そう思い知る。
 何も変わっていなかった。
 翔に心を許したと思っていた。
 現実は、ただ翔を玩具に見立てて遊んでいるだけだった。
 ふと、中庭を見やる。
 年少組の甲高い声が絶えず聞こえて来た。
 一人窓際の椅子に座り、その様子を眺める。
 幾つもの輪があって、その島のひとつの中心に翔が居た。
 どうやら陣取りゲームの一環の様だ。
 ルールは詳しくは分からないが、取り敢えず翔側が有利に動いているらしい。
「どうしたの? あの子達と一緒に遊びたい?」
 出来る限り優しい声を取り繕ったつもりだろう、気味の悪い音色で保母担任が話し掛けて来た。
 自分がクラスの輪に溶け込めて無いのを危惧しているのだろう。
「別に。ただ弟を見ていただけだから」
「弟…? あぁ、翔君。弟を気に掛けているなんて、硝子ちゃんは良いお姉ちゃんね」
 近所の伯母さん達の井戸端会議のそばを通ると、必ず聞こえて来る決まり文句。改めてここまで気分が悪くなるとは思わなかった。
「そんな事無い。もう翔には私は必要無いみたいだから」
「え?」
「別に、何でも無いわ」
 どうやら外の喧騒に掻き消えて、言葉が伝わらなかったらしい。
 椅子から降り、近くに居た女の子の集団に紛れ込む。
(そう…。もう私は必要無い)
 ゲームのリーダーシップを握っていたのは、紛れも無い翔だった。
 クラスで浮いている自分とは違い、翔はその中心人物になっていた。
 まともに他人と付き合った事の無い翔が、たった数日でその環境に馴染んでいるのだ。
 だったらこんな自分なんて必要無い。
 それだけ。

38 :
3ヶ月ほどの空白が出来てしまったんで急遽書き上げました。
書き手さんが戻ってくる事を切に願いつつ投稿。

39 :
ほしゅage

40 :
こんな俺特のスレがあったとは
絵も文も書けないが保守だけはしていく

41 :
すっかり過疎ってるね
ファンタジアが稼動したけど良いキャラ居ないかな?

42 :
ああ…過疎ってんなあ…書き手さん…
文章書けるって才能だよな。羨ましい限り
文章書ける皆さん…ネコナカジ乞食がここにいますよ(マジキチスマイル)
あ、ただ傍観してるだけも何なので俺の妄想投下していくわ
20の新キャラの中ではニャンガがキモくてスゲえ好きでずっと使用キャラにしてたら
ニャンガがなんだかプレイ回数を重ねる度に段々可愛すぎて仕方なくなってきて
ニャンガおめん取らずにバックからガッと覆いかぶさって
ニャンガの筋肉質な黒く灼けた背中を舐りながら
ニャンガの必で抵抗する細い手足の自由を奪って
ニャンガの脇とかミゾオチとか尻たぶとか色々引き続きぺろぺろして
ニャンガが徐々に大人しくなってきたらチグビとかぐりぐり責めて
ニャンガはやっぱり獣(?)だしタチじゃなくてネコだから性的な責めには弱くてだんだんこっちを受け入れるようになって
ニャンガの喘ぎ声っていうか猫なで声が艶を増してきたところでニャンガのケツニャンコを指でグチグチ鳴らして慣らして
ニャンガのケツニャンコがやらかくなってきたら亀頭なすりつけて発射のカウントダウン後に勢いよくに男根ブチ込んで
ニャンガの「ミギャーッ!」っていう金切り声的な鳴き声を小耳に挟みながら
ニャンガの引き締まったケツをケツ穴から血が出てもお構いなしにガッツガツに嬲りたおして
ニャンガのケツニャンコに最後は締め付けられてザーメン搾り取られたいんだけど
異端か?

43 :
シシワカとカゲトラのにゃんにゃんは可愛いのう。
カゲトラには嫁が居るけど、それとはまた別の問題なのです。

44 :
包茎六ハァハァ保守

45 :
wacバムでメガネロックロングをもっさり期待するメガネ腐男子保守

46 :
救済age
何か落ちまくっててびびった

47 :
>>46
なんか一度ヤバかったな
たまに保守りに来るわ

48 :
>>45
今更だけどwacバムメガネ入って良かったな
保守

49 :
保守

50 :
保守

51 :
保守

52 :
以前、ポップンカードの上司部下を見てネタ投下した者です。
中途半端に終わってたので再度投下しようと思うのですが、需要ありますか?
ネタフォルダ漁ってたら出てきたので…。

53 :
カモーン!

54 :
職人さんたち皆今居ないし、需要云々よりも先ずは投下が一番だと思うよ。
基本的に平和なスレだしこれで書き手がまた増えたりするかもだし。

…というのは建前で単純に見たい!

55 :
>>52です。
過疎ってるみたいだから返事は貰えないと思ってました…。
とりあえず上司部下投下しますが、どこまで投下したか覚えてないので最初から投下します。
長いです。


むせ返る程の黒煙が、視界を、体を―――何もかもを飲み込んでいく。
古びた油と廃れた灰の臭いが、非常に不愉快だ。
焔を思わせる朱い瞳を閉じて、意識を集中させる。
(やっぱり、気配が無い。)
相手が人間では無いという事は、とっくに分かりきっていた。
それでも職業上の自尊心から諦めきれず、傷だらけの体は徐々に鈍さを増していく。

「その体で私を討とうとする心意気、誉めてやろう。」

背後から耳元へ囁かれ、即座に翻しナイフを向けるが。

「…そして、愚かだ。」

刃が空を切ったかわりに、心臓を直接掴まれたような圧迫感が襲った。
「――――……っ…!!」

実体が朧げな敵は青く輝くネックレスに手を翳し、その手をゆっくりと丸める。
その直後に、朱い瞳の彼は嗚咽を漏らし蹲った。
「貴様の"負け"だ。」
敗北―――敵はあえてその事実を強調した。
自分がどんな顔をしているか、考えたくも無い。
敵が放つ青白い光が一層強くなり、意識はそこで途絶えた。

56 :

冷たく堅い何かを膝に感じた時には、もう遅かった。

意識が完全に覚醒するよりも早く、朦朧とする視界で状況を把握する。
一見して、見慣れない廃墟…内装や雰囲気から、恐らく教会だったところだろう。
朱い瞳の彼―――ジャックは、疑念と絶望を抱く。
生きている。
しかし、任務には失敗した。
任務に失敗したら、やる事は一つだけ。
…だが、それを実行しようにも出来ない。
何故なら、口には猿轡。
四肢を後ろ手に拘束され、上半身は起こされ、跪いているからだ。
されずに連行され…言うなれば「捕虜」という状況だろうか。
そして雇い主についての情報などを問い質され、応じなければ拷問。
そこまで考え、項垂れた。
拷問が怖いわけでは無い。
ただ、今まで失敗した事など無かったために悔しかった。
そのうえ自害も許されない。
肩を落とした瞬間…真正面から突如、気配が現れた。
「気が付いたか。」
はっ、と息を飲んで見上げると、そこには先程の敵がいた。
戦闘の際には見られなかった深紅の瞳をジャックに向ける。
標的だったこの男の名は、ヴィルヘルム。
鋭い眼光で睨むジャックを意に返さず、ヴィルヘルムは言葉を続ける。
「常套句だが、まずは依頼主について問おうか。」
そんな風に問われ、誰が簡単に口を割るものか。
奴の喉を掻き切ってしまいたいと思うジャックだったが、拘束されている上に噴火機もナイフも銃も無い。
ガスマスクすら奪われており、些細な表情の変化も相手に見られてしまう。
全くもって不愉快だとジャックは胸中で吐き捨てる。
「先程の戦いからして、プライドが高いと見た…単純に聞いても応えないのは分かっている。」
「………自ら言いたくなるまで、待ってやろうか?」
―――待つ…というのは、こちらがぬ寸前まで、という事だろうか。
そう捉えた瞬間、布を裂く甲高い音が響いた。
ヴィルヘルムが持っていたのは、ジャックが戦闘に使っていたナイフだ。
息もつかぬ間にジャックが着ていたシャツを正面から切り裂いたが、肌は傷一つ付けていない。
目を見開くジャックに対し、ヴィルヘルムは薄ら笑いを浮かべていた。
「そうだな…
それまでは"遊戯"でもして愉しむとしよう。」

57 :

言っている事の意味が分からない。
混乱するジャックを無視して、ヴィルヘルムは先程裂いた服を掴み、ジャックの上半身を露わにする。
何事かと身を捩るジャックの腹から胸へと、白い手袋に包まれた掌が這う。
手袋越しの体温があまりにも冷たく、捩る体がビクリと跳ねた。
「よく鍛えられている、無駄の無い体だ…だが、場数はあまり践んでいないな。」
無遠慮に体を弄って、いちいちこちらの神経を逆撫でる物言いに血が昇る。
そして、目の前に近付いてきた赤い髪めがけて頭突こうとした瞬間だった。

「っ…!?」
ヴィルヘルムの指先が、ある意図を持って、ジャックの乳首を捏ねた。
痛いのかこそばゆいのかよく分からない感覚に、思わず体を引く。
それを見たヴィルヘルムは唇に弧を描き、戦闘にてジャックを伏した際に使用したネックレスを再び輝かせた。
条件反射でジャックは目を固く閉じる。
…しかし、あの時のような苦しみや圧迫感などは無く、何故か体の奥から急激な熱を感じた。
その熱は瞬く間に体中を巡り、先程触れられた箇所がむず痒くなってゆく。
轡を噛まされている口からは荒い吐息が漏れる。
「どうした?苦しいか?」
愉悦を滲ませる顔を、潤んだ朱の瞳は敵意と意で映す。
映された相手は喉を鳴らして嘲笑う。
「良い顔だ…そうでなくては面白くない。」
そう呟くと、ジャックの脇腹に手を添え胸に舌を這わせた。
「あっ…!?」
背筋を走った衝撃に喉を反らせ、轡越しに声が漏れる。

何だ、今の感覚は…?

「ん…っ、ぐ…!」

す標的だった奴に、自分と対して歳も変わらないような男に、今、一体何をされてる…?
胸中は屈辱と嫌悪と羞恥が渦巻いているというのに、与えられる熱に焦がれる―――これが、快楽というのだろうか。
こんな愛撫じみた行為も、男と女がするものだと窺っていたが。

「従来の拷問では、つまらんだろう。」

まるでこちらの考えを読んでいるかのような言葉に、ジャックは思わずヴィルヘルムへ顔を向けた。
「貴様が考えている事くらい、手にとるように分かる。
ちなみに、私はこう見えて齢四百は越えている。見くびるなよ。」

58 :

「ぁ、あっ…!」
読心術でもあるのか…。
また心を読まれるのは癪だと思い、思考を巡らせるのはやめた。
この「遊戯」と称した「拷問」から、ひたすら堪える事に専念しよう。
体勢を整え居直るジャックを見て、ヴィルヘルムは目を細めた。
「…いいだろう。」
艶かしく動くヴィルヘルムの手が、固く主張し始めたジャックの陰茎を撫でた。
「くっ!…ぅ……」
腰に来る鈍く甘い刺激に、敏感になっているジャックの体は大きく跳ねた。
撫でられながら下履き全てを下ろされると、ジャックは肩と膝に布を引っ掛けただけのほぼ全裸という姿になってしまった。
外気と視線に晒された下半身はぶるりと震え、陰茎は更に昂ぶりを見せる。
ヴィルヘルムは手袋を外し、冷たいその手で直接ジャックの陰茎を包み込み、緩く擦りあげた。
「う…!んんっ!!」
轡を噛んで堪えようにも、どうしても声が出てしまう。
甘い蜜のような何かが脳髄に広がって痺れる感覚が、とても気持ちいい。
「はっ…あ、ぁあ…」
がくがくと太股が震え、無意識に腰が動く。
気持ちいい―――とにかくそれしか頭に浮かばない。
きっと今、己は浅ましくだらしの無い顔をしているのだろう。
それでも熱は爆ぜそうな程に増していく。
「うぁ、あぁぁ…っ!!」

甘い蜜が波となって迫ってきて…果てる、と思った瞬間。
出口を塞がれるように陰茎を強く握りこまれた。
痛み、閉塞感、逃げ場の無い快楽が一気に篭って、ジャックは潤む瞳でヴィルヘルムを見つめる。
「どうした?縋るような眼だな。」
笑いを堪えているのが分かる。
かつてこれ程の屈辱を味わった事があっただろうかと、ジャックは目を伏せると頬に一筋の涙が伝った。
その様を見てもなお、ヴィルヘルムは喉を鳴らして笑う。
「貴様、淫売の才能があるぞ。」
お前が俺の体に何かしたくせに、何を言うか。
それよりも…体内で暴れるこの熱を、早くどうにかしてくれ――

「イキたいか?」
地に響く声での問い掛けに、ジャックは小さく頷いた。

59 :
すると上体を押し倒され、ジャックは膝立ちの姿勢から仰向けにされた。
足の拘束が外されズボンを取り払われる。
今なら蹴りを見舞う事が可能だろうが、力が入らずまともに動かす事すら出来ない。
足首を掴まれ大きく開かれると、あられもない姿となった。
「良い格好だな。」
こうなる前から痴態を晒しているので、今更どうというわけでは無い…もはや諦めている。
だというのに、燻るような熱が引かないのは何故だろう。早く触れて欲しくて仕方が無い。
「ん…んぅ…っ」
陰茎は萎えぬまま、先走りの蜜を溢れさせ脈を打つ。
ヴィルヘルムは尖った爪先でジャックの尿道を突くと、ジャックは背を反らせて悲鳴のような声をあげた。
「ああぁぁぁっ!!」
その衝撃のせいか呆気なく達してしまい、ジャックの腹に精液が滴る。
「う…くっ…」
孕んでいた熱が引いたと思いきや、下腹部がじりじりと痛んでまた熱を帯びてゆく。
意識も霞んで、ジャックはもう何がなんだか分からなかった。
ヴィルヘルムは滴る精液を指に絡めると、ジャックの後腔の周りを解すように撫でた。
そこまでされて、次に何をされるかようやく把握出来た。
急速に意識が浮上する。
「んっ!ぐっ…!!」
「落ち着け、痛くはしない。」
もう散々玩ばれたが、それだけは…!
非難めいた眼でヴィルヘルムを射抜くが、やはり一笑されて
「なんだ、こちらの経験は皆無か?」
当たり前だ。
そんな所、何かを入れる場所じゃない。
鋭い爪を立てないのはせめてもの優しさか、それでもぬるぬると滑る指は後腔へ侵入を始めた。
「―――――!!」
息を詰めて堪えようとしたが実際の感覚は異物感だけで、想像していた痛みは無かった。
「痛くはしない、と言っただろう?」
そういえば、事の初まりからずっと痛くは無かったとジャックは思う。
全くタチの悪い拷問だ。
ジャックは抗う気力を失いかけていた。
円を描くように、探るように指が蠢き、空気の抜ける音や粘着質な水音が響く。
内臓が圧迫されているようで気持ちが悪い。
「ぅ、ぐっ、ぅう」
轡を噛む唇から漏れる弱々しい声が情けない。
しかし、ヴィルヘルムがある箇所を押し上げた時、情けない声に艶が入る。
「はぁ…っ、んっ!」

60 :

「あっ、ん、あぁっ!」
ヴィルヘルムは目敏くそこを突き、ジャックは声を上げ身悶える。
瞳は虚ろで焦点は合ってない。
体中の血液が沸騰しているみたいに滾っている。
そんなジャックの様子を見て、ヴィルヘルムは自害を防ぐ為だったはずの轡を外した。
「うぁっ!あぁぁぁ!!」
轡が外された事により、より大きな嬌声が響きジャックは白髪を振り乱す。
「あ…ッ!ぐっ―――!」
だが、またもヴィルヘルムは栓をするかのように、きつくジャックの陰茎を握り込んだ。
「痛っ…な、んで……!?」
せき止められながらも、かつてない程の快楽へ導いてくれるヴィルヘルムに、ジャックは泣き出しそうなくらい弱々しい声を漏らす。
堕ちたジャックを見据えたヴィルヘルムは口許を歪ませる。
そして、ヴィルヘルム自身の熱く脈打つ陰茎が取り出された。
色素は薄いが質量は大きく、ジャックは息を呑む。
「力を抜け。」
「ぁ…、」
そそり立つその先端をジャックの後腔に押し付ける。
思わず歯を食いしばったその時。
「ひ……!!」
肉を押し退けて侵入してくるそれは、今にも内臓を潰してしまうのではないかと錯覚してしまう程だった。
しかしジャックに休む隙も与えず、ヴィルヘルムは律動を始める。
「ぐ…っ!、ぅ…あっ…!!」
苦しい、と嘆願しようとしたが、握り込まれていた陰茎を律動に合わせて激しく扱かれる。
萎えかけていたジャックのそれは再び堅さを取り戻す。
「あ、あッ…」
腰から下が灼けるようだ。
「っ、は…うっ!」

61 :

腰を打ち付ける激しい衝撃音が響き、掠れた悲鳴を上げるジャックの口からは涎が滴り、汗と共に肌を伝う。
更にヴィルヘルムはジャックの脇腹や胸へと舌を這わせ、その度にジャックは体を痙攣させた。

「や…もう…あ゙っ…!」
「何だ、やめてほしいのか?」

気付けば自ら律動に合わせて腰を振っていたジャックに、ヴィルヘルムはわざとらしく首を傾げて問いかける。
「違っ…ぃ、イキた…い…
……な…でも…………から…」

消え入りそうな声で呟いた瞬間、緩やかになりかけていた律動が再び激しいものに戻った。
「あッ!!い、気持ちい…!」
「ぅ、んっ、あ…もう…!
イクッ…――――!!」

背を弓なりに反らし、全身の筋肉を硬直させて、ジャックは直ぐさま果てた。
直後の締め付けを利用し、ヴィルヘルムは自身が果てる為になおも腰を打ち付け、後にようやくジャックの後腔から陰茎を引き抜いた。

「…なかなか、楽しめたぞ。」
「―――――……」
未だ快感の余韻に浸っているジャックは、虚ろな瞳にヴィルヘルムを映す。
「依頼主についても、貴様の口から聞けると誓った事だし…」
その後は、本来ならば用済みであり始末するところだが…それでは勿体なさ過ぎる。

「…これからも楽しめそうだな。」

静かに囁かれた言葉にも、ジャックは他人事のように目を伏せた。

62 :
とりあえず以上で終了です。
誤字脱字あったらすみません。

63 :
久しぶりにえっちぃのキター
強気っぽいキャラがこうも辱められるのがいいですなぁ
生気を失った瞳のジャック…ムフフ

64 :

凄く良かった
続きがあったら読みたい

65 :
保守あげ

66 :
今更だけどロケテがあったみたいね。
行けた人もし良キャラが居たら是非報告よろしく。
ついでにあげ

67 :
保守

68 :
>>37
 八月の終わりが近付いていた。
 中学生となったハヤトにとっては初めてこの夏休みと言う長期休暇が大切なものだと思い知った。
 中学生を中心とした全国的な大会を最後に翔は部活を引退し、残った休日は殆ど一緒に過ごした。
 公園で翔にバスケットボールを教えてもらったり、逆に自分がスケートボードを教えたり。
 翔の家で一緒に宿題を片付けた事もあった。
 その翔の兄であり高校教師であるハジメと、同じく姉である硝子の助けにより、既に宿題は全て消化済である。
 それでも、自分の中にある欲求は随分と肥沃らしい。
(何だか、今なら薬物乱用する気持ちが分かる気がする…)
 夏休み直前に体育館で訪問警察官に聞いた話と今の自分が重なり過ぎていて、正直形容し難い苦笑いと寒気がハヤトを襲った。
 一度快楽を知ってしまうと、それが無くてはいられなくなり、更なる刺激を求めてしまう。
 翔への想いと言う麻薬は恐ろしい程に中毒性が強いらしい。
(何だか、物足りない…)
 会えば会う程に“次”を望んでしまう。
 事実毎日会っていたとは言え、その日の昼前から夕方までのほんの数時間足らずで別れてしまうのだ。
「これってやっぱり我が儘かなぁ…」
「何が?」
「はぅあ!?」
「うぉ!?」
 お互いが予想外な奇行に奇妙な反応を示す。
 振り返ると翔の両手にはクリーム色のシャーベット飲料が注がれたグラスが持たれていた。
「あ…う…」
「びっくりしたなもう。どうしたんだよ一体」
 グラスを自分に手渡すと、翔はベッドに座っていた自分の隣に座る。
 今日も今日で翔の家に遊びに来ていたが、翔は冷たいものを持ってくると言って翔の部屋には自分だけだった。
 翔が集めているバスケットボールを題材にした漫画を流し読みしている内に、毎度の事ながら変な長考に囚われていた。
「度々ハヤトのそーいう様子見るけど、今度は何を考えてたんだ?」
「あ、うん。いつも僕達遊んでるし、楽しいんだけどさ。でもせっかく夏休みなんだから、もっと夏休みじゃないと出来無いようなコトもやってみたいかな…って」
「夏休みじゃないと出来無いようなコト…?」
 見事に鸚鵡返しな返答が戻って来てしまった。
 何か具体的な例でも挙げた方が良いだろう。
 とは言え、己の欲望を悟られない様にかなり包み隠すのだが。
「そうだなぁ。例えばちょっと遠出してみたり。他にも、お泊まり会みたいな事やっても良いんじゃないかな」
「遠出かお泊まり会か…。楽しそうだな」
「おいおい。だったらどっちかじゃなくてどっちともやれば良いじゃねぇか」
「ハジメ兄ぃ?」
 そういえば翔の両手は塞がっていた為部屋の扉は開いたままになっていた。
 どうやら自分達の会話を途中から聞いていたらしい。
「どっちも…って、もう休み殆ど無いんだけど」
「だからどっちも一気にやるんだって。丁度ギリギリお誂え向きな話が来たんだ」
「え、何なに?」
 興味をそそられる話題に翔は目を輝かせている。
 それを見ると、ハジメも可愛い弟を見る目で小さく笑う。

69 :
>>68
「翔は小さい時に一回会っただけだから覚えてるかどうかは分からないが、俺の従弟が旅館の息子でな。さっきそいつからメールで連絡来たんだ。夏休みの残り数日空いてる部屋が出来たから泊まりに来ないかって」
「旅館?」
「そ。おまけにそいつ、近場の海で海の家の手伝いやってるらしいから飯も困らないそうだ」
「すっげぇ。海かぁ…」
 海の家があると言う事は、恐らく砂浜なのだろう。
 もう翔の瞼には雄大な海原が広がっているのかも知れない。
「ハヤトも一緒に行くだろう?」
「え…良いんですか?」
「なに言ってんだよ。当たり前に決まってるだろ。元々お前と一緒にって話だったんだからさ」
「ありがとう、翔先輩…。じゃあハジメさん、お言葉に甘えて御厄介になります」
 ぺこりとハヤトはハジメに頭を下げる。
(お父さんとお母さん、多分許してくれるよね)
 若干不安にはなったが、結局はさして問題にはならないだろう。
 なにしろいつまで経っても子供心が抜けないような両親なのだから。
 寧ろ自分達も連れて行けとすら言い兼ねない。
「じゃあ残りはあいつだけか」
「あいつ…? あぁ無理。今部活で合宿中」
「そうか。だったらどうしようも無ぇな。つー訳だ。二人ともちゃんと準備しておけよ」
「りょーかい」
「はい。ありがとうございます」
 軽く頷き、ハジメはゆっくりと扉を閉めた。
「海かぁ。久しぶりだなぁ」
「僕も楽しみ。ところで、あいつって?」
「あぁ、オレの幼なじみ。ま、無理なもんはしょうがないさ。その分オレ達が楽しもうぜ?」
「うん、そうだね」
 この時ハヤトが“あいつ”と言う言葉を気に留めなかったのは、まだ翔と出会ってからの日数が僅かばかりに少なかったからだろう。もう少し後であれば、気になって仕方が無いに決まっている筈だ。
「そうと決まれば、まずは買い物だな」
「何で?」
「だって、オレ水着持ってないんだもん」
「学校のは?」
「海でか?」
「………僕も一緒に行く」

70 :
>>69
 思惑通り両親からOKを貰い、翔と一緒に近所のショッピングセンターで買い物を済ませた。
 手早く済ませたつもりだったが、建物を出ると既に空は暗くなり始めていた。
 決行が翌日に決まってしまった事もあり、二人はその場で解散する羽目になってしまった。
 渋々家に戻ると、何と既に母親が荷造りを済ませてくれていた。
 これは本当に付いて来るつもりなのではと不安が募りつつも、翌日には自分の見送りに翔の家まで付いて来るだけだった。
 とは言え何が入っているのか分かったものでも無い為、結果的にもう一度自分で中身を確かめてはいる。
 二度手間感は否めなかったが、案の定何に使うか分からない袋が隠されていたので徒労では無かった。
 一際気になったのは、薬品の様に密封されたゴム状の輪だった。
 結局、それが何だったのかは聞く機会を失ってしまったが。
(まぁ別に良いか。そんな事より…)
「どうやって海まで行くんですか? それに、ハジメさんは?」
 隣で本を立ち読みしている硝子にこれからの経緯を確かめて見ると、「待ってればすぐに分かる」と一言で済まされてしまった。
 そしてその数分後、確かにそれはハジメの到着と共に判明する。
「よ、お待ちどおさん」
「ふえぇ…」
 余りの納得のいく結果に、思わず奇妙な声が出てしまう。
 玄関先に乗用車が停車すると、中からハジメが姿を現したのだ。
 しかも運転席の窓から。
「ハジメさん、免許持ってるんだ」
「おうよ。高校卒業してからすぐにな」
「でも、この家には車…」
「仕事仲間に時々運転させてもらってんだ。だから紙じゃ無いから心配すんな」
「い、いぇ…そんなつもりじゃ……」
「良いから、兎に角トランク開けてくれる? 荷物さっさと入れたいから」
 得意気なハジメの前に硝子の冷たい一言が鋭く貫く。
 対するハジメも「へいへい」と馴れた様子で車のトランクの解錠に移行した。
(この二人って、仲良いのか悪いのか…)
 等と微妙な空気が漂ってはいたものの、迷わずに助手席に乗る硝子を一度見てしまえばその考えは邪推だとすぐに解った。
「6時半…。今から出発すれば大体昼辺りには到着出来るかしら?」
「ま、道路次第だわな。んじゃ、お前ら忘れ物無いだろうな?」
「当然!」
「はい。大丈夫です」
「そんじゃ…」
『レッツゴー!!』
 その威勢の良い切り出しから5分後、レンタカーショップからハジメの免許証を預かっていると言う電話でおめおめと引き返す事になるとは誰も予想していなかった。
 因みに「普通車はATに限る」。

71 :
>>70
 車内を爆笑に包んだタイムロスが災いしてか、高速道路の道中で渋滞に巻き込まれた。
 車なのに分速100メートル弱という徒歩と同程度の進行具合で(一般的には分速80メートル)、運転手のストレスは徐々に募っていく一方だった。
 こちらから直接ハジメの表情を伺う事は出来無いが、バックミラーに写る一部分だけでも微妙な心境は伺えた。
 自分で巻いた種なだけに、発散手段が無い。
 非常に肩身の狭い立場がハジメにのし掛かっていた。
 もう片方に至っては時折肩が震えていた。
 その光景がこの上無く不気味なモノに見えた。
 兎にも角にもそんな紆余曲折が続き、漸く目的地まで半分となる場所まで辿り着いた。
 自分と同じ携帯ゲームで遊んでいた翔の手が止まったのだ。
 翔とワイヤレス通信で共用していた為、ハヤトはすぐに気付く事が出来た。
「翔、先輩…どうしたの?」
「翔?」
 自分の言葉で前二人も感付き、硝子も後ろへと振り向く。
 ハジメもバックミラー越しに翔の様子を伺っていた。
「先輩、大丈夫?」
「あ…え……?」
 携帯ゲーム器を支える指先は小刻みに震え、目線もどうやら定まっていない様だ。
 残暑の真っ只中に、まるで翔の周りだけ真冬が囲んでいるのではないかとすら思えた。
「兄さん!」
「解ってる!」
「うわぁっ!?」
 一瞬だけ開いた隣の車線の車間をハジメは見逃さなかった。
 最小限の小回りで更に車線を跨ぎ、一気にサービスエリアの車線に車を潜り込ませた。
 建物に一番近いスペースを見付けると、ハジメと硝子は素早く翔を車から降ろした。
「おわっ?」
 アスファルトに降り立った途端、翔の身体はふらふらと揺れ、遂にはハジメの方に倒れてしまう。
 ハジメはそれをしっかりと受け止めた。
「先輩!」
「はぁ…。誰かなるんじゃないかなって思ってはいたんだけどな」
「え?」
「乗り物酔い。長距離長時間運転だから、それなりに覚悟はしていたの」
(今の…が?)
「揺れる中でゲームなんてやってるから。ハヤトも暫く控えておきなさい」
「は、はい…」
「ん〜悪いな、ハヤト」
「僕は別に…。それより、もう平気?」
「ん…。大分落ち着いたみたいだ」
「んじゃ、せっかくサービスエリアに止まったんだ。まだ先は長いし、少し休憩して行こうぜ。特に翔」
「わぁってるよ」
「取り敢えず、翔は温かいお茶でも飲んで来なさい。ハヤト、悪いけど翔に付いてくれる?」
「はい。行こ、翔先輩」

72 :
>>71
 翔の手を取り建物へと足を運ぶ。
 学年が二つ上でも、翔の手は自分と同じ大きさしかない。
 その小さな手は未だに震えが治まっていない。
(二人は車酔いだって言ってたけど、こんな症状になるものなのかな)
 一見もう大丈夫に見えるが、敏感な部分で触れてしまえばその恐怖が、文字通り手に取る様に分かるのだ。
 そう、“恐怖”。
 自分が知る限り、翔の今の症状に近いのがこの言葉。
(そんな事二人とも気付くと思うけど、何で車酔いだって言ったんだろ…)
 車の外で、ハジメと硝子は険しい顔付きで何かを話している。
 踵を返し、翔を連れて建物へと入る。
 室内は休憩や買い物の客で賑わっている。
 まだまだ午前中ではあるが、フードコートも沢山の客で埋まっていた。
 何処か落ち着ける場所を探してはみたものの、この状態で翔が休憩するには少々状況が悪いだろう。
「いっぱい、だね」
「そうだなぁ。ま、お茶だけでも飲んで行くか」
 やはり給湯器の前にも人だかりが出来ているが、どうやらこちらはサイクルが速い様だ。
「僕が注いでくるよ。ちょっと待ってて」
「おう。悪いな」
「こんな時はお互い様だって。じゃあちょっと行ってくる」
 最早列にすらなって無い人混みに紛れ、ハヤトは給湯器に辿り着く。
 もみくちゃにされながらも二人分の紙コップを手に入れ、何とかお茶を注ぐ。
 他人にお茶をかけてしまわないように細心の注意をはらい、翔の元へと戻る。
「あ、あれ…?」
 およそ五分と掛かっていないというのに、元居た場所には翔の姿は無い。
「嘘、どうしたんだろ…。先輩!翔先輩!?」
 だがこれだけ人だかりが出来ていると、ハヤトの声では掻き消えてしまう。
 何よりお互いが小柄な為にお互いの姿が目認出来無い。
「ハヤト、どうしたの?」
「硝子先輩…。翔先輩が……」
「落ち着きなさい。貴方を見て状況は把握出来たから。わざわざサービスエリアから、何処かその辺に居る筈でしょう」
「そ、そうですね。ハジメさんは?」
「今到着先に電話してる。まだまだ時間が掛かりそうだからね。全く…」

73 :
>>72
 額に手を付き、硝子は肩を竦めた。
 どうやら硝子には翔が居なくなるのは想定の範囲内だった様だ。
 流石姉弟と言いたいところだが、この場合は何か根拠があるのだろう。
 論理的な思考に基づいて硝子は言葉を紡ぐ。
 それはこの夏休みでハヤトなりに硝子を見てきたからそれなりに解る。
「不思議そうな顔してるけど、あなたもすぐに解るわよ」
「え…?」
「あれ、もう戻って来てたのか?」
 驚きと安堵が入り雑じった、奇妙な感覚がハヤトにまとわり付く。
 振り返ると、何事も無かったかの様に翔がそこに立っていた。
 更に両手には何処かの店で買ってきたらしいカップアイスが握られている。
 昨日の光景を再現しているのかとも思えた。
(そっか…。だから硝子先輩…)
「あんたねぇ、ハヤトが待っててって言ったのに何処かに行ったらハヤトが心配するでしょう」
「そうだよ。びっくりしたじゃないか」
「うぅ、ごめん…」
「まぁそれだけ元気ならもう大丈夫でしょ。ハジメ兄ぃも待ってるから、アイスは車で食べたら良いでしょう?」
「そうだな。じゃあそのお茶だけでも貰おうかな」
 硝子にカップアイスを手渡し、代わりにハヤトの手にあったお茶を翔は受け取る。
「んじゃ、いただきます」
「硝子先輩は?」
「私は自分のお茶は車に置いてるから。それに貴方が持ってきたんだから、貴方が飲むべきでしょう」
「じゃあ、遠慮無く…。いただきます」
 とても熱くて一度には飲み干せなかった筈のお茶を、二人は苦もなく飲み干してしまう。
 それだけ時間が過ぎてしまったのだと気付くと、ハジメを車を随分と待たせてしまっている事を明示していた。
「急いで戻ろう。ハジメ兄ぃずっと待ってるからな」
「あんたがそれ言う?」
「あぅ…」
「ま、まあまあ…」
 車に戻る途中、ハヤトは一人足を止める。
 何事も無かったかの様にハジメの元へと戻る二人を、ハヤトは一人眺めていた。
(誰かに心配されるのが申し訳無い…違う。怖い、か…)
 ハヤトには翔の今の明るさはただの空元気にしか見えなかった。
(ううん、それだけじゃ無い)
 翔だけで無く、ハジメと硝子の二人にも何か違和感を感じていた。
 三人揃って蒼井家の兄弟である筈なのに、何処かに亀裂が見える。
 無論、それが不仲な関係を現している訳では無い。
 寧ろその逆で、必要以上に“兄弟であろうとしている”様に見えてならないのだ。
(そんなの、当たり前なのに。当たり前、だから…?)
「ハヤト〜何やってんだ? アイス溶けちゃうぞ!」
「あ、ごめん。今行く!」
(僕の考え過ぎ、だよね?)

74 :
何と前の投稿からほぼ1年…
これも夏休みに合わせて書いてたはずなのにもう夜寒いし。
恐ろしい位筆が遅いんで、まだ前半も終わってませんがとりあえず投下。
過疎だし。
書き終わるのも何時になるかと考えると震えが止まんない。

75 :
うぇるかーむ!&ビューチフル青春!
遅筆、過疎はキニシナイ
カーステ
「ラジオネーム『六の背中のパンダはどーなったの』さんのリクエスト―…」

76 :
>>73
 高速道路を降りた時点で既に時刻は午後の前半部分を終了仕掛けていた。
 更に国道から逸れた山道を右に左に揺られながら走る事一時間半。
 林の隙間から見える日光が橙色に変わり始めた頃、ハヤトはその隙間の奥に小さな光を見付けた。
「わぁ…」
 木々の隙間が少しずつ広がるく。
 その度に、橙色の光は強くなっていく。
 その正体を、ハヤトは遂に目の当たりにする。
 山道を抜けると、そこは小高い丘の上。
 その目と鼻の先には果てしない水平線に煌めく太陽が沈み行く直前の、昼と夜の境目が写真の様に広がっていた。
「凄い、きれい…」
「これぞ海って感じだな」
「そうね。この時間にこの道を通った事は無かったから、私も始めて見るわね」
「だな。もうすぐ目的地だぞ」
「本当?」
「旅館…って言ってましたよね。きっと眺めも良いんだろうなぁ」
 様々な期待が自分の中で膨れ上がるのが分かる。
 それは翔も同じだった様で、自然と顔を見合わせて笑い合った。
「おー楽しみにしておけ。絶対にお前ら気に入るだろうからな」
 ハジメのその言葉で、旅先の期待値は一気に跳ね上がった。
「結局、海は明日と明後日になってしまったけどな」
「しょうがないですよ。時期も時期ですから」
「そーそー。それに、遅くなったのは俺のせいもであるからさ」
「………サンキュ」
 ハジメが肩を竦めてみせると、硝子からクスリと小さな音が聞こえた。
「…波が小さいわね」
「波?」
 道路が砂浜に近付くと、ポツリと硝子が呟いた。
「そうだな」
 ハジメはどうやらその意味を知っているらしい。
 もう一度翔と顔を見合わせるが、翔も怪訝そうな表情を浮かべていた。
「やっぱ翔は覚えて無いか」
「ん?」
「ま、それもすぐに分かるさ。よし、着いたぞ」
「おぉすげえ!」
 玄関口を真っ直ぐ進んだ先に、正に楼閣と呼ぶに相応しい五階層の建物が見える。
 先刻目の当たりにした夕陽が建物の窓にいくつも映り、更に建物その物も夕陽に照されている為、建物全体が金色に染まっていた。
「本当に海に近いんだ」
「そうね。地元のカレンダーに使われたりしてるみたい」
「ふぇ〜」
「さ、荷物持ってさっさと部屋行こうぜ。かなり待たせてしまってるしな」
「おー」
 トランクから自分の荷物を取り出すと、ぱたぱたと旅館の方へ駆けて行ってしまった。

77 :
>>76
「アイツ、自分が病人だった事忘れてんな」
「待ってよ先輩、僕も行く!」
「あ、おいコラ手伝えお前ら!」
「良いじゃないの。“オニイサマ”」
「別にお前には期待してない」
「じゃあお言葉に甘えて」
 両手が塞がっているハジメの首に自分の荷物を引っ掛けて、硝子は手ぶらで二人の後を追った。
「あのやろ、いつか潰してやる」
 右に左によろめきながら、ハジメは一行の殿を強制的に務めるのだった。
 その頃ハヤトは何とか翔に追い付き、二人で外観を見て回っていた。
「海に近いけど、裏は結構森の奥まであるみたい」
「本当だ」
「外から見ると結構不気味だね」
「そ、だな…」
「何でそこで咬むのさ」
「いや、別に…」
「まぁ良いや。そろそろ戻ろう。ハジメさん達着いてるかも」
「だな」
 下ろしていた荷物を持ち上げ、二人は正面に戻る。
 すると何故か手ぶらな硝子と逆に手荷物で達磨状態になっているハジメが待っていた。
「ちょ…どんな状況?」
「ハジメ兄ぃが快く荷物を引き受けてくれたから。さぁ、入りましょう」
「コノヤロ…」
「て、手伝いましょうか?」
「ここでハヤトに頼んだら多分俺の負けだな」
 最早兄妹間の争いは勝ち負けの問題にまで発展していた。
 流石にそれには苦い笑いを浮かべるしか無い。
 結局現状は何も変わらないまま、ハヤト達は自動扉を通り抜ける。
 その瞬間、涼しげな空気がハヤト達を出迎えた。
「す…げぇ……」
「きれいとかそんなんじゃなくて、とにかく凄い…」
 玄関ロビーの先の景色に二人は目を奪われる。
 身体中に伝わる涼しげな清涼感の正体は、吹き抜けの回廊に沿って流れる小川によるものだった。
 どうやら最上階の噴水から各階層に流れる様に設計されているらしい。
 もう少し奥を覗いてみると、小川の行く先には中央の大階段があり、その両端を囲む様な滝になっている様だ。
 宛ら自然にある水の芸当を全て取り込んだ、水の美術館と言った所か。
「ようこそ。遠路はるばるご苦労さん」
 景観に見とれていると台車の車輪の音と共に、明るい声の少年がハヤト達の前に現れた。
 台詞から察するに、彼がハジメの言っていた親戚なのだろう。
「翔クンはボクの事覚えてないかな〜? 昔一緒に遊んだ事あるんだけどな〜」
「え〜っと…。あ、あーっ! 思い出した、タロ兄ぃ!!」
「イエース!」
 ややオーバーなリアクションを取ると、息も吐かせぬ間に少年は翔に勢い良く抱き付いていた。

78 :
>>77
「おわ!」
「ん〜やっぱり翔クンカワイイねぇ!」
「え…ちょ…」
「相変わらずだな、タロー」
「それ、そっくりそのままハジメチャンに返すよ。硝子チャンも相変わらず、美人サンだねぇ」
 等と言いつつもタローと呼ばれた少年は翔から離れようとはしない。
「随時年寄り染みた物言いじゃない。私と同い年のくせに」
「硝子チャン相変わらずきびしー」
「あはは…。えっと、タローさん…は、この旅館の仲居さんなんですか?」
「違うよ〜。大体仲居サンっていうのは女の人を指すから、ボクじゃどうしてもなれないよ」
「あ、そうなんだ。ごめんなさい…」
 思わぬ所で自分の無知が露呈してしまい、ハヤトは自分の顔が熱くなるのを感じた。
「ま〜ま〜気にしない。皆結構間違えるんだよ。それにボクはただ手伝っているだけだから、従業員も正解じゃ無いかな〜?」
「そ、そうなんですか…」
 どうにも翔とは違ったベクトルの明るさに、ハヤトは対応出来無い。
 分かり易い翔と違い、このタローという人物が全く見えない。
「そんな事より、君がハヤトクンだね?ハジメチャンから君の事は聞いてるから、遠慮せずに何でも気軽に言ってくれちゃって良いよ〜」
「は、はい。宜しくお願いします…」
「そんじゃー早速お部屋の方へとご案内致しましょうかね〜。ハジメチャ〜ン、も少しだからガンバってね」
「てめぇは手伝いなんだろが。少しは手伝え!」
「ん〜手伝っても良いけど、それでハジメチャンがどんな目に遭ってもボクは知らないヨ〜」
「………自分で運ぶ」
 取り敢えず只者では無いとだけは判明した。
 底の見えなさは硝子並み。
 否、なまじ表面が明るい分硝子以上に底が見えない。
(翔先輩の周りって、ホント両極端…)

79 :
>>78
「じゃ、気を取り直して…。四名様ごあんな〜い!」
 そう言って迷わず中央階段を登り始めたタローを、ハジメは獲物を射落とさんとする程の形相で睨み付けていた。
 まぁ睨み付けただけで文字通り手も足も出なかった訳だが。
「部屋はこの階段を登って更に奥にある廊下の一番奥だよ。端っこだから覚えやすいよね?」
「へ、へぇ〜。凄く良い場所なんですね」
「そうだね〜。丁度キャンセルが入ってたから、おじさんが開けておいてくれたんだ。ほらほら、ハジメチャンもう少しだよ〜」
「……………」
 とうとうハジメの反論は完全に潰えてしまう。
 実際言い返すだけ無駄なのもまた事実なのでどうしようも無いのだから。
(ハジメさん…ごめんなさい……)
 一応心の中で謝っておく。
 一足先に駆け上がっていた翔が上から手を振っていた。
「お〜い、早く来てみろよ」
「あははは、翔クン元気だね〜」
「あれで昼までは病人だったんだから。弟ながら毎回感心するわ」
「若さってやつだね〜」
「タローってたまにじじむさいな」
「何か見付けたのかな?」
「ハヤトクンも行けば分かるよ」
 タローが階段の上を指す。
 かく言う自分も興奮を押さえきれずにいる一人であり、言われた時には既に階段を走っていた。
「何かあったの?」
「良いからあれ見てみろよ」
 そう言って翔が指したのは、この吹き抜けの中心部分となる場所だった。
「わぁ…」
 そこには天井に吊り下げられた揺り籠の様な浮島があり、フロアの水路の起点となっているらしい。
「行ってみようぜ」
「あ、病み上がりなんだからあんまり走らない方が良いよ」
「もう大丈夫だって。ハヤトも心配性だよな」
(それが無理してる様に見えるから心配なんだってば)
「………とにかく、先輩一人で突っ走らないでよ」
「へ〜いへい」
「全く…どっちが先輩でどっちが後輩なんだか」
「むぅ、それは聞き捨てならないな」
 やはりこの言葉は釘を指すのに最適らしい。
 特に翔は敬語こそ苦手としていても、自分が歳上である部分はかなり意識している節がある。
「あれ、虹が見える?」
「本当だ」
「あれは…?」
 連絡階段を登ると、水の音がより一層大きくなる。

80 :
>>79
「わ、すげ…」
 翔の言葉が途切れる程の光景がそこにあり、ハヤトに至ってはその言葉すらも出なかった。
 二人が口を噤む程の光景は、正に圧巻と呼ぶに相応しい。
 外周から渦巻く様に観葉植物が立ち並び、更にその中心となる位置に有るのは壮大な噴水。
 それも一つの大きな噴水だけで無く、宛ら水の壁が何層も取り囲んでいた。
 根元が濡れていない所を見ると、どうやら中心に立つ事も可能な様だ。
「何だか僕ゲームの世界に飛び込んだ気分だよ…」
「あ、それオレも…」
「あの…ラスト出前のお城とか、正にこんな感じだよね」
(と言うか…何で外から見たら東洋風なのにここだけ西洋風なんだろ)
 確かにスケールは壮大ではあるが、どうにもアンバランス過ぎる。
 水の芸術性を魅せる造りになっているのは理解出来るので、恐らく水のアートの象徴である噴水は外せなかったが場所を他に選べなかった…と言った所だろうか。
(芸術家のプライドってやつ…かな?)
「先輩、そろそろ戻ろうか」
「そうだな。タロ兄ぃ達待ってるだろうし。どんな部屋なんだろうな」
「そう言えば…タローさん翔先輩知ってたみたいだけど、翔先輩はここに来た事あるんじゃないの?」
「あるかもだけど…随分昔だろうから覚えてないんだよな。タロ兄ぃの事は覚えてるから、親戚の家に行った時に会ってるのかも知れないし」
「そっか…」
(昔の事って、そんなに覚えてないものなのかな?)
 引き返して階段を降りると、丁度タローと出会した。
 やはりハジメと硝子は先に部屋に行ったらしい。
「この旅館って色んな所で水が流れてますけど、何か意味があるんですか?」
「そうだね〜。ボクもそんなに詳しい訳じゃ無いけど…。ほら、ここは海水浴場が近いから夏が一番人が多く来るでしょ? でもエアコンで温度調節すると人によっては本当に寒かったりするから、自然な涼しさを取り入れたかったんだって」
「へぇ〜」
「後は、防火用かな? 場所が場所だから、もし火事にでもなったら後ろの森まで一気に燃え広がっちゃうからね。あ、そうそう。あの空中庭園はね、実はあれそのままスプリンクラーになるんだよ〜」
「へ、へぇ…凄いですね」
(………無駄に)
「あははは、変形ロボットみたいだよね〜」
「ゴメンタロ兄ぃその例え分かんない」
 ハヤトと翔の苦笑をよそにタローは相変わらず陽気な笑みを浮かべながら廊下を進む。
 紅に染まった日差しに照らされ、廊下の最奥へと進む。
「ここだよ。一番上の一番端だから覚えやすいよね」
「………まさか、お高い?」
「こらこら子供がそんな事考えない。それにぶっちゃけ微妙な値段だからノープロノープロ」
「そーそー。ってか出すのはハジメ兄ぃだし、ハヤトが気にする必要無いって」
「あ、あはは…」
「随分好き勝手言ってくれるなテメーら」
「あ…って!」
 玄関先でブラックな話が盛り上がり始めた矢先に堪えられなくなったハジメが遂に顔を出す。
 ついでに翔は後頭部に一発食らっていた。
 ちなみにタローの方は貰う前に身を翻して鉄槌をかわしていた。

81 :
>>80
「ったく…。ほら、さっさと中に入って荷物下ろしてしまえよ。晩飯あるんだろ?」
「一階の食堂でバイキングやるよ。もち、この部屋でコース料理一式だって出来ちゃうけど」
「あら、随分豪華そうじゃない」
 外が賑やかになった為か硝子も姿を現す。
 余りにも含みのあるその冷たい言葉に、ハジメは額に手を付きながら首を横に振る。
「後生だからやめてくれ。俺だって自分の身は可愛いからな」
「え〜。旅館の醍醐味だよ〜?」
「だったらさっき硝子から受け取っていたどどめ色の物体を破棄してもらってからだ」
「あら、見てたの」
「ちったぁ誤魔化せ」
(あれ…今ひょっとして身の破滅の危機だった?)
「ダイジョブダイジョブ。ボクがハジメチャン以外の口には入らない様にあれこれ工夫してくるから」
「おい」
「それより〜ごはんまではまだまだ時間あるから、皆先に温泉に行ってみたら良いよ。おっきな露天風呂がオススメだよ〜」
「温泉!?」
 釣り上げた魚の勢いで食い付いた翔の目はらんらんと輝いていた。
 かく言う自分はというと、顔面に熱が籠り始めているのを感じていた。
(温泉…お風呂……翔先輩と………っっっ!)
 以前翔とプールに遊びに行った時の光景が脳内再生される。
 当然ロッカーで二人して並んでいたので翔は隣で着替えていた。
 腰回りにタオルを巻き付けて隠していても、隙間から覗かせていたのだ。
 言わずもがなそれは翔のー

82 :
>>81
「ハヤトも楽しみだよな?」
「ふぇっ!? うん、そうだね…」
「俺はパス。全員部屋出ちまったらどっちか片方が部屋に入れない状況になり兼ねないからな。それに、いつでも入りには行けるしな」
「そう。じゃあお願いするわね。一応鍵は私が持っていった方が良いかしら?」
「だろうな」
「ほんじゃー改めて…ハヤト行こうぜ」
「ちょ…先輩まだ荷物」
「あ…」
「全く、どっちが先輩なんだか」
「うぅ〜」
 ロビーでの会話が再び再現されようとしていた。
 一頻り着替えをまとめて、ハヤト達は温泉のある旅館の一角まで足を運ぶ。
 すると、独特の芳香に先頭に立っていた翔が足を止めた。
「何かここだけ変わった匂いがする」
「本当だ。何だか前授業でこんな匂い…」
「多分檜の香りじゃない? いよいよ高級旅館って感じね。じゃあ二人共、あまりはしゃぎ回っちゃ駄目よ。特に翔」
「うっ…分かってるよ」
 暖簾を手で払い退け、硝子は先に女湯へと入っていった。
「オレ達も入ろうぜ」
「うん…」
(大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫……)
 その呪詛レベルで唱えているおまじないが既に危険信号である事にまだハヤトは気付けないまま、悶々とした生し状態を一時間以上味わう羽目になるとは知る由も無かった。

83 :
お宿紹介にやったら時間掛かったんでここで一区切り。
片思いの人と旅行なんか行った時ほど生しの時は無いよねって話。
文化祭の季節だけどネタに出来そうなのは来年以降かな…
>>75
言われてみれば確かにw

84 :
>>82
「いや〜いい湯だったなぁ」
「そう、だね…」
「明日は女湯の方が男湯になるらしい」
「へぇ…楽しみだね」
(うわわわわ…。見ちゃった見ちゃった見ちゃった先輩の見ちゃったよぉ…っ!)
 無防備にもあられもない姿を隠しもせずに翔はハヤトに見せ付けてくれたのだから、様々な意味で翔に想いを寄せるハヤトにはたまったものでは無い。
 その上ようやくその拷問から解放されたかと思えば、当の翔は旅館の浴衣以外は下半身の下着しか身に付けていないのだ。
 その為いい加減な着付けで翔の正面は簡単にはだけてしまう。
 ほぼ隠せていない胸の突起も、ちらちらと覗かせる真っ白な下着も、一糸纏わない時とはまた別の性的魅力を無尽蔵に振り撒く。
 おまけに…
「悪いハヤト、オレじゃどうも上手く帯結べないからやってくれないか」
「ぅえ!?」
 何よりとどめにそう言って思い切り浴衣を自分の眼前で広げた時は、流石に卒倒するかと思った。
 純白の下着もその布一枚越えた先にある“モノ”も、言葉のまま目と鼻の先に晒された訳である。
「じ、自分のを結ぶ時と違うから僕も上手く出来るか自信無いからね。…はい、一応完成」
「構わないって。サンキュ」
 本当は帰り道の途中にでもまた解けてしまえばいいと怨念を込めていたが、大勢の人前でまた同じ事を強いられるのは幾ら何でも身が持たない。
 結局自制心が勝っていた様で、部屋に戻るまで翔の浴衣が着崩れる事は無かった。
「おう、お帰り。風呂どうだった?」
「は、はい。とても気持ち良かったです」
「ってか、スゲー楽しかった。露天は広いし海見えるし、中も色んな風呂があって飽きないし。何かやたら深い所もあって首から上しか顔が出なかったしそれに…」
「おいおい、余り楽しみを奪わないでくれ。…まさか泳いだりしてないだろうな?」
 ハイテンションで語っていた翔だったが、ハジメの一言で電池を抜き取られた様に静止する。
「まさか」
「せめて目を合わせて返答しろ」
 あさっての方向を向いて片言な返事を翔は返す。
「だってあんなプールみたいになってたらそりゃ…」
「って事はハヤトもか。…まぁお前達だったらそこまで変に見えなかっただろ。ったく、明日からは大人しく入れよ?」
『は〜い』
 二人の返事にハジメ吹き出してしまう。
 翔とハヤトも思わず顔を見合わせて、気が付けば笑いが込み上げていた。
 それと同時に扉が開き、三人はそちらに振り向く。
「ただいま…何二人して反省してるの? お風呂で泳ぎでもした?」
 丁度その場面に硝子が部屋に戻って来た。
(うわ…)
 二人していい加減に着ている自分達とは違い、硝子は完璧に浴衣を着こなしている。
 特徴的な水晶色の真っ直ぐな髪は今は束にして肩の前に纏めている。
 無駄の無い美貌は湯船に浸かっていた為だろう、やや桃色に紅潮していた。
 今の硝子を表すならば、大和撫子と言う言葉が正に相応しい。

85 :
>>84
「そんなに見詰められると流石の私でも照れてしまうわよ」
「あ、すすすみません!! ただ、その…綺麗だなって…」
「あら、正直ね」
「じゃなくて! えっと…」
「何だ違うの?」
「い、いや…違わないんですけど!! あの………ぁぅ」
「そこまでだ。余りハヤトをいじめるなよ」
「良いじゃないの。折角さっぱりしたんだから気分良いままでいたいじゃない?」
 生まれて初めてハヤトは異性の容姿を称賛する事の気恥ずかしさを思い知る。
 思わず口走った言葉が余りにもむず痒く、顔から火が出る勢いで真っ赤に染まっていた。
「ま、何はともあれ時間も丁度良くなったし…ハヤトも一つ経験した所で晩メシ食べに行くか」
「折角旅館に来たのにバイキング料理なんて」
「お前がそれ言うか」
「良いじゃん。好きなもの選んで食べれるんだからそっちの方が嬉しい」
「………まぁ翔はそうだろうな」
 我が弟ながらと言わんばかりにハジメと硝子はがっくりと肩を落とす。
「今度テーブルマナーの教室にでも行った方が良いかしら? 私もちょっと自信無いし」
「真剣に検討しておく」
「…何なんだよ」
「あんたが…いえ、もう良いわ」
 またこの話題になるのは本日何度目だろうか。
 いい加減に二人も諦めが付いたようだ。
 取り敢えず翔に対する教育方針が見直されたのはまず間違い無い。
「あ…」
 一度だけ、他人の容姿を誉めた事があった。
 それは他でも無い翔に言った言葉であり、翔と付き合う切っ掛けとなった言葉でもある。
 単純明快な言葉。
「あの時可愛いって言ったけど…」
 確かに翔は可愛いと今でも思っている。
 ただし、今の“可愛い”はまるで小さな子供を見る時と同じ。
 決して目上の人物に対する意味合いとしては使えない。
(もう少しがんばりましょう…)
 心の中でひっそりと、翔に採点評価を下した。
(でも、それって僕も同じだよね。“大人になる”…か)

86 :
>>85
 海の潮騒がはっきりと聞こえた。
 窓の向こうには青白く光る月が部屋全体を青色に染めている。
 ゆらゆらと波に反射した光の網が天井に張り巡らされ、照明という照明は何一つ点灯していない。
(何も、無い…?)
 それだけでは無い。
(誰も居ない…どうして……?)
 並べている布団は人数分敷かれている。
 それなのに、誰一人としてその場に居ない。
 それどころか、この旅館。
 もっと言えばこの地球上には自分だけしか居ないのではないかとすら思えてしまう程、この空間は静まり返っている。
「先輩、どこ…っ!?」
 不安になった矢先、翔を真っ先に探してしまう。
 夏はまだ終わっていない。
 それなのに、異様な寒気がハヤトを捕らえて離さない。
「違う…っ!」
 本当に釘で打ち付けられた様に身動きが取れないのだ。
 右腕左腕右足首左足首。
 何もないのにこの四ヶ所は全く動く気配が無い。
 感覚は残っている。
 それでも自分の命令には従ってくれない。
 これでは糸を切られたマリオネットも同然。
「…先輩?」
 僅かに床の軋む音が聞こえ、辛うじて言う事を聞いてくれる首をその方向に向ける。
 月明かりに照らされて心なしか自身も青白く光っている様に見える翔が、ハヤトを呆然と見下ろしていた。
「翔…先輩?」
「…」
(どうし…っ!?)
 布擦れの音がハヤトの耳を捕らえた。
 我ながらこの表現は的を射ていると思う。
 聞こえたのでは無く“聞かされている”のだから。
「先輩…何してっ…!」
 言葉の一つ一つが上手く発音出来無い。
 何しろ翔は自ら浴衣を着崩しているのだ。
 あっという間に浴衣は肘の高さまで落ち、帯の結び目で固定される。
 反れでも前面は完全に開き切ってしまっているので、衣類としての役目は全く果たされていない。
 当然隠すものは何一つ無い今の翔は、下着一枚も同然の姿なのだ。
 否。
 無意味に残った衣類があるからこそ、余計に今の姿が際立つのかも知れない。
「ハヤ、ト…」
「ひぁっ」

87 :
>>86
 頭の中に直接翔の声が届く。
 ほんの一瞬だけ、写真のフラッシュ程の間意識が途切れる。
 その次の瞬間には翔が自分の目の前に居た。
 自分の身体を覆う様に四つん這いになり、頬に翔の手が添えられる。
 もうそれだけで顔面が爆発してしまいそうなのに、翔の手は頬から首筋を通過してハヤトの浴衣へと進軍する。
「んっ…」
 翔の指先がハヤトの胸の突起部に掠り通ると、全身に麻酔が掛かった時の様な電撃が走る。
 それでも翔は無遠慮にハヤトの上を滑る。
 胸から腹部を通り過ぎ、遂には自分の下着の中へまで侵入する。
「あっ…せん、ぱい……」
 もう触覚だけで状況を受け入れる。
 翔が自分の性器を弄っているのだという現状だけが、ハヤトに残された意識で理解出来る限界だった。
 生まれて始めてこの身で味わう快楽。
 抑え切れない高揚。
 そこに何故と言う疑問符はもう浮かばない。
「せんぱい…」
 只ただ想い人と身体を重ねる至福に浸るだけ。
 始めての快楽に、何処までも何処までも溺れ続けるだけ。

88 :
>>87
「…んぁっ!」
 恐ろしくはっきりと聞こえた自分の声に驚き、ハヤトは意識を取り戻した。
 窓の外には相変わらず青白く光る月が真円を描いて部屋中を自身の色に染めている。
 波の音はここからは遠過ぎて聞き取る事が出来無い。
 どうやら此処は普段自分の知る世界で間違い無い様だ。
 ただ違和感があるとすれば、腹部の異様な圧迫感だろうか。
「先輩、重い…よっ!」
 圧迫感の正体は、翔の足が自分の腹に乗せられているためだった。
 当の本人は幸せそうな笑みを浮かべ寝息を立てている。
 今度こそ普通に動く自分の四肢を確認すると、ハヤトは翔の足を彼の布団に戻す。
「っ…!」
 やはり寝相が悪いのか、翔の浴衣は夢の中と同じ様にはだけていた。
(そう、夢…だよね。当たり前か)
 翔を元の体勢に戻し、布団を掛ける。
「そう言えば、硝子先輩とハジメさん…居ない?」
 と言うより、自分がいつ床に着いたのかすら記憶に無い。
 一応四人でトランプを使って遊んでいた所までは覚えている。
 それ以降が全く思い出せない辺り、ゲームの最中に墜ちたと考えるべきだろう。
(迷惑、掛けちゃったかなぁ…)
 一日を振り返ってみると、日中翔と暴れ回っていた記憶しか浮かんでこない。
 明日はもう少し大人しくしていようと布団に戻ると、またハヤトは勢い良く身を起こした。
 率直に言えば、陰部に違和感を感じたのである。
「う、そ…」
 恐る恐る下着越しにその部分に触れてみる。
 んでも肯定したく無い事実を突き付けられた。
「ぬ、濡れて…え……この歳で………?」
 必に頭の中を整理しようと総動員するも、現状が現状だけに兎に角否定しようとする働きに処理が追い付かない。
「き、きが…着替え…!」
 替えの下着にはまだまだ余裕がある。
 幸い浴衣も布団も濡れた様子は無かった。
 無我夢中で自分のバッグを漁り、下着を片手に洗面所へと駆け込んだ。
 洗面台に替えの下着を置き、改めてハヤトは今穿いている下着に目線を落とす。
「何か、気持ち悪い…」
 さっさと下ろしてしまおうと震えた両手で下着に手を掛けるが、形容し難い不安が怒涛の様に押し寄せる。
 気持ちが悪くて早く着替えてしまいたいのに、その後の近い未来を目の当たりにする勇気がどうしても出て来ない。
(でも、誰か来ちゃったら…)

89 :
>>88
 何処に行ったかは知らないが、ハジメと硝子が戻って来ると間違い無くこの場を確認に来る筈だ。
 そうで無くても翔が何かの拍子に起きて来る可能性もあるのだ。
 今の自分の醜態を晒すか、不安を乗り越えて着替えてしまうか。
 となればもう答えは明白だ。
「………っ!」
 意を決し、ハヤトは布団から起き上がった時よりも更に勢い強く下着を下ろす。
「な、何…コレ……」
 目の前の光景に、ハヤトは力無くその場に崩れる。
 膝を折り両足も抜かないまま、ハヤトは茫然と常時股間に触れ合う布地に目を奪われる。
 予想していた通り、その部分は酷く濡れ渡り、前面に広がっていた。
 それだけなら、まだ…まだ想定の内で幾分余裕はあった。
 だが、布地と自身の性器を不気味に伝う半透明な異物が、ハヤトの平静を奪う。
「いつもと、違う…。ナニ、コレ……」
 震えた指先でそっと触れてみると、想像していた以上に気味の悪いぬめぬめとした感触が全身を駆け巡った。
 何より信じ難いのは、その気味の悪い液体…基、物体が自分の性器から出て来たモノと言う事実。
 肯定なんて出来る筈が無い。
 就寝中に粗相をした現実。
 それよりも自分の知らない何かが自分の身体の中にある事に対する不安と恐怖の方が、ハヤトを蝕む要因として全てを占めていた。
「やだ、やだよ…。僕の身体、どうなってるの……」
 自分で自分の身体を抱き締める。
 拒絶からの慰めも、震える自身への制止も含めての行動だった。
 当然それだけでは何も解決せず、ただ刻々と時間が過ぎるだけである。
「うっ…ぅくっ、うぇっ……」
 もう自分が解らなくなり、終には声を圧しして嗚咽する一番楽な道を選んでしまう。
 出来る事なら大声を出して、力の限り泣き叫びたかった。
 だがその時扉の向こうで床が軽く軋む音が耳を突き、ハヤトは一度だけ小さく痙攣する。
「ハヤト、そこに居るのか?」
「ぅ、ぁ…」
 ただ「はい」とだけ言えば済む筈なのに、締め付けた様な声しか出ない。
 これでは“明らかに異常のある自分”を晒しているも同然だ。
「ハヤト、大丈夫か? …入るぞ」
「やっ…だっ…」
 言葉として成立していない声に、相手を制する能力は働かない。
 遠慮がちに開けるハジメに反して、扉は無遠慮に開かれた。
「ハヤ……ト………?」
「み、見な……」

90 :
>>89
 どう考えても予想外な光景だったろう。
 何しろ下着を膝まで下ろし下半身を晒して座り込んでいる人間が目の前に現れたのだから。
 その上幼い陰茎からは得体の知れない物体がだらしなく垂れ下がっていては、普通混乱程度では済まない。
「う…うえぇぇ……」
「待て待て待て! …泣かなくても大丈夫だ。な?」
 目線を自分の高さまで下ろし、ハジメは自分の頭を柔らかく撫でる。
 小さな頃、洒落では済まない悪戯をして酷く叱られた事がある。
 その後大泣きしてしまった自分を、母親は優しい顔で今みたいに撫でてくれた。
 同じ安心感。
 それだけでハヤトは救われた気分だった。
「そんな風になったの、初めてか?」
 黙ってハヤトは頷く。
 すると、なぜかハジメは小さく笑い出してしまった。
「悪い、笑い事じゃないよな。だけどなハヤト、『それ』は別に病気でも何でも無い。怖がる必要なんて無いんだ」
「本当…?」
「あぁ。その…ヘンな夢見て起きたらそうなってた。多分こんな所だろ?」
「は、はい。何で分かったの…?」
「その前にだ。その格好どうにかしようぜ」
「あぅ…」
 便所を指してハジメはまた溜め息一つ。
 あれから少々時間が経つが、何も処理をしていなかった。
 促されるままハヤトは便所に入り、今度こそ濡れた下着を脱ぐ。
 続いて手元のトイレットペーパーを数回巻き取り、先端に残ったモノを拭き取る。
「んっ…」
 これがまた奇妙な感覚だった。
 ほんの少し先端に触れただけなのに、まるで身体全体を誰かに触られている様なくすぐったい感覚。
 普段触れる場面が無いだけに、敏感になっているのだろうか。
 使い終わったトイレットペーパーを便器に捨て、替えの下着に穿き変えるとついでに乱れていた浴衣を直した。
「病気じゃ無かったんだ…」
「少しは安心したか?」
「は、はい…」
 扉の向こうから聞こえるハジメの声。
 ほんの少し前は気配だけでも気圧されたのに、今では逆に安心する。
 水を流して洗面所に戻ると、思っていた通りの優しい表情のハジメが出迎えてくれた。
 先刻のハジメと同じ様に、ハヤトも小さく吹き出す。

91 :
>>90
「ん、何だ? 安心したら笑えてきたってか?」
「あ、そうじゃな…そうかも」
「かも?」
「ちょっと、翔先輩が羨ましく思えちゃって。僕兄弟居ないから、ハジメさんみたいなお兄さんが居たらな…って。まぁ、僕の場合お父さんがお兄さんみたいなものですけど」
 にやけた我が少年親父の顔が浮かび上がる。
 言ってしまったら最後、夫婦揃って何かと大盛り上がりするのは目に見えていた。
「それに…こんな事両親に言えないです」
「だわな。んじゃ、麗しのお兄様から一つ御口授。さっきのお前のアレはな、無精って言うんだ。精通って聞いた事あるか?」
 無言でハヤトは首を横に振る。
 どちらも聞き慣れないし聞いた事も無い言葉だった。
「詳しい事はいつか…多分二学期の半ば辺りに体育の授業で習う筈だから省くけどよ、覚えて貰いたいのはそれが出たなら大人に“近付いた”って事だ」
「近付いた…」
「そうだ。決して大人になった訳じゃ無い。それだけは履き違えるな。良いな?」
「はい…」
「俺が今教えられるのはそれだけだ。本当は何で出るのかとか色々あるが、それはいずれ知るだろ。だけどな、不安にならなくて良いんだからな」
 くしゃくしゃとハヤトの頭を撫でながら、ハジメはまた優しい微笑みを見せてくれた。
「はい。ありがとうございます」
「うっし、良い顔になったな。しかし、あれだな。弟よりも先にお前にこんな相談されるとは思ってもいなかったな」
「え?」
「あいつももう中三だってのに、未だにそんな兆しが無いんだよ。翔の場合、解決済みって可能性はほぼ無いからな」
「あははは…」
 不意に風呂での光景が頭に浮かぶ。
 傍目から見ても、翔の身体は明らかに未発達のままだろう。
(それって翔先輩より僕の方が成長してるって事…?)

92 :
>>91
「んじゃ、明日も早いんだ。今度こそ寝れるだろ」
「は…た、多分」
 またあの夢を見てしまったら同じ結果になるような気がしてならない。
 何よりそもそもの発端が自分の隣の布団で幸せな寝息を立てているのだから。
「…なぁ、ハヤト」
「何でしょう?」
「お前が見た夢に出て来たのは…」
「え?」
「いや…」
 合わせていた目線を切り首を横に振ったハジメは、何かを諦めた様に肩を落とし立ち上がった。
「んな事訊くのはいくら何でも野暮ってもんだよな」
「………はい?」

「…っくしゅ! やだ、湯冷めかしら?」
 肩に湯を当て更に身体を沈めると、硝子は遠くの海を眺める。
 ライトアップされた露天風呂は、上空に昇る湯煙を照らしている。
「翔は、覚えている……?」
 誰に言う訳でも無く、硝子はぽつりと呟いた。

93 :
連投は8回までかいな。
シチュエーションの一つとして書いていたつもりだったのに何故かやたら高密度な旅行に成り果てやがりました。
その上異常に筆が遅いって言うね。
オレ達の夏はまだまだ終わらない!!(翔談)

94 :
規制解除された?

95 :
ほしゅ

96 :
>>92
 朝目覚めると、昨日と同じ場所に翔の足が置かれていた。
 今更になって翔が一番端の布団に寝かされていた理由が判明した。
「昨日の時点で気付くべきだった…なっ!」
 起きてみると今度は両足とも乗せられていた事が更に判明し、掬い上げる要領で翔の足を元の場所に放り投げた。
 盛大な音を立てて布団に叩き付けられたにも拘らず、一向に翔が目覚める気配は無い。
(人の気も知らないで…)
 一晩経った今でもあの夢は鮮明に覚えている。
 着物を着崩した翔が自分に覆い被さり…。
「…っ!」
 思い出すだけでも顔から火が出そうになる。
 何より、夢の通りになってしまえば良いのにと思う自分を自覚出来るのは驚きを誤魔化せ無い。
(好きだから、あんなコトされたくなるのかな…)
 ここで少し思い違いに気付く。
 それは、翔に夢の通りにされたいのか。
 はたまた、翔に“したい”のか。
 この二極端の違いは余りに大き過ぎる。
 どちらが本当に自分が望んでいるのだろうか。
(…やだな。こんなの)
 途端に自分が汚い人間に思えてくる。
 想い人を自分の思うがままにしてしまいたい支配欲が、自分の中で渦巻いている。
 紛れも無い、それが本当の自分。
「ん〜?」
「あ、おは…っ!?」
「い゛っ!?」
『ってぇ〜〜』
 何が起きたのかほんの一瞬理解出来無かったが、額が唸るように悲鳴をあげている事から何が起きたかは明白だった。
 とか何とか回りくどい言い方だが、早い話勢い良く身体を起こした翔と額同士をぶつけたのだ。
「あううぅ…」
「ってて…何だよハヤト、何でんな所に頭があるんだよぉ」
「翔先輩が勢い良すぎなんだって…」
 本当は翔の寝顔をずっと覗いていたとは間違っても言えない。
 言葉に出来無い微妙な音が頭の中で響きながらも、ハヤトは何とか顔を上げる。
「うぅ、まだくらくらするぅ」
「オレも…」
「ただい…何愉快に二人して座り込んでるの?」
 何処かへと出掛けていたらしい硝子が怪訝な表情で見下ろしていた。
「じ、状況でお察し…」
「右に同じ」
「朝から仲の良いこと。ほら、早く起きて布団畳んでしまいなさい。後着替えもね」
『はぁい…』

97 :
>>96
 ユニゾンで返事をする二人に肩を揺らし、硝子は隣の部屋へと入っていった。
 恐らく彼女も着替えるのだろう。
「えっと、着替え着替え…」
「そう言えばさ、昨日の夜ハジメ兄ぃと何か話してたよな」
「え、えぇ!?」
「あれ、違ったか?何か二人の声が聞こえてちょっと起きたんだけど。結局そのまま寝ちゃったし、何て言ってたかは全然解んなかったから」
「えっと、その…。うん、ちょっと話してた」
「何の話?」
「それは…」
「2学期の授業の話、だろ?」
『ハジメさん(兄ぃ)…』
 これまた見事にハモって見せた二人に、ハジメも小さく笑って返す。
「中学で2学期は初めてだから、どんな事するのかって話になったんだよ。成り行きでな」
「うっへぇ…ハヤトってもうそんな事気にしてるのか」
「もうじゃ無ぇだろ。宿題終わったからって遊んでばっかりの受験生」
「うぎゅ…」
 最も痛い部分を突き付けられると、翔は何か変な擬音を発してまだ畳んでいない布団に崩れ落ちた。
「先輩、だから片付けるんだってば」
「ほっとけ。これ位ヘコませた方が良いんだよ。帰ったら少しは身に染みるだろうさ。んな事より、飯食ったらすぐに行かねえとかなり混むぞ」
「あ、はい」
「そうだった。もうここに居る間は思い切り遊ぶって決めてるんだからな」
「ほぅ、そりゃ丁度良い。そんなお前の為にわざわざ数学の問題集持ってきた甲斐があるってもんだ」
「なっ…おーぼーだ!」
(教育者の前でそんな事言うから…)
 朝からフルスロットルな兄弟に眠気は吹っ飛ばされ、目覚ましとしては中々効果的だった。
 きっと、これが彼等の日常的な風景なのだろう。
(やっぱり、兄弟って良いな…)
 昨日の夜の様に、親に話せない事を一番気軽に相談出来る相手が居るのは心強い。
 ましてやそれが教育者と来れば、ハジメ程に適任な人物は中々御目にかかれない。
 そんな恋心に近過ぎる感情を隅に起き、今日の支度を整える。
 すると、まるでそれを見計らったかの様に扉が叩かれる音が聞こえた。
「ぐっも〜にん。君タチ、昨日はぐっすり眠れたかな?」
 こちらが扉を開ける前に陽気な挨拶と共にタローが部屋に入ってきた。
 勿論誰もその点に突っ込まない。
「お…おはようございます、タローさん」
「おはよーサンハヤトクン。えっと…ゆうべはおたのしみでしたね、だっけ?」
「へ? 昨夜って…?」
(まさか、昨日のコト知って…)

98 :
>>97
「おいタロー。そのネタ分かる人間はここには居ないぞ」
「なんだ残念」
「あら、私は知ってるわよ」
「お〜ナイス硝子チャン。そういう所は流石だねぇ」
「最っ高に嬉しくない誉め言葉ね」
「何の話なんだ?」
「さぁ…。余り突き詰めて良い話でも無い様な気がするけど」
 根拠は何も無い。
 ただ不思議とそんな気がした。
 これが第六感と言う奴なのかも知れない。
「そうそう。そんな事より、皆の朝ごはんの用意出来たから食堂においでよ。ちゃんと席も確保出来てるから」
「おう、サンキューな」
「何かオススメなメニューはあるかしら?」
「そーだねぇ。夏野菜のコンソメスープが良い味出してて一押しだよ」
 名前の響きからして間違い無く微妙なメニューを推薦され、硝子は肩を竦めた。
「多分それ出す時期を間違えてるわよ」
「どうして? ここら辺で採れる野菜美味しいんだよぉ」
「売りにしたいのだったら頭文字の『夏』はプレートから消しておく事ね」
「どゆこと?」
「もう食えりゃ何でも良いさ。少し急がないと、マジで海岸埋まるぞ」
 室内に設置されている針時計をハジメが目線で指す。
 既に彼等が普段朝食を取る時間は過ぎていた。
「りょーかい。それじゃ四名様ごあんなーい」
 タローを先頭に、水のせせらぎが優しく響き渡る廊下を歩く。
 今思うと、初めてこの心地よさを全身で感じているのが分かる。
 一日目が箱詰め状態のまま過ぎていっただけに、ゆとりを持つ大切さを改めて実感する。
 何せ風呂の中ですら二人して暴れまわっていたのだから。
「この宿って、いつもこんなにいっぱいお客さん居るんですか?」
 それとなくタローに聞いてみる。
「ん〜いつもはそこそこって感じ。目立った観光地がある訳じゃ無いからね。ま、基本は温泉旅館だから際立ったピークは今位なもんだよ」
 偶然近くを走り去って行った水着姿の小さな子供達を指差し、タローは笑ってみせた。
(やっぱり大変なんだなぁ…)
「お、ハヤトクンは旅館の仕事に興味おありかにゃ?」
「えっと…まぁ、少し」
「うんうん。将来が気になる年頃だねぇ。そー言う翔クンはどうだね?」
「オレ? オレは…」
 この時、ハヤトの頭にはきらきらとした瞳で将来の夢を語る翔の姿が映っていた。
 何事も純真に見つめる翔だからこそ、彼が次に語った言葉が信じられなかった。

99 :
>>98
「オレは…そう言うの解らない。本当に自分が何をしたいのか、どんな風になりたいのか。何だか考えられない」
「翔先輩…?」
 それは実の兄弟であるハジメと硝子も同じだった様で、少し先を歩いていた二人は立ち止まり、目を丸くしていた。
「…バスケットボールは、違うの?」
「好きな事と将来の自分とは違うだろ」
 夢と現実の違いを、翔らしからぬ冷たい言葉で淡々と片付けてしまう。
 割り切っていると言うよりは、何もかもを諦めているとしか思えない口振りだった。
(翔先輩は解らないって言ってたけど…きっと、少し違う)
 中途半端に将来を考えている自分とは違い、色んな自分を思い描いている。
 その度に、本当の自分を見失っている。
「解らなくても良いじゃない」
「タロ兄ぃ…?」
「今はまだ解らなくても、取り敢えずでも。理由なんて考えずに思い描いた自分真っ直ぐに向かって。それで駄目だったら…なんて考えてたら、きっと何も決まらないよ」
「タローさん…」
 廊下を流れる水の音が耳の近くまで聴こえた。
 同情から来る慰めでは無く、紛れも無いタローが正しいと素直に信じている言葉だと思った。
「ま、その話はまた追々しっかり話し合うとしてだな。いきなり選択肢を潰すのだけは勘弁な」
「ん…分かった。諦めるのは、止めてみる」
「だね。僕も、もう少しだけ真剣に考えてみようかな」
「そーだよぉ。少年少女よ大志を抱けって言うからねぇ」
「タローさんそれ少し違う…あれ、でも何か聞いた事あるような…?」
 止まっていた足が何時しか自然と再び動き出していた。
 先刻の冷たい空気はもう目の前には無かった。
 だからこそ、いつの間にか最後尾に居た硝子の声がはっきりとハヤトには聞き取る事が出来た。

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