2012年3月末、アイドルグループのAKB48がワシントンを訪れた。今年は日米友好の 証として桜の苗木が日本からワシントンに贈られてから100周年に当たる。それを 記念して、AKBが「全米桜祭り」でコンサートを開くことになったのだ。 米国のメディアにはほとんど取り上げられなかったが、唯一、地元でのイベントと あって有力紙のワシントン・ポストが文化面の1面に“J-pop royalty”(J-pop界の王族) と題した記事を載せた。電子版では同じ記事に次のような見出しを付けている。 “Japanese girl group AKB48 breezes through D.C. in whirlwind of cuteness” (「日本の少女グループAKB48、『可愛らしさ』のつむじ風がワシントンを駆け抜ける」 3月27日付電子版) さて、この見出しを読んで、AKB48を「かわいい」と好意的に評価した記事だと思う だろうか? 筆者が翻訳を学ぶモントレー国際大学院(MIIS)の英語ネイティブの 教員や学生に聞いたところ、どうもそうではないらしい。 ■「旋風」はなく「あっという間に帰った」 同級生のシーナは「cuteは米国では必ずしも良い意味ではない。小さい女の子にcute といえば褒め言葉だが、本気で女性を褒めるときには使わない」と語った。たとえば beautiful, gorgeousといった正真正銘の褒め言葉と比べると、cuteはかなり適当な 印象を与えるようだ。 英仏通訳者のジュリー・ジョンソン教授は「少女の音楽グループであるにも関わらず、 音楽については触れずcutenessで済ませているので、記者が『外見以外に見るべき ところがない』と判断している印象を受ける」と語った。さらにbreeze through (吹き抜ける)という動詞句も、「airhead(頭が空っぽ)でshallow(薄っぺら)な 印象を与える」と指摘した人が多かった。 whirlwind(旋風、つむじ風、めまぐるしさ)という単語だけに注目し、この記事を 「AKB48旋風がワシントンで巻き起こる」と訳した日本のメディアもあったが、 かなりニュアンスが違うようだ。記事の本文中にも“Sixteen of its members were in town for just 36 hours, a whirlwind cultural exchange”(16人のメンバーの滞在 時間はわずか36時間という、慌ただしい文化交流だった)とあるとおり、記者は 「さっと来て、慌ただしく帰って行った」という意味でwhirlwindを使っている。 記事の本文では辛口なトーンはもっと明白だ。たとえば地元の小学校を訪問した3人の メンバーの服装についてはこう描写している。 “a navy plaid blazer over the smallest schoolgirl skirt, followed by yards of gangly legs, then knee socks” (濃紺のチェックのブレザーにとびきり短い女学生風スカート、その下にひょろっと した長い足とニーソックスがつながっている) 的確な描写で文句のつけようはないのだが、たとえばスカートの下に露出した足を 表現するのにslender(ほっそりした) でもy(セクシー)でもなく、gangly legs という言葉を選んでいる。英語ネイティブの学生に聞くと「小学生の男の子みたいな、 棒切れのような足のイメージ」という。 極めつけは、AKB48とは一体何者なのかを説明する以下の文章だ。少し長いが引用して みよう。(※続く) ◎http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20120529/232676/?P=1
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>>1の続き “It is as if Miley Cyrus, Taylor Swift and the entire cast of "Twilight" were placed into a saucepan and simmered on a low boil until nothing remained but the sweet, cloying essence of fame, and if that fame were then poured into pleated tartan skirts and given pigtails.” (まるでマイリー・サイラス、テイラー・スウィフト、それに『トワイライト』の 全出演者を鍋に入れ、有名人だという甘ったるさ以外には何も残らなくなるまで 弱火で煮込み、それをタータンチェックのプリーツスカートに注ぎ込んでお下げを くっつけたようなもの) ■「ただ有名なだけで特に取り柄のない存在」 ここに出てくるマイリー・サイラスやテイラー・スイフトなどは、いずれも現在米国の 中高生に大人気のアーティストだ。これを読んだ英語ネイティブはたいていクスっと笑い 「要するに、これといった才能は何もない、ただ『有名』なだけの存在ということ」と 説明してくれた。 そして、記事の最後はこう結ばれている。 “The resulting applause seemed the slightest bit outsize for the girls' responses, but they were very personable and lovely, and it is always possible that something was lost in translation.” (少女たちの受け答えの中身の割に拍手がやや大きすぎるようではあったが、彼女たちは とても感じがよく、愛らしかったし、翻訳によって「大事な何か」が失われてしまうのは よくあることだ) ここで記者は初めてpersonable(魅力的、人に好かれる)、lovely(愛らしい、可愛らしい、 素敵な)という正真正銘の褒め言葉を使っている。それまでの手厳しい書きっぷりを多少は フォローしようという意識が働いたのかもしれないが、「(記者会見での)受け答えの割に 拍手が大きすぎる」など、AKBに対する「中身がない」という評価は変わっていない。 「翻訳によって何か重要なメッセージが抜け落ちたのかも」と表現してはいるが、 「記者がそう思っていないことはミエミエ」というのが記事を読んだ英語ネイティブの 一致した意見だった。 MIISの学生7人に記事のトーンを尋ねたところ、4人が“bewildered(当惑)”と答えた。 日本文化について何も知らない記者が、「コ、コレは一体何なんだ?」と困惑しながら 書いているという印象だ。残る3人は“derogatory(軽蔑的)”“condescending(見下して いる)”と受け取った。「AKBだけでなく、記者会見でAKBに大きすぎる拍手を送った人や、 日本全体をバカにしている印象を受ける」と語った学生もいた。 ■日本人ほど多様な趣味に寛容でない米国人 今回AKBが桜祭りに派遣されたのは、日本での人気ぶりに加えて、東日本大震災への 米国からの支援に感謝する役割を果たすのに、熱心に震災復興を支援してきたAKBが ふさわしいと判断されたからだ。ただ、この記事を見る限り、日本のポップカルチャー に免疫のない米国人にとって、AKBはやや刺激が強すぎたのかもしれない。(※続く)